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0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE-111点眼液)の製剤処方設計とラット眼内移行性

2013年12月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科30(12):1761.1766,2013c0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE111点眼液)の製剤処方設計とラット眼内移行性上田健治殿内麻花深野泰史浅田博之河津剛一参天製薬株式会社研究開発本部Tafluprost0.0015%/Timolol0.5%CombinationOphthalmicSolution(DE-111OphthalmicSolution)FormulationDesignandIntraocularPenetrationinRatsKenjiUeda,AsakaTonouchi,YasufumiFukano,HiroyukiAsadaandKouichiKawazuResearch&DevelopmentDivision,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.0.0015%タフルプロストと0.5%チモロールの配合点眼液(DE-111)で,チモロールが1日2回から1回点眼となっても眼圧下降効果を最大限維持するための処方設計を行い,ラットを用いて眼内移行および全身曝露を調べた.チモロールの眼内移行は点眼液のpHの上昇に伴い増加したがタフルプロストは影響されなかったことおよび点眼液の室温保存可能性の観点から,DE-111のpHを7.0に設定した.DE-111点眼時の房水中チモロールは,チモロール単剤よりも高濃度で推移し,1日1回点眼のチモロールのゲル製剤よりCmaxはやや低くAUCはほぼ同じであった.房水中タフルプロストカルボン酸濃度は,単剤と同様であった.一方,DE-111点眼後の全身曝露は,チモロールおよびタフルプロストカルボン酸とも単剤のCmaxやAUCを上回らなかった.以上より,DE-111は,1日1回点眼で高い有用性を示すことが期待される.Thetafluprost0.0015%/timolol0.5%combinationophthalmicsolution(DE-111)formulationwasdesignedtomaintainIOP-loweringeffectwhentimololinstillationischangedfromtwicetooncedaily.ThisstudyexaminedDE-111ocularpenetrationandsystemicexposure.InconsiderationofdataindicatingthatpHaffectsboththeocularpenetrationoftimolol(butnottafluprost)andthestabilityoftafluprostinophthalmicsolution,thepHofDE-111wassetat7.0.Timololconcentrationsinaqueoushumor(AH)afterDE-111instillationwerehigherthanafterinstillationoftimololalone,andCmaxandAUCwerelowandsimilar,respectively,incomparisontotimololgelformulationusedinonce-dailyinstillation.PharmacokineticparametersoftafluprostacidinAHafterDE-111instillationweresimilartothoseseenaftertafluprostinstillation.Forsystemicexposure,theCmaxandAUCoftimololandtafluprostacidinplasmaafterDE-111instillationdidnotexceedthelevelsseenafterinstillationoftafluprostandtimolol.Once-dailyinstillationofDE-111isthereforeexpectedtobeuseful.