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Vol.23 No.7(2006年7月号)

2006年7月31日 月曜日

眼科医にすすめる100冊の本-6月の推薦図書-

2006年6月30日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS本書は,慶應義塾ニューヨーク学院での4日間のワークショップの記録です.中学生,高校生8人を対象にしたワークショップで,池谷裕二さんが一方的に話すのではなく,彼らからの質問に答えたり,ときには彼らに質問をしたりしながら進められています.たまたま私は,ニューヨークへ向かう飛行機のなかでこの本を読み,同乗していた息子と家内にも,この本を薦めました.いつもなら,退屈してしまう時間帯,家族で機内で脳について興奮して議論しました.あまりにもこの本に刺激され,ぜひ池谷先生に会社に来ていただき,講演してもらえないものかと依頼したところ,快く引き受けていただき,5月に直接お話を聞くことができました.言うまでもなく,講演は大好評でした.ともすると,アカデミックな話は退屈と思われがちですが,その1時間半はあっという間でした.脳の話をうかがいながらも,それは実は「自分について知る」とても新鮮な「視点」でもありました.脳を通じて,自分とは何かを知るとてもいい機会になりました.本の中でも触れられていますが,講演を通して学んだことは次のようになります.?脳は世界を勝手に解釈している.私たちはその解釈から逃れられない.人は見たいものを見たいように見,聞きたいことを聞きたいように聞いている.それはよく聞く話ではありましたが,なぜそうなのかを知る機会はこれまでありませんでした.講演は,それはなぜなのかという疑問を,脳の機能を通して知る,またとない機会になりました.?脳は足りない情報を補っている.たとえば視神経は,目から脳に100万の束になって伸びているが,デジカメで考えてみると,100万本というのは決して十分な解析度ではない.つまり,その本数では,本来画像はぼやけてしまうらしいのですが,脳はそれを鮮明な画像に作り変えてしまう.私たちが見ているものは,現実そのものではなく,脳が修正した画像を見ているということなのです.人間の意志についても,これまでは,自分の手を動かそうという意志を働かせるから手が動く,と思われてきました.しかし,脳のなかでは,手を動かそうという意志が働く前に,手を動かすセットアップが終わっていて,その後で手を動かそうという意志が働くのだそうです.そこには明らかに時間差があります.少なくとも脳には意志はなく,あるのは「自由否定」.つまり,身体が手を動かす準備をしていて,私たちができるのは,それをやめるかどうかだというのです.そもそも,自由意志はあるのでしょうか?それに対する大脳のレベルでの答えは,「NO」だといいます.では,人間を動かしているものは何なのでしょうか?それに対するひとつの答えとして,「海馬の揺らぎ」と,池谷先生は答えています.講演では,実際に,脳神経を顕微鏡で拡大したムービーを見せていただきました.それはとても幻想的で,印象的でした.なぜ脳が揺らいでいるのかについては,まだわからないのだとは思いますが,いつの日かそれも明らかにされるのでしょう.そうしたら,「人間とは何か?」,「何のために生きているのか?」,そういうことに対する答えも見つかるのだと思います.さて,本書に記録されているワークショップでは,脳に対してもっているイメージから始まり,《Science》や《Nature》から,ラットを使った実験のいくつかを紹介しながら,脳はどのように研究されているかを説明して(81)シリーズ─66◆伊藤守株式会社コーチ・トゥエンティワン■6月の推薦図書■進化しすぎた脳池谷裕二著(朝日出版社)———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006いきます.特に子どもたちを驚かせているのは,「ネズミをラジコンにしてしまった」という《Nature》に掲載された論文でした.どうしたらネズミを自由自在に操ることができるかについて紹介されている部分は,読んでいて目が離せなくなります.その実験では,外側から脳を刺激すれば,ラットを自由に操れることがわかってきます.外側からラット,つまり生き物をコントロールすることができるのです.外部からコントロールできるのであれば,一体「自分」とは何なのだろうかという疑問がわいてきます.本書は,読む者は自由に連想させ,どこまでも自由に疑問を発生させ,それを検証していきます.未知の世界,それも,脳という,自分と密接に関係のある,未知の世界に踏み込んでいくのですから,興味はますます喚起されます.ところで,偶然に,池谷先生のこのワークショップに参加した一人の生徒の話を直接聞く機会がありました.彼は池谷先生の話を聞いて,「自分も脳の研究をしたい.だから,医学部か薬学部に行きたい」と言っていました.本書もそうであるように,池谷先生の講義は,知ってみたい,もっと知りたいという気持ちを刺激します.人間の意識とは何かという問いに答えていく過程で「クオリア」という言葉がでてきます.人間の意識の定義のひとつとして,判断できること,表現を選択できること.歩こう,止まろう,呼吸をしよう,止めよう.そうやって,表現を選択できることが「意識」であると.しかし,つねられて痛かったり,きれいなものを見て美しいと思ったりすること.そう感じることを選択することはできません.音楽を聴いて感動する,絵を見て感動する,これらは意識の定義に反している.つまり,表現を選択できないのです.そのような感覚を「覚醒感覚」といいます.それは,意識できるものではなく,無意識に生じているものです.うれしい,楽しい.そしてリンゴを食べて,すっぱいと感じること.そういう生々しい感覚のことを「クオリア」というのです.『「クオリア」とは多分ラテン語で「質」という意味だと思うんだけど,英語では「quality」の語源になっている.ここでいう「質」というのは,物質の<質>という意味ではなくて,モノの本質に存在するような質感の<質>.実体ではない<質>.美しいとか悲しいとか,おいしいとかまずいとか,そういうのをひっくるめて「クオリア」と言おう.』(本文より)「知性は理性」であり,論理的であることが何か優位性をもっているかのように思われてきましたが,実は脳には,やはり感受性や情緒というものがあり,単に論理的であるだけではなく,豊かな感受性が備わって初めて,知性をもったことになるのだと思います.本書とは直接関係ないのですが,池谷先生と食事をしながら,味覚の話になりました.これまで,舌は味覚として甘み,苦味,辛味,酸味などを感じるが,「うまみ」を感じることなどないとされてきました.ところが,ヒトゲノム計画が終わる過程で,実は舌には「うまみ」を感じる神経があることがわかったのだそうです.それ以来「umami」という日本語が,そのまま英語として使われるようになりました.しかし,アメリカ人の舌には,その神経がとても少ない.ある意味,彼らの味覚は劣っているのかもしれません.すし屋で,醤油をじゃぶじゃぶ使ったり,ワサビを山のように醤油に溶かして食べたりするのは,日本食の食べ方を知らないからだと思っていましたが,実はそうではなかったのでしょう.言ってしまえば,味覚が鈍感なのです.だから,甘いものを際限なく食べてしまうことができるのかもしれません.日本人の食生活も大きく変わってきていますが,もしその影響で日本人が味覚を失うことがあるとすれば,それはとても残念なことです.同じように,豊かな感受性を失ってゆくのも残念です.本書は脳をとても身近なものにしてくれます.同時に自分を身近なものにしてくれた一冊でもありました.(82)☆☆☆

よくわかる医療情報のお話1.医療情報って何?

