‘EPC-K1’ タグのついている投稿

紫外線によるブタ水晶体上皮細胞傷害に対するEPC-K1の効果

2012年2月29日 水曜日

《原著》あたらしい眼科29(2):277.282,2012c紫外線によるブタ水晶体上皮細胞傷害に対するEPC-K1の効果山口大輔*1中西孝子*2奥野勉*3植田俊彦*1舟橋久幸*4塩田清二*4久光正*2小出良平*1*1昭和大学医学部眼科学教室*2昭和大学医学部第一生理学教室*3労働安全衛生総合研究所*4昭和大学医学部第一解剖学教室E.ectofEPC-K1onUltravioletRadiation-InducedInjuryinCulturedLensEpithelialCellsDaisukeYamaguchi1),TakakoNakanishi-Ueda2),TsutomuOkuno3),ToshihikoUeda1),HisayukiFunahashi4),SeijiShioda4),TadashiHisamitsu2)andRyoheiKoide1)1)DepartmentofOphthalmology,2)DepartmentofPhysiology,4)DepartmentofAnatomy,ShowaUniversitySchoolofMedicine,3)HumanEngineeringandRiskManagementResearchGroup,NationalInstituteofOccupationalSafetyandHealth目的:紫外線(UV)による培養ブタ水晶体上皮細胞(LEC)傷害に対するビタミンE(VE)とビタミンC(VC)のリン酸ジエステルであるEPC-K1の効果について検討した.方法:UV照射後に各0.1mMEPC-K1,VEまたはVC溶液を添加し,48時間後の生細胞数をクリスタルバイオレット(CV)法で測定した.また,DNA酸化ストレスマーカーである8-hydroxy-deoxyguanosine(8-OHdG)を免疫染色した.結果:310nm,500mJ/cm2照射によりLEC生細胞数は37%に減少した.EPC-K1添加により,生細胞数は非照射レベルに回復したが,VEまたはVC単独,またはVC+VE同時添加では回復しなかった.UV照射6時間後,8-OHdGは増加したが,EPC-K1により減少した.結論:EPC-K1は酸化ストレスを抑制し,UVによるLEC傷害を抑制したと考えられた.Purpose:Theaimofthisstudywastoinvestigatethepreventivee.ectofEPC-K1,aphosphatediesterofvitaminC(VC)andvitaminE(VE),againstUVradiation-inducedlensepithelialcell(LEC)injury.Methods:LECviabilitywasdeterminedbycrystalviolet(CV)stainingat48hoursafterUVirradiation.TheDNAoxidativestressmarker8-hydroxy-deoxyguanosine(8-OHdG)wasdeterminedbyimmunohistochemicalstain.Results:Irradiationof500mJ/cm2at310nmsigni.cantlydecreasedcellviabilityto37%ofcontrol(withoutirradiation).Theadditionof0.1mMEPC-K1afterirradiationreturnedcellviabilitytocontrollevel,buttheadditionof0.1mMVE,VCorVE+VCwasnote.ective.Although8-OHdGstainedcellsincreasedat6hoursafterUVirradiation,theydecreasedwiththeadditionof0.1mMEPC-K1.Conclusion:TheseresultssuggestthatagainstUV-inducedLECinjury,EPC-K1exertsaprotectivee.ectthatinvolvesoxidativestressinhibition.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(2):277.282,2012〕Keywords:水晶体上皮細胞,紫外線照射,EPC-K1,8-ハイドロキシ-デオキシグアノシン.lensepithelialcell,ultravioletirradiation,EPC-K1,8-hydroxy-deoxyguanosine.