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眼内レンズ:改良型カプセルエキスパンダー

2006年6月30日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS●従来型カプセルエキスパンダーの使用法従来型カプセルエキスパンダー1~3)はナイロンでできており,柔らかいため変形し,症例に応じ曲げることもできる.使用方法は,continuouscurvilinearcapsulor-rhexis(CCC)作製後,あらかじめ水晶体?と水晶体の間に粘弾性物質を注入し,カプセルエキスパンダー挿入を容易にしておく.つぎに角膜輪部の小切開創からカプセルエキスパンダーを前房に挿入する.鉤の先端部分は2mmのT字型をしているにもかかわらず,非常に柔らかいためそのまま折れ曲がり,スムーズに前房に挿入することができる.T字型の先端部が水晶体?の赤道部に当たるように引く距離を調節して,創口外の固定器で動かないように留めておく(図1).カプセルエキスパンダーは,1/4象限以下の部分的なZinn小帯断裂では1~2カ所から,ほぼ全周に近いZinn小帯断裂や水晶体動揺を認めるような重度のZinn小帯脆弱例では4~6カ所から設置する.設置後は,通常の方法で超音波水晶体乳化吸引術(PEA)を行う.眼内レンズ(IOL)は,Zinn小帯断裂の程度に応じて,片方のループまたは両方のループを毛様溝に縫着して固定する.IOL縫着後,水晶体?は除去,前部硝子体は必要に応じ,硝子体カッターで切除する.(61)小澤忠彦小沢眼科内科病院眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎238.改良型カプセルエキスパンダーZinn小帯脆弱例,超音波水晶体乳化吸引術(PEA)の補助器具としてカプセルエキスパンダーが開発された.本器具は,水晶体?を支持しながら水晶体?赤道部を拡張するといった,虹彩リトラクターとリングの両方の利点を兼ね備えている.今回は柄の部分を金属製にし,さらに操作性を向上させた改良型について紹介する.図2改良型カプセルエキスパンダー柄の部分が金属製となっている.図1従来型カプセルエキスパンダー4カ所設置の様子図3改良型カプセルエキスパンダー4カ所設置の様子小瞳孔の場合,虹彩リトラクターとして設置し,CCC完成後カプセルエキスパンダーの先端を?内へ設置する.(中村丹雄先生御考案)———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006(00)●改良型カプセルエキスパンダーの使用例従来型では,フレキシブルで眼内への出し入れが容易などの利点をもっている.しかし,柄の部分まで柔らかすぎるため,眼外から柄の部分を操作しても,カプセルエキスパンダーの先端をCCCの下に進ませることが困難なことを経験した.このような場合,別にフックを挿入し,このフックで先端部分を押さえつけるなどの工夫が必要であった.そこで,先端部はそのままで,柄の一部分を金属製とした改良型を製作した(図2).実際の使用感は,眼外から金属製の柄の部分を操作するだけで,カプセルエキスパンダーの先端をCCCの下に容易に進ませることができ,操作性は向上した.しかし,持ち手が金属製のため取り扱い時に滑ったり,飛び跳ねたりすることがあった.これらも,慎重に取り扱うことで対応できる程度のものである.また,従来型では柄から止め具の部分がずれることがあったが,改良型ではずれることがなくなった(図3).●まとめZinn小帯脆弱症例に対する白内障手術は,硬い核で高度の水晶体動揺や広範囲にZinn小帯の断裂がみられる症例ではICCE(?内摘出術)が適応となる.軟らかい核で範囲の狭い断裂例ではPEAが考慮される.また水晶体偽落屑症群,レーザー虹彩切開術後などでは,CCCのときに水晶体が異常に揺れることで手術中になって,初めてZinn小帯脆弱に気づくことがある.このような症例にPEAを行う場合には虹彩リトラクター4)や,リング5)などの補助器具を併用するのが有用とされてきたが,最近ではカプセルエキスパンダーを選択する術者も増えてきている.どの補助器具を使用しても難症例には変わりなく,手術に際しては,どの時期においても危険や困難を感じたらICCEへの変更を早めに決断するなど,無理は禁物である.改良型カプセルエキスパンダーにより,従来型のCCCの切開窓から鉤が外れやすい,挿入が困難などの欠点が改善されたことは朗報である.最後に,カプセルエキスパンダーの対象となるような症例には重篤なZinn小帯脆弱(断裂)例も含まれ「怪しいときはIOLを縫着して固定する」ことが大切であることを強調したい.この際,厄介なIOL縫着でも後?が残っているため硝子体脱出や硝子体牽引がなく,安心して手術を行うことができる.文献1)谷口重雄:カプセルエキスパンダー.??????18:82-83,20042)小澤忠彦:カプセルエキスパンダーを用いたZinn小帯脆弱例の超音波白内障手術.あたらしい眼科21:773-774,20043)小澤忠彦:Zinn小帯脆弱症例の超音波白内障手術におけるカプセルエキスパンダーの試作.臨眼59:333-339,20054)MerriamJC,ZhengL:Irishooksforphacoemulsi?cationofthesubluxatedlens.???????????????????????23:1295-1297,19975)CionniRJ,OsherRH:Endocapsularringapproachtothesubluxatedcataractouslens.???????????????????????21:245-249,1995

コンタクトレンズ:コンタクトレンズによる障害(全国障害調査)

2006年6月30日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLSコンタクトレンズ(CL)装用者の10人中1人に眼障害が生じていると推測されている1).1991年,使い捨てソフトコンタクトレンズ(SCL)が市販され装用者が急増し,装用人口は全国で約1,500万人といわれている.1994年のCL装用者は867万人であり,2002年は1,463万人と増加している(図1)2).それに伴い,CLによる眼障害は増加している.今回,CLによる眼障害につき述べる.●CL装用者の約10人中1人は眼障害日本眼科医会(日眼医)の「CLによる眼障害アンケート調査」結果によると,CL眼障害者は,平成13年(2001年)3月までの1年間に68,045件3),平成15年(2003年)1~2月の2カ月間に26,137件であり1),類推すると1年間に約156,800件となる.アンケート回収率(10.4%)から推計すると,全国では1年間に約150万件が推計される.日眼医に属していない医療機関の報告はないため,さらに多くの眼障害者が推計される.CL装用者が約1,500万人であることから,CL装用者の約10人に1人の割合で眼障害が起こっていることが推計される.●CL量販店・メガネ店隣接診療所のCL処方は眼障害が多い日本コンタクトレンズ協議会(日本CL学会・日本眼科医会・日本CL協会)が行ったCLによる眼障害アンケート調査4)は,母集団を特定した日眼医に所属する46施設において,平成13年10月の1カ月間に受診したすべてのCL装用者に行った.CL装用者4,974名のなかでCL眼障害者は413名であった.その処方施設を図2に示す.CL装用者は眼科診療所・病院77.8%,CL量販店隣接診療所14.4%,メガネ店隣接診療所5.8%,その他2.0%であった.CL眼障害者は眼科診療所と病院53.7%,CL量販店隣接診療所26.2%,メガネ店隣接診療所15.7%,その他4.4%であった.眼科診療所・病院では装用者に比し,眼障害者は少ないが,CL量販店とメガネ店隣接診療所は装用者に比し,それぞれ約2~3倍の眼障害者を示す.日眼医に属した施設での調査のため,CL装用者は眼科診療所・病院で多く,CL量販店やメガネ店隣接診療所の多くは日眼医に属していないために少ない.CL量販店とメガネ店隣接診療所での処方は眼障害が多い傾向が推計される.診療・処方・処方後のケアの3つを適切に行う眼科専門医にCL処方を受けることが,眼障害予防の重要なステップである.●連続装用使い捨てレンズ装用者の眼障害発症率が高い表1のように,ハードコンタクトレンズ(HCL)よりSCLは障害が多く,なかでも1週間連続装用使い捨てSCLの年間発症率が高い4).2週間交換SCLは使用期限を守らない,不十分なケア方法などがある.●CL眼障害の原因眼障害の原因には,酸素不足,感染,レンズの汚れ,機械的刺激,アレルギー,ドライアイなどがある.要因(59)宇津見義一宇津見眼科医院コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純TOPICS&FITTINGTECHNICS264.コンタクトレンズによる障害(全国障害調査)図1CL装用者ディスポ系SCL;1週間連続装用SCL,2週間交換SCL,毎日使い捨てSCL.(2003年版矢野経済研究所流通動向調査より)867836311,4638675960ディスポ系SCL従来型SCL総計装用者(万人):2002年:1994年1,6001,4001,2001,00080060040020014.426.25.815.777.853.72.04.40%CL眼障害者413名CL装用者4,974名:量販店隣接診療所:メガネ店隣接診療所:眼科診療所・病院:その他100%80%60%40%20%図2CL処方施設の割合日本コンタクトレンズ協議会コンタクトレンズ眼障害調査小委員会(糸井素純,植田喜一,宇津見義一,吉田博,岡野憲二):平成13年10月松本市・下関市・城陽市・横浜市における46施設内の全CL装用者の眼障害調査報告より.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006(00)としては,長時間装用,洗浄不良などレンズの使用方法に問題がある場合,レンズの汚れ・キズ・劣化・破損などCL自体に問題がある場合,定期検査などのフォローアップ不適,説明指導・処方ケアが不適切な場合などがある1).●眼障害患者の6割は適切な定期検査を受けずCL眼障害を起こした人では,3カ月に1回の定期検査を受けているのは40.1%1).眼障害を起こした人のうち6割の人が定期検査を受診していない.CLを装用して異常がなくても定期検査を受けると,度数やカーブ,デザインが合っていないケースは多い.眼障害やCLのキズ・変形・変色や,汚れが付着している場合がある.異常がなくても,3カ月に一度は,定期的に検査を受けることが重要である.●CL眼障害の種類眼障害は図3のように,アレルギー性結膜炎26.5%,点状表層角膜症19.2%,角膜上皮びらん14.5%の順であり,角膜潰瘍は3.3%であった1).文献1)日本眼科医会医療対策部(吉田博):コンタクトレンズによる眼障害アンケート調査の集計結果報告(平成14年度).日本の眼科75:219-222,20042)コンタクトレンズの製品タイプ別市場規模推移:2003年版矢野経済研究所コンタクトレンズ&用剤に関する小売流通動向調査,p70-86,20033)日本眼科医会医療対策部(吉田博):コンタクトレンズによる眼障害アンケート調査の集計結果報告(平成12年度).日本の眼科72:1341-1344,20014)日本コンタクトレンズ協議会CL眼障害調査小委員会(糸井素純,植田喜一,宇津見義一,吉田博,岡野憲二):コンタクトレンズによる眼障害アンケート調査.日本の眼科74:497-507,2003表1CLによる眼障害の発症率(レンズの種類別)CL眼障害件数年間CL眼障害数(推定)CL装用者年間発症率ガス(酸素)透過性HCL1301,56027,9365.6%従来型SCL1021,22410,99111.1%1日使い捨てSCL222648,0923.3%1週間連続装用使い捨てSCL67248115.0%2週間交換SCL1531,83619,1719.6%合計4134,95666,6717.4%日本コンタクトレンズ協議会コンタクトレンズ眼障害調査小委員会(糸井素純,植田喜一,宇津見義一,吉田博,岡野憲二):平成13年10月松本市・下関市・城陽市・横浜市における46施設内の全CL装用者の眼障害調査報告より.6.3%7.4%26.5%11.4%19.2%14.5%1.5%6.2%3.3%4.3%0.7%1.6%2.4%1.2%4.2%毛様充血巨大乳頭結膜炎アレルギー性結膜炎乾性角結膜炎点状表層角膜症角膜上皮びらん角膜浮腫角膜浸潤角膜潰瘍角膜新生血管虹彩炎角膜内皮細胞減少低矯正過矯正その他01,0002,0003,0004,000件数5,0006,0007,000図3眼障害の診断名(n=26,137)(重複あり)CLによる眼障害アンケート調査の集計結果報告(日本眼科医会,平成14年度)より.

写真:青色強膜(Blue sclera)

2006年6月30日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS(57)黒田紀子千葉県こども病院眼科写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦265.青色強膜(bluesclera)②②③①④④②図2図1のシェーマ①:角膜輪部.②:強膜全体に一様に見られる青色強膜.③:角膜輪部周囲にわずかに見られる輪状に残存している白色の強膜(Sat-urnring)が存在する.④:下眼瞼睫毛.図1両眼の青色強膜(7歳,女児)骨形成不全症Ⅰ型の女児.両眼の強膜は全体的に青色を呈している.角膜輪部周囲はわずかに白色部分を輪状に残している.くり返す大腿骨骨折の既往あり.外斜視を認め,7歳時に斜視手術を行ったが,その後現在まで視力,眼位,両眼視機能は良好で正常な視機能を保っている.図3図1の細隙灯顕微鏡所見角膜輪部に沿って,白色部分のSaturnringの存在と青色強膜が見られる.角膜の菲薄化は現在まで認められていない.図4大腿骨骨折による変形(5歳,男児)乳児期より大腿骨骨折をくり返している.骨折部位の変形が見られる.青色強膜が見られ,骨形成不全症Ⅰ型に分類されている.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006(00)青色強膜(bluesclera)は両眼の強膜がびまん性に青く見える状態をいう1).これは強膜自体が青色に変化しているのではなく,本来の白色の強膜が青色に見えている状態である.その原因は遺伝的素因による発育異常のためコラーゲン線維の異常があり,強膜の厚さが正常の強膜に比べ薄く,背後に存在するぶどう膜の色素が透見されるためである.正常でも乳児は強膜の厚みが薄かったり,先天緑内障による眼球拡大が生ずると青味を帯びたりすることもあるが,本症は通常生涯変わらず,視機能異常がないとされている.強膜と同様に角膜も菲薄化し,正常の1/2から1/3の厚みとなり,Chanらは形態学的に細いコラーゲン線維の欠損があると報告している2).角膜輪部に接した部分は背後に色素に富んだぶどう膜が存在しないため,青色を呈さず本来の白さが見られ,Saturnringとよばれる輪状の白色強膜が存在する.青色強膜自体は視機能的には異常がないが,角膜菲薄化が存在し,巨大角膜や円錐角膜が見られることもある.一般に全身疾患に合併して見られることが多い.青色強膜を生ずる疾患として,最も多いのが骨形成不全症である.骨,耳,眼,歯,関節などに障害が見られる常染色体優性遺伝形式をとる疾患で,Ⅰ型よりⅣ型に分類される3).このうちⅠ型,Ⅱ型には青色強膜が見られる.特にⅠ型は最も多く見られる型で,臨床症状は比較的軽度のものから中等度のものまであり,強膜は一生涯を通じて青色を呈する.Ⅲ型,Ⅳ型は出生直後には青色を呈していても,成長するに従い色は薄くなり正常の白色となる.いろいろな型で眼球硬性が低くなっている場合もある.vanderHorve症候群はLobstein症候群ともいわれ,骨形成不全,青色強膜,難聴を三主徴とする疾患で,常染色体優性遺伝形式をとる.中胚葉組織の形成不全が見られ,幼児期に骨折を生じやすく,伝音性難聴,強膜菲薄化により青色強膜が見られる.その他の眼症状として円錐角膜,球状角膜,小角膜なども見られる4).Ehlers-Danlos症候群のⅥ型も,青色強膜が見られる疾患である.脆弱な皮膚,関節の過可動などが見られ,コラーゲンの先天代謝異常によって発症する.皮膚の過伸展があり,ビロード状で些細な外力によっても裂けやすい.眼症状は青色強膜以外に,円錐角膜,小角膜,水晶体偏位,後部胎生環,まれにはわずかな外力により眼球破裂,網膜?離,硝子体出血などを伴うことがあるとされている5).他に,青色強膜を伴う全身疾患としては,Haller-mann-Strei?症候群,Lowe症候群,Marfan症候群などがある.文献1)田淵昭雄:青色強膜.小児眼科アトラス(山本節編),p52-53,診断と治療社,19952)ChanCC,GreenWR,delaCruzZCetal:Ocular?ndingsinosteogenesisimperfecta.????????????????100:1458-1463,19823)SillenceDO,RimoinDL:Classi?cationofosteogenesisimperfecta.??????1:1041-1042,19784)大西克明:Lobstein症候群(vanderHoeve症候群タイプⅡ).眼科診療プラクティス25,眼と全身病ガイド,p168,文光堂,19965)高橋次郎:Ehlers-Danlos症候群.眼科診療プラクティス25,眼と全身病ガイド,p67,文光堂,1996

