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頭部画像診断の重要性

2006年5月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSa.異形性の有無偽性うっ血乳頭は,共通した特徴がある.生理的陥凹(cup)を欠き,血管は乳頭中央から出て,3分岐,4分岐といった大血管系の異常を伴うことが多い.後天性の視神経乳頭腫脹とは,機械的に,あるいは,循環障害や炎症などの何らかの後天的な原因で軸索流が停滞することによって神経線維束が光学的に混濁した結果,検眼鏡的に視神経乳頭が腫れたようにみえる(discedema).後天性の腫脹は,この傍乳頭神経線維層の混濁の有無を評価判断することにある.異形性に基づく視神経乳頭の隆起は,神経線維束によって乳頭は隆起していても神経線維束には混濁はなく,乳頭縁に直交して放射状に走る網膜神経線維束のキラキラとした光学的反射を認めることができる.視神経乳頭上の静脈の自発拍動を認めれば,先天異常を支持する所見であるが,先天性か後天性かの決定は,決して一つの所見に基づくのではなく,両者の鑑別点を比較して総合的に判断する.異形性をもった視神経乳頭は“偽性”うっ血乳頭とよばれるが,真のうっ血乳頭を否定するものではない.一つでも疑わしい点があれば,うっ血乳頭除外のため頭部画像検査を施行する.b.うっ血乳頭の除外診断検眼鏡的にdiscedemaを認めた場合,鑑別診断は山のようにある1).見た目の様子だけからでは原因疾患は特定できない.診断には神経眼科の基本ルール,ことに視力と視野検査が役立つ(表1).視神経疾患に伴う視野はじめに視神経疾患は,現病歴から,視力,瞳孔,視野,色覚,眼底検査を含めた神経眼科的所見をもとに最も考えうる臨床診断から,超音波検査や蛍光造影眼底撮影などの眼科外来検査やコンピュータ断層撮影(CT)や磁気共鳴画像法(MRI)といった画像検査を用いて鑑別を進め,必要に応じて,脳脊髄液の検査や神経内科医による診察を踏まえて総合的に患者を評価して初めて診断が可能となる.本稿では,頭部画像検査の必要な視神経疾患について,視神経乳頭の検眼鏡的所見をもとにまとめる.視神経乳頭の検眼鏡による鑑別診断視神経乳頭は,検眼鏡的に乳頭の隆起(elevation)の有無から診断を進める.1.隆起した視神経乳頭隆起した視神経乳頭(elevateddisc)を見れば,何はさておき,脳脊髄液圧亢進によるうっ血乳頭(papillede-ma)を除外しないといけない.うっ血乳頭は,脳神経学的な緊急状態を意味する.時間をおかずにただちに頭部画像検査が必要である.隆起した視神経乳頭(elevateddisc)は,まず,本当に視神経乳頭が腫れているかどうか,視神経乳頭の腫脹(discswelling)の有無を決定する.異形性の有無について,視神経乳頭の先天的形成異常である偽性うっ血乳頭(pseudopapilledema)を鑑別する.(9)???*SatoshiKashii:大阪赤十字病院眼科〔別刷請求先〕柏井聡:〒543-8555大阪市天王寺区筆ヶ崎町5-30大阪赤十字病院眼科特集●視神経疾患と乳頭所見─異常所見の鑑別法あたらしい眼科23(5):571~576,2006頭部画像診断の重要性?????????????????????????????????????????????????????????柏井聡*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006障害は,網膜神経線維束の走行に沿った欠損をつくることが知られている.疾患に応じて網膜神経節細胞の脆弱性が異なり,遺伝性や中毒性視神経症のように視力に関わる乳頭黄斑線維束が障害されると視野上,盲・中心暗点をつくり,緑内障や慢性うっ血乳頭では視力は保存され,網膜神経線維束が好んで障害される.こうした背景疾患をもとに生じる視力や視野障害は両眼性が原則である.一方,成人の視神経炎や非動脈炎性前部虚血性視神経症では単眼性発症が中心である.ここで,注意を要するのは,初期うっ血乳頭である.脳圧亢進に基づいて軸索流が渋滞し視神経乳頭が腫脹するが,初期では,必ずしも,両眼同時に発症するわけではなく左右差がある点である.軸索流の渋滞だけでは視機能障害は生じず,視神経乳頭周囲の隆起した網膜に基づく屈折性の暗点形成による盲点拡大が初期症状であるので,機能的な障害の認められない患者では,単眼性でも傍乳頭神経線維層の混濁を認めれば,うっ血乳頭の可能性がある.「うっ血乳頭は視力障害をきたさない」というルールは,小児に“中途半端”にあてはめてはいけない.成人では,頭蓋咽頭腫や胚細胞腫は,大きな腫瘤を形成することはまれだが,小児では腫瘍の進展に伴い第3脳室のMonro孔を閉塞しうっ血乳頭をきたすことがある.このように原発病変によっては視神経/視交叉を障害することがあるので,注意が必要である.また,小児の視神経炎は成人と異なり両眼発症が多いので「両眼性の視神経炎」に見えても,「うっ血乳頭と視力障害」が共存していることがあるため,小児の視神経炎ではうっ血乳頭を,ただちに,頭部画像検査によって除外しないといけない.したがって,両眼性は言うまでもなく単眼性でも視機能の良好な“微妙な”subtlediscedemaは,うっ血乳頭を除外するため,頭部の画像検査を行い,脳内占拠性病変を除外する必要がある.c.単眼性視神経乳頭腫脹脳圧亢進によるうっ血乳頭(papilledema)だけでなく視神経を取り巻くくも膜下腔の内圧が局所的に上昇しても視神経の軸索流が障害され検眼鏡的に視神経乳頭が腫脹(discedema)する.盲点拡大程度で視機能が保存された患者では,subtlediscedemaでも,誰が見てもわかるfull-blowndiscedemaでも,単眼性では浸潤性ないし圧迫性視神経症を除外する.したがって,単眼性discedemaでは「頭部」画像検査だけでは不十分で,眼窩部の画像検査を必ず施行しないといけない.表1脚注のように,通常は,(眼窩部)視神経?髄膜腫を含めて圧迫性視神経症は原則として潜行性進行性の中心視力の低下を伴うのが特徴である.単眼性discedemaに突発性あるいは急性の視力,視野障害をきたした場合は,発赤性腫脹の視神経炎(脱髄性視神経症)や蒼白性腫脹の前部虚血性視神経症が鑑別にあがってくる(表1).患者の年齢とともに確定診断には時間経過が必須となる.d.脳脊髄液圧の測定うっ血乳頭は検眼鏡的所見から疑って,実際に脳圧を測定しない限り診断は確定しない.頭部画像が正常であるからといって,脳圧が正常であるとは言えない.必ず,専門医に依頼し腰椎穿刺のうえ,脳圧を測定する.脳圧が亢進しているにもかかわらず,頭部画像上,占拠性病変が認められない場合,特発性および二次性頭蓋内圧亢進症を鑑別することになる2).ことに脳静脈洞閉塞(10)表1視神経疾患の視力と視野の特徴■両眼性1.中心視力の低下(+):乳頭黄斑線維束障害型(盲中心暗点)中毒性視神経症遺伝性視神経症(Leber遺伝性視神経症など)栄養障害性視神経症2.中心視力の低下(-):非乳頭黄斑線維束障害型(神経線維束障害型欠損)原発開放隅角緑内障慢性うっ血乳頭■単眼性3.中心視力の低下(±):混合型=乳頭黄斑線維束+神経線維束欠損型圧迫性視神経症外傷性視神経症急性緑内障視神経炎*虚血性視神経症*網膜中心動脈分枝閉塞症**乳頭黄斑線維束を保存することもある.一方,圧迫性視神経症,外傷性視神経症,急性緑内障では原則として中心視力の低下を伴うと考えてよい.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???症には最近MRvenographyの有用性が報告されているので,脳圧亢進患者の診断にあたっては通常のMRI検査に加えて施行するとよい.2.平坦な視神経乳頭視力や視野障害のある患者の視神経乳頭が検眼鏡的に平坦(?atdisc)なら,病的過程の結果かどうか,まず,先天的な乳頭の異形性の有無をチェックする.乳幼児では乳頭の異形性そのものが,腫瘍などの病的過程の結果生じることがあるので,年齢に応じて対応が異なる.a.異形性の有無乳幼児に乳頭低形成を認めると,成人とは対応がまったく異なる.これは,視神経乳頭低形成は,網膜神経節細胞の未発達,アポトーシスと関連し発達途上で,視交叉の構造異常(deMorsier症候群)や腫瘍(頭蓋咽頭腫や視神経膠腫)によってシナプスが形成できないと視神経乳頭低形成となるからである3).4歳までは全例頭部MRI検査を行い,透明中隔欠損(無害性),異所性下垂体後葉(下垂体前葉ホルモン低下症),大脳半球性異常(神経機能発達不全)などに注意する.deMorsier症候群ではプロラクチンの上昇で生後3~4歳までは正常の成長範囲内となることがあるので,4歳以降の正常発育児の乳頭低形成例では,小学生高学年までは体重と身長の成長曲線を記録するように母親に指導する.小児乳頭低形成において,年齢にかかわらず,進行性の視力・視野障害や視神経萎縮を認めたときは,潜在性の悪性疾患を考え,ただちに,視交叉の画像検査を行う.成人において,網膜神経線維束欠損型の視野異常に視神経乳頭の低形成などの異形性を認めると先天的な視野障害が示唆され,たまたま検査で発見されて視野障害に気づいた場合が多い4).典型的なdoubleringsignは診断が容易であるが,部分的な場合に低形成乳頭を取りまく色素輪を視神経萎縮と見誤られることがある.屈折性暗点を呈するlaterallytilteddiscsyndromeを含めて乳頭の形成異常や低形成に基づく視野障害は正中線を無視した視野欠損となることが多い.成人の視神経乳頭の形成異常例では,視野障害が進行性であるかどうか,必ず間隔を開けて視野の経時的変化を追うことが大切である.神経線維束欠損性の視野では初診の眼底検査だけでは正常眼圧緑内障を除外するものではないからである.b.視神経萎縮の有無視神経萎縮の鑑別診断は,生命的予後とも関連して実地臨床上まず何をおいても視神経の圧迫性病変を除外しないといけない.特に,視神経萎縮をきたす代表的疾患の緑内障では治療によっていくらうまく眼圧下降が得られても一旦消失した視機能は戻らない.