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Delle 8 症例の臨床的検討

2023年11月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科40(11):1486.1490,2023cDelle8症例の臨床的検討千代川聖道井上大輔原田康平草野真央上松聖典北岡隆長崎大学病院眼科CClinicalReviewof8DellenCasesMasamichiChiyokawa,DaisukeInoue,KoheiHarada,MaoKusano,MasafumiUematsuandTakashiKitaokaCDepartmentofOphthalmology,NagasakiUniversityHospitalCDelleは結膜隆起に隣接する角膜周辺部の部分的な菲薄化病変である.今回,当院にて経験したCdelleの症例を治療結果とともに調査した.長崎大学病院眼科にてCdelleと診断されたC8例C8眼(男性C4例,女性C4例,平均年齢C46.5±23.8歳)を対象とし,診療録から背景,治療法,経過について後ろ向きに調査した.背景は斜視手術後C2眼,緑内障手術後C2眼,輪状締結術後C2眼,硝子体手術後C1眼,Parinaud眼腺症候群C1眼であった.明らかな上皮障害はC7眼(88%)に認め,4眼(50%)において異物感や疼痛などの症状を認めた.Delleに対して追加治療を行った症例はC4眼(50%)であり,治療法としては保護用ソフトコンタクトレンズ装用C2眼,抜糸C1眼,ヒアルロン酸点眼C1眼であった.全症例でCdelleは改善し,上皮欠損や異物感などの症状が軽快した.CDellenCisCaCpartialCthinningCofCtheCcornealCperipheryCadjacentCtoCtheCconjunctivalCridge.CToCinvestigateCtheCdetailsof8dellencasesseenatourhospital,weretrospectivelyreviewedthediseasebackground,treatment,andfollow-upcourseinthosecasesviathepatient’smedicalrecords.Inallpatients,dellenoccurredintheperipheralcorneaneartheconjunctivalridge,anditdevelopedin2eyesafterstrabismussurgery,in2eyesafterglaucomasurgery,in2eyesafterencirclingsurgery,in1eyeaftervitrectomy,andin1eyewithParinaud’soculoglandularsyndrome.Ofthe8eyes,obviousepithelialdamagewasobservedin7(88%),symptomssuchasforeignbodysen-sationandpainwasobservedin4(50%),andadditionaltreatmentfordellenwasperformedin4(50%);i.e.,theuseofaprotectivesoftcontactlens(n=2eyes),theremovalofstitches(n=1eye),andtopicaladministrationofhyaluronicacideyedrops(n=1eye).Inallcases,dellenimprovedandothersymptomswererelieved.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(11):1486.1490,C2023〕Keywords:角膜,Delle,Dellen,デレ,デレン.cornea,Delle,Dellen.はじめにDelle(ドイツ語,複数形はCDellen)は結膜隆起に接する角膜周辺部の菲薄化病変である.