《原著》あたらしい眼科36(11):1462.1470,2019c0.01%イブジラスト点眼液と0.02%シアノコバラミン点眼液の調節性眼精疲労に対する有効性と安全性の比較國重智之*1高橋永幸*2吉野健一*3高橋浩*1*1日本医科大学眼科*2秋田県厚生農業協同組合連合会大曲厚生医療センター眼科*3吉野眼科クリニックComparisonoftheE.cacyandSafetyof0.01%IbudilastOphthalmicSolutionand0.02%CyanocobalaminOphthalmicSolutionfortheTeatmentofAccommodativeAsthenopiaTomoyukiKunishige1),HisatomoTakahashi2),KenichiYoshino3)andHiroshiTakahashi1)1)DepartmentofOphthalmology,CNipponMedicalSchool,2)3)YoshinoEyeClinicCDepartmentofOphthalmology,OmagariKoseiMedicalCenter,目的:0.01%イブジラスト点眼液およびC0.02%シアノコバラミン点眼液の調節性眼精疲労に対する有効性と安全性を比較した.対象および方法:眼精疲労を自覚する外来患者C18名を対象とした.他覚所見は,投与前,投与C2週後およびC4週後に調節微動の高周波成分の発現頻度(highfrequencycomponent:HFC)を測定した.自覚症状は,投与前と投与C4週後に「眼が疲れる」「眼が重い」「物がぼやける」および「眼が乾く」について調査した.結果:IT眼症の指標であるCHFC67Ccm値およびCHFC1Cm値において両群間に有意な差はなかったが,0.01%イブジラスト点眼液群において,HFC67Ccm値は投与C2週後(p=0.035)に,HFC1Cm値は投与C2週後またはC4週後(それぞれCp=0.046,p=0.044)に有意な低下が認められた.自覚症状は,両群とも「眼が疲れる」や「眼が乾く」の項目で投与C4週後に改善した.また,0.01%イブジラスト点眼液群でC1例霧視がみられたが,投与中止により改善した.CPurpose:Tocomparethee.cacyandsafetyof0.01%ibudilastophthalmicsolutionand0.02%cyanocobala-minophthalmicsolutionforthetreatmentofaccommodativeasthenopia.Methods:Thisstudyinvolved18patientswithasthenopiawhoweretreatedwitheither0.01%ibudilastophthalmicsolutionor0.02%cyanocobalaminoph-thalmicCsolution.CForCtheCobjectiveCscale,ChighCfrequencycomponents(HFC)inCciliaryCaccommodativeCmicro.uctuationwasmeasuredatpre-administrationandat2and4weekspostadministrationof0.01%ibudilastophthalmicCsolutionCand0.02%CcyanocobalaminCophthalmicCsolution.CFourCsymptomsCwereCinvestigatedCatCpre-administrationandat4weekspostadministration.Results:Therewasnosigni.cantdi.erencebetweenthedrugsinCHFCC67CcmCandCHFCC1Cm.CHowever,CinCthe0.01%CibudilastCophthalmicCsolutionCgroup,CthereCwasCaCsigni.cantCdecreaseinHFC67Ccmvaluesat2weekspostadministration,andinHFC1Cmvaluesat2weeksor4weeksafteradministration.CBlurredCvisionCoccurredCinC1CpatientCinCtheCibudilastCophthalmicCsolutionCgroup,CyetCtheCsymptomCimprovedCafterCtheCdiscontinuationCofCadministration.CConclusion:OurC.ndingsCshowCthatCboth0.01%CibudilastCophthalmicCsolutionCand0.02%CcyanocobalaminCophthalmicCsolutionCareCsafeCandCe.ectiveCforCtheCtreatmentCofCaccommodativeasthenopia.