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緑内障:緑内障における乳頭血流

2006年3月31日 金曜日

あたらしい眼科Vol.23,No.3,20063530910-1810/06/\100/頁/JCLS●循環障害説と眼循環測定法現在では緑内障という疾患は多因子疾患と考えられ,危険因子として眼圧や虚血要因が含まれる.緑内障の病因論として,乳頭部の循環障害が視神経障害の主因であるとする循環障害説は,眼圧上昇によって直接障害が生じるとする機械的障害説に比べると,いまだエビデンスに乏しいが,緑内障性視神経障害と視神経血流障害のあいだには有意な相関があることを示す報告は多数ある.臨床上用いることができる眼循環の測定方法としては今のところ,レーザードップラー法,レーザースペックル法,色素希釈法,超音波カラードップラー法があるが,それらの手法を用いて,正常眼と比較して原発開放隅角緑内障(POAG)および正常眼圧緑内障(NTG)患者の乳頭毛細血管の血流速度が低下していること1)や,POAG患者の乳頭辺縁および傍乳頭網膜血流が低下していること2),POAGでは網膜循環に遅延があること3),NTGでは網膜中心動脈や短後毛様動脈の血流速度が低下し血管抵抗が上昇していること4),などを示す報告が1990年代に入ってなされるようになった.●緑内障性視野障害と乳頭血流の部位別の相関その後は視野障害の部位と乳頭血流障害の部位との相関をみる研究も行われるようになり,慶應義塾大学眼科では視野障害が上方あるいは下方に限局したNTG患者における視神経乳頭血流を,上下に分けて検討した.Humphrey視野検査(中心30-2)にて,上下半視野のいずれかにパターン偏差が危険率5%で有意に低下している点が連続して3点以上あり,かつ対側半視野に感度低下を認めないNTG患者54例54眼を対象とし,スキャニングレーザードップラーフローメータ(Heidelberg(73)●連載○69緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄69.緑内障における乳頭血流木村至慶應義塾大学医学部眼科近年眼循環を測定する方法がいくつか開発され,実際の臨床において活用されるようになっているが,緑内障の病因論としての循環障害説を裏付けるエビデンスはいまだ乏しい.視神経障害と視神経血流障害の関連を示すデータは多数報告されている.本稿では,視野障害の部位と乳頭血流障害の部位との相関について若干の知見を述べたい.図1視神経乳頭血流の測定領域画角10°にて視神経乳頭を画像の中心に据え,乳頭辺縁部のflow値を上下に分けて算出した.図2両群における乳頭辺縁部flow値のS/I比S/I比は上方群が1.46,下方群が0.79であり,2群間において有意差を認めた(p<0.0001).(文献5より改変)*下方群上方群1.61.41.21.00.80.60.40.20S/I比*p<0.0001354あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006retinaflowmeter)を用いて視神経血流を上下に分けて測定し(図1),上下別の血流と視野障害との相関について検討した.乳頭辺縁上部および下部のflow値を求め,上下比(S/I比)を算出した.上方視野障害を認める群(上方群)のS/I比は1.46,下方視野障害を認める群(下方群)のそれは0.79であり,2群間において有意差を認めた(p<0.0001)(図2)5).上方視野障害を認める症例では視神経乳頭下部の血流が上部に比較して低下し,下方視野障害では乳頭上部が低下することが認められ,視野障害と視神経血流が対応していることが確かめられた.文献1)HamardP,HamardH,DufauxJetal:OpticnerveheadbloodflowusingalaserDopplervelocimeterandhaemorheologyinprimaryopenangleglaucomaandnormalpressureglaucoma.BrJOphthalmol78:449-453,19942)MichelsonG,LanghansMJ,GrohMJ:Perfusionofthejuxtapapillaryretinaandtheneuroretinalrimareainprimaryopenangleglaucoma.JGlaucoma5:91-98,19963)WolfS,ArendO,SponselWEetal:Retinalhemodynamicsusingscanninglaserophthalmoscopyandhemorheologyinchronicopen-angleglaucoma.Ophthalmology100:1561-1566,19934)HarrisA,SergottRC,SpaethGLetal:ColorDoppleranalysisofocularvesselbloodvelocityinnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol118:642-649,19945)SatoEA,OhtakeY,ShinodaKetal:Decreasedbloodflowatneuroretinalrimofopticnerveheadcorrespondswithvisualfielddeficitineyeswithnormaltensionglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol29:1-7Epubaheadofprint,2005(74)☆☆☆コンタクトレンズフィッティングテクニック【著】小玉裕司(小玉眼科医院院長)CLの処方に必要な角膜・涙液・屈折矯正・その他の知識/CLの選択/ハードCLの処方/フルオレセインパターンの判定方法と注意点/レンズデザインと角膜形状/ベベル・エッジのチェック/SCLの処方・種類・選択/CLと定期検査・眼障害/HCLの修正/修正によるHCLの苦情処理-くもり・充血・異物感・視力/SCLの苦情処理-くもり・かすみ・視力低下・異物感・眼痛・流涙・充血/乱視に対するCLの処方/ドライアイ/ラウンドコルネア/カラーCL/治療用SCL/無水晶体眼・乳幼児と小児に対するCLの処方/光彩付きCL・義眼CLの処方/ハード・ソフトタイプバイフォーカルCLの処方/HCLのカスタムメイドの処方/CLと点眼薬/CLとケア用品/●ワンポイントB5判総152頁カラー写真多数収載定価8,400円(本体8,000円+税400円)メディカル葵出版〒113─0033東京都文京区本郷2─39─5片岡ビル5F振替00100─5─69315電話(03)3811─0544■内容目次■この本があれば,明日からのコンタクトレンズ診療は安心して出来る!株式会社

屈折矯正手術:WaveLight社製レーザー(ALLEGRETTO WAVE)と収差計

2006年3月31日 金曜日

あたらしい眼科Vol.23,No.3,20063510910-1810/06/\100/頁/JCLSLaserinsitukeratomileusis(LASIK)は,今日の屈折矯正手術の中心であるが,夜間のハローやグレア,コントラスト感度低下など視力の質の低下が問題である.これらの問題はLASIK術後に起こる高次収差の増加が原因と考えられており,高次収差の増加を抑えコントラスト感度を改善するwavefront-guidedLASIK(以下,WFGLASIKと略)1,2)が注目されている.現在,市場に出ているエキシマレーザーの多くはstandardLASIKに加えWFGLASIKができるようになっており,WaveLight社製エキシマレーザーALLEGRETTOWAVEもこの一つである.ALLEGRETTOWAVEは200Hzのフライングスポットタイプのレーザーで,アクティブアイトラッキングを備えているため眼球追尾が良好である.またレーザーのOZ(オプチカルゾーン)とTZ(トリートメントゾーン)は6.5mmと9.0mmの楕円照射で大きいため,球面のみならず円柱の矯正精度がきわめて良い.現在は,ALLEGRETTOWAVEの改良型である400HzのALLEGRETTOWAVEEye-Qから,さらに最新型のALLEGRETTOWAVECONCERTOが開発され良好な初期成績が報告されている3).ALLEGRETTOWAVECONCERTOは500Hzの超高速レーザーであり,LASIKやWFGLASIKのみならず,T-CAT(topography-guidedLASIK4):Topolyzerで測定した形状に基づき行うLASIK)やF-CAT(optimaizedprolateablation5):prolateな球面を得るためのLASIK)も可能であり,わが国で初めて当院に導入された.つぎにWFGLASIKを行うためには波面(wavefront)を測定する必要がある.波面センサーの多くはHartmann-Shackセンサーであるが,ALLEGROAnalyzer(WaveLight社製)(図1)はTscherningセンサーで,あらかじめグリッドパターンにされたレーザーを網膜に投影してこの像をCCDカメラで測定する(図2)ことが特徴である.Tscherning収差計の利点は,被検者自身がグリッドの歪みを自覚できること,測定点が多く得られる情報が多いこと,収差が大きな場合も測定可能であ(71)●連載○70屈折矯正手術セミナー監修=木下茂大橋裕一坪田一男70.WaveLight社製レーザー(ALLEGRETTOWAVE)と収差計北澤世志博神奈川クリニック眼科WaveLight社製レーザー(ALLEGRETTOWAVE)はフライングスポットタイプのレーザーで,その収差計はTscherningセンサーであることが特徴である.この収差計の結果に基づいてレーザーを照射するwavefront-guidedLASIKでは,高次収差の増加を抑えられることが最大の利点である.図1ALLEGROAnalyzer(WaveLight社製)ksaMnrettaPtoDretamilloCWm01,mn036:resaLceSm04:emitnoitaidarrIrettuhSretlifRIrofaremacDCCgningiladnagnivresborofaremacDCCnoitcetedegamistoddnakcabelbavoMehtsucofothtrofegamisodretemorrebAsneleyE図2Tscherning収差計の測定原理352あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006ることに加えて再現性が良いことである.測定されたデータは,コマ収差(C7,C8),球面収差(C12)などの各成分や三次収差(RMS3),四次収差(RMS4),五次収差(RMS5),六次収差(RMS6),全高次収差(RMSh)のほか,高次収差マップが表示される(図3).実際の手術では,ALLEGROAnalyzerからデータを3.5インチFDにexportし,さらにエキシマレーザーALLEGRETTOWAVE(図4)にimportする.ALLEGRETTOWAVEでLASIKを施行する場合の矯正限界は,球面屈折度-14D以下,円柱屈折度-6D以下であるが,WFGLASIKでは等価球面屈折度-7D以下かつ円柱屈折度-3D以下で適応範囲が少し狭くなる.実際の矯正量はALLEGROAnalyzerで測定されたwavefrontref-ractionを参考に自覚的屈折度に基づいて決定するが,球面と円柱矯正量は0.01D間隔で補正することが可能である.またレーザーのOZとTZは6.5mmと9.00mmであるが,切除深度は約1割深くなる.WFGLASIKを施行した66例132眼,球面屈折度-0.75~-7.25D(平均-3.76D)と年齢および屈折度をマッチングさせたLASIK施行例66例132眼との術後高次収差を比較した(図5).LASIKおよびWFGLASIKの三次,四次,全高次収差はそれぞれ0.39と0.36,026と0.23,0.54と0.42でWFGLASIKで有意に少なかった.また水平コマ収差もLASIKの0.09に対しWFGLASIKでは0.02と有意に少なかった.WFGLASIKはLASIKと比較して,術後裸眼視力や矯正精度に差はみられないが,高次収差の増加やコントラスト感度の低下が少なく,視力の質の向上が期待される.LASIKは単に裸眼で見えるようになる手術から,さらにその質まで追求される時代になってきているので,今後WFGLASIKがさらに普及していくことが予想される.文献1)KaisermanI,HazarbassanovR,VarssanoDetal:Contrastsensitivityafterwavefront-guidedLASIK.Ophthalmology111:454-457,20042)ReinsteinDZ,ArcherTJ,CouchDetal:Anewnightvisiondisturbancesparameterandcontrastsensitivityasindicatorsofsuccessinwavefront-guidedenhancement.JRefractSurg21:S535-S540,20053)IseliHP,MrochenM,HafeziFetal:Clinicalphotoablationwitha500-Hzscanningspotexcimerlaser.JRefractSurg20:831-834,20044)KanellopoulosAJ:Topography-guidedcustomretreatmentsinsymptomaticeyes.JRefractSurg21:S513-S518,20055)EI-DanasouryA,BainsHS:Optimizedprolatecornealablation:casereportofthefirsttreatedeye.JRefractSurg21:S598-S602,2005(72)図3ALLEGROAnalyzerで得られたデータ図4エキシマレーザーALLEGRETTOWAVE(WaveLight社製)図5LASIKとwavefront-guidedLASIKとの術後高次収差の比較三次四次五次全高次収差コマ収差(垂直)(水平)球面収差0.60.50.40.30.20.10.0-0.1-0.2-0.3屈折度(μm):LASIK:Wavefront-guidedLASIK**p<0.01**p<0.05******

