0910-1810/06/\100/頁/JCLSス透過性ハードコンタクトレンズ(RGPCL)は,レンズ径が大きく,リフトエッジも低くなってきているので,レンズエッジによる機械的な障害が発症原因となっているケースが増えてきている.発症にはレンズデザイン,レンズフィッティング,レンズの汚れ,レンズの傷,角膜径,瞬目,瞼裂幅,涙液,瞼裂斑などのさまざまな要因がかかわっている.b.発症原因の鑑別ポイント(1)角結膜上皮障害の観察発症原因が局所の乾燥であるときは点状表層角膜症の一つ一つの点が比較的大きく,密度はやや疎であり,レンズエッジによる機械的障害であるときは,比較的細かく,密集している傾向がある.レンズエッジによる線状の圧痕がみられることもある.ただし,両者を合併していることもあるので注意を要する.はじめにコンタクトレンズ(CL)眼障害にはさまざまなものが含まれる.本稿では角膜上皮障害に限定し,ハードコンタクトレンズ(HCL)による眼障害,ソフトコンタクトレンズ(SCL)による眼障害,multipurposesolution(MPS:多目的溶剤)による眼障害の代表的なものについて解説する.Iハードコンタクトレンズによる眼障害1.3時-9時のステイニングHCL装用者に特有の合併症であるが,CL非装用者にみられることもある.まれではあるがレンズ径の小さいSCL装用者にもみられる.3時-9時あるいは4時-8時の方向の角膜周辺部と結膜に点状で表層性の上皮障害を認める(図1).結膜上皮障害単独のこともある.中等度以上では3時-9時方向の結膜充血を伴う.軽微なものまで含めれば半数以上のHCL装用者にみられる.長期に持続すると,角膜白斑,dellen,角結膜上皮過形成,偽翼状片などを合併する.重症化すると,角膜上皮びらんから,角膜浸潤,角膜潰瘍へと進行することもある.a.発症機序発症原因は局所の乾燥(涙のブレークアップ),あるいはレンズエッジによる機械的な障害である1~4).両者が関与するケースもある.この2つの発症原因はレンズフィッティングの観点からすると,相反する部分もあり,発症原因の鑑別を誤ると治療に苦渋する.最近のガ(31)311*MotozumiItoi:道玄坂糸井眼科医院〔別刷請求先〕糸井素純:〒150-0043東京都渋谷区道玄坂1-10-19道玄坂糸井眼科医院特集●基本的な角膜上皮疾患の考え方と治療方法あたらしい眼科23(3):311~318,2006コンタクトレンズ眼障害ComplicationsofContactLensWear糸井素純*図13時-9時のステイニング312あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006(2)レンズフィッティングの確認3時-9時のステイニングが生じたHCLでレンズフィッティングを確認する.その際に,重要なのがレンズエッジと病変部位の関係である.まずレンズエッジ部分のフルオレセインが適量であるか,病変部位でブレークアップが生じていないかを確認する.つぎにHCLを指でまぶたの上から鼻側,耳側,下方,上方へと軽く移動させ,病変部位でレンズエッジによるこすれや圧迫を生じていないかを確認する.そして,自然な状態で瞬目させて,HCLの移動に伴い,レンズエッジが病変部位に接触していないか,あるいは,局所で涙のブレークアップが生じていないかを確認する.その際に,HCLが瞬目に伴い適切に動いているか,下方固着を起こしていないかも確認する.(3)HCL表面の状態3時-9時のステイニングが生じたHCLを眼に装用させた状態でレンズ表面を確認する.まぶたに一切指を触れず,自然な瞬目の状態でレンズ表面を確認し,つぎにBUT(涙液層破壊時間)を測定する要領で瞬目を抑制し,レンズ表面の乾き具合を確認する.表面の状態に問題があると考えられたときは,その原因が汚れ,傷,あるいはレンジエッジの形状に問題があるかを検討する.c.