《第25回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科32(7):1013.1016,2015c開放隅角緑内障における4種の視神経乳頭形態の判定について新家眞*1山本哲也*2桑山泰明*3岩瀬愛子*4*1公立学校共済組合関東中央病院*2岐阜大学医学部眼科学教室*3福島アイクリニック*4たじみ岩瀬眼科ReproducibilityofClassificationofOpticDiscMorphologyofOpen-AngleGlaucomainto4DistinctPatternsMakotoAraie1),TetsuyaYamamoto2),YasuakiKuwayama3)andAikoIwase4)1)KantoCentralHospitalofTheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers,2)DepartmentofOphthalmology,GifuUniversityGraduateSchoolofMedicine,3)FukushimaEyeClinic,4)TajimiIwaseEyeClinic目的:開放隅角緑内障(OAG)における視神経乳頭形態4型〔focalglaucomatousdisctype(FG),myopicglaucomatousdisctype(MG),generalizedenlargementofcuptype(GE),senilescleroticdisctype(SS)〕判定の再現性を検討する.対象および方法:良好なステレオ視神経乳頭写真の得られた無作為に抽出したOAG50例50眼の視神経乳頭形態4型を4名の検者が独立に2度2.4週間の間隔を置いて判定し,検者間,および検者内における4型判定の再現性のk係数を算出する.結果:FG,MG,GE,SSおよびその他の5カテゴリーで検討した結果,k値は,検者間(1度目および2度目),検者内でそれぞれ,0.48,0.47,および0.65.0.84だった.4名の判定が全員一致したもののみを最終判定とした場合のk値は0.93だった.結論:開放隅角緑内障における視神経乳頭形態4型の判定は4名で行いその全員一致をもって最終判定とするのが望ましい.Purpose:Tostudyreproducibilityofclassificationoftheoptic-discmorphologyofopen-angleglaucoma(OAG)eyesinto4distinctpatterns:1)focalglaucomatous(FG)disctype,2)myopicglaucomatous(MG)disctype,3)generalizedenlargement(GE)ofcuptype,and4)senilesclerotic(SS)disctype.SubjectsandMethods:Stereo-fundusphotographsofreasonablequalitywereobtainedof50eyesof50OAGpatients(meanage:65.6years)withameandeviationvalueof.6.5dB.FourindependentexaminersthenclassifiedtheopticdiscmorphologyintoeitherFG,MG,GE,SS,orotherstwotimesatintervalsof2-4weeksbasedonthephotographs,andinter-examinerandintra-examinerreproducibilityoftheclassificationwereevaluatedbymeansofkcoefficient.Results:Inter-examinerreproducibilitywasmoderate(k=0.47.0.48),whileintra-examinerreproducibilitywassubstantial(k=0.65.0.84).Reproducibilityoftheclassificationwasfoundtobeexcellent(k=0.93)whenitwasbasedontheagreementofall4examiners.Conclusions:Reproducibilityoftheclassificationoftheoptic-discmorphologyofOAGeyesintoFG,MG,GE,andSStypeswasexcellentwhenbasedontheagreementof4independentexaminers.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(7):1013.1016,2015〕Keywords:focalglaucomatousdisc型,myopicglaucomatousdisc型,generalizedenlargementofcup型,senilescleroticdisc型,再現性.focalglaucomatousdisctype,myopicglaucomatousdisctype,generalizedenlargementofcuptype,senilescleroticdisctype,reproducibility.はじめにenlargementofcup型(GE),senilescleroticdisc型(SS)緑内障の視神経乳頭の形態を4種類に分けて検討することの4型であり1.3),それぞれが特徴的な臨床像および予後をが提唱されている.すなわち,focalglaucomatousdisc型呈するとされ4.12),緑内障研究上有用な分類手法であるとさ(FG),myopicglaucomatousdisc型(MG),generalizedれている13).しかし,FG,MG,GE,SSの判定はあくまで〔別刷請求先〕新家眞:〒158-8531東京都世田谷区上用賀6-25-1公立学校共済組合関東中央病院Reprintrequests:MakotoAraie,M.D.,Ph.D.,KantoCentralHospitalofTheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers,6-25-1Kamiyouga,Setagaya-ku,Tokyo158-8531,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(91)1013眼底写真を見ての各研究者の主観的な判断によっており,判定次第で研究結果が左右される可能性がある.