眼内レンズ:Elschnig型後嚢混濁の自然消退

2006年3月31日 金曜日

あたらしい眼科Vol.23,No.3,20063490910-1810/06/\100/頁/JCLS白内障術後に発生する後.混濁は年余において増加すると考えられているが,現在までに混濁が自然消退した症例が2例報告されている1,2).しかし,これらの報告はいずれも術中・術後経過の詳細が明らかなものではない.今回筆者らは超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術にてアクリルレンズを使用し,完全.内固定で行い,術後一旦出現したElschnig型後.混濁が術後33~56カ月までの間に消退した症例を経験した.症例は60歳,男性.2000年1月に加齢白内障に対し,眼科杉田病院にて白内障手術を行った.全身的には糖尿(69)加藤聡東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能医学講座眼科学眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎235.Elschnig型後.混濁の自然消退白内障術後に発生する後.混濁は年余において増加すると考えられているが,現在までに混濁の自然消退した症例が2例報告されている.今回筆者らは,新たに術後一旦出現したElschnig型後.混濁が術後33~56カ月までの間に消退した症例を経験した.白内障術後2年以上経過した後.混濁では,混濁の減少する可能性を考慮し,Nd:YAGレーザーによる後.切開術の適応を慎重に検討すべきと考えられた.図1術後3カ月後.混濁は認められない.図2術後6カ月眼内レンズのedge効果が得られないためか,ループの根元よりわずかに混濁が出現している.図3術後12カ月後.混濁の増強を認める.図4術後19カ月ループの根元の混濁が視軸へと伸展している.図5術後33カ月眼内レンズ中央部付近にも混濁が広がるが,矯正視力良好であった.図6術後56カ月ループの根元の混濁を残す以外の後.混濁は消失した.350あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006(00)病は合併せず,局所的には軽度の近視以外,網膜色素変性症や強度近視などの白内障以外の眼合併症はなかった.術式は強角膜を小切開後,連続円形破.(continuouscurvilinearcapsulorrhexis)をcompleteにて行い,超音波水晶体乳化吸引,皮質吸引後,眼内レンズとしてシングルピースアクリルレンズ(AcrySofR,SA30AL,Alcon)を完全.内固定した.術中合併症はなかった.術後は副腎皮質ステロイド薬,抗菌薬,非ステロイド性抗炎症薬の点眼を術後3カ月間使用した.矯正視力は術翌日より術後経過観察期間中1.2と良好であった.後.混濁の伸展,消退の様子を図1~6に示す.術後6カ月より,眼内レンズのedge効果が少ないためか,レンズループの根元より水晶体上皮細胞の遊走により後.混濁が徐々に出現したと考えられる.術後33カ月目にはレンズ中央近くまでElschnig型後.混濁が達するも,術後33カ月以降56カ月目までの間にレンズ中央部の混濁は減少していった.現在までに白内障術後に後.混濁が減少している症例は2例報告されている1,2)が,術中から術後に後.混濁が減少しているまでの全期間の経過観察を行えているものはない.今回の症例は最近の白内障手術の主流である小切開,超音波乳化吸引術にてアクリルレンズを完全.内固定で施行したにもかかわらず,一度出現した後.混濁が減少した症例では初めてであると考えられる.今までの報告と共通している点としては,後.混濁減少の開始時期が術後2年以降の点であった.後.混濁が減少する機序1)として,水晶体上皮細胞のapoptosis,macrophageによる貪食,後.破損症例での硝子体中への水晶体上皮細胞の脱落などが考えられているが,現在でも不明な点が多い.一方,後.混濁の治療法としてはNd:YAGレーザーによる後.切開が一般的であるが,合併症として網膜.離,黄斑浮腫,眼圧上昇,前部硝子体混濁などが報告されている.それらの点も考え合わせると,今回の症例より,視力に大きな影響を与えていない後.混濁や合併症をひき起こす危険性の高い症例で,白内障術後2~3年以上経過している場合は,後.混濁が減少する可能性を考慮し,Nd:YAGレーザーによる後.切開の適応を慎重に検討すべきであると考えられる.文献1)CaballeroA,MarinJM,SalinasM:SpontaneousregressionofElschnigpearlsposteriorcapsuleopacification.JCataractRefractSurg26:779-780,20002)NakashimaY,YoshitomiF,OshikaT:RegressionofElschnigpearlsontheposteriorcapsuleinapseudophakiceye.ArchOphthalmol120:397-398,2002

コンタクトレンズ:小直径レンズ一色の日本のコンタクトレンズを考える

2006年3月31日 金曜日

あたらしい眼科Vol.23,No.3,20063470910-1810/06/\100/頁/JCLS●レンズ直径に関する世界の現状と日本(Worldwidetrendincontactlensdiameter)1.小直径レンズによるapicalclearancefitか,大直径レンズによるalignmentfitか?,世界の流れは?まず,外国の教科書に“小直径レンズの瞼裂内挿入”についてどのように書かれているかを紹介しよう.1.StoneandPhillips編『ContactLenses』1)には,つぎのような記載がある(p.267).レンズサイズ7.00~8.00mmを使用するBayshoretechniqueは「ProbablythemostwellknownoftheInterpalpebralaperturefittingtechniques」(図1a)と紹介し…,「althoughnotnowfittedsofrequently」.現在はあまり使われないと書き加えている.2.RubenandGuillon編『ContactLensPractice』2)には(p.610)「InterpalpebralfitswerepopularwithPMMAlensesastheyresultedinsmalldiameterlensesgivingminimalcornealcoverage…」.一般的であったと過去形で紹介し,現在形でない点に注意.「astheyresultedinsmalldiameterlensesgivingminimumcornealcoverage…」,と良い点をあげているが,「Thecorrespondingabsenceofeyelidforceledtoexcessivelytightfitsinordertomaintainlenscentration」.「Thisresultedinpoorcomfortwiththelidbridgingtheupperlensedgeateachblink…」.小直径レンズの上のedgeは瞬目のたびに“上眼瞼という橋の下”を潜らねばならないので,その衝撃に耐え,ずれ落ちないように非常にtightなfitにしなければならない,と小直径レンズの致命的な弱点を指摘している.3.結論として,レンズ選定には,まずレンズのedgeを眼瞼の下に入れるように大きい直径によるextra-palpebralfit(図1b)を選ぶとしている.「Thefirstfittngprincipleisaimforalargetotaldiameterachievinganextrapalpebralfit」.(p.610)「Onaverage,atotaldiameterof9.50to9.70mmenabling…,andgoodcontrolofthelenslidinteractionisrecommended」と書かれている.4.この流れに逆行する日本の現状.日本では小直径レンズ(8.8mm)を用いるapicalclea-rancefitが大勢である.市場には大直径は十分に提供されていない.さらに最近出版された一般向けのコンタクトレンズの解説書もextraについてまったく触れていない.世界の流れに逆行する日本では最近ハードレンズ不振が論じられている.2.“涙液交換の面”で二つの技法を比較してみようレンズ内面と角膜表面の間隙の容積をVで表し,涙(67)吉川義三コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純TOPICS&FITTINGTECHNICS261.小直径レンズ一色の日本のコンタクトレンズを考える図1aInterpalpebralfit小直径のレンズが瞼裂一杯におさまっている.図1bExtra-palpebralfit大直径レンズの上のedgeが上眼瞼の下に入っている.表面張力に引き上げられ,ややhighridingになっている.348あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006(00)液交換機構によって1瞬目の期間に交換される涙液量をΔVとする.涙液交換率はΔV/V+ΔVで表される.1回の瞬目によって交換される涙液量ΔVが一定と仮定すれば,涙液交換の効率はレンズ内面と角膜表面間の間隙の広いapicalclearancefitのほうが悪いのは当然である.さらに,apicalclearancefitではsecondarycurve付近の狭い領域に全重量がかかるので,この部分の涙液層は非常に薄くなり,涙液の流れが悪く,交換される涙液量ΔVが小さくなる.その結果,涙液交換率はさらに悪くなる.水門を通る流れは,小川でも時間をかければレンズ下の間隙を満たすからよいのではないかと思うかも知れないが,それは誤りである.瞬目過程は1/4秒で終わる.一瞬のうちにレンズ下に間隙を形成し,一瞬のうちに涙の流入を完成させねばならないのである.3.機械的損傷の面Apicalclearancefitでは,レンズ重量はsecondarycurve付近の狭い領域で支えられるので,レンズがこの狭い部分の角膜細胞に機械的損傷を与えることもありうる.これに対してalignmentfitでは,レンズの重さは均等に分布されるので機械的損傷を与えることはない.さらに,レンズ内面と角膜表面の間隙(V)が狭いので,涙液交換の効率はよい.文献1)StoneJ,PhillipsAJ(eds):ContactLenses.2nded,Butterworth,LondonandBoston,19802)RubenM,GuillonM(eds):ContactLensPractice.1sted,Chapman&HallMedical,London,1994