具体的な対応(1)適切なレンズフィッティングへ変更パラレルフィッティングを原則とするが,その際に静止位置が良好であること,リフトエッジが適切であること,レンズの移動に伴いレンズエッジによる機械的な障害が生じてないことを確認する.処方するHCLのデザインによっては,ベースカーブを0.05~0.10mm程度スティープに処方したり,フラットに処方することもある.発症原因が局所の乾燥であるときは0.05~0.10mm程度スティープに処方するが,低いリフトエッジのレンズをスティープに処方すると機械的な障害を誘発するので注意を要する.(2)レンズ径の変更発症原因が局所の乾燥であるときは,レンズ径を小さくする(8.0~8.5mm)と,レンズ表面とレンズ後面に奪われる涙液量が減少し,3時-9時方向の角結膜の乾燥を抑制できる.(3)周辺部デザインの変更レンズエッジによる機械的障害が生じているときはリフトエッジが高く,ベベル幅が広く,ブレンドが良好なものへレンズデザインを変更する.特に下方固着を生じているときは,ベベル幅が広く,リフトエッジが不十分なことが多い.発症原因が局所の乾燥であるときは,リフトエッジが低く,周辺部のエッジ厚が薄いデザインのものへ変更する.(4)レンズの材質レンズが汚れやすく,水濡れ性の悪い素材では3時-9時のステイニングを誘発しやすい.高Dk(酸素透過係数)の素材は汚れやすいので,低Dk,あるいは表面処理をしているRGPCLへ変更する.(5)レンズ洗浄方法の変更つけおき洗浄のみでは汚れ落ちが悪いので,クリーナーによるこすり洗いの併用を指導する.その際に,表面処理を施してあるRGPCLでは研磨剤入りのクリーナーが使えないので注意が必要である.汚れの程度により強力蛋白処理を併用する.(6)SCLへの変更充血が顕著な症例や,前述する対策を施しても軽減しない症例ではSCLへ変更する.3時-9時のステイニングでSCLへ変更が必要な症例の多くはドライアイを合併しており,そのような症例ではSCLによる眼障害の発症率が高くなるということを念頭におき,レンズを選択する.(7)人工涙液,ヒアルロン酸の頻回点眼HCL上から人工涙液,ヒアルロン酸の頻回点眼を併用する.HCL上からの点眼は多くは問題がないが,眼の状態(例:中等度以上のドライアイ)によっては好ましくないこともある.2.比較的密集したびまん性の点状表層角膜症HCL装用者に特有の合併症である.角膜の中央部,あるいは,中間周辺部(ドーナツ状)に比較的密集したびまん性の点状表層角膜症である(図2,3).軽度の場合は,軽度の異物感,あるいは,自覚症状を伴わないことが多いが,悪化すると,レンズ装用感の悪化,強い異物感,HCL装脱後の痛み,視力低下などを訴える.多(32)あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006313くはHCLを装脱して,一晩で回復するため,装用直後ではなく,装用後数時間してから自覚症状が発現することが多い.悪化すると角膜上皮びらんに発展し,眼痛を訴える.a.発症機序HCL後面に付着した膜状の汚れによる機械的なこすれが原因である5).レンズフィッティングがフラットなときは瞳孔領中央付近に,スティープなときは比較的周辺部にドーナツ状に発症する.つけおき洗浄や研磨剤を含まない洗浄液・洗浄保存液を使用している人に好発する.成人女性に多く,化粧品による汚れのことが多い.水道水や市販の洗眼剤による洗眼も増悪因子となる.アレルギー性結膜炎,アトピーで眼の症状が強いときは,レンズが汚れやすいため発症しやすい.b.診断のポイント(1)レンズ汚れの観察レンズの汚れは,実体顕微鏡と細隙灯顕微鏡で観察する.両者ともにレンズ後面に焦点を合わせて観察する.細隙灯顕微鏡ではスリット幅を2~3mmとやや広げて左右にゆっくりスキャンしながら観察すると汚れを確認しやすい.(2)レンズフィッティングの確認レンズフィッティング検査でHCL後面の角膜接触部位と点状表層角膜症の位置関係が一致していることを確認する.c.