圧迫性視神経症では手術的に減圧すれば視力,視野が著明に改善することが古くから知られており,失明の予防からも,早期に正しく診断することは眼科医として大切な責務である.視神経萎縮(opticatrophy)とは,何らかの不可逆的傷害の結果,網膜神経節細胞の軸索の消失が検眼鏡的に認められる状態を指す.したがって,視神経萎縮は,検眼鏡的な視神経乳頭部の色調が退色ないし網膜神経線維層の厚みが菲薄化した状態を指す臨床的呼称で診断名ではない検眼鏡的な乳頭の色調は乳頭の構造血管を反映しているので,乳頭の大きさは色調に影響し,大きな視神経乳頭は篩状板が大きいのでそれだけ蒼白化して見えやすい.また,視神経乳頭の耳側は,神経線維の直径が小さく,広く乳頭面上に広がるので,鼻側に比べ蒼白化して見えやすい.したがって,検眼鏡的な視神経乳頭の蒼白化を視神経萎縮と早合点してはいけない.乳頭の色調の蒼白化が視神経萎縮かどうかの判定は視機能障害の有無によって決まる.しかし,最近進歩した画像解析で網膜神経線維層の菲薄化が経時的に証明できれば,今ある検査法では機能障害の進行を検出できなくても,視神経萎縮が有意に進行したと判断できるようになってきた.ただ,一般の実地臨床では,検眼鏡的な視神経乳頭の蒼白化は,単眼性の場合や何らかの機能的な障害〔中心暗点,色覚障害,相対的入力瞳孔反射異常(RAPD)など〕が認められる場合以外は,視神経萎縮の判定はむずかしい.c.圧迫性視神経症の除外眼窩内の圧迫性視神経症では,まれに眼窩後方の病変で乳頭腫脹を認めない場合があるが,多くは片側性の視神経乳頭腫脹をきたす.上記1-c項のように視機能がよく保存されているのと対照的な派手な腫れfull-blowndiscedemaが特徴である.一方,頭蓋内での圧迫性病(11)———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006変は通常は乳頭腫脹をきたさないのが原則で,検眼鏡的に正常なものから視神経萎縮を呈するものまで,検眼鏡的所見のみから診断を下すことは基本的には困難で,視野などの臨床所見が必要である.ただ,Frisen-Hoytの3徴として知られる,(1)潜伏性に徐々に進行する視力障害の(2)視神経萎縮に(3)乳頭毛様静脈(optociliaryveins)を認めれば,検眼鏡的所見のみから,ただちに視神経?髄膜腫と診断できる.確定診断は眼窩部の画像検査による.単純CTで特徴的な石灰化像が描出されれば確定する.眼窩部MRI検査では,脂肪抑制モードにGd(ガドリニウム)造影しないと描出できないので,検査を申し込む際,注意を要する.蝶型視神経萎縮は特徴的だが検眼鏡だけではむずかしく,通常は,耳側半盲から逆に疑って観察しないと“そのように”見えない.d.緑内障性視神経症視神経萎縮の鑑別診断上で,日常,頻度的に最もよく遭遇するのが,緑内障性視神経症である.圧迫性視神経症の除外診断は,緑内障性視神経症をきちんと診断することと表裏一体をなす.緑内障性視神経障害の最も早期の変化は網膜神経線維束欠損(retinalnerve?berlayerdefect:NFLD)である.検眼鏡的な視神経乳頭の萎縮像だけに気を取られていると,緑内障の網膜神経線維束の初期脱落を見逃す.局所的に網膜神経線維束が脱落する緑内障性陥凹では,生理的陥凹の壁面を浸食するように拡大していく.したがって,緑内障では陥凹が蒼白部分(pallor)を越えて,辺縁部(rim)に食い込んでいくため,陥凹形成のほうが蒼白部分より先行していく傾向がある.一方,視神経乳頭より後方で視神経が傷害される圧迫性視神経症では,逆向性変性によるため,視神経乳頭の陥凹の形状とは無関係に萎縮が進み,蒼白部の範囲が生理的陥凹を無視して広がっていく.e.“緑内障”様視神経乳頭(glaucoma-look-a-like)視神経乳頭の陥凹が一見緑内障様に見えても,表2のように,緑内障としては非典型的な所見が認められれば,まず,圧迫性視神経症を除外すべく画像検査を施行する.また,緑内障患者でも当然脳内病変を伴うことが(12)表2“緑内障”様の陥凹で画像検査が必要な所見1.一眼に限局2.陥凹を越える辺縁部蒼白化(rimpale)3.半盲(1/4盲)性視野欠損4.陥凹の進行に先立つ視力低下や色覚異常図1症例(67歳,男性)の紹介1カ月前のGoldmann動的視野検査視力はVD=(0.8),VS=(0.5),右眼の耳下側にはI3eのイソプターで固視点に向かう垂直正中線を守る欠損が認められる.左眼はV4eでは耳側周辺部穿破型欠損だが,よく見るとI3eで垂直経線を守る耳側半盲パターンをすでに呈している.すでにこの段階で,左側視交叉の前部を横断性に右側視交叉の前上方にかけて圧迫性病変の存在が示唆される.LR———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???(13)ab図4症例(67歳,男性)の頭部MRI(Gd造影T1強調画像)a:軸性断で視交叉上方のGdでよく造影される腫瘤(矢印)を認める.b:冠状断でGd造影される第3脳室間から視交叉上部の腫瘤(矢印)につながり,さらに下垂体柄に沿って広がる転移性腫瘍がよくわかる.本例のように圧迫性視神経症では早期から中心視力が低下する傾向がある.LR図2症例(67歳,男性)の紹介受診時のHumphrey静的視野検査(SITA-fast24-2)視力はVD=(0.07),VS=(0.5)と,右眼の中心視力が高度に障害され,静的中心視野検査で図1当時と比べると右眼の正中線を越える下鼻側の欠損が目立つ.左眼はGoldmannで認められた耳側半盲を示している.上方はグレースケール表示,下方はパターン偏差確率プロット図.LR*図3症例(67歳,男性)の紹介受診時の視神経乳頭のカラー写真右眼(R)の乳頭陥凹は細隙灯で見ると下方の浸食性の進展がよくわかるが,蒼白調の部分は陥凹の中心部に限局しており浸食側の底部(*)の色調は良好な緑内障のごく早期の変化を呈している(centralpallor).左眼(L)の視神経乳頭は浸食型陥凹を乗り越えて耳側辺縁部が蒼白化(矢印)している(rimpal-lor).右眼の急激な視力障害のわりに視神経乳頭はごく早期の緑内障性変化しか認められないことから,球後性の障害が急激に進行していることが示唆される.左眼の耳側半盲と辺縁蒼白より視交叉前部と両視神経の接合部の圧迫性病変についての画像検査がただちに必要である.———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006ある.そうした例に図1の67歳,男性がある.近医で緑内障の治療を受けていた.2カ月前に肺癌のため呼吸器科に入院,当時VD=(0.8),VS=(0.5),視野は図1のごとくで,眼圧下降が不十分なため点眼薬が追加された.1カ月前より視力障害が急に進行しVD=(0.07),VS=(0.5)となったので紹介されてきた.静的視野検査(図2)で,左眼に明らかに半盲を呈し,検眼鏡的に左眼視神経乳頭の辺縁部蒼白化(図3)が認められ,頭部MRIを調べると視交叉に肺癌の転移性病変(図4)を認めた.眼圧が高値を示し,検眼鏡的に浸食性(undermining)の陥凹を見ると緑内障と反射的に考えやすいが,前医の視野をよく見るとGoldmann動的視野検査(図1)でも正中線を守る半盲性視野欠損を呈している.もちろん,緑内障でも半盲性欠損を呈することがあるが,正中線を守る視野欠損は,緑内障患者であろうとなかろうと,ただちに,視神経~視交叉の圧迫性ないし浸潤性視神経症を除外しないといけない5).視交叉前部の圧迫性視神経症では早期から視力低下を自覚するのが特徴で,同じ視力1.0でも反対眼と比べて「見えにくい」と訴えることが多い.また圧迫性病変の視力障害の大事な特徴に右下さがりの下降的経過がある.一方,緑内障では進行例を除いて乳頭黄斑線維束は保存されるので,視野検査で神経線維束欠損性の視野に中心視力の低下を伴う場合,外傷や急性視力視野障害の既往がなければ,まず,圧迫性視神経症を除外する必要がある(表1の脚注).おわりに視神経疾患で画像検査が必要な場合,頭部,眼窩部,(14)視交叉部など,どの部位の画像検査か,検査を予約する際にきちんと鑑別診断を念頭に施行しないといけない.圧迫性や浸潤性視神経症を考える場合は,視神経から視交叉について単純だけでなく造影検査を施行しないといけない.うっ血乳頭や半盲性視野を認める場合は,視交叉周辺から後頭葉を含めた頭部画像を造影を含めて検査する.CTは眼窩内を評価するのにはすぐれている.MRIは,脂肪抑制モードにGd造影すれば眼窩先端部の評価にはCTより詳細に見える.頭部の画像検査はMRIが原則である.脱髄病変はT2強調画像で見えるが,眼窩内では脂肪のため単純撮影では見えず,脂肪抑制モードにGd造影が必要である.髄膜腫は単純CTで石灰化が見えるが,MRIでは評価する際はGd造影が必要である.画像検査のオーダーには,具体的に,検査したい部位と疾患名を記載して,放射線医に最適の検査を施行してもらわないと“見えるもの”も見えなくなってしまう.文献1)柏井聡:視神経乳頭炎・浮腫の鑑別診断.臨眼54:102-104,20002)GansM,BurdeRM,KashiiSetal:Idiopathicintracranialhypertensionandpseudotumorcerebri.CurrentOcularTherapy5(edbyFraunfelderFT,RoyFH),p217-219,WBSaunders,Philadelphia,20003)KashiiS,KikuchiM,HashimotoTetal:Achildwithhypoplasticopticdiscwhohadasuprasellartumor.神経眼科14:98-106,19974)KashiiS,dGaunnttC,MatsumotoMetal:Acaseofatilteddiscsyndrome.神経眼科11:348-356,19945)KashiiS,dGaunnttC,ShimizuHetal:Acaseofnasalvisual?elddefect,inwhichglaucomawassuspected.神経眼科11:86-95,1994