日常診療においては,翼状片や瞼裂斑,緑内障手術後などで角膜輪部付近の結膜が隆起し,隣接する角膜周辺部が局所的に菲薄化する病変として,しばしば経験する.DelleはC1911年,ErnstFuchsによって報告され,有症状のものは少なく,またC48時間以上続くことはまれであるとされている1).発生機序として明らかなものはなく,隆起性病変部に隣接して生じる涙液メニスカスがまわりの涙液量を減少させ,角膜上皮障害やCdelleの発症に関与しているとの報告もある2).一過性の原因に対しては,アイパッチ,保護用ソフトコンタクトレンズ(softCcontactClens:SCL)の装用,人工涙液の頻回点眼などがあり,一過性でない場合は隆起性病変の外科的切除も考慮される3).これまで本疾患の誘因となった原疾患の内訳や治療結果を報告した論文は少ない.今回,当院眼科にて経験したCdelleの症例について,疾患背景や治療経過を報告する.CI対象および方法2012年C1月.2021年C4月に長崎大学病院眼科にて診療を行った患者の診療録から,delle(ローマ字・日本語・複数形を含む)の記載を検索し,delleの所見を認めた症例を抽出した.Delle以外の周辺部の角膜潰瘍の症例は除外した.Delleと診断された症例の背景,治療法,経過について後ろ〔別刷請求先〕千代川聖道:〒852-8501長崎県長崎市坂本C1-7-1長崎大学大学院医歯薬学総合研究科眼科・視覚科学分野Reprintrequests:MasamichiChiyokawa,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,NagasakiUniversity,1-7-1Sakamoto,Nagasaki-shi,Nagasaki852-8501,JAPANC1486(116)向きに調査した.CII結果Delleと診断された症例はC8例C8眼(男性C4例,女性C4例)であり,年齢はC46.5C±23.8歳(14.80歳)であった.対象の背景を表1に示す.8眼中C7眼がなんらかの術後早期に発生したものであり,斜視手術後C2眼,緑内障手術後C2眼,輪状締結術後C2眼,硝子体切除術後C1眼であった.1眼はCParinaud眼腺症候群による高度な球結膜浮腫に伴うものであった.フルオレセインで染色される明らかな上皮障害はC7眼(88%)に認め,4眼(50%)において異物感や疼痛などの症状が認められた.Delleに対して追加治療を行った症例はC4眼(50%)であり,治療法としては保護用CSCL装用C2眼,抜糸C1眼,ヒアルロン酸ナトリウム点眼2眼であった(重複あり).全症例でdelleは改善し,上皮欠損や異物感などの症状が軽快した.代表的な症例をC2例提示する.CIII症例[症例1]80歳,女性.2013年C8月テーブルの角で右眼打撲し,外傷性眼球破裂のため近医より長崎大学病院眼科(以下,当科)に紹介された.左眼に異常はなかった.同日眼内レンズ摘出術,硝子体切除術,およびシリコーンオイル注入術を施行し,その後シリコーンオイル抜去術を施行した.2014年C1月眼内レンズ縫着術を施行したが,術後の結膜の炎症は以前の手術後よりも重度であり,一部浮腫のため隆起していた.術後C12日目,流涙,異物感の自覚症状あり,右眼鼻側結膜の隆起および隣接する周辺角膜にフルオレセイン染色で円形に染まる角膜上皮欠損部位を認め(図1a,b),delleと診断された.非ステロイド性抗炎症薬点眼薬および術後高眼圧のため使用していたプロスタグランジン系緑内障点眼薬を中止し,ステロイド点眼薬の点眼回数を減量し,ヒアルロン酸ナトリウムC0.3%点眼薬および保護用CSCL装用を開始した.術後C17日目(delleの診断からC5日目)の受診時にはCdelleは消失していた(図1c,d).術後C20日目に保護用CSCL装用を中止したところ,その翌日には同部位にCdelleが再発したが,疼痛や異物感などの症状はなかった.保護用CSCL中止のままヒアルロン酸ナトリウムC0.3%点眼薬を継続していたところ,術後29日目(delleの再発からC9日目)にCdelleは軽快した.[症例6]44歳,女性.右眼外眼筋炎後の右眼外直筋萎縮および外斜視に対して,2016年C12月に右眼外直筋後転を施行.その後残存した外斜視に対してC2017年C4月右眼上下直筋移動術および内直筋短縮術を施行した.