《第46回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科30(11):1605.1609,2013cアレンドロネートを内服したステロイド薬全身投与ぶどう膜炎患者の骨密度変化八幡健児大黒伸行大阪厚生年金病院眼科ChangeinBoneDensityafterAlendronateAdministrationinUveitisPatientsReceivingSystemicSteroidKenjiYawataandNobuyukiOguroDepartmentofOphthalmology,OsakaKoseinenkinHospital目的:ステロイド薬全身投与を行ったぶどう膜炎患者へのアレンドロネートの骨密度への効果を検討する.対象および方法:対象はステロイド薬全身療法とアレンドロネート投与が同時期に開始されていたぶどう膜炎患者19例.治療期間中に腰椎・大腿骨頸部の骨密度を計測し変化率を調べ,さらに性別・ステロイド薬1日平均投与量・ステロイドパルス治療の有無と骨密度変化率の関連を後ろ向きに検討した.結果:約半年間の経過観察期間では骨密度はほぼ維持されていた.骨密度変化率への上記各検討項目の影響はみられなかった.結論:アレンドロネート投与により短期的にはステロイド薬投与ぶどう膜炎患者の骨密度は維持された.眼科領域においてもステロイド薬全身投与症例には骨粗鬆症の定期精査と治療が必要である.Purpose:Toestimatetheinfluenceofalendronateonbonedensitiesofuveitispatientsconcomitantlyreceivingsystemicsteroid.Subjectsandmethods:Reviewdwere19uveitispatientsconcurrentlyreceivingbothsystemicsteroidandalendronate.Duringthetreatmentperiod,lumbarandfemoralheadbonedensitiesweremeasuredandfollowedperiodically.Therelevanceofsex,meandoseofdailysteroid,andpresenceofpulsetherapytorateofchangewascheckedretrospectively.Results:During6monthsofobservation,patients’bonedensitieswerevirtuallymaintained.Rateofchangewasnotinfluencedundertheestimationitemsinthisstudy.Conclusions:Onashort-termbasis,alendronateadministrationmaintainedthebonedensitiesofpatientswithuveitiswhowerebeingtreatedwithsystemicsteroid.Ophthalmologistsmustbeawareoftheneedforroutinebonedensitychecksandpremedicationbeforeandduringsystemicsteroidadministration.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(11):1605.1609,2013〕Keywords:ステロイド性骨粗鬆症,ぶどう膜炎,アレンドロネート.glucocorticoid-inducedosteoporosis,uveitis,alendronate.はじめにステロイド薬はその強力な抗炎症抗免疫作用のためさまざまな疾患の治療に用いられ,眼疾患においても時にステロイド薬全身療法が選択される.特にぶどう膜炎疾患においてはしばしば長期にわたっての使用が必要な場合があり,骨粗鬆症と骨粗鬆症に起因する骨折は看過できない重大な副作用の一つである.報告によるとステロイド薬長期使用者の50%に骨粗鬆症が発症し1),約25%が骨折するとされる2).ステロイド性骨粗鬆症への対応の重要性から欧米では1996年にステロイド性骨粗鬆症管理ガイドラインが公表され,わが国でも1998年に骨粗鬆症の治療(薬物療法)に関する指針3),ついで2004年にステロイド性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン4)が作成された.ガイドラインにおいてはステロイド性骨粗鬆症の治療開始基準と治療法が骨粗鬆症専門医以外にも理解しやすいようにフローチャート式で明快に記されている.〔別刷請求先〕八幡健児:〒553-0003大阪市福島区福島4-2-78大阪厚生年金病院眼科Reprintrequests:KenjiYawata,DepartmentofOphthalmology,OsakaKoseinenkinHospital,4-2-78Fukushima,Fukushima-ku,Osaka553-0003,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(113)1605ステロイド性骨粗鬆症への薬物療法はビスフォスフォネー1.5p=0.03ト剤が第一選択薬として推奨されているが,その効果に関する報告は膠原病など他科疾患では多数みられるが眼科疾患においては筆者らが調べた限りで1報5)のみである.