視神経乳頭陥凹拡大がみられたらどうするか?

2006年5月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSが,立体的に観察できない場合は乳頭表面の小血管の屈曲する部位を参考にして陥凹縁を決定する.乳頭縁は乳頭周囲にある白色の強膜リングの内側縁により決定することができる.正常眼の乳頭の形状はやや縦長の楕円形が多い(図1)6).乳頭辺縁部〔neural(neuroretinal)rim〕は,乳頭縁と乳頭陥凹縁との間の部位で,おもに神経線維から構成されている.正常眼の乳頭辺縁部はオレンジ色またはピンク色で,その色調はほぼ一定である.正常眼では,乳頭陥凹の形状はやや横長の楕円形が多く,乳頭辺縁部の幅は広い順に,下側,上側,鼻側,耳側とされる(ISN?Tの法則)6)が,大きな乳頭や近視眼などではこの法則は必ずしも当てはまらない.乳頭蒼白部(pallor)は乳頭陥凹底で色調のコントラストが最も強く蒼白な部位である.正常眼の生理的乳頭陥凹では乳頭の蒼白部は陥凹にほぼ一致するか,あるいはそれよりもやや小さい.乳頭陥凹の大きさは乳頭の大きさに関係し,一般に乳頭が大きいほど陥凹は大きくなる.正常眼の乳頭径に対する陥凹径の比(cup/discratio:C/D比)は多くの場合0.3以下で,C/D比が0.7以上は全体の1~2%に過ぎないとされている7).正常者の乳頭陥凹は左右眼で対称的で,C/D比の左右差が0.2を超えるものは全体のわずか1%とされている7).通常正常眼では水平C/D比が垂直C/D比よりも大きい6).乳頭辺縁部の大きさも乳頭の大きさに関係し,一般に乳頭が大きいほど辺縁部も大きくなる.はじめに2000~2001年にわが国で行われた大規模な緑内障疫学調査(多治見スタディ)により,40歳以上の緑内障の有病率は5.0%であること,さらに緑内障の72%が原発開放隅角緑内障(広義)の正常眼圧群,いわゆる正常眼圧緑内障(normal-tensionglaucoma:NTG)であることが示された1,2).わが国に多いNTGの視神経障害と視野障害は,基本的に進行性,非可逆的であり,本症の早期診断,早期管理は重要課題となっている3).NTGの診断には,緑内障性視神経乳頭(乳頭)陥凹拡大など,緑内障性乳頭変化の検出が不可欠である.しかし,緑内障類似の乳頭陥凹拡大を呈する緑内障以外の先天性あるいは後天性疾患がいくつかあり,乳頭変化が緑内障によるものか否かの判定が容易でない場合がある4,5).本稿では,「視神経乳頭陥凹拡大がみられたらどうするか?」と題し,まず正常眼と緑内障眼の乳頭所見について述べ,正常眼圧,開放隅角で,緑内障類似の乳頭陥凹拡大がみられた場合を仮定し,乳頭陥凹の診かたについて解説する.I正常眼と緑内障眼の乳頭所見網膜と平行に走行してきた神経線維は乳頭表面で後方へ屈曲し,乳頭のほぼ中央に凹みを形成するが,この凹みが乳頭陥凹(opticcup)である.乳頭陥凹縁は神経線維が乳頭内で急激に後方へ屈曲する部位とされている.乳頭陥凹縁の決定には乳頭の立体的な観察が必要である(3)???*MotohiroShirakashi:新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野〔別刷請求先〕白柏基宏:〒951-8510新潟市旭町通1-757新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野特集●視神経疾患と乳頭所見─異常所見の鑑別法あたらしい眼科23(5):565~570,2006視神経乳頭陥凹拡大がみられたらどうするか???????????????????????????????????????????????????????白柏基宏*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006(4)図3緑内障眼の乳頭(2)同時立体眼底写真.乳頭陥凹はびまん性に拡大している.乳頭辺縁部はびまん性に菲薄化しているが,下耳側に切れ込みがあり,乳頭陥凹の下掘れもみられる.乳頭陥凹の下掘れの部位を走行する血管は強く折れ曲がっている.下耳側に乳頭出血がみられ,それに一致して楔状の網膜神経線維層欠損がみられる.図1正常眼の乳頭同時立体眼底写真.図2緑内障眼の乳頭(1)同時立体眼底写真.乳頭陥凹はびまん性に拡大している.乳頭陥凹の下掘れと強膜篩板孔の露出がみられ,陥凹の下掘れの部位を走行する血管は強く折れ曲がっている.乳頭辺縁部はびまん性に菲薄化しているが,下耳側に切れ込みがあり,それに一致して楔状の網膜神経線維層欠損がみられる.図4緑内障眼の乳頭(3)同時立体眼底写真.乳頭陥凹はびまん性に拡大している.乳頭辺縁部はびまん性に菲薄化しているが,特に上耳側で薄く,それに一致して楔状の網膜神経線維層欠損がみられる.耳側に大きな乳頭周囲網脈絡膜萎縮がみられる.図5緑内障眼における乳頭の陥凹拡大と蒼白部拡大一般に緑内障眼では乳頭の陥凹拡大が蒼白部拡大に先行する.検眼鏡的に,乳頭陥凹縁は乳頭表面の小血管の屈曲部位により決定する(①の破線)が,乳頭陥凹縁を蒼白部により決めて陥凹の変化を評価する(②の破線)と,陥凹の変化を過小評価する危険がある.①②表1緑内障眼の乳頭および乳頭周囲所見乳頭乳頭陥凹の拡大乳頭辺縁部の菲薄化乳頭陥凹の下掘れ強膜篩板孔の変形と露出乳頭蒼白部の拡大乳頭出血乳頭上網膜血管の変化(bayoneting,鼻側偏位,overpass,baring)乳頭周囲網膜神経線維層欠損乳頭周囲網脈絡膜萎縮———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???緑内障眼では神経線維の消失に伴い,乳頭陥凹が徐々に拡大する(図2~5,表1).乳頭陥凹拡大には,びまん性拡大と局所性拡大があるが,一般に両者が組み合わさった場合が多い.通常緑内障初期では乳頭陥凹は水平方向に比し垂直方向へ優位に拡大する.乳頭陥凹の局所性拡大は乳頭の上耳側または下耳側にみられることが多い.緑内障の進行に伴い,乳頭辺縁部は徐々に菲薄化し,その色調は蒼白化していく.乳頭辺縁部の菲薄化には,びまん性菲薄化と局所性菲薄化がある.乳頭辺縁部のびまん性菲薄化は乳頭陥凹のびまん性拡大に対応する.乳頭辺縁部の局所性菲薄化は乳頭陥凹の局所性拡大に対応し,辺縁部に楔状の切れ込み(notching)を形成する.緑内障の進行に伴い,乳頭陥凹の深さも増加し,陥凹の下掘れ(undermining)や強膜篩板孔の変形と露出(laminardotsign)がみられるようになる.乳頭蒼白部も徐々に拡大するが,一般に乳頭の陥凹拡大が蒼白部拡大に先行する(図5).乳頭陥凹が,その内側に蒼白な凹みを保持したまま,カップの受け皿状に拡大することがある(saucerization).乳頭の陥凹拡大や辺縁部菲薄化に対応し,乳頭周囲に網膜神経線維層のびまん性または局所性欠損がみられることがある.緑内障眼では乳頭出血(dischemorrhage)がみられることがある(図3)8,9).乳頭出血は乳頭上や乳頭に隣接する網膜上にみられる小さな線状の出血で,上耳側または下耳側に多くみられ,乳頭辺縁部の楔状の切れ込みや網膜神経線維層欠損の存在部位と一致してみられることが多い.乳頭辺縁部の高度の菲薄化や乳頭陥凹の下掘れが生ずると,この部位を走行する乳頭上血管は強く折れ曲がる(bayoneting).支持組織の消耗に伴い,乳頭上血管は鼻側へ偏位していく(nasaldisplacement).乳頭上血管が乳頭陥凹壁から離れて橋状に走行することがあり(vesseloverpass),本来乳頭陥凹縁に沿って走行する乳頭上血管が陥凹縁から離れて走行することもある(baringofthecircumlinearvessel).緑内障眼では乳頭周囲網脈絡膜萎縮〔peripapillary(parapapillary)chorio-retinalatrophy〕がみられることがある(図4).乳頭周囲網脈絡膜萎縮は乳頭のより遠位に存在するzonealphaとより近位に存在するzonebetaの2つに分類され,検眼鏡的にはzonealphaは色素の濃淡が混在する部位,zonebetaは脈絡膜および強膜が透見される部位である10).II乳頭陥凹の診かた(正常眼圧,開放隅角,緑内障類似の乳頭陥凹拡大の場合)正常眼圧,開放隅角で,緑内障類似の乳頭陥凹拡大がみられた場合,NTGを疑う必要があるが,生理的乳頭陥凹拡大やその他の先天性あるいは後天性疾患による乳頭陥凹拡大のこともあり,診断には注意を要する.診断は,視神経所見のみに基づいて行うのではなく,視野所見など,その他の検査所見を併せた総合的評価により行う必要がある3).NTGと診断するために視神経所見や視野所見の悪化を確認せざるをえない場合があり,診断のための経過観察も重要となる.以下に,正常眼圧,開放隅角で,緑内障類似の乳頭陥凹拡大がみられた場合を仮定し,乳頭陥凹の診かたについて述べる.眼底検査により乳頭を詳細に観察するには,十分な光量と高い倍率が必要である.乳頭を三次元的に評価することが重要で,そのためには乳頭の立体的な観察が必要である.散瞳後,まず倒像鏡を用いて眼底を周辺部まで観察し,網脈絡膜の異常の有無を調べる.つぎに細隙灯顕微鏡と補助レンズ(78D,90Dなどの非接触型レンズまたはGoldmann三面鏡などの接触型レンズ)を用いて乳頭を立体的に観察する.乳頭の形状,表面の形状(陥凹と辺縁部),色調(陥凹底と辺縁部の蒼白性),血管の走行などを観察するほか,NTGでは乳頭出血が高頻度にみられること8)から,その有無も観察する.網膜神経線維層欠損,乳頭周囲網脈絡膜萎縮など,乳頭周囲の異常の有無も観察する.視神経所見は同一眼の上下耳鼻側で比較し,さらに左右眼で比較する.眼底カメラ(同時立体眼底カメラを含む)を用いた視神経所見の観察と記録は有用である.眼底画像解析装置を用いた乳頭や網膜神経線維層の定量的評価は診断の補助的手段として有用である.一般に緑内障眼では乳頭の陥凹拡大が蒼白部拡大に先行する,すなわち,陥凹拡大と蒼白部拡大は一致しないことから,陥凹縁を蒼白部により決めて陥凹の変化を評価すると,陥凹の変化を過小評価する危険がある(図5).通常緑内障初期では乳頭陥凹は水平方向に比し垂直(5)———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006方向へ優位に拡大するため,陥凹の大きさをC/D比を用いて評価する場合,水平C/D比よりも垂直C/D比が有用である.