はじめに紫外線が生体に及ぼす作用にはDNAの直接的傷害,活性酸素種(reactiveoxygenspecies:ROS)形成を介した細胞の傷害などが知られている1.3).水晶体でも波長300.400nmは吸収され4),ROSによる細胞膜傷害5),蛋白質変性6)が報告されている.正常な状態では,DNA傷害修復機構やsuperoxidedismutaseやcatalase,glutathioneperoxidaseのような抗酸化酵素やアスコルビン酸やグルタチオンなどの抗酸化物質によるROSの消去系で傷害は抑制されている7,8).しかし何らかの原因により酸化/抗酸化のバランスが崩れROSを消去できず,産生系が亢進する場合に酸化ストレスが生じる.8-hydroxy-deoxyguanosine(8-OHdG)は最も顕〔別刷請求先〕植田俊彦:〒142-8666東京都品川区旗の台1-5-8昭和大学医学部眼科学教室Reprintrequests:ToshihikoUeda,M.D.,DepartmentofOphthalmology,ShowaUniversitySchoolofMedicine,1-5-8Hatanodai,Shinagawa-ku,Tokyo142-8666,JAPAN著な酸化DNA産物の一つであり,酸化ストレスの指標として用いられている9.12).ビタミンE(VE)とビタミンC(VC)をリン酸エステル結合で合成したl-ascorbicacid2-[3,4-dihydro-2,5,7,8-tetramethyl-2-(4,8,12-trimethyltridecyl)-2H-l-benzopyran-6-yl-hydrogenphosphate]potassiumsalt(EPC-K1)は水溶性,脂溶性ラジカルスカベンジャーで13),網膜ホモジェネート中脂質過酸化物質生成を抑制し14),ホスホリパーゼA2活性を抑制する15).鉄誘導ウシ網膜ホモジェネート中脂質過酸化物質を対象として抗酸化効果を比較した実験ではEPC-K1のIC50(50%阻害濃度)値は20μMとepigallo-catechingal-lateのIC50(6.8μM)と比較しても強い抗酸化力をもつ14).本研究では水晶体に吸収される310nmとDNAに吸収されやすくcyclobutanepyrimidinedimmerを産生する最適な波長であるとされる270nm16)の紫外線を用い,ブタ水晶体上皮細胞(lensepithelialcells:LEC)傷害をひき起こし,生細胞数を指標としてEPC-K1とVEまたはVCの効果を比較した.また,酸化ストレスの指標となる8-OHdGの変化に注目し,EPC-K1の効果を観察した.I実験方法1.細胞培養新鮮なブタ眼球(東京芝浦臓器株式会社,東京)から水晶体上皮を得て,コラーゲンIコート60mmディッシュ(BDFalconR,日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)に固定し,血清含有培地〔10%ウシ胎児血清:FBS(GIBCOR,invitrogen),100u/mlpenicillin,100μg/mlstreptmycin,2.5μg/mlamphoterisinB(GIBCOR,invitrogen)を含むD-MEM/F-12(Dulbecco’sModi.edEagleMedium:NutrientMixtureF-12,GIBCOR,invitrogen)〕にて37℃,5%CO2の条件下,初代培養した.2週間後,コンフルエントになったLECを,0.25%trypsin-EDTA(GIBCOR,invitrogen)処理により回収し,コラーゲンIコートT-75フラスコ(BDFalconR,日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)を用い,血清含有培地にて37℃,5%CO2の条件下,継代した.培地は2.3日ごとに交換し,継代数4.6の細胞を実験に用いた.2.紫外線照射キセノンランプ光源装置(MAX-301,朝日分光株式会社)を用いて,特定の波長域を分離するバンドパスフィルター(半値幅10nm)により310nmまたは270nmを得て石英製のライトガイドとロッドレンズ(朝日分光株式会社)を通して照射した(図1).照射量(放射露光,J/cm2)はおおむねその波長における50%致死量とした.照射直前に放射照度(W/cm2)をシリコーンフォトダイオードディテクター(SEL033,InternationalLightTechnology,Peabody,MA,出力口96wellplate図1紫外線照射装置キセノンランプ光源装置(MAX-301,朝日分光株式会社).出力口を固定し,1wellずつ照射した.