本研究で1.3)は大阪厚生年金病院にてステロイド薬全身投与を行ったぶど骨密度(g/cm21.1う膜炎患者への第二世代ビスフォスフォネート剤アレンドロネートの骨密度への効果を検討した.0.9I対象および方法2010年7月1日から2012年1月30日に大阪厚生年金病0.7院眼科でステロイド薬全身投与とアレンドロネート35mg/週が同時期に開始されていた19例,男性10例,女性9例,年齢23.70歳(平均42歳)を対象とした.原因疾患の内訳は,汎ぶどう膜炎9例,原田病5例,急性前部ぶどう膜炎1例,サルコイドーシス1例,眼トキソプラズマ症1例,Behcet病類縁疾患1例,punctateinnerchoroidopathy1例であった.骨密度は腰椎・大腿骨頸部に躯幹骨二重エックス線吸収法(dualenergyX-rayabsorptiometry:DXA法)で計測し,初回計測はステロイド投与開始から平均22.8±15.9日後,0.5初回計測第2回計測図1アレンドロネート投与下の腰椎骨密度変化1.2NS1)の管理と治療ガイドラインに従い,アレンドロネート35mg/週を全身ステロイド投与と同時期に開始し継続した.補助療法としての活性型ビタミンD3,K2などの投与は行って0.4いない.初回計測第2回計測統計解析は初回から第2回の骨密度の変化率については図2アレンドロネート投与下の大腿骨頸部骨密度変化pairedt-test,骨密度変化率の群別比較ではunpairedt-testを用い検討した.本研究において患者データの使用については患者本人に文2.0第2回計測は初回から平均185.7±49.3日後に行われた.初回から第2回計測の骨密度変化率と,それに対する性別・ステロイド薬1日平均投与量・ステロイドパルス治療の有無との関連を後ろ向きに検討した.ステロイド薬1日平均投与量については10mgで2群に分け比較した.アレンドロネート投与の適応基準はステロイド性骨粗鬆症骨密度(g/cm20.80.6書での同意を得ている.II結果初回から第2回骨密度計測の期間に使用されていた1日平骨密度変化率(%)1.0均ステロイド薬投与量は6.8.55.9mg/日(平均14.78mg/日),ステロイド薬投与総量は980.3,647.5mg(平均2,475.6mg)であった(いずれもプレドニゾロン換算).そのうち,ステロイドパルス施行例が4例含まれている.また,アレンドロネートの投与はステロイド薬全身療法開始日から2±3.5日後に開始されていた.0.0腰椎+1.2+0.2(Mean±SE)大腿骨ステロイド薬投与患者におけるアレンドロネート投与下の図3アレンドロネート投与6カ月後の腰椎および骨密度の初回計測と第2回計測の平均値はそれぞれ腰椎で大腿骨頸部骨密度変化率1606あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(114)表1アレンドロネート投与6カ月後の骨密度変化率への各項目の影響腰椎変化率大腿骨変化率nMean±SE(%)p値Mean±SE(%)p値性別女性男性9101.48±0.811.04±0.980.740.71±1.75.0.33±1.510.66ステロイド1日平均投与量10mg未満10mg以上514.0.04±0.95.2.15±0.740.231.70±0.760.99±1.450.23ステロイドパルスパルス無パルス有1540.96±0.732.33±1.190.39.0.29±1.221.87±2.940.45いずれの項目においても有意差はみられなかった.0.99±0.03g/cm2,1.01±0.03g/cm2(p=0.03),大腿骨頸部で0.73±0.03g/cm2,0.73±0.03g/cm2(p=0.46)と腰椎において有意な増加,大腿骨では有意差がみられなかった(図1,2).これを変化率で表すと腰椎がプラス1.2±2.7%,大腿骨がプラス0.2±4.9%と約半年間の経過観察期間では骨密度はほぼ維持されていた(図3).アレンドロネート投与下の骨密度変化率と性別,ステロイド薬1日平均投与量(<10mg≦),ステロイドパルス治療の有無の関連について検討したが,それぞれ有意な差はみられなかった(表1).また,ステロイド薬1日平均投与量については15mg,20mgで2群に割り付けた場合も調べたが,いずれの場合においても有意差はみられなかった(非表示データ).III考按ステロイド性骨粗鬆症へのビスフォスフォネートの骨折抑制効果は無作為対象比較試験でのエビデンスによると椎体骨折を40.90%抑制するとされている6.8).また,骨密度変化では12カ月後の腰椎骨密度変化率はSaagら7)がプラセボ+0.2%,治療群+2.5%,Adachiら8)がプラセボ.0.77%,治療群+2.8.+3.7%と,ビスフォスフォネートによるステロイド性骨粗鬆症への骨量減少阻止効果が確認されている.眼科領域でのステロイド性骨粗鬆症へのビスフォスフォネートの効果の報告は池田らの報告5)があり,全身ステロイド薬投与の25例(ぶどう膜炎24名,視神経炎1名)をアレンドロネート投与群,活性型ビタミンD3製剤アルファカルシドール投与群の2群に無作為割り付けし,アレンドロネート群は9カ月後の骨密度はほぼ維持,アルファカルシドール群では骨密度減少がみられている.