乳頭陥凹拡大の基準として,垂直C/D比が0.7以上,あるいは垂直C/D比の左右差が0.2以上などが用いられている1,2).しかし,乳頭陥凹の大きさは乳頭の大きさに関係し,一般に乳頭が大きいほど陥凹は大きくなり,C/D比も大きくなることから(図6)11),陥凹の大きさやC/D比が大きくても正常の場合があり,反対に陥凹の大きさやC/D比が小さくても異常の場合がある.したがって,乳頭陥凹の大きさやC/D比の評価は乳頭の大きさを考慮して行う必要がある.なお,乳頭中心から黄斑部中心窩までの距離はほぼ一定であることから,眼底写真を用いて乳頭径(discdiameter:DD)に対する乳頭中心から中心窩までの距離(disc-maculardistance:DM)の比,DM/DD比を求めることにより,乳頭の大きさを大まかに評価することができる(図7)12).DM/DD比の正常値は2.4~3.0とされ,DM/DD比が2.4より小さい場合は大きな乳頭,3.0より大きい場合は小さな乳頭と判定される12).緑内障眼では視神経所見に対応した視野所見がみられ,両所見には整合性がある(図2,8).したがって,乳頭陥凹拡大がNTGによるものと診断する際も,視神経障害と視野障害の部位と程度が一致することを確認し,整合性がみられない場合は,眼底と視野を再検査するとともに,NTG以外の疾患を検索する必要がある.乳頭陥凹拡大がみられても,垂直経線を境とした視野障害がみられる場合,中心視野障害や視力低下がみられ,これらが比較的急速に進行する場合などでは,頭蓋内疾患による視神経障害も疑い,画像診断による頭蓋内疾患の検索を行う必要がある.(6)図6乳頭の大きさと陥凹の大きさ乳頭が大きいほど,陥凹およびC/D比は大きくなる(乳頭辺縁部の大きさは一定と仮定した場合).(文献11より)C/D=0.2C/D=0.5C/D=0.8a2a1b図7DM/DD比乳頭径[DD=(a1+a2)/2]に対する乳頭中心から黄斑部中心窩までの距離(DM=a1/2+b)の比,DM/DD比を求めることにより,乳頭の大きさをおおまかに評価することができる.DM/DD比の正常値は2.4~3.0で,DM/DD比が2.4より小さい場合は大きな乳頭,3.0より大きい場合は小さな乳頭と判定される.(文献12より)図8緑内障眼の視野Humphrey30-2全点閾値検査(図2と同一眼).上半視野に弓状暗点と鼻側階段がみられ,視神経所見に対応した視野所見である.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???NTGの乳頭陥凹拡大との鑑別が最も問題となるものとして,生理的乳頭陥凹拡大があげられる(図9).生理的乳頭陥凹拡大では,乳頭が大きいものが多く,乳頭陥凹縁は整っており,乳頭辺縁部の蒼白性や網膜神経線維層欠損はみられない.乳頭陥凹の大きさの左右差は少なく,C/D比の左右差が0.2を超えることは少ない.日本人に多い強度近視眼では著明な網脈絡膜萎縮を伴った乳頭陥凹拡大がみられることがある.この場合も,NTGの乳頭陥凹拡大との鑑別が問題となるが,一般に乳頭の初期緑内障性変化の検出は容易ではなく,併発する網脈絡膜萎縮などによる視野異常がみられることがあり,視野所見の評価には注意が必要である.乳頭陥凹の局所性拡大または乳頭辺縁部の局所性菲薄化がみられる場合,その乳頭内における位置を把握する必要がある.先天性の視神経低形成であるsuperiorsegmentaloptichypoplasia(SSOH)では乳頭辺縁部の局所性菲薄化がみられ,NTGとの鑑別が問題となるが,NTGでは乳頭辺縁部の局所性菲薄化は上耳側または下耳側に多いのに対し,SSOHでは上鼻側の乳頭辺縁部の菲薄化が特徴的である13).乳頭の色調が陥凹に比して蒼白な場合,すなわち蒼白部が陥凹よりも大きい場合,NTG以外の疾患を疑う必要がある.側頭動脈炎に発症した前部虚血性視神経症では緑内障類似の乳頭陥凹拡大がみられることがあるが,乳頭全体の蒼白化が特徴的である.動脈瘤や腫瘍などで視神経が圧迫されている場合でも,緑内障類似の乳頭陥凹拡大がみられることがあるが,通常乳頭の蒼白部が陥凹より大きい.おわりに本稿では,「視神経乳頭陥凹拡大がみられたらどうするか?」と題し,まず正常眼と緑内障眼の乳頭所見について述べ,正常眼圧,開放隅角で,緑内障類似の乳頭陥凹拡大がみられた場合を仮定し,乳頭陥凹の診かたについて解説した.緑内障類似の乳頭陥凹拡大を呈する緑内障以外の先天性あるいは後天性疾患がいくつかあり,乳頭変化が緑内障によるものか否かの判定が容易でない場合がある4,5).わが国ではNTGはありふれた疾患であるとして,正常眼圧で,乳頭陥凹拡大がみられる症例を安易にNTGと診断してしまう危険性が指摘されている5).診断は,視神経所見のみに基づいて行うのではなく,視野所見など,その他の検査所見を併せた総合的評価により行う必要がある.NTGと診断するために視神経所見や視野所見の悪化を確認せざるをえない場合があり,診断のための経過観察も重要となる.文献1)IwaseI,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryopen-angleglaucomainJapanese:TheTajimiStudy.?????????????111:1641-1648,20042)YamamotoT,IwaseI,AraieMetal:TheTajimiStudyreport2:Prevalenceofprimaryangleclosureandsec-ondaryglaucomainaJapanesepopulation.??????????????112:1661-1669,20053)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン.日眼会誌107:125-157,20034)白柏基宏,八百枝潔,阿部春樹:緑内障眼における眼底所見.図説よくわかる緑内障検査法(三嶋弘,阿部春樹,新家眞,山本哲也編),p56-66,メディカルレビュー社,20035)若倉雅登:緑内障と鑑別を要する視神経疾患の眼底.神眼22:184-193,20056)JonasJB,GusekGC,NaumannGOH:Opticdisc,cupandneuroretinalrimsize,con?gurationandcorrelationsinnormaleyes.?????????????????????????29:1151-1158,19887)ArmalyMF:Geneticdeterminationofcup/discratiooftheopticnerve.???????????????78:35-43,19678)KitazawaY,ShiratoS,YamamotoT:Opticdischemor-rhageinlow-tensionglaucoma.?????????????93:853-857,1986(7)図9生理的乳頭陥凹拡大同時立体眼底写真.乳頭は比較的大きい.乳頭陥凹縁は整っており,乳頭辺縁部の蒼白性や網膜神経線維層欠損はみられない.———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.5,20069)YamamotoT,IwaseI,KawaseKetal:Opticdischemor-rhagesdetectedinalarge-scaleeyediseasescreeningproject.??????????13:356-360,200410)JonasJB,NguyenXN,GusekGCetal:Parapapillarycho-rioretinalatrophyinnormalandglaucomaeyes:I.Mor-phometricdata.?????????????????????????30:908-918,198911)EuropeanGlaucomaSociety:Opticnerveheadandreti-nalnerve?berlayer.TerminologyandGuidelinesfor(8)Glaucoma,IIndedition,p1.16-1.23,Dogma,200312)WakakuraM,AlvarezE:Asimpleclinicalmethodofassessingpatientswithopticnervehypoplasia:Thedisc-maculadistancetodiscdiameterratio(DM/DD).???????????????65:612-617,198713)YamamotoT,SatoM,IwaseA:SuperiorsegmentaloptichypoplasiafoundinTajimiEyeHealthCareProjectpar-ticipants.????????????????48:578-583,2004眼科領域に関する症候群のすべてを収録したわが国で初の辞典の増補改訂版!〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544メディカル葵出版株式会社A5判美装・堅牢総360頁収録項目数:509症候群定価6,930円(本体6,600円+税)眼科症候群辞典<増補改訂版>内田幸男(東京女子医科大学名誉教授)【監修】堀貞夫(東京女子医科大学教授・眼科)本書は眼科に関連した症候群の,単なる眼症状の羅列ではなく,疾患自体の概要や全身症状について簡潔にのべてあり,また一部には原因,治療,予後などの解説が加えられている.比較的珍しい名前の症候群や疾患のみならず,著名な疾患の場合でも,その概要や眼症状などを知ろうとして文献や教科書を探索すると,意外に手間のかかるものである.あらたに追補したのは95項目で,Medlineや医学中央雑誌から拾いあげた.執筆に当たっては,眼科系の雑誌や教科書とともに,内科系の症候群辞典も参考にさせていただいた.本書が第1版発行の時と同じように,多くの眼科医に携えられることを期待する.(改訂版への序文より)1.眼科領域で扱われている症候群をアルファベット順にすべて収録(総509症候群).2.各症候群の「眼所見」については,重点的に解説.3.他科の実地医家にも十分役立つよう歴史・由来・全身症状・治療法など,広範な解説.4.各症候群に関する最新の,入手可能な文献をも収載.■本書の特色■