交代性上斜位の治療方法

2006年6月30日 金曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSより顕性化しやすい.いずれの場合にも,遮閉眼は単に上転するのではなく,外方回旋しながらやや外上方または内上方に偏位する.また,遮閉を除去して戻る際の下転運動は内方回旋を伴う.遮閉?遮閉除去試験ではこの戻り運動はゆっくり進行するが,交代遮閉試験では固視交代が起こるため,迅速な戻り運動になる.一方,僚眼は遮閉?遮閉除去試験では通常,固視を持続して動かないが,交代遮閉試験では遮閉の移動の際に両眼共同運動により一旦,下転した後,正位に戻る場合と正位を過ぎて上転運動のみられる場合がある.通常,DVDは両眼交代性にみられるが,上方偏位の程度は左右眼で異なることが多く,片眼のみ顕性化している場合もある.日によって,あるいは,環境や検査条件により偏位の程度や左右眼の状態に変化がみられることも多い.DVDの出現に影響する検査条件,状況を表はじめに交代性上斜位(dissociatedverticaldeviation:DVD)は片眼が固視を外れて上転した後,再び下転して正位またはもとの斜視の眼位に戻る眼球運動を基本的動作とし,これが日常的に両眼交代性にみられる病態である.両眼視の状態から片眼を完全に遮閉または遮閉膜などで部分遮閉すると上転が誘発されることから上斜位とよばれ,上下斜視と異なり交代性に非固視眼は常に上転する.DVDは運動性融像の不全が原因とされ,乳児内斜視など早期発症の斜視に合併する頻度が高いが他の水平斜視でもみられ,上下斜視を合併する例も多い.さらに,斜筋の異常も高率にみられ,下斜筋や上斜筋の過動による眼球運動の非共同性が運動性融像の障害因子と考えられる.まれに顕性斜視を伴わない例もある.いずれの場合にも眼位が不安定で両眼視機能も不良であることが多い.DVDを完治させることはむずかしく,治療はあくまで融像の改善が目標であり,結果的に両眼視機能が向上することを期待している.このため,眼位矯正や共同性眼球運動の回復を優先したうえで,DVD自体の治療,つまり,上転運動の軽減を手術計画することになる.IDVDの診断1.DVDの眼球運動片眼の遮閉?遮閉除去試験,交代遮閉試験ともにDVDの眼球運動は観察可能であるが,交代遮閉試験のほうが(51)???*KojiNomura:兵庫県立こども病院眼科〔別刷請求先〕野村耕治:〒654-0081神戸市須磨区高倉台1-1-1兵庫県立こども病院眼科特集●もっと知りたい,斜視・弱視あたらしい眼科23(6):749~754,2006交代性上斜位の治療方法???????????????????????????????????????????野村耕治*表1DVDの出現に影響する検査条件,状況DVDが顕在化しやすい検査条件および状況片眼の遮閉片眼に光を当てる遠方の小さな視標を注視させる頭部傾斜試験戸外やまぶしい環境疲れているときや眠いとき斜視の顕性化DVDが潜在化しやすい状況近方視させる融像が阻害される条件や環境でDVDは顕性化しやすい.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.6,20061に示す.2.大型弱視鏡によるDVDの誘発両眼分離検査である大型弱視鏡はDVDの検出に有用である.視力に合わせてできるだけ小さい視標,固視可能であれば中心窩視標を使用し,かつ,左右眼に異形の視標を提示する.顕性斜視がある場合は自覚的斜視角を検出後,その角度で少し長めに両眼固視させると片眼が固視を外れて上転する動きが観察される.上転が出現しない場合は一方の視標(優位眼がはっきりしている場合は優位眼に提示した視標)を点滅させてその眼の固視を意識させるとDVDが誘発される場合がある.上転した眼の鏡筒を上方に動かし再度,視標を固視させることで上方偏位を定量できる.片眼の上転によりDVDの可能性が示唆された場合,小休止を取った後に,今度は先の検査で上転した眼の視標を点滅させるなどして固視を意識させ,僚眼の上転がみられるか否か観察するとともに,DVDの動きがみられた場合はその偏位角を定量する.IIDVDの治療1.DVDの治療方針a.顕性斜視を伴うDVDの治療DVDは乳児内斜視や間欠性外斜視,調節性内斜視などの水平斜視に合併することが多い.手術や眼鏡装用により正位または斜位となり融像が安定するとともにDVDが潜在化する場合がある.このため,合併する顕性斜視の治療を優先するのが原則である.しかし,実際には斜視の治療後もDVDに改善がみられない場合が多い.このような例は融像が不安定で斜視角にも変動がみられるなど両眼視機能が不良なため,DVD自体の治療を積極的に考慮する.上下斜視を合併する場合は上斜筋麻痺や先天Brown症候群など眼球の共同運動に障害があるものについてはまず,これら斜筋異常の矯正手術を行い,術後もDVDがみられる場合に治療を考慮する.ただし,下斜筋過動については後述するように,DVDの手術自体に下斜筋過動の矯正が含まれるため術式の選択に関係する.斜筋異常のない上下斜視についても偏位角が10Δ以上ある場合は上斜視眼に対する上直筋後転を先行し,上下偏位角が10Δ以下の例についてはDVDの治療を優先する.この際,下斜視眼の上直筋後転量を減量するか否かは治療者により方針が分かれるが,筆者は原則,両眼とも最大量の後転としている.b.顕性斜視を伴わないDVDの治療両眼視機能が良好な例,上方偏位が軽度で整容の希望がない場合は経過観察する.しかし,DVD症例の多くが顕性斜視を伴わずとも眼位の不安定性や両眼視機能の不良を呈し,DVD自体の治療適応である.図1に自験例の治療経過を示す.術後,上転運動は軽減,同時に下斜筋過動の消失による共同性眼球運動の回復と水平眼位の改善をみた.2.DVDの手術治療a.術式の選択筆者はDVDの手術に上転軽減の最大効果を期待して(52)図1顕性斜視を伴わないDVDの治療経過4歳4カ月,女児主訴:頻回に片眼が上転視力:VD=1.0,VS=1.0調節麻痺下屈折値:R)+0.75D,L)+0.5D眼球運動:DVD(+),両下斜筋過動(+)Bagolini線条レンズ試験:右眼の抑制(+)4歳11カ月両下斜筋前方移動術施行術後,下斜筋過動は消失Bagolini線条レンズ試験:両眼単一視(+)眼位経過(交代プリズムカバーテスト:単位Δ)術前上下偏位水平偏位近見遠見近見遠見右眼固視L/R7L/R16XP?6XP/T6左眼固視R/L16R/L14XP?8XP/T12術後上下偏位水平偏位近見遠見近見遠見右眼固視L/R8L/R4XP?2ortho.左眼固視R/L6R/L8XP?4EP/T2———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???両眼上直筋の大量後転術を第一選択術式としている.上下斜視における上転眼の後転量が4~5mmであるのに対して,大量後転術では上斜筋付着部と干渉しない範囲で8~10mmの後転とする.上,下直筋の大量後転は眼瞼後退を惹起する危険があるため一般に禁忌とされるが,DVDは例外で術後に眼瞼後退をきたす心配はない.下斜筋過動を伴う場合は眼球共同運動の改善を重視する考えから下斜筋前方移動術を選択する.同手術は回旋点より後方にある下斜筋の付着部を下直筋の付着部耳側に移動させることで同筋の外回旋作用を温存しながら,上転作用を下転作用に変換させる効果がある1).いずれの手術を先行して施行した場合も術後に依然,上転が高度(上方偏位≧10Δ)かつ高頻度にみられる例については,一定期間の経過観察を経てそれぞれ残る術式を追加する方針である.b.治療効果図2に顕性斜視矯正後に両上直筋大量後転術を施行した30例の,図3に両下斜筋前方移動術を施行した9例のそれぞれ手術前後における上方偏位量の経過を示す.両上直筋大量後転術は術後,上方への偏位量を有意に減(53)図2両上直筋大量後転施行30例(男児11例,女児19例,手術時年齢2~15歳:乳児内斜視16例,晩発性内斜視6例,乳児外斜視2例,間欠性外斜視6例)の上方偏位量経過右眼と左眼の偏位量平均を示す.白丸は平均値を示す.図3,図4も同様.3025201510501M術前12M1M術前12M遠見眼位近見眼位p=0.0002p=0.000063術前9.0±5.0術後4.7±4.8眼位改善度51%術前9.2±4.3術後5.1±4.6眼位改善度37%302520151050ΔΔΔΔ()Δ()Δ図3両下斜筋前方移動術施行9例(男児4例,女児5例,手術時年齢3~10歳:乳児内斜視4例,晩発性内斜視4例,間欠性外斜視1例)の上方偏位量経過16141210864201M術前12M1M術前12M遠見眼位近見眼位p=0.009術前7.1±4.6術後3.8±4.5眼位改善度63%術前5.6±2.2術後3.7±2.5有意差なし1614121086420ΔΔ()ΔΔΔ()Δ———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006少させ,その改善度は近見眼位で51%,遠見眼位で37%であった.一方,両下斜筋前方移動術は近見眼位で平均63%の上方偏位の改善があったが,症例により手術効果にばらつきがみられ,遠見眼位では術前後で上方偏位の程度に有意差はなかった.DVDの矯正効果は上直筋大量後転術がやや優性という結果であったが,両手術とも上方偏位量が術後10Δ以内に収まる例が多く,上転の軽減効果を認めて良い結果といえる.両手術を施行した6例については上方への偏位量が有意に減少し,その効果は近見眼位で77%,遠見眼位で71%であった(図4).なお,上方偏位の改善と手術年齢,基礎疾患などとの間に関連性はみられなかった.c.水平眼位に与える影響上直筋には上転および内方回旋作用とともに内転作用があるため,大量の後転は上転の軽減のみならず水平眼位にも影響を与える可能性がある2).同様に,下斜筋は外方回旋,上転作用とともに外転作用があるため,下斜筋前方移動術による同筋の作用方向の変換は水平眼位にも影響を与える可能性がある(図5).顕性斜視の術後に残余斜視がみられる例では,たとえ斜視角が小さくまた斜位成分を含む場合であっても,両手術の水平眼位に与える影響は気がかりな点である.この点について,自験例のDVD手術前後における水平眼位の経過を示す(図6).顕性斜視の矯正後に内斜視を呈していたグループのうち,上直筋大量後転術施行群の近見眼位,および,下斜筋前方移動術施行群の遠見眼位でともに外方への偏位により内斜視の軽減がみられた.外斜視を呈していたグループではおおむね水平眼位に変化はなかったが,両上直筋大量後転術を施行した数例で外斜視角の増大がみられた3).以上の結果を得て上直筋大量後転術の適応を補足すると以下のようになる.・乳児内斜視の術後で残余内斜視を呈する場合,両上直筋大量後転術はDVDの軽減とともに水平眼位の改善も期待できる.・間欠性外斜視などの手術後で外斜視が残存する例に対しては両上直筋大量後転術を控える.あるいは,術後の斜視角増大については先行して行われた水平筋手術の矯正不足と解釈し,斜視角に応じて追加手術するか膜プリズム装用などで経過をみるかの選択(54)25201510501回目術前最終1回目術前最終遠見眼位近見眼位p=0.02p=0.01術前10.5±6.2術後3.5±3.8眼位改善度75%術前11.4±6.6術後3.2±1.8眼位改善度71%2520151050ΔΔ()ΔΔΔ()Δ図4両上直筋大量後転術+両下斜筋前方移動術を施行した6例(うち5例が両上直筋大量後転術を先行.男児1例,女児5例,1回目手術時年齢2~8歳,2回目手術時年齢4~10歳:全例乳児内斜視)の上方偏位量経過上直筋大量後転術→上直筋の内転作用の減弱→外方偏位可能性内斜視:眼位改善外斜視:眼位悪化下斜筋前方移動術→下斜筋の外転作用の減弱→内方偏位可能性内斜視:眼位悪化外斜視:眼位改善図5各手術の水平眼位に与える影響———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???(55)a:術前内斜視のグループ:SR-R群(12例)で手術後,近見眼位において外方への偏位が,IO-AT群(8例)では遠見眼位において外方への偏位が認められた.SR-R群151050-5-101M1.9?術前6.3?最終1.9?遠見眼位近見眼位(p=0.002)平均:151050-5-101M1.7?術前4.4?最終0.1?IO-AT群151050-5-101M2.1?術前6.2?最終1.5?(p=0.03)平均:151050-5-101M1.8?術前6.2?1.5?最終()Δ()Δ()Δ()Δ図6DVD43例(うち乳児内斜視の術後29例)における両上直筋大量後転術(SR-R群)および両下斜筋前方移動術(IO-AT群)施行前後の水平眼位経過SR-R群1050-5-10-15-20-25-301M-2.7?術前-3.2?最終-6.4?遠見眼位近見眼位平均:1050-5-10-15-20-25-301M-7.9?術前-7.9?最終-10.5?IO-AT群1050-5-10-15-20-25-301M-3.1?術前-5.6?最終-7.3?平均:1050-5-10-15-20-25-301M-8.2?術前-10.5?最終-11.5?()Δ()Δ()Δ()Δb:術前外斜視のグループ:SR-R群(14例),IO-AT群(7例)ともに水平眼位の有意な変化は認めなかった.———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006になる.一方,下斜筋前方移動術の水平眼位への影響は考慮不要と判断してよい4).上記の検討結果は十分参考になると考えるが,対象症例の条件,たとえば,先行する顕性斜視の術式によっては違った結果になることも考えられる(上記データでは乳児内斜視の全例に両内直筋後転術を,外斜視では両外直筋後転術または片眼の前後転術を施行している).重要なのは,DVDの手術時点で十分に顕性斜視の治療がなされていることであり,斜位成分を除く残余斜視も手術またはプリズムにより矯正した状態にあることが望ましい.d.非共同性の眼球運動,斜筋異常を伴うDVDの手術戦略下斜筋過動を伴うDVDの術式選択については前述したが,DVDではA,Vパターンの眼位や上斜筋,下斜筋の過動を伴い非共同性の眼球運動を呈する例が多い.これに対して,第1眼位の矯正,共同性眼球運動の回復に主眼を置き,同時にDVDの上転軽減も図る複合的な手術戦略がある.乳児内斜視の術後や上斜筋の解剖学的異常例など,実際に診療機会の多い病型に対する手術対応を示す.(1)V型外斜視を呈し下斜筋過動を伴うDVD・乳児内斜視に対して両内直筋後転術を施行後の外斜視移行例については,内直筋の戻し前転術と同時に両下斜筋前方移動術を行う.・手術既往がない例については,両内直筋の短縮術と同時に両下斜筋前方移動術を行う.(2)A型外斜視を呈し上斜筋過動を伴うDVD・乳児内斜視に対して両内直筋後転術を施行後の外斜視移行例については,内直筋の戻し前転および上方への筋移動術を行い,同時に両上直筋の後転術を行う.・手術既往がなく,術中に上斜筋の付着部異常などが確認される例については,外直筋の後転術と上斜筋の後転(弱化)術を行う.おわりにDVDの発生機序や病態には不明な点が多く,治療についても日常的に両眼開放状態でもみられる顕性DVDのみを手術対象にするのか,大型弱視鏡の検査のみで出現する潜在性のDVDも手術するのか議論の分かれるところである.本稿ではDVDを伴う両眼視機能不良例を診た場合に何ができるかという観点から具体的な治療対応を述べた.自験例の治療成績でも示したように,手術による上方偏位の改善は限定的である.より高い治療効果を狙い,たとえば,下斜筋前方移動術において,外直筋の付着部を超えて過度に前方へ縫着した場合,外転位で高度の上下偏位をきたす危険がある.こうなってはかえって共同性眼球運動を妨げることになり,本末転倒の治療になってしまう.DVD自体の矯正治療に過度な効果を期待するのではなく,第1眼位および眼球共同運動の矯正と併せて,あくまで運動性融像のための条件回復を目指すことが治療の本質といえる.文献1)StagerDR,WeakleyDR,StagerDetal:Anteriortrans-positionoftheinferioroblique.Anatomicassessmentoftheneurovascularbundle.???????????????110:360-362,19922)岩重博康:交代性上斜位の治療.眼臨87:1111-1118,19933)西崎雅也,八木美津子,野村耕治ほか:交代性上斜位手術の水平眼位への影響.眼臨98:328-331,20044)矢ヶ?悌司,佐藤美保,野村秀樹ほか:水平斜視に対する両眼下斜筋前方移動術の影響.眼臨91:196-199,1997(56)