今回の研究においてもステロイド薬全身投与ぶどう膜炎患者におけるアレンドロネート使用6カ月後の骨密度量は腰椎+1.2%,大腿骨+0.2%と薬剤投与前後でほぼ同等量に維持され,既報と同様の結果が得られた.本研究は後ろ向き研究であるためステロイド薬使用の自(115)然経過との骨密度変化の差は不明だが,少なくとも骨密度減少はみられなかった.ステロイド性骨粗鬆症における新規脊椎圧迫骨折に及ぼす有意な因子は年齢の増加,既骨折の存在,骨塩量の低値,男性であるとされる9).また,ステロイド薬の1日の投与量は骨折リスクと相関する10).このような骨折リスクの高いケースでは予防治療の必要性がより高まると考えられる.本研究においてアレンドロネート投与下の骨密度変化率と性別・ステロイド薬1日平均投与量・ステロイドパルス治療の有無の各項との関連についてはいずれにおいても差はみられず,高骨折リスク症例に対しても骨密度に関してはアレンドロネートによる減少抑制効果がみられた可能性がある.骨粗鬆症は骨強度の低下を特徴とし骨折のリスクが増大した病態である.また,骨強度は骨密度に加えて骨質により決定される.概念的に骨強度は骨密度70%,骨質30%で構成されると定義され,骨密度は骨粗鬆症における骨折リスクの主要な因子である.ステロイド薬は骨形成の低下と骨吸収の亢進によって骨密度と骨質を低下させ,結果としてステロイド性骨粗鬆症が生じる.ただし,骨密度は骨塩量として測定可能だが,骨質は骨の微細構造,代謝回転,石灰化度,マトリックスの質などの総和と考えられており,これを臨床の場で評価するのはむずかしい.今回のステロイド薬投与ぶどう膜炎患者へのアレンドロネートの効果の検討は,ステロイド性骨粗鬆症の骨強度における骨密度のみを評価したものと位置づけられる.わが国のステロイド性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン4)では骨折リスクへの影響の大きい順に治療開始の基準が規定されている.経口ステロイド薬を3カ月以上使用する患者が対象とされ,①すでに脆弱性骨折があるまたは治療中に骨折がある,②骨密度が低下している,③5mg/日以上のステロイド薬投与がある,のいずれかに該当する場合一般的指導と薬物治療が推奨されている.一般的指導とは,生活指導,栄養指導,運動療法を指し,経過観察は骨密度測定と胸あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131607腰椎X線撮影を定期的(6カ月.1年ごと)に行うとされる.薬物治療はビスフォスフォネートが第一選択薬,活性型ビタミンD3,K2が第2選択薬にあげられている(上記ガイドライン4)は医療情報サービスMindshttp://minds.jcqhc.or.jp/n/med/4/med0046/G0000129/0046で確認できる).ただし,ステロイド性骨粗鬆症は骨折リスクが高く,治療が行われ骨密度が維持されていても将来の骨折発生を完全に予防できるわけではないことに注意が必要である.また,ステロイド薬の骨への影響は投与開始後3カ月以内に始まり6カ月でピークとなる1)ため,ビスフォスフォネートの治療開始時期はステロイド薬開始後早期が望ましい.ビスフォスフォネート剤の副作用として顎骨壊死が近年注目されている.その発症頻度は低いながらも重篤で,現在のところ病態が十分解明されておらず予防法についても十分な知見が集積されていない.ビスフォスフォネート製剤に関連した顎骨壊死に関するポジションペーパー11)によれば,データベースに基づく推計で経口ビスフォスフォネート服用者における発生頻度は0.85/10万人/年である.一方,ステロイド薬長期投与患者の約25%が骨折2)の不利益を被り,リスクベネフィットの観点からはベネフィットが勝り現時点では骨折リスクの高い症例では積極的なビスフォスフォネート剤の使用が推奨されるという整形外科領域からの意見12)もある.現時点では高齢者が骨折した場合に臥床からの回復が困難であることも考え合わせると副作用の説明を十分にしたうえでビスフォスフォネート剤を投与するほうが望ましいと思われる.前述のようにステロイド性骨粗鬆症はステロイド薬使用における頻度の高い副作用であるが,残念ながら他の副作用に比べると注意が払われていないケースが散見される.紅林らが2003年に大学病院の全診療科に行ったステロイド薬合併症のアンケート調査13)では糖尿病のスクリーニング検査は92.5%が行われていたものの,骨粗鬆症の検査は47.8%のみの施行であった.こういった情勢に対し2004年に策定されたステロイド性骨粗鬆症の管理と治療のガイドラインはステロイド性骨粗鬆症の予防と治療の啓蒙に重要な役割を果たしており,その例として皮膚科領域でのステロイド薬投与患者に対しての骨粗鬆症治療のアンケート調査がある.2001年の皮膚科医218名へのアンケート14)では,ステロイド性骨粗鬆症の定期精査が14.2%に行われていたが,2005年のガイドライン公表を経て,第2報として2007年の皮膚科医211名へのアンケート15)では定期精査が21.8%と大幅な上昇がみられた.これに類した眼科領域での調査はなされておらず現況は不明だが,一部を除き多くの眼科医のステロイド性骨粗鬆症への意識はおそらく低いと思われる.