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緑内障:各種中心角膜厚測定の比較

2006年4月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS●中心角膜厚測定法1.Hedbys-Mishima法光学的測定法.スプリットイメージを用いて角膜の光学切片の厚みを計測する方法.非接触式.角膜中心部のみの測定が可能.細隙灯顕微鏡に取り付けて使用.測定に慣れを必要とする.超音波測定法とともに角膜厚測定の基本原理.2.非接触型角膜内皮スペキュラー(図1)光学的測定法.スリット光の角膜表面と角膜後面における反射のずれをラインセンサーにて検出し,角膜厚を測定する方法.非接触式.角膜中央および既定の数点が測定可能.検者を選ばない.3.超音波法(図2)プローブ先端からの超音波が角膜後面で反射し再びプローブで受信されるまでの時間と,角膜組織内での音速から角膜厚を測定する方法.接触式.角膜上の任意の部位を測定可能.小型,軽量であり測定場所を選ばない.プローブの滅菌により手術中の測定も可能.音波を利用するため光学的測定と比べて混濁部測定に有利.プローブが角膜に垂直に接触していなければ測定値がばらつく.接触により角膜を圧平すれば角膜厚は薄く測定される.4.角膜形状解析装置a.スリットスキャニング方式ORBSCANIIz?(Canon)(図3)左右45?から各20本(計40本)のスリットビームを投影して角膜前面のトポグラフィーデータと角膜後面の光線追跡データ(9,000ポイント)から角膜厚を測定する方法(パキスキャンシステム).非接触式.角膜厚のカラーマッピング表示が可能で,任意の部位で角膜厚を測定できる.測定に約15秒.角膜全体と前房の三次元情報を解析可能である.(55)●連載?緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄70.各種中心角膜厚測定の比較田口浩司神戸大学大学院医学系研究科実践医科学領域器官治療医学講座眼科学分野中心角膜厚が測定眼圧値に及ぼす影響について注目が集まっている.中心角膜厚測定による補正によって,眼圧測定がより精度を増す可能性がある.中心角膜厚の測定にはさまざまな機器が用いられているが,機器,測定法によって測定値が異なる傾向がある.図1非接触型角膜内皮スペキュラーSP-9000?(KONAN)図2超音波法機器:眼軸長・角膜厚測定器AL-2000?(TOMEY)———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006b.回転式Scheimp?ugカメラ方式Pentacam?(OCULUS)(図4)中央部をおもに約2秒間で測定した25,000ポイントのScheimp?ug画像を解析する方法.非接触式.ORB-SCAN?同様に角膜全体と前房の三次元情報を解析可能.その他に角膜厚測定が可能な機器として,共焦点顕微鏡,opticalcoherencetomograph(OCT),超音波生体顕微鏡(UBM)などがある.●各種中心角膜厚測定の比較中心角膜厚の正常値は520~540?m程度とする報告が多い.超音波法の測定値は光学的測定法とほぼ等しい.スペキュラーでは超音波法に比べ約23~28?m薄く測定されるとの報告がある1,2).ORBSCAN?の測定値は超音波法や光学的測定法に比べて非常に近似しているとも少し低いともいわれさまざまである.各施設において使用機器の傾向を把握しておく必要がある.当院における右眼のみ135眼の中心角膜厚測定では,超音波法で平均553.01?m,スペキュラーで平均552.04?m,Pentacam?で平均565.30?mとなった.●中心角膜厚と眼圧眼圧は,角膜が薄ければ低めに,厚ければ高めに測定されることが知られており,緑内障のフォローアップには角膜厚を考慮する必要がある.中心角膜厚が555?m未満の場合,原発開放隅角緑内障を発症するリスクが3倍高いと報告されている3).中心角膜厚が530?mより25?m変化するごとに,測定眼圧は1mmHgの誤差を生じるという結果が出ている4).眼圧測定値の精度を増すために,中心角膜厚による眼圧の補正が必要と考えられる.文献1)ModisLJr,LangenbucherA,SeitzB:Cornealthicknessmeasurementswithcontactandnoncontactspecularmicroscopicandultrasonicpachymetry.???????????????132:517-521,20012)SuzukiS,OshikaT,OkiKetal:Cornealthicknessmea-surements:scanning-slitcornealtopographyandnoncon-tactspecularmicroscopyversusultrasonicpachymetry.???????????????????????29:1313-1318,20033)KassMA,HeuerDK,HigginbothamEJetal:TheOcularHypertensionTreatmentStudy:arandomizedtrialdeter-minesthattopicalocularhypotensivemedicationdelaysorpreventstheonsetofprimaryopen-angleglaucoma.???????????????120:701-713,20024)DoughtyMJ,ZamanML:Humancornealthicknessanditsimpactonintraocularpressuremeasures:areviewandmeta-analysisapproach.???????????????44:367-408,2000(56)☆☆☆図3ORBSCANIIz?(Canon)図4Pentacam?(OCULUS)

屈折矯正手術:エピケラトームの現状

2006年4月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS●エピケラトームケラトームが角膜の実質部分を一定厚で?離するのに対して,エピケラトームは角膜上皮層のみを?離することができる機械である.エピケラトームは,機械的に角膜上皮を?離し,レーザーをBowman膜上に照射し屈折矯正を行うEpi-LASIK(epipolislaser????????ker-atomileusis)の際に使用される.アルコールを使用して角膜上皮を?離するLASEK(laserepithelialkeratomi-leusis)に比べて,薬剤を使用しない点から安全性が高いとされている.しかしながら,エピケラトームは新しい概念の角膜上皮?離機器であり,その精度に関しては未知である.LASIKにおけるケラトームにおいて,初期の機器で,多くの症例に重篤な合併症をみたので,エピケラトームでも,開発当初の機器精度の検討はおろそかにできない.ところが,その?離精度を組織学的に検討した報告はこれまでほとんどない.●?離精度の組織学的検討そこで筆者らは,ブタ眼球を使用した組織学的検討を行った.今回は,2社2製品のエピケラトーム(図1)を使用し,その上皮?離精度を組織学的に検討した.A社のエピケラトームは,なだらかに角膜上皮に進入し(図2),その?離深度は,上皮基底細胞間で,つまり上皮細胞の一部を実質に残し角膜上皮を?離している角膜が多かった(図3).それに対して,B社のエピケラトームは,ほぼ直角に上皮層に進入し(図2),上皮基底膜と実質間で上皮を?離しているものが多く観察された(図4).両エピケラトームとも実質まで?離が到達している角膜はなかった.製品データ上では,両エピケラトームとも,Bowman膜と角膜上皮基底膜間で上皮を?離するとうたっているが,今回の検討では,B社製品においてはほぼデータどおりであったのに対して,A社の製品では,(53)●連載?屈折矯正手術セミナー監修=木下茂大橋裕一坪田一男71.エピケラトームの現状宮田和典刑部安弘宮田眼科病院エピケラトームは,Epi-LASIKの際に使用される角膜上皮層のみを?離する機械である.理論的には,基底膜を含めて上皮層を?離する.しかし,動物実験,および臨床材料からの検討では,その?離精度にまだばらつきがみられており,一定量,一定部位での?離を行えるためには,さらなる開発が必要と考えられた.図1エピケラトーム上段:A社のエピケラトーム(左)とステンレス製替え刃(右).下段:B社のエピケラトーム(左)とPMMA(ポリメチルメタクリレート)製替え刃(右).図2?離開始面の組織像A社(上段)はなだらかな進入角で上皮が?離され,B社(下段)ではほぼ垂直に切除が開始されている.倍02物対EH倍02物対nossaM倍02物対EHnossaM倍02物対A社B社———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006全角膜で上皮細胞の一部と基底膜が実質側に残存していた.しかし,この結果はBowman膜のないブタ眼球を使用していること,角膜曲率がヒトと異なること,眼圧の管理が不十分なことなどのため参考にすぎないが,機械によってその?離精度にばらつきがあることが示された.●ヒト角膜への使用A社のエピケラトームをPRK(photorefractivekera-tectomy)の上皮?離に使用した症例の上皮組織所見をみてみると,ブタ眼球実験と同様に,基底膜が上皮についていない部位が観察された(図5).一方で,上皮?離能に優れているとブタ眼球実験で考えられたB社のエピケラトームを使用した1眼には,角膜実質?離を経験した.弁状?離のために術後1カ月目にはほぼ術前の状態に回復し,大事には至らなかった(図6).これらの症例やブタ眼球の実験結果より,現在のエピケラトームはまだまだ安定した結果を得られる機械とはいえず,完成度を高めるためにはさらに開発が必要と考えられた.(54)側皮上社A倍02物対EH倍04物対ⅣepyT-negalloC倍04物対MAP-CST倍04物対nossaM倍04物対ⅣepyT-negalloC倍04物対MAP-CST倍04物対nossaM倍04物対EH側質実社A図3A社の?離面組織像上皮はきれいに?離されているものの,特殊染色の結果から基底膜がないことがわかる(上段).実質側は?離面が粗?で,基底細胞の一部と基底膜が残存している(下段).倍04物対ⅣepyT-negalloC倍04物対MAP-CST倍04物対nossaM倍02物対EH側皮上社B倍04物対EH倍04物対ⅣepyT-negalloC倍04物対MAP-CST倍04物対nossaM側質実社B図4B社の?離面組織像上皮?離面は鋸状であるが,基底膜が残存している(上段).実質?離面はきれいである(下段).倍04物対MAP-CST倍04物対EH図5?離したヒト角膜上皮ブタ眼球での実験と同様で,上皮はきれいに?離されているものの基底膜は観察されない.術前VD=(0.6×IOL)(1.2p×IOL+1.5D:cyl-3.0DAx70?)VD=(0.1×IOL×0)術後4日VD=(0.4×IOL)(1.2×IOL+0.5D:cyl-2.0DAx90?)術後1ヵ月術中図6実質弁状?離とそのTMS術中写真の○で囲まれた部分に弁状?離を観察できる.術後1カ月後にはほぼ術前視力に回復した.