写真:Meige症候群

2006年3月31日 金曜日

あたらしい眼科Vol.23,No.3,20063450910-1810/06/\100/頁/JCLS(65)小野眞史日本医科大学眼科写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦262.Meige症候群図1Meige症候群患者のローズベンガル染色:眼瞼痙攣治療前76歳,女性.本症例は軽度ドライアイを伴っており,眼瞼痙攣治療前のローズベンガル染色はドライアイのパターンに酷似していた.軽度結膜充血を認め,ローズベンガルスコアは5/9.ここでは示していないがフルオレセインスコアも4/9,BUT(涙膜破壊時間)3秒でSchirmerⅠ法は1mmと,眼瞼痙攣以外はドライアイの診断項目を満たす.図2図1のシェーマ:ローズベンガル染色.図3Meige症候群患者のローズベンガル染色:眼瞼痙攣治療後本症例のボツリヌス毒素治療後,眼瞼痙攣は消失しローズベンガルスコアは1/9と明らかな改善を認めた.フルオレセインスコアも2/9と改善したが,角結膜染色以外はBUT2秒,SchirmerⅠ法は1mmと変化を認めなかった.結膜充血も改善しドライアイ点眼治療を減じた.図4本症例の眼瞼痙攣時高度な眼輪筋の攣縮により開瞼が困難となり日常生活での著しいqualityoflifeの低下を認める.開瞼困難は数秒から数十秒にわたることもあり,特に歩行,運転などに支障を生じる.346あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006(00)症例は76歳,女性.数年前から両眼の強い開瞼困難を認め,近医にてドライアイの診断で治療を受けていたが,通常のドライアイ治療に反応しなかった.細隙灯所見は図1,2に示すように,ローズベンガル染色陽性の角結膜障害を認め,ドライアイのパターンと酷似しており,フルオレセイン染色はここでは示さないが同様にドライアイ様の染色を認めた.SchirmerⅠ法は1mmとわが国のドライアイ診断基準1)を満たした.本症例の開瞼困難は眼瞼痙攣に伴うものであり,同時に顔面の表情筋の攣縮を認め,Meige症候群と診断された.通常のドライアイ治療で改善しないことから,ボツリヌス毒素注射を行い,角結膜障害は図3のように改善した.この症例では眼瞼痙攣による異常な強い瞬目運動(図4)と,軽度なドライアイの相乗効果で角結膜障害を悪化させている可能性が考えられた.眼瞼痙攣治療後はドライアイ治療の点眼薬はときに中止できる程度に減量可能であった.Meige症候群はMeigeにより1887年に発表された症候群2)で,「連続した不随意の顔面の筋緊張を認める難治性の疾患で,眼瞼痙攣と口輪筋を含む表情筋の異常運動を特徴とする症候群」とされ,部分的なジスキネジアに分類される.明らかな原因病態は不明であるが,近年脳内代謝物GABA(gamma-aminobutilicacid)や糖代謝の異常が示唆され3,4),オキュラーサーフェスとの関連では,「治療に反応しないドライアイの半数以上がMeige症候群と診断された」との報告がある5).症状は日常生活に支障をきたすような開瞼困難を認め,「まぶしい」,「眼が開けられない」という愁訴に加え,通常診療では先の図1,2に示すような角結膜上皮障害を認めることから,ドライアイとの鑑別,あるいはドライアイ合併時の診断,治療を要する症候群である.開瞼困難を生じることから重症例はきわめてqualityoflifeが低い.現在わが国ではこのMeige症候群を含む高度な両側性眼瞼痙攣と片側性顔面痙攣,痙性斜頸に対し,ボツリヌス毒素(ボトックスR)を用いた局所注射治療6)が保険適応で可能となっている.実際の投与は認定医制度となっているため,投与にあたって事前に講習を受け,認定医の資格を取得する必要がある.手技に関しての詳細は省略するが,基本的に痙攣を生じる眼輪筋の皮下,顔面筋表在部に薬液を注射する.このとき,上眼瞼挙上筋付近への注射は眼瞼下垂を生じるため極力避ける注意が必要であり,これらの実際の手技は認定講習内容に従って行う.注射時には疼痛軽減のためのリドカインテープの使用も有用である7).適応疾患に対しては著効を示すことが多く,眼瞼痙攣の特効薬として期待されている.注射後数カ月の効果が維持できる.疾患の治療予後は症例によりさまざまであるが,数年のボツリヌス毒素治療経過後,継続治療の必要がなくなる症例も認められる.文献1)島﨑潤ほか(ドライアイ研究会診断基準委員会):ドライアイの定義と診断基準.眼科37:765-770,19952)MeigeH:Lesconvulsionsdelaface,uneformecliniquedeconvulsionfaciale,bilateraleetmediane.RevNeurol(Paris)10:437-443,19103)AndersonRL,PatelBC,HoldsJBetal:Blepharospasm:past,present,andfuture.OphthalPlastReconstrSurg14:305-317,19984)SuzukiY,KiyosawaM,OhnoNetal:Glucosehypometabolisminmedialfrontalcortexofpatientswithapraxiaoflidopening.GraefesArchClinExpOphthalmol241:529-534,20035)TsubotaK,FujiharaT,KaidoMetal:DryeyeandMeige’ssyndrome.BrJOphthalmol81:439-443,19976)JankovicJ,OrmanJ:BotulinumAtoxinforcranial-cervicaldystonia:adouble-blind,placebo-controlledstudy.Neurology37:616-623,19877)OnguchiT,TakanoY,OnoMetal:Lidocainetape(Penles)reducesthepainofbotulinumtoxininjectionforMeige’ssyndrome.AmJOphthalmol138:654-655,2004