序説:視神経疾患と乳頭所見─異常所見の鑑別法

2006年5月30日 火曜日

———————————————————————-Page1(1)???多治見スタディで40歳以上の日本人の実に3.9%に開放隅角緑内障がみられること1)が明らかにされて以降,日本緑内障学会や眼科医会などの広報活動により,わが国では眼科専門医だけでなく一般の患者や臨床医にも広く緑内障診断の重要性が知られるようになりつつある.また,検診の際に従来は眼圧検査をもとに行われていた緑内障のスクリーニングが,眼底写真の乳頭所見をもとに行われるようになり,乳頭所見から緑内障を疑われて眼科専門医のもとを訪れる患者も急増している.しかし,日本人に多い近視性の乳頭変化や視神経の先天異常でも緑内障類似の乳頭陥凹を呈することがあり,眼科医でも判断に迷うこともしばしばである.そこで本特集では,まず眼圧が正常で視神経乳頭のおかしな患者が来院したとき,まずどのように考え,どのような検査をするかについて,新潟大学の白柏基宏先生に新潟大学での実際の対応法を解説していただいた.また,以前emptysellasyndrome2)や内頸動脈や前大脳動脈による圧迫3)で緑内障類似の乳頭所見や視野変化がみられることが話題になった.そこで,大阪赤十字病院の柏井聡先生に視神経乳頭の形態異常や陥凹拡大があるとき,視神経疾患で頭部のMRI(磁気共鳴画像)などで鑑別が必要なものを具体例とともにをあげていただいた.さらに中毒の際に視神経症を起こすことはよく知られており,特にメチルアルコール中毒慢性期では緑内障類似の乳頭所見を呈する.井上眼科病院の若倉雅登先生には,眼科医に対する中毒性視神経症のアンケート調査を踏まえて,中毒性視神経症診断の注意点について解説していただいた.さて,やはり緑内障性乳頭変化の鑑別で最も注意すべきものは先天異常と近視性変化である.このうち視神経の先天異常で一見緑内障性の楔状視野欠損をきたすものについて千葉大学の藤本尚也先生に解説していただき,本特集共編の山本哲也先生には視神経の先天異常のなかでも特に多治見スタディの際に頻度を実際にカウントしたsuperiorsegmentaloptichypoplasiaについて補足していただいた.頻度はそれほど多くはないが,遺伝性視神経症でも乳頭陥凹が拡大することがある.兵庫医科大学の神野早苗先生にはミトコンドリア遺伝子の点突然変異によるLeber病4)や常染色体の????遺伝子の異常による優性遺伝性視神経萎縮5)で陥凹の拡大がみられるものについて症例提示をお願いした.最も重要なものの一つである近視性変化の乳頭所見と緑内障との鑑別については,つぼい眼科クリニックの坪井俊一先生にお願いした.乳頭傾斜症候群を含め,日本人に多い中等度以上の近視の乳頭変化と緑内障との関係について解説していただいた.岐阜大学の石田恭子先生には,生理的な乳頭陥凹と緑内障性陥凹の異常の境界について乳頭の画像診0910-1810/06/\100/頁/JCLS*OsamuMimura:兵庫医科大学眼科学教室●序説あたらしい眼科23(5):563~564,2006視神経疾患と乳頭所見─異常所見の鑑別法???????????????????????????????─?????????????????????????????三村治*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006断を主に鑑別点をあげていただき,さらに視野所見による緑内障と視路障害に伴う視野障害についても解説していただいた.本特集が,読者の視神経乳頭所見から緑内障を疑う患者の鑑別に役立てば幸いである.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryopen-angleglaucomainJapanese:TheTajimiStudy.?????????????111:1641-1648,20042)BeattieAM,TropeGE:Glaucomatousopticneuropathyand?eldlossinprimaryemptysellasyndrome.????????????????26:377-382,19913)NishiokaT,OkumuraR,IshikawaMetal:Prolapsinggyrusrectusasacauseofprogressiveopticneuropathy.???????????????40:301-309,20004)OpialD,BoelunkeM,TadesseSetal:Leber?shereditaryopticneuropathymitochondrialDNAmutationsinnor-mal-tensionglaucoma.?????????????????????????????????239:437-440,20015)FournierAV,DamjKF,EpsteinDLetal:Discexcava-tionindominantopticatrophy:dilerentiationfromnor-maltensionglaucoma.?????????????108:1595-1602,2001(2)Ⅰ神経眼科における診察法・検査法Ⅱ視路の異常〔1.視神経障害/2.視交叉およびその近傍の病変/3.上位視路の病変〕Ⅲ眼球運動の異常〔1.核上性眼球運動障害/2.核および核下性眼球運動障害/3.神経筋接合部障害/4.外眼筋および周囲組織の異常/5.眼振および異常眼球運動〕Ⅳ瞳孔・調節・輻湊機能の異常〔1.瞳孔・調節機能の異常/2.輻湊・開散機能の異常〕Ⅴ眼窩・眼瞼の異常〔1.眼窩の異常/2.眼瞼の異常〕Ⅵその他〔1.心因性反応/2.全身疾患と神経眼科/3.網膜疾患の接点/4.緑内障との接点/5.各種検査〕Ⅶこれからの神経眼科〔1.視神経移植と再生/2.遺伝子診断と治療/3.実験的視神経炎/4.視神経症の新しい治療法の試み/5.膝状体外視覚系/6.固視微動の解析/7.FunctionalMRI/8.Fibertracking〕新臨床神経眼科学<増補改訂版>【編集】三村治(兵庫医科大学教授)■内容目次■A4変型総312頁写真・図・表多数収録定価21,000円(本体20,000円+税)?メディカル葵出版〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替口座00100-5-69315電話(03)3811-0544(代)FAX(03)3811-0637

Vol.23 No.5(2006年5月号)

2006年5月30日 火曜日

眼科医にすすめる100冊の本-4月の推薦図書-

2006年4月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLSインターネットが普及して,まだ10年余しか経っていません.1995年当時は,ごく限られた研究者が,大学のサーバを利用して通信を行ったり,まだ画像のないホームページを立ち上げたりしていました.それから10年.インターネットはあっという間に私たちの社会にとけこみ,そして,私たちの生活に確実に影響を及ぼしてきました.この本は,この10年でITの世界で起こったこと,現在起こりつつあること,そして,近未来に起こることを予測しています.そのひとつのシンボルとしてこの本のなかで大きく取り上げられているのが,グーグルです.2005年はインターネット10周年の年でした.ヤフー,アマゾン・コム,eベイといった,アメリカのおもなネット企業は1995年に創業されました.それから遅れること3年,1998年にシリコンバレーで創業されたグーグルは「世界中の情報を整理しつくす」というビジョンのもと,情報発電所ともいうべきインフラを構築した会社です.「IT革命」とか「情報スーパーハイウェイ」といった言葉は,バブル崩壊後に死語となりました.このことは,物理的なITインフラである「情報スーパーハイウェイ」を構築すれば「IT革命」が達成されるという,1990年代には常識だったこの世界観が誤っていたことを証明するものです.本当に大切なのは,物理的なITインフラよりも,情報のインフラであることを証明したのが,グーグルでした.グーグルは,圧倒的成長によって,一気に1995年創業組を抜き去って,ネット時代の覇者に躍り出ました.グーグルの時価総額は,2005年10月には十兆円を超えました.いまやグーグル以上の時価総額を有する日本企業はトヨタ自動車だけです.グーグルの創業者二人は1973年生まれで,現在,若干32歳.一方で,マイクロソフトは,創業30周年を迎え,ビル・ゲイツは50歳になりました.彼は,2005年,アメリカタイム誌が選ぶ「今年の人」に選ばれましたが,それは,彼自身が私費を投じた慈善活動が評価されたからです.事業の達成が理由ではありませんでした.これは,マイクロソフトがもう業界の挑戦者ではなくなったということを象徴するできごとかもしれません.このように,アメリカではIT産業における世代交代が確実に進展しています.2004年から2005年にかけては,日本でもライブドア・フジテレビ問題,楽天・TBS問題が大きな話題となりました.楽天やライブドアの若い創業者が時の人となり,表面的にはアメリカと同じく世代交代が進んでいるようにもみえます.しかし,その内実は,日米で大きく違います.アメリカでグーグルが起こしつつある新しいビジネスと,楽天やライブドアのネットビジネスは,実は似ているようでまったく異なるものです.著者は文中で,楽天の三木谷氏やライブドアの堀江氏は,「テクノロジーへの関心が薄い」と指摘します.彼らは,テクノロジーを創造する気はなく,テクノロジーはサービスのために利用するものだ考えています.彼らの展開するネット産業は「生活密着型サービス産業」で,ITを通じて消費者にサービスを提供するという考え方に基づいて展開されています.そこで,彼らが投資するのはテクノロジーではなく,サービスの質や量,種類を増やすことです.一方,グーグルはネット産業を「テクノロジー産業」として考えました.そして,テクノロジーの開発,革新に大きな投資をし続けています.したがって,日本のIT産業のテクノロジー化について考えるときに,楽天やライブドアを対象にするのはお門違いで,実は,日立,東芝,富士通,NEC,ソニー,松下といった,(69)シリーズ─64◆伊藤守株式会社コーチ・トゥエンティワン■4月の推薦図書■ウェブ進化論─本当の大変化はこれから始まる梅田望夫著(ちくま新書)———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006日本のIT産業,エレクトロニクス産業を牽引してきたこれらの大企業に問うのが本筋であろうと著者は言います.アメリカでは,ヤフー,アマゾン・コム,eベイといったネット企業は,圧倒的な技術開発力を背景に斬新なインフラを構築するグーグルに刺激され,技術に大きな投資をするようになりました.ネット産業とは,ただ,ITを利用して早い者勝ちでサービスを展開すればいいものではなく,高度な技術開発で道を拓くべき産業なのだという新しい認識が生まれたのです.産業界全体が技術投資の重要性に気づき,大学での技術開発やベンチャー創造も大いに活性化してきました.ちなみに,グーグルの検索エンジン技術も,二人の創業者がスタンフォード大学に在学中に開発したものです.そして,大学はこの技術の特許をもっており,グーグルにこの検索エンジン技術の使用を認める見返りに,グーグル株を取得していました.2005年,グーグルが株式公開をしたときに,スタンフォード大学はその株を2005年に市場に放出しました.その売却益は四百億円にも上りましたが,この資金は,再び基礎研究や高等教育へと還流していくのでしょう.このようにして,グーグルという怪物を生みだす環境が作られていく.このことこそが,シリコンバレーや米国高等教育の底力なのでしょう.先に述べたようにグーグルの時価総額は,2005年10月には十兆円を超えました.グーグルをメディア企業と考えるのであれば,創業わずか8年で,すでに世界一の存在となったのです.グーグルは新しいネット産業として,象徴的な存在です.しかし,その他にも,同じ方向に向かって躍進する企業はたくさんあります.「不特定多数の意見をどのようなメカニズムで集積すると一部の専門家の意見よりも正しくなるかについての『wisdomofcrowds』(群衆の英知).見知らぬ者同士がネット上で協力して新しい価値を創出する手法『マス・コラボレーション』.ネット上にたまった富をどう分配すべきかという意味での『バーチャル経済圏』….インターネット上の開放空間で,新しい理論の研究から実験システムの開発,さらには事業創造のトライアルまでが繰り広げられ始めたのだ.」(本文より)ウェブの世界はいまも現在進行形で進化を続けています.この10年ですでに社会に大きな変化をもたらしたインターネットですが,著者は本当の大変化はこれから起こると明言します.新しい世界に向かって,いったい何が起こりつつあるかを教えてくれる一冊です.(70)☆☆☆

硝子体手術のワンポイントアドバイス35.硝子体手術時の医原性黄斑裂隙(中級編)