具体的な対応(1)こすり洗いの指導強力なクリーナー(専用洗浄液)によるこすり洗いの併用を指導する.その際に,表面処理を施してあるHCLでは研磨剤入りのクリーナーが使えないので注意が必要である.(2)定期的な強力蛋白除去プロージェントR(メニコン),ハイドロケアFR(エーエムオー)などの強力蛋白除去を汚れの程度に応じて指導する.ただし,プロージェントR(メニコン)は頻回に行うとレンズ素材に影響を及ぼすので,月に1回程度を限度とする.(3)低Dkのガス透過性HCLへの変更高DkのRGPCLを使用していてレンズの汚れが強く,交換が必要な場合は,低DkのRGPCLを選択するとよい.低Dkの素材のほうが一般に汚れにくく,強力な研磨剤入りクリーナーが使いやすい.3.OverwearingsyndromeRGPCLが普及する前は,眼科の夜間救急患者の多くを占めた疾患であったが,最近,遭遇することは少なくなった.ポリメチルメタクリレート(PMMA)素材のHCLを長時間装用,あるいは連続装用した人にみられることが多い.RGPCLでも極端なスティープフィッティングで固着を起こすと生じる.CLの汚れも増悪因子となる.SCLではまれではあるが,発症した場合はHCLに比べて広範囲に生じる.低含水性厚型SCLを長時間装用している場合は注意が必要である.(33)図3角膜中間周辺部のびまん性の点状表層角膜症図2角膜中央部のびまん性の点状表層角膜症314あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006a.発症機序急性の酸素不足が原因である.角膜中央部に急性角膜上皮浮腫が生じ,その後,角膜上皮.離に進展する(図4).CL装脱直後,あるいはCL装脱後数時間で発症する.激しい眼痛,流涙,羞明,視力低下,充血,異物感などを訴え,虹彩毛様体炎を伴うこともある.b.具体的な対応(1)原疾患の治療感染防止目的で抗生物質・抗菌薬の点眼,あるいは眼軟膏を処方する.痛みが強い場合は,鎮痛薬の内服を投薬する.局所表面麻酔の点眼薬(ベノキシールR)は創傷治癒を長引かせるので治療目的で使用してはならない.診察時のみの使用にとどめる.2~3日で治癒することが多い.(2)レンズの変更PMMA素材のHCL装用者で発症した場合は,治癒後,RGPCLへ変更する.RGPCL,あるいはSCLで発症した場合は,より酸素透過性の高いレンズへ変更する.(3)レンズフィッティングの変更スティープフィッティングである場合は,治癒後,適切なレンズフィッティングのものへ変更をする.(4)装用指導定められた装用時間を守ること,いきなり長い時間の装用をしないように指導する.IIソフトコンタクトレンズによる眼障害1.スマイルマークパターン点状表層角膜症瞳孔領下方の弓状の点状表層角膜症(図5)で,SCL装用者にみられる6).多くは無症状であるが,夕方になると乾燥感,異物感を自覚することもある.重症化すると角膜上皮びらん,角膜浸潤へと進行することがある.a.発症機序局所の乾燥が原因である.高含水性SCL装用,連続装用,ドライアイ,瞬目不全,下三白眼の人に多い.b.具体的な対応(1)装用指導軽度で終日装用であれば,CL装用を継続しても問題はない.連続装用は中止させる.中等度以上であれば装用時間の短縮を指導し,継続するようであればレンズを変更する.(2)レンズの変更中等度以上では1日使い捨てSCL,低含水性の頻回交換SCL,シリコーンハイドロゲルCLなどへ変更する.従来型の低含水性厚型SCLに変更すると症状は軽減するが,このタイプのSCLは酸素供給の面で劣り,良い選択とはいえない.(3)人工涙液の頻回点眼,ヒアルロン酸点眼SCL上から人工涙液の頻回点眼,ヒアルロン酸点眼を行う.ただし,人工涙液は防腐剤を含まないものとする.従来型SCLに対しては防腐剤を含むすべての点眼液をレンズ上からしてはならない.