上斜筋麻痺の日常生活評価-評価項目の検討-

2006年6月30日 金曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS背景因子(環境因子と個人因子)との間の相互作用とみなされる(図1).ICFの概念は,「生命・生物」レベルだけでなく,「生活」,「人生」という人が生きる3つのレベル全体を総合的に捉えているといえる.改訂内容の特徴1)は,従来の障害のマイナス面を対象としていた点(機能障害,能力障害,社会的不利)を改め,「心身機能・身体構造」,「活動」,「参加」などの用語に示されるようなプラス面を重視したことである.ICFのおもな目的は,障害分野における「共通言語」を確立すること4)である.視機能障害にかかわる領域は,保健,医療,福祉,教育,行政,企業,一般市民など幅広い.何より患者が社会参加し,生きがいをもった人生を送るために,家族の理解と協力は不可欠である.周囲に理解をされないために負う患者の苦悩は,精神的負担となり二次的な障害をひき起こしかねない.視機能障害は,他者から気付かれないことが多いため,見え方を共有することは非常に困難である.しかし,共感することはじめに障害とは,疾病によってもたらされた「日常生活上の困難,不自由,不利益」をいう1).近年では医療を取り巻く背景が変化し,医療の視点は疾病の治癒にとどまらず長期ケアを含むものへと移り変わってきた.すなわち,疾病や障害を抱えながらもいかによりよく,生きがいをもって生活するかという人生・生活の質(QOL)の向上が重要視されてきている.視機能障害を対象とする視能矯正の目的2)もまた,一人ひとりのニーズに応じた快適な日常生活を過ごせるよう日常視の質(QOVL)を向上させることである.後天性眼球運動障害(AOMD)は,近年の疾病構造の変化に伴い増加傾向にある3).特に,上斜筋麻痺は回旋複視を伴い,下方視で複視が強く現れるため日常生活での不自由さが高い.筆者らは,視能矯正評価のため視機能検査に加え,日常生活評価の質問票を作成し使用している.本稿では,AOMDに対する日常生活評価の考え方と質問票作成における項目分析の方法を述べ,上斜筋麻痺での活用例を紹介する.I国際生活機能分類(ICF)の視能矯正への導入2001年,世界保健機構(WHO)がICFを採択したことは,障害をめぐる大きな動向である.ICFにおける生活機能4)とは「心身機能・身体構造」,「活動」,「参加」の3つの階層のすべてを含む包括用語であり,健康状態と(45)???*MayumiOka:九州保健福祉大学大学院保健科学研究科/河原眼科クリニック〔別刷請求先〕岡真由美:〒701-0111倉敷市上東1246-18特集●もっと知りたい,斜視・弱視あたらしい眼科23(6):743~748,2006上斜筋麻痺の日常生活評価─評価項目の検討─???????????????????????????????????????????????????????????????????:????????????????????????????????????????????????岡真由美*健康状態(変調または病気)心身機能・身体構造参加活動個人因子環境因子図1ICFの構成要素と相互作用(文献4より)———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006は可能である.AOMDの評価においてICFの概念を基本にすることは,障害を構造的に捉え視能矯正に生かすだけでなく,患者本人,家族および医療スタッフの共通理解を得て,訓練目的に向かわせ円滑に社会参加を促すうえで意義深いと考える.II日常生活評価の必要性現在,視覚関連QOL評価としてVFQ-25日本語版5)が開発され,広く用いられている.その報告は多く6,7),加齢黄斑変性,緑内障,白内障による低視力者に対して検討がなされている.一方,AOMDにおいてQOLおよびADL(日常生活活動)に関する報告は少ない8).AOMDは原因がさまざまで,障害筋の種類と程度によって複雑な症状を呈する.特に上斜筋麻痺では,両眼視下で像が水平,垂直,回旋方向にずれて重なって見え(図2),日常生活での不自由さを訴える場合が多い.たとえば読書,階段の昇降,車の運転などのより活動的な日常生活動作・活動に支障をきたす.したがってその病態は,視機能の他覚的評価と日常生活の不自由さで示される自覚的評価を行うことが重要である.評価は視能矯正の一部であり,患者の目標設定,計画,実施,効果判定において活用される.III評価項目の検討筆者らが作成した日常生活評価の質問票(図3)における項目の検討方法を紹介する.検討の手順9,10)(図4)は,①項目候補の収集,②予備データの収集,③項目の決定,④質問票の作成,⑤本調査,⑥計量心理学的検討とした.ここでは,質問票の作成と本調査および計量心理学的検討について述べる.1.質問票の作成と本調査質問票の作成にあたっては,筆者らが過去に報告した日常生活アンケート8)をもとに項目候補を収集し予備調査から項目を決定した.質問票の構成要因は,ICFの概念を基本とし『視覚の感覚・運動機能』9項目,『活動と参加』20項目,『心の健康』5項目,計34項目を仮定した.評定は,4段階1~4点とし,障害の低い場合を高得点(4点×34項目=合計136点),障害の強い場合を低得点(1点×34項目=合計34点)とした.ただし,『活動と参加』については個人差を考慮し,[もともとしない]の非該当項目を加え5段階とした.本調査は,当院を受診し本研究に同意の得られたAOMDに対して行った.対象は男性12例,女性12例の計24例であり,AOMDの内訳は動眼神経麻痺8例,外転神経麻痺7例,滑車神経麻痺5例,その他4例(甲状腺眼症,重症筋無力症,外眼筋炎,高度近視による眼球脱臼各1例)であった.質問票への回答は,自己記入式とした.2.質問票の計量心理学的検討a.項目分析回収した質問票は,回答に偏りのある不適切な項目について検討した.第一に,無回答であった項目(欠損値)の割合が全例の20%以上の場合は,答えにくい項目として削除した.第二に,回答に偏りのある項目について(46)図2上斜筋麻痺の日常視———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???(47)図3日常生活評価の質問票———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006天井効果と床効果を分析し,該当する項目は削除した.天井効果は各項目の平均得点+標準偏差>4である場合,床効果は各項目の平均得点-標準偏差<1の場合を原則とした.これら項目分析により34項目中計12項目を削除した.b.因子分析による構成概念妥当性および項目選択残された22項目について構成概念妥当性の検討のため因子分析11)(主因子法,プロマックス回転)を行った.分析は,因子負荷量の基準を0.4以上とし,基準に満たない項目や複数の因子に基準以上の因子負荷量をもつ項目を削除しながらくり返した.その結果,潜在的に回答が影響を受けている2因子17項目(表1)が抽出された.第1因子は,『活動と参加』および『心の健康』の11項目であり,「値札をよむ」,「ラベルをよむ」,「読書」,「テレビ」,「就業,学業,家事」,「車の運転時の安全確認」,「趣味」,「自分の見え方について不安を感じる」,「見えにくいために気が滅入ったり,情けない気持ちになる」,「見えにくいために,何事にもやる気が起こらない」であった.第2因子は『感覚・運動機能』の6項目であり,「ぼやけたり歪んで見える」,「道の向こう側の人の顔がわかりにくい」,「薄暗い場所で物が見えにくい」,「周りの物に気づかずぶつかる」,「手元の字が読みにくい」,「目が疲れる」であった.信頼性の検討では,選択された項目ごとのクロンバックa係数を求め,すべてに0.80以上が得られた(表1).(48)■用語解説■計量心理学:さまざまな心理学的概念を定量的法則により理解するために,その概念の計量化を目指す学問である.視力,視野測定に用いられる心理物理学は,計量心理学に含まれる.因子分析:多変量解析法の一つで,相互の項目が関連し合っている潜在的な因子構造を求める手法である.因子と項目の関係の強さは,因子負荷量で表される.因子負荷量が基準より高く,各因子に項目群が対応するような相関を想定できるなら,因子は測定しようとしている構成概念に相当すると考えられる.クロンバックのa係数:信頼性を示す係数である.ある因子に関わると思われる項目間でどの程度の相関があるかを推定するために用いる.信頼性を示す目安は,0.8程度である.表1因子分析の結果とa係数項目因子負荷量第1因子第2因子a係数第1因子:活動・参加と心の健康・値札0.9440.87・ラベル0.7560.88・自分の物の見え方に不安を感じる0.7450.89・読書0.7220.88・TV0.6570.89・見えにくいため気が滅入ったり,情けない気持ちになる0.6030.89・就業0.6020.88・見えにくいために物事の判断ができない0.5940.89・見えにくいために,何事もやる気が起こらない0.5890.89・車,自動車等の運転(安全確認)0.5330.90・趣味0.4430.90第2因子:感覚・運動機能・ぼやけたり歪んで見える0.9020.80・道の向こう側の人の顔が分かりにくい0.8810.83・薄暗い場所でも物が見えにくい0.8390.83・周りのものに気づかずぶつかる0.6000.84・手元の字が見えにくい0.5140.84・目が疲れる0.4270.86因子分析の結果,2因子17項目が抽出された.各項目の因子負荷量とa係数を示す.項目候補の収集予備データの収集項目の決定質問票の作成本調査計量心理学的検討図4質問票作成における評価項目の検討手順9,10)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???IV日常生活評価の実際日常生活評価の実際について代表症例で述べる.〔症例〕62歳,男性.現病歴:20歳代より複視があったが放置していた.40歳頃,頭蓋内疾患が気になり他院眼科で画像診断を受けたが正常であった.62歳,複視が悪化したため当院を受診した.既往歴:頭部外傷など,特記すべきことなし.プロフィール:退職後,趣味で畑仕事を楽しんでいる.問題点(図5):#1右上斜筋麻痺(代償不全性),#2外斜視,#3右上斜視,#4右外回旋斜視,#5輻湊不全,#6部分融像,#7頭位異常.視機能所見:各眼の矯正視力は(1.2)であった.診断的むき眼位検査およびHess赤緑試験(図6)では,右上斜筋麻痺の所見が認められた.第一眼位は,交代プリズムカバーテストで近見25Δ外斜位斜視,右12Δ上斜位斜視,大型弱視鏡検査で右5?外回旋斜視が検出された.Bielschowsky頭部傾斜試験は,右への傾斜で右40Δ上斜視と陽性を示した.頭位は,左方への斜頸をとっていた.Bagolini線条鏡による融像域は部分融像であり,右方視30?から左方視5?,上方視30?から下方視5?にかけて認められた.輻湊近点は15cmであった.日常生活評価:初診時の評価を示す.『感覚・運動機能』における得点は,36点中24点(67%)であった.「二重に見える」,「まぶしい」,「眼が疲れる」が主訴であった.『活動と参加』における得点は,80点中59点(73%)であった.このうち,料理は非該当項目であった.病状が陳旧化しているため,どの項目も[不自由なくできる]または[不自由だが何とかできる]と回答し,活動に制限はなかった.しかし,自動車の幅寄せがむずかしい,買物で商品を選ぶときに視線が合いにくい,読書中に字がウロウロして集中できないなどの動作に不自由があった.『心の健康』は,20点中11点(55%)であった.「自分のものの見え方に不安を感じる」,「見えにくいために,気が滅入ったり情けない気持ちになる」の項目は,大いにあてはまるという回答であった.約20年前の頭部画像診断の結果は正常であったものの,なお複視が頭蓋内疾患による重度の症状ではないかという不安があった.視能矯正:垂直斜視角が10Δ以上であるため,斜視手術および術後融像訓練を中心とした視能訓練計画を患者に呈示した.しかし,質問票の結果から日常生活上の不自由さが低く,積極的な治療の希望はないため経過観察を行うこととした.一方,心理的側面では症状に不安をもっており,患者の主訴を傾聴するとともに複視の原因とその症状についての説明に時間をかけ,不安の軽減に努めた.おわりに上斜筋麻痺の日常生活評価のため,質問票の作成および項目分析の方法を述べた.視能矯正は,視機能の改善と維持によりQOVLを向上,維持させ,社会参加を促すことを目的とする.QOVLは一人ひとりの生活スタイルによって異なり,そのため視能矯正への期待や満足度も異なる.さまざまな要素を含む日常視の質を計量心(49)30303055565#1右上斜筋麻痺Hessチャート(図6)#2外斜視近見20X(T)′R/L12H(T)′#3右上斜視遠見16XTR/L18HT#4右外回旋斜視SA-3?R/L10?R)EXT5?SPP(±)SMP(±)SFP(±)OA-3?R/L10?Fusion(±)R)supp.Stereopsis(+)Bielschowsky頭部傾斜試験右10XTR/L40HT左14XTR/L6HT#5輻湊不全輻湊近点15cm#6部分融像融像域(?)#7頭位異常左方へ傾斜ΔΔΔΔΔΔΔΔ図5症例の問題点と視機能所見左眼右眼右眼緑レンズ左眼緑レンズ鼻側鼻側図6症例のHessチャート———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006理学的に評価することは,ニーズに応じた視能矯正の実践とそのエンドポイントとして重要である.本質問票が,AOMDまたは複視を伴う斜視のQOLまたはADL評価を行う際の一助になれば幸いである.謝辞:稿を終えるにあたりご校閲いただきました,九州保健福祉大学大学院教授内田冴子先生,同教授深井小久子先生,河原眼科クリニック院長河原正明先生に深謝申し上げます.文献1)大川弥生:ICF(国際生活機能分類)とその実践的意義.発達障害学の進歩14:1-8,20022)深井小久子:後天性眼球運動障害の視能訓練.日視会誌26:49-61,19913)橋本直子,深井小久子,新井紀子ほか:後天性眼球運動障害の視能訓練1.統計的観察.日視会誌26:221-226,19984)国際生活機能分類:国際障害分類改定版(世界保健機関/障害者福祉研究会編),中央法規出版,20025)鈴鴨よしみ:VFQ-25による視機能関連QOLの評価.ロービジョン5:7,20046)湯沢美都子,鈴鴨よしみ,李才源ほか:加齢黄斑変性のqualityoflife評価.日眼会誌108:368-374,20047)富所敦男:視覚関連のQOLの測定.眼科手術16:477-480,20038)岡真由美:後天性眼球運動障害における視覚の質の検討─片眼性上斜筋麻痺例の感覚・運動機能と日常生活の不自由度について─.日視会誌33:49-57,20049)菅原健介:心理尺度の作成過程,心理尺度ファイル(堀洋道ほか編),p637-652,垣内出版,199410)鈴鴨よしみ,熊野宏明:計量心理学.臨床のためのQOL評価ハンドブック(池上直己ほか編),p8-13,医学書院,2001(50)コンタクトレンズフィッティングテクニック【著】小玉裕司(小玉眼科医院院長)CLの処方に必要な角膜・涙液・屈折矯正・その他の知識/CLの選択/ハードCLの処方/フルオレセインパターンの判定方法と注意点/レンズデザインと角膜形状/ベベル・エッジのチェック/SCLの処方・種類・選択/CLと定期検査・眼障害/HCLの修正/修正によるHCLの苦情処理-くもり・充血・異物感・視力/SCLの苦情処理-くもり・かすみ・視力低下・異物感・眼痛・流涙・充血/乱視に対するCLの処方/ドライアイ/ラウンドコルネア/カラーCL/治療用SCL/無水晶体眼・乳幼児と小児に対するCLの処方/光彩付きCL・義眼CLの処方/ハード・ソフトタイプバイフォーカルCLの処方/HCLのカスタムメイドの処方/CLと点眼薬/CLとケア用品/●ワンポイントB5判総152頁カラー写真多数収載定価8,400円(本体8,000円+税400円)メディカル葵出版〒113─0033東京都文京区本郷2─39─5片岡ビル5F振替00100─5─69315電話(03)3811─0544■内容目次■この本があれば,明日からのコンタクトレンズ診療は安心して出来る!株式会社