糖尿病角膜上皮症

2006年3月31日 金曜日

0910-1810/06/\100/頁/JCLS下や角膜潰瘍の治りにくい原因ともなっている.また上皮下にAGE(advancedglycationendproducts)の沈着10)がみられることが,上皮基底膜の異常や接着装置密度の低下,ひいては角膜上皮の接着不良を招いて,上皮が容易に.がれやすい原因となっていると考えられる.糖尿病患者のこれらの異常は,通常の状態ではあまり表面には現れない.いわばサブクリニカルな異常である.たとえば,上皮細胞の形態学的異常は通常のスリッI糖尿病角膜症とは?糖尿病網膜症を知らない眼科医はいないだろう.しかし糖尿病角膜症1~3)は,どうであろうか?今やこの言葉はかなり市民権を得たと思うが,少なくとも角膜専門医のなかでは市民権を得ていると思っているが,一般眼科医や研修医のなかではどうであろうか?まだまだ完全に市民権を得ているとはいえないのではないだろうか?その証拠に,代表的な眼科教科書を何冊か調べてみると,一部の教科書を除いて,糖尿病網膜症は取り上げているが,糖尿病角膜症については触れていないことが多い.糖尿病患者の角膜は,異常である.どう異常であるか?それはこの章の全体をかけて解説していくが,いろんな点で異常である.その異常な点が,表面に現れて疾患としての形をなしたのが,糖尿病角膜症,特に糖尿病角膜上皮症である.糖尿病患者の角膜を含むオキュラーサーフェスにみられる異常を,羅列すると,表1のようになる.ご覧になればわかると思うが,角膜表面の上皮だけでなく,その上を覆う涙液の異常や内皮細胞の異常もみられることがわかりますね.今回のこのうち角膜上皮のみにまとを絞って述べたいと思う.これらの事象は相互に関係しており,どれかが単独に生じているわけではない.たとえば,上皮下神経密度の低下は,角膜知覚低下につながり,これが瞬目回数の低(59)339*HisashiHosotani:市立豊中病院眼科〔別刷請求先〕細谷比左志:〒560-8565豊中市柴原町4-14-1市立豊中病院眼科特集●基本的な角膜上皮疾患の考え方と治療方法あたらしい眼科23(3):339~344,2006糖尿病角膜上皮症DiabeticKeratoepitheliopathy細谷比左志*表1糖尿病患者のオキュラーサーフェスにみられる異常・角膜が容易に.がれやすい.・角膜潰瘍が治りにくい.・点眼薬の影響がでやすく,容易に薬剤毒性角膜障害を生じる.・角膜知覚低下がみられ4),糖尿病網膜症の程度に相関5,6)する.すなわち糖尿病網膜症が重症なほど,角膜知覚低下も重症である.・角膜上皮表層細胞の形態が異常である.すなわち細胞の巨大化,大小不同などがみられる6).・上皮基底膜の異常7).肥厚,多層化,断裂がみられる.・アンカーリング線維やヘミデスモゾームなどの上皮接着装置の密度が低い8).・上皮下神経密度の低下9).・上皮下にAGEの沈着がみられる10).・涙液分泌の低下.・上皮バリア機能の低下11).・角膜が厚い.内皮細胞機能の低下を反映.・内皮細胞密度の異常.内皮細胞の大小不同,六角形細胞率の低下12).・瞬目回数の低下.・Descemet膜に皺(wrinkle)がみられる13).340あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006トランプ検査ではみつからず,上皮スペキュラーや共焦点顕微鏡といった装置を使って観察してみて初めてわかる異常である.糖尿病患者の角膜異常が顕在化するのは,白内障手術や硝子体手術後,あるいはスリミラーなどのコンタクトレンズを装着させて光凝固術を施行した後など,角膜にある程度の外的ストレスを加えた後にみられることが多い.1970年代の終わりごろより,増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術が盛んに行われ,それに伴い術後の難治性の角膜上皮障害が報告14~16)されるようになった.医学の進歩により重症の糖尿病患者の延命率も上がり,硝子体手術以外の手術や治療により生じる角膜障害を経験する機会も増えてきた.これらの糖尿病患者にみられる角膜症,特に角膜上皮の異常を総称して糖尿病角膜上皮症とよんでいる.糖尿病角膜症はまれに,図1に示した症例のように,外的ストレスが一切ない状態でも発症することがある.しかし日常臨床でみられる糖尿病角膜症の大多数は,上で述べた手術などの外的ストレス後である.II発症頻度糖尿病患者のうち,どのくらいの割合で糖尿病角膜症がみられるのであろうか?Schultzらによると糖尿病患者の47~64%にみられると報告17,18)しているが,実際の日常臨床での感覚としては,それほど多くない印象である.それを疑問に思った筆者らが以前調べたところによると,糖尿病患者の17%に何らかの角膜上皮障害がみられた19).また15.9%にみられるという数字も報告20)されている.16~17%あたりが妥当な線ではないかと考えている.一方,内眼手術,特に硝子体手術後に限ってみた場合,術後に生じる上皮障害の出現頻度は,筆者らが以前行ったアンケート調査19)では,硝子体手術を受けた糖尿病患者の19.9%(4,385眼中873眼)にみられた.その病型の内訳は,点状表層角膜症11.0%(483眼),再発性角膜上皮びらん3.2%(140眼),遷延性角膜上皮欠損5.7%(250眼)であった.糖尿病角膜上皮症には,いろいろな病型がみられる.その病型は,通常,表2のように分類される.では順を追って説明しよう.1.点状表層角膜症(superficialpunctatekeratopathy:SPK)日常の診察で最もよく経験するのがこの病型である.一般に点状表層角膜症を生じる原因は数多いが,その一つに糖尿病がある.角膜上皮の点状びらんで,図2のようにフルオレセインで染色するとよくわかり,点状に染色される.ごく軽いものから重症のものまで程度はさまざまであり,その分布や範囲は変化に富む.角膜下方1/3のいわゆる瞼裂部に一致して点状びらんがみられるものも多い.角膜知覚を測定してみるとたいてい低下しており,また,涙液量の低下,いわゆるドライアイを合併していることもある.診察時には,必ずフルオレセインで染色し,びらんの範囲,程度を観察し,同時にtearmeniscusの高さをみることが肝心である.こういった観察は,日常診察の習慣としてルーチンにしておくとよい.もし少しでもドライアイが疑われれば,Schirmer(60)図1手術などの外的ストレスが一切ない状況で発症した糖尿病角膜症の一例(文献25より)職業はケーキ屋さんであった.表2糖尿病角膜上皮症の病型分類・点状表層角膜症・再発性角膜上皮びらん・遷延性角膜上皮欠損・その他の病型あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006341テストをするべきである.また,糖尿病患者では白内障術後の点眼薬のうち,非ステロイド抗炎症薬(ジクロードRなど)点眼により点状表層角膜症を生じることが多い傾向がある.これも点眼薬の内容を確認する習慣をつけておくとよい.この場合は,薬剤毒性角膜症の範疇に入るかもしれないが,糖尿病患者の角膜はこういった薬剤の障害性に対し脆弱である傾向がある.2.再発性角膜上皮びらん(recurrentcornealerosion:RCE)最近,糖尿病網膜症に対する硝子体手術件数が増加している.糖尿病患者に対する硝子体手術中に角膜上皮が混濁してきて手術の視認性が低下する場合,上皮掻爬を施行することが多い.こういう症例の場合,術後に難治性の上皮障害がみられることがある.その一つがこの再発性角膜上皮びらんであり,その本態は角膜上皮の接着障害である.一見するとまったく正常にみえる角膜上皮が,少し触れるだけで簡単に.離してしまう状態である.上皮びらんは一旦修復され完全に治癒したかにみえるが,数日して突然.離する.図3がそういった症例の一例であるが,びらん部の周囲には接着不良の上皮が観察できる.(61)図2点状表層角膜症の一例(文献3より)図3再発性角膜上皮びらんの一例(文献3より)図5遷延性角膜上皮欠損の一例図4と同一症例のフルオレセイン染色像.図4遷延性角膜上皮欠損の一例瞼裂部に一致して潰瘍がみられ,潰瘍周囲の上皮が白く盛り上がっているのがわかる.342あたらしい眼科Vol.23,No.3,20063.遷延性角膜上皮欠損(persistentepithelialdefect:PED),神経麻痺性角膜潰瘍(neurotrophiccornealulcer)この病型も,硝子体手術や白内障手術などの角膜への強いストレスのあとに生じることが多い.図4,5のように角膜の下方の輪部から約1/3の位置(通常瞼裂部とよばれる部位)に生じやすい.その形は横に長い楕円をしており,その周囲の上皮は白く盛り上がっているのが特徴である.難治性で,いろいろな治療法を試みても治りにくい上皮欠損である.こういった症例の角膜知覚を測定すると著明に低下している.Hyndiukら21)が報告した神経麻痺性角膜潰瘍とほぼ同じ病態と考えてよい.こういった症例は,角膜だけでなく全身,特に四肢の末梢神経の障害である糖尿病神経症を合併していることが多く,図に示した症例でも,手足の神経の伝導速度を測定すると著明な低下がみられ,また角膜知覚もCochet-Bonnet角膜知覚計で5mm以下と著明に低下していた.4.その他の病型その他,まれに糸状角膜炎やepithelialcracklineを生じることがある.Epithelialcracklineは,大橋らが提唱した疾患概念22)である.糖尿病患者でもepithelialcracklineがみられることがある.Epithelialcracklineの部位には糸状角膜炎もみられる.角膜上皮のホメオスターシスは図6のように,角膜上皮の分裂X,移動Y,脱落ZのバランスがX+Y=Zとなることによって保たれている(ThoftらのX,Y,Z理論).しかし一旦このバランスが崩れると,X+Y<Zの状態となり,epithelialcracklineや遷延性上皮欠損となる.Epithelialcracklineとはこの角膜上皮のバランスが崩れた状態にみられる病態と考えられる.5.プレクリニカル(前臨床的)な異常細隙灯顕微鏡検査で何らの異常がみられない状態でも上皮スペキュラー検査や共焦点顕微鏡検査を施行すると,糖尿病患者では上皮表層細胞の形態学的異常6)がみられる.すなわち,角膜上皮表層細胞が巨大化しており,大小不同がみられたり,上皮露出細胞面積が大きく,細胞核が観察されたりする.このように,前述の1~4のような臨床的な異常を生じる前の段階,前臨床段階ですでに異常がみられるのである.角膜知覚はこういうプレクリニカルな段階でもすでに低下しているので,非常に鋭敏な指標であると考えられる6).6.角膜知覚低下どの病態にも深く関与しているが,糖尿病患者の角膜知覚を測定すると,低下がみられる4~6).これは,糖尿病角膜症の発生に深く関与しており,非常に重要な要素であると考えられる.糖尿病角膜症は糖尿病神経症の一型18)とも考えられるからである.角膜知覚低下は糖尿病網膜症の重症度と密接な相関関係があって,糖尿病網膜症が重症であればあるほど,角膜知覚低下も著しい5,6).(62)図6角膜上皮のX,Y,Z理論(Thoftが提唱)X+Y=Zの平衡を保っている限り上皮は安定状態にある.YYZX角膜上皮角膜実質X:分裂量(上皮基底細胞の)Y:移動量(周辺からの)Z:脱落量(角膜表面からの)上皮創傷治癒遅延涙液減少瞬目低下上皮分裂能低下上皮基底膜異常上皮接着障害AGE沈着AR亢進ポリオール蓄積角膜知覚低下(糖尿病神経症)糖尿病角膜上皮症糖尿病図7糖尿病角膜上皮症の発症メカニズム(仮説)種々のファクターが関与して糖尿病角膜上皮症を発症させている.あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006343最近では共焦点顕微鏡で観察すると上皮下の神経線維密度が糖尿病患者で低下していたという報告9)もあり,角膜知覚低下の裏付けとなる事実であると思われる.7.糖尿病角膜症の発症メカニズム(仮説)糖尿病角膜症は,先にも述べたように,図7のようないろいろなファクターが互いに影響しあって発症していると考えている.そのベースには角膜知覚低下やAGEの沈着などがあり,これらが上皮基底細胞の分裂を抑制し,上皮基底細胞の接着不良をもたらし,糖尿病角膜症の種々の病態をひき起こしていると考えると理解しやすい.III治療1.点状表層角膜症ヒアルロン酸ナトリウム(ヒアレインR)点眼(4~5回/日)をまず試みる.涙液量の低下も合併している場合には,それに加えて防腐剤を含まない人工涙液点眼(ソフトサンティアRなど)を追加する.この場合には可能なら,ヒアルロン酸ナトリウム点眼も防腐剤非含有のもの(ヒアレイン・ミニR)を使用することが望ましい.これらの治療で治癒しなければ,タリビッドR眼軟膏点入や,治療用ソフトコンタクトレンズ装用を試みる.アルドース還元酵素阻害薬(CT-112)の点眼が非常に有効なのである6,23)が,残念ながら製品化されないという.製品化してくれるという奇特な製薬会社は現れないものかと思う.白内障術後や緑内障例で,点眼薬の毒性が疑われる場合には,まずその原因とおぼしき点眼薬(非ステロイド抗炎症薬や抗緑内障薬など)を中止して,病像が軽減しないかどうかをみる.病像の軽減があり,なおかつまだ点状表層角膜症が残っている場合には,涙液の低下を疑い上記の治療を併用する.2.再発性角膜上皮びらんまず抗生物質眼軟膏(タリビッドR眼軟膏)点入に加えて圧迫眼帯治療を試みる.この場合,圧迫眼帯は確実に圧迫眼帯の状態になっていることを確認しなければならない.すなわち厚めのガーゼを患眼に押し当て,幅広のサージカルテープでしっかりガーゼを固定して,ガーゼの下で瞼が開瞼できないようにすることが肝心である.看護師やスタッフまかせにせず医師みずからの確認作業が必要である.斜視治療に使用するアイパッチRだけでは不完全である.以上の治療で治癒しない場合,治療用ソフトコンタクトレンズの装用を試してみる.それでもなお治癒しない場合は,あるいは,治療用ソフトコンタクトレンズの装用を試す前に,角膜表層穿刺(角膜実質穿刺anteriorstromalpuncture)24)を試みてもよい.この方法は特殊な器具を必要としない簡便で非常に有効なよい方法である.詳細については文献24)を参照していただければよいと思うが,手短に説明すると,点眼麻酔ののち,細隙灯顕微鏡下あるいは外来処置用顕微鏡下で,患者の顔が動かない状態にして25ないし26ゲージ針で接着不良とみえる角膜上皮を,あたかもその下のBowman層と角膜実質にピン止めするような感覚で穿刺していく.接着不良の上皮部だけでなくその周囲の角膜上皮も一緒に穿刺しておくのがコツである.上皮欠損部が広い場合,上皮欠損部にも穿刺してよい.穿刺の深さは実質の1/3までで,注射針は簡単には前房に達することはない.筆者も当初は角膜穿孔を恐れて,注射針の先端を折り曲げて使用していたが,最近では直針のままで問題なく施行できている.穿刺間隔は約0.5mm程度でよい.穿刺が終了したら抗生物質眼軟膏点入をして圧迫眼帯をする.24時間はそのままにして診察.接着不良部が残っていれば,同様にして角膜表層穿刺をする.同様の処置をして24時間後に診察.これで大抵は治癒する.その他,上皮掻爬という方法もあるが,あまりお勧めできない.自己血清点眼は試みてもよいかもしれない.3.遷延性角膜上皮欠損,神経麻痺性角膜潰瘍両者はほぼ同一の病態と考えられるので,一緒に述べる.前項の再発性角膜上皮びらんと同じく,まず抗生物質眼軟膏(タリビッドR眼軟膏)点入+圧迫眼帯治療を試みる.前述のように圧迫が不完全のことがよくみられるので圧迫は確実にすること.この方法でかなりの症例は治癒する.この方法が無効の場合,治療用ソフトコンタクトレンズの装用を試みる.それでも治癒しないような重症の場合には,瞼板縫合を考慮する.瞼板縫合をあ(63)344あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006まりタイトに施行すると施行後の診察ができなくなるので,耳側の瞼裂に少し隙間を設けるのがコツである.診察はこの隙間から行う.4.Epithelialcrackline前述の上皮のホメオスターシスの崩れた不等式,X+Y<Zの状態から,X+Y=Zという調和の取れたバランスのよい状態に回復すればよいのであるから,この式の左辺のX(分裂量)およびY(移動量)を増加させるか,あるいは右辺のZ(脱落量)を減少させればよいのである.すなわち上皮基底細胞の分裂と移動を促進し,角膜表面からの上皮表層細胞の脱落を抑制すればよいのである.実際には,抗生物質眼軟膏点入+圧迫眼帯治療と治療用ソフトコンタクトレンズ装用は,角膜表面からの細胞の脱落を抑制すると考えられる.瞼板縫合も,眼瞼の動きを制限するため角膜表面からの上皮細胞の脱落を抑制すると考えられるので有効と思われる.さらに,EGF(epidermalgrowthfactor)点眼は角膜上皮基底細胞の細胞分裂を促進するので有効と考えられる.文献1)大橋裕一:糖尿病角膜症.日眼会誌101:105-110,19972)細谷比左志:糖尿病角膜症.臨眼51(増刊号):45-48,19973)細谷比左志:糖尿病性角膜症.あたらしい眼科13:845-851,19964)SchwartzDE:Cornealsensitivityindiabetics.ArchOphthalmol91:174-178,19745)RogellGD:Cornealhypesthesiaandretinopathyindiabetesmellitus.Ophthalmology87:229-233,19806)HosotaniH,OhashiY,YamadaMetal:Reversalofabnormalcornealepithelialcellmorphologiccharacteristicsandreducedcornealsensitivityindiabeticpatientsbyaldosereductaseinhibitor,CT-112.AmJOphthalmol119:288-294,19957)AzarDT,Spurr-MichaudSJ,TisdaleASetal:Alteredepithelial-basementmembraneinteractionsindiabeticcorneas.ArchOphthalmol110:537-540,19928)AzarDT,Spurr-MichaudSJ,TisdaleASetal:Decreasedpenetrationofanchoringfibrilsintothediabeticstroma.Amorphometricanalysis.ArchOphthalmol107:1520-1523,(64)19899)HossainP,SachdevA,MalikRA:Earlydetectionofdiabeticperipheralneuropathywithcornealconfocalmicroscopy.Lancet366:1340-1343,200510)KajiY,UsuiT,OsikaTetal:Advancedglycationendproductsindiabeticcorneas.InvestOphthalmolVisSci41:362-368,200011)GekkaM,MiyataK,NagaiYetal:Cornealepithelialbarrierfunctionindiabeticpatients.Cornea23:35-37,200412)SchultzRO,MatsudaM,YeeRWetal:CornealendothelialchangesintypeIandtypeIIdiabetesmellitus.AmJOphthalmol98:401-410,198413)HenkindP,WiseGN:Descemet’swrinklesindiabetes.AmJOphthalmol52:371-374,196114)BrightbillFS,MyersFL,BresnickGH:Postvitrectomykeratopathy.AmJOphthalmol85:651-655,197815)PerryHD,FoulksGN,ThoftRAetal:Cornealcomplicationsafterclosedvitrectomythroughtheparsplana.ArchOphthalmol96:1401-1403,197816)FoulksGN,ThoftRA,PerryHDetal:Factorsrelatedtocornealepithelialcomplicationsafterclosedvitrectomyindiabetics.ArchOphthalmol97:1076-1078,197917)SchultzRO,VanHomDL,PetersMAetal:Diabetickeratopathy.TransAmOphthalmolSoc79:180-199,198118)SchultzRO,PetersMA,SobocinskiKetal:Diabetickeratopathyasamanifestationofperipheralneuropathy.AmJOphthalmol96:368-371,198319)細谷比左志:糖尿病角膜上皮症.坪田一男編集「オキュラーサーフェスのすべて」,眼科プラクティス3.p251-257,文光堂,200520)DogruM,KatakamiC,InoueM:Tearfunctionandocularsurfacechangesinnoninsuline-dependentdiabetesmellitus.Ophthalmology108:586-592,200121)HyndiukRA,KazarianEL,SchultzROetal:Neurotrophiccornealulcersindiabetesmellitus.ArchOphthalmol95:2193-2196,197722)大橋裕一,木下茂,細谷比左志ほか:角膜上皮障害の新しい病態─Epithelialcrackline.臨眼46:1539-1543,199223)細谷比左志,田野保雄,玉田玲子ほか:アルドース還元酵素阻害剤(CT-112)点眼による糖尿病性角膜症の治療.眼紀37:1359-1365,198624)細谷比左志,田野保雄:角膜表層穿刺の奏効した糖尿病性角膜症の3症例.臨眼42:13-16,198825)細谷比左志:オキュラーサーフェス異常と角膜症.樋田哲夫編集「糖尿病眼合併症の治療指針」,眼科プラクティス7.p156-161,文光堂,2006