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(11):1462.1470,C2019〕Keywords:イブジラスト,シアノコバラミン,調節性眼精疲労,IT眼症,HFC.ibudilast,cyanocobalamin,ac-commodativeasthenopia,ITophthalmopathy,HFC.Cはじめに器要因,内環境要因・心的要因にC3分類1)されている.眼精疲労は,眼の病的疲労であり,休息によっても容易に近年においては,近方作業の繰り返しによる刺激によって回復しないのが特徴で,発症要因としては,外環境要因,視引き起こされる調節性眼精疲労に加え,身体的疲労,精神的〔別刷請求先〕國重智之:〒113-8602東京都文京区千駄木C1-1-5日本医科大学眼科Reprintrequests:TomoyukiKunishige,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchool,1-1-5,Sendagi,Bunkyo-ku,Tokyo113-8602,JAPANC1462(120)疲労を呈する症候群としてCIT眼症(IT:informationtech-nology)が定義されるに至った2).また,パソコンをはじめとする端末表示装置(visualCdisplayterminal:VDT)の普及に伴い,VDT作業によるドライアイ患者の増加と眼精疲労との関係についても報告3,4)されるようになった.とくに,涙液量に異常はなく角膜上皮障害もほとんどないものの,涙液層破壊時間(breakuptime:BUT)が極端に短いCBUT短縮型ドライアイ5)は,強い不定愁訴を自覚する.すなわち,恒常的に物がぼやけて揺らいだ状態を自覚することを特徴とし,この霧視や歪みが眼の調節機能に負荷を加え続ける結果,強い眼精疲労を起こし,肩こり,頭痛といった全身症状を伴う6)ことから,IT眼症に抱合したものとしてとらえられている7).眼精疲労は自覚症状に個人差があり,環境因子に左右されることが多い疾患であるため,再現性が高い他覚的な評価はむずかしいとされてきたが,Campbellら8)が赤外線オプトメータを用いて,毛様体の調節振動における約C2CHzの周波数成分の存在を明らかにして以来,その解析方法に関する研究がなされてきた.近年においては,オートレフケラトメータを用いて,毛様体の揺らぎ(調節微動)のうち,その高周波成分の発現頻度(highCfrequencyCcomponent:HFC)を測定可能としたソフトウエアの登場により,調節性眼精疲労の疲労度を客観的に評価できる可能性が示された9,10).一方,眼精疲労に対する治療薬としては,1967年にC0.02%シアノコバラミン(ビタミンCBC12)点眼液(サンコバCR点眼液C0.02%)(以下,シアノコバラミン点眼液)が調節性眼精疲労における調節微動の改善薬として承認されており,シアノコバラミン点眼液で改善が認められない強い自覚症状を訴える患者に対しては,調節緊張(毛様体筋の異常緊張)を緩和する目的で,トロピカミドC0.4%点眼液やシクロペントラート塩酸塩1%点眼液などが使用されているが,調節麻痺や散瞳を生じるため,その使用は限定的である.イブジラストは,喘息や脳血管障害の治療薬としてカプセル剤がC1989年に上市され,全身に対する安全性が確認されている薬剤である.また,イブジラストの眼局所への応用としては,アレルギー性結膜炎を効能としてC0.01%イブジラスト点眼液(ケタスCR点眼液C0.01%)(以下,イブジラスト点眼液)がC2000年に上市されている.このようななか,イブジラストが毛様体筋に対する調節麻酔作用や散瞳・縮瞳作用を示すことなく,毛様体筋の異常緊張に対する弛緩作用を示すことが報告11)され,調節性眼精疲労に対する治療選択肢となりうる可能性が示唆された.そこで今回筆者らは,調節性眼精疲労に対するイブジラスト点眼液の有効性および安全性について検討した.I対象および方法本研究は,2014年C7月.2016年C2月末に日本医科大学眼科および吉野眼科クリニック(東京)を受診した眼精疲労を自覚した患者のうち,文書により研究への参加に同意し,①20歳以上C40歳未満の外来患者,②イブジラストおよびシアノコバラミンにアレルギーの既往がない患者,③視標に対して調節が可能である患者,④涙点プラグを装着していない患者,⑤眼位異常,ドライアイ以外の眼炎症(眼アレルギーを含む),眼感染症,緑内障および糖尿病を有していない患者,⑥角膜に中等度以上の上皮障害がない患者,⑦屈折矯正手術および白内障手術の既往がない患者,⑧C3カ月以内に眼科的手術を受けていない患者,⑨ドライアイであって点眼治療をしても眼精疲労の症状が改善しない患者を対象とした.