甲状腺眼症治療のEBM

2006年6月30日 金曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLScalactivityscore(表1)6)が治療適応決定の参考になる.しかし視神経障害と結膜充血を同じ1点として扱ってよいものか疑問もある.また自然緩解も非常に多く,著明に重症化するのは15%程度であり(図4)1,7),このようなものが入院治療の対象となるI進行因子喫煙8)が悪化因子であることがランダム化比較試験で示されている.Basedow病ではヨード分が含まれる海藻摂取を控えるように勧める一般書が多いが,ヨード摂取によるBasedow病の悪化は低ヨード地域での報告であり,海洋国であるわが国で根拠はない.IIステロイド治療1.効果抗浮腫作用をもつとともに免疫担当リンパ球に働いてサイトカイン,免疫グロブリン,炎症メディエーターの産生を抑える.軽症例に対するステロイド内服投与は,短期的には消炎効果および抗浮腫作用による自覚症状の軽減があるとしても,無治療群とのランダム化比較試験がなく現在のところ長期的効果に自然治癒との有意差は明らかにされていない.一方,内服投与よりもパルス療法が有効であることはランダム化比較試験で証明され9,10)広く用いられている.なお,現在のところ施設によってステロイドパルス療法を行うかベタメタゾン(リンデロはじめに甲状腺眼症は,重症化すると複視による業務障害,顔貌の変化による引きこもりなど患者のQOL(qualityoflife)が著しく悪化する.しかし急性期の治療法はいまだに見解の統一をみていない(図1).近年は科学的なランダム化比較試験randomizedcontrolledtrialスタイルの論文がいくつか発表されており,本稿で治療に関する現時点でのEBM(evidence-basedmedicine)を極力まとめてみたい.甲状腺眼症のEBMの確立のむずかしさの一つは疾患の多様性(図2)1~3)で,若年者に眼球突出が多く高齢者では眼球運動制限が前面に出ることが多いが,症例によって病像はきわめて変化に富んでいる.報告されているランダム化比較試験でもこれらの症状を正確にマッチングさせることなく2群に分けているのが実情である.多様な症状のなかで,特に重篤である視神経症もまれではなく1,3),眼圧上昇や角膜障害などの視機能にかかわる頻度も高く3),眼科医が主導的役割を担う疾患であると考えられる.治療する際に必要条件はこれら症状が発症して間もない急性期にあることで,固定期に至ると治療は有意な効果が期待できない(図3).急性期にあることを知るためには,最近の顔写真を持参して頂くのが判定に便利であり,客観的にはMRI(磁気共鳴画像)のT2緩和時間4,5)が指標となる.重症度の評価はかつてはNOSPECS分類が用いられたが,最近は活動性に力点を置いたclini-(37)???*MineoTakagi&AtsushiMiki:新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野〔別刷請求先〕高木峰夫:〒951-8510新潟市旭町通一番町754新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野特集●もっと知りたい,斜視・弱視あたらしい眼科23(6):735~742,2006甲状腺眼症治療のEBM????????-??????????????????????????????????????????高木峰夫*三木淳司*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006(38)球後の炎症に対して軽症眼瞼腫脹,涙腺腫脹ときに軽度の眼球突出に対して重症中等度1g1g1g1g1g1g施設Aリンデロン?(点滴→内服)リンデロン?(点滴→内服)……反応をみて漸減反応をみて2mgずつ漸減8mg反応をみて漸減12mg必要に応じて放射線15Gy反応をみて漸減反応をみて漸減反応をみて2mgずつ漸減8mg反応をみて漸減12mg反応をみて漸減放射線15Gy(1.5Gy×10日)リンデロン?球後注射片眼5~7回リンデロン?球後注射片眼5~7回ステロイドパルス3クールステロイドパルス3クール図15施設の治療プロトコール急性期の治療法は現時点でも施設によってさまざまであるが,各施設で長年真摯に取り組んで編み出した方法であり,いずれも現時点でのevidenceに反しておらず,それぞれの考え方に一理ある.CAS:clinicalactivityscore6).施設B施設C施設D施設Eリンデロン?(点滴→内服)……………………8mg12mgMRIで眼筋炎症残存(T2high)のとき放射線20Gy(2Gy×10日)放射線20Gy(2Gy×10日)離脱困難には放射線併用パルス間にステロイド内服しない施設と30mg程度の内服を行う施設がある必要あれば2クール目を行う放射線を同時に開始適応は施設C同様CAS3:PLS30mg内服3カ月で減量中止CAS4以上・最近の眼球運動制限・視力の悪化:ステロイドパルス療法→内服3カ月で減量中止8mg4mg4mg2mg2mg1mg1mg0.5mg0.5mg12mg1g1g1g1g1g1gステロイドパルス3クールステロイドパルス3クール1g1g1g1g1g1gステロイドパルス3クールステロイドパルス3クール1g1gステロイドパルス1クールステロイドパルス1クール漸減→漸減→約1カ月で漸減→———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???ン?)大量漸減投与を行うか見解の相違があるが,その比較検討はまだなされていない.ベタメタゾンは抗炎症効果が強く血中半減期も長いので経過の長い炎症を抑えるのには向いているが,満月様顔貌が出やすい欠点もある.ステロイド球後注射に関しては,ステロイド大量漸減投与と比較して効果は劣るので11),行う場合は全身投与との併用が基本であり,単独ではステロイド全身投与禁忌例に放射線照射と併用で用いる3).リンデロン?1アンプル(=4mg/1m?)注射がよく用いられてきたが,最近では薬効の長いトリアムシノロン使用の報告も散見する.2.副作用と禁忌ステロイドの副作用と禁忌は他疾患と同様であり,自(39)図2甲状腺眼症の臨床兆候Prummel1)やBartley2)の多数例のデータとともに,当院での最近3年間の入院治療例の臨床兆候3)を示す.かなり似た頻度分布を示すため,PrummelやBartleyの施設は重症例が比較的多いものと思われる.軟部組障織害眼球突出眼球運動制限視神経症角膜障害高眼圧100806040200(%):Prummel(2003,n=152):Bartley(1996,n=120):高木(2006,n=50)重症度活動性治療治療重症度活動性重症度活動性ABC図3治療時期と治療効果A:軽症例では治療を行わなくてもある程度自然治癒する.B:重症例では活動性が高く眼症が重症化する前に治療を行うと効果的である.C:治療が遅れて活動性が低くなってから開始すると治療効果は少なく種々の症状が固定化してしまう.:無治療の場合,:治療を行った場合.著明改善軽度改善不変悪化403020100(%)図4甲状腺眼症の自然経過Perrosら7)が,初診時以降の自然経過を調べたもので,論文のデータからグラフ化した.自然回復がかなりあり,強力な治療を要するのは一部の症例であることがわかる.表1Clinicalactivityscore(CAS)痛み球後痛01眼球運動痛01発赤眼瞼充血01結膜充血01浮腫結膜浮腫01涙丘浮腫01眼瞼浮腫01眼球突出01(>?????????????)機能異常視力低下01(>?段階?????????)眼球運動制限01(>?度?????????)Mouritsら6)の提案した治療の適応を判断するための活動性の評価スコア.10症状の有無により10点満点で点数化.施設によって3点以上でステロイド内服,4点以上でステロイドパルス療法,など治療法の選択に利用されている.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006然回復傾向のある症例では安易な投与はすべきではない.当科ではステロイド大量投与の3分の1に血糖上昇を認め,それらは40歳以上の症例であった3).最近特に問題視されているのはステロイド性骨粗鬆症で,5mg以上を3カ月以上投与した場合には必発とされ,予防薬併用が推奨される(図5:ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン12)).ほかに甲状腺眼症特有の精神医学的背景もあり,ステロイド投与時に考慮しなければならない.3.代替療法これにもいくつかランダム化比較試験があり,ソマトスタチン誘導体の臨床応用が期待されたが,有効性は証明されなかった13).ほとんど用いられないが,免疫グロブリン療法14)はステロイド投与と差がなく,免疫抑制剤は効果が劣る15)ことが過去に報告されている(表2).III放射線治療1.方法かつてはコバルトガンマ線照射を行ったが,現在ではX線照射を左右対向2門から行う.近年照射装置や治療計画装置の性能が向上し,周囲の正常組織への照射を最大限に抑えた低侵襲的治療が可能となった.照射方法のランダム化比較試験16,17)もあるが,ドイツ・ワーキング・グループの良性疾患の放射線治療ガイドライン18)では20Gy/10回/2~3週を推奨している.2.効果放射線は免疫担当リンパ球を破壊するだけでなく眼窩線維芽細胞にも奏効してglycosaminoglycan産生を抑制するともいわれる9).これまでの多くの対照群のない報告で有効率は総じて過半数であり,眼瞼浮腫,視神経症に有効,眼球運動制限にやや有効,眼球突出にはほぼ無効とされていた19).近年はランダム化比較試験がいくつか提出され論議を呼んだ.Mourits(2000)20)は改善率は照射群で60%に対して偽照射群は31%(=自然回復)で,眼球運動制限に効果があるが眼球突出には無効とした.Kahaly(2000)17)の放射線照射法を比較した論文も放射線照射が効果があることを示している.一方で物議をかもしたのは,Gorman(2001)21)が患者の一側の眼窩に放射線照射を行い対側には偽照射を行い比較したところ,何ら有意差を認めないと報告したことである.このデータは放射線無効の根拠として引用されることが多いが,急性期を過ぎた症例が数多く含まれ45%がステロイド治療後であるなど問題があり,多くの反論が投稿された.このデータはむしろ「固定期に至ると放射線照射は奏効しない」と解釈するほうが妥当なようである.その後のPrummel(2004)22)のデータも改善率は照射群で52%に対して偽照射群は27%と有意な有効性を示している.総じてランダム化比較試験から放射線照射の有効性が確認されたと考えて良いだろう23).(40)図5ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン12)経口ステロイドを3カ月以上使用中あるいは使用予定既存脆弱性骨折2)あるいは治療中新規骨折なしあり一般的指導と経過観察6)一般的指導と治療骨密度測定3)%YAM≧80骨密度測定3)%YAM<80プレドニゾロン換算4)<5mg/日プレドニゾロン換算4)≧5mg/日5)YAM:若年成人平均値(20~44歳)注1)本ガイドラインは18歳以上を対象とする.注2)脆弱性骨折の定義は原発性骨粗鬆症と同一である.注3)骨密度測定は原発性骨粗鬆症(2000年度改訂版)に準ずる.注4)1日平均投与量注5)1日10mg以上の使用例では骨密度値が高くても骨折の危険性がある(骨折閾値%YAM90).注6)高齢者では骨折の危険性が高くなる.?一般的指導生活指導,栄養指導,運動療法は原発性骨粗鬆症のものに準ずる.?経過観察骨密度測定と胸腰椎X線撮影を定期的(6カ月~1年毎)に行う.?薬物治療1.ビスフォスフォネート製剤を第1選択薬とする.2.活性型ビタミンD3,ビタミンK2は第2選択薬とする.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???3.安全性放射線による二次性癌の発症率は理論的に1~1.2%とする論文24)が出されたがこの計算には強い反論が出され25),また現在のところ長期観察でも二次性癌の報告はない26~29).しかし発癌は被曝後5~30年もの潜伏期を経るため可能性をまったく否定することはできず,若年者の照射を避け35歳以上を適応とする意見がある28).若年者は脂肪組織型による眼球突出が多く,放射線があまり効果的でないことも考えると一考に値する.4.禁忌糖尿病網膜症30),高血圧性網膜症30,31),抗甲状腺剤によるANCA陽性血管炎32)などの網膜血管病変を有する症例で網膜症の悪化,放射線網膜症の報告があり,放射線照射の禁忌である.(41)表2これまでの甲状腺眼症治療のランダム化比較試験報告者治療法有効率有意差A群B群A群B群ステロイド・放射線照射Bartalena(1983)34)経口ステロイド??~?????から?????週で漸減コバルトガンマ線照射?????経口ステロイド??~?????から?????週で漸減72%33%p<0.05Marcocci(1987)11)コバルトガンマ線照射?????経口ステロイド??~?????から?????週で漸減コバルトガンマ線照射?????ステロイド球後注射????????~??日×?カ月60%30%p<0.05Marcocci(1991)35)X線照射?????ステロイド????????週間から漸減X線照射?????69%38%p=0.043Prummel(1993)33)経口ステロイド???????週間~X線照射?????50%47%NSMourits(2000)20)X線照射?????偽照射60%31%p=0.04Marcocci(2001)9)X線照射?????ステロイド点滴静注??????????クール→???????????クール~X線照射?????経口ステロイド????????週間~88%63%p<0.02Gormann(2001)21)片側にX線照射?????対側に偽照射?????NSOhtsuka(2003)36)ステロイドパルス3クール後にX線照射24Gy追加ステロイドパルス3クールNSPrummel(2004)22)X線照射?????偽照射52%27%p=0.02Kahaly(2005)10)ステロイド点滴静注??????→??????×?週経口ステロイド?????から?????週で漸減77%51%p<0.01ステロイドの代替法Prummel(1989)15)経口ステロイド???????週間~シクロスポリン????????~66%22%p=0.02Kahaly(1996)14)経口ステロイド????????週間~免疫グロブリン??????~63%62%NSDickinson(2004)13)ソマトスタチン誘導体(octreotide)??????筋注??週×??週①偽薬投与??週→②ソマトスタチン誘導体??????筋注??週×??週NSp:有意差水準,NS:有意差なし.———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006IVステロイドと放射線照射の併用Prummel(1993)はプレドニゾロン内服3カ月間投与(60mg2週間~)+放射線偽照射群と偽薬内服+放射線照射20Gy群とを比較し,ステロイド内服と放射線照射の効果はほぼ同等であったとしている33).この二者,すなわち放射線照射とステロイドはそれぞれ単独で用いるよりも同時併用したほうが効果が高い34,35).放射線照射側からは単独で行うと眼窩の浮腫が著明となるためステロイドを併用したほうが好ましく,ステロイドの側からは投与量が少なければ放射線照射併用の効果は証明されているが,ステロイドパルス療法ほどの大量の投与を行う場合放射線をどう用いるのかが論点となる.Ohtsukaらによれば,ステロイドパルス療法3クールの後療法としての放射線照射に関して,ランダムに放射線を追加した群と行わない群との間で比較すると1年程度の経過では有意差はない36).したがって一律に放射線照射による後療法を行う必要はなく,ステロイドパルス療法で炎症が抑え切れずMRIで眼筋のT2値が依然高値を示す,あるいは離脱困難や再燃傾向を示す症例を選択して放射線照射追加を行うのが良い37).なお,この論点が「放射線無効」と誤解されている場合があり,注意を要する.VEBMのむずかしさ図1に示したように各施設で急性期甲状腺眼症の治療方法は異なるが,多施設トライアルを行い治療法を統一するには多くの困難がある.一番大きな点は自己免疫疾患として自然緩解が高い頻度でみられることである7).これまでおびただしい治療成績の論文があるが,対照群のないstudyは自然治癒の要素が多々混入しておりEBMとして扱うことはできない.また図2のように種々の器官が異なる程度に障害され病像が一様でなく,軟部組織は治療感受性が高く眼瞼浮腫は良く改善する一方で,脂肪組織は感受性が低く眼球突出の改善は一般に悪い,など評価する対象によって治療成績は異なってくる.正確な評価には,きめ細かく臨床兆候と重症度の完全なマッチングを行うか,万人が認める効果の評価パラメータが必要となる.しかしこれまで長年蓄積されたデータはステロイドと同様に放射線照射も有効な方法であることを証明していると考えて良い.また個々の例の実際では,治療適応の判断と開始時期のほうが方法論よりも大きなファクター(図3)となる.問題は2つの方法をどのように使い分けるかという点である.ステロイド治療はくり返し行えるが副作用が多いのに対して,放射線照射はリスクが少ないが線量の蓄積効果のため一生に1回しか行えない.そのため放射線照射を,①副作用が少ないことから最初の段階で軽症例に対して用いる,②感受性ある重症例を選択してステロイドと併用して集中的に1回の治療で最大の効果を上げる,③ステロイド主体で治療を行い,離脱困難・再燃例・ステロイド投与禁忌例に対して放射線を補助的に用いる,と考え方の相違があり,これが各施設独自の責任で行われているというのが実態である.科学的なstudyに照らし合わせて,各施設の方法はいずれもevidenceに反してはいないのである.最近,ヨーロッパで多施設トライアルTheEuropeanGrouponGraves?Orbitopa-thy(EUGOGO)が立ち上がっており38),今後その結果に注目していきたい.なお,欧米人に比べて日本人では眼球突出型よりも眼筋型の比率が高いとされ,欧米のデータをそのまま日本人に適応できるかは不明である.VI眼球運動制限の治療固定期に至り正面視で眼位ずれが明らかに残存した症例には,複視除去のため眼筋手術を行う.罹患筋の後転を主体とするが,通常の後転術よりも眼位への効果が大きく,河野ら39)の矯正効果(?)=2.7×下直筋後転量(mm)など40)のデータがある.急性期に治療を行って眼球運動制限が改善しても複視が残存するならQOLに意味をなさない22)という意見もあるが,最も頻度の高い下直筋肥厚による上転制限では,5mm以上下直筋を後転すると眼瞼下垂を合併する可能性がある.急性期において十分な治療を行い斜視の手術を不要にする,あるいは手術量を軽減できる意味は大きいだろう.VII眼瞼後退の治療最も頻度の高い症状である眼瞼後退に対しては,初期にはa-blocker点眼が有効で,かつて硫酸グアネチジン(42)———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???(イスメリン?)が用いられていたが現在市販されておらず,眼圧下降剤で代用してときに有効なことがある.最近よく用いる方法がボツリヌスA型毒素の上眼瞼注入41)で,1~2カ月の効果ではあるが満足感が得られる症例があるので,上眼瞼の線維化が完成する前にまず試みてよい方法と思われる.しかし顕著な眼瞼後退に対しては手術加療が必要で,経皮的眼瞼挙筋後転術,上眼瞼挙筋腱膜?離術,経結膜的眼瞼挙筋延長術,経結膜的M?ller筋切断術,下直筋後転術などいくつかの術式が提案されている40,42~44).ここでも適切な急性期治療により観血的治療を避けるか軽減できることが重要なのは同様である.おわりに甲状腺眼症は,多種多様の病態,症状を有しており,これらを完全にマッチさせたランダム化比較試験の結果はまだ十分に集積されていない.しかしながら,急性期でのステロイド剤全身投与および放射線治療は有効であることが示されている.謝辞:本稿をご校閲のうえご意見下さいましたオリンピア眼科病院・前田利根先生,手稲渓仁会病院眼窩・神経眼科センター・鈴木康夫先生,新潟大学放射線科・笹井啓資教授,眼科・阿部春樹教授に厚く御礼申しあげます.文献1)BartleyGB,FatourechiV,KadrmasEFetal:Long-termfollow-upofGravesophthalmopathyinanincidencecohort.?????????????103:958-962,19962)PrummelMF,BakkerA,WiersingaWMetal:Multi-cen-terstudyonthecharacteristicsandtreatmentstrategiesofpatientswithGraves?orbitopathy:the?rstEuropeanGrouponGraves?Orbitopathyexperience.?????????????????148:491-495,20033)高木峰夫,松田英伸,植木智志ほか:急性期甲状腺眼症の治療.神経眼科(印刷中)4)OhnishiT,NoguchiS,MurakamiNetal:ExtraocularmusclesinGraves?ophthalmopathy:usefulnessofT2relaxationtimemeasurements.?????????190:857-862,19945)UtechCI,KhatibniaU,WinterCetal:MRT2relaxationtimefortheassessmentofretrobulbarin?ammationinGraves?ophthalmopathy.???????5:185-193,19956)MouritsMP,KoornneefL,WiersingaWMetal:ClinicalcriteriafortheassessmentofdiseaseactivityinGraves?ophthalmopathy:anovelapproach.???????????????73:639-644,19897)PerrosP,CrimbieAL,Kendall-TaylorP:Naturalhistoryofthyroid-associatedophthalmopathy.????????????????42:45-50,19958)BartalenaL,NarcocciC,TandaNLetal:Cigarettesmok-ingandtreatmentoutcomesinGravesophthalmopathy.??????????????129:632-635,19989)MarcocciC,BartalenaL,TandaMLetal:Comparisonofthee?ectivenessandtolerabilityofintravenousororalglucocorticoidsassociatedwithorbitalradiotherapyintheman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Duane 症候群の最近の知見