術翌日より右眼鼻側結膜の浮腫は著明であった.術後C1カ月で眼痛の症状があり,鼻側結膜隆起に隣接する角膜周辺部に混濁しフルオレセイン染色で染色される円形の角膜潰瘍を認め(図2a,b),delleと診断した.人工涙液点眼を開始したが,delle出現からC2週間後,delleの悪化を認め保護用CSCL装用を開始した.Delle出現C3週間後delleの範囲は縮小し保護用CSCLを除去したが,delle出現C4週間後,眼痛の症状再燃しCdelleの悪化を認めた.保護用SCL再装用で症状が軽快するため,2週間ごとの保護用CSCL交換で経過観察を続けた.Delle出現からC13週間後,角膜の陥凹は残存するが,フルオレセイン染色での染色所見は軽快した.原因除去の観点から,隆起した結膜の除去も考慮したが,日中のみのCSCL装用で症状なく経過しており,術後2年時点で当科終診となった(図2c,d).CIV考按Delleをきたす結膜隆起の原因としては,強膜炎,瞼裂斑,翼状片,輪部悪性腫瘍,結膜下出血などの疾患,または斜視手術,白内障手術,緑内障手術後などの手術があげられる4).当院で確認できたCdelleは多くの症例で手術後の症例であり,術後以外の症例はCParinaud眼腺症候群のC1例のみであった.斜視手術後のC655人に対してCdelleの出現を調査した報告では,内直筋の再手術を行ったC184眼中C30眼(16.3%),筋移動術を行ったC37眼のうちC7眼(18.9%),外直筋後転と内直筋切除を組み合わせたC101眼のうちC4眼(4.0%)にCdelleを認めている5).また,斜視手術後のC51人の患者(102眼)のdelle発症率を調査した論文では,delleの発生率はC22.5%との報告もある6).症例C1では,同一眼で手術を繰り返しており,術後の炎症が強かった.症例C6では同一眼でC2度の手術を施行しており,2度目の手術は上下直筋移動術および内直筋短縮術であり,侵襲度の高い手術であった.両症例ともに複数回の手術後の発症であり,自覚症状も強く出現していた.また,当院でのCdelleの症例は手術後,もしくはCParinaud眼腺症候群が原因疾患であり,すべての症例において炎症が関与する症例であった.結膜下出血が原因となるCdelleのように炎症が関与していない疾患でもCdelleの報告はある7)が,delleの発症には結膜の隆起による涙液層の破綻のみではなく,術後などに出現する強い炎症も関与する可能性が考えられる.一般的に涙液層破綻によってCdelleは生じるが,症例C1,症例C2のように炎症が強い状態であれば,自覚症状の出現や遷延化や,繰り返す再発の原因になると考えられる.Delleは角膜実質の局所的な含水率の低下に基づいて生じた陥凹領域ともいわれ,組織学的にも角膜上皮,Bowman膜,実質の菲薄化がみられ,適切な治療を行わないと角膜穿孔にもつながる合併症である8).Delleは陥凹部の感度低下を認め7),無症状で上皮障害を伴わないことが多く,フルオレセイン染色で染まる場合と染まらない場合がある4).当院表1対象の背景症例性別年齢背景上皮障害自覚障害治療術後発症までの期間軽快までの期間備考疾患手術C1女性C80眼内炎硝子体手術++SCL装用12日5日間9日間再発ありC2男性C14裂孔原性網膜.離輪状締結術+.─6日3週間C3男性C14外傷性網膜.離輪状締結術不明+抜糸6日3週間C4女性C61緑内障線維柱帯切除術+.─12日1カ月C5男性C72緑内障インプラント挿入術+.ヒアルロン酸ナトリウム点眼6日1カ月C6女性C44斜視筋移動術+++SCL装用1カ月3カ月遷延C7女性C58斜視短縮後転術++抜糸1カ月1カ月C8男性C29Parinaud眼腺症候群C─++原疾患の治療2週間図1症例1の前眼部所見a,b:鼻側角膜輪部にフルオレセインで染色される円形のCdelleを認める.Cc,d:delle診断からC5日目,保護用CSCL装用で軽快した.では上皮障害をほとんどの症例で認め,自覚症状が強い症例で陥凹・潰瘍内のフルオレセイン染色液を吸い取り,その後もあった.陥凹部へのフルオレセイン染色液の貯留(pool-も染色状態にあるか否かによって,上皮障害の有無を確認しing)の影響もあり,実際に同部に上皮障害があったかの判ている.