2006年4月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS●増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術中に生じる易凝血性の出血糖尿病患者では血液の凝固能が亢進しており,しばしば硝子体手術中に易凝血性の出血をきたすことがある.凝血塊はバックフラッシュニードルのみで吸引することがしばしば困難である.凝血塊は膜状の硝子体ゲルを介して網膜と癒着していることが多く,不用意な牽引によって医原性裂孔を形成する危険がある.特に中心窩では生理的に網膜硝子体癒着が強固であること,黄斑部に膜状の硝子体皮質が残存しやすいこと,中心窩は網膜厚が薄いこと,などから医原性黄斑裂隙を形成する危険があるので注意が必要である(図1).●医原性黄斑裂隙形成を回避するコツ術中出血を可能なかぎり少なくすることが必要であるが,活動性の高い増殖糖尿病網膜症ではしばしば増殖膜処理時に生じた出血が黄斑部を覆ってしまう.可能であれば黄斑部が出血で覆われる前(つまり増殖膜処理前)(67)にトリアムシノロン塗布により黄斑上の残存硝子体皮質を確実に?離除去しておく.黄斑上の硝子体皮質は通常増殖膜と連続しているので,皮質の?離除去に引き続いて増殖膜処理を行う.黄斑上の硝子体皮質を残存させたまま凝血塊が生じてしまったら,慎重に少しずつ凝血塊を?離除去し,中心窩周囲に集めるようにする.そして中心窩に癒着がないか慎重に確認し,もし癒着が認められれば,強引に引っ張ることは避けて,水平硝子体剪刀で癒着部位を丁寧に切断する.●医原性黄斑裂隙が形成されてしまったら特発性黄斑円孔と異なり,この場合は通常裂隙状となるので,適切な処置により黄斑円孔への進展を予防できることが多い.まず,黄斑裂隙周囲の網膜接線方向の牽引を十分に解除する目的で,トリアムシノロン塗布により残存硝子体ゲルの有無を確認し,ゲルの残存が認められた場合にはダイアモンドダストイレーサーなどで確実に除去する.網膜の器質化,短縮化が認められる症例では,適宜内境界膜?離を併用する.確実な裂隙閉鎖のためにはガスタンポナーデも原則として施行すべきである.これらの処置が不十分な場合には黄斑円孔へと進行することがある(図2a,b)文献1)上村昭典,中尾久美子,岩切直人ほか:増殖糖尿病硝子体手術中の黄斑円孔形成.眼科手術7:633-636,19942)南政宏,植木麻理,廣辻徳彦ほか:増殖糖尿病網膜症の硝子体手術時に医原性黄斑裂隙を形成した1例.眼紀55:140-142,2004硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載○3535硝子体手術時の医原性黄斑裂隙(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図2術中の黄斑裂隙が原因で黄斑円孔に進行した症例a:術前眼底写真.神経乳頭から上方アーケード血管に沿って線維血管性増殖膜を認め,牽引性網膜?離が黄斑部に及んでいた.b:黄斑裂隙周囲の硝子体ゲルの処理が不十分なため,黄斑円孔へと進展した.ba図1硝子体手術中に形成された医原性黄斑裂隙凝血塊が中心窩網膜と癒着しており,不用意な牽引によりスリット状の黄斑裂隙を形成した.

眼科医のための先端医療64.眼表面の自然免疫とToll-like receptors

2006年4月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS自然免疫と獲得免疫細菌やウイルスなどの病原微生物の侵入に対する感染防御機構は,自然免疫と獲得免疫に分類されます.獲得免疫は,抗原特異的Tリンパ球とBリンパ球によって誘導されますが,クローン増殖する必要があるために,機能するまでに数日を要します.これに対して自然免疫は,獲得免疫が働く前の感染早期に働く防御機構です.従来,この自然免疫は,好中球やマクロファージなどの貪食細胞,補体,抗菌物質などを中心とした非特異的防衛機構であると考えられてきました.しかし近年,Toll-likereceptor(TLR)が微生物の構成成分を特異的に認識し,自然免疫において重要な役割を担っていることが明らかとなってきました.Toll-likereceptor(TLR)とはTLRは,蛋白質結合モチーフであるロイシンに富む領域(leucin-richrepeat:LRR)を細胞外に有し,LRRを介して細菌,ウイルス,または真菌といったさまざまな病原微生物の構成成分を認識しています1)(図1).ヒトでは10種類(TLR1~TLR10)のTLRが同定されました.TLR2は,グラム陽性菌の細胞壁に多量に含まれるペプチドグリカン(peptidoglycan:PGN)の1成分であるリポ蛋白質を認識します.TLR1とTLR6は,そのTLR2と共役して,それぞれTLR1はトリアシル基をもつリポ蛋白質を,TLR6は,ジアシル基をもつリポ蛋白質を認識します.さらにTLR2とTLR6は,真菌の細胞壁成分であるチモザン(zymosan)の認識にもかかわります.TLR5は,細菌が遊走する際に使用する鞭毛の構成成分であるフラジェリンを,TLR4はグラム陰性菌の細胞壁成分であるリポ多糖(lipopolysaccha-ride:LPS)をそれぞれ認識します.またTLRは,真菌や細菌のみならずウイルスの構成成分も認識することがわかりました.DNAウイルスのゲノムDNAは,哺乳動物のゲノムDNAと比べて非メチル化CpGモチーフを多量に有しています.その非メチル化CpGDNAは,TLR9によって認識されます.RNAウイルスのなかにはゲノム成分が1本鎖RNAのものが存在し,その1本鎖RNAは,TLR7とTLR8により認識されます.また,RNAウイルスの生活環中に宿主細胞質中で生じ何らかの形で細胞外に放出された二重鎖RNAは,TLR3によって認識されます.さらに最近では,これらのTLRが病原微生物を認識し宿主自然免疫応答を惹起することで,獲得免疫系を効果的に活性化することが明らかとなりました2).自然免疫の異常が炎症性疾患をまねくこのようにTLRを代表とする自然免疫系は感染防御に重要な役割を果たしていますが,最近の研究により自然免疫系が種々の免疫疾患にも深く関与することがわかってきました3).たとえば,IL-10(interleukin-10)はマクロファージなど自然免疫系細胞の活性を抑制しますが,IL-10ノックアウトマウスは大腸炎を発症し4),IL-10のシグナル伝達に必須のSTAT3を自然免疫系細胞を特異的に欠損させた場合も慢性大腸炎が生じます5).このことは,自然免疫系細胞におけるSTAT3の活性化とIL-10シグナル伝達が,生体において慢性炎症を抑(63)◆シリーズ第64回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊上田真由美外園千恵(京都府立医科大学視覚機能再生外科学)眼表面の自然免疫とToll-likereceptors図1さまざまな病原微生物の構成成分を認識するTLR———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006制するのに重要であり,自然免疫系の異常活性化が慢性大腸炎の発症につながることを示しています.眼表面上皮におけるTLRの役割Uetaらが最近行った研究では,角膜上皮はTLR2ならびにTLR4を細胞内に発現しており,それらのリガンドであるPGNならびにLPSに対して炎症性サイトカインを産生しません6).このことは,眼表面には常在細菌が存在するにもかかわらず,健常な状態では炎症を生じないことと関係すると考えられます.また眼表面上皮は,TLR3のリガンドであるpolyI:Cに対しては著しく反応し,炎症性サイトカインならびに抗ウイルス作用のあるII型インターフェロン,すなわちIFN-b(inter-feron-b)を産生します7).その後の解析により角膜上皮は,種々のTLRのリガンドに対してマクロファージなどの免疫担当細胞とは異なった反応をすることが明らかとなってきています.一方,TLRのシグナル因子であり,NF-kBのregulatorの一つであるIkBzのノックアウトマウスは,ゴブレット細胞の消失を伴う眼表面炎症を生後に自然発症します8)(図2).このことより,IkBzは眼表面の炎症制御に深く関与していると考えられ,IkBzを介した自然免疫応答の異常が眼表面炎症を惹起する可能性を今後検討していく必要性があります.今後期待されることTLRは自然免疫において重要な役割を果たし感染防御に大きく関与します.しかし,それだけでなく,TLRを介した自然免疫応答の異常が,眼表面や腸管などの粘膜における炎症および炎症性疾患に深く関与すると考えられます.自然免疫の異常に着目することにより病因・病態のわかっていない眼表面炎症性疾患のメカニズムが解き明かされる可能性があります.自然免疫応答の異常と眼表面の炎症にかかわる研究は始まったばかりですが,今後注目していきたい分野です.文献1)AkiraS,TakedaK:Toll-likereceptorsignalling.???????????????4:499-511,20042)TakedaK,KaishoT,AkiraS:Toll-likereceptors.????????????????21:335-376,20033)InoharaN,NunezG:NODs:intracellularproteinsinvolvedinin?ammationandapoptosis.????????????????3:371-382,20034)KuhnR,LohlerJ,RennickDetal:Interleukin-10-de?-cientmicedevelopchronicenterocolitis.????75:263-274,19935)TakedaK,ClausenBE,KaishoTetal:EnhancedTh1activityanddevelopmentofchronicenterocolitisinmicedevoidofStat3inmacrophagesandneutrophils.????????10:39-49,19996)UetaM,NochiT,JangMHetal:Intracellularlyexpre-ssedTLR2sandTLR4scontributiontoanimmunosilentenvironmentattheocularmucosalepithelium.??????????173:3337-3347,20047)UetaM,HamuroJ,KiyonoHetal:TriggeringofTLR3bypolyI:Cinhumancornealepithelialcellstoinducein?ammatorycytokines.??????????????????????????331:285-294,20058)UetaM,HamuroJ,YamamotoMetal:Spontaneousocu-larsurfacein?ammationandgobletcelldisappearanceinIkappaBzetagene-disruptedmice.?????????????????????????46:579-588,2005(64)■「眼表面の自然免疫とToll-likereceptors」を読んで■Toll-likereceptorsは,現在の免疫学の分野で最もホットな話題の一つです.ヒトは,単細胞生物から長い時間をかけて進化してくる過程で,多くの機能を獲得してきました.宿主を細菌などの病原体から守る免疫機能もその一つであり,これは本文にあるように自然免疫と獲得免疫とに分けられます.進化の歴史のなかで,獲得免疫がつい最近備わったものであるのに対して,自然免疫は進化の初期から存在していました.図2眼表面炎症を自然発症するIkBzノックアウトマウスIkBz(+/+)IkBz(-/-)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???たとえば,ショウジョウバエは,進化の初期に哺乳類と別れた生物ですが,自然免疫機能をもつのみで獲得免疫機能をもちません.こうしたショウジョウバエにおいて,カビなどの病原体から宿主を守る働きがあるものとして発見されたのが,Tollreceptorです(Toll自体は形態形成に重要な蛋白質として同定されていました).Tollreceptorの構造を調べてゆくと,似たような構造物はヒトにもあることがわかり,これらはToll-likereceptorとよばれるようになりました.さらに,Toll-likereceptorの細胞内シグナルを調べてゆくと,同じようなものが植物にもあるので,この仕組みは生物進化のきわめて初期から備わっていたと推測されています.この仕組みがいかに優れたものであるかは,本文中でわかりやすく解説されていますのでここでは述べませんが,病原体により対処法を変えるという精緻な仕組みが自然免疫においても備わっていることは重要なことです.さて,Toll-likereceptorsは病原微生物から宿主を守るためのシステムとして働きますが,逆に自己免疫疾患などをひき起こす可能性もあります.たとえば,Jiangらは肺を用いた研究で,正常ヒアルロン酸はToll-likereceptorsを介したシグナルにより宿主細胞のアポトーシスを抑制しますが,炎症などで変性したヒアルロン酸は,Toll-likereceptorsを介するシグナルにより炎症性サイトカインを発現して宿主細胞を破壊することを突き止めました.このようにToll-likereceptorsはあるときは宿主のために,別のときは宿主に害になるように働いているようです.上田真由美先生が述べられているように,眼のToll-likerecep-torsを明らかにすることは,眼疾患のメカニズムの解明や新しい治療法の開発に大いに役立つと思われますし,これに関する仕事は新しい研究分野として大きく発展してゆくことと期待されます.文献1)LemaitreB,NicolasE,MichautLetal:Thedorsoven-tralregulatorygenecassettespatzle/Toll/cactuscon-trolsthepotentantifungalresponseinDrosophilaadults.????86:973-983,19962)KoppE,MedzhitovR:Recognitionofmicrobialinfec-tionbyToll-likereceptors.?????????????????15:396-401,20033)JiangD,LiangJ,FanJetal:RegulationoflunginjuryandrepairbyToll-likereceptorsandhyaluronan.???????11:1173-1179,2005鹿児島大学医学部眼科坂本泰二(65)☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ160.Heidelberg Retina Angiograph(HRA)Ⅱ