角膜上皮ジストロフィ

2006年3月31日 金曜日

0910-1810/06/\100/頁/JCLS1.臨床所見角膜上皮に小.胞状,地図状,指紋状の混濁が単独もしくは合併して認められる.検眼鏡的に直接法にても混濁が観察できるが,間接法や反帰光線法を用いるとより鮮明に観察可能である.図1は30歳代白人男性の前眼部写真である.瞳孔領の下方に小.胞状の混濁を認める.図2は同症例における反対眼である.小.胞状の混濁に隣接して,線状の混濁が確認できる.通常,小.胞はフルオレセインでは染まらないが,表面に到達して破裂すると点状表層角膜症様の所見を呈する場合もある.鑑別診断として,上皮内に.胞を形成するMeesmann角膜ジストロフィや再発性角膜びらんがあげられる.特I角膜上皮基底膜ジストロフィ(epithelialbasementmembranedystrophy)角膜上皮基底膜ジストロフィは角膜上皮内に小.胞状(microcyst),地図状(map),指紋状(fingerprint)の混濁を呈する疾患であり,1964年にCoganによりはじめて報告された1).これまでにCogan’smicrocysticdystrophy,map-dot-fingerprintdystrophy,mycrocysticcornealdystrophyなどの呼称でよばれてきた.白人に多く,わが国では非常にまれな疾患である.男女比では女性に多いとの報告がある.遺伝形式は常染色体優性遺伝を示すとされているが,原因不明の場合も多い.(53)333*TakeshiSoma:大阪大学大学院医学系研究科眼科学**KojiNishida:東北大学大学院医学系研究科神経・感覚器病態学講座眼科・視覚科学分野〔別刷請求先〕相馬剛至:〒565-0871吹田市山田丘2-2大阪大学大学院医学系研究科眼科学特集●基本的な角膜上皮疾患の考え方と治療方法あたらしい眼科23(3):333~337,2006角膜上皮ジストロフィEpithelialDystrophy相馬剛至*西田幸二**図1角膜上皮基底膜ジストロフィの前眼部写真瞳孔領の下方に連続した小.胞状の混濁を認める.図2図1と同一症例の反対眼小.胞状の混濁と隣接する線状の混濁を認める.334あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006に再発性角膜びらんは本疾患と共通する要素が多く,鑑別が容易ではない症例も少なくない2).2.病理所見上皮内に進展した異常な基底膜の下に.胞(.胞壁を有さない:偽.胞)を認める.これは,迷入した基底膜に遮られ上方へ移動できなかった上皮細胞が.胞を形成したものと考えられている.3.臨床症状多くの症例で無症状であるが,軽度の視力低下や異物感を自覚する症例もある.本疾患では角膜上皮基底細胞と基底膜の接着が脆弱であり,起床時や外傷をきっかけに,また,これらがなくても角膜びらんをくり返すことがある.その場合,急激な眼痛と流涙を自覚する.再発性角膜びらんと診断されている症例に本症が含まれている可能性は高いと考えられる.4.治療治療の必要がない場合が多く,異物感を訴える場合は対症的に角膜保護薬や人工涙液の点眼を行う.しかし,刺激症状が強い場合や角膜びらんをくり返す症例では,高張食塩点眼および眼軟膏の投与,ソフトコンタクトレンズの装用,機械的な病巣部の上皮掻爬を行う.IIMeesmann角膜上皮ジストロフィ(Meesmanncornealepithelialdystrophy)Meesmann角膜ジストロフィは角膜上皮内に微小.胞(itraepithelialmicrocyst)を有する非常にまれな疾患である.臨床的には点状表層角膜症を示し,1930年代に初めて報告された.遺伝形式は常染色体優性遺伝である.原因遺伝子は,1997年にIrvineら3)およびNishidaら4)のグループにより角膜上皮型ケラチンであるK12およびK3であることが報告された.中間径フィラメントであるケラチンは,上皮系組織における細胞構造に重要な役割を果たし,各組織における上皮細胞の分化段階に応じて組織特異的に発現している.遺伝性の皮膚疾患のいくつかはケラチンの突然変異が原因である〔単純型表皮水疱症(epidermolysisbullosasimplex)など〕.1.臨床所見幼少期より両眼の角膜上皮内に円形の微小.胞が観察される(図3).微小.胞は幼少期には角膜周辺部に存在するが,次第に角膜中央部へと広がっていき,生涯を通じて,数および密度は増加していく.検眼鏡的に直接法にて点状の混濁として観察されるが,間接法や反帰光線法を用いると灰色もしくは透明色の.胞が鮮明に観察できる.通常びまん性に観察される微小.胞であるが,渦(54)図3Meesmann角膜上皮ジストロフィの前眼部写真角膜上皮内に無数の微小.胞を認める.(相馬剛至ほか:NEWMOOK眼科10;角膜ジストロフィ・角膜変性,p39,金原出版,2005より)図4図3と同一症例のフルオレセイン染色像点状表層角膜症様の所見を呈している.(相馬剛至ほか:NEWMOOK眼科10;角膜ジストロフィ・角膜変性,p40,金原出版,2005より)あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006335巻き状や蛇行状に観察される場合もある.微小.胞は最初,上皮基底部に生じるが,徐々に上方へ移動し表面に達すると破裂し角膜びらんとなる.フルオレセイン染色を施すと,角膜上皮深層に存在する.胞は染色されないが,表面に達した.胞は染色され,点状表層角膜症様の所見として観察される(図4).点状表層角膜症を呈する疾患は少なくなく,鑑別診断が重要である(表1).2.病理所見光学顕微鏡では,びまん性に不整化した角膜上皮と,上皮細胞形質内に空胞化を認める.小円形のdebrisを含む.胞を上皮層に認め,変性した上皮細胞に対してインプレッションサイトロジーを施行すると,.胞がPAS(過ヨウ素酸フクシン)染色陽性として確認される.電子顕微鏡で観察すると,“peculiarsubstance”とよばれるフィラメント状の物質の集積が,上皮細胞,特に基底細胞層の細胞形質内に認められる.3.症状幼少期から青年期では,微小.胞が角膜上皮内にとどまっていることが多く,ほとんど無症状である.しかし,中年期になり微小.胞が角膜表層へ移動し点状びらんを形成すると,異物感や羞明,霧視を年余にわたり訴えるようになる.視力低下を訴えることはまれである.4.治療治療の必要がない場合が多く,異物感や刺激症状を訴える場合は対症的に角膜保護薬や人工涙液の点眼を行う.しかし,進行した症例に対しては,現在のところ有効な治療法はなく,外科的治療を行ってもいずれも再発を認めている.III膠様滴状角膜ジストロフィ(gelatinousdrop-likecornealdystrophy)膠様滴状角膜ジストロフィはわが国で最初に報告された角膜上皮下および角膜実質にアミロイドが沈着する疾患である.遺伝形式は常染色体劣性遺伝で,原因遺伝子として1999年にTsujikawaらによってM1S1遺伝子が同定された5).日本人に多くみられ,海外の報告は散見される程度である.非常にまれな疾患であり,発症頻度は約30,000人に1人と推定されている.1.臨床所見・病理所見多くの場合,幼少期に発症する.典型例では,初期変化として瞼裂部の上皮下から角膜実質浅層に,隆起した半透明~乳白色の小点状混濁を認める.進行に伴い球形の隆起物が増加,融合し,角膜表面が凹凸した状態になる.表層性に血管侵入を認める場合も少なくない.瞼裂間の球結膜下に同様の沈着を認める例もある.典型的な病像を示さない場合が少なくなく,帯状角膜変性に類似した症例や角膜混濁を主とする症例,金柑様の所見を呈する症例もある(図5~8).最近では臨床所見による新たな病型分類が提案されている6).両眼性の疾患であるが,左右差を認める場合も多い.発病の初期では診断が困難な場合もあり,ヘルペス性角膜炎やトラコーマ,帯状角膜変性,角膜フリクテンなどと誤診されている場合も少なくない.2.病理所見病理組織学的には,上皮下の沈着物はアミロイドであり,コンゴーレッド染色陽性で偏光顕微鏡により複屈折性を示す.電子顕微鏡による観察では,変性した表層細胞と角膜上皮細胞間の異常な間隙が報告され7),本疾患における角膜上皮の透過性亢進の原因と推測されている.3.症状異物感や羞明,流涙,眼痛などの強い刺激症状を呈す表1点状表層角膜症の鑑別診断角膜上方上輪部角結膜炎春季カタル角膜中央・びまん性ドライアイ薬剤性角膜上皮障害神経麻痺性角膜炎Thygeson角膜炎ブドウ球菌性角膜炎角膜下方兎眼アトピー性角膜炎(55)336あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006るのが特徴であり,開瞼が困難になる場合もある.進行すると,著しい視力低下を自覚し,手術加療が必要になる.4.治療保存的治療としてソフトコンタクトレンズの連続装用があげられる8).この方法により,病状進行の抑制だけでなく,臨床所見の改善が期待される.また,外科的治療後の再発防止に有効である.外科的治療としては,実質浅層の限局した混濁に対して,以前は角膜切除が行われていた.しかし,最近ではエキシマレーザーによるPTK(phototherapeutickeratectomy;治療的角膜切除)も選択肢の一つとなっている.混濁がより深層に及ぶ例では角膜上皮形成術,もしくは角膜輪部移植を併用した表層(深層)角膜移植の適応となる.この方法を用いると表層移植を単独で行った場合と比較して再発期間の延長が期待される.(56)図5乳白色の隆起状病変を伴う典型例瞼裂間を中心に,融合した乳白色の隆起物を認める.(文献6より)図6帯状角膜変性に類似した例瞼裂間を中心に,角膜実質に混濁を認める.(文献6より)図7角膜混濁を主とする例角膜全体が混濁し,一部に白色の沈着を認める.(文献6より)図8金柑様を呈する例角膜全体に黄色の沈着物を認める.(文献6より)あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006337文献1)CoganDG,DonaldsonDD,KuwabaraTetal:Microcysticdystrophyofthecornealepithelium.TransAmOphthalmolSoc62:213-225,19642)小玉裕司,糸井素一:EpithelialBasementMembraneDystrophyと思われる3症例.あたらしい眼科6:1373-1378,19893)IrvineAD,CordenLD,SwenssonOetal:Mutationsincornea-specifickeratinK3orK12genescauseMeesmann’scornealdystrophy.NatGenet16:184-187,19974)NishidaK,HonmaY,DotaAetal:Isolationandchromosomallocalizationofacornea-specifichumankeratin12geneanddetectionoffourmutationsinMeesmanncornealepithelialdystrophy.AmJHumGenet61:1268-1275:19975)TsujikawaM,KurahashiH,TanakaTetal:Identificationofthegeneresponsibleforgelatinousdrop-likecornealdystrophy.NatGenet21:420-423,19996)IdeT,NishidaK,MaedaNetal:Aspectrumofclinicalmanifestationsofgelatinousdrop-likecornealdystrophyinJapan.AmJOphthalmol137:1081-1084,20047)KinoshitaS,NishidaK,DotaAetal:Epithelialbarrierfunctionandultrastructureofgelatinousdrop-likecornealdystrophy.Cornea19:551-555,20008)宮本和久,大橋裕一,木下茂:膠様滴状角膜変性に対するソフトコンタクトレンズ連続装用の効果.あたらしい眼科9:1899-1902,1992(57)