眼内レンズ:小切開白内障術後のepithelial downgrowth

2006年4月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLSEpithelialdowngrowthとは,穿孔性外傷後や内眼手術後に創口から角膜あるいは結膜上皮が眼内に侵入・増殖し,難治性の続発緑内障や角膜内皮機能不全をきたす視力予後不良の疾患である.?外白内障手術の時代にはしばしば報告されていたが,小切開白内障手術が主流となった現在ではepithelialdowngrowthの発症はきわめてまれであると考えられる.しかしながら,強膜トンネル1)あるいは角膜切開2)での小切開白内障手術においてもわずかながら報告があり,決して無視できない合併症といえる.今回筆者らが経験した症例は,近医で右眼白内障手術施行後,視力回復が思わしくないため他院を受診し,角膜浮腫および高眼圧症を指摘され当科に精査加療目的で紹介となった.初診時視力は,右眼0.09(0.1×sph-1.00Dcyl-2.50DAx75?)×IOL(眼内レンズ),左眼0.15(1.2×sph-1.50Dcyl-1.50DAx130?)×IOL.眼圧は,右眼25mmHg,左眼18mmHg.右眼は耳側角膜切開で白内障手術が施行されており,その周囲の角膜には強い混濁を認めた.さらに創口より瞳孔に向かって厚い膜様増殖組織が伸展し,瞳孔を中心として同心円状に半透明な膜様組織を虹彩面上に認めた(図1).対光反応は鈍であった.IOLはonthebagに固定され,後?破損がみられた.前房中には比較的大型の白色浮遊物が温流により移動するのが観察され,硝子体は星状硝子体症のごとく反射性の混濁が多数みられた.超音波生体(51)相良健山口大学医学部眼病態学講座眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎236.小切開白内障術後のepithelialdowngrowth小切開無縫合白内障手術後に生じたepithelialdowngrowthの1例を経験した.創口に嵌頓した硝子体を足場に上皮細胞が眼内に増殖したと考えられた.本疾患は難治性で視力予後不良であり,小切開白内障手術といえども創口閉鎖には十分な配慮が必要である.図1初診時右眼前眼部写真図2UBM像A:右眼,B:左眼.それぞれ6時方向の隅角.右眼の隅角は鈍になっており,虹彩根部が平坦化している.図3摘出組織病理像(ヘマトキシリン・エオジン染色)———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006(00)顕微鏡(UBM)では隅角に周辺虹彩前癒着(PAS)が形成され,左眼に比べ虹彩が伸展,菲薄化し,毛様体も扁平化していた(図2).以上より角膜切開創からの上皮細胞の眼内への進入,すなわちepithelialdowngrowthと考え,毛様体にまで伸展している可能性を考えた.角膜透明性が比較的良好であることより,可及的に眼内増殖組織を除去することを目的に手術を行った.角膜切開創部および虹彩面上には強固に膜様増殖組織が癒着しており,また虹彩後面にも伸展していることを確認した.術後,角膜切開創に硝子体と思われる索状組織が瞳孔領より連続しているのを確認した.以上より角膜切開創に嵌頓した硝子体を足場に角膜上皮が前房内に進入したものと考えられた.組織像では虹彩色素上皮層に隣接して上皮細胞層が重層化しているのが確認された(図3).計画的?外摘出術以前の白内障手術が行われていた時代では,epithelialdowngrowthは白内障手術後の約0.1%に発生すると報告されている2,3).近年は手術用顕微鏡の発達,三面切開・四面切開の開発,手術材料の改良,手術器具の進化に伴う小切開化が進んだおかげで,その発症はきわめてまれになってきた.しかしながら今回の症例を振り返ってみると,手術中の創口熱傷によるwoundadaptationの不良,さらに脱出硝子体の不十分な処理が契機となってepithelialdowngrowthが発症したと考えられた.最近では発症頻度がきわめて少なくなり,白内障手術後の合併症にあげられることもほとんどなくなったが,たとえ小切開白内障手術においてもepi-thelialdowngrowthが起こりうることを十分に認識する必要がある.文献1)HollidayJN,BullerCR,BourneWM:Specularmicroscopyand?uorophotometryinthediagnosisofepithelialdown-growthafterasuturelesscataractoperation.????????????????116:238-240,19932)LeeBL,GatonDD,WeinrebRN:Epithelialdowngrowthfollowingphacoemulsi?cationthroughaclearcornea.???????????????117:283,19993)TheobaldGD,HaasJS:Epithelialinvasionoftheanteriorchamberfollowingcataractextraction.?????????????52:470-482,19484)WeinerMJ,TrentacosteJ,PonDMetal:Epithelialdowngrowth:a30-yearclinicopathologicalreview.???????????????73:6-11,1989

コンタクトレンズ:素晴らしい表面張力効果を活用する大直径レンズ

2006年4月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS9.8mmレンズは8.8mmレンズの単なる延長線上にあるのではなく,まったく別の世界である.上眼瞼に沿って形成される涙液メニスカスの表面張力の素晴らしい効果を利用できるからである.●表面張力の解説少し分子の世界を覗いてみよう1).2個の分子の間に働く力を分子力とよぶ.分子力は分子の中心間の距離が小さい間だけ作用する.1分子を中心とする半径(r)の球を描くとき,この球内に中心のある分子だけが中心の分子と作用を及ぼし合うことになる.このように仮想された球を分子の作用球という.液面では作用球の上半分が液外に出て半球となる(図1).これは中心にある分子を引く力が上方に弱く,下方に強いということである.つまり液面の近くでは液面に垂直に内部に向かって分子力の場ができている.液面には位置のエネルギーが蓄えられているのである.これを表面エネルギーという.液面(半球)の特殊性液体はその表面エネルギーをできるだけ小さくして安定平衡の状態になろうとする.そのためにできるだけその表面積を小さくしようとするから,液面に沿って張力が現れる.これを表面張力という1,2).別の言い方をすれば,液体の自由表面はあたかもゴムの薄膜を引っ張って被せたようになっている.この液面では各分子が互いに引きあって静止している.この力が表面張力である.何らかの方法でその釣り合いを破るとその作用が現れる.●表面張力の作用方向ガラスと水の界面の表面張力の作用方向は図2に示すとおりである.水面は界面で引き上げられ,弯曲した液面の接線(PT)の方向に表面張力が作用する.1.Intra-palpebral?tの場合(上眼瞼の支持がない)コンタクトレンズ(CL)の上のedgeに働く表面張力Tは,弯曲した水面の接線PTの方向(下方)に働く(図3).CLの下のedgeでは上向きの表面張力が発生し,(49)吉川義三コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純TOPICS&FITTINGTECHNICS262.素晴らしい表面張力効果を活用する大直径レンズAP空気水TWqBガラスR図2ガラスと水の界面の表面張力ガラス壁と水の接触点Pにおいて水面は弯曲し,表面張力Tは接線PTの方向に作用する.r図1液体表面における分子作用球PT図3CLの上のedgeの表面張力涙液はPTの向きにレンズを引く.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006(00)CL全周について表面張力の効果は打ち消される.2.Extra-palpebral?tの場合上眼瞼縁の涙液メニスカスは図4に示すとおりである.分子の凝集力は弯曲面の接線方向(PT)にレンズを引っ張り,レンズを上方に引き上げるように働く.レンズの下方のedgeでは(図5参照)上向きの表面張力が発生する.両者が協力してレンズを上方に引き上げる.Extra-palpebral?tの良さは涙液表面張力の分子力の効果を活用できる点にある.それは大直径レンズを使用することによってのみもたらされる.この素晴らしい効果を放棄し,小直径に固執する理由がわからない3).●表面張力の効果3)レンズを引き上げる力がどのくらいのものか計算してみよう.表面張力の大きさは単位の長さに対して,これに直角に作用するTdyneをもって表される.上眼瞼メニスカスのCLを引き上げる(f)は,レンズ?角膜接触部の長さ(眼瞼に覆われる程度)に比例する.すなわち,f=T.Iとなる.仮にレンズの上部,孤の長さに対して約0.5cmが上眼瞼に覆われるものとする(図5)と,I=0.5cm,T=50dyneであるから,その力は25dyneである(CLの上のedgeは上眼瞼の下にあって表面張力に関与しない).CLの下方のedge(図5)で,メニスカスが上向きの力を作用するほぼ水平な部分を0.5cm(直径9.0mmとして)とみなせば,上向きの力は約25dyneとなり,合計50dyneの力が推定される.質量1gの質点に働く重力は980dyneである.今CLの重量を20mgとすれば,そこに働く重力は19dyneである.これは上眼瞼縁と,CLの下方のedgeに発生する表面張力のコントロールできる範囲内である.なお,レンズと上眼瞼の接触部の長さは,CLの直径に関与する.これはフィッティングによってコントロール可能な変数である.大直径レンズは表面張力を巧みに利用する利点をもっている.文献1)佐藤瑞穂:物理学演習(上巻)(初版第18刷).培風館.19662)児玉帯刀:物性と力学(第3版).槇書店,19663)吉川義三:涙液表面張力のセンターリング作用.日コレ誌38:129-133,1996図5Extra-palpebral?t図4上眼瞼縁の表面張力上眼瞼の下にCLのedgeが入っている.涙液面は弯曲し,表面張力はPTの向きにレンズを引く.TP