(34)図4ソフトコンタクトレンズ装用者にみられたoverwearingsyndrome図5スマイルマークパターン点状表層角膜症あたらしい眼科Vol.23,No.3,20063152.Epithelialsplitting,SEALs(superiorepithelialarcuatelesions)SCL装用者に認められる.上方の角膜輪部に沿った弓状の角膜上皮障害(角膜輪部から3mm以内)を呈する(図6).ただし,初期には1~数個の島状の病変からなり,横方向に拡大し典型的な病変となる.結膜充血,角膜血管新生を合併することもある.重症化すると角膜上皮びらん,角膜浸潤,角膜潰瘍へと進行する.無症候性のことが多いが,CL装脱後に軽い異物感や充血を自覚することがある.従来から報告されているepithelialsplittingと,シリコーンハイドロゲルCL装用に伴う眼障害として最近報告されているSEALsは同一疾患である7).a.発症機序SCLによる機械的な障害と考えられる.タイトなレンズフィッティング,大きな直径,スティープなベースカーブ,汚れたSCL,変形したSCL,煮沸消毒に好発する5,6,8~10).患者側の発症要因としてはドライアイ,巨大乳頭結膜炎,近視度数が強い,周辺部の角膜の扁平化が顕著であるなどがあげられる5,11).特に周辺部と中央部の角膜曲率の差が大きく,周辺部の角膜曲率半径が非常にフラットな症例では,周辺部の角膜曲率半径に比べて,選択されたSCLのベースカーブがスティープとなるので要注意である.レンズデザイン,材質により発症頻度に差があり,中間周辺部~最周辺部のカーブがスティープで,その部位のレンズ厚が厚いものが発症しやすい.以前は高含水性SCLに好発すると考えられていた10)が,低含水性SCLやシリコーンハイドロゲルCLでも発症頻度が高いものがある.b.具体的な対応(1)原疾患の治療原則としてCL装用を中止し,2次感染予防に抗生物質点眼を処方する.症例によっては,そのまま経過観察,あるいは,一時的に人工涙液の点眼することにより自然治癒することもあるが,重症化すると角膜浸潤,角膜潰瘍へと進展する可能性があるため,治癒するまではCL装用の中止を指導することが望ましい.(2)ベースカーブの変更ベースカーブの変更が可能であればフラットなベースカーブへ変更する.(3)レンズケアレンズケアはクリーナーによるこすり洗いとコールド消毒(過酸化水素,MPS)へ変更を指導する.(4)装用指導連続装用の中止と装用時間の短縮を指導する.(5)レンズの変更再発例,重症例ではレンズの材質,デザインを変更する.高含水性薄型のSCLが良い適応である.3.Pigmentedspike(pigmentedslide)Pigmentedspikeはpigmentedslideともいわれ,角膜輪部のpalisadesofVogtの内側の延長上にみられる角膜の比較的表層のスパイク状の淡い茶褐色の混濁のことである(図7)6).スパイクの長さは通常は1~2mmで角膜周辺部に櫛状に並んでおり,多少波打っている.ただし,スパイクの長さに関しては,3~4mm,あるいはそれ以上になることもある.全周性にみられることが多いが,スパイクの長さは均一ではなく,経線方向で大きく異なる.角膜血管新生や角膜内皮細胞障害を伴うことが多い.長期のSCL装用者に好発するが,HCL装用者でもみられることがある.a.発症機序CL装用による局所の慢性酸素不足が原因と考えられている.酸素不足により,輪部の角膜上皮細胞の分裂能が低下し,角膜輪部の角膜上皮細胞の急速な移動が生じるためとされる.(35)図6Epithelialsplitting316あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006低含水性で厚型の従来型SCL装用者に多くみられ,特に近視度数が強いほど顕著な傾向となる12).HCL装用者では,フィッティングが不良なレンズを長期に装用しているものに多い.特に非ガス透過性,あるいは低DkのHCLでは要注意である.前述したように全周性のことが多いが,トーリックSCL(プリズムバラストデザイン),HCLでは角膜下方が顕著なことが多い.