2006年6月30日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLSこれから数回にわたって,医療情報に関する話題をお話することになるのですが,「医療情報」という言葉はわかっているようで,よくわからない言葉です.眼科学といえば,眼に関する学問と表現しても差し支えないと思いますが,同様に,医療情報学を医療に関する情報学といってみたところで,何のことかよくわかりません.実は,医療情報学は,診断学,治療学,看護学,経営学,工学など,医療に関係する活動のすべてを含む広大な分野なのです.したがって,医療情報に関わる人々も医師,薬剤師,看護師,検査技師,エンジニア,経営分析の専門家などさまざまな職種の人々が関わっています.眼科に関する学会では集まる人々のほとんどが眼科医であるのとは対照的です.読者のなかで医療情報に関わる実務をされている先生は,どの程度いらっしゃるでしょうか.医療情報に関連する学会に出向いても,眼科医の姿を見かけることはほとんどありません.よく眼科用電子カルテはむずかしいと耳にしますが,もう少し眼科医も医療情報に関心をもって,多くの人々が積極的に参加してゆけば,短期間に解決される問題が数多くあるのではないかと筆者は考えています.これからお話することがそうした関心に少しでも役立てばと思います.医療情報をおもに扱っている部門といえば,もちろん医療情報部なのですが,近年は少し様子が変わってきました.医療情報部そのもののあり方が問われる時代になってきています.筆者らが医療情報に関して所属している名古屋大学では,一昨年から医療経営管理部という組織が新設され,病院経営と合わせて電子カルテ管理などの業務を扱う部門ができました.今までは,附属病院に導入されている電子カルテは医療情報部が導入・管理を行ってきたのですが,これからは業務分担を行って実務は医療経営管理部が扱い,これまでの医療情報部は大学院医療管理情報学教室として研究と教育を行う方向で改変した訳です.この背景には,電子カルテが単にカルテを電子化したものではなく,医療経営に対して多大な情報を吐き出すシステムであるということが関係しています.オーダリングシステムの時代には,病院業務が少しでも簡素化されるという意味で導入が進んだのとは大きな違いがあると思います.他の大学病院は個々の状況のなかで今後の方向を模索しているというのが現状です.また,過去には医療情報部は独自にシステム化・ソフトウェア作成を行っていた時代がありましたが,現在ではベンダーの開発製品を医療現場に導入するためのターミナルとしての役割を果たしています.次回からは以下の予定でお話をします.第2回「電子カルテその1~どのようにして導入されるのかな?」第3回「電子カルテその2~眼科に向いていないのかな?」第4回「年々進化するクリニカルパス」第5回「医療者が作成する医療用ソフトウェアの世界」第6回「眼科医も医療情報技師の資格を取りましょう」(79)よくわかる医療情報のお話●連載(隔月)①若宮俊司*1山内一信*2医療情報って何?*1ShunjiWakamiya:川崎医科大学眼科学教室/川崎医療福祉大学感覚矯正学科/同医療情報学科/名古屋大学大学院医学系研究科医療管理情報学教室*2KazunobuYamauchi:名古屋大学大学院医学系研究科医療管理情報学教室医療情報部のコンピュータ管理

硝子体手術のワンポイントアドバイス37.陳旧性硝子体出血例に対する硝子体手術時の注意点(初級編)

2006年6月30日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLSはじめに片眼性の硝子体出血をきたした増殖糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症などで,僚眼の視力が良好な場合に,硝子体出血をかなり長期間放置している症例にときどき遭遇することがある.このような例では術前の超音波Bモード検査で,後部硝子体?離が生じていることが多く,硝子体手術の難易度としては比較的低いと考えられがちだが,以下のような思わぬ落とし穴があるので注意が必要である.●陳旧性硝子体出血例に生じる網膜前膜茶褐色に変色したコアの硝子体を切除し,後部硝子体膜に窓をあけると,多量のghostcellを含んだ後部硝子体腔の出血が遊出してくる(図1).硝子体切除を周辺まで施行し,後部硝子体腔の陳旧性出血を吸引すると眼底がみえてくるが,数カ月以上出血が放置されていた症例では,しばしば網膜全面に茶褐色の薄い膜様組織が生じていることがある.網膜面に残存した薄い硝子体皮質が基盤となってこのような増殖膜を形成するのか,あるいは出血を貪食しようとして遊走してきたマクロファージが過剰な細胞増殖を促進するサイトカインを産生するのか不明な点が多いが,一般には後極部を中心にかなり広範囲に膜様組織を認めることが多い.(77)●網膜前膜の処理法このような膜様組織は増殖糖尿病網膜症にみられる線維血管性増殖膜とは異なり,一般に網膜との癒着は緩いので,ダイアモンドダストイレーサーで比較的容易に?離が可能である(図2).しかし黄斑部網膜前面のように膜様組織が一塊として?離できることはむしろ少なく,ちぎれやすいので,しばしば何度も膜?離のきっかけを得る必要がある.また,部分的に網膜との癒着が強固な部位があり,強引にmembranepeelingで処理しようとすると医原性裂孔を形成するので注意が必要である.医原性裂孔を形成したまま,周囲の網膜前膜の処理が不完全だと,術後に網膜?離をきたし,しかも難治の増殖硝子体網膜症に進行してしまうこともあるので注意が必要である.●医原性鋸状縁断裂にも注意陳旧性硝子体出血例では,硝子体基底部の硝子体ゲルが器質化して硬くなっているためか,器具の挿入時に医原性鋸状縁断裂(図3)を形成しやすい.術終了時には必ず強膜創の状態をチェックするよう心がける.硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載?37陳旧性硝子体出血例に対する硝子体手術時の注意点(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1コアの硝子体切除後部硝子体膜に窓をあけると,多量のghostcellを含んだ後部硝子体腔の出血が遊出してくる.図2網膜面にみられた膜様組織後部硝子体?離が生じているようにみえても,しばしば網膜全面に薄い膜様組織が生じていることがある.一般に網膜との癒着は緩いので,ダイアモンドダストイレーサーで?離が可能である.図3医原性鋸状縁断裂陳旧性硝子体出血例では,器具の挿入時に医原性鋸状縁断裂を形成しやすい.