写真:瞳孔膜遺残

2006年4月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS(47)若倉雅登野口圭井上眼科病院写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦263.瞳孔膜遺残図1瞳孔膜遺残典型例36歳,男性.人間ドックで眼底写真を撮ろうとして膜があると指摘された.他眼にもこれより軽い遺残があった.矯正視力は両眼とも1.2.膜状の遺残物の脚部は,小虹彩輪と大虹彩輪の境界部(小動脈輪に一致する虹彩分割輪)に連続している.このような症例では対光反応も正常で,処置,治療は不要である.①②④③図2図1のシェーマ①:大虹彩輪.②:虹彩分割輪.③:小虹彩輪.④:瞳孔膜遺残.図3糸状の瞳孔膜遺残45歳,女性.人間ドックで緑内障を疑われ受診.細隙灯顕微鏡による観察でたまたま,右眼に写真のような耳上側から鼻下側へかけての糸状遺残が見出された.他眼も同様所見がある.矯正視力は1.2,緑内障も否定された.このような糸状の瞳孔膜遺残は,外来で注意しているとかなりの症例で見出される.糸状物の片端は虹彩分割輪にあることが多い.表1瞳孔膜遺残で治療を考慮する場合状態治療矯正視力低下散瞳薬で視機能改善白内障の合併不同視弱視,斜視弱視整容的,精神的コンプレックス手術散瞳薬,YAGレーザー,手術白内障手術とともに切除弱視治療,手術手術———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006(00)●原因瞳孔膜遺残(persistentpupillarymembrane)は胎生期に存在した虹彩瞳孔膜が点状,索状,網状,膜状などのさまざまな形で遺残したものである.本来,瞳孔膜は胎生9週頃に二次間葉細胞が眼杯の前面に進入し,虹彩実質とともに形成される.胎生5カ月で水晶体前面をほぼ完全に塞ぐ程度まで成長した後,退縮し始め,胎生7~9カ月までには消失する.この退縮消失過程の不全あるいは遅延により瞳孔膜が生後も残存したもの.生直後にわずかな遺残があっても,生後1年以内に大部分が退縮吸収するという.●頻度膜状で瞳孔領を塞いだものは,特に病的瞳孔膜遺残とよばれる.それに対して,特に症状がなく細隙灯顕微鏡検査でようやく確認できる程度のものは生理的瞳孔膜遺残とよばれ,生直後にはごく軽度のものを含めるとかなりの頻度(35~95%まで,いろいろな数字が発表されている)で存在する.健常成人においてもなお3~10%に認められたという.眼科で最もよく遭遇する先天異常の一つである.●症状と診断見た目には高度であっても意外に視力はよいことが多い.瞳孔膜が瞳孔領の広範囲に及ぶような症例では視力低下の原因となることがある.典型的な症例では,膜状の瞳孔膜が虹彩に索状の瞳孔膜脚部を介して繋留されている(図1),軽度のものでは瞳孔にクモの巣状,糸状の遺残物が付着しているのを認めるのみ(図3)である.ほとんどが偶然見つかるものである.瞳孔膜や瞳孔膜脚部は水晶体に癒着していることがあるが,瞳孔縁の水晶体への癒着はないのが原則である.小児の場合,特に片眼性の場合は,不同視弱視,斜視弱視の原因となりうる.膜状遺残を示していた韓国人24症例の転帰を報告したものによると1),両眼性15例,片眼性9例であった.その矯正視力の平均はlogMAR視力で0.32,少数視力では0.5弱に相当する.うち5例は0.3(20/70)以下で,4眼は片眼性で視性刺激遮断弱視を呈していた.小角膜,大角膜,牛眼,角膜混濁,隅角異常,虹彩欠損,第一次硝子体過形成遺残,先天白内障などの合併が知られている.●治療糸状,膜状でも瞳孔領が保たれ,あるいは瞳孔領を覆っていても視機能に特に障害のない場合,すなわち,ほとんどの場合は治療の対象にならない.ただし,表1に示す条件がある場合は治療を考慮する.治療は手術のみではない.弱視になる可能性がある場合には,弱視治療が十分機能すると考えられる.手術は通常,瞳孔形成手術である.瞳孔形成手術ではアルゴンレーザーやYAGレーザーによる瞳孔膜,脚部の非観血的切開も報告されているが,粘弾性物質と虹彩切開用剪刀を用いれば,出血があっても制御でき,伸縮性のある瞳孔膜も安全に除去可能で,最近はこのような観血的手術が選択される.また,水晶体に癒着がある場合でも強固ではなく,水晶体を温存して手術が可能である.一般に整容的手術は避けるべきとされるが,本症の存在が当人の精神生活に影響を与えるほどのものであれば,瞳孔形成術は禁忌とはいえないと考えられる.文献1)LeeSM,YuYS:Outcomeofhyperplasticpersistentpap-illarymembrane.??????????????????????????????41:163-171,2004

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2006年4月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS帝京大学医学部は昭和46年(1971年)に発足,眼科学講座も同時に設けられた.初代教授は斜視・弱視・形成眼科をご専門とされる丸尾敏夫先生(現客員教授)で,このたび鈴木康之先生が平成17年7月,第三代の主任教授に就任された.鈴木先生のご専門は緑内障で,網膜硝子体・白内障を含む眼科手術一般にも通じられている.講座のスタッフは,形成眼科・眼窩・涙道を専門とされる根本裕次助教授,網膜硝子体がご専門の渡邊恵美子講師,緑内障・白内障がご専門の清水総子講師,および加齢黄斑変性を中心とする黄斑疾患がご専門の落合淳一医局長に加え,網膜,黄斑疾患がご専門の小林義治兼任助教授,斜視・弱視・形成眼科を専門とされる坂上達志兼任助教授,さらには丸尾客員教授と久保田伸枝客員教授も2週に1度,斜視・弱視の外来診療を担当されている.その他,助手6名,非常勤講師4名,多くの医員,視能訓練士など多士済々のスタッフ陣である.*鈴木先生のご経歴を研究・診療内容とともにお伺いした.鈴木先生は昭和61年3月に東京大学医学部医学科を卒業され,医学部眼科学教室に入局された.この年は三島濟一教授の最後の年であった.翌年助手となられたが,この東大時代は,増田寛次郎先生のご指導のもと学位取得のために,レーザースペックル法を用いた網膜血流測定の研究を行い,また,新家眞先生,白土城照先生のご指導のもと,視野障害解析をはじめとした緑内障に関する臨床研究も行われた.その後,平成1年6月に関東逓信病院,同6年2月に都共済組合青山病院に勤務された.平成6年9月には,米国Yale大学に留学され,MarvinSears教授の指導のもと,房水産生における細胞内情報伝達経路の研究に従事された.平成8年10月に日本医科大学眼科学教室の講師に就任され,大原國俊主任教授のもとで,日本人におけるミオシリン遺伝子変異解析や原発開放隅角緑内障の進行に関する因子の多変量解析などの緑内障に関する基礎・臨床研究を行われた.平成10年5月には,東京大学へ講師として戻られ,新家眞教授,富田剛司助教授とともに,緑内障に関する基礎研究や視野障害様式や視神経乳頭変化などの臨床研究を行われた.さらに,平成15年4月,帝京大学医学部附属市原病院に教授として赴任された.この時期に緑内障,網膜硝子体,白内障の多くの手術症例を経験され,同時にその成績について解析を行われた.その後,平成17年7月には帝京大学医学部眼科学講座主任教授に就任された.鈴木先生は現在も帝京大学医学部附属市原病院・教授を兼任されており,週の前半は板橋病院で外来・手術を担当され,週の後半は市原病院で外来・手術を行われている.ただ,4月からは市原病院の後任教授が赴任される予定で,鈴木先生は板橋病院に専念される予定であるとのことである.*鈴木先生の現在のご専門は緑内障で,疫学,視野のセクタリング,神経保護や眼圧下降に関する薬理学的検討,網膜血流に関する研究,分子遺伝学的研究,術式や成功率に関する検討など,実に多彩である.*最後に,鈴木先生に教室運営上の目標をお伺いした.先生は,まず専門分野をもって自らの情報を発信することを基礎としながらも,眼科すべての分野に関して一定の程度で精通し,かつその知識を絶えず更新していけるような眼科医を養成していきたいと述べられた.このことは結局,どのような疾患に対しても動じずに,冷静かつ的確に対処できる医師を養成することであると,やや厳しい表情でおっしゃられた.(45)人の時帝京大学医学部眼科学講座・教授鈴??木?康??之??先生

時の人

2006年4月30日 日曜日

———————————————————————-Page1???あたらしい眼科Vol.23,No.4,20060910-1810/06/\100/頁/JCLS金沢医科大学感覚機能病態学(眼科学)教室は本学の開学とともに故倉知与志先生が初代教授に就任し,昭和52年に佐々木一之先生が第二代の教授に,平成12年に高橋信夫先生が第三代の教授にそれぞれ就任された.そして,平成17年5月に佐々木洋先生が第四代の教授に就任された.本教室では,佐々木一之先生の時代から主として水晶体・白内障に関する基礎・臨床・疫学の研究および眼光学を柱としてこられた.教室のスタッフは,臨床教授の中泉祐子先生,助教授の北川和子先生,講師の小島正美先生,福田正道先生,坂本保夫先生のほか,助手4名で構成されているが,講師の3先生はすべてPh.D.である.*佐々木先生は昭和62年に金沢大学医学部を卒業され,同年4月に自治医科大学眼科学教室に入局された.同教室では,網膜?離,白内障手術,ぶどう膜炎,角膜疾患,緑内障,硝子体手術などを学ばれ,この9年間が先生の臨床の基礎になっているとのことである.平成3年8月から同5年8月まで,米国オークランド大学眼研究所研究員として,Reddy教授,Giblin教授のもとで水晶体研究に従事された.その後,平成5年10月に自治医科大学眼科の助手,同8年3月に金沢医科大学眼科の講師に就任された.*佐々木先生の研究活動は,自治医科大学での9年間と金沢医科大学での9年間の2期に分けられる.前半は“ぶどう膜炎”に関する臨床研究で,後半は米国留学を機に“水晶体(白内障)”を主課題にされている.(1)在米中は,培養水晶体上皮細胞,水晶体器官培養・X線白内障モデル,ガラクトース白内障を用いた水晶体酸化障害に関する研究をされ,ExperimentalEyeResearch(1994),InvestOphthalmolVisSci(1995,1998)に発表されている.その後,紫外線被曝によるヒト培養水晶体上皮細胞傷害(ExpEyeRes,2001),培養水晶体上皮細胞傷害への抗酸化剤の効果,ストレプトゾトシン誘発糖尿病ラットに発症する白内障へのリポ酸の有効性,ステロイド白内障など白内障発症機構の解明,白内障発現抑制薬の研究をされている.(2)国内外での調査をもとに白内障の疫学研究を行い,アイスランド,シンガポール,中国などとの国際共同研究を精力的になされ,また,疫学調査を通して白内障のphenotypeとgenotypeの検討を予定されている.(3)教室で開発された画像診断法を用いた前眼部生体計測,白内障発症と進行の予測の研究をされている.さらに水晶体混濁の詳細な観察と視機能評価から,白内障手術適応の新しいガイドライン策定を目指されている.(4)このほか,緑内障,加齢黄斑変性症,屈折異常,滴状角膜,翼状片の疫学や後発白内障の原因解明,新しい眼内レンズの臨床評価,サルコイドーシスの臨床研究,等々多岐にわたる研究活動をされている.*佐々木先生はご自身の信念あるいは信条として,次のように語られた.(1)佐々木先生が諸先輩から多くのことを学ばれたように,若い先生方に教え,同時に学びやすい環境,多くのチャンスを提供し,建学の精神である“良医の育成”を実践していきたい.また,患者さんから学ばせてもらっているという謙虚な姿勢を忘れないことを教育していきたい.同時に,パラメディカル,看護師,事務職員の人との共同体制をつくっていきたい.(2)忙しさに流されず,大学,教室の発展に尽力していきたい.(3)超高齢化社会を迎え,誰しもが罹患する“水晶体疾患”に関する残された課題の研究を積極的に進めていきたい.(44)人の時金沢医科大学感覚機能病態学(眼科学)・教授佐?々?木?洋???先