角膜上皮感染症

2006年3月31日 金曜日

0910-1810/06/\100/頁/JCLSsensitiveStaphylococcusaureus(MSSA),CNSはmethicillin-resistantCNS(MRCNS)とmethicillin-sensitiveCNS(MSCNS)(表皮ブドウ球菌の場合はmethicillin-resistantStaphylococcusepidermidis(MRSE)とmethicillin-sensitiveStaphylococcusepidermidis(MSSE)に分けられる(表1).一般的に,黄色ブドウ球菌は毒素産生が豊富で病原性が強く,一方のCNSは病原性に乏しい.はじめに角膜上皮は物理的なバリアとして,涙液とともに角膜の防御機構の一端を担っており,さまざまな病原体の侵入を防止している.しかしながら,ある条件下にバリアが破綻すると,病原体は角膜上皮内に侵入し,そこに留まることで感染が成立する.近年,コンタクトレンズ(CL)装用者の増加に伴い,角膜上皮感染症が日常臨床においてしばしばみられるようになった.本稿では,代表的な病原体であるブドウ球菌とアカントアメーバがひき起こす角膜上皮感染症に的を絞り,病原体の特徴,発症機転,リスクファクター,臨床所見,診断(検査や鑑別疾患),および治療方針を概説する.Iブドウ球菌角膜上皮炎1.ブドウ球菌の分類と特徴ブドウ球菌は,眼部の常在菌として最も多く検出される細菌で,コアグラーゼ(血漿を凝固させる作用のある蛋白)保有の有無で,大きくコアグラーゼ陽性および陰性ブドウ球菌の2群に分けられる.ヒト由来のコアグラーゼ陽性株は,基本的に黄色ブドウ球菌のみであるため,実際上は,黄色ブドウ球菌とコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulasenegativeStaphylococci:CNS)とに大別される.CNSの代表菌種として表皮ブドウ球菌があるが,近年はメチシリン耐性株も増加しており,メチシリンへの感受性により,黄色ブドウ球菌はmethicillin-resistantStaphylococcusaureus(MRSA)とmethicillin-(47)327*TakashiSuzuki&YuichiOhashi:愛媛大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕鈴木崇:〒791-0295東温市志津川愛媛大学医学部眼科学教室特集●基本的な角膜上皮疾患の考え方と治療方法あたらしい眼科23(3):327~332,2006角膜上皮感染症CornealEpithelialInfection鈴木崇*大橋裕一*表1ブドウ球菌による角膜上皮感染症の治療メニュー*薬剤感受性試験の結果を参考にして治療を決定するMSSAもしくはMSCNSの場合局所1.キノロン系(ガチフロキサシン,レボフロキサシン)点眼2.セフメノキシム点眼もしくはスルベニシリン点眼*重症度に合わせて回数決定.重症の場合は1と2の併用.全身セフェム系薬剤内服(各抗菌薬に感受性がある場合)MRSAもしくはMRCNSの場合局所1.0.5%バンコマイシン1時間ごと点眼2.0.3%アルベカシン1時間ごと点眼3.0.5%クロラムフェニコール1時間ごと点眼(クロラムフェニコール感受性の場合)*重症度に合わせて,1~3を併用する.全身ミノサイクリン(200mg/日)内服またはST合剤(2g/日)内服(各抗菌薬に感受性がある場合)328あたらしい眼科Vol.23,No.3,20062.ブドウ球菌による角膜上皮感染症の発症機転とリスクファクターブドウ球菌は通常,結膜や眼瞼などに常在している.涙液や角膜上皮バリアなどの防御機構により侵入は阻止されているが,菌数の増加や防御機構の破綻などが重なると,感染を生じやすくなる.菌数増加のリスクファクターとしては,眼瞼炎,結膜炎,涙.炎などの外眼部感染症のほか,CLを介した汚染が考えられる.一方,防御機構破綻のリスクファクターとしては,ドライアイ,角膜上皮障害(機械的障害,再発性上皮びらん,CL装用など),およびステロイド点眼による免疫不全などがあげられる.これらのリスクファクターは複雑に絡み合っており,たとえば,アトピー性皮膚炎患者においては,眼瞼に黄色ブドウ球菌が多数常在している1)なかに,機械的刺激やアレルギー性機転による角膜上皮障害が加わり,黄色ブドウ球菌による角膜上皮感染症を起こすと想定される.3.臨床所見の特徴ブドウ球菌による角膜上皮感染症の臨床所見としては,比較的境界が明瞭で,円形もしくは楕円形の角膜上皮欠損を伴う細胞浸潤が特徴的である.ただし,前述したように,黄色ブドウ球菌とCNSでは病原性に差があるため,臨床所見も異なる.たとえば,黄色ブドウ球菌の場合には細胞浸潤の程度も強く,しばしば多発性であり,CNSの場合には,単発性浸潤であることが多い.図1aは,再発性上皮びらんの治療目的でSCLを装用していた患者に発症したMRSAによる角膜上皮感染症で,上皮びらんの辺縁部に浸潤が多発している.一方,図1bは従来型ソフトコンタクトレンズ(SCL)を3日間連続装用後に発症したCNSによる角膜上皮感染症で,角膜中央部に小円形の角膜浸潤を認める.病変も,眼瞼炎などでは眼瞼縁に一致して生じる場合が多いが,CL装用者においては,角膜中央部や周辺部など,すべての場所に認められる.なお,MRSAやMRCNSは,MSSA(48)図1ブドウ球菌による角膜上皮感染症の臨床所見a:MRSA角膜炎の1例.再発性上皮びらんの辺縁に多発する小円形の浸潤を認める.b:CNS角膜炎の1例.角膜中央部に円形の浸潤を認める.abあたらしい眼科Vol.23,No.3,2006329やMSCNSと比較して,若干病原性が低いとされる2).4.診断(検査と鑑別疾患)ドライアイや眼瞼炎,あるいはCL装用などのリスクファクターがあり,上述のようなブドウ球菌に特徴的な臨床所見を認める場合には,診断と治療とを兼ねて病巣部の擦過を行い,直接鏡検と培養検査を試みる.ブドウ球菌は外眼部の常在菌で,分離培養で検出されても原因菌としての特定はできないため,確定診断には,塗抹標本の直接鏡検にてグラム陽性球菌の存在を確認することが必要である.図2の症例は,再発性の上皮びらん部分に生じた角膜上皮感染症で,アトピー性皮膚炎を合併している.この場合,直接鏡検でグラム陽性球菌を多数認めたほか,培養検査において黄色ブドウ球菌が検出されたことから,黄色ブドウ球菌による角膜上皮感染症と診断できた.鑑別すべきものとして,ブドウ球菌やアクネ菌による眼瞼炎に伴う周辺部角膜浸潤があげられるが,結膜充血が局所的であるほか,浸潤は一定の距離を置いて輪部に平行に存在しており,上皮欠損が生じることも少ない点などが判断材料である.5.治療大部分のMSSAやMSCNSは多くの薬剤に感受性を示すため,ニューキノロン系,セフェム系,ペニシリン系などの頻回点眼が有効であるが,MRSAやMRCNSの場合には,b-ラクタム系薬剤に加え,ニューキノロン系にも高度耐性を示すことがほとんどのため,バンコマイシン点眼液やアルベカシン点眼液を自家調整し,投与する必要がある.治療メニューの一例を表1に示す.IIアカントアメーバ角膜(上皮)炎1.アカントアメーバの分類と特徴アカントアメーバは淡水や土壌中に自由生活する原虫で,水道水にも存在し,その形態には栄養体とシストの2型がある.このうちの栄養体は30~40μmで偽足とよばれる棘状の舌のようなものを有し,一方のシストは10~20μmの球状で二重の細胞壁を有する(図3).乾燥など,アメーバの発育に向かない条件では容易にシスト化し,条件が良くなれば栄養体へと復帰し増殖する.シストの薬物に対する抵抗性は強いため,感染はきわめて難治となる.アカントアメーバはその遺伝子型によって,現在のところT1~14に分類されている3).(49)図2黄色ブドウ球菌による角膜上皮感染症の一例左図:眼瞼縁に一致して,角膜に浸潤を認める.右図:角膜病巣擦過物の塗抹標本(グラム染色)にて,グラム陽性球菌を認める.5μm330あたらしい眼科Vol.23,No.3,20062.アカントアメーバ角膜炎の発症機転とリスクファクター水道水などに含まれているため,日常生活においてアカントアメーバと接する機会は多いはずであるが,感染が成立することはきわめて少ない.しかしながら,角膜から分離されたアカントアメーバにはT3,4の遺伝子型をもつものが多いことが知られており,偽足の違いなど,アカントアメーバの種類によって発症リスクに差のある可能性はある3).また,アカントアメーバが多く生息する汚水などの飛入や,アカントアメーバが多量に付着したCLの装用などでは,当然,角膜上皮との接触機会が増大するため,感染の発症リスクは高くなる.特にCLケース内にグラム陰性桿菌が繁殖すると,それを餌としてアメーバが増殖し長期間生存するという知見は病態を考えるうえで重要である4).すなわち,レンズ装用者のケア不足がアカントアメーバの汚染を増幅させ,一方で,過装用などによる角膜上皮障害が重なることにより,感染の可能性が高くなると推測される.3.アカントアメーバ角膜(上皮)炎の臨床所見アカントアメーバ角膜炎の初期には,角膜中央部の上皮内から上皮下にかけて多発性の浸潤が出現する.このとき,放射状角膜神経炎とよばれるアカントアメーバ角膜炎に特異的な所見がみられることがある.実際には,角膜神経に沿う周辺部の淡い線状の浸潤で,多くの例で多発している.この所見がみられれば,アカントアメーバ角膜炎である可能性はきわめて高いが,全例にみられるものではない点,病期が進行すると消失する点に注意が必要である.初期の所見として,今ひとつ重要なのが偽樹枝状角膜炎である.角膜中央部を走る線状の上皮病変で,ターミナルバルブはなく,盛りあがったような感じがむしろ帯状疱疹に似ている(図4).(50)図3アカントアメーバの形態左図:二重の細胞壁を認める.右図:核と棘状の偽足を認める.10μmシスト栄養体abc白矢印:多発する角膜上皮~上皮下の浸潤.黒矢印:放射状角膜神経炎.白線にて囲んだ領域:連続する上皮の不整・偽樹枝状角膜炎.図4アカントアメーバ角膜炎初期の臨床所見の代表3例(a~c)あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006331(51)4.診断(検査と鑑別疾患)角膜上皮擦過物の塗抹標本の鏡検,培養検査によるアカントアメーバの検出は,確定診断にきわめて重要である.塗抹標本の鏡検は比較的容易で,パーカーインク(KOH)染色,ギムザ染色,グラム染色,ファンギフローラ染色のいずれか,あるいは複数を用いてシストの検出を試みる5)(図5).また,診断を確実なものとするために,大腸菌塗布寒天平板培地による分離培養検査は必須である.角膜上皮内から上皮下にかけて角膜浸潤が多発する疾患との鑑別が重要であるが,CL装用者のなかには,アカントアメーバ角膜炎初期に類似の角膜病変を呈するも図5アカントアメーバ角膜炎の塗抹標本(グラム染色)二重の細胞壁を有するアカントアメーバのシストを多数認める.図6アカントアメーバ角膜炎初期の鑑別疾患a:CL過装用による角膜上皮下の浸潤.散在性の上皮下浸潤を認める.b:CL付着微生物に対する免疫性の浸潤.角膜中央部の上皮下浸潤とCLの汚染を認める.c:実質型角膜ヘルペス.角膜中央部と周辺部に上皮下浸潤を認める.abc332あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006(52)のもあり,注意が必要である.また,CLを装用したまま就寝した場合に,毛様充血を伴い角膜上皮に浸潤が多発することがある(図6a).この場合,細胞浸潤は一様で角膜全面に及んでおり,ときに角膜浮腫も認められる.そのほか,CLに付着した微生物に対する免疫反応として,びまん性の細胞浸潤が角膜上皮下にみられることもある(図6b)が,CLを中止するだけで軽快することが多い.いずれの場合でも,アカントアメーバ角膜炎との鑑別が困難と感じたときには,ステロイド点眼は用いずに,CLの装用中止のみで数日経過をみるのがよい.安易なステロイド投与は,診断を混乱させるもととなるため厳に慎むべきである.特に,実質型角膜ヘルペスでも,まれに上皮下から実質浅層にかけて多発性浸潤を呈する場合があるが,角膜上皮障害は強くないことが多い(図6c).5.治療アカントアメーバに対する特効薬はない.現時点では,角膜病巣部の掻爬を根気強く行い,病原体を物理的に除去する戦略が最も効果的で5),これに抗真菌薬を中心とした薬物治療を併用する.抗真菌薬はアカントアメーバの栄養体には効果があるが,シストに対しては効果が低いため6),シストに有効なPHMB(polyhexame-thlenebiguanid)やクロルヘキシジンなどを併用するのがよい.局所投与においては,アゾール系薬剤が中心となるが,近年ではポリエン系のピマリシン点眼の有効性も報告7)されており,今後の検討が必要である.全身的に抗真菌薬が投与可能な場合には,アゾール系薬剤(フルコナゾール・イトラコナゾール)を使用するのがよい.一般的な処方例を表2に示す.文献1)NakataK,InoueY,HaradaJetal:AhighincidenceofStaphylococcusaureuscolonizationintheexternaleyesofpatientswithatopicdermatitis.Ophthalmology107:2167-2171,20002)SotozonoC,InagakiK,FujitaAetal:Methicillin-resistantStaphylococcusaureusandmethicillin-resistantStaphylococcusepidermidisinfectionsinthecornea.Cornea21:S94-101,20023)ZhangY,SunX,WangZetal:Identificationof18SribosomalDNAgenotypeofAcanthamoebafrompatientswithkeratitisinNorthChina.InvestOphthalmolVisSci45:1904-1907,20044)CengizAM,HarmisN,StapletonF:Co-incubationofAcanthamoebacastellaniiwithstrainsofPseudomonasaeruginosaaltersthesurvivalofamoeba.ClinExpOphthalmol28:191-193,20005)石橋康久,本村幸子:アカントアメーバ角膜炎の診断と治療.眼科33:1355-1361,19916)ElderMJ,KilvingtonS,DartJK:AclinicopathologicstudyofinvitrosensitivitytestingandAcanthamoebakeratitis.InvestOphthalmolVisSci35:1059-1064,19947)田原和子,浅利誠志,下村嘉一:Acanthamoebacystに有効な治療薬剤の検討.感染症学雑誌71:1025-1030,1997表2アカントアメーバ角膜炎に対する治療メニューの一例局所・0.2%フルコナゾール*・0.1~0.2%ミコナゾールの1時間ごと頻回点眼・ピマリシン点眼1時間ごと頻回点眼またはピマリシン眼軟膏1日5回・0.02%PHMBもしくは0.02~0.05%クロルヘキシジンの1時間ごと点眼・0.2%フルコナゾール*・0.1~0.2%ミコナゾールの結膜下注射1日1~2回(1剤につき0.2~0.5ml)全身・イトラコナゾール内服(150mg/日)またはフルコナゾール点滴(200mg/日)随時病巣部の角膜擦過を行う*フルコナゾールのプロドラッグであるホスフルコナゾールは,生体内で分解後フルコナゾールとして作用するため,点眼での効果はない.そのため,点眼薬としてはフルコナゾールを使用する必要がある.