眼科医のための先端医療66.もっと速く患者様の病因を知りたい

2006年6月30日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLSゲノム医科学の発展は眼科学に多大なインパクトを与えている近年ヒトゲノムが解読され,われわれがもつ遺伝子の染色体上の位置,構造,機能,個体差などの情報が加速度的に蓄積されています.この結果,生命の設計図であるゲノム情報を基盤として生命現象や病気を捉えようとする「ゲノム医科学」という新しい学問分野が創出されています.テレビや新聞でも「ゲノム」という語彙がしばしば飛び交っており,ゲノム医科学は21世紀の社会や医療に多大なインパクトを与えると考えられています.眼科領域でもヒトゲノム解読に伴い,疾患遺伝子座が位置する染色体領域を抽出すれば原因(疾患感受性)遺伝子を同定することが容易になったため,commondiseaseを含めた各種眼疾患の病因解明も急速に進みつつあります1,2).筆者らも九州大学病院倫理委員会の承認を得て,数年前よりおもに難治性の遺伝性眼疾患のゲノム解析を開始しました.これまでの解析を通して,角膜ジストロフィ,家族性滲出性網膜症や黄斑ジストロフィなどの遺伝性眼疾患は致死性のものが少ないため,決して少ないとはいえず,そのゲノムレベルの探索は,病態の正確な把握と診断の確定に有用であることがわかりました.したがって,患者様の同意とプライバシーに十二分に配慮したうえで,病因を把握しておくことは正しい診断,経過観察や治療方針の決定などに有用であると思われ,将来に導入される可能性がある再生医療や遺伝子治療の適応の決定にも必要となると考えます.角膜ジストロフィは近年最も原因遺伝子解明が進んだ眼疾患の1つである角膜ジストロフィは遺伝性,両眼性に角膜混濁を生じる疾患群で,近年原因遺伝子の解明が最も進んだ眼疾患群の1つです.約10年前に,角膜実質に種々の混濁を生じ,常染色体優性遺伝形式を示す顆粒状角膜ジストロフィ,格子状角膜ジストロフィ,Avellino角膜ジストロフィ,そしてReis-B?cklers角膜ジストロフィは同一の?????遺伝子の異なる変異により生じることが明らかになりました3).?????変異のホモ接合体はヘテロ接合体に比べ重症で4),角膜移植術や治療的レーザー角膜表層切除術後,早期に混濁が再発します5).また筆者らは,典型的な格子状病変のない角膜混濁を示す症例に対し,?????遺伝子解析により格子状角膜ジストロフィI型と診断しました(図1)6).このように遺伝子診断が角膜ジストロフィの診断確定に有用です7).しかしながら,実際の臨床の現場で遺伝子診断を行っている施設は現在のところ大学病院などに限られ,広く一般臨床に普及しているとはいえません.この理由の1つとして,臨床現場で運用できるような簡便,迅速な遺伝子診断法が確立されていないことがあげられます.現在筆者らは患(73)◆シリーズ第66回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊吉田茂生(九州大学大学院医学研究院眼科学分野)もっと速く患者様の病因を知りたい図1非典型的な所見を示す角膜ジストロフィの前眼部写真格子状病変をもたない角膜混濁を示した患者に?????遺伝子解析を行ったところ,格子状角膜ジストロフィI型に特徴的な変異を同定した.左:右眼,右:左眼.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006者様のゲノム解析にはおもにPCR(polymerasechainreaction)?ダイレクトシークエンス法を用いていますが,まだ高価で,労力も少ないとはいえず,改善の余地があると考えています.今ある基礎技術を臨床に応用し,角膜ジストロフィを迅速,正確に診断できた筆者らはこれまでの報告と同様に8),九州地方でも,?????のエキソン4と12が変異の好発部位であることを確認しました9).特にエキソン4の隣り合う塩基の変異で格子状角膜ジストロフィとAvellino角膜ジストロフィを生じるため,この部位をターゲットとして,迅速診断システムを構築できないか試みました10).近年のゲノム医科学研究の進展に伴い,既知の遺伝子型を迅速かつハイスループットで解析(タイピング)する方法として,マイクロアレイ法,Invader法,TaqManPCR法,HybridizationProbe法,MALDI-TOF/MS法など数多く開発されてきていますが,このうちLightCy-clerを使用したHybridizationProbe法に着目しました.本法では,2本の蛍光プローブによりPCRの各サイクルで蛍光をモニターし,遺伝子型のリアルタイム検出を行うことで,精度の高い遺伝子診断が可能です.また,PCR後の電気泳動は不要なため,迅速,簡便で,チューブ交換によるサンプルの取り違えや,コンタミネーションの危険もありません.筆者らはまず,?????のエキソン4と12を増幅するプライマーを設計し,おのおののPCR産物の配列内にハイブリダイズするような3?端をフルオレセインでラベルしたプローブと5?端を????????蛍光色素でラベルしたプローブを設計しました(図2A).それぞれのプライマーとプローブを1本のキャピラリーに混合し,PCR法で増幅後,蛍光シグナルをモニターしながら,温度をゆっくりと上げて融解曲線解析を行いました.すなわち,ある高温に達するとまずTm値(融解温度:プローブとその相補鎖との間で形成されるDNAハイブリッドの安定性を特徴づける)の低いほうのプローブが(74)水正常BA418G>Aホモ(Arg124His)417C>Tヘテロ(Arg124Cys)418G>Aヘテロ(Arg124His)Temperature(℃)Fluorescence-d(F2/F1)/dT5?3????????5?3????????????????????????????cggctahu変異検出プローブアンカープローブ図2LightCyclerPCRを用いた角膜ジストロフィの迅速診断システムA:?????遺伝子エキソン4のプライマーとプローブデザインの模式図.B:?????遺伝子エキソン4の融解曲線解析.野生型ホモ接合体,変異型ホモ接合体,ヘテロ接合体の判別は,融解曲線における蛍光強度の一次微分のピーク値(Tm値)を用いた.野生型に特徴的なTm値のみを示した場合は正常,変異型に特徴的なTm値のみを示した場合は変異型ホモ接合体,両方のピークを示したときはヘテロ接合体であると診断できた.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???のではないかと考えています.文献1)吉田茂生,山地陽子,桑原留美ほか:遺伝子診療学14.眼科疾患(福嶋義光編).日本臨牀63(臨増):264-268,20052)吉田茂生:加齢黄斑変性の分子遺伝学.臨眼58:2063-2068,20043)MunierFL,KorvatskaE,DjemaiAetal:Kerato-epithe-linmutationsinfour5q31-linkedcornealdystrophies.?????????15:247-251,19974)MashimaY,KonishiM,NakamuraYetal:SevereformofjuvenilecornealstromaldystrophywithhomozygousR124Hmutationinthekeratoepithelingenein?veJapa-nesepatients.???????????????82:1280-1284,19985)InoueT,WatanabeH,YamamotoSetal:RecurrenceofcornealdystrophyresultingfromanR124HBig-h3muta-tionafterphototherapeutickeratectomy.??????21:570-573,20026)YoshidaS,YoshidaA,NakaoSetal:Latticecornealdys-trophytypeIwithouttypicallatticelines:roleofmuta-tionalanalysis.???????????????137:586-588,20047)YoshidaS,KumanoY,YoshidaAetal:Twobrotherswithgelatinousdrop-likedystrophyatdi?erentstagesofthedisease:roleofmutationalanalysis.???????????????133:830-832,20028)MashimaY,YamamotoS,InoueYetal:AssociationofautosomaldominantlyinheritedcornealdystrophieswithBIGH3genemutationsinJapan.???????????????130:516-517,20009)YoshidaS,KumanoY,YoshidaAetal:AnanalysisofBIGH3mutationsinpatientswithcornealdystrophiesintheKyushudistrictofJapan.????????????????46:469-471,200210)YoshidaS,YamajiY,YoshidaAetal:RapidgenotypingformostcommonTGFBImutationswithreal-timepoly-merasechainreaction.?????????116:518-524,2005解離し,フルオレセインと????????の距離が離れるため蛍光強度が急激に低下します.DNAハイブリッドにミスマッチが存在すると,完全にマッチした配列よりも解離しやすくなり,Tm値がより低い値となるため,各PCR産物のプローブに対するTm値の差から遺伝子型を検出できます.融解曲線解析で,各遺伝子型(418G>A,417C>T,1710C>T,および野生型)は異なる融解ピーク温度によって検討した66例全例で明確に区別でき,ダイレクトシークエンスによる結果と100%一致しました(図2B).血液採取から解析終了までの所要時間は約1時間30分で,PCR-ダイレクトシークエンス法が丸1日以上かかるのに比べると,迅速性や労力,コスト面で優れていると考えました.本法は正確であるため,現在日常の臨床診断に用いています.本システムにより,非典型的な臨床所見を示す?????関連角膜ジストロフィの正確な診断,?????関連角膜ジストロフィと紛らわしい角膜疾患における除外診断,さらに遺伝性角膜ジストロフィのゲノム解析に基づいた疾患単位の再分類がより容易になると考えています.現在ヒト幹細胞についての捏造疑惑が世間を騒がせており,科学者のモラルが問われていますが,これは,現代科学が実力以上に背伸びをしすぎている一面を反映しているのかもしれません.ゲノム解読を背景にした情報・技術基盤は確実に増加しており,今できる技術を有効に活用し,少しでも多くの患者様の病因をより迅速,正確に把握し,小さくても着実に前進していくことは,近未来のよりよい眼科医療に向けた,意外な近道になる(75)■「もっと速く患者様の病因を知りたい」を読んで■今回は遺伝子診断の実用化を目指す取り組みについて九州大学の吉田茂生先生にわかりやすく解説していただきました.遺伝子診断についてはこのコラムでも過去に多くの取り組みを取り上げてきましたが,検査法自体がかなりややこしく敬遠されることも多かったと思います.吉田先生は日常臨床のレベルを上げるために遺伝子診断が特別の検査法でなく,日常診療の一環として行える検査法にするために如何に効率的に遺伝子異常を検索するシステムをつくるかという先生の取り組みを紹介していただいています.われわれ臨床眼科医が貧血の有無,血糖値などを直接に測定する機会はかなり少なく,患者から採血ののち検査室に検体を送って結果を読むことで,患者の治療を行っています.これと同じような手間で遺伝子診断ができるためには,検査法が簡便になりコストを極力下げる必要があり,近年の分子生物学の進んだ技術は低コストで大量のデータ処理ができる検査システムを構築しつつあることが吉田先生の総説からよくわかります.今後はこのような検査を行い,検査結果の解釈までを医師,患者に返す医療事業が発展すると考えられます.その際に注意すべきことは,遺伝子情報のもつ意味を厳しく判断して正しく患者に伝えることです.?????の遺伝子異常により角膜ジストロフィの診断をすることはかなり近未来でできると考えられますが,その意義———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006☆☆☆(76)づけはかなりはっきりとしています.しかし,今後問題になる生活習慣病のような多因子遺伝性疾患は多くの遺伝子が関与していると考えられています.ある疾患と関連する多くの遺伝子の多型は統計学的に関連のある組み合わせを示すことは可能ですが,それがどのような臨床的な意義,意味をもつのかはまだ未解明の問題も多く,実用化にはまだ時間が必要です.しかし,このような多因子遺伝の遺伝子多型の情報からある疾患の危険性(ある遺伝子型をもっていると○○○○○になりやすいといった解釈)が出始めているのも事実です.これについてはある人の将来を予言することにもなるため,その人の人生を狂わせてしまうかもしれません.遺伝子医療に携わるわれわれ医師はこのことの重大性をいつも認識しつつ科学にまじめに向かいあうことが求められています.このような時代だからこそ高い倫理性が求められていると考えます.山形大学医学部視覚病態学山下英俊