本研究は,主治医側が遮閉されている単遮閉比較試験として実施した.即ち,被験薬であるイブジラスト点眼液もしくはシアノコバラミン点眼液は,無作為に割付し,外観からは識別不能である小箱に封入・封緘後,来院順に投薬し,1回1滴,1日C4回(朝,昼,夕および就寝前)4週間点眼することとした.観察項目は,患者背景(年齢,性別,おもな合併症,併用薬剤),屈折および調節力(視力,等価球面度数,調節応答量),他覚所見(調節微動),角膜所見,涙液検査(BUT,涙液分泌量検査),自覚症状,点眼状況および有害事象とした(表1).角膜所見は,フルオレセイン染色後の角膜上皮所見を細隙灯顕微鏡下で観察し,AD分類にてCA0D0を異常なし,それ以外を異常ありとして判定した.また,BUTは,角膜表層に均一に広がった涙液層の一部にドライスポットが現れるまでの時間をC3回測定した平均値とし,涙液分泌量はSchirmer1法により測定した.屈折力は裸眼視力および等価球面度数,調節力は調節近点と調節遠点との差より算出された調節応答量とし,等価球面度数および調節応答量の測定には,乱視矯正付きオートレフケラトメーターCARK560A(ニデック)を使用した.調節微動は,調節微動解析ソフトAA2(ニデック)がインストールされたパーソナルコンピューターに接続されたCARK560AにてCHFC値を測定した.自覚症状は,眼精疲労の主症状である「眼が疲れる」「眼が重い」「物がぼやける」および「眼が乾く」の表現型について,過去に経験した一番強い症状をC10とした際の現状の強さを数値(スコア値)化して調査した.点眼状況は問診により確認し,有害事象は定期観察時に加え,患者の訴えがあった際に主治医が確認することとした.主要評価は,測定されたCHFC値のうち,調節性眼精疲労の指標とされるCHFC1値(調節安静位付近:調節度C±0Dから.0.75DのCHFC値の平均値),IT眼症の指標とされるCHFC67Ccm値およびCHFC1Cm値10)の投与C2週後およびC4週後と投与開始前との変化量を群間比較した.副次評価は,上記各CHFC値における投与C2週後およびC4週後と投与開始前の被験薬内の比較,自覚症状における投与4週後と投与開始前の変化量の群間比較および投与C4週後と投与開始前の被験薬内の比較,および各CHFC値と自覚症状の投与C4週後と投与開始前の変化量の相関とした.なお,本研究は,日本医科大学および吉野眼科クリニックの多施設共同研究として,日本医科大学病院薬物治験審査委員会の承認後,UniversityCHospitalCMedicalCInformationNetwork(https://center.umin.ac.jp)に登録のうえ,実施した(UMIN000014695).なお,本研究の実施にあたり,千表1観察スケジュールおよび観察項目初診時投与C2週後投与C4週後許容範囲C.±2日C±3日同意取得〇C..患者背景〇C..視力〇〇〇等価球面度数〇〇〇調節応答〇〇〇調節微動〇〇〇角膜所見〇C.〇CBUT〇C.〇涙液分泌量検査(Schirmer1法)〇C.〇自覚症状(アンケート)〇C.〇点眼状況C.〇〇有害事象C.〇〇寿製薬の資金提供を受けた.CII統.計.解.析本研究は探索的研究であることから,被験薬が投与された全症例のうち中止症例を除く集団(intenttotreat:ITT)と,ITTから観察間隔や年齢などプロトコールに準拠していない症例を除いた集団(perprotocolset:PPS)のC2集団で検討することとした.統計解析は,ITTおよびCPPSともに,群間の比較はCWelchのCt検定,群内の比較はCpairedt検定,他覚所見と自覚症状の相関はCPearsonの積率相関を用い,有意水準はいずれも0.05とした.なお,統計解析ソフトウェアは,JMP13.2.1(SASInstituteJapan)を使用した.CIII結果1.背景因子および観察期間表2に示したとおり,ITTの評価対象症例は,霧視を訴えたため投与を中止したC1例を除いた男性C4例,女性C14例,平均年齢C26.5C±7.8歳のC18例であり,PPSは,ITT対象症例から観察日の許容範囲を逸脱したC3例,ドライアイに対する治療経過がなかったC1例および年齢が選択基準外であった1例の計C5例を除いた男性C4例,女性C9例,平均年齢C23.8C±4.7歳のC13例であった.ITTおよびCPPSにおける投与開始前と投与C2週後およびC4週後の観察期間は,ITTでそれぞれC14.7C±1.7日およびC29.7C±2.7日,PPSでそれぞれC14.4C±0.9日およびC28.7C±1.3日であった.全身合併症は,Base-dow病C1例(ITTのみ)および突発性難聴C1例,眼合併症としてドライアイがC1例であった.