周辺のwellには斜光カバーを施した.USA)に接続したラジオメータ(IL1400A,InternationalLightTechnology)で測定し,照射時間を調節することで310nmの場合には500mJ/cm2(50.60秒),または270nmの場合には2mJ/cm2(3.4.5秒)を得た.3.生細胞数の測定LECを96wellplate(CORNING,NY,USA)に3×104cells/ml(100μl/well)となるよう播種し,80%コンフルエントまで培養した後,低血清培地〔0.2%FBS,100u/mlpenicillin,100μg/mlstreptmycin,2.5μg/mlamphoterisinBを含むD-MEM/F-12〕100μl/wellに交換し,24時間培養して実験に用いた.照射直前に,培地を照射に影響のないphosphatebu.ersaline(PBS,組織培養用ダルベッコPBS(.),日水製薬株式会社)に置き換えた.310nm,500mJ/cm2または270nm,2mJ/cm2を1wellごとに照射後,PBSから低血清培地に交換し,0.01.0.3mMEPC-K1(千寿製薬株式会社),ビタミンE(VE,和光純薬工業株式会社),ビタミンC(VC,和光純薬工業株式会社)またはH2Oを添加した.48時間後に培地を取り除き,生理食塩水(大塚製薬株式会社)100μl/wellを加えて洗浄後,0.1%crystalvioletエタノール溶液(和光純薬工業株式会社)50μl/wellを加え,室温で15分間放置し,生細胞(LEC)を固定,染色した.その後,crystalvioletを除去,5回水洗後,乾燥した.乾燥したwellに0.5%sodiumdodecylsulfate溶液(和光純薬工業株式会社)を100μl/well加え,マイクロプレートリーダー(Model680XR,Bio-RadLaboratories)で波長570nmの吸光度を測定した.結果は,非照射LEC生細胞数の測定値をコントロールとしたときの百分率をcellsurvival300として表示した.2504.8-OHdG免疫染色200Cellviability(%ofcontrol)GlassBottomCultureDishes(MatTekCorporation,Ashland,MA,USA)に6×104cells/2mlとなるよう細胞を播種し,80%コンフルに培養した後,310nm,500mJ/cm2または270nm,2mJ/cm2照射後,血清含有培地に交換し,0.1mMEPC-K1またはH2Oを添加した.照射6時間後に150100500非照射00.05mM0.1mM0.3mM培地を取り除き,4%paraformaldehyde(Plysciences,Warrington,PA,USA)にて30分間固定し,100μg/mlRnase(si-RNAseIII,タカラバイオ株式会社),1mMEDTA(和光純薬株式会社),0.4MNaCl(和光純薬株式会社)を含む10mMTris-HCl(pH7.4,和光純薬株式会社)を加え37℃にて60分間インキュベーション後,PBSで洗浄(2回)し,10μg/mlProteinaseK(株式会社医学生物研究所)を加える.7分後,PBSにて洗浄(2回)した.4NHClを加図2310nm,500mJ.cm2によるLEC傷害とEPC-K1添加の影響310nm,500mJ/cm2照射48時間後,生細胞数は非照射に比べ37±1%と有意に減少した(n=5,p<0.01).照射直後,EPC-K10.05mM,0.1mM,0.3mM添加した場合の生細胞数の割合はそれぞれ68±5%,120±4%(p<0.01),234±25%(p<0.01)となった.n=5,Mean±SE,**p<0.01.200え,7分後50mMTris-HClbu.erを加えpH7.5に調整した.5分後,PBSにて洗浄(2回),anti-8-OHdG(日油株式会社)/PBS(1:50)を添加し7),60分後,PBSにて洗浄(2回),二次抗体としてAlexa568conjugatedgoatanti-mouseIgG(invitrogen,probes.invitrogen.com,Eugene,OR,USA)/PBS(1:200)を添加した.20分後,PBSで洗浄(2回),核染色のためにHoechst33342(invitrogen,probes.Cellviability(%ofcontrol)150100500invitrogen.com,Eugene,OR,USA)/PBS(1:500)を加え,非照射00.05mM0.1mM0.3mM斜光して15分,PBSで洗浄(2回)し,Fluoromount(Dia-gnositicBiosystem,Pleasanton,CA,USA)を添加し,共焦点レーザー顕微鏡(NikonA1si,株式会社ニコン)にてLECを撮影し,8-OHdG免疫染色陽性細胞(赤色),核染色(青色)により全細胞数をカウントし,プレパラートごとに全細胞数に対する8-OHdG陽性細胞数の割合を測定した.5.