‘Humphrey10-2 プログラム’ タグのついている投稿

Humphrey10-2プログラムで明らかになった後頭葉脳梗塞による傍中心暗点の1例

2016年4月30日 土曜日

《第4回日本視野学会原著》あたらしい眼科33(4):573〜576,2016©Humphrey10-2プログラムで明らかになった後頭葉脳梗塞による傍中心暗点の1例田中波*1横田聡*1,2友松洋子*1友松威*1高村佳弘*1稲谷大*1*1福井大学医学部感覚運動医学講座眼科学*2京都大学大学院医学研究科眼科学ParacentralScotomaduetoOccipitalLobeCerebralInfarctionDetectedbyHumphrey10-2ProgramNamiTanaka1),SatoshiYokota1,2),YokoTomomatsu1),TakeshiTomomatsu1),YoshihiroTakamura1)andMasaruInatani1)1)DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicalSciences,UniversityofFukui,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,KyotoUniversityGraduateSchoolofMedicine緑内障ではHumphrey視野計(HFA)24°内検査(24-2)では異常のないpreperimetricglaucomaの患者でもHFA10°内検査(10-2)では視野異常を認めることがあり,黄斑局所の評価として有用性が知られている.今回筆者らはHFA24-2では不明瞭だったが,HFA10-2で同名1/4盲を認めた後頭葉脳梗塞の症例を報告する.症例は66歳,男性,突然の傍中心暗点を自覚し福井大学医学部附属病院眼科を受診した.眼病歴はなく,視野検査以外では有意な所見は認めなかったがHFA24-2で非特異的な傍中心暗点を同側右側に認めたため後頭葉の虚血性変化を疑い,頭部MRI,HFA10-2を行ったところ,左後頭葉鳥距溝付近に虚血性変化を認め,右下同名1/4盲を認めたことから後頭葉梗塞の診断に至った.一次視覚野において,網膜の黄斑領域からの投射は比較的広い範囲を占める.そのため後頭葉病変のサイズに対して,黄斑部の視野障害が広くないことがある.本症例のように脳神経系の器質的障害による視野障害でも,とくに黄斑局所の視野障害においてはHFA10-2により視野障害の部位が明確にできる場合がある.TheHumphreyFieldAnalyzer(HFA)10-2program(10-2)iswellknowntobeusefulinevaluatingparafovealscotomainpreperimetricglaucoma,butisnotmuchusedintheneuroophthalmologyarea.Wereportthecaseofaparacentralhomonymousscotomacausedbycalcarinesulcusinfarctionthatwasnotfoundby24-2,butwasdetectedby10-2.A66-year-oldmalenoticedsuddenonsetofaparacentralscotoma3daysaftersurgeryforrectalcancer.Hehadnohistoryofeyedisease.HFA24-2showednon-homonymousparacentralscotoma.Magneticresonanceimaging(MRI)revealedischemicchangenearthecalcarinesulcus.HFA10-2showedright-inferiorhomonymousscotoma,whichwethereforediagnosedasoccipitallobeinfarction.Intheprimaryvisualcortex,nervesfromthemacularareaprojecttoarelativelywideareaofthecortex;visualfielddefectsinthisareaarethereforerelativelysmall.Inthecaseofcalcarinesulcuslesions,therefore,HFA10-2canbeusefulindetectingparafovealscotoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(4):573〜576,2016〕Keywords:Humphrey10-2プログラム,Humphrey視野検査,傍中心暗点,後頭葉脳梗塞,一次視覚野.Humphrey10-2program,HumphreyFieldAnalyzer(HFA),paracentralscotoma,occipitallobeinfarction,primaryvisualcortex.はじめにHumphrey視野検査(HumphreyFieldAnalyzer:HFA,カールツァイスメディテック社)はさまざまなプログラムが設定可能で,中心30-2プログラム(30-2),中心24-2プログラム(24-2)ではそれぞれ中心視野30°,24°以内の6°間隔の検査点を測定する.HFA30-2の利点は辺縁部の暗点を見逃しにくいこと,HFA24-2の利点はHFA30-2に比べて測定時間が短いことである.ただしこれらの場合,中心視野10°以内はわずか12点しか測定されない.これに対しHFA10-2では10°以内の視野を2°間隔で68点測定するので中心部の詳細な検査が行える.緑内障性視野障害の90%以上が固視点から30°以内の暗点として始まる1,2)ので,緑内障の閾値検査では現在HFA30-2もしくはHFA24-2がおもに用いられている.