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(12):1761.1766,2013〕Keywords:緑内障,DE-111配合点眼液,タフルプロスト,チモロール,眼内移行性.glaucoma,DE-111combinationophthalmicsolution,tafluprost,timolol,ocularpenetration.はじめにDE-111点眼液は,タフルプロストを0.0015%およびチモロール0.5%相当量のチモロールマレイン酸塩を含有する1日1回点眼の配合点眼液であり,作用機序が異なり,かつ,臨床での使用頻度が最も高いプロスタグランジン(PG)関連薬とb遮断薬の組み合わせである.2剤の点眼剤を同一時間帯に併用する場合には,先に点眼した薬剤が後に点眼した薬剤によって眼表面から洗い流され(洗い流し効果),薬効が減弱することが懸念されるため,5分以上点眼間隔をあけることが推奨されている.しかし,点眼間隔をあけることは患者にとって煩雑であり,間隔をあけずに点眼したり,間隔をあけようとしたものの点眼忘れにつながったりする可能性がある.配合点眼液であるDE-111点眼液は,洗い流し効果による薬効の減弱の懸念がなく,〔別刷請求先〕上田健治:〒630-0101生駒市高山町8916-16参天製薬株式会社奈良研究開発センターReprintrequests:KenjiUeda,NaraResearch&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.,8916-16Takayama-cho,Ikoma630-0101,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(113)1761 PG関連薬とb遮断薬の両剤の併用が必要な患者にとって利便性が改善し,アドヒアランスの向上が期待される.一方で,b遮断薬(チモロール)点眼液の点眼回数は1日2回であることから,PG関連薬との1日1回点眼の配合点眼液では,b遮断薬の点眼回数が減少することによる効果減弱が懸念される.そこで,DE-111点眼液の処方設計においては,タフルプロストの眼内移行が減少もしくは増加して眼圧下降効果が減弱したり副作用が増強したりすることなく,チモロールによる眼圧下降作用を併用点眼並みに維持することを目指して検討を行ったので,その結果を報告する.I実験材料1.点眼液検討には,有効成分としてタフルプロストを0.0015%,チモロール0.5%相当量のチモロールマレイン酸塩を含有し,緩衝剤を含有せず,pHを6.0,7.0および7.5に調整した配合点眼液(タフルプロスト/チモロール配合点眼液),同様な有効成分含量でpHを7.0とし緩衝能を付加した点眼液(DE-111点眼液),タフルプロスト点眼液(タプロスR点眼液0.0015%,参天製薬,pH5.7.6.3),チモロール点眼液(チモプトールR点眼液0.5%,参天製薬,pH6.5.7.5)およびゲル化剤を加えたチモロール製剤であるチモロールGS点眼液(チモプトールRXE点眼液0.5%,参天製薬,pH6.5.7.5)を用いた.2.実験動物眼内移行性および全身曝露の検討には,6.7週齢の雌性SDラット(日本チャールス・リバー株式会社)を使用した.本研究は,「動物実験倫理規定」,「参天製薬の動物実験における倫理の原則」「動物の苦痛に関する基準」の参天製薬株式会社社内規定を遵(,)守し,実施した.II実験方法1.点眼ラットの両眼に,タフルプロスト/チモロール配合点眼液,DE-111点眼液,タフルプロスト点眼液,チモロール点眼液,チモロールGS点眼液を5μLずつ単独で単回点眼もしくはタフルプロスト点眼液とチモロール点眼液をそれぞれ5μLずつ単回併用点眼した.併用点眼は,チモロール点眼液を点眼後5分にタフルプロスト点眼液を点眼した.2.房水の採取眼内移行性に及ぼす点眼液pHの影響の検討では点眼後30分に,各点眼液の眼内移行性の比較検討では点眼後5,15,30分,1,2および4時間(ただし,併用点眼の場合は,チモロール点眼液点眼後7,15,30分,1,2および4時間)に,イソフルラン麻酔下でラットの大動脈より全量採血して致死させ,房水を採取した.血漿中濃度と同じ方法で定量す1762あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013るため,採取した房水1眼分ごとに薬剤未投与のラット血漿200μLを添加・混和し,房水の測定試料とした.3.