レンズの汚れ,タイトフィッティング,大きなレンズ径,ドライアイは危険因子となる.b.具体的な対応(1)装用指導Pigmentedspikeは視機能に影響することはないが,この所見は,慢性酸素不足を示しており,装用時間の短縮,連続装用の中止を指導する.(2)角膜内皮細胞撮影必ずしも角膜内皮細胞障害を伴うわけではないが,顕著な角膜内皮障害を伴う症例も少なくないので確認する必要がある.(3)レンズの変更顕著な所見を有する症例ではレンズを変更する.高酸素透過性素材,薄型デザインのSCLで,可能な限りベースカーブはフラットなものを選択する.従来型SCLよりも,1日使い捨てSCL,2週間交換SCL,シリコーンハイドロゲルCLが良い選択である.HCL装用者に対しては,レンズフィッティングを確認のうえ,適正なフィッティングのものへ変更する.レンズの種類は,角膜内皮の状態にも左右されるが,中Dk,あるいは高DkのRGPCLを選択する.4.角膜浸潤(無菌性,細菌性)SCL使用者で角膜浸潤を認めた場合,感染性のものと,無菌性のものを考える必要がある.無菌性角膜浸潤の病巣は比較的小さく,多発性で,比較的周辺部に存在する(図8)7).角膜輪部にも病巣がみられることもある.自覚症状は比較的軽微である.一方,感染性の病巣は,無菌性に比べて小さく,角膜中央部付近に存在することが多い(図9)7).眼痛,霧視,結膜充血などの自覚症状が強く,虹彩炎,前房蓄膿を伴うこともある.放置すると角膜潰瘍へ進行する.a.発症機序無菌性角膜浸潤は細菌そのもの,あるいは,細菌の産(36)図9感染性角膜浸潤図7Pigmentedspike(pigmentedslide)図8無菌性角膜浸潤あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006317生する毒素に対するアレルギー反応と考えられている.細菌性のものは局所への感染が原因である.SCL消毒の主流となっているMPSは消毒力が弱いために,こすり洗いとレンズケースの管理(毎日の洗浄と乾燥,定期的交換)を怠っていると,レンズケース内に細菌が増殖しやすい.角膜浸潤例ではレンズケース内に細菌が増殖していることが多い.b.具体的な対応(1)CL装用の中止無菌性,細菌性ともにCL装用の中止を指導する.角膜浸潤のみならず,眼表面の性状が正常化するまでは,装用を開始してはならない.10日間~2週間程度要することが多い.(2)細菌学的検査病巣擦過物,眼脂,レンズケース内の溶液の塗抹検査,細菌培養検査,薬剤感受性検査を実施する.レンズケースからグラム陰性桿菌が検出されることが多い.(3)ステロイド薬の点眼無菌性角膜浸潤に対してはステロイド薬の点眼が有効である.ただし,多少でも細菌性が疑われた場合は,治療当初はステロイド薬点眼の使用は避けたほうがよい.(4)ニューキノロン系の抗菌薬とアミノ配糖体系抗生物質の点眼SCLによる角膜浸潤ではグラム陰性桿菌がかかわっていることが多く,まずはニューキノロン系の抗菌薬とアミノ配糖体系抗生物質の点眼を処方する.重症度により,抗菌薬の内服または点滴投与も併用する.その後,細菌学的検査の結果により,薬剤を変更する.治療によっても反応しない場合,真菌性角膜潰瘍,アカントアメーバ角膜炎を疑う.(5)レンズケア指導,装用指導治癒後,CL装用を希望する場合は,装用時間の短縮と連続装用の中止を指導し,レンズケアの再教育を行ってから,装用再開を指示する.特にこすり洗いとレンズケースの管理(毎日の洗浄と乾燥,定期的交換)の指導は重要である.(6)眼科検診の指導点状表層角膜症,角膜上皮びらんに細菌感染を合併することによって,細菌性角膜浸潤,さらには感染性角膜潰瘍へと進行する.眼科検診を受けていれば,角膜上皮障害が軽微な段階で予防できる.重症なコンタクトレンズ障害では眼科検診を怠っている人が多い.