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS帝京大学医学部は昭和46年(1971年)に発足,眼科学講座も同時に設けられた.初代教授は斜視・弱視・形成眼科をご専門とされる丸尾敏夫先生(現客員教授)で,このたび鈴木康之先生が平成17年7月,第三代の主任教授に就任された.鈴木先生のご専門は緑内障で,網膜硝子体・白内障を含む眼科手術一般にも通じられている.講座のスタッフは,形成眼科・眼窩・涙道を専門とされる根本裕次助教授,網膜硝子体がご専門の渡邊恵美子講師,緑内障・白内障がご専門の清水総子講師,および加齢黄斑変性を中心とする黄斑疾患がご専門の落合淳一医局長に加え,網膜,黄斑疾患がご専門の小林義治兼任助教授,斜視・弱視・形成眼科を専門とされる坂上達志兼任助教授,さらには丸尾客員教授と久保田伸枝客員教授も2週に1度,斜視・弱視の外来診療を担当されている.その他,助手6名,非常勤講師4名,多くの医員,視能訓練士など多士済々のスタッフ陣である.*鈴木先生のご経歴を研究・診療内容とともにお伺いした.鈴木先生は昭和61年3月に東京大学医学部医学科を卒業され,医学部眼科学教室に入局された.この年は三島濟一教授の最後の年であった.翌年助手となられたが,この東大時代は,増田寛次郎先生のご指導のもと学位取得のために,レーザースペックル法を用いた網膜血流測定の研究を行い,また,新家眞先生,白土城照先生のご指導のもと,視野障害解析をはじめとした緑内障に関する臨床研究も行われた.その後,平成1年6月に関東逓信病院,同6年2月に都共済組合青山病院に勤務された.平成6年9月には,米国Yale大学に留学され,MarvinSears教授の指導のもと,房水産生における細胞内情報伝達経路の研究に従事された.平成8年10月に日本医科大学眼科学教室の講師に就任され,大原國俊主任教授のもとで,日本人におけるミオシリン遺伝子変異解析や原発開放隅角緑内障の進行に関する因子の多変量解析などの緑内障に関する基礎・臨床研究を行われた.平成10年5月には,東京大学へ講師として戻られ,新家眞教授,富田剛司助教授とともに,緑内障に関する基礎研究や視野障害様式や視神経乳頭変化などの臨床研究を行われた.さらに,平成15年4月,帝京大学医学部附属市原病院に教授として赴任された.この時期に緑内障,網膜硝子体,白内障の多くの手術症例を経験され,同時にその成績について解析を行われた.その後,平成17年7月には帝京大学医学部眼科学講座主任教授に就任された.鈴木先生は現在も帝京大学医学部附属市原病院・教授を兼任されており,週の前半は板橋病院で外来・手術を担当され,週の後半は市原病院で外来・手術を行われている.ただ,4月からは市原病院の後任教授が赴任される予定で,鈴木先生は板橋病院に専念される予定であるとのことである.*鈴木先生の現在のご専門は緑内障で,疫学,視野のセクタリング,神経保護や眼圧下降に関する薬理学的検討,網膜血流に関する研究,分子遺伝学的研究,術式や成功率に関する検討など,実に多彩である.*最後に,鈴木先生に教室運営上の目標をお伺いした.先生は,まず専門分野をもって自らの情報を発信することを基礎としながらも,眼科すべての分野に関して一定の程度で精通し,かつその知識を絶えず更新していけるような眼科医を養成していきたいと述べられた.このことは結局,どのような疾患に対しても動じずに,冷静かつ的確に対処できる医師を養成することであると,やや厳しい表情でおっしゃられた.(45)人の時帝京大学医学部眼科学講座・教授鈴??木?康??之??先生———————————————————————-Page1???あたらしい眼科Vol.23,No.4,20060910-1810/06/\100/頁/JCLS金沢医科大学感覚機能病態学(眼科学)教室は本学の開学とともに故倉知与志先生が初代教授に就任し,昭和52年に佐々木一之先生が第二代の教授に,平成12年に高橋信夫先生が第三代の教授にそれぞれ就任された.そして,平成17年5月に佐々木洋先生が第四代の教授に就任された.本教室では,佐々木一之先生の時代から主として水晶体・白内障に関する基礎・臨床・疫学の研究および眼光学を柱としてこられた.教室のスタッフは,臨床教授の中泉祐子先生,助教授の北川和子先生,講師の小島正美先生,福田正道先生,坂本保夫先生のほか,助手4名で構成されているが,講師の3先生はすべてPh.D.である.*佐々木先生は昭和62年に金沢大学医学部を卒業され,同年4月に自治医科大学眼科学教室に入局された.同教室では,網膜?離,白内障手術,ぶどう膜炎,角膜疾患,緑内障,硝子体手術などを学ばれ,この9年間が先生の臨床の基礎になっているとのことである.平成3年8月から同5年8月まで,米国オークランド大学眼研究所研究員として,Reddy教授,Giblin教授のもとで水晶体研究に従事された.その後,平成5年10月に自治医科大学眼科の助手,同8年3月に金沢医科大学眼科の講師に就任された.*佐々木先生の研究活動は,自治医科大学での9年間と金沢医科大学での9年間の2期に分けられる.前半は“ぶどう膜炎”に関する臨床研究で,後半は米国留学を機に“水晶体(白内障)”を主課題にされている.(1)在米中は,培養水晶体上皮細胞,水晶体器官培養・X線白内障モデル,ガラクトース白内障を用いた水晶体酸化障害に関する研究をされ,ExperimentalEyeResearch(1994),InvestOphthalmolVisSci(1995,1998)に発表されている.その後,紫外線被曝によるヒト培養水晶体上皮細胞傷害(ExpEyeRes,2001),培養水晶体上皮細胞傷害への抗酸化剤の効果,ストレプトゾトシン誘発糖尿病ラットに発症する白内障へのリポ酸の有効性,ステロイド白内障など白内障発症機構の解明,白内障発現抑制薬の研究をされている.(2)国内外での調査をもとに白内障の疫学研究を行い,アイスランド,シンガポール,中国などとの国際共同研究を精力的になされ,また,疫学調査を通して白内障のphenotypeとgenotypeの検討を予定されている.(3)教室で開発された画像診断法を用いた前眼部生体計測,白内障発症と進行の予測の研究をされている.さらに水晶体混濁の詳細な観察と視機能評価から,白内障手術適応の新しいガイドライン策定を目指されている.(4)このほか,緑内障,加齢黄斑変性症,屈折異常,滴状角膜,翼状片の疫学や後発白内障の原因解明,新しい眼内レンズの臨床評価,サルコイドーシスの臨床研究,等々多岐にわたる研究活動をされている.*佐々木先生はご自身の信念あるいは信条として,次のように語られた.(1)佐々木先生が諸先輩から多くのことを学ばれたように,若い先生方に教え,同時に学びやすい環境,多くのチャンスを提供し,建学の精神である“良医の育成”を実践していきたい.また,患者さんから学ばせてもらっているという謙虚な姿勢を忘れないことを教育していきたい.同時に,パラメディカル,看護師,事務職員の人との共同体制をつくっていきたい.(2)忙しさに流されず,大学,教室の発展に尽力していきたい.(3)超高齢化社会を迎え,誰しもが罹患する“水晶体疾患”に関する残された課題の研究を積極的に進めていきたい.(44)人の時金沢医科大学感覚機能病態学(眼科学)・教授佐?々?木?洋???先