また誰が見ても明らかな典型例は一つの研究では検討された全眼中の10%以下にすぎなかったとの報告もある2).欧米人での眼底写真判定では,検者間の判定結果の一致率はk値が0.36.0.46,同一検者内での判定の再現性のk値も0.51.0.85と決して良いとはいえないと報告されている14).一方,日本人の眼底写真に関しては,FG,MG,GE,SS判定の一致性を検討した報告はなく,またどのような判定法をとれば十分な再現性をもってFG,MG,GE,SSと分類されうるかという検討もなされていない.今回筆者らは多治見・久米島スタディで発見された緑内障患者の視神経乳頭形態を判定するに先立って,FG,MG,GE,SS分類の検者間一致性,検者内再現性を検討したのでここに報告する.I対象および方法対象はたじみ岩瀬眼科通院中の眼底および視野所見,経過より開放隅角緑内障診断が確定しており,かつ良好なステレオ眼底写真が得られている例より無作為に選択された50例50眼で,年齢は65.6±7.3歳〔平均±standarddeviation(SD)〕,Humphrey視野計30-2または24-2SITA-Sプログラム(CarlZeissMeditec.Dublin,CA)によるmeandevi-ation(MD)値は.6.5±5.7dB,屈折は.2.0±4.5dioptersであった.50眼を4名の検者(M.A.,T.Y.,Y.K.,A.I.)が独立に2.4週間の間隔を置いて日を変えて2度,FG:局所的なrim欠損かつ他部位のrimはほぼ正常と考えられる;FocalglaucomatousdiscMyopicglaucomatousdiscGeneralizedenlargementofcupSenilescleroticdiscMG:視神経乳頭にtiltがあり,かつ全体的な耳.下側のrimの狭小化かつ耳側のperipapillaryatrophy(PPA)がはっきりしている;GI:全体的に一様なrim幅感小(cupping拡大)かつ局所的rim欠損がなくPPAは顕著でない;SS:皿状のcuppingかつrimの全体的色調退色があり,PPAの面積および乳頭周囲における範囲が大きい(図1),という規準2,3)をもって以下の8型に判定した.すなわち1)典型的FG,2)典型的MG,3)典型的GE,4)典型的SS,5)上記いずれかが混在している,6)上記いずれかの非典型例,7)あまりに進行しており元々いずれの乳頭形態だったか判定不能,8)1).7)のいずれにも当てはまらない,である.そのうえで5).8)をすべてFG,MG,GE,SSのいずれにも当てはまらない,すなわちその他群と分類し,その5分類における一致性を4検者間(1度目),4検者間(2度目)では繰り返し3回以上のk係数で,および各検者内の再現性(1度目と2度目)を繰り返し2回のk係数として算出した15,16).II結果各検者内での再現性のk係数値は0.65(95%信頼区間:0.45.0.85).0.87(同:0.76.0.96)であった(表1).典型的FG,GE,MGないしはSSと判定された割合は各検者で40.76%(平均62%)であった.一方,4名の検者間のk係数値は0.48(95%信頼区間:0.42.0.54)(1度目)および表1緑内障視神経乳頭4型への判定の検者内再現性全50例中2回の判定が一致した例数検者k値FGGEMGSSO不一致検者10.84(0.70.0.98)18511466検者20.65(0.45.0.85)137101613検者30.87(0.76.0.96)9380264検者40.76(0.59.0.93)1689179k値(95%信頼区間).FG:典型的focalglaucomatousdisc型,GE:典型的generalizedenlargementofcup型,MG:典型的myopicglaucomatousdisc型,SS:典型的senilescleroticdisc型,O:上記FG,GE,MG,SSのいずれかの混在,上記いずれかの非典型例,あまりに進行しており元々いずれの乳頭形態だったか判定不能,およびそれらのいずれにも当てはまらないと判定された例.不一致:各々の検者で1回目と2回目の判定が異なった例.表2緑内障視神経乳頭4型への判定の検者間および判定が検者間で一致した場合の再現性条件再現性4検者間k=0.48(95%信頼区間:0.42.0.54).0.47(95%信頼区間:0.40.0.53)3/4一致k=0.80(95%信頼区間:0.66.0.94)4/4一致k=0.93(95%信頼区間:0.84.1.00)図1開放隅角緑内障における視神経乳頭形態4型1014あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015(92)0.47(同:0.40.0.53)(2度目)であり,また4名中3名での一致をして最終判定とし分類した場合の1度目と2度目間の再現性のk係数値は0.80(同:0.66.0.94),同4名全員の判定が一致して最終判定とした場合の再現性のk係数値は0.93(同:0.84.1.00)であった(表2).なお,4検者中3検者の一致を最終判定とした場合,FG,MG,GE,SSと判定されたものは各々8/50,8/50,3/50および0/50であり,38%がFG,MG,GEまたはSSのいずれかに分類され,同4検者全員の一致を最終判定とした場合,FG,MG,GE,SSと判定されたものは各々7/50,8/50,1/50,0/50であり,32%がFG,MG,GEまたはSSのいずれかに分類されていた.III考按今回の4名の検者間でFG,MG,GE,SSへの分類の一致性はFleissのk係数で0.47.0.48,同検査内の再現性Cohenのk係数で0.65.0.87と,欧米人眼での報告14)とほぼ一致していた.k係数0.4.0.6がmoderateな一致性(再現性),同0.6.0.8がsubstantialな一致性(再現性),同0.8以上でexcellentな一致性(再現性)と解釈されている.すなわち個々の検者間での一致性はmoderateないしは一応の一致性はある(まったくばらばらではない)というレベルであり,一人の検者の判定をもって視神経乳頭4形態を論じるのは無理であるということが今回の結果よりも確認されたと考える.一方3/4が一致していればその判定の再現性はsubstantial.excellent(良好.優れた再現性)となり,さらに4/4一致をもってすればその判定の再現性はexcellent(優れた再現性)となった.