統計学的処理2群間の比較には,Student’st-test検定を用い,非照射群との比較にはrepeatedmeasurementANOVA(analysisofvariance)を用いた.有意確率5%未満を有意とした.数値は平均値±標準偏差で示した.II結果1.310nm,500mJ.cm2によるLEC傷害とEPC-K1添加の影響310nm,500mJ/cm2照射48時間後の生細胞数は非照射の場合と比べ37±1%と有意に減少した(n=5,p<0.01).310nm,500mJ/cm2照射による生細胞数の減少(37±1%)に対するEPC-K1の影響を検討した.照射直後,EPC-K10.05mM,0.1mM,0.3mM添加した場合の生細胞数の割合はそれぞれ68±5%,120±4%(p<0.01),234±25%(p<0.01)となり,EPC-K10.1mM,0.3mM添加により,照射により図3270nm,2mJ.cm2照射によるLEC傷害とEPC-K1添加の影響270nm,2mJ/cm2照射48時間後,生細胞数は非照射に比べ59±9%と有意に減少した(n=5,p<0.01).照射直後,EPC-K10.01mM,0.05mM,0.1mM,0.3mM添加した.EPC-K10.1mM,0.3mM添加により,照射により減少した生細胞数が有意に増加した.n=5,Mean±SE,**:p<0.01.減少した生細胞数が有意に増加した(図2).2.270nm,2mJ.cm2照射によるLEC傷害とEPC-K1添加の影響270nm,2mJ/cm2照射48時間後の生細胞数は非照射の場合と比べ59±9%と有意に減少した(n=5,p<0.01).270nm,2mJ/cm2照射による生細胞数の減少(59±9%)に対するEPC-K1の影響を検討した.照射直後,EPC-K10.01mM,0.05mM,0.1mM,0.3mM添加した場合の生細胞割合はそれぞれ66±8%,62±6%,102±10%(n=5,p<0.01),161±21%(n=5,p<0.01)となり,EPC-K10.1mM,0.3mM添加により,照射により減少した生細胞数が有意に増加した(図3).3.紫外線照射によるLEC傷害とVC,VEまたは同時添加の影響310nm,500mJ/cm2または270nm,2mJ/cm2照射48時(131)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012279表1310nm(500mJ/cm2)または270nm(2mJ/cm2)照射によるLEC傷害に対するVC,VEまたはVC+VE同時添加の影響添加量VCVEVC+VE310nm照射053±5%53±5%53±5%310nm照射0.05mM56±6%55±12%310nm照射0.1mM57±8%56±11%53±8%310nm照射0.3mM53±14%54±10%270nm照射043±7%43±7%43±7%270nm照射0.05mM55±18%47±11%270nm照射0.1mM50±9%48±5%55±7%270nm照射0.3mM50±4%56±6%値は非照射LEC生細胞数に対する百分率で示した.310nm(500mJ/cm2)照射により,LEC生細胞数は43±7%に,270nm(2mJ/cm2)照射により53±5%と有意に減少した(p<0.001).VC,VEまたはVC+VE同時添加による生細胞数の変化はなかった.Mean±SE.n=5.間後の生細胞数は非照射の場合と比べ43±7%,53±5%と有意に減少した(n=5,p<0.01).照射直後にVC(0.05mM,0.1mM,0.3mM)またはVE(0.05mM,0.1mM,0.3mM)を添加したが,生細胞数は回復しなかった.0.1mMVCと0.1mMVEを同時に添加しても影響はなかった(表1).4.紫外線照射によるLEC酸化ストレスの変化とEPC-K1添加の影響紫外線照射6時間後のDNA酸化ストレスマーカーである8-OHdG染色の結果を示した(図4).非照射LECは核が青色に染まり(A),310nm,500mJ/cm2照射では8-OHdG染色陽性LECの他に8-OHdGが核外へ漏れ出ていた(B).310nm,500mJ/cm2照射直後の0.1mMEPC-K1添加によりこの傾向は抑制された(C).270nm,2mJ/cm2照射によりほとんどのLECは8-OHdG染色陽性となった.