眼科領域においてもステロイド薬投与患者にはガイドラインに準じた骨密度の定期的な測定と骨粗鬆症予防治療が推奨される.1608あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013おわりに半年間の経過観察期間ではアレンドロネート投与によりステロイド薬投与ぶどう膜炎患者の骨密度は維持されていた.ただし,本研究では対照群をおいていないためにその臨床的有効性についてはさらなる検討が必要である.眼科領域においてもステロイド薬全身投与症例にはステロイド性骨粗鬆症ガイドラインに準じた定期精査と治療が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)LaneNE,LukertB:Thescienceandtherapyofglucocorticoid-inducedboneloss.EndocrinolMetabClinNorthAm27:465-483,19982)ACRtaskforceonosteoporosisguidelines:Recommendationsforthepreventionandtreatmentofglucocorticoidinducedosteoporosis.ArthritisRheum39:1791-1801,19963)折茂肇,山本逸雄,太田博明ほか:骨粗鬆症の治療(薬物療法)に関するガイドライン.OsteoporosisJpn6:205253,19984)TheSubcommitteetoStudyDiagnosticCriteriaforGlucocorticoid-InducedOsteoporosis:Guidelinesonthemanagementandtreatmentofglucocorticoid-inducedosteoporosisoftheJapaneseSocietyforBoneandMineralRe-search(2004).JBoneMinerMetab23:105-109,20055)池田光正,福田寛二,浜西千秋ほか:ステロイド性骨粗鬆症への取り組み.OsteoporosisJpn14:558-561,20066)SatoS,OhosoneY,SuwaAetal:EffectofintermittentcyclicaletidronatetherapyoncorticosteroidinducedosteoporosisinJapanesepatientswithconnectivetissuedisease:3yearfollowup.JRheumatol30:2673-2679,20037)SaagKG,EmkeyR,SchnitzerTJetal:Alendronateforthepreventionandtreatmentofglucocorticoid-inducedosteoporosis.NEnglJMed339:292-299,19988)AdachiJD,SaagKG,DelmasPDetal:Two-yeareffectsofalendronateonbonemineraldensityandvertebralfractureinpatientsreceivingglucocorticoids.ArthritisRheum44:202-211,20019)田中郁子,大島久二:ステロイド性骨粗鬆症の診断と治療に関する縦断研究.OsteoporosisJpn11:11-14,200310)VanStaaTP,LeufkensHG,CooperC:Theepidemiologyofcorticosteroid-inducedosteoporosis:ameta-analysis.OsteoporosInt13:777-787,200211)YonedaT,HaginoH,SugimotoTetal:Bisphosphonaterelatedosteonecrosisofthejaw:positionpaperfromtheAlliedTaskForceCommitteeofJapaneseSocietyforBoneandMineralResearch,JapanOsteoporosisSociety,JapaneseSocietyofPeriodontology,JapaneseSocietyforOralandMaxillofacialRadiology,andJapaneseSocietyofOralandMaxillofacialSurgeons.JBoneMinerMetab28:(116)365-383,201014)古川福実,池田高治,瀧川雅浩ほか:皮膚科領域における12)宗圓聰:ビスフォスフォネート製剤の功罪.骨粗鬆症治ステロイド使用とステロイド骨粗鬆症に対する予防的治療療10:186-191,2011の実態.西日本皮膚64:742-746,200213)紅林昌吾,合屋佳世子,北村哲宏ほか:ステロイド療法の15)古川福実,池田高治,佐藤伸一ほか:皮膚科領域における合併症に関する医師の意識と管理状況.OsteoporosisJpnステロイド使用に伴うステロイド骨粗鬆症に対する予防的12:377-383,2004治療の実態(第二報).西日本皮膚71:209-215,2009***(117)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131609