2006年6月30日 金曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSI画像診断的側面からの検討Duane症候群の臨床的な特徴の一つである外転制限は外転神経の欠損によるという説もあり,古くから病理学的に検討されてきた3).1998年にCameronら4)は磁気共鳴画像(MRI)のT1強調画像(slice厚は0.8mm)を用い外転神経の欠損を画像的に証明した.筆者らもSPGR(spoiledGRASS)-MRI法を用いて外転制限のあるDuane症候群で外転神経の欠損像を描出した(図1)5).しかし当時のslice厚は1mmだったことや解像度に問題もあったため,その信頼性は十分とはいえなかった.その後slice厚を0.6mmとしたFiesta法とcine-modeを用い,Duane症候群の外転神経欠損像をより信頼性をもって証明し,さらに多数例のDuane症候群を対象にMRI画像を用いて外転神経の欠損像の有無を検討したところ,4例に患側の欠損像を得た.その4例中3例はtypeⅠであったこと,外転神経の欠損と正面眼位との関連については統計学的な関連がなかったことなどの結果を得た6).OzkurtらもMRIにて11眼中6眼に外転神経の欠損像を得たと報告7)している.はじめにvonNoorden1)によると,Duane症候群にみられる異常眼球運動(著明な外転制限または外転欠損,眼球陥凹,内転時の瞼裂狭小)は1879年にHeuckが,1887年にStillingが,1899年にTurkがそれぞれ報告し,1905年にAlexanderDuaneが報告している.アメリカではこの症候群をDuane症候群とよんでいるが,ヨーロッパではStilling-Turk-Duane症候群としてよばれている.わが国では眼球牽引症候群やDuane症候群とよばれるのが一般的である.Duaneが本症候群を報告して,約100年経つ.しかしながらDuane症候群にはまだ解明されていない部分が数多く存在する.先天的な神経支配の異常といわれているが,それは末?なのか中枢なのか?それとも両方の障害なのか?外転神経の有無が混在しているがそれによる違いはあるのか?Huberによる病型分類〔近年Helvestonはその分類に加えtype4(表1)を示した2)〕は妥当なのか?全身疾患との関連は?遺伝的因子は?up-downshootはなぜ発生するのか?up-downshootを含めたDuane症候群の治療は?…など枚挙に暇がない.しかしながら,近年画像診断や遺伝子医学が発達してきたため,Duane症候群に関する新しい知見も散見するようになった.筆者らもDuane症候群に関して,画像診断に基づいた知見や興味深い術中所見を得ている.Duane症候群に関する近年の知見を筆者らのデータも含め報告する.(31)???*MasahiroOba:札幌医科大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕大庭正裕:〒060-8543札幌市中央区南1条西16丁目札幌医科大学医学部眼科学教室特集●もっと知りたい,斜視・弱視あたらしい眼科23(6):729~733,2006Duane症候群の最近の知見??????????????????????????????????大庭正裕*表1Helvestonのtype4(Simultaneousabduction-EMHIV)1.Large-angleexotropia2.Faceturntouninvolvedside3.Noadduction4.Simultaneousabductionlookingtowarduninvolvedside5.Usuallysuppresses———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006以上より,これらの画像所見は古くから言われているようにDuane症候群のなかには外転神経の欠損例が確実に混在していることを示唆した.最近は超高磁場拡散強調MRIにより,神経線維の軸索の追跡描出が可能8)となったことから,今後Duane症候群における神経欠損の有無に関してさらに,より明確な画像所見を得られる可能性がある.画像診断の飛躍は目覚しいものがあり,外転神経の全走行の把握,すなわち外転神経の外直筋への到達や別の外眼筋への迷入の有無などの描出が数年後には可能になるかもしれない.これらの画像診断的検索により,解剖学的異常の有無によるDuane症候群の病型の検討がなされる可能性もある.II遺伝的側面からの検討家族性のDuane症候群の報告は近年増加している.Chungらは一家系110人中Duane症候群が25名存在し,両眼性であったことやその他の神経麻痺を伴っていたことを報告9)し,遺伝の関与を指摘している.Duane症候群の代表的な合併症は先天性味涙反射症候群(croc-odiletears)や聴力障害であるが,筆者らはこれらの合併症を伴うDuane症候群を報告10)した.Duane症候群にこれら2つの合併症が生じる疾患としてはサリドマイド胎芽病が有名であるが,筆者らの症例の母親にサリドマイドの内服歴がなかったことから,本症例のDuane症候群は胎生4~6週における外転神経と顔面神経の核が存在する脳幹,橋における異常によると考えた.しかしこれらの合併症を伴ったDuane症候群の家族内発生の報告11)も存在することから,外的環境因子により発生したのではなく,遺伝的因子が胎生期に作用し,Duane症候群が発生した可能性が強い.遺伝子学的にはDuane症候群の大家系の報告12)があり,連鎖分析が行われ,第2染色体の2q31-q32にマップされている.近年,Okihiro症候群13)(上肢の形成異常や眼球運動の制限などを主症状とする疾患)の原因遺伝子にジンクフィンガー蛋白質?????が確認されている14).Okihiro症候群における眼球運動制限は“Duaneanomaly”と記載されていることから,?????遺伝子変異がDuane症候群の発現因子になりうる可能性が示唆されている.しかし一方で,McCannらによる2世代3名のDuaneanomalyを伴うArthorogryposis-Ophthalmoplegia症候群(Okihiro症候群の類似疾患)に対して?????遺伝子を調べたところ異常はなかったとの報告15)やDuane症候群単独では証明できないなどの報告も散見し,現在のところ意見はさまざまである.このように合併症を伴うDuane症候群は遺伝的な背景を検討するうえで注目すべき病型となっている.Duane症候群の遺伝子疾患としての側面は今後も大きな研究課題であろう.IIIUp-downshootに関する検討Duane症候群のup-shoot,down-shoot(図2,3)も古くから知られており,その発生は“bridle”or“leashe?ect”とよばれる,いわゆる<たずな効果>によるものとされている16).すなわち,内転しようとしたときに外直筋が収縮することにより外直筋の筋緊張が高まり,わずかに上方を見るとup-shootし,わずかに下方を見るとdown-shootする.このup-downshootはDuane症候群の25~39%に発生するといわれており,筆者らの経験ではHuberの分類によるどの病型にも生じうること,up-shootとdown-shootが両方生じるとは限らないことなどが示唆されている.また,up-downshootはmechanicaltypeとinnerva-tionaltypeとに分類されるといわれている17).その分(32)Lt..tR図1Duane症候群のSPGR-MRI画像(水平断)右の外転神経は描出(矢印),左の外転神経が描出されてない.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???類を表2に示す.これらup-shootに対する術式には外直筋の後転やY字split法や垂直筋後転術,Faden手術などが有用である(図4,5).筆者らはup-shootを伴うDuane症候群で外直筋,下斜筋,上直筋の関与が乏しい状態でも,内転時にup-shootを生じている症例を経験しており,Duane症候群の異常眼球運動と瞼裂狭小についての新たな推論を報告している18).この2typeを主とするup-downshootに関する分類は,はたして妥当な分類なのかは今後の課題でもある.IV治療に関する検討Duane症候群の治療は,1)正面眼位の矯正,2)眼球運動制限に伴う異常頭位,3)up-downshootの軽減が目的となる19).Duane症候群の場合は通常両眼視を獲得していることが多いため,軽度の眼位異常は頭位で代償されていることが多い.正面で内斜視があれば,内直筋の後転,外斜視があれば外直筋の後転を通常行う.一般にDuane症候群による内・外斜視の斜視角は大きくなく,その他の術式は必要としないことが多い.術量は術中の牽引試験の結果も参考にするので一概にはいえない.外転制限のある外斜視に外直筋を少量後転しても効果が少ないこともある.筆者らはDuane症候群11例に対して,正面眼位や頭位異常の矯正を目的に手術を施行したが,全例治療目的は達成され,治癒している.したがって,これら正面眼位や頭位異常の予後はおおむね良(33)図2左眼のDuane症候群(Ⅲ型)の9方向眼位左眼は内外転制限を認め,また強度なup-shootを認める.図3Duane症候群のup-shootのMRI画像症例は右方視しているため,画像で左眼のup-shootが確認できる.表2Up-downshootの分類Innervationaltype内直筋と垂直直筋の異常神経支配のために内転時にup-downshootが起こるとする説.垂直筋後転術が有効.Mechanicaltype内転時の眼球の機械的スリップによりverticalshootが起こるとする説.外直筋後転術が有効.(KraftSPら,1988)———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006好である.注意すべきなのはup-downshootを伴うDuane症候群の場合である.Up-downshootの術式には両内外直筋の後転,Faden手術,外直筋Ysplit法,垂直筋後転術などがあげられる(図4a,b).しかし,その術式や術量の選択に一定な基準を設けることはなかなかむずかし(34)図4右眼のDuane症候群(Ⅰ型)頭位異常とup-shootを認める.正面眼位は右内斜視15?.手術は右内直筋後転とFaden法を施行.a:術前後の水平3方向眼位(上段:術前,下段:術後).右眼のup-shootが術後軽減されている.b:術前後の頭位の比較(左:術前,右:術後).頭位異常も消失している.ab図5右眼のDuane症候群(Ⅰ型)の左方視時眼位の比較右内斜視7?,術前よりup-downshootを認める.本症例は術中の牽引試験で内転方向で陽性であったため,左外直筋のみを後転した.Up-downshootはともに軽減(down-shootの著明な軽減)したが,まだ残存している.正面眼位は外直筋を後転しても良好であった.上段:術前後によるup-shootの比較(左:術前,右:術後).下段:術前後によるdown-shootの比較(左:術前,右:術後).———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???い.内直筋の拘縮が強い場合は両内外直筋の後転でup-downshootが軽快しても続発性の外斜視になる可能性もある.内斜視でも牽引試験が内転方向に陽性の場合もあり,術式に苦慮する症例も存在する(図5).眼位異常とup-downshootの矯正を目的とするDuane症候群の治療は現時点では,牽引試験の結果を考慮し,術式を熟考する必要がある.またMoradらは麻痺性外斜視やDuane症候群の外斜視に対して,外直筋を付着部より離断し,眼窩外壁に縫着することにより,外斜視を治療する新しい術式を報告20)している.おわりにDuane症候群は上述のように画像診断,遺伝的要因,up-downshootの原因と治療などが近年の話題となっている.これらを総合的に検討することにより,Duane症候群の本態が明確になり,その分類も整備されていくと思われる.文献1)vonNoordenGK:BinocularVisionandOcularMotility.p458-466,Mosby,StLouis,20022)HelvestonEM:SurgicalManagementofStrabismus.p149-151,WayenborghPublishing.Belgim,20053)MulhernM,KeohaneC,O?connerG:Bilateralabducensnervelesionsinunilateraltype3Duan?sretractionsyn-drome.???????????????78:588-591,19944)CameronF,GrantPE,DillonPDetal:AbsenceoftheabducensnerveinDuanesyndromeveri?edbymagneticresonanceimaging.???????????????125:399-401,19985)大庭正裕,中川喬:眼球後退症候群の磁器共鳴画像診断.第53回日本臨床眼科学会講演抄録集,p358,19996)長内一,大庭正裕,佐々木紀子ほか:当院を受診したDuane症候群25例の検討(抄録).日本弱視斜視学会雑誌32:141,20057)OzkurtH,BasakM,OralYetal:MagneticresonanceimaginginDuane?sretractionsyndrome.????????????????????????????????40:19-22,20038)MasutaniY,AokiS,AbeOetal:MRdi?usiontensorimaging:recentadvanceandnewtechniquesfordi?usiontensorvisualization.????????????46:53-66,20039)ChungM,StoutJT,BorchertMS:ClinicaldiversityofhereditaryDuane?sretractionsyndrome.?????????????107:500-503,200010)三戸千賀子,大庭正裕,佐々木紀子ほか:CrocodileTearsと軽度感音性難聴を伴った両側性Duane症候群の1例.眼紀51:185-187,200011)大沼学,福原晶子,岩重博康ほか:両側Duane症候群の親子例.日本弱視斜視学会誌25:151-154,199812)AppukuttaanB,GillandersE,JuoS-Hetal:LocalizationofageneforDuaneretractionsyndrometochromosome2q31.??????????????65:1639-1646,199913)OkihiroMN,TasakiT,NakanoKKetal:Duanesyn-dromeandcogenitalupperlimbanomalies.???????????34:174-179,197714)TerhalP,RoslerB,KohlhaseJ:AfamilywithfeaturesoverlappingOkihirosyndrome,hemifacialmicrosomiaandisolatedDuaneanomalycausedbyaNovelSALL4muta-tion.???????????????140:222-226,200615)McCannE,FryerAE,NewmanWetal:AfamilywithDuaneanomalyanddistallimbabnormalities.???????????????139:123-126,200516)vonNoordenGK,MurrayE:Up-anddownshootinDuane?sretractionsyndrome.????????????????????????????????23:212-215,198617)MohanK,SarohaV,SharmaA:FactorspredictingupshootanddownshootinDuane?sretractionsyndrome.???????????????????????????????40:147-151,200318)大庭正裕:第62回日本弱視斜視学会総会:斜視難症例検討会,浜松,2006.日本弱視斜視学会誌(投稿中)19)大月洋:Duane?sretraction症候群の最近の考え方と手術適応.神経眼科18:87-89,200120)MoradY,KowalL,ScottABetal:Lateralrectusmuscledisinsertionandreattachmenttothelateralorbitalwall.??????????????l89:983-985,2005(35)