新しい治療と検査シリーズ162.Conductive Keratoplasty

2006年6月30日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS?バックグラウンド角膜に何らかの方法で熱を与え,その形状および屈折力を変化させる手術は角膜熱形成術と総称され,100年以上前から多くの方法が提唱されてきた.しかし,いずれの方法も「創傷治癒の障害」や「効果の戻り」などの問題を解決できず普及には至らなかった1).Mendezら2)によって開発されたConductiveKerato-plasty(CK)(Refractec社)は,角膜熱形成術のうち現在最も注目される方法であり,これまでの術式よりも良好な結果が期待されている(図1).?新しい治療法角膜熱形成術に関する過去の研究から,十分な手術の効果を得るためのポイントは,コラーゲンが収縮しつつ融解しない最適な温度(50~60℃)と,十分な組織深達度を得ることとされている.CKでは,低エネルギー,高周波の電流を,角膜実質に刺入した長さ450?m,直径90?mのプローブ(Keratoplasttip)の先端から流す.するとプローブから流れる電流に対し角膜実質が抵抗として働き,角膜実質に熱作用を及ぼす.この熱作用によるスポットを角膜周辺部にリング状に作製すると,ベルトを縮めるような効果が生じ,角膜中央部をスティープ化させることが可能となる.CKは2002年4月に+0.75Dから+3.00Dの遠視矯正への適応3)が,2004年3月にはモノビジョンによる老視矯正への適応4)が,それぞれアメリカのFDA(食品医薬品局)により認可されている.?実際の手術法点眼麻酔をした角膜上にCK専用マーカーでマーキングを行う.マーキングされた位置に,それぞれ専用プローブを垂直に刺入する.ここで刺入部が深く陥凹するほどプローブの先端に力を加えないように注意する.この状態を保ちながらフットペダルを踏むと,刺入部周囲の狭い範囲に,熱作用による白いスポット(leukoma)が形成されるのが認められる(図2).現在の標準的なノモグラムによれば,光学径6,7,8mmのうち1つに8スポット,または2つの光学径に各新しい治療と検査シリーズ(71)162.ConductiveKeratoplastyプレゼンテーション:伊藤光登志南青山アイクリニックコメント:坂西良彦坂西眼科医院図1CK手術器械の写真(Refractec社)器械本体,フットスイッチ,プローブ(Keratoplasttip),開瞼器,マーカーなどからなる.図2CK術後1日の前眼部写真目標矯正量+1.00Dを得るため,光学径8mm部分に計8個のスポットを作製した.治療スポットの白斑(leukoma)は術後早期には顕著であるが,術後1カ月頃にかけて退色していく.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.6,20068スポット(計16スポット)をリング状に配置することにより,+1.00D,+1.75D,+2.50D,+3.50Dの4種類の矯正度数が選べる.乱視矯正のノモグラムはまだ確立されていないが,角膜トポグラフィで確認されたフラットな軸上にスポットを配置する.非対称なスポットの配置により不正乱視の矯正も可能であるとされる5).?本法の利点LASIK(laser???????keratomileusis)と比較した場合,フラップをつくらず角膜中心部に侵襲を加えないため,安全性が高いうえに,視力の質的な側面が損なわれにくい.具体的には,LASIKによる遠視矯正でときどき生じる「矯正視力の低下」が起こりにくいと考えられる.今後期待されるCKの適応としては,LASIKやPRK(photorefractivekeratectomy)後に老視矯正を必要とする症例や,遠視の追加矯正を必要としながら,エキシマレーザーによる追加手術のリスクが高い症例などがあげられる.たとえば,初回手術でフラップの合併症を生じた場合や,残存角膜厚が薄い場合などである5).さらに,白内障術後の遠視,老視矯正などへの適応も広がるであろう.文献1)伊藤光登志:laserthermalkeratoplasty(LTK).眼科診療プラクティス36,屈折矯正手術の正しい進め方,p102-103,文光堂,19982)MendezA,MendezNobleA:Conductivekeratoplastyforthecorrectionofhyperopia.SurgeryforHyperopiaandPresbyopia(edbySherN),p163-171,WilliamsandWilkins,Philadelphia,19973)McDonaldMB,HershPS,MancheEEetal:ConductiveKeratoplastyUnitedStatesInvestigatorsGroup.Conduc-tivekeratoplastyforthecorrectionoflowtomoderatehyperopia:U.S.clinicaltrial1-yearresultson355eyes.?????????????109:1978-1989,20024)McDonaldMB,DurrieD,AsbellPetal:Treatmentofpresbyopiawithconductivekeratoplasty:six-monthresultsofthe1-yearUnitedStatesFDAclinicaltrial.???????23:661-668,20045)HershPS,FryKL,ChandrashekharRetal:ConductivekeratoplastytotreatcomplicationsofLASIKandphotore-fractivekeratectomy.?????????????112:1941-1947,2005(72)?本方法に対するコメント?ConductiveKeratoplasty(CK)は近年,老視の治療法の1つとして注目されているが,以下のような問題点がある.①術後早期の過矯正:術後早期に過矯正となる症例があり,患者は遠方視力低下を訴える.②術後疼痛:術当日強度の疼痛を訴える症例がある.③惹起乱視:不均一な穿刺やセンタリング不良により惹起乱視が出現することがあるが,多くは次第に軽快する.場合によってはenhancementが必要になる.④ノモグラム:Milneのノモグラムを用いて行った自験例初期連続10眼において±0.5Dに収まった症例は60%(術後3カ月)に過ぎず,多数症例による検討が必要である.⑤ラーニングカーブ:一見容易そうな手技であるが,本手術にはラーニングカーブが存在する.しかしCKの一番の利点は致命的な合併症がないことであり,遠視,老視のみならず,他の屈折矯正手術後の過矯正,円錐角膜,乱視に対する治療などへの応用の可能性がある.☆☆☆