既報と臨床所見が異なる理由としては,今回の断は困難な場合もある.当院では判断困難な場合は綿棒などdelle症例は術後による炎症が症状出現に寄与していた可能図2症例2の前眼部所見a,b:鼻側の結膜隆起,および隣接する周辺角膜にフルオレセインで染色されるCdelleを認める.Cc,d:保護用CSCL装用を継続し,delleは改善した.性が考えられる.Delleの治療は角膜に涙液を補給し,角膜輪部の隆起を抑えることが重要である.辺縁部の隆起が炎症性のものであれば,ステロイド点眼や抗菌薬点眼を併用することで角膜輪部の結膜隆起を抑えるのに役立つ.角膜への涙液補給には眼帯装用も効果的である.治療はできるだけ早期に開始するのが望ましく,緑内障手術後の濾過胞が原因の場合は人工涙液の頻回投与も有効である7).今回の症例C1,6では保護用CSCL装用でも良好な経過を得ることができた.保護用CSCLを装用することによって,delleの角膜陥凹部に持続的な涙液の補.が可能となる.Delleは軽度であれば経過観察にて数週間程度で改善することが多いが,疼痛などの自覚症状が出ている症例に対しては,炎症を抑える各種点眼,人工涙液による涙液補充が有効であり,疼痛が強い症例や上記点眼による改善が得られない症例では,涙液を角膜に保持することができるCSCLを装用する治療法も効果的であると思われる.症例C1ではCSCL装用にて数日のうちにCdelleは改善,しかしCSCL装用を中止するとCdelleの再燃を認めた.SCL装用によってCdelleの表面に涙液が補われることでCdelleが改善したものの,SCL装用中止後も角膜輪部の炎症と結膜浮腫が残存していたために,delleが再燃したと考えられる.Delle再発時点では疼痛の自覚症状はなく,隆起性病変によって症状が出現していた可能性も考えられるが,このようにdelleが遷延する症例では治療を継続する必要がある.今回Cdelleの症例について,当院のカルテ検索システムで症例を検出したが,カルテにCdelleと記載している症例のみの症例検討となった.明らかに症状がなく,軽度の場合は抽出されなかった可能性がある.また,一般の眼科診療所では今回の検討よりも軽度なCdelleの症例が比較的多くみられる可能性もある.CV結論今回Cdelleの当院での原疾患などについて調査した.とくに症状の強い症例については保護用CSCLの使用によって,病態の改善,症状の軽減を得ることができた.また,delleの発症に関しては術後などによる炎症が関与する可能性も考えられた.文献1)FuchsA:Pathologicaldimples(C“Dellen”)ofCtheCcornea.CAmJOphthalmolC12:877-883,C19292)McDonaldJE,BrubakerS:Meniscus-inducedthinningoftear.lms.AmJOphthalmolC72:139-146,C19713)横井則彦:Dellen.あたらしい眼科C16:803-804,C19994)小玉裕司,赤木好男:Dellen(Fuchs’dimple).あたらしい眼科C3:359-360,C19865)MaiCGH,CYangSM:RelationshipCbetweenCcornealCdellenCandCtear.lmCbreakupCtime.CYanCKeCXueCBaoC7:43-46,C19916)FresinaCM,CCamposEC:Corneal‘dellenC’CasCaCcomplica-tionCofCstrabismusCsurgery.Eye(Lond)C23:161-163,C20077)BaumJL,MishimaS,Borucho.SA:Onthenatureofdel-len.ArchOphthalmolC79:657-662,C19688)KymionisCGD,CPlakaCA,CKontadakisCGACetal:TreatmentCofCcornealCdellenCwithCaClargeCdiameterCsoftCcontactClens.CContLensAnteriorEyeC3:290-292,C2011***