いくつかのLECでは8-OHdGが核の外へ漏れ出ていた(D).270nm,2mJ/cm2照射直後の0.1mMEPC-K1添加により8-OHdG染色陽性細胞は減少した(E).8-OHdG陽性細胞の割合は非照射LEC(8±5%)に比べ310nm,500mJ/cm2または270nm,2mJ/cm2照射により67±7%,77±5%と有意に増加し(p<0.01,n=5),0.1mMEPC-K1添加によりそれぞれ37±5%,23±2%と有意に抑制された(p<0.01,n=5).III考按EPC-K1は270nmまたは310nm照射により誘導されるLEC傷害を抑制することが明らかとなった.今回の実験では照射直後に培地にEPC-K1を添加した.抗酸化物の多くは酸化ストレス処理の前に投与されることが多いが,EPC-K1は310nmより短い波長を吸収するので,LECに対する照射量に影響する可能性があるため,照射前には培地に添加非照射310nm310nm270nm270nmEPC-K1EPC-K1図4紫外線照射によるLEC酸化ストレスの変化とEPC-K1添加の影響紫外線照射6時間後8-OHdG免疫染色(赤色)の結果を示した.核は青色で表示した.A:非照射LEC,B:310nm(500mJ/cm2)照射,C:310nm(500mJ/cm2)照射直後に0.1mMEPC-K1を添加,D:270nm(2mJ/cm2)照射,E:270nm(2mJ/cm2)照射直後に0.1mMEPC-K1を添加.F:プレパラートごとの8-OHdG陽性細胞数の割合を算出した.n=5,Mean±SE,**:p<0.01vs非照射.##:p<0.01vs310nmor270nm照射.しなかった.しかし,照射後の添加でも効果のあることが明らかとなった.照射後より光増感作用を有する蛋白質が紫外線を吸収した後に,そのエネルギーを基底状態の酸素に渡し,ROSを形成し,連鎖的な細胞傷害を起こす17,18).この過程をEPC-K1が抑制したためと推測している.脂溶性ビタミン:VEは細胞膜に存在し,細胞傷害を招く連鎖的膜脂質過酸化反応を遮断し,自らがラジカルを受け取り,細胞外に存在する水溶性ビタミン:VCにラジカルを与え,自らは基底状態に戻り,ラジカルは細胞外へ排泄される19).細胞内でこのような役割をもつVEとVCを併せ持つEPC-K1の生体内での代謝は明らかではないが,中脳動脈一過性虚血ラット神経細胞のDNA傷害抑制効果20),脳局所虚血傷害モデルでは脂質過酸化反応抑制21)や虚血-再灌流による急性腎傷害抑制効果22)のあることから組織へ速やかに取り込まれ抗酸化物として作用することが推測される.同様に,今回の細胞培養実験でも水溶性であるEPC-K1は速やかにLECに取り込まれ,紫外線照射により生じたラジカル連鎖反応を抑制したと考えられる.Invitro実験では脂溶性であるVEはLECに到達することは非常にむずかしく,溶媒を用いることが多い.今回の実験では条件を一定としたために,溶媒を用いなかった.また,水溶性であるVCを併用しても効果がなかったのは,細胞膜内外でのVEとVC濃度バランスが釣り合わず,ラジカルが速やかに細胞外へ排泄されなかったことが原因と考えられる.8-OHdG免疫染色は270nm照射でも増加したことから,紫外線照射によるLEC傷害にはDNA傷害だけでなく酸化ストレスが関与していることが考えられ,EPC-K1はこれを抑制した.紫外線照射によりLECではb-crystallin6)やNADPH-oxidase23)を介してROSが生じ,deoxiguanosineと反応して8-OHdGになる24).8-OHdGは蛋白質の産生や分化・誘導に異常を生じ,白内障の一因となる可能性がある.EPC-K1は紫外線照射により増加する8-OHdGを照射後の添加により抑制したことより,EPC-K1は細胞内でROSを消去していることが明らかとなった.今回の結果では照射6時間後に8-OHdGは270nm照射に比べ310nm照射により核外に流出していた.細胞膜や核膜には310nm照射エネルギーにより励起される蛋白質が存在し,270nm照射よりもより多くのROSが生じ,連鎖的膜脂質過酸化反応の結果かもしれない.白内障水晶体から発見された2-ammonio-6-(3-oxidopyridinium-1-yl)hexanoate(OP-lysine)はpH7で214,249,320nmに吸収のピークをもつ蛋白質である25).今回用いたLECにOP-lysineが存在するかは明らかではないが,310nm照射により励起する可能性は高く,270nm照射よりも速く光化学反応が惹起されたと考えられる.庄子らはUV-B照射によるLEC中DNA傷害(ストランドブレイク)にはFenton反応が関与していると報告している26).EPC-K1はCu2+やFe2+のキレート剤としてFenton反応を抑制する27)作用もあることから,今回の実験では8-OHdG生成を阻害するだけでなく,DNAストランドブレイクを制御し,LEC傷害を抑制する可能性もあることが示唆された.