両眼視野におけるBinocular Summationの影響

2006年6月30日 金曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS視機能が高くなることと定義される.両眼の相互作用には興奮性と抑制性があり,興奮性であるbinocularsum-mationは,両眼に同等な刺激を網膜対応点に与えたとき,両眼の感度は単眼よりも高くなることが報告されている4,5).Grigsbyら6)は,1眼の鼻側網膜と他眼の耳側網膜の感度にasymmetryが増すほどbinocularsumma-tionが減少することを報告した.両眼視の成立においても各眼が等しい視機能を有することが重要であり,bin-ocularsummationの働きが両眼視の成立における1つの条件であると考える.Binocularsummationの評価を行うには,確率加重(probabilitysummation)を考慮する必要がある.確率加重とは,たとえば単眼視下で光視標を提示し「見える」または「見えない」の確率は0.5であるが,両眼視下では2つの眼で判断するため,右眼または左眼のどちらかの眼で判断している可能性を考える必要があり,確率は0.75となる.つまり,両眼からの視覚情報を収斂したことによるbinocularsummationはこの確率加重を超える両眼での働きであるかを検討する必要がある.II両眼視野測定装置の開発両眼視下での両眼視野の広さの測定は,一般的にはGoldmann視野計を用いた両眼単一視野の測定が行われている.Goldmann視野計を用いた両眼単一視野の測定では,視標を両眼で追従し視標が1つに見える範囲を測定する.両眼視下での両眼視野測定の評価は,融像の有はじめにヒトは日常生活において両眼から得られた外界の情報を視覚野で統合し,両眼の相互作用によって外界の視覚情報を処理している.このことによってヒトは両眼視を働かせ,三次元に外界を捉えることができる.三次元で外界を捉えるためには,両眼視の成立が必要であり,その成立条件の1つに両眼視野の存在があげられる.両眼視野には,単眼視野の広がりを重ね合わせることにより,特に両耳側の視野が広がることを示す両眼視野と各眼の視野が互いに重なり合い両眼共通の視野を示す両眼視野がある.両眼視の成立には後者の両眼視野の存在が関与し,両眼の網膜対応点に外界の像が投影され,視覚野で収斂されることにより成立する.視覚野には両眼からの情報を受け取る両眼視細胞が存在し,両眼の対応する受容野が重なり合ったときに興奮し,重なりがずれたときに抑制される1~3).両眼の相互作用の働きについて検討することは,ヒトが両眼視下でどのようにして外界の視覚情報を処理しているかを知るうえで重要である.本稿では,両眼の相互作用のうちbinocularsumma-tionに着目し,その考え方や両眼視野の評価方法,bin-ocularsummationに影響する因子についてとりあげ,その結果得られた両眼視下における受容野特性について述べる.IBinocularsummationBinocularsummationは単眼視下に比べ両眼視下での(23)???*AkemiWakayama:近畿大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕若山曉美:〒589-8511大阪狭山市大野東377-2近畿大学医学部眼科学教室特集●もっと知りたい,斜視・弱視あたらしい眼科23(6):721~727,2006両眼視野におけるBinocularSummationの影響??????????????????????????????????????????????????????若山曉美*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006無を確認することが必要である.しかしGoldmann視野計を用いた場合,両眼分離することなく両眼視野を測定するため抑制を生じていても視標は1つに見え,また検者は固視観察筒から両眼の固視状態を観察することができないため,融像を確認するという観点からの両眼視野の評価は困難である.融像を確認するという観点から両眼視野の広さを測定する方法には,Bagolinistriatedglassを用いた両眼単一視野の測定がある.Bagolinistriatedglassを用いることにより融像の状態が確認でき,検者は被検者の両眼の固視状態を観察することができる.しかし両眼単一視の広さのみではなく,両眼視野でどのような両眼相互作用が起こっているのかを知るためには,両眼視野内でいかにして外界の視覚情報を処理しているかを検討する必要がある.そこで筆者ら7,8)は両眼視の状態を確認しながら感度の測定を可能にするために,自動視野計Octopus201に両眼刺激装置としてスペースシノプトを組み込み,融像刺激を与えながら両眼視下の感度を測定する装置を開発した(図1).自動視野計Octopus201のドーム内に組み込んだスペースシノプトは,従来の大型弱視鏡の鏡筒の部分を取り外し,反射鏡の位置にハーフミラーのみを取り付けている.ハーフミラーを用いていることでスペースシノプトに入れた融像図形を眼前のハーフミラーに投影し,自動視野計Octopus201のドーム内を背景に被検者は融像図形を見ることができる.スペースシノプトの融像図形と視野計の背景輝度を一定に保つために,スペースシノプトのランプハウスを取り外し,直接ドーム内の背景光を利用してハーフミラーに融像図形を投影した.さらにbinocularsummationの検討では単眼と両眼での感度の違いを評価するが,本装置では片眼を遮閉することなく両眼視下という同一条件下での単眼および両眼の感度の測定を可能にした(図2).また被検者は片眼を遮閉されることなく検査を受けるため,どちらの眼を測定されているのか意識することなく両眼視下の両眼および片眼の感度を測定することを可能にした.IIIBinocularsummationに影響する因子Binocularsummationについては1943年にPirenne9)によって報告されて以来,これまでにいくつかの報告がある.Binocularsummationに影響する因子については,コントラストレベルや方向性10,11)が報告され,vernieracuityに対するbinocularsummationは低いコントラストで認めるが高いコントラストでは明らかではないことが示された.さらにbinocularsummationは左右眼の網膜感度のasymmetryが増加するほど低下6)し,若い年齢に比べて高年齢で低下12)を認めるなどがあげられる.本稿では,視標サイズや刺激する網膜部位,さらに視標に対する検出閾値(detectionthreshold)と認知閾値(resolutionthreshold)の違いなどbinocularsummationに及ぼす影響について,筆者らの結果とこれまでの報告と合わせて検討する.(24)ドームスペースシノプトハーフミラー両眼視図1両眼視下での視感度測定装置(文献16より改変)両眼視下の両眼視感度両眼視両眼視遮閉両眼視下の片眼視感度図2両眼視下での視感度の測定(文献16より改変)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???1.視標サイズWoodら5)は,中心窩と7?以上の周辺視野について視標サイズを変えて検討し,binocularsummationは,中心窩から偏心度が増すほど視標サイズ1(視角0.108?)では低下し,視標サイズ5(視角1.724?)では高くなったと報告した.筆者らは,両眼視野内でのbinocularsummationを測定するために開発した装置を用いて,binocularsum-mationに対する視標サイズの影響を検討した.対象は年齢が22~26歳の正常者4名で,TNOstereotestで60secondsofarcよりも良好な両眼視機能を有する者とした.用いた視標サイズは,Goldmann視野計の視標サイズ0(視角0.054?),視標サイズ1(視角0.108?),視標サイズ2(視角0.216?),視標サイズ3(視角0.431?),視標サイズ4(視角0.862?),視標サイズ5(視角1.724?)の6種類を用いた.視標サイズの影響を検討するにあたり筆者らは,鼻側網膜と耳側網膜の感度の差がbinocu-larsummationに与える影響を考慮し,鼻側網膜と耳側網膜の感度に差がなく13),さらに中心10?の視野が視覚野の約50%に対応すること14)から中心6?内について検討した.感度の測定は,両眼視下の両眼および片眼の感度について,中心窩および中心6?内を2?間隔の37点について行った.すべての視標サイズで両眼の感度は片眼の感度よりも高くなった(p<0.001;FriedmanandBonferroni/Dunntests).中心6?内での両眼と片眼の感度の差は,視標サイズ0(視角0.054?),視標サイズ1(視角0.108?)は一定で,視標サイズ2(視角0.216?),視標サイズ3(視角0.431?)では中心窩で最も差が大きく,視標サイズ4(視角0.862?),視標サイズ5(視角1.724?)は視標サイズ2や視標サイズ3とは逆に中心窩での両眼と片眼の感度の差が小さく,中心窩に比べると周辺で大きくなった(図3).さらに視標サイズの違いを比較するためには,空間的寄せ集め現象を考慮する必要がある.空間的寄せ集め現象を簡単に説明すると,閾値に達するまでに小さいサイズの視標では高い視標輝度が必要となるが,大きいサイズの視標では低い視標輝度で閾値に達することができるという視標面積と視標輝度の関係である.そのため視標サイズの影響については,測定した感度の値を閾エネルギー値に変えてbinocularsummationratio(両眼視下での両眼と片眼の比)を検討した.中心6?内でのbinocu-larsummationratioは,視標サイズ0(視角0.054?)で最も高く,視標サイズ2(視角0.216?)よりも大きな視標サイズでは一定となった(p<0.001;Kruskal-Wallis(25)図3両眼視下での両眼と片眼の感度測定(文献8より改変)偏心度両眼と片眼の感度差(dB)視標サイズ0(0.054°)012346°4°2°0°-2°-6°-4°012346°4°2°0°-2°-6°-4°012346°4°2°0°-2°-6°-4°偏心度両眼と片眼の感度差(dB)012346°4°2°0°-2°-6°-4°012346°4°2°0°-2°-6°-4°012346°4°2°0°-2°-6°-4°視標サイズ1(0.108°)視標サイズ2(0.216°)視標サイズ3(0.431°)視標サイズ5(1.724°)視標サイズ4(0.862°)水平経線———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006andBonferroni/Dunntests)(図4).Binocularsummationは,同じ視標サイズを用いた場合でも刺激する網膜部位によって異なり,異なる視標サイズの比較では小さい視標サイズで高くなった.2.網膜部位刺激する網膜部位でのbinocularsummationの違いについては,これまでの研究でさまざまなことが報告されている.中心窩におけるbinocularsummationについては,視標のコントラストや方向性に影響がなく10),Woodら5)は中心窩では異なる視標サイズを用いてもbinocu-larsummationは同じであったとした.筆者らの研究では,中心窩領域に融像図形を与えた場合と与えなかった場合でのbinocularsummationの違いを検討し,融像図形を与えた場合のほうが高くなった15).中心窩領域は解剖学的に耳側網膜と鼻側網膜の重複部位があり,この部位からの情報が立体視の獲得に重要な役割を果たしており,融像刺激の有無によるbinocularsummationの違いが両眼視の成立に影響していることを示していると考える.周辺におけるbinocularsummationについては,Pardhan10)は中心窩から8?の網膜部位において,高いコントラストよりも低いコントラストでbinocularsum-mationは高くなったと報告した.Grigsbyら6)は,grat-ingと?icker刺激を用いて測定し,中心窩から4?と8?の網膜部位では耳側網膜と鼻側網膜の感度に差がなく,明らかなbinocularsummationを認めたが,24?と32?の網膜部位では鼻側網膜の感度が耳側網膜よりも高く,?icker刺激では両眼の感度が各眼よりも高かったが,grating刺激では両眼の感度は鼻側網膜の感度と同じであったと報告した.筆者らは,図5に示す閾値?面積曲線から,中心窩と(26)BinocularsummationratioLogarea(min2)0°2°4°6°1.141.121.101.081.061.041.021.000.054°(0.92)0.108°(1.52)0.216°(2.12)0.431°(2.72)0.862°(3.32)1.724°(3.92)図4網膜部位でのbinocularsummationに対する視標サイズの影響(文献8より改変)図5両眼と片眼の閾値?面積曲線(文献8より改変)症例1(両眼)症例1(両眼視下の片眼)症例2(両眼)症例2(両眼視下の片眼)症例3(両眼)症例3(両眼視下の片眼)症例4(両眼)症例4(両眼視下の片眼)Logthresholdenergy(asb×min2)0°5.04.54.03.53.02.52.01.52°4°6°Logarea(min2)0.054°(0.92)0.108°(1.52)0.216°(2.12)0.431°(2.72)0.862°(3.32)1.724°(3.92)5.04.54.03.53.02.52.01.50.054°(0.92)0.108°(1.52)0.216°(2.12)0.431°(2.72)0.862°(3.32)1.724°(3.92)5.04.54.03.53.02.52.01.50.054°(0.92)0.108°(1.52)0.216°(2.12)0.431°(2.72)0.862°(3.32)1.724°(3.92)5.04.54.03.53.02.52.01.50.054°(0.92)0.108°(1.52)0.216°(2.12)0.431°(2.72)0.862°(3.32)1.724°(3.92)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???中心窩から偏心した2?,4?,6?ともに視標サイズ0(視角0.054?),視標サイズ1(視角0.108?)と小さい視標サイズでは片眼に比べて両眼の閾エネルギーが低く,偏心度が増すほどその差は大きくなった.今回の結果はこれまでの報告と一致し,binocularsummationは中心窩よりもむしろ中心窩から偏心すると大きくなる.しかし周辺部で鼻側網膜と耳側網膜の感度の差が大きくなると逆に両眼の相互作用の働きは低くなることがわかった.3.視標の検出閾値と認知閾値筆者ら16)は,開発した両眼視野の測定装置に2本の縞幅,縞間隔の異なる3種類の縞視標を用いて検出閾値と認知閾値の両眼の相互作用に与える影響について検討した(図1,6).検出閾値とは,縞視標が提示されたときに2本の縞であるという認知ができなくても,視標が提示されたことを感知したときの閾値である.認知閾値とは,視標が提示されたということを感知しただけでなく,2本の縞であるという認知ができたときの閾値である.検出閾値と認知閾値を検討すると,認知閾値は,すべての縞視標で検出閾値よりも高くなった(p<0.01;Wil-coxonsignedrankstest).言い換えると閾値が高いということは,感度が低いということになり,2本の縞であるという認知をするためには視標の感知よりも閾エネルギーを必要としたことを示している.両眼視下での両眼と片眼での検出閾値と認知閾値の差は,3種類の縞幅のなかで縞幅が2.5?と1.43?の縞視標を用いたときに有意差を認めた(p<0.01;Bonferroni/Dunntests)(図7).検出閾値と認知閾値のbinocularsummationに与える影響を縞幅の違いと刺激する網膜部位との関係から検討すると,縞幅が10?と大きな縞幅では中心窩から偏心すると検出閾値と認知閾値のbinocularsummationratioに差はなかった.しかしながら,縞幅が2.5?と1.43?の縞視標を用いたときには,binocularsummationratioは認知閾値が検出閾値よりも有意に高く,縞幅が狭いほどその差は大きくなった(p<0.01;Wilcoxonsignedrankstest)(図8).Zlatkovaら17)は,中心窩では検出閾値と認知閾値に差はなく,25?の偏心度において明らか(27)10′10′2.5′2.5′1.724°1.43′1.43′図6縞幅の異なる3種類の縞視標(文献16より改変)偏心度0.120.080.0400°2°4°6°0°2°4°6°0°2°4°6°認知閾値-検出閾値Logthresholdenergy(asb×min2)右眼左眼両眼縞視標10′2.5′1.43′図7網膜部位における検出閾値と認知閾値の差(文献16より改変)———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006な差を認めたと報告し,今回の結果と一致した.これらの結果は,高度な認知解像度を必要とする場合には,両眼で視覚情報を処理することが有効であることを示している.連続的に入力される外界の視覚情報を両眼で受け取り,傍中心窩での両眼の相互作用によって中心窩で処理する認知解像度の働きを促進していると考える.IV両眼視下における受容野特性網膜神経節細胞の分布密度は中心部において高く,また受容野は中心部で小さく周辺部にいくほど大きくなることが知られている18).視標面積と視標輝度の関係について心理物理学的な研究から空間的寄せ集め現象がある.視標面積が大きい場合,多数の視細胞の刺激が網膜神経節細胞に集まり,視標を認知することができるという空間和が成立する.閾値に達するためには視標面積が小さいときには高い視標輝度が必要となり,視標面積が大きいときには低い視標輝度で閾値に達することができるという視標面積と視標輝度の関係である.視標面積と視標輝度の関係は,一般的には「閾値(視標輝度)×視標面積K=一定」(K=寄せ集め係数)で表される.異なる視標サイズを用いて両眼視下での両眼と単眼の受容野の違いを検討すると,図5に示すように両眼での閾エネルギーは単眼よりも低く,融像下という同じ条件下での両眼の受容野は単眼よりも小さいことがわかった.単眼よりも両眼の受容野が小さいことが縞視標を用いた認知閾値のbinocularsummationの結果からも明らかとなり,両眼の相互作用を働かせることによって高度な認知処理をより効率的に行っていると考える.おわりにヒトが外界の視覚情報を両眼で処理することは,単眼では補えない,また連続的に入力される視覚情報を有効的に処理するために両眼の相互作用を働かせている.網膜部位によって機能が異なるように両眼の相互作用であるbinocularsummationも異なり,周辺網膜でその役割は高く,中心窩での働きを促進していると考える.両眼の相互作用について詳細に検討することは,ヒトはなぜ2つの眼を有するのか,両眼視はいかにして成立しているのかを知るうえで重要である.(28)縞視標1.0351.0251.0151.0051.0000°2°4°6°検出閾値認知閾値R/BBinocularsummationratio10′2.5′1.43′10′2.5′1.43′10′2.5′1.43′10′2.5′1.43′1.0351.0251.0151.0051.000L/BBinocularsummationratio10′2.5′1.43′10′2.5′1.43′10′2.5′1.43′10′2.5′1.43′図8網膜部位におけるbinocularsummation(文献16より改変)———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???稿を終えるにあたり,ご指導,ご校閲いただきました松本長太助教授,下村嘉一教授に深謝いたします.文献1)HubelDH,WieselTN:Receptive?elds:binocularinter-actionandfunctionalarchitectureinthecat?svisualcor-tex.?????????160:106-154,19622)PettigrewJD,NikaraT,BishopPO:Binocularinteractiononsingleunitsincatstriatecortex:simultaneousstimula-tionbysinglemovingslitwithreceptive?eldsincorre-spondence.?????????????6:391-410,19683)NikaraT,BishopPO,PettigrewJD:Analysisofretinalcorrespondencebystudyingreceptive?eldsofbinocularsingleunitsincatstriatecortex.?????????????6:353-372,19684)HaterMR,SeipleWH,SalmonLE:Binocularsummationofvisuallyevokedresponsestopatternstimuliinhumans.??????????13:1433-1446,19735)WoodJM,CollinsMJ,CarkeetA:Aregionalvariationsinbinocularsummationacrossthevisual?eld.??????????????????????12:46-51,19926)GrigsbySS,TsouBH:Gratingand?ickersensitivityinthenearandfarperiphery:nasa-temporalasymmetriesandbinocularsummation.??????????34:2841-2848,19947)WakayamaA,MatsumotoC,IwagakiAetal:Binocularsummationwithinthebinocularvisual?eld.PerimetryUpdate1998/1999(edbyWallM,WildJM),p193-200,Kugler,Amsterdam,19998)WakayamaA,MatsumotoC,OhmureKetal:Propertiesofreceptive?eldonbinocularfusionstimulationinthecentralvisual?eld.?????????????????????????????????240:742-747,20029)PirenneMH:Binocularanduniocularthresholdofvision.??????152:698-699,194310)PardhanS:Binocularrecognitionsummationintheperipheralvisual?eld:contrastandorientationdepen-dence.??????????43:1249-1255,200311)BearseMA,FreemenRD:Binocularsummationinorien-tationdiscriminationdependsonstimuluscontrastandduration.??????????34:19-29,199412)PardhanS:Acomparisonofbinocularsummationintheperipheralvisual?eldinyoungandolderpatients.????????????16:252-255,199713)松本長太:自動視野計Octopusの中心視野測定における視標サイズ,背景輝度の影響について.近大医誌14:1-17,198914)HortonJC,HoytWF:Therepresentationofthevisual?eldinhumanstriatecortex.ArevisionoftheclassicHol-mesmap.???????????????109:816-824,199115)若山曉美,松本長太,岩垣厚志ほか:両眼視野におけるbinocularsummation─視標サイズの両眼視感度に及ぼす影響─.日眼会誌105:111-118,200116)WakayamaA,MatsumotoC,ShimomuraY:Binocularsummationofdetectionandresolutionthresholdsinthecentralvisual?eldusingparallel-linetargets.??????????????????????????46:2810-2815,200517)ZlatkovaMB,AndersonRS,EnnisFA:Binocularsumma-tionforgratingdetectionandresolutioninfovealandperipheralvision.??????????41:3093-3100,200118)StoneJ,JohnstonE:Thetopographyofprimateretina:astudyofthehuman,bushbaby,andnew-andold-worldmonkeys.?????????????196:205-223,1981(29)