血漿の採取各点眼液の全身曝露の比較検討では,眼内移行性の比較検討と同様,点眼後5,15,30分,1,2および4時間(ただし,併用点眼の場合は,チモロール点眼液点眼後7,15,30分,1,2および4時間)に,ラット頸静脈よりヘパリンナトリウム処理したシリンジで血液(約0.3mL)を採取した(各群4例).採取した血液は,遠心分離して血漿を採取し,血漿の測定試料とした.4.タフルプロストカルボン酸およびチモロールの定量タフルプロストは点眼後,活性本体であるタフルプロストカルボン酸に速やかに代謝される1)ことから,タフルプロストの眼内移行および全身曝露はタフルプロストカルボン酸を定量して評価した.血漿および房水中タフルプロストカルボン酸およびチモロールの定量は,測定対象化合物をtert-ブチルメチルエーテルを用いた液-液抽出により精製後,LCMS/MSにより分析して行った.装置は,オートサンプラにHTCPAL(CTCAnalytics),HPLCにAgilent1100(Agilent),分析カラムにYMC-PackODS-AQS-3μm,50×3.0mmI.D.(YMC),質量分析計にAPI5000(ABSciex)を用いた.移動相は,流量0.5mL/minで0.1%酢酸/メタノール(80/20)→(25/75)のグラジェントとし,カラム温度を40°C,イオン化法をelectrosprayionization(タフルプロストカルボン酸:negativemode,チモロール:positivemode),モニタリングイオンをm/z409→93(タフルプロストカルボン酸)およびm/z317→74(チモロール)とした.なお,房水中薬物濃度は,測定試料中薬物濃度を房水採取量で補正して算出した.本法の定量下限は,血漿中タフルプロストカルボン酸およびチモロール濃度でいずれも0.1ng/mL,房水中タフルプロストカルボン酸濃度で0.764.10.2ng/mL,房水中チモロール濃度で0.822.2.14ng/mLであった(房水中濃度については,定量下限未満であった房水試料における値).5.薬物動態パラメータ血漿および房水中のタフルプロストカルボン酸およびチモロールについて,血漿は個体ごとの濃度値,房水は各測定時点における平均値を用いて,薬物動態パラメータを算出した.Cmax(最高血中濃度)は観測された値の最大値,Tmax(最高血中濃度到達時間)はCmaxに到達する時間とした.消失半減期(T1/2)は,横軸が点眼後時間,縦軸が濃度の対数のグラフにプロットして観測された消失相の傾き(ke)で,2の自然対数を除することにより算出した.濃度-時間曲線下面積(AUC)は線形台形法により算出し,無限大時間までのAUC(AUCinf)は,濃度が得られた最終時点の濃度値をkeで除した値と,その時点までのAUCの和として算出した.(114) III結果1.眼内移行性に及ぼす点眼液pHの影響3,0002,000房水中チモロール濃度(ng/mL)0チモロールpH6.0pH7.0pH7.5タフルプロスト/チモロール配合点眼液(pHは6.0,7.0および7.5),タフルプロスト点眼液およびチモロール点眼液を,それぞれラットに点眼したときの点眼後30分の房水中チモロールおよびタフルプロストカルボン酸濃度をそれぞれ図1および図2に示す.配合点眼液点眼後の房水中タフルプ1,000ロストカルボン酸濃度は,点眼液のpH変動により変化せず,タフルプロスト/チモロールまた,タフルプロスト点眼液点眼時とほぼ同様の値であっ配合点眼液た.一方,チモロールに関しては,配合点眼液のpHが高くなるに従って房水中チモロール濃度が高くなる傾向が認めら図1チモロールのラット房水移行性に及ぼす点眼液pHの影響(点眼後30分)れ,pH7.5の配合点眼液では,チモロール点眼液に比べて各値は8眼の平均値+標準偏差.約2倍の値となった.2.各点眼液点眼後の眼内移行性の比較DE-111点眼液,タフルプロスト点眼液,チモロール点眼液,チモロールGS点眼液を単独点眼したとき,ならびにチモロール点眼液を点眼後5分にタフルプロスト点眼液を併用点眼したときの眼内移行性を比較するため,房水中薬物濃度推移を調べた.房水中チモロールおよびタフルプロストカルボン酸濃度推移をそれぞれ図3および図4に,房水中チモロールおよびタフルプロストカルボン酸の薬物動態パラメータ房水中タフルプロストカルボン酸濃度(ng/mL)1000タフルプロストpH6.0pH7.0pH7.580604020をそれぞれ表1に示す.