本来,紫外線による水晶体DNA傷害はDNA修復機構により修復される28)が,修復能を上回る傷害が生じた場合,または細胞内抗酸化物質または酵素活性を上回る酸化ストレスが生じた場合に細胞傷害,消失,構造変化が生じ,皮質混濁,白内障へと進展する.以上の結果から,EPC-K1は水晶体の紫外線傷害を抑制する可能性が示唆された.しかし,0.3mMEPC-K1添加ではLEC細胞数が非照射より増加していたことから,EPC-K1の作用機序についてはさらなる検討が必要と考えられる.謝辞:本研究をお手伝いいただいた小澤江美さんにお礼申し上げます.文献1)TaylorHR,WestSK,RosenthalFSetal:E.ectofultra-violetradiationoncataractformation.NEnglJMed31:1429-1433,19882)SpectorA,GarnerWH:Hydrogenperoxideandhumancataract.ExpEyeRes33:673-681,19813)MuranovKO,MaloletkinaOI,PolianskyNBetal:Mecha-nismofaggregationofUV-irradiatedbL-crystallin.ExpEyeRes92:76-86,20114)BoettnerA,WolterJR:Transmissionoftheocularmedia.InvestOphthalmol1:776-783,19625)HightowerKR,ReddanJR,McCreadyJPetal:Lensepi-thelium:AprimarytargetofUVBirradiation.ExpEyeRes59:557-564,19946)AndleyUP,ClarkBA:Thee.ectsofnear-UVradiationonhumanlensb-crystallins:proteinstructuralchangesandproductionofO2.andH2O2.PhotochemPhotoboil50:97-105,19897)FreemanBA,CrapoJD:Biologyofdisease:freeradicalsandtissueinjury.LabInvest47:412-426,19828)ChowCK,TappelAL:Anenzymaticprotectivemecha-nismagainstlipidperoxidationdamagetolungsofozone-exposedrats.Lipids7:518-524,19729)LeeYA,ChoEJ,YokozawaT:Protectivee.ectofper-simmon(Diospyroskaki)peelproanthocyanidinagainstoxidativedamageunderH2O2-inducedcellularsenes-cence.BiolPharmBull31:1265-1269,200810)ZhangY,OuYangS,ZhangLetal:Oxygen-inducedchangesinmitochondrialDNAandDNArepairenzymesinagingratlens.MechAgeingDev131:666-673,201011)GrageCG,ShigenagaMK,ParkJWetal:Oxidativedam-agetoDANduringaging:8-hydroxy-2¢-deoxyguanosineinratorganDNAandurine.ProcNatlAcadSciUSA87:4533-4537,199012)HamiltonML,VanRemmenH,DrakeJAetal:Doesoxi-dativedamagetoDNAincreasewithage?ProcNatlAcadSciUSA98:10469-10474,200113)WeiT,ChenC,LiFetal:AntioxidantpropertiesofEPC-K1:astudyonmechanisms.BiophysChem77:153-160,199914)UedaT,UedaT,ArmstrongD:Preventivee.ectofnatu-ralandsyntheticantioxidantsonlipidperoxidationinthemammalianeye.OphthalmalRes28:184-192,199615)KuribayashiY,YoshidaK,SakaueTetal:Invitrostud-iesonthein.uenceofL-ascorbicacid2-[3,4-dihydro-2,(133)あたらしい眼科Vol.29,No.2,20122815,7,8-tetramethyl-2-(4,8,12-trimethyltridecyl)-2H-l-benzopyran