しかし,HFA30-2やHFA24-2では異常のないpreperimetricglaucomaの患者でもHFA10-2で初めて眼底所見に対応した視野異常を認め,初期緑内障と診断されることがある.そのためHFA30-2やHFA24-2では視野障害が認められない場合でも,視神経乳頭や網膜神経線維層に緑内障性変化がみられる場合はHFA10-2での再検査が重要であることは緑内障分野では認識されている3,4).一方,視野1°当たりに割り当てられる皮質面積は偏心度すなわち中心窩からの相対的な位置と,ニューロンの視覚処理経路上での階層位置の両方に依存しており,中心視野の処理にはより多くの皮質が割り当てられている5〜9).そのため比較的広い後頭葉の脳梗塞であっても,それが中心近くの視野であれば,対応する網膜の障害面積は狭く視野障害の範囲は小さい場合がある.今回筆者らは,画像で確認すると明らかな後頭葉脳梗塞であるにもかかわらず,網膜の黄斑領域に対応している位置だったため視野障害が小さくなり,HFA24-2では視野異常が不明瞭だったが,HFA10-2で明らかな右下同名1/4盲を認め,最終的に後頭葉鳥距溝脳梗塞の早期診断に至った一症例を経験したので報告する.I症例症例:66歳,男性.家族歴・既往歴:家族歴に特記事項なし.40歳時,虫垂炎手術,眼病歴なし.現病歴:2014年8月直腸癌に対し福井大学医学部附属病院消化器外科で腹腔鏡下直腸切除術を行った.術後3日目午後12時30分頃,術後に行われる起き上がりのリハビリ中に,突然視野の右側が光り,その後両眼の傍中心暗点を自覚した.改善しないため術後4日目当院眼科紹介初診となった.初診時所見:視力は右眼1.2(n.c.),左眼1.0(n.c.),relativeafferentpupillarydefect陰性,眼圧は右眼10mmHg,左眼10mmHgであった.中心フリッカー値は右眼40.7Hz,左眼41.8Hz,患者にとって初めての視野検査であったHFA24-2で右眼は上耳側の傍中心暗点,左眼は下鼻側の傍中心暗点を認めた(図1).その他,中間透光体は軽度白内障を認めるのみで,眼底にも有意な所見は認めなかった(図2).両側ともに傍中心暗点を認めたがHFA24-2では視野障害の範囲が明確ではなかったため,中心視野の障害程度を詳細に確認するために後日改めてHFA10-2にて再検査を行った.また,急性発症の両眼性病変であり,暗点の位置は左右眼で上下が異なるものの,同側右側に認めたため,左後頭葉の血管性病変を疑いmagneticresonanceimaging(MRI)を施行した.その結果,HFA10-2では右下同名1/4盲を認め(図3),MRIでは,急性期脳梗塞および閉塞解除後のluxuryperfusionが反映されていることを確認した(図4).臨床経過とも一致し,急性期の左後頭葉鳥距溝脳梗塞と診断した.視野障害の他には脳神経・感覚・運動・協調運動・言語に異常は認めなかった.II考按今回筆者らは,HFA24-2の視野検査では不明瞭だったが,HFA10-2で明らかな右下同名1/4盲を認め,後頭葉鳥距溝脳梗塞の早期診断に至った1症例を経験した.本症例では視野障害の範囲が大きくなかったため6°間隔の視野検査では視野障害の範囲を特定することがむずかしかったが,2°間隔であれば明確にすることができた.これと同様なことは初期緑内障でも報告されており,HFA24-2では見つからない視野障害がHFA10-2では眼底所見と一致して発見されることがある3,4).つまり,後頭葉脳梗塞でも視野障害が広くなければ自動視野計の計測点の隙間に入り見逃してしまうことがあり,本症例と同様の報告が遠藤らによってすでになされている10).また,本症例の特徴としては画像上明らかな梗塞にもかかわらず,固視点近くの視野であったために視野障害が狭い範囲であったことがあげられる.これは大脳での皮質の面積と網膜の面積との関連から論じられる.中心視野は大脳皮質の比較的広い面積に投射され,一方,周辺視野はそれに対して狭くなる11~13).中心窩近くの網膜から投射を受けているところであれば,梗塞が比較的広い範囲であっても,視野障害は小さくなり,中心6°以内の測定点の間に収まってしまう場合がある.本症例も,左後頭葉鳥距溝の脳梗塞であり障害を受けた皮質の面積に比較して,網膜に相当する部分は狭かった.一方,患者にとって初めての視野検査であり,固視不良が20%を超えていた.それにより,HFA24-2では左右で上下に分かれた暗点となって検出された.HFA10-2では同様の固視不良であったが,測定点の密度が高いことにより真の暗点の広さに近い結果が得られ,診断に至った.固視点近傍の感度低下では固視不良をきたすことがあり,その点からもHFA10-2は暗点検出に有用であった.したがって,脳神経学的領域でも初期緑内障の場合と同様にHFA24-2で明確でない場合であっても,視野障害をきたしうる脳の器質的障害の疑いがあればHFA10-2の情報が診断に有用である.今回の症例は他の脳神経症状の合併がなかったため,診断に至るには初診時の問診や検査結果から脳血管障害を疑うことが必要であった.自覚症状が中心暗点のみの場合,眼科的疾患をまず考慮し患者は眼科を受診するが,傍中心暗点の場合は視力低下を起こさず,不定愁訴として見逃されがちである.HFA10-2にて中心視野の障害範囲を明確にしたうえで,その視野障害が同名性であれば脳血管障害を疑い,早急に頭部の画像検査を行うことが見逃しを防ぐために重要である.また,その場合,視野障害の範囲がごく小さいものであっても,中心視野であれば比較的梗塞の範囲は広い可能性があることを留意すべきである.本症例は他科入院中に視野障害が出現し当科に紹介されたため,急性期で脳梗塞の診断がつき治療介入を速やかに開始することができた.早期発見が良好な予後,新規病変の予防につながる.急性期後頭葉脳梗塞による狭い視野障害の症例を経験した.鳥距溝の限局的な脳梗塞である場合,傍中心暗点以外の神経学的所見がはっきり現れない場合があるうえ,その暗点も中心視野に近いほど梗塞巣の大きさに比較して小さな暗点になり検出がむずかしくなる.