今回は5名以上の検者間での再現性は検討していないが,当然5名の一致ではさらに再現性は上がると考えられる.3名の一致での再現性が0.80であることより,少なくとも3名,できれば4名での判定を行い3/4ないしは全員の一致をもってしなければk係数はexcellentの域に達し得ず科学として緑内障の視神経乳頭を4型(FG,MG,GE,SS)に分類し,それに関連する諸因子を論じようとするのであれば,少なくとも4名の検者全員一致をもってしないと,その結果に普遍性をもたせることはむずかしいと考えられる.今回3または4検者の判定の一致をもって最終判定とした場合,38.32%の眼が典型的FG,GE,MG,SSのいずれかに分類されたが,この結果は3検者の判定一致で35%の眼が上記いずれかの典型例に分類されたとする欧米での報告とよく一致していた14).個々の検者でのこの割合は今回の場合平均約60%であったが,この乖離は現実にはFG,GE,MG,SSいずれかの要素が混在していると考えられる例が比較的多く,どの基準でもって上記いずれかの典型例とするかまたは混在例とするかの一定の基準を客観的に定(93)めることが,個々の検査者の主観的判断に頼る方法ではむずかしかったためと考えられる.文献的にはMGが近視に多いのは当然として,FGとSSでは進行速度が違う.GEでは無治療時眼圧が高いなどの眼所見のみならず全身所見の違いなど多くの興味ある知見4.12)が報告されている.最近の進歩した画像解析の結果と組み合わせることにより,さらに緑内障の病態に関する興味ある知見が得られると予想されるが,そのような研究を企画するにあたっては今回の結果が有用であると考えられる.IV結論緑内障視神経乳頭形態の4型(FG,MG,GE,SS)への分類は,4名の独立した検者の判定一致をもって最終分類すれば,k係数=0.93と優れた再現性が得られる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SpaethGL:Anewclassificationofglaucomaincludingfocalglaucoma.SurvOphthalmol38[Suppl,May]:S9-S17,19942)NicoleleMT,DranceSM:Variousglaucomatousopticnerveappearances.Ophthalmology103:640-649,19963)BroadwayDG,NicolelaMT,DranceSM:Opticdiskappearancesinprimaryopen-angleglaucoma.SurvOphthalmol43[Suppl1]:S223-S243,19994)GeijssenHC,GreveEL:ThespectrumofprimaryopenangleglaucomaI:senilescleroticglaucomaversushightensionglaucoma.OphthalmicSurg18:207-213,19875)GeijssenHC,GreveEL:Focalischaemicnormalpressureglaucomaversushighpressureglaucoma.DocOphthalmol75:291-302,19906)NicolelaMT,WalmanBE,BuckleyARetal:Variousglaucomatousopticnerveappearances.Ophthalmology103:1670-1679,19967)YamazakiY,HayamizuF,MiyamotoSetal:Opticdiscfindingsinnormaltensionglaucoma.JpnJOphthalmol41:260-267,19978)BroadwayDC,DranceSM:Galucomaandvasospasm.BrJOphthalmol82:862-870,19989)NicolelaMT,McCormickTA,DranceSMetal:Visualfieldandopticdiscprogressioninpatientswithdifferenttypesofopticdiscdamage.Ophthalmology110:21782184,200310)RobertsKF,ArtesPH,O’LearyNetal:Peripapillarychoroidalthicknessinhealthycontrolsandpatientswithfocal,diffuse,andscleroticglaucomatousopticdiscdamage.ArchOphthalmol130:980-986,201211)ReisASC,ArtesPH,BelliveauACetal:Ratesofchangeinthevisualfieldandopticdiscinpatientswithdistinctpatternsofglaucomatousopticdiscdamage.Ophthalmoloあたらしい眼科Vol.32,No.7,20151015gy119:294-303,201212)SchorKS,DeMoraesCG,TengCCetal:Ratesofvisualfieldprogressionindistinctopticdiscphenotypes.ClinExperimentOphthalmol40:706-712,201213)NakazawaT,ShimuraM,RyuMetal:Progressionofvisualfielddefectsineyeswithdifferentopticdiscappearancesinpatientswithnormaltensionglaucoma.JGlaucoma21:426-430,201214)NicolelaMT,DranceSM,BroadwayDCetal:Agreementamongcliniciansintherecognitionofpatternsofopticdiskdamageinglaucoma.AmJOphthalmol132:836844,200115)SKETCH研究会統計分科会:k係数に関する統計的推測.臨床データの信頼性と妥当性(楠正監修).p174-194,サイエンティスト社,200516)対馬栄輝:理学療法の研究における信頼係数の適応について.理学療法学17:181-187,2002***1016あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015(94)