2006年4月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS?バックグラウンドインドシアニングリーン蛍光造影(indocyaninegreenangiography:IA)に用いられる撮影記録装置には,蛍光眼底カメラをIAに改良したものと走査型レーザー検眼鏡(scanninglaserophthalmoscope:SLO)とがあり,HeidelbergRetinaAngiograph(HRA)は後者である.HRAでは,フルオレセイン蛍光造影(?uoresceinangi-ography:FA)とIAを単独もしくは同時にデジタル撮影でき,また得られた画像の解像度もよい.さらに,フルオレセインを励起するのに用いる488nmの波長のレーザーにより撮影される自発蛍光画像(auto?uores-cence:AF)も鮮明である.HRAⅡは,従来使用されていたHRAの後継機種で,前機種に比べ画像の解像度が向上し,カメラ本体およびレーザーボックスが小さくなっている.?新しい検査法(原理)HRAの共焦点方式(confocalsystem)レーザーでは,眼底からの反射光のうち散乱光は検出器の前の絞りによって除去されるため,焦点のあった光だけが透過部を通過し検出器に撮影されるのでコントラストの良い像が得られる.画角30?のときの高画質モードでは,得られた画像はただちに,1,536×1,536pixelの解像度でデジタル化される.動画撮影も可能であり,高速モードでは,画角15?のときは毎秒16フレーム,画角30?のときは毎秒9フレームで動画が得られる.?実際の使用方法HRAⅡの操作パネルは,従来のボタンとつまみ式からタッチパネル式に変わり,カメラを動かすハンドルは,Joy-stick型からXYZmovement型(カメラの位置の微調整を,カメラの下の左右にあるX軸,Y軸,Z軸のそれぞれ異なるつまみで行う)になった(図1).初めは戸惑うがすぐに慣れる.撮影方法は,造影剤を静脈注射する前に赤外線反射画面(infra-redre?ectance:IR)にして820nmの波長のレーザーで走査し,その病変部位を中心にカメラの位置を決める.つぎにFA画面に切り替えAFを動画で2秒ほど撮影する.動画で記録する理由は,AFは動画を分解し静止画にしてそれを数枚加算処理したほうが鮮明な画像となるからである.つぎにIA画面にしてインドシアニングリーンを静脈注射する.脈絡膜血管の造影が始まるときから1分までは造影所見が急速に変化するので,動画撮影は,必須である.しかし,静脈注射から1分までの連続記録はできない.そこで脈絡膜血管が造影され始めてから記録し始めると,設定により記録直前の2秒前の画像を保存できるので,脈絡膜動脈の流入期も鮮明に記録できる.その後は,3分,5分,10分,15分と5分おきに30分まで静止画で記録する.FAは,IAの早期の撮影が終了したら,フルオレセインを静脈注射する.造影剤流入期は,動画で撮影し,その後は,1分,3分,5分,8分,10分と撮影する.途中,IA,FA同時撮影を行う.立体撮影の画面にして2画像撮影すると自動的に左右に並行移動したような写真が得られる.ただし,移動量が少ないので自分で左右に移動したほうが並行移動の距新しい治療と検査シリーズ(61)160.HeidelbergRetinaAngiograph(HRA)Ⅱプレゼンテーション:森隆三郎駿河台日本大学病院眼科コメント:飯田知弘福島県立医科大学医学部眼科学講座(図1,2は,ベルギーのゲント大学で撮影されたものである.)図1HRAⅡのカメラ本体とタッチパネル操作パネルは,タッチパネル式(矢頭)で操作が容易であり,カメラを動かすハンドルはXYZmovement型で,カメラの位置の微調整をカメラの下の左右にあるX軸,Y軸,Z軸のそれぞれ異なるつまみ(矢印)で行う.??———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006離が大きくなり,立体感が得られやすい.その方法は,レンズの位置を上下前後には動かさずに病変を中心に左(右),ついで右(左)にそれぞれ画像の辺縁に影ができる直前まで移動する.?本方法の良い点IA画像は,脈絡膜血管の早期像が鮮明であり,ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopa-thy:PCV)では,脈絡膜の異常血管網とその先端のポリープ状病巣を特徴とするが,早期画像によりPCVの病態を把握するのに有用である(図2A,B)1,2).IAの鮮明な早期画像は加齢黄斑変性の脈絡膜新生血管の栄養血管の検出に優れる(図2C,D).また,栄養血管光凝固の際に網膜血管を凝固部位の指標にするが,IA画像で網膜血管も比較的鮮明に造影されるので凝固部位を確認しやすい3).IA,FA同時撮影で得られた2画像は,並べて見ることができ病変の位置や活動性を把握しやすい.AFは,従来の眼底カメラ型で得られた画像よりも鮮明であり,網膜色素上皮のリポフスチンの分布を把握しやすい.HRAを用いたAF画像で加齢黄斑変性の前段階の所見を分類し,進行の程度を検討した報告もある4).文献1)森隆三郎,湯沢美都子,川村昭之:HRAによるポリープ状脈絡膜血管症のインドシアニングリーン蛍光造影所見の検討.眼科46:193-199,20042)YuzawaM,MoriM,KawamuraA:Theoriginsofpolyp-oidalchoroidalvasculopathy.???????????????89:602-607,20043)森隆三郎,湯沢美都子:ワンポイントアドバイス滲出性加齢黄斑変性の栄養血管凝固,眼科手術16:362-363,20034)EinbockW,MoessnerA,SchnurrbuschUEKetal:Changesinfundusauto?uorescenceinpatientswithage-relatedmaculopathy.Correlationtovisualfunction:apro-spectivestudy.????????????????????????????????243:300-305,2005(62)?本方法に対するコメント?HRAⅡは,上記に述べられているように,解像度が良く優れた検査機器と感じている.特に,IA初期像とAFに関しては今後も新しい知見が出て,病態の解釈や精度の高い治療に貢献するものと期待される.しかし,1)FAの蛍光漏出所見が判定しづらい,2)IA後期像が不鮮明,3)画像ファイルのサイズが大きい,という3点に関しては課題がある.1)と2)は,従来の眼底カメラ画像に慣れていることが一因としてあげられ,使用経験を積み重ねるうちに解決される問題だとは思う.Confocalsystemで走査線上の蛍光のみを撮影しているため,蛍光輝度が強い時期は解像度に優れたコントラストの良い画像が得られるが,減弱したときには眼底全体を大きな光量で励起して撮影する眼底カメラのほうが所見を捉えやすい.また,色素上皮?離の所見など,眼底カメラを用いた場合とは所見が異なることがある.同じFA,IAといっても,眼底カメラ型とは「異なる検査法」であるという意識をもって所見を読影しないと,誤った解釈をするおそれがあり,注意が必要である.3)に関しては,多数例のデータを保存する際に支障が出てくるが,保存媒体の進歩などで解決される問題である.とは言いつつも,私の診療では使用頻度がきわめて高い検査機器である.図2ポリープ状脈絡膜血管症と脈絡膜新生血管の栄養血管のインドシアニングリーン蛍光造影早期像ポリープ状脈絡膜血管症に対して光線力学的療法を行い,術3カ月後に脈絡膜新生血管(CNV)を認めた症例である.A,Bは術前で,A(18秒)の脈絡膜動脈期に異常血管網が造影され始め(矢頭),B(50秒)ではポリープ状病巣内の過蛍光は血管瘤様に見える(矢印).C,Dは術3カ月後で,C(18秒)では,術後に認めたCNVの栄養血管の起始部が造影され(矢印),D(50秒)では網目状の血管が造影される(矢頭で囲まれた範囲).矢頭で囲まれたCNV全体は,15分で旺盛な蛍光漏出を示した.ACBD