合併症対策:破嚢時のレスキューグッズ

2006年4月30日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS水晶体核落下や網膜?離といった重大な術中,術後合併症を併発する危険性が高まる.後?破?,硝子体脱出を疑わせる術中所見として,①水晶体核が大きく傾斜する②水晶体核の位置が急に深くなる③瞳孔領に水晶体核や水晶体皮質を含まない暗黒色の領域が出現する④水晶体核が超音波チップ先端で吸引できない⑤瞳孔が偏位する⑥前後房中央で超音波チップを操作しているのに周辺の水晶体核や皮質が牽引される⑦後?に線状の破?線が観察されるなどがある.超音波乳化吸引中に水晶体核が急に大きく傾斜したり,水晶体核が急に後房側に沈下して前房深度が急に深くなるような現象が発生した場合は,比較的大きな後?破?が生じて水晶体核の硝子体落下が始まっている可能性がある.水晶体皮質や水晶体核で白濁している瞳孔領の一部に暗黒色の領域が出現する(図1)ことは,後?破?と硝子体脱出が生じ,脱出した硝子体により,近傍の水晶体核や皮質が押しのけられて暗黒色の透明野を作り出していることを意味する.さらに硝子体脱出が進行し,前後房で水晶体皮質や水晶体核と硝子体が絡み合うと,超音波チップ先端で硝子体をも吸引してしまうため,水晶体核がチップ先端に接しているにもかかわらず,目的とする水晶体核を吸引できなくなってしまう.はじめに白内障手術は手術装置の発達,手術手技の改良,新たな手術材料の出現とともに手術精度と安全性が向上し,術中合併症の発生頻度が低下している.しかし,術中後?破?やZinn小帯断裂,硝子体脱出を生涯経験しない眼科外科医はきわめてまれであろう1).また,一旦発生したこれらの術中合併症を適切に処置し,術眼に与える侵襲を最低限に抑えることは,患者の良好な術後視機能を維持するためにきわめて重要である.しかし,合併症発症頻度が下がり,まれな合併症となったために,その対処法に習熟できず,稚拙な術中処置を行った場合は,単に術後視機能低下を招くのみならず2),網膜?離,水疱性角膜症を始めとする重大な術後合併症発症に直結する3).患者の要求度の高まっている白内障手術において,これらの重大な術後合併症は患者の大きな不満のもととなり,医療訴訟に直結しかねない.本稿においては,近年,標準的白内障手術術式として普及した超音波白内障手術の代表的な術中合併症である後?破?と硝子体脱出を取り上げ,その術中合併症を確実に処理する基本的な手術戦略と手技,必要な手術器具や材料に関して概説する.I後?破?と硝子体脱出をどのような場合に疑うか?術中合併症を軽微に留める最大のポイントは早期発見である.術中合併症に気づかずに手術操作を続けると,(37)???*ShuichiroEguchi:江口眼科病院〔別刷請求先〕江口秀一郎:〒040-0053函館市末広町7-13江口眼科病院特集●白内障手術アップデート2006あたらしい眼科23(4):459~464,2006合併症対策:破?時のレスキューグッズ??????????????????????????:?????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????江口秀一郎*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006手術操作に伴う硝子体の牽引をその後も続けると,超音波チップに硝子体索が嵌入したまま手術操作が続けられるため,前房中央で手術操作を行っていても,瞳孔縁の一部が手術操作につられて牽引されたり,術操作を行っている領域より遠く離れた瞳孔領周辺部に存在する水晶体核や水晶体皮質が,手術操作に連動して動揺する現象が認められる.水晶体核や水晶体皮質の吸引除去がかなり終了した状態で後?に焦点を合わせると,大きく亀裂した後?の両端を明瞭に観察することもできる(図2).II後?破?に対する処置法1.ハンドピースをいきなり抜かない後?破?に気がついたら,直ちにすべての手術操作を中止する.ただし,急いで超音波チップを抜いたり眼内灌流を止めてはいけない.術中合併症に気づいたために慌ててハンドピースを引き抜くと,眼内から創口への圧勾配により脱出した硝子体が創口に嵌入してしまう.一旦,創口に硝子体が絡んでしまうとその切除がむずかしいだけでなく,引き続いて行われる眼内操作に伴う手術器具の出し入れ,または眼内操作のたびに,創口の硝子体を牽引することとなり,硝子体基底部付近の網膜裂孔を作製しやすくなってしまう.後?破?に気づいて手術操作を中止した後,サイドポートから粘弾性物質を前房内に十分量注入し(図3),前房内圧を上げて,ハンドピースを引き抜いても前房が虚脱せず,硝子体が創口に嵌入しないような状態を作り出してから静かにハンドピースを引き抜く.しかし,すべての症例で切開創にまったく硝子体が嵌入しないでハンドピースを引き抜くことができるわけではない.もし創口に硝子体が嵌入した場合は,創外に脱出している硝子体をMQAと剪刀を用いて切除し,創口や創間に残留している硝子体索をフックや粘弾性物質を用いて前房内に押し戻す.2.水晶体核の処理が先瞳孔領の状態をよく観察し,後?破?の範囲,硝子体脱出の程度,残留している水晶体核の大きさ,個数をよく把握する.水晶体核を残したまま脱出硝子体の切除を始めると,かろうじて硝子体上に乗っていた水晶体核片(38)図1後?破?時の術中所見瞳孔透明野を認める.図3破?時の処置法超音波ハンドピースを引き抜く前にサイドポートから粘弾性物質を前房内に十分量注入する.図2後?破?時の術中所見前?切開線と異なる後?の断裂線を認める.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???が,灌流液の水圧と水流により瞬時に硝子体腔内に落下していく.特に分割手技を用いて行っていた水晶体核処理の最中における後?破?,硝子体脱出例にては,それまでに行っていた水晶体核の分割と,乳化吸引処理されていない水晶体核片の部位,個数をよく考慮して,どの方向の虹彩下,水晶体?赤道部に大きな水晶体核が残存しているかを把握し,その摘出処理を確実に行うようにする.後?破?時に大きな水晶体核が残存している場合は,前後房を粘弾性物質で満たした後に創口を十分な大きさに拡大し,フックを用いて水晶体核を前房内に脱臼させてから輪匙を用いて水晶体核を確実に摘出する(図4).水晶体核が分割されている場合は切開創をあまり大きく拡大する必要もないが,水晶体核の厚さがある場合は,摘出時に見た目よりも大きな切開創を必要とすること,術中合併症を生じた場合の処理操作において新たな合併症を追加しないために,大きめの切開創を作製することを基本とする.残留している水晶体核片が小さい場合,または硝子体と絡まっている場合は,輪匙や超音波チップで除去するよりは,ビスコエクスプレッション手法にて水晶体核を娩出する.ビスコエクスプレッションを行うに当たっては,創口より虹彩面上で挿入した粘弾性物質注入針を,まず摘出する水晶体核の下方より水晶体核を通り越し,創口と水晶体核をはさんで対側に至る位置に置く(図5).その位置に保持しながら粘弾性物質を注入し続けると,次第に眼圧が上昇してくる.このとき粘弾性物質注入を続けながら創口を注入針でわずかに押し下げてやると,水晶体核背面から創口に向かう圧勾配が生じ,粘弾性物質の流れとともに前房内に残留した水晶体核が眼外へ圧出されてくる.粘弾性物質を注入する位置や注入方法に多少の慣れを要する点や,比較的多量の粘弾性物質を要する点に難点は残るが,小さめの水晶体核摘出や硝子体と絡まってしまった水晶体核の娩出にはきわめて有用な手術手技であり,習得を要する.水晶体核の摘出が終了したら,再度創口に嵌入した硝子体索を硝子体カッターやMQAと剪刀を用いて切除し,創口を絹糸などで一旦縫合する(図6).(39)図4Simcoeループ針を用いた水晶体核摘出図6MQAを用いた硝子体切除手技図5ビスコエクスプレッション法の実際粘弾性物質注入針の先端と水晶体核の位置関係に注意.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.4,20063.水晶体皮質除去と硝子体切除:ドライビトレクトミー手技か2-way手技か?比較的小さな後?破?と限局した硝子体脱出の場合は,ドライビトレクトミー手技をその処理法として選択する.粘弾性物質を前後房に注入し,残留している水晶体?を広げてから,灌流を止めたSimcoe針を眼内に挿入し,吸引孔を水晶体皮質の厚い部分に位置させてからゆっくりと水晶体皮質を吸引し,皮質を捕まえたらそのまま水晶体?から引き?がし前房中央に移動させる(図7).捕獲した水晶体皮質を前房中央で吸引してしまうと,より多量の粘弾性物質が必要となるだけでなく,硝子体を誤吸引する確率が高まり,硝子体と水晶体皮質が絡んでそれ以降の水晶体皮質吸引除去が困難となることもあり,水晶体皮質は全周にわたって処理を終えるまで前房中央に移動させるに留める.粘弾性物質が吸引され前房が虚脱するようなら,粘弾性物質を追加しながらすべての水晶体皮質を水晶体?から引き?がす.硝子体が前房内に脱出している場合は,Simcoe針の皮質吸引除去操作に先立ち,灌流を用いずに硝子体カッターにて脱出硝子体を切除する(図8).この際,後?の亀裂より後方まで硝子体カッターを深く挿入し,前部硝子体切除を行い,その空間に分散型の粘弾性物質を注入しておくと(図9),凝集型の粘弾性物質を注入した場合に比べ,粘弾性物質が後?下に長く残留するため,さらなる硝子体脱出を防止する4).硝子体切除により眼球が虚脱しそうな場合は,粘弾性物質を眼内に注入しながら硝子体切除(40)図9分散型粘弾性物質の硝子体腔注入によるタンポナーデ操作図102-way硝子体切除操作図7後?破?時のSimcoe針による水晶体皮質吸引除去操作図8後?破?時の硝子体カッターを用いたドライビトレクトミー———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???(41)を行う.皮質吸引や脱出硝子体切除を同軸灌流を有する通常のI/A(irrigationandaspiration,灌流吸引)チップやA-vit(硝子体カッター)にて行うと,灌流液が硝子体腔に回り込むことにより,さらなる硝子体脱出を促す.また通常のI/Aチップでは万一硝子体を誤吸引した際の開放操作が困難であるため,皮質吸引はSimcoe針を用いる.水晶体皮質がすべて前房中央に集まったら,ビスコエクスプレッション法で眼外に圧出するか,硝子体カッターで吸引除去する.ドライビトレクトミー法はくり返し粘弾性物質を注入しながら行う必要があるが,最低限の硝子体切除にて手術を行えるため,眼球が虚脱しにくく水晶体?も温存しやすい利点がある.大きな後?破?で多量の硝子体脱出や水晶体皮質が硝子体と絡まっている場合は2-way手技を選択する(図10).硝子体カッターのカットレートは最大とし,吸引はやや低めに設定し,灌流ボトルの高さを上げる.灌流は同軸とせず,前房メインテナーなどのやや太い注入針に連結する.通常,角膜輪部の3時および9時にサイドポートを作製し,まず硝子体カッターを9時のサイドポートから前房内に挿入し,創口や3時方向のサイドポート付近の硝子体索を,灌流を用いずに,またはわずかに加えるのみで切除する.ついで3時のサイドポートに灌流針を挿入し,本格的に前部硝子体切除を行うが,初めから灌流針をサイドポートに挿入して硝子体切除を行うと,創口付近の硝子体の嵌頓を悪化させてしまうことがあるので,初めは灌流を用いずに硝子体を切除する.サイドポートから硝子体カッターを挿入することにより,通常では処理のむずかしい12時付近の創口に嵌入した硝子体索も容易に切除することができるとともに,灌流を用いることにより眼球虚脱の心配なく十分な硝子体切除が行える.硝子体カッター先端は瞳孔縁から虹彩下まで挿入し,残留皮質と周辺部硝子体を十分に切除する.左右の器具を交代して硝子体切除を行うことにより,瞳孔縁に沿って360?の残留皮質除去と硝子体切除を行うことができる.III眼内レンズ挿入後の処置水晶体皮質除去と硝子体切除を行った後,眼内レンズを水晶体?外固定または経毛様体溝強膜縫着固定する.眼内レンズの良好な固定を確認した後に,前房内に塩化アセチルコリン(オビソート?)を注入し,縮瞳させる(図11).硝子体索が創口に嵌入している場合は瞳孔に変形をきたすため,その変形を手がかりに硝子体切除を追加するとともに,フックや注射針を用いたワイパリングを行い,創口に嵌入した硝子体索を完全に解放する.脱出硝子体を確認するために前房内にトリアムシノロンを注入し,硝子体を視認化して処理する方法も報告されている5)が,瞳孔の変形を目安として処理できる場合が多い.ワイパリングとは,目的とする創口より45?から90?離れたサイドポートよりフックまたは注射針を虹彩面上に沿って目的とする創口,隅角底付近に挿入し,そこから瞳孔中央に向かってフックや注射針をワイパーの図11オビソート?注入後の縮瞳と硝子体索嵌頓による瞳孔変形図12ワイパリング操作———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006(42)ように動かすことにより,創口に強く嵌入した硝子体索を瞳孔領に引き戻す操作をいう(図12).硝子体脱出を生じている症例で,前房内が灌流液で満たされている場合,手術器具の出し入れに伴い眼内と眼外に圧勾配が常に生じるため,器具を出し入れする創口には,眼内灌流液の流れに乗って必ず硝子体索が嵌頓していると考え,手術器具を出し入れした切開創に対しては手術操作の最後に必ずワイパリングを行い,硝子体索嵌頓を解除しておくことが必要である.文献1)PingreeMF,CrandallAS,RandallJQ:Cataractsurgerycomplicationsin1yearatanacademicinstitution.????????????????????????25:705-708,19992)IonidesA,MinassianD,StephenT:Visualoutcomefol-lowingposteriorcapsuleruptureduringcataractsurgery.???????????????85:222-224,20013)OsherR,CionniR:Thetornposteriorcapsule;itsintra-operativebehavior,surgicalmanagement,andlong-termconsequences.???????????????????????16:490-494,19904)Arshino?SA:Dispersive-cohesiveviscoelasticsoftshelltechnique.???????????????????????25:167-173,19995)BurkSE,DaMataAP,SnyderMEetal:Visualizingvit-reoususingKenalogsuspension.???????????????????????29:645-651,2003眼科学【監修】眞鍋禮三(大阪大学名誉教授)I.総論VIII.ぶどう膜XV.屈折・調節異常II.眼科診療室にてIX.水晶体XVI.光覚・色覚の異常III.眼瞼X.網膜硝子体XVII.全身疾患と眼IV.涙器(涙腺,涙道)XI.視路,瞳孔,眼球運動XVIII.眼のプライマリーケアV.結膜XII.眼窩XIX.眼治療学総論VI.角膜XIII.緑内障XX.付録VII.強膜XIV.斜視,弱視A.眼科略語集/B.眼科関連法律(法令)/C.リハビリテーション/D.主な眼科雑誌の紹介基礎と臨床との関連性を強く前面に打ち出し、単に眼科学の知識の羅列でなく、何故そうなるのかがわかる記載を心がけた。また、基礎編の記載でも必ず臨床を念頭においた書き方に努めることとした。教科書の内容になじまないトピックス的なものにも触れようと囲み記事として随所に配したが、勉強中の息抜きの読み物として楽しんでもらえれば幸いである。楽しみながら、そして考えながら「眼科学」を身につけることができる教科書として、広く親しまれることを願ってやまない次第である。(あとがきより)B5判2色刷り総674頁カラー写真・図・表多数収録定価23,100円(本体22,000円+税5%)メディカル葵出版〒113─0033東京都文京区本郷2─39─5片岡ビル5F振替00100─5─69315電話(03)3811─0544■内容内容■考える診療のために!あの名著が更にUp-To-Dateな情報を盛り込んで!待望の改訂版、登場!■疾患とその基礎■<改訂版>株式会社