-6-yl-hydrogenphosphate]potassiumsaltonlipidperoxidationandphospholipaseA2activity.Arzneim-ittelforschung42:1072-1074,199216)GallagherPE,WeissRB,BrentTPetal:WeavelengthdependenceofDNAincisionbyahumanultravioletendo-nuclease.PhotochemPhotobiol49:363-367,198917)FooteCS:Photoxidationofbiologicalmodelcompounds.OxygenandOxy-RadicalsinChemistryandBiology(edbyRodgersMAJ,PowersEL),p425-439,AcademicPress,NewYork,198118)FooteCS:De.nitionofTypeIandTypeIIphotosensi-tizedoxidation.PhotochemPhtobiol54:659,199119)NikiE,NoguchiN,TsuchihashiHetal:InteractionamongvitaminC,vitaminE,andb-carotene.AmJClinNutr62:1322S-1326S,199520)ZhangWR,HayashiT,SasakiCetal:Attenuationofoxi-dativeDNAdamagewithanovelantioxidantEPC-K1inratbrainneuronalcellsaftertransientmiddlecerebralarteyocclusion.NeurolRes23:676-680,200121)KatoN,YanakaK,NagaseSetal:TheantioxidantEPC-K1amelioratesbraininjurybyinhibitinglipidperoxida-tioninaratmodeloftransientfocalcerebralischaemia.ActaNeurochir145:489-493,200322)YamamotoS,HagiwaraS,HidakaSetal:Theantioxi-dantEPC-K1attenuatesrenalischemia-reperfusioninju-ryinaratmodel.AmJNephrol33:485-490,201123)YaoJ,LiuY,WangXetal:UVBradiationinduceshumanlensepithelialcellmigrationviaNADPHoxidase-mediatedgenerationofreactiveoxygenspeciesandup-regulationofmatrixmetalloproteinases.IntJMolMed24:153-159,200924)KasaiH,NishimuraS:Hydroxylationofguanineinnucle-osidesandDNAattheC-8positionbyheatedglucoseandoxygenradical-formingagents.EnvironHealthPer-spect67:111-116,198625)ArgirovOK,LinB,OrtwerthBJ:2-Ammonio-6-(3-oxi-dopyridinium-1-yl)hexanoate(OP-lysine)isanewlyidenti.edadvancedglycationendproductincataractousandagedhumanlenses.JBiolChem279:6487-6495,200426)庄子英一:紫外線が水晶体上皮細胞DNAに与える影響およびその機序.日眼会誌101:40-45,199727)TomitaR,KashimaM,TsujimotoY:CharacterizationoftheactivityofL-ascorbicacid2-[3,4-dihydro-2,5,7,8-tetramethyl-2-(4,8,12-trimethyltridecyl)-2H-benzopy-ran-6-yl-hydrogenphosphate]potassiumsaltinhydroxylradicalelimination.ChemPharmBull48:330-333,200028)AndleyUP,SongX,MitchellDL:DNArepairandsur-vivalinhumanlensepithelialcellswithextendedlifespan.CurrEyeRes18:224-230,1999***