Functional MRIでみる両眼視機能

2006年6月30日 金曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSより適切な両眼視の概念を導く必要があると思われる.左右の網膜に端を発する視覚情報は,互いに独立した伝達系で運ばれ,外側膝状体まではまだ相互乗り入れをしていない.さらに,第一次視覚野(以下,V1)では,眼優位コラムが存在し,ここでも隣接しているものの左右眼からの情報は個別に扱われている.しかし,V1には同時に両眼からの入力に対し反応するニューロンも存在していることがサルで報告されている.そして,この両眼から入力を受けるニューロンは,サルではV2,V3,V3A,V4,V5,MST(medialsuperiortemporal),CIPS(caudalintraparietalsulcus),LIP(lateralintra-parietal),IT(inferiortemporal),頭頂葉とさらにFEF(frontaleye?elds)にも発見されている1~10).両眼視ゆえに生じる視野闘争は,心理学実験では不自然に左右の各眼に別の絵を見せるなどして生じさせるが,実は日常的に見ている視覚像のなかにも,片眼にだけ遮閉されている部分などの左右眼で著しく異なっているところが存在し,視野闘争に類似した現象が日常的にも部分的に生じている.しかし,われわれはそのような部分に通常気がつかず,全体を自然な風景として認知している.したがって,このメカニズムの解明は,視覚メカニズムの理解にとって非常に重要であると考えられる.右眼と左眼に別の絵を同時に見せると,5秒程度の間隔で右眼に提示した絵と左眼に提示した絵が交互に見える.これが視野闘争であるが,これは長い間,右眼と左眼の入力が互いに闘い合ってその一方が見えているのだはじめに眼科臨床では,「両眼視」と「立体視」は切っても切れない関係と考えられている.しかし,これらの用語は決して同義ではなく,生理学や心理学の領域では,明らかに別の用語として使われている.「両眼視」はまさしく両眼でものを見た場合の視機能を指す.両眼視差による奥行き知覚のみならず,左右眼で異なった対象を見た場合の知覚の入れ替えである視野闘争,視野の拡大,盲点の相互代償,解像力の増大も両眼視の大きな特徴である.一方,「立体視」は対象が三次元的に奥行きをもって見える視機能である.両眼視差が立体視のための重要な手がかりになっていることは確かであるが,それが唯一無二の手がかりというわけではなく,それ以外にも運動視差,絵画的手がかり,肌理の勾配,さらには調節や輻湊などさまざまな奥行き感覚の手がかりがあり,両眼視差はそのなかの一つという位置づけになる.ところが眼科では,斜視・弱視治療の経過観察において,患者の両眼視機能のゴールとして立体視を設定していることが多いため,両眼視と立体視を混同している医師が少なくないのではないだろうか.同時視,融像,立体視の3点セットは,両眼視機能の質的評価にとって重要な古典的概念であり,これらの段階的発達過程(あるいは処理過程)は,斜視・弱視治療においては病態メカニズムの理解の助けになっている.しかし,本質的な視覚の変容そのものについては,いまだ推測の域を出ていないため,生理学や心理学などの最新の知見を参照し,(15)???*1SatoshiNakadomari:東京慈恵会医科大学眼科学講座*2YoichiroMasuda:東京慈恵会医科大学眼科学講座/スタンフォード大学〔別刷請求先〕仲泊聡:〒105-8461東京都港区西新橋3-25-8東京慈恵会医科大学眼科学講座特集●もっと知りたい,斜視・弱視あたらしい眼科23(6):713~719,2006FunctionalMRIでみる両眼視機能????????????????????????????????????????????????仲泊聡*1増田洋一郎*2———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006と考えられてきた.しかし,Logothetisが巧みな実験で,そう簡単な話ではないということを明らかにした11).彼は,Aという絵とBという絵を右眼にABABABA-BA…と速い周期で提示し,同時に左眼にBABA-BABAB…と同じ速さで提示した.一度に左右眼に見える絵は常にAとBのそれぞれであるという点は,いわゆる視野闘争を示すそれまでの実験と変わらなかったが,右眼と左眼の入力が互いに闘い合ってその一方が見えているのであれば,どちらの眼で見ているときであってもAとBが速く入れ替わって見えるという見え方に違いはないはずであった.ところがこの被験者には,Aの絵とBの絵が5秒程度ずつ交互に見えたのであった.すなわち視野闘争とは,右眼と左眼の闘い合いではなかったのだ.その鍵はほかならぬ脳のなかに存在しているはずである.このような視野闘争が生じる背景に,片眼からの入力を抑制するという斜視でよく認められる抑制に似た現象が生理学的にも生じているということがわかる.したがって,視野闘争のメカニズムの解明は,心理学的な興味だけでなく,斜視患者の視機能の解明においても重要な役割をもっていると考えられる.さて,単眼で見た場合と両眼で見た場合の違いとしては,両眼視差,視野闘争以外にも,視野の拡大,盲点の相互代償,解像力の増大つまり視力の向上といった現象を経験できる.これらについて考えてみても,両眼視の研究は,そのターゲットを脳機能に求めざるを得ないものばかりである.近年,非侵襲的に脳機能を研究する方法が発展してきており,そのうち時間的にも空間的にも分解能が比較的良い方法としてfunctionalMRI(mag-neticresonanceimaging)が注目されている.本稿では,このfunctionalMRIについて概略を述べ,これを用いて両眼視機能がどのように研究されてきているかについてその一部を紹介する.IFunctionalMRIとは脳の神経が活動するとそのエネルギーを補充するようにその周囲の毛細血管が拡張し,局所的に血液が集まる.この現象は,脳表に近赤外線を当てて,その吸光率を測定してみると明らかに存在していることがわかる.この神経活動と血液動態の変化の間を結ぶ生理学的メカニズムについては,まだ明らかにはなっていないが,活動する神経の周囲に血液が集まるという現象は間違いなく,血液には磁場に影響を及ぼす鉄分子が多く存在していることから,MRIで記録された信号に変化が生じるということは想像に難くない.このことに最初に気がついたのは,当時ベル研究所にいた小川誠二氏であった.彼は,この現象をbloodoxygenationleveldependente?ect(BOLD効果)とよび,T2*とよばれる撮像条件でこの効果が最大となり,これで撮像した脳画像から,脳の神経活動を可視化できるということを1990年に報告した12).このBOLD効果を利用して脳機能を測定する方法が,functionalMRIである.まだその発見から15年しか経っていないが,この手法を用いた研究報告はすでに数えきれないほどになっている.本法の時間分解能は,神経が脱分極してからBOLD信号がピークに達するまでに4~5秒もかかるため良いとはいえず,複数の大脳領野の発火順序を決定する根拠として,この方法を用いることは不適切である.既報のなかにはBOLDの信号変化率や有意水準を指標として神経の活動量を定量化しようとする試みが少なくないが,発見者の小川氏自身もこれを過信してはならないと述べている.このように定量性には現時点で問題を残しているfunctionalMRIではあるが,定性的にはすばらしい知見を無数に示してきている.特に視覚領域の研究は,結果が明らかであることから,報告数も多い.最近のテクノロジーの進歩により,その空間分解能が改善され,どこまで細かい現象を捉えることができるかを検証する実験が行われている.HubelとWieselのV1における眼優位コラムの発見は,視覚科学における20世紀最大の発見と考えられる.FunctionalMRIを用いてヒトの視覚皮質でこれを捉えた研究がある.このfunctionalMRIの空間分解能は,1mm以下のコラム構造を示した点で評価できる.1997年のMenonによる最初の報告には,賛否両論があった.しかし,理化学研究所のChengらは,高磁場装置を用いてこの再試に成功し,再現性を確認することでfunc-tionalMRIの高空間分解能の可能性を示した13,14).視覚領域におけるfunctionalMRIの最も有用な点は,ヒトの視覚野の細分類が可能であることであろう.(16)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???Travelingwave法という,固視点を中心に徐々に拡大するリングと回転する扇形の視覚刺激が視覚野に作り出す周期性の信号変化からその網膜部位再現を明らかにする方法により,V1とV2,V2とV3,そしてさらに高次の視覚野を区分けすることができる.この方法は,Engelらにより提唱された後,多施設で発展し,今や後頭葉のほとんどの領域がこの方法を用いて区画化されるようになった15~17).動物を対象とした研究と比べ,ヒトの研究では,脳のどの領域がどのような働きをもっているかを記述する際に,単に脳溝や脳回の位置で規定するよりも,機能的に区画された視覚野を基準にしたほうが,個体差が少なく本質的な議論を行うことができるという点で,この方法の発明の意義は大きい.本稿のなかでも視覚野の名称が多数記述されているが,どの部分を意味しているかについてはその都度,図1を参照していただきたい.IIFunctionalMRIで調べられた両眼視機能これまで両眼視機能についてもfunctionalMRIを用いた研究が多数存在している.ここではまず,両眼視差からの奥行き知覚に関連した知見について言及する.そして,それに関連して両眼視差以外の手がかりによって生じる奥行き知覚に関わる知見についても紹介したい.筆者らは,視野の左下1/4の領域にだけ,両眼視差からの奥行き知覚を生じない症例を経験した18).その患者は,Titmusstereotestで,ハエの背中を固視すると,右側の羽は浮いて見えるのに左の羽は浮いていないと訴えた.詳しい検査の結果,左下視野のみに限定した奥行き知覚異常であると診断した.この症状は,視差の検出が部分視野内で不可能になっているということを示している.そこで,この症状をもとにして視覚刺激を作成し,functionalMRI実験を行った19).図2は,これに用いた視覚刺激である.左側の刺激では,田の字型の黄色の枠の中に円が黄色で描かれている.しかし,右側の刺激では,左下の円だけは赤と緑で描かれている.これらの円はそれぞれ一定速で左右に揺れている.赤と緑の円も同じ速さで揺れているが,この2つの動く方向は相反している.つまり,この視覚刺激を赤緑のフィルター眼鏡でみると,片眼で観察したときは4つすべての円が左右に揺れて見えるが,両眼で見た場合は左下の円だけが田の字型の枠の平面の前後を視線方向に揺れて見えることになる.その一方で,左側の刺激は,両眼で見てもす(17)図1FunctionalMRIで区分された視覚野各々の図は,頭部MRIから大脳皮質を抽出してレンダリングした右脳の3D画像上に各視覚野を色分けして示したものである.左上は内側面,右上は外側面,左下は後面,右下は下面から見た画像である.V1の位置は,後頭葉の鳥距溝の位置にほぼ一致している.(文献17より許可を得て転載)V1V2V3V3AV3BV7hMT+hV4VO-1———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006べての円が左右に揺れて見えるだけである.すなわち,左下視野内の視差情報を変化させた課題ということができる.そして,4つとも黄色で描いた左右に揺れる円を見た場合と,左下の円だけ前後に揺れる場合との間で脳活動を比較することにより,左下の視野内で視差から奥行きを感じる場合に賦活する脳内部位が明らかになるのではないかと考えた.そして,その活動部位が,前述の左下視野内の立体視異常を有する患者の病巣と重なるかどうかを検証した.その結果,図3のごとく,活動部位は右後頭葉内側上部に限局していた.そして,そこは,まさにその症例の病巣と一致していたのであった.この部位は,直接確認してはいないが,位置からいってV3またはV3Aにあたる領域と考えられる.今後,同様の実験を視覚野マッピングを行ったうえで再試すること,そして同患者の視覚野マッピングを行うことでさらに詳細な部位決定を行うことができると考えられる.Backusらは,ランダムドットステレオグラムを用いて,面の浮き上がりに関連した脳活動を捉えた.彼らは,視覚野マッピングをベースにどの領野でその活動が大きいかを丹念に調べ,その結果,V3Aに最も強い応答を検出した20).西田らも,ランダムドットステレオグラムを用いて,円錐状の奥行きを提示して,平面の円盤に比べ有意に活動している部分を求めた.その結果,後頭葉上部から頭頂葉の上頭頂小葉に活動部位を見いだし,それらは左半球よりも右に優位であった21).両眼視差は,左右眼の位置の違いにより,網膜に投影される映像が若干左右で異なることから生じる.これは眼球の位置と物体の位置で一義的に決まる両眼視差であり,これを絶対視差とよぶ.それに対し,2つの物体が重なって存在し,それらのそれぞれの絶対視差の差でそれら2つの位置関係が理解できるような場合,この差は相対視差とよばれている.これまで,サルの研究では,絶対視差はV1で,相対視差はV2で処理されることが推定されている22,23).図4に示したように,視線方向に(18)図3FunctionalMRI実験による左下視野視差刺激に関連した脳部位と左下1/4視野にのみ視差からの奥行き知覚異常をきたした患者の脳左側は,functionalMRI実験による左下視野視差刺激に関連した脳部位で,標準脳上に赤く表した.一方,右側は,左下1/4視野にのみ視差からの奥行き知覚異常をきたした患者の頭部MRIから脳をレンダリングした3D画像である.右上部後頭葉に限局した病巣とfunctionalMRI実験で得られた反応部位が一致していることがわかる.図2左下視野内の視差による奥行き知覚に関連する脳部位を見つけるために行ったfunctionalMRI実験で用いられた視覚刺激左側の刺激では,田の字型の黄色の枠の中に円が黄色で描かれている.しかし,右側の刺激では,左下の円だけは赤と緑で描かれている.これらの円はそれぞれ一定速で左右に揺れている.赤と緑の円も同じ速さで揺れているが,この2つの動く方向は相反している.つまり,この視覚刺激を赤緑のフィルター眼鏡でみると,片眼で観察したときは4つすべての円が左右に揺れて見えるが,両眼で見た場合は左下の円だけが田の字型の枠の平面の前後を揺れて見えることになる.その一方で,左側の刺激は,両眼で見てもすべての円が左右に揺れて見えるだけである.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???2点が存在して,両眼がその奥の点に向いている場合,手前の点の網膜上に投影される位置がずれて絶対視差が生じる.この場合,2点の視差の差である相対視差は手前の点の絶対視差に一致する.ところが,2点の中央に両眼が向いている場合は,2点ともに絶対視差が生じる.しかし,この場合も2点の相対視差は不変である.すなわち,空間内の2点間の位置関係をより直接的に意味しているのは,絶対視差ではなく相対視差ということになる.Neriらは,各視覚野が,絶対視差と相対視差に対してどのように順応するかを調べた24,25).その結果,背側路であるV3A,V5/MT(hMT+の一部),V7では,絶対視差に対しての順応が生じ,腹側路であるV4(hV4),V4a/V8(VO-1)では絶対視差と相対視差の両方に対しての順応が生じ,初期視覚野であるV1,V2,V3では,どちらにも順応がわずかしか生じなかったという.Neriは,これまでのサルとヒトの研究からV1,V2,V3に入力された両眼視差情報が,V3A,V5/MT,MST(hMT+の一部),V7などの背側路と,V4,IT,V4a/V8などの腹側路に分かれ,おもに背側路ではよせ運動を起こす経路,腹側路では三次元知覚のための経路となると推測している.両眼視差によらないヒトでの奥行き知覚は,function-alMRIを用いてParadisらが後頭葉上部に,乾らが運動前野と頭頂葉に,Mooreらが後頭葉外側面に活動を認めている26~28).Paradisらは,ランダムドットが立体の表面にあってそれが回転しているときに見られるような秩序だった動きをする場合,われわれがそこに立体像を見ることができるということ(structurefrommotion)に注目し,ランダムドットのランダムな動きを見たときと比べ,立体を知覚したときの活動をfunc-tionalMRIで見いだした.彼らは,視覚野の同定を行っていなかったので後頭葉上部領域と記載したが,V3およびV3Aがそれに相当すると推定している.乾らは,ネッカーキューブとよばれる多義図形を用いて,それが立体的に見えるときとそうでないときの違いに注目して奥行き知覚に関連した領野を特定した.しかし,彼らの結果にみられた反応はあまりに広く,そのうちのどこがどういう働きをもっているかを知るにはさらなる研究が必要である.Mooreらは,無意味な立体像のグレースケール画像とそれを白と黒に二値化した画像を用いてfunctionalMRI実験を行った.無意味図形の二値化画像は,通常は立体としては知覚されず,無意味な平面画像と知覚される.しかし,立体的に描かれたグレースケール画像を見た直後にこれをみると,その立体に強い光が当たって日向と日陰が強いコントラストで表現されているような立体として知覚可能となる.彼らは,この現象を利用して,まったく同じ画像を見ていながら,片方は平面に,そしてもう一方は立体に見えるように実験を組み,その違いがどこに生じているかについて検討した.その結果,後頭葉外側面に活動を認めた.これらの奥行き認知は,いずれも両眼視差を必要としない.単眼の人でも同様の反応があり,おそらくそのような人は,こういった手がかりを日常で利用しているに違いない.しかし,いずれも両眼視差による奥行き知覚に関連する領域のそばにその活動部位が認められている点が興味深い.奥行き感覚の手がかりは,これら以外にも多数存在しており,複雑に関係し合っているものと推定される.これまではサルの研究を積み重ね,それをヒトに照らし合わせ,ヒトでの脳機能は推測の域をでない部分が多くあった.しかし,functionalMRIによってサルでの知見のヒトにおける検証ができるようになっ(19)図4絶対視差と相対視差両眼が奥の点に向いている場合,手前の点が網膜上に投影される位置はずれて絶対視差が生じる.この場合,2点の視差の差である相対視差は手前の点の絶対視差に一致する.ところが,2点の中央に両眼が向いている場合は,2点ともに絶対視差が生じる.しかし,この場合も2点の相対視差は不変である.すなわち,空間内の2点間の位置関係をより直接的に意味しているのは,絶対視差ではなく相対視差ということになる.(文献24より改変して転載)01相対視差絶対視差-1/21/2———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006た.さらには,サルとは異なった部分やサルで確認されていない部分がしだいに判明してきた.今後,MRI装置の改良や視覚刺激の工夫によって,両眼視の分野でも新たな知見が発見され臨床に大いに貢献することは想像に難くない.おわりに以上のように述べてくると眼科医としてどうしても気になる点が残る.斜視の患者の脳内表象はどうなっているのか,ということである.網膜異常対応の弱視眼における皮質への投射と健眼網膜との線維連絡はどうなっているのか.間欠性外斜視や交替性上斜位の大雑把な両眼視の生理学的根拠はいかなるものか.斜視における抑制のメカニズムなど大脳にその解を求めざるをえない問題が,斜視と弱視の領域には多数残されている.同様にして片眼に暗点のある患者の両眼での視覚はどう修正されているのであろうか.これらの点を調査するにはより包括的に脳機能を観測する方法が必要になるであろう.その点,functionalMRIは脳全体にわたる局所の応答を同時に見ることができるという点ですぐれている.しかし,functionalMRIの撮像では,頭部が固定されており,眼前に設定できる装置には大きさと磁性の制約が存在する.その制約条件の範囲内で両眼に任意の画像を分離提示したり,同時提示したり,眼位をモニターすることがfunctionalMRIによる両眼視機能測定には必要になってくる.これが,この領域の研究を困難にしている原因であると思われる.しかし,それよりも大きな「固定観念」という制約をわれわれ眼科医はもっているのではないだろうか.両眼視差が利用できないと奥行きが判断できない,抑制は片眼の視覚全体に生じている,奥行き感覚が視野の中心から等方向性に存在しているなどと思い込んだりしていないだろうか.そういう根拠のない固定観念を振り払って,もっとフレキシブルに,われわれはどのように見えるのか,どうして見えるのかについて日頃からよく考えていかなくてはいけないと思う.文献1)HubelDH,WieselTN:Stereoscopicvisioninmacaquemonkey.Cellssensitivetobinoculardepthinarea18ofthemacaquemonkeycortex.??????3:41-42,19702)MaunsellJH,VanEssenDC:Functionalpropertiesofneuronsinmiddletemporalvisualareaofthemacaquemonkey.II.Binocularinteractionsandsensitivitytobinoc-ulardisparity.??????????????49:1148-1167,19833)PoggioGF,GonzalezF,KrauseF:Stereoscopicmecha-nismsinmonkeyvisualcortex:binocularcorrelationanddisparityselectivity.??????????8:4531-4550,19884)BurkhalterA,VanEssenDC:Processingofcolor,form,anddisparityinformationinvisualareasVPandV2ofventralextrastriatecortexinthemacaquemonkey.???????????6:2327-2351,19865)TairaM,TsutsuiKI,JiangMetal:Parietalneuronsrep-resentsurfaceorientationfromthegradientofbinoculardisparity.??????????????83:3140-3146,20006)GnadtJ,MaysL:Neuronsinmonkeyparietalarealiparetunedforeye-movementparametersinthree-dimen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三歳児健診の現状と問題点