合併症対策:水晶体嚢拡張リングの使い方アップデート

2006年4月30日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS落下する症例が出現した(図3).これに対して,1年遅れて1997年に導入した縫着リングは有望なアイテムではあったが,当初の術式ではCTR挿入とECCEで白内障摘出術が終了してから縫着リングによる水晶体?の強膜縫着固定を行っていたので,手技的な煩雑さから,結果的にCTR単独で手術中さえ乗り切れればという症例も複数存在していた.しかしその後,2002年頃から,CCCの完成直後に縫着リングを?内に挿入し,?を強膜に仮固定してから超音波乳化吸引術にて白内障摘出を行う術式が安定して施行できるようになった.これでようやく,Zinn小帯脆弱/断裂例でも比較的安全な小切開白内障手術が行えるようになったため,その適応は大きく広がった.結論から言えば,Zinn小帯脆弱/断裂例に対する適応は縫着リングが第一選択であり,比較的軽度で進行性がほとんどないと思われる場合のみ,例外的にCTR単独使用とした.具体的には,術前の無散瞳検査で水晶体振盪や偏位を認める症例は原因にかかわらず縫着リングの適応とした.また,術中にZinn小帯強度を検討する例では,比較的限定的な部分Zinn小帯脆弱例(誤吸引による医原性が多い)を除いて,縫着リングの適応を原則としている.さらに,はっきりとした水晶体の前方移動が認められる症例も術中に必要性が否定されない限り,縫着リングによる?の強膜固定を行っている.ところで,CTRの適応を変更しても,挿入例数はそれほど減少していない.CTR単独使用の適応そのものはじめに前回の特集で,水晶体?拡張リングに関して報告1)してから約7年が経過した.通常の拡張リングを導入してから11年,水晶体?を強膜に縫着固定できるリングを使い始めて10年の経験を踏まえて,現時点での知見を報告する.前回と重複する部分で,再度述べる重要性のない部分は割愛するので,既報1)を参考にしていただきたい.更新する内容として,リングの適応の変化,?固定用リングの定型術式と二次的強膜縫着術,虹彩欠損用リング,後発白内障予防用リングに関して述べる.Iリングの適応通常の水晶体?拡張リング(図1:capsulartensionring2),以下,CTR)の適応は,水晶体?強膜縫着リング3)(図2:以下,縫着リング)の術式の定着により大きく変化した.1996年のCTR導入当時は,比較的範囲の広いZinn小帯断裂例や全周性のZinn小帯脆弱例でも,CTRを挿入し粘弾性物質を多用した?外摘出術(ECCE)を行えば,少なくとも眼内レンズ(IOL)を挿入して手術を終了させることは,かなりの症例で可能であった.しかし,既報1)に記載したとおり,CTRには水晶体?の位置固定作用はないため,たとえCTRで手術は完遂できたとしても,術後に残存Zinn小帯の劣化が継続し,最終的には水晶体?がCTRとIOLを内包したまま眼底に(31)???*YoshihiroTokuda:井上眼科病院〔別刷請求先〕德田芳浩:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院特集●白内障手術アップデート2006あたらしい眼科23(4):453~458,2006合併症対策:水晶体?拡張リングの使い方アップデート???????????????????????????????????????德田芳浩*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006も拡大しているためと思われる.高齢者(80歳以上が目安),強度近視眼,成熟/過熟白内障,浅前房眼〔しばしば,レーザー虹彩切開術(LI)後〕,緑内障手術眼,偽水晶体落?症候群の軽症例,網膜色素変性症例,ぶどう膜炎長期経過例,網膜硝子体手術例,その他原因不明例など,CTRを念のために挿入している.これらの症例では,いずれも前?切開時にごく軽度のZinn小帯脆弱を認める例が多く,それによって起こる術後の軽度の?収縮がますますZinn小帯脆弱と断裂を促進し,それによって?を伸展する張力が失われて,さらにZinn小帯の脆弱と断裂が進行するという悪循環に陥ることがある.これは,拡張性心筋症で心筋が伸展されることで筋の張力が低下し,それが原因となってますます心臓が拡張してしまうという悪循環と病態が類似している.そのような負のスパイラルを最初の時点で断ち切る意味において,CTRをあらかじめ挿入しておく意義は少なくないと考えて使用している.II縫着リングの定型術式2002年以降,高分子高濃度粘弾性物質(ヒーロンV?:AMO社)の導入によって,縫着リングによる小切開白内障手術がほぼ,現在の形として行えるようになった.以下,手順を示す.(1)結膜切開制御糸をかけたのち,通常の白内障手術と同じ形で円蓋部基底の結膜切開を10時~12時と4時~6時に作製する.ただし,下方の切開(と麻酔)は白内障摘出術成功後でもよい〔術中に?内摘出術(ICCE)に切り替わることもありうるので〕.(2)麻酔2%リドカイン点眼で開始し,結膜切開後にTenon?下麻酔を,縫着部位に一致させて,10時30分に2.0m?,4時30分に1.0m?,合計3.0m?行う.(3)強角膜切開11時付近を中心に4.5mm幅の強角膜トンネルを作製する.トンネルは操作性を重視して短めにし,自己閉鎖にはこだわらない.(4)角膜サイドポート3時と9時の対側位置で,輪部から0.5mmぐらい内側の透明角膜に1.5mm程度の角膜サイドポートを作製する〔以上(1)~(4)まで,図4).(5)前房形成前房水を流出させつつ,ビスコート?約0.1m?を注入し,引き続き,ヒーロンV?で前房を全置換する.従来の高分子粘弾性物質による前房形成では,不安定な水晶体の動きを制限するには不十分であったが,ヒーロンV?であれば,前房内を全置換することで水晶体の動きがかなり抑制される(図5).ヒーロンV?は,粘弾性が高いことで直接的に水晶体の動きを止めると同時に,硝子体腔の液状成分が水晶体の前面に回り込むことがないため,水晶体はあたかも前(32)図1水晶体?拡張リング(CTR)閉鎖直径12.0mmのポリメチルメタクリレート(PMMA)製リング.図2水晶体?縫着リングCTRに縫着用のハプティクスがついている.リングは赤道部に挿入し,ハプティクスは前?切開窓から前?の前面に出る.ハプティクスの先端のアイレットに糸を通して,強膜に縫着固定する.図3CTR挿入?の硝子体腔落下CTRとIOLを内包した水晶体?が網膜上に落下している.左下に視神経乳頭が見える.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???房側に吸い付けられたかのように視軸方向の動きも抑制する作用がある.さらに,前?切開や縫着リング挿入中に切開創から流出することもないため,前房内の操作性は格段に向上した.縫着リングの手術には必須の粘弾性物質である.(6)前?切開きっかけは27ゲージ針で作製し,半径が切れたら前?鑷子にて連続円形切?(CCC)を行う.水晶体の動きが大きい場合は,フックで抑制する(図6).大きく切れない場合や,かなり偏心した場合は切りなおせばよい.(7)縫着リング挿入まず,ビスコディセクションテクニックで,前?と皮質を360?にわたって赤道部まで?離しておく.あらかじめ縫着用のプロリンループ糸をハプティクスホールにカウヒッチノットで結んだ縫着リングを,上方の強角膜切開創から反時計回りに水晶体?内に挿入する.挿入中のリングがCCCから脱臼しないように,左手のフックで押さえ込みながら押し込んでいく(図7,8).(8)縫着針による強膜通糸水晶体?の動揺が大きい場合は,この時点で強膜に通糸して?を仮固定してもよいが,7割ぐらいの症例は縫着リングの挿入のみで次の白内障摘出のステップに移行できる.強膜への通糸は,通常のIOL縫着と同じ手技であるが,水晶体?を損傷しないように粘弾性物質で十分に?を後退させておく.(9)核乳化吸引と皮質吸引中央核のみをハイドロデリニエーション手技でくり抜くように分離し,溝は作製せずにフェイコチョップ手技(33)図4縫着リング症例:前房形成直前結膜切開,強角膜切開,サイドポート作製後.11時~3時までの水晶体赤道部が見えている.同部のZinn小帯断裂と7時方向への水晶体偏位のあることがわかる.図5縫着リング症例:前房形成後ヒーロンV?で前房を全置換すると,水晶体の偏位はやや矯正され振盪もかなり抑制される.前?切開中も前房深度は保たれる.図6縫着リング症例:前?切開連続前?切開を鑷子で行う.Zinn小帯の張力がない方向への切開では,先端が鈍なフック(本例では分割君?)