ウイルス性角膜上皮疾患

2006年3月31日 金曜日

0910-1810/06/\100/頁/JCLSて生じる難治性の実質溶解で角膜穿孔に至ることもある病変である,と述べられている1).同様に眼ヘルペス感染症研究会が2002年に提唱した上皮型ヘルペスの診断基準2)を表2に示した.確定診断項目は単純ヘルペスウイルスの分離同定とされている.ウイルス分離がウイルス疾患診断のgoldstandardであはじめに本稿では,単純ヘルペスウイルス,水痘帯状疱疹ウイルス,アデノウイルスによる角膜上皮疾患について概説する.I角膜ヘルペス単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV)Ⅰ型またはⅡ型による角膜病変を角膜ヘルペスという.眼ヘルペス感染症研究会が1995年に提唱した角膜ヘルペスの病型分類1)を表1に示した.この分類では,上皮型病変として樹枝状角膜炎,地図状角膜炎,その二次病変として遷延性上皮欠損をあげている.樹枝状角膜炎は,その名のとおり病変が樹枝状を呈するのが特徴で,フルオレセインにより染色したときのterminalbulbとよばれる病変末端部の瘤状の拡大像,epithelialinfiltrationにより,他疾患との鑑別を進める.地図状角膜炎においても特徴的なdendritictailとよばれる樹枝状病変がどこかに保たれているため,他の原因による角膜びらんとの鑑別に有用な所見となる.なぜ病変が樹枝状を呈するのかは,現在も不明である.二次病変の遷延性上皮欠損は,実質溶解を伴わない長期の上皮欠損で,角膜上皮が伸展性を失って段差をつくり,しかしdendritictailが認められないことが特徴とされる.一方,実質型病変の二次病変としてあげられている栄養障害性角膜潰瘍は,実質の溶解を伴う上皮欠損で,長期の遷延性上皮欠損や高度の実質炎症に引き続い(43)323*ShiroHigaki&YoshikazuShimomura:近畿大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕檜垣史郎:〒589-8511大阪狭山市大野東377-2近畿大学医学部眼科学教室特集●基本的な角膜上皮疾患の考え方と治療方法あたらしい眼科23(3):323~325,2006ウイルス性角膜上皮疾患ViralEpithelialKeratitis檜垣史郎*下村嘉一*表1角膜ヘルペスの分類基本型二次病変(Ⅰ)上皮型樹枝状角膜炎遷延性上皮欠損地図状角膜炎(Ⅱ)実質型円板状角膜炎栄養障害性潰瘍壊死性角膜炎(Ⅲ)内皮型角膜内皮炎?(角膜輪部炎)(文献2より)表2上皮型ヘルペスの診断基準確定診断.単純ヘルペスウイルスの分離同定確実診断.蛍光抗体法によるウイルス抗原の証明.ターミナルバルブを持つ樹枝状あるいは地図状角膜炎補助診断.角膜知覚低下.上皮型ヘルペスの確実な既往.PCR法によるウイルスDNAの証明(文献1より)324あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006るが,施行可能な施設は研究施設を有する病院に限定されると考えられる.採取検体をVero細胞(アフリカミドリザルの腎細胞由来)またはPRK(primaryrabbitkidney)細胞に接種し,細胞変性効果(cytopathiceffect:CPE)の有無を観察する.陽性であれば大抵の場合,2~4日でCPEが観察される.確実診断項目として,蛍光抗体法によるウイルス抗原の証明,ターミナルバルブを持つ樹枝状あるいは地図状角膜炎,の2項目があげられる.当院では角膜病変擦過物をスライドガラスに塗布して検査室に提出すると,1時間ほどで蛍光抗体法による判定を施行してくれる環境になっている.補助診断項目としては,角膜知覚低下,上皮型ヘルペスの確実な既往,polymerasechainreaction(PCR)法によるウイルスDNAの証明の3項目があげられている.角膜知覚検査はCochet-Bonnet角膜知覚計により行う.コンタクトレンズ装用者,眼科手術後,bブロッカー点眼症例などでも角膜知覚は低下するが,偽樹枝状病変を鑑別するのに非常に有効な検査である.ウイルスの涙液中への無症候性排泄がヘルペスの場合認められるので,感度の高いPCRの場合,判断に慎重を要する場合があると考えられる.Kaufmanら3)は,realtimePCR法にて高率に涙液中への無症候性排泄を証明した.樹枝状角膜炎,地図状角膜炎への治療は3%アシクロビル(ゾビラックスR)眼軟膏1日5回が基本になる.眼軟膏のため点入困難で患者はしばしば1日5回の点入に難色を示し,3回程度しか実行できていないことがしばしば見受けられる.最初に眼軟膏処方時にしっかり患者のコンプライアンスを得られるよう説明しておくことが,このようなことを避けるのに有効である.3%アシクロビル(ゾビラックスR)眼軟膏が効かない場合,アシクロビル耐性株も考慮するが,実際には耐性株は極々まれであり,大抵の場合は,患者がきちんと5回点入できていないことによる.患者によっては,眼瞼に塗布していた症例を経験したこともある.3%アシクロビル(ゾビラックスR)眼軟膏のほかに,レボフロキサシン(クラビットR)点眼液などの抗生物質点眼液を混合感染予防のために,1日3回程度で処方する.コンプライアンスが悪く3%アシクロビル眼軟膏点入が困難な症例,角膜移植術後などで上皮の状態が悪くアシクロビル眼軟膏の上皮への負担が懸念される症例では,アシクロビル内服またはバラシクロビル(バルトレックスR)内服を考慮する.現在では,バラシクロビル500mg1日2錠分2で処方することが多い.角膜ヘルペスはいったん治癒後に再発することがあり,これがこの疾病の特徴である.寒冷,ストレス,紫外線照射,睡眠不足,発熱などを避けるよう患者に指導するとともに,眼科点眼薬では眼圧下降薬のラタノプロスト点眼液4),bブロッカー点眼液にてHSV-1再活性化の可能性が報告5)されており,このような点眼液の処方は控えるとともに,すでに処方済みの場合には他の点眼液への変更を検討する必要がある.IIVZVによる偽樹枝状角膜炎幼少時期に水痘罹患歴のある者の2%程度に帯状疱疹を発症する.帯状疱疹は脊髄後根神経節または三叉神経節に潜伏感染したVZV(varicella-zostervirus,水痘帯状疱疹ウイルス)の再活性化により発症する.三叉神経第1枝領域がおかされた場合を眼部帯状ヘルペスという.眼合併症は約半数に起こり,眼合併症として,眼瞼炎,結膜炎,上強膜炎,強膜炎,角膜炎,虹彩炎,緑内障,まれに視神経病変,眼筋麻痺などがある.角膜炎はVZVの直接的作用によるものが多い.偽樹枝状角膜炎が代表的で,HSVによる樹枝状角膜炎とは異なり,フルオレセイン染色が鮮明でなく,またterminalbulbも認められない.一見,異物による引っ掻き傷のような印象を受ける淡い病変を呈する.他に点状角膜炎を認めうる.治療は全身的にアシクロビル800mg1日5回内服などの加療がすでに皮膚科などで開始されている場合が多く,これに3%アシクロビル眼軟膏1日5回を併用する.虹彩炎を合併しているときは,ステロイド点眼を併用する.ステロイド点眼は,HSVによる樹枝状角膜炎では禁忌とされているが,偽樹枝状角膜炎に対しては,アシクロビル眼軟膏と併用すれば禁忌ではない.(44)あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006325IIIアデノウイルス結膜炎による角膜炎アデノウイルス結膜炎はアデノウイルス8型によるものが多く,19型,37型によるものもある.急性濾胞性結膜炎発症早期に,しばしば点状表層角膜症を合併し,発症して1週間ほどで病変は消退する.しかし,角膜上皮下混濁による羞明,不正乱視が数カ月間持続することがあり,患者は不便を訴える.治療は抗生物質点眼で経過をみるが,角膜病変を合併している症例では0.1%フルオロメトロンなどのステロイド点眼を処方する.若年症例では,細菌による混合感染により角膜穿孔をまれに合併しうるため,ステロイド点眼処方例では,特に慎重に経過観察が必要である.文献1)下村嘉一ほか(眼ヘルペス感染症研究会):上皮型角膜ヘルペスの新しい診断基準.眼科44:739-742,20022)大橋裕一ほか(眼ヘルペス感染症研究会):角膜ヘルペス─新しい病型分類の提案─.眼科37:759-764,19953)KaufmanHE,AzcuyAM,VarnellEDetal:HSV-1DNAintearsandsalivaofnormaladults.InvestOphthalmolVisSci46:241-247,20054)DeaiT,FukudaM,HibinoTetal:Herpessimplexvirusgenomequantificationintwopatientswhodevelopedherpeticepithelialkeratitisduringtreatmentwithantiglaucomamedications.Cornea23:125-128,20045)HillJM,ShimomuraY,DudleyJBetal:TimololinducesHSV-1ocularsheddinginthelatentlyinfectedrabbit.InvestOphthalmolVisSci28:585-590,1987(45)