房水中チモロール濃度は,各点眼液単独および併用点眼のいずれにおいても,点眼後0.25時間までにCmaxに達した後,タフルプロスト/チモロール配合点眼液速やかに消失した.DE-111点眼液点眼時の房水中チモロール濃度は,チモロール点眼液0.5%よりも高い濃度推移を示した.また,チモロールGS点眼液0.5%と比較すると,Cmaxは低く,点眼後2時間以降は高い濃度推移を示し,AUCはほぼ同じであった.さらに,タフルプロスト点眼液0.0015%およびチモロール点眼液0.5%の5分間隔での併用点眼時と同様の濃度推移を示した.房水中タフルプロストカルボン酸濃度は,各点眼液単独および併用点眼のいずれにおいても点眼後約0.5時間にCmaxに達し,その後T1/2約0.3.0.4時間で消失して,点眼後約4時間にはいずれの点眼液,個体においても定量下限未満となった.DE-111点眼液点眼時の房水中タフルプロストカルボン酸濃度は,タフルプロスト点眼液0.0015%に比べて点眼後5分では低く,点眼後2時間では高い濃度を示したが,薬物動態パラメータに差はみられなかった.また,タフルプロスト点眼液0.0015%とチモロール点眼液0.5%の5分間隔での併用点眼と同様の濃度推移を示した.3.各点眼液点眼後の全身曝露の比較DE-111点眼液,タフルプロスト点眼液,チモロール点眼液,チモロールGS点眼液を単独点眼したとき,ならびにチモロール点眼液を点眼後5分にタフルプロスト点眼液を併用図2タフルプロストの房水移行性に及ぼす点眼液pHの影響(点眼後30分)各値は8眼の平均値+標準偏差(タフルプロストは7眼).点眼したときの全身曝露を比較するため,血漿中薬物濃度推移を調べた.血漿中チモロールおよびタフルプロストカルボン酸濃度の推移をそれぞれ図5および図6に,血漿中チモロールおよびタフルプロストカルボン酸の薬物動態パラメータを表2に示す.血漿中チモロール濃度は,チモロール点眼液,チモロールGS点眼液およびチモロール点眼液とタフルプロスト点眼液の併用においては点眼後0.25時間までに,DE-111点眼液では,点眼後0.25.0.55時間にCに達し,その後T1/2約max0.7.0.9時間で消失した.CmaxおよびAUCともに個体間でバラツキがあり,点眼群間に明確な差はみられなかった.血漿中タフルプロストカルボン酸濃度は,DE-111点眼液,タフルプロスト点眼液およびチモロール点眼液とタフルプロスト点眼液の併用のいずれにおいても,点眼後0.167時間(10分)までにCmaxに達した後,消失して点眼後1時間にはいずれの点眼液,個体においても定量下限未満となり,各群の濃度推移に明確な差は認められなかった.(115)あたらしい眼科Vol.30,No.12,20131763 10,0001,0001,000100:DE-111:チモロール:チモロールGS:チモロール+タフルプロストa:DE-111:タフルプロスト:チモロール+タフルプロストa1234房水中チモロール濃度(ng/mL)房水中タフルプロストカルボン酸濃度(ng/mL)100101010101234点眼後時間(hr)点眼後時間(hr)図3各種点眼液点眼後の房水中チモロール濃度推移図4各種点眼液点眼後の房水中タフルプロストカルボン酸各値は6眼の平均値+標準偏差.濃度推移a:チモロール点眼後5分にタフルプロストを点眼.各値は6眼の平均値+標準偏差.a:チモロール点眼後5分にタフルプロストを点眼.表1各種点眼液点眼後の房水中タフルプロストカルボン酸およびチモロールの薬物動態パラメータ測定対象点眼液Cmax(ng/mL)Tmax(hr)AUC0-4ha(ng・hr/mL)AUCinfa(ng・hr/mL)T1/2(hr)チモロールDE-111チモロールチモロールGSチモロール+タフルプロストb2,3301,3303,3501,9600.250.08330.250.252,0801,2101,8201,6602,080NCNC1,6600.494NCNC0.438タフルプロストカルボン酸DE-111タフルプロスト90.475.60.50.587.579.084.977.40.3740.311チモロール+タフルプロストb89.70.41787.9c84.90.414各パラメータは6眼(3例)の平均房水中濃度を解析して算出.NC:算出せず.a:定量下限未満の値をゼロとして計算.b:チモロール点眼後5分にタフルプロストを点眼.c:AUC0-3.92h.IV考按緑内障の治療は眼圧下降剤による治療が主体となっており,単剤で効果が不十分であるときには併用療法が行われる2)が,長期にわたり継続して点眼治療を行う必要がある患者にとって,複数の点眼剤の併用は大きな負担であり,アドヒアランスの低下により十分な眼圧下降効果が維持されない状態が続くと,視野障害の進行につながることが懸念される.