を水晶体に刺入させて動きを止めながら施行する.図7縫着リング症例:リングの挿入Sinskeyフックで縫着リングが連続前?切開縁から脱臼しないように押さえながら,反時計回りに押し込んでいく.図8縫着リング症例:リング挿入完成縫着リングが挿入できたら,ハプティクスを前?の前に出しておく.縫着糸を強膜に通糸して仮固定するか,または,写真のように左右のサイドポートから出しておく.図9縫着リング症例:白内障摘出終了時12時部分のハプティクスがはっきり観察できる.白内障処理前に強膜通糸していない場合は,この直後に行う.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006にて中央核を乳化吸引する.分厚いエピヌクレウスは再度,粘弾性物質に水晶体?から分離して中央に集めると容易に吸引除去できる(図9).皮質吸引はI/Aで可能な場合も多いが,硝子体ストランドが前房中にあって容易に吸引される場合は,角膜サイドポートからSimcoe針で吸引するほうが有利である.(10)縫着糸の強膜通糸白内障摘出前に通糸しなかった場合は,この時点,連続後?切開(PCCC)と前部硝子体切除を行う前に施行する(図10).(11)PCCCと前部硝子体切除すでに縫着糸を仮固定している場合は,糸を緩めて縫着リングの伸展力を解除する.27ゲージ針で後?に切開を入れ,カプセル鑷子にてPCCCを行う.両側の角膜サイドポートからそれぞれ,A-vitカッターと灌流ラインを使い,PCCC開窓部より後方の前部硝子体を切除する(図11).(12)IOL挿入,強角膜縫合,粘弾性物質除去できるだけ大きな光学径のIOL(筆者は直径6.5mmのアクリルIOLを使用)を?内に完全固定したら,強角膜創を縫合し,粘弾性物質を除去して眼圧を正常化させる.(13)縫着糸の固定,結膜縫合強膜にポケットを作製して,センタリングを見ながら縫着糸を埋没縫合する.最後に縮瞳させて正円瞳孔を確認して,結膜縫合で手術を終了させる(図12).III縫着リングの二次的縫着固定Zinn小帯脆弱/断裂例で縫着リングが第一選択となった場合,比較的軽度の症例では,本当に強膜縫着固定まで必要なのかどうかを術中に迷う症例は少なくない.そのような場合,筆者は縫着リングのみを?内固定し,強膜への縫着固定を行わずに手術を終了している.後日,縫着が必要と判断した時点で,二次的に縫着固定する治療方針である.縫着リングの二次的縫着は,従来のIOLの前房内操(34)図12縫着リング症例:終了時縮瞳確認前.4時30分と10時30分に縫着リングのハプティクスが観察できる.IOLのセンタリングも良好.図10縫着リング症例:縫着糸の通糸粘弾性物質で前?を十分に後退させ,4時30分と10時30分の対角で強膜に通糸する.この後の後?切開に備えて,糸は緩めておく.図11縫着リング症例:前部硝子体切除後?を連続切開し,その開窓部から前部硝子体を切除する.縫着操作による硝子体の牽引を取るためであり,外傷例では硝子体混濁の除去を兼ねることもある.図13縫着リングの二次的固定縫着用ハプティクスのある位置にサイドポートを対角に作製し,ハプティクスを硝子体手術用の眼内鑷子で把持して,アイレットに縫着用の針を通している.縫着用針にはプロリンループ糸がついているので,アイレットはカウヒッチノットで固定できる.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???作による二次的縫着手技4)と同じ手順で施行可能である.角膜サイドポート2カ所を使用して,ハプティクスに縫着用プロリンループ糸をカウヒッチノットで固定し,そのまま強膜に通糸して固定する(図13).現時点では,外傷性Zinn小帯脆弱例で縫着リング挿入による白内障手術を施行し,後日,悪性緑内障発作状態に陥ったために,改めて強膜に縫着して水晶体?を固定した1例を経験しているのみである.IV虹彩リング既報では引用のみに留めた虹彩欠損用のリングは,部分虹彩リングと全周虹彩リングの2種類がある(図14a,(35)図15部分虹彩リング使用例5時30分を中心とした,外傷性隅角離断部分に虹彩リングを?内固定してあてがっている.図14虹彩リングa:部分虹彩リング,b:全周虹彩リング.ab図16全周虹彩リング使用例a:1枚目を?内に挿入したところ.b:2枚目を挿入して配置をずらし,ドーナツ状の遮閉効果を得たところ.ab図17全周虹彩リング50Ca:遮閉板の小さいタイプの全周虹彩リング.b:挿入例.IOL光学部直径が6.5mmなので,瞳孔径も約6.5mmあることがわかる.ab図18虹彩付きIOLa:全長13.5mm,光学部外径10.0mm,瞳孔領部径4.0mm.b:術後6カ月を経過した挿入例の前眼部像.ab———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006b).両方とも,CTRに光の遮閉板を取り付けた構造であり,黒い色素で着色してある.色素に関しては,CE規格における溶出試験基準を満たしているというレベルでの安全性は保証されている.部分虹彩リングは90?カバーの遮閉板なので,そのまま補いたい部分に配置すればよい(図15).全周虹彩リングは,?内に2枚挿入し,遮閉板が互い違いになるように配置してドーナツ型の虹彩を水晶体?内に再現する,優れたアイデアの製品である(図16a,b).全周虹彩リングは,瞳孔径約4.0mmのタイプ50D(図14b)とそれよりやや大きなタイプ50C(図17a,b)がある.タイプ50Dは?内に固定したときの瞳孔径が6.5mm近くあるので,正常眼の明室での瞳孔径よりは大きくなるが,遮閉板が50Dと比べて小さいので挿入の操作性はかなりよい.また,当然のことながら,全周虹彩リングは散瞳しないので,眼底の観察や治療に支障がありそうなら50Cが選択となる.なお,外傷性虹彩欠損の場合,必ずしも水晶体?が保存できるとは限らない.そういう場合用に虹彩付きIOLという選択肢もある.CTRとは無関係であるが,必要な場合もあるので,紹介しておく(図18a,b).V後発白内障予防リングそもそものリングの考案者,宇都宮市の原孜先生5)がご研究中のリングであり,現時点ではまだ文献にはなっておらず,販売もされていない.筆者の使用経験もないが,ビデオ映像による報告では,シリコーン製のクローズドリングで断面がコの字型になっており,内側にIOLを納めると同時に,外側のシャープエッジ効果で水晶体上皮細胞の後?側への進展を阻止することで,後発白内障を予防する構造の優れたリングである(図19a,b).一日も早い実用化を望みたい.おわりに筆者は,CTRは韓国のルシード社から,その他のリングや虹彩付きIOLはドイツのモルシャー社から購入している.いずれも,FAXやメールの簡単なやり取りで購入は可能であるが,すべて日本では未認可の医療材料なので,医師の責任において輸入許可を取り,使用するという制限がある.モルシャー社はホームページで商品を紹介している(http://www.morcher.com).ここに紹介した以外のリングや変わったIOL,自社製品の手術ビデオなども(ブロードバンドなら)観ることもできるので,興味のある人は一度,閲覧することをお勧めする.文献1)德田芳浩:白内障手術の再評価.水晶体?拡張リング.あたらしい眼科16:1235-1241,19992)GimbelHV,SunR,HestonJP:Managementofzonulardialysisinphacoemulsi?cationandIOLimplantationusingthecapsulartensionring.??????????????????????28:273-281,19973)CionniRJ,OsherRH:Managementofprofoundzonulardialysisorweaknesswithanewendocapsularringdesignedforscleral?xation.???????????????????????24:1299-1306,19984)德田芳浩:亜脱臼IOLの前房内リサイクル.あたらしい眼科16:491-492,19995)HaraT,HaraT,YamadaY:Equatorringformainte-nanceofthecompletelycircularcontourofthecapsularbagequatoraftercataractremoval.???????????????22:358-359,1991(36)図19後発白内障予防リングa:シリコーン製クローズリングの全景:IOLのハプティクスはリングの溝に挿入できる.b:水晶体?内での断面図:断面がカタカナのコの字になっている.IOLab