涙点プラグ:涙点プラグは効果的な治療デバイスである

2006年4月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS涙点プラグの研究開発と臨床応用は1970年代より行われていた1).しかし,わが国における本格的な臨床応用は,涙点プラグおよびその挿入術が健康保険の適応となってからで,その歴史はまだ浅い.そのため,プラグの挿入手技をはじめ,その合併症や自然脱落の頻度などに関する基本的知識でさえ,十分に眼科医に行き渡っているとはいえないのが現状である.このような理由から,不適切な症例にプラグ挿入が行われたり,問題が起きたときの対処が十分でなかったりする症例が,かなりの頻度で見受けられる.とはいえ,涙点プラグを含む涙道閉鎖は,点眼ではコントロールできない症例に対して,現時点では最も効果的な治療法であり,今後ますます使用される頻度は増えてゆくと考えられる.涙点プラグに関する正しい知識の普及に,このセミナーが役立つことを期待したい.涙点プラグの開発過程では,種々の形状のプラグ(図1,2)が考えられたが,現在わが国で厚生労働省の認可を受けて使用されているのは,2社の製品(図3,4)である.●涙点プラグの効果涙点プラグが,ドライアイの他覚所見と自覚症状を劇的に改善させることは,よく知られている.1986年に筆者らが報告した成績では,ローズベンガル染色スコアー(1980年代当時は,ローズベンガルがドライアイの(59)涙点プラグセミナー監修/坪田一男濱野孝ハマノ眼科1.涙点プラグは効果的な治療デバイスである涙点プラグ挿入は,外来で簡単に行うことができる涙道閉鎖で,ドライアイによる他覚所見および自覚症状を改善させる有効な治療法である.しかし,涙点プラグによる涙道閉鎖は,生体に対して異物を挿入する処置であり,合併症の可能性があることを常に念頭において行わなければならない.ホワイトメディカル提供図2涙点に挿入されたさまざまな形状の涙点プラグ図1涙点プラグの形の変遷図3日本で認可されている涙点プラグパンタルプラグ?(FCIOph-thalmics,Inc.,Paris,France).国内販売は㈱トーメー.図4日本で認可されている涙点プラグイーグルフレックスプラグ?(EagleVision,Inc.,Memphis,TN,USA).他にスーパーフレックスプラグ?などもあり.国内販売は㈱ホワイトメディカル.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006(00)角結膜所見を表す最も信頼できる指標として,標準的に用いられていた)が,挿入前後で,それぞれ5.2±2.4から2.1±2.2へと有意な改善が認められ,フェノールレッド綿糸法では,挿入前8.7±6.5mmであったものが,挿入後15.7±9.6mmへと,結膜?内貯留涙液量の有意な増加が認められた2).また,角膜表面の不整度を表す指数も有意に改善していた3).さらに矯正視力低下例では,その改善が,自覚症状では38例中37例に症状の軽減が認められた(自覚症状が改善されなかった1例でも,矯正視力は0.4から1.0へと改善が確認された).このように,ドライアイに対する涙点閉鎖は,その他覚所見および自覚症状を大幅に改善させる有用な治療法である.●涙点プラグの今後涙点プラグはドライアイの他覚所見および自覚症状の改善に有効とはいえ,いくつかの問題をもっていることも事実である.自然脱落や肉芽形成はよく知られているが,他に患者を最も悩ませるものとして,内方視に際しての角結膜上皮障害と,それに伴う疼痛があげられる.これは,涙点プラグの構造上避けられないものであるが,今後より快適に使用できるような素材への変更も,検討が必要になるかも知れない.涙点プラグとは異なるが,涙小管を閉鎖するタイプのプラグとして,以前から使用されているコラーゲンプラグや,近年開発されたスマートプラグ,アテロコラーゲンによる涙道閉鎖法なども考案されている.今後これらの方法がわが国でも認可されれば,症例に応じてさまざまな涙道閉鎖法を選択することが可能になると思われる.文献1)HamanoT,OhashiY,ChoYetal:Anewpunctumplug.???????????????100:619-620,19852)濱野孝,大橋裕一,趙容子ほか:涙点プラグの開発と臨床応用成績.臨眼40:1063-1067,19863)濱野孝:涙液減少症に対する新しい診断と治療の試み.眼紀39:938-946,1988

眼感染症:細菌検査の落とし穴-これだけは検査室と話し合おう-

2006年4月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS■こんな疑問をもっていないだろうか?眼感染症起因菌の診断や術前消毒効果を確認するために,結膜や涙?の擦過綿棒を細菌検査に出しているが,外眼部で最も優位に存在する???????????????????????とコアグラーゼ陰性ブドウ球菌の報告をほとんど貰ったことがない.または,現在汎用している抗菌点眼薬で臨床効果が得られているのに起因菌に対する感受性判定はいつも「耐性」である.このような経験をお持ちの先生は多いのではないだろうか.このような疑問をもっている先生が検査を依頼している外注検査所や院内検査室に実は大きな落とし穴が開いているのである.■検査の落とし穴とはほとんどの眼科医は検査室に検査材料を提出すれば検出されたすべての菌が報告され,同時に薬剤感受性試験も指定した薬剤を用いて行われていると信じている.実はこの眼科医のあたり前の考えが通用しない検査室が多いのである.それは,眼科医と検査員の双方における「常在菌と病原菌の解釈の差」と「検査目的」が正しく伝わっていないことが原因である.■落とし穴の内訳外眼部の常在菌として????????????????????????spp.,??????????????spp.が最も優位に存在していることは眼科医も検査技師も知っている.しかし,一部の検査技師は「常在菌だから報告は不要」と考え「陰性」として報告する施設もある.さらに報告しない理由としては,常在菌や遅発育菌を陽性と報告すると手間と費用がかかる感受性試験を実施しなければならないことも深く関与している.たとえば,結膜擦過材料から前記3種の常在菌が検出された場合,高額な同定キットを用いた3菌種の同定と施設ごとに異なる薬剤感受性試験を行うことは経済的に困難なのである.これは,細菌検査で支払われる保険点数が低額なことが一番の理由である.このため,多数の施設の検体を処理する検査室では,同定を行う菌種を制限したり,依頼された感受性薬剤を使わずに他の抗菌力の弱い薬剤で代用し報告は依頼薬剤名で返している施設もある.このため臨床効果は得られているのに「耐性」と報告される場合も散見される.■検査内容の確認法表1に沿って検査担当者と一度話し合っていただければ落とし穴は修復できる.Q1.採取綿棒の保存と輸送は室温ですか?それとも4℃保存ですか?Q2.グラム染色用の綿棒は滅菌試験管に入れ生理食塩水を少量加えるのですか?Q3.採取綿棒を培地に塗布するときは直接塗布ですか,懸濁液を作製しますか?Q4.一般細菌と酵母状真菌の分離のためには,何種類の培地を使っていますか?〔最低限表1-2)の3種類の培地を使う.2種類以下ならクレームを付けよう.〕Q5.嫌気性菌培養に用いる培地名を教えてください.〔最低限1枚の寒天培地と同時に臨床用チオグリコレート培地(TGC)を使う.〕Q6.酵母状真菌は何日まで培養していますか?〔通常35℃,48時間培養後,さらに室温培養にて計7日間の観察が必要である.〕Q7.アスペルギルスなどの糸状菌を依頼した場合は何日まで培養していますか?〔シャーレを密封し室温培養で2~4週間観察が必要で初代分離には時間を必要とする.〕Q8.検出された菌はすべて報告していますか?(57)眼感染症セミナー─スキルアップ講座─●連載○35監修=大橋裕一井上幸次35.細菌検査の落とし穴─これだけは検査室と話し合おう─浅利誠志大阪大学医学部附属病院・感染制御部眼科で分離頻度の高い???????????????spp.,???????????????????????は,実は正確な同定が大変むずかしい菌種であることをご存知だろうか?細菌検査は詳細に検査すればするほど時間と費用がかかる.また,常在菌と病原菌の認識が眼科医と検査技師の双方で大きく異なるため,薬剤感受性検査を行う対象菌種も異なる.眼科医と検査室との間に深い落とし穴が開いている.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006〔TGCで遅れて生えてきた菌も報告が必要であることを強調する.〕Q9.検出菌(グラム陽性球菌,陽性桿菌,陰性球菌,陰性桿菌,嫌気性菌)の同定は種レベルまで行っていますか?〔????????,???????????????spp.,????????????????spp.が重要であることを強調する.〕Q10.薬剤感受性試験はディスク法ですか,MIC法ですか?〔指定した薬剤を正しく用いていることを確認する.〕Q11.常在菌だけが検出された場合,薬剤感受性試験はどのように実施しますか?〔常在菌と判断した場合は実施しないのか,常在菌でも最も優位に検出された菌種に対して実施するのか?〕以上の質問を検査室に聞いてみよう.(58)■コメント■眼感染症の診療にあたって,われわれ臨床医は,検査室からのデータを重要な情報源として診断と治療を進めている.しかしながら,過日のメール事件ではないが,そうした情報の質,精度についてはあまり吟味していないというのが実情ではないだろうか?浅利先生のご提言はわれわれが陥りやすい落とし穴を鋭く指摘するものである.自分自身が検査室との間にどの程度のコミュニケーションネットワークを築いているのか,今一度チェックしてみよう.愛媛大学医学部眼科大橋裕一表1細菌塗抹・培養検査:眼感染症1)血液寒天培地2)チョコレート寒天培地3)サブロー寒天培地嫌気性菌用寒天培地1)採取材料→輸送用培地に採取:室温保存・輸送直接分離培養用検体35℃1日10日間培養増菌培地35℃,1~5日連続嫌気培養一般細菌:35℃,24~48時間,5%CO2真菌:35℃,好気培養2日間,観察は7日間塗抹検鏡用検体グラム染色2)採取材料→上記A(綿棒)またはB(懸濁液)を各分離培地,増菌ブイヨンへ接種懸濁液AB*眼科医の注意・塗抹用検体は保存培地のない滅菌試験管に採取またはスライドに直接塗抹する*検査室の注意・培地へ綿棒を直接塗抹するか,懸濁液を作製後に塗布するかを相談する一般細菌・真菌用培地嫌気性菌用培地3)培養条件一般細菌酵母状真菌糸状菌嫌気性菌増菌培地チオグリコレート培地(TGC)*眼科医の注意・アスペルギルスなどの糸状菌を目標とする場合は,明記する・培養法(好気性/嫌気性)を指定する25℃容器を密封して24週間*検査室の注意・酵母状真菌は35℃で2日間培養後,室温でさらに5日間観察する・糸状菌の場合は培養温度と培養期間を変える・陰性のTGCは10日間程度培養する↓↓↓↓4)同定試験5)薬剤感受性試験*同定方法(マニュアルか同定キット)を確認する。1)グラム陽性球菌2)グラム陽性桿菌3)グラム陰性球菌4)グラム陰性桿菌5)嫌気性菌*検出菌の全てを報告するか否かを確認する(P.acnes,Corynebacteriumspp.,CNSが重要であることを確認する)*眼科医の注意・左記1)5)の菌種について種のレベルまで同定可能かを確認する1)ディスク拡散法かMIC法かを確認する2)複数菌種が検出された場合の感受性対象菌を確認する3)常在菌のみが検出された場合の感受性試験実施の有無を確認する*検査室の注意・指定された薬剤を実際に使用するのか,代替の薬剤を使用するかを確認する保存培地滅菌試験管小試験管(生食水)長期保存:生理食塩水を加える