タフルプロストとチモロールマレイン酸塩の配合点眼液であるDE-111点眼液は,PG関連薬とb遮断薬の両剤の併用が必要な患者にとって,利便性の向上によるアドヒアランスの改善が期待されるが,一方で,チモロールの点眼回数がチモロール点眼液の1日2回からDE-111点眼液では1日1回に減少することによる眼圧下降効果の減弱が懸念される.そこで,DE-111点眼液の処方設計においては,タフルプロストの眼内移行が減少もしくは増加して眼圧下降効果が減弱したり副作用が増強したりすることなく,チモロールによる眼圧下降作用を併用点眼並みに維持することを目指して検討1764あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013を行った.点眼液では,点眼後の薬物は速やかに鼻涙管を経て眼外へ排出されるため,点眼液への粘性の付与により眼表面での滞留性を高めることで薬物の眼内移行性を向上させることが可能である3).チモロールGS点眼液はゲル化剤を添加して粘性を増加させることによりチモロールの眼内移行性を向上させ(表1,図3),1日1回点眼の用法で承認されている.しかしながら,タフルプロストとチモロールマレイン酸塩の配合剤をゲル製剤とした場合,タフルプロストの眼局所副作用(充血,睫毛の伸長,虹彩・眼瞼色素沈着)の増大の懸念や,タフルプロストの眼内移行量の増加に伴う効果の過大増強の可能性もあることから,課題が多いと考えられる.そこで,DE-111点眼液の製剤処方としては,ゲル化などの粘性を高める手法は採用しなかった.一般に,脂溶性の薬物はその濃度勾配に従い単純受動拡散により生体膜を透過する.この場合,透過しやすいのは分子型であり,薬物の酸解離定数(pKa)とpHにより影響を受ける(pH分配仮説).チモロールは塩基性化合物でpKaは(116) 1,00010100:DE-111:チモロール:チモロールGS:チモロール+タフルプロストa:DE-111:タフルプロスト:チモロール+タフルプロストa血漿中チモロール濃度(ng/mL)血漿中タフルプロストカルボン酸濃度(ng/mL)11010.100.1012341234点眼後時間(hr)点眼後時間(hr)図5各種点眼液点眼後の血漿中チモロール濃度推移図6各種点眼液点眼後の血漿中タフルプロストカルボン酸各値は4例の平均値+標準偏差.濃度推移a:チモロール点眼後5分にタフルプロストを点眼.各値は4例の平均値+標準偏差.a:チモロール点眼後5分にタフルプロストを点眼.表2各種点眼液点眼後の血漿中タフルプロストカルボン酸およびチモロールの薬物動態パラメータ解析対象点眼液Cmax(ng/mL)Tmaxa(hr)AUC0-4hb(ng・hr/mL)AUCinf(ng・hr/mL)T1/2(hr)チモロールDE-111チモロールチモロールGSチモロール+タフルプロストc45.5±14.6294±235371±23394.2±67.00.5[0.25-0.55]0.0833[0.0833-0.217]0.0833[0.0833-0.25]0.25[0.117-0.25]46.9±10.165.9±36.0d84.7±27.639.7±15.547.7±10.667.9±39.185.6±27.240.1±15.60.675±0.09670.890±0.4480.718±0.08660.705±0.0831タフルプロストカルボン酸DE-111タフルプロストチモロール+タフルプロストc0.378±0.09810.760±0.8410.590±0.2940.0833[0.0833-0.15]0.0833[0.05-0.117]0.167[0.0333-0.167]0.113±0.05040.142±0.1180.172±0.0858NCNCNCNCNCNC各値は4例の平均値±標準偏差.NC:算出せず.a:Tmaxは中央値[最小値-最大値]を表示.b:定量下限未満の値をゼロとして計算.c:チモロール点眼後5分にタフルプロストを点眼.d:ゼロ時間から約4時間までのAUCの平均値±標準偏差.約8.8であることから,中性領域ではpHは高いほど分子型の割合が増し,膜透過性が上昇することが予想される.実際に,ウサギにおいて,pHが6.2,6.9および7.5のチモロール点眼液を点眼したとき,pHの上昇に伴って眼内移行性が向上するとの報告もある4).