2006年6月30日 金曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS成した2).三歳児健診は,当初実施主体が都道府県であったが,1997年に市町村へ委譲されたため,同一都道府県内でも地域によって差が生じているのが現状である.II三歳児健診の流れ三歳児視覚健診は3ステップをとっている(図1).三歳児健診の対象児全員の家庭に問診「目に関するアンケート」(図2),ランドルト環字ひとつ視標(0.1と0.5相当)と視力検査の方法の説明書が郵送される.一次健診は,家庭で保護者が視力検査と「目に関するアンケート」の回答を行い,その結果を用紙に記入する.後日,I三歳児視覚健診の歴史三歳児健診は1961年に実施となったが,健診での眼科の項目は,「目の疾病および異常の有無」とされ,問診・視診で発見可能な異常に限られていた.湖崎らは,1970年に大阪市内保健所での三歳児健診にランドルト環字ひとつ視力検査を2.5mの距離で行い,スクリーニング基準として0.5が適当であると報告した1).1990年,三歳児健診に視力検査が導入され,その後,厚生省心身障害研究「小児の視覚発達の評価法に関する研究」の一環として,丸尾らが三歳児健康診査のガイドラインを作(9)???*YoshikoTakihata:川崎医療福祉大学感覚矯正学科〔別刷請求先〕瀧畑能子:〒701-0193倉敷市松島288川崎医療福祉大学感覚矯正学科特集●もっと知りたい,斜視・弱視あたらしい眼科23(6):707~711,2006三歳児健診の現状と問題点???????????????????????????????????????????????????????-????-????????????瀧畑能子*図1三歳児視覚健診の流れ一次健診は家庭で保護者が行い,「目に関するアンケート」で該当項目があった児,あるいは,視力検査で片眼でも視力0.5未満であった児は二次健診を受診する.精密健診は,眼科で実施する.アンケート記入・視力検査アンケート○なし家庭視力0.5以上査検次二関機療医門専力視5.0上以しな常異眼査検密精児歳三行発票診受可理処nonononono了終了終了終了終眼科保健所家庭———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006対象児は全員保健所での(歯科健診などの)三歳児健診を受診することになっているので,保護者は,アンケートと視力検査の結果を記入した用紙を保健所に持参し提出する.アンケートの回答で眼疾患が疑われるか,視力検査の結果片眼でも0.5未満かあるいは視力検査ができなかった場合は,二次健診として,保健所で視力検査と医師の眼異常チェックを受ける.二次健診においても,視力が片眼でも0.5未満か,眼異常が疑われる児は,精密健診受診票を交付され,後日,眼科で精密健診を受ける.III日本眼科医会の調査3)日本眼科医会公衆衛生部が,人口10万人未満の市町村にアンケート調査を行った結果について,その現状と問題点をあげる.①三歳児視覚健診を実施しているか?<現状>9市町村(回答があった市町村の5.3%)が三歳児視覚健診を実施していなかった(図3).<問題点>1997年に主体が都道府県から市町村に委譲された結果,健診にどのくらい費用を使うことができるのか,かかわることのできるスタッフ(職種と人数)などの差が生じている.②健診での眼異常発見の頻度は?<現状>対象児65,382名中,二次健診受診児は29,046名(44.4%),精密健診が必要な児は2,915名で,実際に精密健診を受診した児は1,797名で,眼異常が発見されたのは1,142名であった(図4).<問題点>二次健診で精密健診が必要と判断された児のうち,実(10)図2目に関するアンケート一次健診として,保護者が回答する.トーケンアるす関に目のんさ子おお子さんについて、当てはまるところを○で囲んでください。1.。かすでいしかおがきつ目。かすまりがしぶまに端極.2。かすま見てめ細を目.3。かすま見ていづ近に物.4。かすましりた見で目横、りたけ傾を頭.5。いさだくき書おばれあがとこな配心ていつに目、他のそ.6)(いはえいい:いはえいい:いはえいい:いはえいい:いはえいい:(94.7%)161市町村実施実施していない9市町村(5.3%)図3三歳児視覚健診を実施しているか?日本眼科医会公衆衛生部が人口10万人未満の市町村にアンケート調査した結果,回答があった市町村のうち,9市町村(5.3%)が実施していなかった.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???際に眼科で精密健診を受診した児は61.6%にとどまった.精密健診を受診した児のうち63.6%に眼異常が発見されていることから,精密健診未受診児のなかにも眼異常を有する児がほぼ同率で存在すると仮定すると,健診で異常を疑われたにもかかわらず「とりこぼし」が多数発生する結果となる.③二次健診の実施方法は?<現状>眼科医が実施しているのは4.3%で,1998年4)の6.8%に比べ減少していた.眼科医以外の医師は15.5%(1998年は26.3%),保健師あるいは視能訓練士は54.7%(1998年は48.8%)で過半数を占めていた(図5).契約医療機関は,1998年は6.3%であったが,2001年は11.2%と増加していた.<問題点>眼科医の参加が少ない.保健師と視能訓練士の参加は合計で過半数であるが,日本視能訓練士協会の調査では視能訓練士の二次健診への参加は9.4%と少なく,保健師と看護師が大半を占めていた.IV一次健診(家庭)の視力検査筆者らは,2004年8月から2005年2月に10カ所の保健所で三歳児健診の受診児265名の保護者に家庭での視力検査について聞き取り調査を行った.その後,視能訓練士が,裸眼視力検査と調節非麻痺下での手持ち型オートレフラクトメーターによる屈折検査を行った.①家庭で視力検査を実施したか?<現状>249名(94%)が視力検査を実施していたが,16名(6%)は未実施であった(図6).<問題点>未実施の保護者に理由を聞くと,郵送されてきた説明書を読まなかったという理由が多かった.②家庭で視力検査は可能であったか?<現状>視力検査を実施した249名中,検査可能であったのは189名(76%)であった.家庭で保護者が視力検査できなかった児は60名(24%)であったが,視能訓練士が視力検査を行うとそのうち42名(70%)が検査可能であった(図6).<問題点>3歳児の視力検査は,成人の視力検査よりむずかしく正確に行うには技術を要する.健診はスクリーニングなので,児が慣れた場所である家庭で保護者が0.1と0.5の視標を用いて一次健診としての視力検査を行うのは意義があると考えるが,保護者の視力検査が不可であった児のうち42名(70%)は視能訓練士の視力検査は可能であったことから,やはり,3歳児の視力検査を,視力検査を初めて行う保護者が正確に実施するのはむずかし(11)図4二次健診・精密健診の受診児数と眼異常児数二次健診の受診児は44.4%であった.精密健診が必要と判断された児のうち,実際に精密健診を受診した児は61.6%であった.精密健診を受診した児のなかで眼異常が発見された児は63.6%であった.(日本眼科医会公衆衛生部の報告3)より)対象児二次健診受診児精密検査必要児精密検査受診児異常発見児80,00060,00040,00020,000065,382名29,046名1,797名1,142名2,915名図5二次健診の実施方法眼科医は4.3%,保健師または視能訓練士が過半数を占めていた.0%50%100%2001年1998年他科医師保健師or視能訓練士8.6%3.62%8.843.6%4.213.4%2.11%7.45%5.51%3.41契約医療機関眼科医その他———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006いのではないかと考えた.③保護者と視能訓練士の視力検査の結果は一致するか?<現状>保護者の視力検査で0.5が見えた(以下0.5OK)であった児134名中126名(94%)は視能訓練士の検査でも0.5OKであった.保護者の検査で0.5が見えなかった(以下0.5未満)55名中38名(69%)は視能訓練士の検査では0.5OKであった(図6).<問題点>保護者の検査で0.5未満であった児のなかには,保護者の検査技術が0.5OKとならなかった原因の一つであると考える.④家庭での視力検査時,片眼を何で遮閉したか?<現状>手のひらで遮閉したものが最も多く,被検者である3歳児自身の手で片眼遮閉させたのが63名(24%),成人の手が59名(22%)であった.ティシュ66名(25%),ガーゼ24名(9%),ハンカチ19名(7%)などであった(図7).<問題点・改善点>3歳児自身の手で遮閉を行うと,覗く可能性が高いと思われる.視力検査の説明書にイラストなどを追加して3歳児自身の手で遮閉しないよう注意するようにしたい.可能であれば,アイパッチを同封するのが良いと考える.⑤家庭での視力検査時,検査距離は測ったか?<現状>検査距離を測った(実測)のは151名(57%),おおよそで検査を行った(目測)のは114名(43%)であった.実測群では,0.5OKが保護者,視能訓練士でそれぞれ125名(83%),134名(89%)でほぼ一致した結果であったが,目測群では0.5OKは保護者60名(53%),視能訓練士105名(92%)と視力検査の結果に差が生じた(図8).手のもどこ%4236名手の人成95名%22ュシィテ66名%52ゼーガ%9ハンカチ%73紙スプーン3その他%5眼帯2%%%42名8名8名5名31名91名図7何で片眼遮閉したか?3歳児の手で遮閉した者が24%いた.(12)図6一次健診(保護者)と視能訓練士による視力検査検査可189名検査不可24%76%視力検査実施249名94%視力(0.5)OK71%0.5未満29%0.5OK69%70%検査可70%可56%134名0.5OK126名94%8名55名38名17名18名42名9名7名16名60名保護者視能訓練士未実施0.5OK100%0.5100%———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???<問題点・改善点>検査距離が違うと当然視力値も違ってくる.家庭での視力検査を正確に行うために2.5mの糸を視標とともに郵送するなどの工夫が必要である.⑥視力だけでスクリーニングしてもよいのか?<現状>調節非麻痺下で手持ち型オートレフラクトメーター(レチノマックスKプラス?)で屈折検査を行ったところ,保護者,視能訓練士ともに0.5OKであった126名中12名(15眼)に+2D以上の遠視,1.5D以上の乱視,2D以上の不同視のいずれか1つ以上が認められた.屈折異常を認めた12名15眼を,視能訓練士が測定した裸眼視力別に図9に示す.<問題点・改善策>やはり,裸眼視力だけでは屈折異常の取りこぼしの危険がつきまとう.可能であれば,オートレフラクトメーターなどで屈折検査を併用していきたいものである.しかし,健診の場で調節麻痺剤は使用しにくい.調節の介入を考慮すると調節非麻痺下での屈折検査のみでは安心できない.視力と屈折値との総合的な判定が必要である.V島々からなる眼科医不在のA町の三歳児視覚健診受診状況や一次健診としての家庭での視力検査についての聞き取り調査では,105名中38名(36.2%)が家庭での視力検査を施行していなかった.また,その38名中20名は保健センターで行う二次健診も受診していなかった.一次健診の普及と二次健診の充実が課題の一つである.文献1)湖崎克,内田晴彦,三上千鶴:3歳児健康診査における視力検査の検討.臨眼24:211-217,19702)丸尾敏夫,神田孝子,久保田伸枝ほか:三歳児健康診査の視覚検査ガイドライン.眼臨87:73-77,19933)日本眼科医会公衆衛生部:三歳児眼科健康診査調査報告(Ⅱ).日本の眼科75:169-172,20044)日本眼科医会公衆衛生部:三歳児眼科健康診査調査報告.日本の眼科71:1349-1352,2000(13)図8視力検査の距離は測ったか?実測群の視力検査の結果は視能訓練士の検査とほぼ一致していたが,目測群は差が大きかった.0.5未満17%実測151名57%目測114名43%保護者視能訓練士0.5OK83%26名125名0.5未満47%0.5OK53%54名60名0.5未満11%0.5OK89%17名134名0.5未満8%0.5OK92%9名105名3眼視乱2眼乱遠2眼視乱視遠1眼4眼視乱同不遠1眼視遠1眼視乱1眼裸眼視力0.50.60.70.80.91.0図9裸眼視力0.5以上の児で屈折異常を認めた児