涙点プラグ:BUT短縮タイプに対する涙点プラグ治療のコツ-上下のプラグ挿入を行い、後で抜く必要性について-

2006年6月30日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS涙点プラグはドライアイの治療に大変有効であると考えられている.しかし,BUT(涙液層破壊時間)短縮タイプのドライアイでは涙液分泌量は正常であり,また角膜上皮障害は非常に軽度,あるいはまったく認められないことより,眼不定愁訴として治療薬も処方されずに対処される場合も少なくない.BUT短縮型ドライアイの特徴として,検査所見が乏しいにもかかわらず,眼の乾燥感,しょぼしょぼする,眼が開けられない,何となく見づらいなどの自覚症状は比較的強い.原因としては,マイボーム腺機能不全による涙液油層の異常やアレルギー性結膜炎,結膜弛緩症などがあげられ,その治療法として防腐剤無添加人工涙液の点眼やヒアルロン酸点眼に加え,抗炎症目的に低濃度のステロイド点眼が薦められる.しかし点眼治療で自覚症状の改善が認められない症例に対して,筆者は涙点プラグの挿入を試みている.十分なプラグ効果を得るには上下涙点へのプラグ挿入が望ましく,また「涙の溜まる感覚」を患者に自覚してもらうためにも最初から上下両方にプラグを挿入している.涙点プラグの挿入にあたり大切なことは,患者に十分なムンテラを行うことである.説明には一般的なプラグの挿入方法や合併症に加え,上下片方のプラグ挿入では十分なプラグ効果が得られないことより上下涙点へのプラグ挿入を行うこと,また合併症として流涙を生じる可能性があり,その場合には片方どちらかのプラグ除去により流涙は改善することを説明する.実際の症例を示す.症例1は79歳,男性,眼精疲労,かすみ目を主訴に受診した.右眼矯正視力は1.2,Schirmer値は11mm,ティアークリアランス4倍,BUT3秒,生体染色はフルオレセイン,ローズベンガルともに陰性であった.また,実用視力測定では実用視力0.355,視力維持率0.81(69)涙点プラグセミナー監修/坪田一男海道美奈子慶應義塾大学医学部眼科3.BUT短縮タイプに対する涙点プラグ治療のコツ─上下のプラグ挿入を行い,後で抜く必要性について─BUT(涙液層破壊時間)短縮型ドライアイは検査所見が乏しいにもかかわらず,眼の乾燥感や見づらいなどの自覚症状は比較的強い.防腐剤無添加人工涙液やヒアルロン酸点眼で十分な効果が得られない場合には上下涙点へのプラグ挿入が有効であり,視機能の向上にもつながる.流涙を生じる場合には片方のプラグ除去で自覚症状の改善が得られる.ホワイトメディカル提供図1a症例1の涙点プラグ挿入前従来の視力1.2に対し,実用視力0.355,視力維持率0.81と低下が認められる.図1b症例1の涙点プラグ挿入後実用視力,視力維持率ともに改善している.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006(00)であった(図1a).上下涙点にプラグを挿入1週間後の矯正視力は1.0,Schirmer値は3mm,ティアークリアランス32倍,BUT6秒となり,自覚症状にも改善が認められた.さらに,実用視力では実用視力0.740,視力維持率0.95と改善していた.本症例において,従来の視力測定では患者の訴えているかすみ目を検出することはできなかったが,実用視力の測定によりかすみ目の他覚的評価が可能であった.さらに,上下のプラグ挿入により従来の視力値はほぼ同程度であるにもかかわらず,自覚症状の改善に伴い実用視力は0.355から0.740と改善している(図1b).症例2は79歳,男性,流涙を主訴に受診した.BUT3秒で短縮していたため,上下涙点へのプラグ挿入を行ったが,自覚症状は改善せず,実用視力と視力維持率においても改善は認められなかった.涙点プラグにより下眼瞼メニスカスは過剰に増加し,これに伴い瞬目直後の角膜トポグラフィーのカラーコードマップで下方に局所的に急峻化した帯状の暖色部を生じ(図2a),またドライアイ観察装置DR-1?で同部位に一致した涙液油層の乱れが認められた(図2b).自覚症状や実用視力の改善が認められなかったことは,これらの検査所見に裏づけられると考えられる.症例2は下方プラグの除去により自覚症状は改善している.BUT短縮タイプのドライアイは軽症であると認識され,積極的な治療が行われないことも多いが,上下への涙点プラグ挿入は自覚症状の改善とともに,視機能の向上にもつながる有効な治療法と考えられる.文献1)KojimaT,IshidaR,DogruMetal:Anewnoninvasivetearstabilityanalysissystemfortheassessmentofdryeyes.?????????????????????????45:1369-1374,20042)IshidaR,KojimaT,DogruMetal:Theapplicationofanewcontinuousfunctionalvisualacuitymeasurementsys-temindryeyesyndrome.???????????????139:253-258,2005図2a症例2の涙点プラグ挿入後の角膜トポグラフィー涙点プラグによる下眼瞼メニスカスの過剰な増加に伴い,下方に局所的に急峻化した帯状の暖色部が認められる.図2b症例2の涙点プラグ挿入後のDR-1?角膜トポグラフィーのカラーコードマップの帯状の暖色部に一致した部位に涙液油層の乱れが認められる.

眼感染症:クラミジア検査