そこで,タフルプロスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼液において,点眼液のpHを変動させて房水中チモロール濃度を調べたところ,点眼後30分の房水中チモロール濃度は,点眼液のpHの上昇に伴って増加することが示された(図1).一方で,タフルプロストについては,配合点眼液のpHを変動させても房水中タフルプロストカルボン酸濃度は変化がみられず,タフルプロストの眼内移行は点眼液のpHによる影響を受けないことが示された(図2).タフルプロストは解離基を有さないことから,pHにより膜透過性が変動(117)しなかったものと考えられる.以上の結果より,タフルプロスト/チモロールマレイン酸塩の配合点眼液の処方設計において,pHを適切に調整することでチモロールのみの眼内移行量をコントロールすることが可能と考えられた.ただし,タフルプロストは,活性本体であるタフルプロストカルボン酸のイソプロピルエステルであり,水溶液中では徐々にではあるが加水分解される.この加水分解速度は溶液pHの影響を受けるため,pHが弱酸性では比較的安定であるもののpHを上げるほど,加水分解を受けやすくなる.以上のことから,チモロールの眼内移行を確保しつつタフルプロストの眼内移行量は変動させず,かつ,タフルプロストの点眼液中安定性を考慮し室温保存が可能と考えられるpHとして,DE-111点眼液のpHを7.0に設定した.また,製品としての品質維持(保存中pH変動抑制)を目的に緩衝剤(リン酸あたらしい眼科Vol.30,No.12,20131765 二水素ナトリウム)を配合した.DE-111点眼液をラットに点眼したときの房水中チモロールは,Cmaxはチモロール単剤に比べて高くチモロールGS点眼液に比べて若干低い値であり,AUCはチモロールGS点眼液と同程度であった(表1).一方,房水中タフルプロストカルボン酸のCmaxおよびAUCは,タフルプロスト単剤点眼およびチモロールとの併用点眼と同程度であった(表1).これらの結果は,DE-111点眼液が,タフルプロストの薬効や眼局所副作用をタフルプロスト単剤と比べて変動させることなく,チモロールの眼圧下降効果が期待できることを示唆するものと考えられた.なお,チモロール単剤に比べてDE-111点眼液点眼時の房水中チモロール濃度が高い推移を示した理由については,DE-111点眼液のpHを7.0と設定したことに加え,チモロール点眼液には含まれずDE-111点眼剤には含まれている添加剤(ポリソルベート80,濃グリセリン,エデト酸ナトリウム水和物)の影響,あるいは,タフルプロストが影響していることも可能性としては考えられるが,詳細は不明である.DE-111点眼液をラットに点眼したときのタフルプロストおよびチモロールの全身曝露については,いずれも単剤もしくは併用に比べてCmaxおよびAUCとも上回ることはなかった(表2).したがって,併用に比べてDE-111配合剤で全身の副作用が増悪する可能性は低いと予想された.以上の検討により,DE-111点眼液として最適な処方が決定できた.DE-111点眼液は,1日1回点眼で高い有用性が期待されるとともに,2剤の点眼液を5分以上間隔をあけて併用点眼する場合に比べて緑内障の患者の利便性が改善されることで,アドヒアランスの向上に寄与することが期待される.文献1)FukanoY,KawazuK:Dispositionandmetabolismofanovelprostanoidantiglaucomamedication,tafluprost,followingocularadministrationtorats.DrugMetabDispos37:1622-1634,20092)緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20123)KaurIP,KanwarM:Ocularpreparations:theformulationapproach.DrugDevIndPharm28:473-493,20024)KyyronenK,UrttiA:EffectsofepinephrinepretreatmentandsolutionpHonocularandsystemicabsorptionofocularlyappliedtimololinrabbits.JPharmSci79:688-691,1990***1766あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013(118)