発症様式や症状から本症例のような疾患を疑い速やかに適切な検査を行うことで,脳の器質的障害の早期発見から早期治療につなげることができる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)WernerEB,BeraskowJ:Peripheralnasalfielddefectsinglaucoma.Ophthalmology86:1875-1878,19792)CaprioliJ,SpaethGL:Staticthresholdexaminationoftheperipheralnasalvisualfieldinglaucoma.ArchOphthalmol103:1150-1154,19853)HoodDC,RazaAS,deMoraesCGetal:Glaucomatousdamageofthemacula.ProgRetinEyeRes32:1-21,20134)HangaiM,IkedaHO,AkagiTetal:Paracentralscotomainglaucomadetectedby10-2butnotby24-2perimetry.JpnJOphthalmol58:188-196,20145)DanielPM,WhitteridgeD:Therepresentationofthevisualfieldonthecerebralcortexinmonkeys.JPhysiol159:203-221,19616)PolimeniJR,BalasubramanianM,SchwartzEL:Multiareavisuotopicmapcomplexesinmacaquestriateandextra-striatecortex.VisionRes46:3336-3359,20067)SchiraMM,TylerCW,Speharetal:Modelingmagnificationandanisotropyintheprimatefovealconfluence.PLoSComputBiol6:e1000651,20108)SchiraMM,WadeAR,TylerCW:Two-dimensionalmappingofthecentralandparafovealvisualfieldtohumanvisualcortex.JNeurophysiol97:4284-4295,20079)HolmesG:FerrierLecture:TheOrganizationoftheVisualCortexinMan.ProceedingsoftheRoyalSocietyB:BiologicalSciences132:348-361,194510)EndouH,IkedaF,ChumanH:ハンフリー10-2プログラムが診断に有用であった同名性孤立暗点を生じた二例.日本視能訓練士協会誌34:185-189,200511)HortonJC,HoytWF:Therepresentationofthevisualfieldinhumanstriatecortex.ArevisionoftheclassicHolmesmap.ArchOphthalmol109:816-824,199112)GrayLG,GalettaSL,SiegalTetal:Thecentralvisualfieldinhomonymoushemianopia.Evidenceforunilateralfovealrepresentation.ArchNeurol54:312-317,199713)WongAM,SharpeJA:Representationofthevisualfieldinthehumanoccipitalcortex:amagneticresonanceimagingandperimetriccorrelation.ArchOphthalmol117:208-217,1999〔別刷請求先〕田中波:〒910-1193福井県吉田郡永平寺町松岡下合月23-3福井大学医学部感覚運動医学講座眼科学Reprintrequests:NamiTanaka,DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicalScience,UniversityofFukui,23-3Shimoaizuki,Matsuoka,Eiheiji,Yoshida,Fukui910-1193,JAPAN0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(91)573574あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(92)図1初診時視野検査HFA24−2右眼中心右上,左眼中心右下に感度低下を認めた.右眼:中心窩閾値37dB,固視不良7/16,偽陽性0%,偽陰性7%,左眼:(以下同順)34dB,2/15,0%,1%.図2初診時眼底写真および光干渉断層計両眼とも中心窩付近に特記すべき異常所見を認めなかった.図3視野検査結果HFA10-2両眼とも右下視野に同名性の暗点を認めた.〔右眼:中心窩閾値39dB,固視不良8/19,偽陽性2%,偽陰性6%,左眼:(以下同順)37dB,3/16,1%,0%〕図4MRI画像a:Diffusion-weightedimaging:左後頭葉の鳥距溝付近に異常高信号域を認めた.b:T2強調画像fluidattenuatedinversionrecovery:同部位に高信号を認めた.c:Apparentdiffusioncoefficientmap:同部位が低値であった.d:Arteriald:Spinlabeling法:同部位に高信号を認めた.a,b,cより急性期鳥距溝脳梗塞と診断された.また,c,dより閉塞解除後のluxuryperfusionの反映を認めた.(93)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016575576あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(94)