2006年6月30日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS経験豊かな眼科医ではない場合,初期のクラミジア結膜炎はウイルス性結膜炎との鑑別診断で苦渋する.患者背景,経過には特徴があり,臨床症状の注意深い観察に基づく臨床診断が最も重要である.検査には抗原検査と抗体検査がある.抗原検査には分離培養法,直接蛍光抗体法,免疫クロマトグラフィー法,酵素抗体法,遺伝子検出法がある.いずれにおいても迅速性と感度を兼ね備えたものはない.検査に補佐されながら経験を重ね臨床診断力を身につけていくことが望ましい.■抗体検査法表1に代表的な検査法の種類とその特徴を示す.?????????????????????は性感染症の代表的な原因菌であり,その一つの表現形としてクラミジア結膜炎や咽頭炎がある.クラミジア結膜炎では本人あるいはパートナーのクラミジア性感染症が活動性である場合が多い.感染時期を推定する意味でIgGに加えてIgMの測定を行う.性器感染では活動性の指標とされているIgAは,結膜炎での測定意義は見いだされてない.日常生活で感染することはまれであるために血清中の特異抗体の測定には意義がある.クラミジア感染症では,本人に加えパートナーの検査・治療も同時に行うことが重要である.パートナーは付き合いのつもりで眼科を受診し,いきなり性器からの抗原検索では抵抗がある.特異抗体測定で問題となるのは?????????????との交差反応である.?????????????は肺炎クラミジアとよばれ,??????????????と異なり成人では約半数が抗体を保有している.各種抗体測定法のなかではヒタザイム・クラミジア?,ペプタイド・クラミジア?ともに特異性には優れているが,判定の明確さではダイナミックレンジの広いヒタザイムが勝る.表1にあげた検査法に加えて補体結合法もあるが,現在では使用されることは少ない.■抗原検査法代表的な検査法を表2に示す.迅速性を求めるならば直接蛍光抗体法か免疫クロマトグラフィー法を選択する.免疫クロマトグラフィー法は抽出用緩衝液と80℃で10分間の反応が必要である.直接蛍光抗体法は理論上1粒子存在すれば検出可能だが,反応操作が煩雑かつ蛍光顕微鏡が必要であり,判定には熟練が必要である.酵素抗体法は遺伝子検出法に比較して所要時間が短いものの感度は低く,もはや選択される理由はない.遺伝子検査法は感度と特異性が高く依頼検査の際には第一選択となる.現在,LCR(ligasechainreaction)法が撤退し,SDA(stranddisplacementampli?cation)法とPCR(polymerasechainreaction)法で検査可能である.実験室データに基づく公称感度に差はあるが,臨床検体を(67)眼感染症セミナー─スキルアップ講座─●連載?監修=大橋裕一井上幸次37.クラミジア検査伊藤典彦横浜市立大学医学部眼科クラミジアは数パーセントではあるが急性濾胞性角結膜炎のなかに必ず潜んでおり,アデノウイルスやヘルペスウイルスとの鑑別が重要である.クラミジアに対する特異抗体を通常は保有していないので抗体の測定にも意義がある.抗原検査では迅速な蛍光抗体法や免疫クロマトグラフィー法を用いた検査,また感度は高いが時間を要するPCR(polymerasechainreaction)法やLCR(ligasechainreaction)法を用いた遺伝子増幅検査が選択される.表1クラミジア抗体検査法原理商品名サブクラス使用抗原所要時間特徴間接蛍光抗体法試薬自家調整IgG,A,M精製基本小体3時間判定に熟練要酵素抗体法ヒタザイム・クラミジア?(日立化成)IgG,A,M外膜蛋白複合体2.5時間判定が明確ペプタイド・クラミジア?(明治乳業)IgG,A合成ペプチド2.5時間偽陽性多い———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006対象とした感度は同等である.検査の際,アデノウイルスとヘルペスウイルスとの鑑別が重要な目的である.直接蛍光抗体法,免疫クロマトグラフィー法,酵素抗体法,遺伝子検出法ではクラミジアの有無は判定可能だが,両ウイルスとの鑑別は行うことができない.表3に示すごとく分離培養法では複数の細胞株を組み合わせることで,クラミジアだけではなくアデノウイルスやヘルペスウイルスを同時に検出することが可能である.さらに,分離培養法では分離した病原体を株として保存,分与し,微生物学的性状解析が可能となる.このように感染性結膜炎の微生物学としては有用な分離培養法であるが,判定までに1週間は必要であり,なおかつ保険適用がない.市中病院では困難であっても大学病院では分離培養法を併行して行うことを励行されたい.現在,ウイルスの分離培養に最も長けているのはSRL社で,クラミジアの分離培養は受注していないが,表3に示す細胞株を取り揃えており,アデノウイルスやヘルペスウイルスなどの依頼検査は可能である.文献1)中川尚:ウイルス性結膜炎のガイドライン.第4章検査,日眼会誌107:17-23,2003(68)■コメント■クラミジアは眼科領域での頻度はそれほどでもないが,特に近年,性感染症として蔓延してきており,それに対応するためにこれだけ多くの種類の検査が利用できるわけである.頻度が低いと,診断に確信をもてず,そのため,性器感染や,感染の機会やパートナーについての問診も十分にできない(この手の問診は特にわれわれ眼科医は苦手である)が,これらの検査でクラミジアであることを確かめればより自信をもって問診ができ,適切な治療につなげることができる.鳥取大学医学部視覚病態学井上幸次表2抗原検査法原理商品名感度所要時間特徴分離培養法試薬自家調整酵素抗体法と同等1週間微生物学の基本直接蛍光抗体法クラミジアFA試薬生研?(デンカ生研)1EB(理論値)30分判定に熟練要免疫クロマトグラフィー法Clearview?Chlamydia(日本シェーリング)104EBs30分簡便だが低感度酵素抗体法IDEIAPCE?Chlamydia(DAKO)102EBs2時間遺伝子検出に劣る遺伝子検出法SDA法BDプローブテックET?(日本ベクトン・ディッキンソン)3×101EBs3時間高感度,省力PCR法アンプリコア?STD-1(Roche)2EBs5時間高感度表3細胞株感受性細胞株名由来クラミジアADVHSVVZVCMVHeLa229*Hela○McCoy*マウス○PHfbヒト包皮○○○○MRC-5胎児肺○○○○A549ヒト肺癌○○HEp-2ヒト喉頭癌○293ヒト胎児腎○*SRL社で外注は不可.ADV:アデノウイルス,HSV:単純ヘルペスウイルス,VZV:水痘・帯状疱疹ウイルス,CMV:サイトメガロウイルス.☆☆☆