再発性角膜上皮びらん

2006年3月31日 金曜日

0910-1810/06/\100/頁/JCLSまり,びらんの範囲がはっきりとわかる.上皮と基底膜の接着異常が原因のため,びらん周辺部の上皮も浮腫状に浮いている場合があり,一般的にはびらんの面積よりもさらに広い範囲が影響されていると考えられる(図1,2).このように再発性角膜上皮びらんの病態は,基底膜の変性による上皮細胞層と基底膜の接着性の低下であると考えられる.その原因として,表1に示すように,1.外傷により基底膜が損傷を受け,その後に再生が円滑に行われない場合2.外傷の既往歴はないものの基底膜自体に問題が生じ接着不良である場合3.角膜ジストロフィなどで基底膜・Bowman膜にさまざまな変化が生じた結果,上皮の接着障害がひき起こされる場合などがあげられる.I原因と診断再発性角膜上皮びらんは,文字通り角膜上皮.離をくり返し発症する「症候群」である.したがって,その原因はさまざまであり,外傷の既往,特発性で原因不明のもの,他の角膜変性症を伴っているものなどを問診やスリット所見から考察することが原因の特定に重要となる.発症が突然で,激烈な痛みを伴うことも多く,患者は不安を抱えて受診する.原因をある程度特定し,治療方針を患者に説明していくことで,その不安をできるだけ取り除くことも大事なポイントとなる.ただし,再発性角膜上皮びらんではどの原因にも共通して見受けられる典型的な臨床所見があるので,問診・診察時に見落とさなければ診断自体はむずかしくない.①発症をくり返しているエピソードがある突然発症した角膜上皮びらんの既往歴があり,約2週間から数カ月後に再発したエピソードをもつ.また角膜表面の擦過傷の既往がある場合も多いので問診で必ず聞くこと.②夜間・起床時に発症することが多い睡眠中は涙液蒸発量が低下するため,相対的に涙液が低浸透圧になることが角膜上皮浮腫をきたすのに関与している.そして起床時の瞬目などの物理的刺激をきっかけとして発症することが多い.③均一な角膜上皮欠損所見フルオレセインで角膜を染色すると欠損部は均一に染(39)319*YuichiUchino:東京歯科大学市川総合病院眼科**ShigetoShimmura:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕内野裕一:〒272-8513市川市菅野5-11-13東京歯科大学市川総合病院眼科特集●基本的な角膜上皮疾患の考え方と治療方法あたらしい眼科23(3):319~322,2006再発性角膜上皮びらんRecurrentCornealErosion内野裕一*榛村重人**表1再発性角膜上皮びらんの原因一般的なもの(外傷性)1.外傷性再発性角膜上皮びらん(非外傷性)2.糖尿病角膜症特殊なもの3.格子状角膜ジストロフィReis-Buckler角膜ジストロフィ上皮基底膜ジストロフィ(map-dot-fingerprintdystrophy)320あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006●一般的なもの発症前に外傷既往の有無により大きく2つに分けられる.1.外傷性再発性角膜上皮びらん軽微な外傷(爪,紙片,異物などによる擦過)を契機に,上皮層のみならず上皮基底膜が損傷を受けることにより,角膜上皮びらんをくり返す疾患である.上皮欠損は速やかに治癒するが,上皮欠損の発作が数週間から1~2カ月の間隔をおいてくり返し再発する.2.糖尿病角膜症糖尿病患者では,網膜症の重症度に相関して角膜知覚が低下し,また涙液量も減少している.糖尿病患者の角膜上皮基底膜は肥厚しているため,anchoringfibrilがBowman膜に到達していないことが多く,角膜上皮接着に関して脆弱性の原因の一つと考えられる1).このことから硝子体手術中に角膜上皮を.離した症例では再発性角膜上皮びらんになりやすい.ただし,患者自身に外傷既往の覚えがなく,糖尿病などの全身疾患のない場合も多い.片眼性の場合は,些細な外傷(自分の爪が入ったものの大きな傷にならずに済んだ場合など)があった可能性も考えられるし,両眼性の場合にはつぎにあげる特殊症例の可能性もあるので,より注意して観察する必要がある.●特殊なもの角膜上皮や上皮直下に病変を有する角膜ジストロフィでも本症を認めることがある.3-1.格子状角膜ジストロフィ線状混濁をBowman膜や浅層実質に認める遺伝性角膜ジストロフィであり,組織学的には混濁の本態はアミロイドの沈着である.3つに分類されるが,その多くを占める1型は常染色体優性遺伝である.角膜混濁の形状はメロンの皮状で,上皮びらんを生じた際には角膜ヘルペスに間違われることもあるので注意を要する.3-2.Reis-Buckler角膜ジストロフィ常染色体優性遺伝形式をとり,幼少時より両眼性の網目状混濁をBowman膜上に出現させ,数週間に一度の割合で異物感を伴うびらん発作が出現する.びらん発作の回数は成人になると徐々に減少するが,角膜混濁は進行し視力は低下する.3-3.上皮基底膜ジストロフィ(map-dot-fingerprintdystrophy)両眼性の角膜上皮基底膜異常で,成人に多く遺伝性はないとされている.所見は地図状,点状,指紋状などさまざまな形状の上皮基底膜病変として認められる.角膜上皮最下層にある基底細胞と基底膜を接着させるヘミデスモゾームが認められず,本症の原因と思われる.(40)図2図1と同一症例のフルオレセイン染色写真接着不良となっている範囲の境界まで染色されるので病変がはっきりわかる.図1角膜上皮びらんのスリット写真輪部近くの角膜上皮は完全に.離して浮き上がっているが,さらにその上方の上皮は接着が緩やかになっている程度で収まっている.あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006321II治療1.発作時の治療法比較的短期間のうちに再上皮化するものの,上皮欠損が存在すると感染をひき起こしやすいため,感染予防のために抗菌薬の点眼や眼軟膏の点入を用いるとよい.また圧迫眼帯なども効果的である.眼帯がむずかしい場合には,バンデージ効果を期待して治療用ソフトコンタクトレンズを使用する.疼痛コントロールには鎮痛薬の内服を処方する.疼痛が強いため,診察時の麻酔点眼薬の使用は良いが,処方による頻回点眼を行うとより重篤な上皮障害が発症するため禁忌である.2.再発予防法起床時に生じやすい角膜上皮浮腫を予防するため,高含水のソフトコンタクトレンズを連続装用したり,就寝中の低浸透圧涙液を高浸透圧化するため,5%塩化ナトリウム軟膏を就寝時に使用する.また瞬目による物理的刺激を和らげるため,就寝前の抗生物質眼軟膏の点入や起床時開瞼前の人工涙液の点眼を習慣化させて再発を予防する.3.手術的治療法a.角膜表層穿刺(anteriorstromalpuncture:ASP)外来スリットランプで可能な手術的治療法として,ASPがある2).これは26ゲージ針などの注射針の先を白内障手術時のチストトームのごとく曲げて,接着不良の上皮ごと直下の実質内へ約1/3~1/2まで穿孔させる方法である(図3).穿刺の間隔はおよそ0.3~0.5mm前後で,処置を施す範囲としては病変を認めない部位の周辺角膜までpunctureすることが再発を防止するコツである.また外来スリットランプにて点眼麻酔を用いて処置できる利点があるが,術後瘢痕化することもあるため,瞳孔領も含むような広範囲な症例にはあまり適していない(図4).ASP施行後は抗生物質眼軟膏を点入した後に圧迫眼帯させ,眼瞼の動きをできる限り抑制することで.離上皮の接着をより促す.b.治療的レーザー角膜切除術(phototherapeutickeratectomy:PTK)異常上皮や基底膜などの表層角膜切除に対して綿棒やサージカルナイフを用いていたが,エキシマレーザーを用いてこの治療的角膜切除を行う方法である3).従来の方法とは異なり患者への負担や視力回復面で多くのメリットをもつ患者の屈折値が遠視化するという問題がある.また角膜変性症の場合には再発のリスクも考えなければならない.(41)図3図1と同一症例に対するanteriorstromalpuncture施行時図4Anteriorstromalpuncture施行3週間後瞳孔下方のpunctureした箇所に点状の実質混濁を認める.322あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006文献1)AzarDT,Spurr-MichaudSJ,TisdaleASetal:Decreasedpenetrationofanchoringfibrilsintothediabeticstroma.Amorphometricanalysis.ArchOphthalmol107:1520-1523,19892)McLeanEN,MacRaeSM,RichLF:Recurrenterosion.Treatmentbyanteriorstromalpuncture.Ophthalmology93:784-788,19863)JainS,AustinDJ:Phototherapeutickeratectomyfortreatmentofrecurrentcornealerosion.JCataractRefractSurg25:1610-1614,1999(42)