再発を予防するためにも,眼科検診を指導しなければならない.IIIMPSによる眼障害MPSに含まれる薬剤および防腐剤による細胞毒性やアレルギー反応がある.最近,特に注目を浴びているのがシリコーンハイドロゲルCL(O2オプティクスR)とPHMB(polyhexamethylenebiguanide)を含むMPS製品の組み合わせである.PHMBを含むMPS製品による角膜上皮障害最近,PHMBを含むMPS製品による角膜上皮障害が国内外で報告されるようになってきた13~16).海外で報告されているようにハイドロゲルSCL装用者でも生じることはあるが,シリコーンハイドロゲルCL(O2オプティクスR)装用者で特に障害は顕著である16).病変はびまん性の点状表層角膜症(図10)で,装用後数時間出現し,その後,徐々に消失する.同じPHMB製品でも,その障害が顕著なものと軽度のものがある.多くの場合,自覚症状は軽微,あるいは無症状であるが,眼痛や充血を伴うこともある.多くは装用6時間後には消失,あるいは軽微となる.海外でも,このタイプの障害の報告は数年前までほとんどなかったが,診察のタイミングにより見逃していた可能性が高い.(37)図10MPSによる点状表層角膜症318あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006a.発症機序MPSに消毒成分として含まれているPHMBがSCL表面に集積して,中毒反応を生じている可能性が高い.レンズの種類により表面の性状が異なり,それが影響しているために,シリコーンハイドロゲルCLで強い中毒反応が観察されるのであろうと推測されるが,詳細は不明である.2006年1月現在,日本ではシリコーンハイドロゲルCLとして販売されているレンズはO2オプティクスRのみであり,今後登場してくるシリコーンハイドロゲルCLについては検討が必要である.b.具体的な対応(1)過酸化水素の消毒システムへ変更過酸化水素の消毒システムで,装用前にレンズのすすぎを実施すれば,このような消毒成分による角膜上皮障害を100%予防することが可能である.(2)PHMBを含まないMPSへ変更過酸化水素の消毒システムはMPSに比べて操作が煩雑となるため,MPSを希望するものに対しては,PHMBを含まないMPSに変更する.装用初期の軽微な上皮障害が報告されているが,臨床的に問題となるレベルではない.文献1)SolomonJ:Causesandtreatmentsofperipheralcornealdesication.ContactLensForum11:30-36,19862)GrahamR:Persistentnasalandtemporalstippling.Contacto12:20-21,19683)CotieB:Howtomanage3and9o’clockstaining.ContactLensForum15:42-43,19904)KlineLN,DeLucaTJ,FishbergGM:Cornealstainingrelatingtocontactlenswear.JAmOptomAssoc50:353-357,19795)糸井素純:コンタクトレンズによる角膜上皮障害.あたらしい眼科13:837-843,19966)渡邉潔:新しい角膜上皮障害の分類.CLの正しい選択と障害への対応.ディスポーザブルコンタクトレンズ,第2版,p58-73,メジカルビュー社,19987)糸井素純:コンタクトレンズによる眼障害.あたらしい眼科17:957-965,20008)小玉裕司:コンタクトレンズの角膜への影響.日本の眼科70:1407-1410,19999)DougelJ:Abrasionssecondarytocontactlenswear.ComplicationsofContactLensWear(edbyTomlinsonA),p123-156,Mosby-TearBo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