緑内障:隅角癒着解離術用補助リングの開発

2006年6月30日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS■2つのランドマークSchwalbe線と強膜岬隅角癒着解離術1,2)では2つのランドマーク,Schwal-be線と強膜岬の確認が重要である(図1).癒着解離を始める前にSchwalbe線の辺りに散在する茶色い色素沈着と虹彩前癒着部位を確認し,癒着解離の後に強膜岬の白いラインの露出で十分に?離できたことを確認する.いずれも隅角構造が十分に視認できることが重要である.■強膜圧迫法隅角が2倍の大きさに視認性の向上のために2000年より,輪部から2mm後方の強膜をレンズ鑷子で圧迫する強膜圧迫法3)を用いている.この方法の特徴は,隅角の構造が約2倍の大きさに見えることである.したがって,2つのランドマーク,Schwalbe線と強膜岬の確認が容易になる.視認性向上のメカニズムは,圧迫により隅角が深くなり,かつ角膜曲率が小さくなる,つまり隅角構造が変化するためであることを,超音波生体顕微鏡(UBM)を用いて確認した.老人環や角膜ジストロフィなどの角膜混濁で隅角観察が困難な症例においても,圧迫の程度を変化させ,より透明な角膜の部位を通して隅角を視認することが可能である(図2).小角膜・小眼球の癒着性閉塞隅角緑内障では角膜内皮面の反射により隅角観察が困難な場合があるが,圧迫し角膜曲率が変化することにより隅角構造が容易に視認できる(図3).(65)●連載?緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄72.隅角癒着解離術用補助リングの開発高梨泰至松江赤十字病院眼科隅角癒着解離術において,輪部より2mm後方の強膜を圧迫する強膜圧迫法を用いると隅角の視認性を向上させることができるが,助手の介助が必須であった.隅角プリズムを角膜上に保持する補助リングを開発することにより,術者が独立して隅角癒着解離術を安全に行うことが可能になった.図1隅角癒着解離術Schwalbe線周囲の茶色い色素沈着と強膜岬の白いラインが明瞭に観察される.図2角膜ジストロフィ症例角膜混濁のため隅角構造不明だが(a),強膜圧迫にて強膜岬が確認できた(b).ba図3小角膜症例角膜内皮面の反射により隅角不詳だが(a),強膜圧迫にてSchwalbe線が確認できた(b).ba———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006従来,視認性を得るために,牽引糸の設置による眼球回転,患者の頭位の変換,45?以上の顕微鏡のあおりなどが用いられ,手術のセッティングに煩雑な面があった.また癒着解離の範囲も270?程度であった.本法では,牽引糸や患者の協力が必要なく,顕微鏡のあおりも少なく,より容易になっている.術者が座る位置を変えることにより360?の癒着解離が可能である.虹彩前癒着が残存すると,解離部位との境界部位から虫這い様に再癒着が起こる.本法では術後の再癒着が他の報告に比べ少ないが,完全な癒着解離が効を奏している可能性がある.■補助リングの開発強膜圧迫法を用いて隅角癒着解離術を行う場合,術者はゴニオプリズムと癒着解離針を操作するため,圧迫は助手が行わなければならなかった.したがって,術者は圧迫の部位と程度を詳細に助手に伝えなければならないし,助手にも熟練が求められた.そこで,術者が独立して手術を行えるように,ゴニオプリズムを角膜上に保持する補助リングをオキュラー社の協力で開発した(図4).ダブル・リング構造で,下の大きめのリングは眼球上に接し,上の小さめのリングはThorpeレンズ(ルミナス,サンタ・クララ,カリフォルニア)を固定する.上と下のリングは2本の支柱で連結されている.Thor-peレンズが補助リングで角膜上に保持されているので,術者は強膜をレンズ鑷子で圧迫しながら癒着解離針を操作することが可能になった.つまり,助手の介助なしに手術を遂行できるようになり,従前の欠点を克服できた.■新たな適応トラベクレクトミーの術後で順調に経過観察していたが,ある日ブレブが消失し眼圧上昇していた.隅角検査により,虹彩切除した虹彩根部が流出路に陥入していた.上方の癒着解離は従来困難だが,強膜圧迫法を用いて隅角癒着解離を行ったところ,ブレブは再建され眼圧も正常化した(図5).トラベクレクトミー,非穿孔性トラベクレクトミー,ビスコカナロストミーなどの流出路再建術で虹彩根部が閉塞した際は,本法が有用な症例もあると考えられる.文献1)CampbellDG,VellaA:Moderngoniosynechialysisforthetreatmentofsynechialangle-closureglaucoma.??????????????91:1052-1060,19842)永田誠,禰津直久:隅角癒着解離術第1報.臨眼39:707-710,19853)TakanashiT,MasudaH,TanitoMetal:Scleralindenta-tionoptimizesvisualizationofanteriorchamberangledur-inggoniosynechialysis.??????????14:293-298,2005(66)図5トラベクレクトミー後の虹彩嵌頓症例ブレブ消失・眼圧上昇していたが,強膜圧迫法を用いた隅角癒着解離を行い,ブレブは再建され眼圧も正常化した.図4補助リング補助リングを開瞼器の下に滑り込ませ(a),Thorpeレンズを角膜上に保持し(b),輪部から2mm後方の強膜をレンズ鑷子で圧迫する(c).bac