屈折矯正手術としての白内障手術

2006年4月30日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS屈折矯正手術として成立する命運を握っていると言ってよい.また単焦点レンズにおける屈折矯正では当然ながら遠方もしくは近方のどちらかを選択することになり,その結果として遠近のどちらか一方は,裸眼での視力向上はあきらめざるをえない.すでに老視年齢である高齢者では術前から老視用眼鏡の使用経験があり,術前のinformedconsentでこのことに対する十分な確認を得ておけば大きな問題は生じないが,老視用眼鏡の使用経験のない若年患者の場合は,術後のqualityoflife(QOL)を考えるうえで重大な問題になる.それらの理由から,優れた多焦点眼内レンズは白内障手術が屈折矯正手術として発展するうえでの必要条件として待ち望まれてきた.白内障手術が屈折矯正手術として成り立つためには,かなり正確な眼内レンズ度数算定と優秀な多焦点眼内レンズが不可欠である.III白内障治療とrefractivelensexchangeの違い最近になって登場してきた多焦点眼内レンズは好成績も報告されはじめており,白内障手術の屈折矯正手術としての可能性をさらに広げるものとして期待されている.しかし,白内障治療の一環として多焦点眼内レンズを用いることと,屈折矯正手術として混濁のない水晶体を摘出して多焦点眼内レンズを挿入すること(refrac-tivelensexchange)とでは,かなり意味合いが異なる.筆者は白内障治療とrefractivelensexchangeとでは,I白内障手術の屈折矯正手術的側面白内障手術は水晶体混濁に伴う視機能障害を改善する目的で行われる.通常の白内障手術は,水晶体という光路に存在する凸レンズを摘出除去し,眼内レンズをその代替として挿入する手術である.それ故に,眼球全体の屈折に与える影響は非常に大きい.非常にダイナミックに屈折状態を変更できる手術と言ってよい.単焦点眼内レンズを用いても,近視や遠視の減弱を行うことができるので,レンズ度数の選定を患者の希望に合わせることにより,屈折矯正的なメリットをもたらすことは可能である.たとえば,近視用コンタクトレンズ使用者は近視を減弱することによってコンタクトレンズの使用から解放される.また遠方と近方の双方に眼鏡を使用していた遠視・老視患者は,眼内レンズ挿入によって正視になれば裸眼視力の向上と,近見のみの眼鏡使用で済むようになる.このように白内障手術は眼内レンズを使用するようになった時点で,屈折矯正手術としての意味合いを深めてきたと考えられる.II屈折矯正手術になるための条件先にも述べたように,現在の白内障手術は水晶体の摘出に伴い眼内レンズを挿入する.挿入する眼内レンズ度数は術前に計算され,その算定に見合った眼内レンズが患者の無水晶体状態の矯正に用いられる.したがって,この術前の眼内レンズ度数計算の正確さは白内障手術が(25)???*KotaroOhki:大木眼科〔別刷請求先〕大木孝太郎:〒171-0014東京都豊島区池袋2-17-1大木眼科特集●白内障手術アップデート2006あたらしい眼科23(4):447~451,2006屈折矯正手術としての白内障手術???????????????????????????大木孝太郎*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006多焦点眼内レンズの評価基準も同様にはならないと考えている.術前矯正視力の良好なrefractivelensexchangeでは遠方,近方視力のみならず,中間距離視力やコントラスト感度,また術後のハロー・グレア症状などの評価について,混濁した水晶体のために術前視力の低下した白内障患者よりも厳しく求められことは当然である.逆に術前視力の低下している白内障治療という観点から考えれば,遠近双方の裸眼視力の向上が得られたときの患者の満足度は単焦点眼内レンズの場合に比べさらに高いものになる.白内障治療における多焦点眼内レンズとrefractivelensexchangeにおける多焦点眼内レンズの位置づけを同等と考えることはできないと思う.IV屈折型と回折型の特徴多焦点眼内レンズには屈折型と回折型に分けられる.表1にその概略を示す.屈折型は文字通り1枚の眼内レンズ内に屈折力の違う領域を作製し,遠方・中間距離・近方それぞれの視力矯正を目指している.問題点として瞳孔径との関係が重要視されており,小瞳孔眼では眼内レンズの周辺部の度数は使用できないため多焦点レンズとして機能できない.一方,回折型は眼内レンズ表面を特殊な形状とし,光の回折を利用して遠近それぞれの焦点を作製するものである.多焦点というよりは二重焦点であり,中間距離での視力が出にくいことが若干問題となる.最近の多焦点眼内レンズはすべてfoldableIOLとなり,小切開手術に対応していることは言うまでもない.1.屈折型多焦点レンズ図1は代表的屈折型多焦点眼内レンズReZoom(AMO社)(図2)の構造を示している.図からわかるように,屈折型多焦点レンズの光学部では同心円状に遠方用と近方用の屈折力の異なった領域が交互にくり返されている.長所としては,単焦点と同様の遠方視力が担保されていること,コントラスト感度の低下が起こりにくいこ(26)表1屈折型と回折型多焦点レンズの比較屈折型回折型レンズArray,ReZoomTecnisMultifocal,ReSTOR特徴・遠用ゾーンと近用ゾーン組み合わせ機構による結像・ゾーン移行部にて中間視力のための光が配分される・レンズ表面の回折機構により,遠用および近用の2点に光を配分する効果・単焦点レンズと同様の遠方視が期待される・全距離における視力が期待できる・瞳孔径に関係なく,良好な遠近視力が期待できる課題・瞳孔径の影響が大きい・ハローおよびグレアの発現・中間距離の視力・コントラスト感度の低下屈折型は瞳孔径の影響が懸念され回折型は中間距離視力が出にくい.Distance-DominantZoneDistance-DominantZoneNear-DominantZoneNear-DominantZoneDistance-DominantZoneDistance-DominantZoneNear-DominantZoneNear-DominantZoneDistance-DominantZone図1屈折型多焦点レンズReZoomの屈折度数配分遠近の度数が同心円状にくり返される.図2屈折型多焦点レンズReZoomレンズの大きさなどは通常の単焦点レンズと同じであり,特殊な挿入手技は必要ない.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???とがあげられるが,短所としては,構造からも推察されるように,瞳孔径と眼内レンズの中心固定に左右されることである.小瞳孔では光学部周辺に局在する度数部分は使用できない.度数ゾーンの移行部を工夫し,夜間のハロー・グレア現象の軽減を目指している.2.回折型多焦点レンズ図3はTecnisMultifocal(AMO社),ReSTOR(Alcon社)で両者とも回折型多焦点眼内レンズである.回折型多焦点レンズは光学部に同心円状の段差を有することが特徴で,光の回折を利用して遠方と近方の2カ所に焦点が合うように作製されている(図4).TecnisMultifocalでは,球面収差を減らす非球面デザインを採用しており,多焦点眼内レンズの問題点であるコントラスト感度の低下と夜間視力の改善を目指している.ReSTORは光学部の中心3.6mmが回折構造で,その周辺は通常の単焦点と同じになっており,瞳孔径が小さい昼間では遠方および近方に焦点が合い,薄暮から夜間にかけての瞳孔径が大きくなる状態では遠方視力への加重が大きくなる特徴がある.構造の特徴からコントラスト感度の低下は否めないが,臨床上に問題になるほどの低下ではないと言われている.中間距離視力への配分は不足するが,遠近双方の優秀な視力は最大の利点である.V手術時の問題点先にも述べたとおり,多焦点眼内レンズはレンズの構造自体が特殊である.したがって,眼内レンズの正しい挿入固定は非常に重要になる.まず前?切開はcontinu-ouscircularcapsulorrhexis(CCC)を確実に行い,術後の眼内レンズの偏位,中心ずれが最小になるような手術を目指すべきである.CCCの大きさとしては眼内レンズ周辺部を確実に覆うことが理想であり,完全?内固定を行う(図5).後発白内障も多焦点眼内レンズには好ましいとは言えず,レンズとしてはいわゆるシャープエッジを有し,後発白内障抑制効果の期待できるものが望ましいと思われる.また眼内レンズを正確に?内に挿入固定しても瞳孔を傷つけ大きく偏位させるようでは,多焦点眼内レンズの効果も期待できない.(27)図3回折型多焦点眼内レンズ左側がTecnisMultifocal,右側がReSTOR.光学部の回折構造が観察される.図4回折型多焦点レンズの集光シミュレーション光の回折現象を利用して遠方と近方の2焦点に集光させている.遠方と近方の鮮明な視力が期待できる.図5挿入直後の回折型多焦点レンズCCCを行い確実に?内固定を行う.術後の偏位が大きいと機能を発揮できない可能性がある.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006VI眼内レンズ度数計算の重要性白内障手術によって屈折矯正を行う場合,単焦点,多焦点どちらの眼内レンズを使用するにしろ,術前に行う眼内レンズ度数計算は非常に重要である.予想屈折値と術後屈折が大きくずれるようでは,屈折矯正手術の役割は果たせない.最近になって従来までの超音波Aモードに加えて,光干渉法を利用し半導体ダイオードレーザーを使用した光学式眼軸長測定器IOLマスター(Zeiss社)(図6)が使用可能になり,より精度の高い眼軸長測定が行えるようになってきた.接触式である超音波Aモードではプローブの圧迫や角度,測定者の熟練度などにより結果にばらつきがあり,術後屈折誤差の要因の一つとして問題視されてきたが,IOLマスターは非接触型であり操作が簡便で測定時間も短い.また眼軸長だけでなく前房深度,角膜曲率半径を1台の器械で測定でき,眼内レンズ度数の算出とA定数の最適化が可能である.超音波Aモードと比較してIOLマスターの有用性は多く報告されているが,進行した白内障や後?混濁の強い白内障ではIOLマスターでの計測が困難な場合もある.したがって,超音波AモードとIOLマスターの双方を通常から使用し,その結果を比べながらそれぞれのA定数の最適化を行っておくことが非常に重要である.VII米国での取り扱いと日本への導入の問題点現在の米国における新機能眼内レンズの取り扱いはわが国の現状とは大きく異なり,これには驚きを禁じえない.2006年2月現在,米国では眼内レンズ手術についてのある種の新しい償還制度が施行されている.これは米国のCMS(CentersforMedicareandMedicaidSer-vices)が制定した制度であり,現時点では眼科・眼内レンズのみに特化した制度で,NTIOLs(NewTechnolo-gyIOLs)とPatientSharedBilling(混合診療)の二つがすでに運用されている.1.NTIOLs(NewTechnologyIOLs)(表2)眼内レンズの新しい機能につきその有用性・有効性が認定された場合,その特定眼内レンズを使用した指定医療施設に対して加算償還されるという制度である.2006年2月現在ではTecnisMonofocal(AMO社)のみが「ReducedSphericalAberrations(球面収差減少)」というクラスに該当する眼内レンズとして認定を受けており,1眼につき50ドルが追加償還される.米国FDA(FederalDrugAdministration)は眼内レンズでは初めてTecnisMonofocal(AMO社)に対し新規機能による視機能改善効果を認め,これを受けて(28)表2米国における新規機能眼内レンズの取り扱い1.球面収差改善という新しい機能区分を認定2.現時点で,TecnisMonofocal(AMO社)のみ3.このIOL使用で医療施設に50ドル支払われる4.視機能とコントラスト感度向上を認定表3米国における眼内レンズの混合診療1.Presbyopia-CorrectingIOLをクラス制定2.患者の自己負担によりこのクラスのIOLを選択できる3.認定IOLCrystalens(Eyeonics社):825ドルAcrySof?ReSTOR(Alcon社):875ドルReZoom(AMO社):875ドル老視矯正というカテゴリーとして多焦点眼内レンズの混合診療が認められている.図6非接触型眼軸長計測装置レーザー光を利用した眼軸長測定はその精度の高さが報告されている.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???CMSにて新規クラスを設定したという背景がある.2.PatientSharedBilling(混合診療)(表3)CMSが眼内レンズに適用した制度で,償還価格を超える金額を患者負担とする,わが国における混合診療に似たシステムである.CMSは「Presbyopia-Correcting(老視矯正)眼内レンズ」というカテゴリーを制定しているが,2006年2月現在では3種の眼内レンズが認定され,それぞれ800ドルを超える価格で販売されており,償還価格(150~200ドル)との差額を患者が負担することでこれらの眼内レンズを使用することができる.表3にも示したとおり,3種のうち2種は多焦点眼内レンズであり,多焦点眼内レンズの老視矯正機能が評価されていることがわかる.今後も新たな多焦点眼内レンズが同システムにより混合診療として使用されていく可能性が高い.おわりに以上のような米国での多焦点眼内レンズの取り扱いと値段は,わが国の眼科医療にとって衝撃的である.わが国の現行健康保険システムでは,すべての眼内レンズは同じ取り扱いであり,新機能を有した眼内レンズの特別扱いも混合診療も許されていない.米国での単焦点眼内レンズの値段がおおむね150~200ドルとすると,800ドルを超える多焦点眼内レンズは4~5倍の値段に相当する.このような高額な眼内レンズをわが国の保険システムに組み入れることは何らかのシステム上の変更を行わない限り不可能と考えられる.現在の健康保険点数においては白内障手術の採算性は非常に低く,これ以上コスト高になる高額な多焦点眼内レンズの使用は医療機関にとっては現実問題として厳しいと言わざるをえない.また眼内レンズメーカー側としても,米国で高額で販売している眼内レンズを,わが国で極端な低価格化を行うことは不可能であろう.使用の見込みが立たなければ,そのビジネスとしてのメリットはまったくない.現行のままではメーカー側も,わが国で販売することへの積極性を欠くことにすらなるのではないかと筆者は懸念している.多焦点眼内レンズが患者の術後QOLへ与える影響は相当大きなものと考えられ,その導入が遅延することはわが国の白内障患者にとって大変重大な問題である.現行のままでは今後,同じ時期に白内障手術を受けた日米の患者間で,術後QOLに格差が生じる可能性は否定できない.現在,日本国民がインターネットを含む各種メディアを通じて新しい情報を獲得する速度は非常に速く,優れた多焦点眼内レンズに関する情報も遅からず広まることが想像される.一部の臓器移植希望患者が,わが国を離れ海外で手術を受けていることはすでに広く知られているが,白内障患者についてもそのような事態が起こらないとは断言できないのではなかろうか.筆者は早急な対応が議論されてしかるべきと考えている.文献1)ビッセン宮島弘子:特殊な眼内レンズ.??????19:297-301,20052)清水公也,庄司信行:多焦点眼内レンズ.眼科38:695-702,19963)別当京子,馬嶋慶直,黒部直樹ほか:二焦点眼内レンズ(di?ractiveIOL,refractiveIOL)の臨床成績.臨眼46:1571-1574,19924)佐藤彩,須藤史子,島村恵美子ほか:眼内レンズ度数算出における非接触型眼軸長測定装置(IOLマスターTM)の有用性.あたらしい眼科22:505-509,20055)庄司信行,清水公也:屈折型多焦点眼内レンズと瞳孔径.???8:163-168,19946)岡本周子:非球面眼内レンズ.??????19:271-274,2005(29)