屈折矯正手術:Iris Registrationの実際

2006年6月30日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS●Irisregistrationとは波面収差解析装置とエキシマレーザーに付属している赤外線カメラで各眼の虹彩を撮影し,各々で撮影した虹彩紋理を照合し,そのずれを回旋の角度として認識し,レーザー照射時に調整する仕組みがirisregistration(IR)である.AMO社の波面収差解析装置WaveScanとエキシマレーザーSTARS4に新しく加わった機能である.LASIK(laser???????keratomileusis)が屈折矯正手術の主流であるが,仰臥位になったとき,座位と比べて眼球が回旋することが知られており,実際の手術でもその様子が観察されることさえある.近年の波面収差解析結果を導入したwavefront-guidedLASIKでは,術前の精密な高次収差解析結果をもとに?m単位でエキシマレーザー照射するわけだが,波面収差解析時の眼位と,手術時の眼位が異なれば,せっかくの精密な解析結果が有効に利用されないことになってしまう.これを解決すべく,今まで,術前に細隙灯顕微鏡下,ピオクタニンなどで角膜輪部付近の3時-9時の位置にマーキングし,エキシマレーザー照射時に水平線を合わせるといったことが行われていたが,実際に回旋した状態を頭位で合わせるのは容易でなかった.乱視が強い例でのLASIK,特にwavefront-guidedLASIKでは,IRによる良好な成果が期待されている.●術前のチェックWaveScanで撮影された画像から虹彩紋理を24カ所解析する(図1).この時点で,虹彩の模様によっては認識されにくい例があり,今のところ,24カ所認識できない場合は,IRが使えない.また,以前からレーザー照射中の眼球の動きを輪部の位置を使って自動追従する眼追従装置(アイトラッカー)があるが,IRにおいては,この角膜輪部の認識も不可欠である.WaveScanでの測定時に認識された角膜輪部(ピンク色のリング)が実際の輪部に一致しているか確認する(図2).虹彩に縦方向の模様があったりすると,これを輪部として認識することがあるので,画面上の確認が必要である.●エキシマレーザー照射時の操作虹彩紋理の認識は,LASIKでフラップを作製した後,(63)●連載?屈折矯正手術セミナー監修=木下茂大橋裕一坪田一男73.IrisRegistrationの実際ビッセン宮島弘子東京歯科大学水道橋病院眼科Irisregistrationは,波面収差解析時の虹彩紋理と,実際にエキシマレーザー照射をするときの虹彩紋理を合わせる装置で,眼球の回旋を修正することで,より正確なエキシマレーザー照射が可能になることが期待されている.図1赤外線カメラで撮影された画像から認識された24カ所の虹彩紋理図2IR機能のついたWaveScanでの解析画像(ピンク色の線が角膜輪部)———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006角膜照射面を露出してからになる.WaveScan検査は暗順応後であるから,レーザー照射時も,なるべく瞳孔径が大きくなるよう,レーザー装置に付随している顕微鏡の光量を下げる必要がある.瞳孔径をまったく同じ大きさにすることはむずかしいが,ある程度の瞳孔径で測定可能である(図3).レーザー照射前,24カ所認識された虹彩紋理のうち20カ所以上解析できれば操作可能である.解析は通常数秒以内に終了する.ただし,5カ所以上解析できない場合は,エラーとなり,IR機能なしでの照射となる.●術後成績当院での照射データでは0.5~4.6?の間で回旋補正されている.術後の矯正効果は,理論上,IR機能を使ったほうが良好になるわけだが,視力や収差解析結果で明らかな違いがでるほどではない.ただし,輪部と虹彩紋理のダブルで位置を認識するため,予期せぬ照射中心のずれは減少するはずで,安全面での効果が期待されている.●今後の可能性現在は,照射前に位置を合わせ,照射中,IRは使われていないが,すでに照射中に虹彩紋理で追従する機能が臨床応用の段階に入っている.これにより,さらに正確な位置での照射が可能になる.現在のwavefront-guidedLASIKによる術後成績が非常に良好なため,IRのような付加価値がついても,その違いを術後視力などで実感することはむずかしい.しかし,術前検査がここまで精密になっていれば,当然レーザー照射時にもその精密性は追求されるべきである.現在,術前の検査段階でIRが可能な例と不可能な例,術前にはIRが可能であったのに,実際の手術でIRが不可能な例が存在する.また,新しい機能が追加されると,検査時間や手術時間が延長する傾向にある.今後,さらに改良が進み,ほぼ全例でIRが可能となり,簡便なシステムで手術が可能となることが期待される.(64)図3エキシマレーザー照射時のモニター画面緑色の四角が虹彩紋理を認識している.この例では1.8?の回旋を補正.☆☆☆