また,併用薬として,ヒアレインC0.1%点眼液とソフトサンティアが各C1例に投与され表2症例背景イブジラスト点眼液群シアノコバラミン点眼液群合計CITTCPPSCITTCPPSCITTCPPS性別男性C0C0C4C4C4C4女性C8C5C6C4C14C9合計C8C5C10C8C18C13年齢(歳)C27.4±10.3C22.2±4.7C25.8±5.6C24.9±5.7C26.5±7.8C23.8±4.7観察期間(日)投与開始前.投与C2週後C15.3±2.4C14.6±0.9C14.2±0.8C14.3±0.9C14.7±1.7C14.4±0.9投与開始前.投与C4週後C30.1±3.2C28.6±1.3C29.3±2.4C28.8±1.4C29.7±2.7C28.7±1.3眼合併症ドライアイ(1)C..全身合併症C.*Basedow病(1)突発性難聴(1)C.併用薬ヒアレインC0.1%点眼液(1)ソフトサンティア(1)C.カッコ内の数字は症例数.*:ITTのみ.表3涙液検査・角膜所見a.BUTCITTCPPS投与開始前(秒)投与C4週後(秒)CPairedtCtestCWelcht-test投与開始前(秒)投与C4週後(秒)CPairedtCtestCWelcht-testイブジラスト点眼液群C6.1±1.8C6.0±0.8Cp=0.785Cp=0.864C5.5±1.0C6.1±0.8Cp=0.212Cp=0.163シアノコバラミン点眼液群C6.8±1.6C6.0±0.8Cp=0.504C7.0±1.6C6.3±0.7Cp=0.510b.Schirmer試験ITTCPPS投与開始前(mm)投与C4週後(mm)CPairedtCtestCWelcht-test投与開始前(mm)投与C4週後(mm)CPairedtCtestCWelcht-testイブジラスト点眼液群C15.4±6.3C18.6±10.2Cp=0.786Cp=0.500C15.2±3.0C17.8±0.1Cp=0.548Cp=0.072シアノコバラミン点眼液群C12.6±4.2C11.2±3.5C*Cp=0.04211.9±4.6C10.7±3.8Cp=0.156*:p<0.05.Cc.角膜所見ITTCPPS投与開始前投与C4週後投与開始前投与C4週後イブジラスト点眼液群異常ありC0C1C0C1異常なしC8C7C5C4シアノコバラミン点眼液群異常ありC1C1C1C1異常なしC9C9C7C7a:BUTは,角膜表層に均一に広がった涙液層の一部にドライスポットが現れるまでの時間をC3回測定し,その平均値.b:Schirmer試験はCSchirmer1法にて実施.c:角膜所見はAD分類にて評価し,A0D0以外は異常所見ありで評価.ITTPPSイブジラストシアノコバラミンイブジラストシアノコバラミン1.61.61.41.41.21.21.01.00.8裸眼視力0.80.880.880.880.810.800.810.60.60.490.430.390.380.340.40.300.40.20.20.00.0-0.2-0.2-0.4-0.4投与開始前投与2週後投与4週後投与開始前投与2週後投与4週後図1裸眼視力の推移裸眼視力:logMAR視力に換算.CITTPPSイブジラストシノコバラミンイブジラストシノコバラミン2.02.0等価球面度数(D)1.00.01.00.0-1.27-1.36-1.24-3.38-3.43-3.53-1.0-1.0-2.0-2.0-3.0-3.0-4.0-4.0調節応答量(D)-5.0-5.0-6.0-6.0-7.0-7.0投与開始前投与2週後投与4週後投与開始前投与2週後投与4週後図2等価球面度数ITTPPSイブジラストシノコバラミンイブジラストシノコバラミン4.04.03.53.53.03.02.52.52.01.51.01.00.50.50.0投与開始前投与2週後投与4週後投与開始前投与2週後投与4週後0.0図3調節応答量ARK560Aで測定された調節近点と調節遠点との差より算出した.等価球面度数(D)裸眼視力調節応答量(D)ていた(表2).C2.涙液検査と角膜所見投与前および投与C4週後のCBUTは,ITTおよびCPPSともに群間および群内で有意な差はなかった(表3a).一方,投与前および投与C4週後のCSchirmer試験は,PPSでは群間および群内で有意な差はなかったが,ITTにおいて群間はシアノコバラミン点眼液群で投与C4週後に有意に減少した(p=0.042)(表3b).角膜所見については,イブジラスト点眼液群で投与C4週後にC1例に異常所見(ADスコア:A1D1)を認めたが,シアノコバラミン点眼液群では,投与開始前と投与C4週後で変化はなかった(表3c).C3.屈折および調節力裸眼視力(LogMAR),等価球面度数,調節応答量は,ITTおよびCPPSともに被験薬内において投与開始以降に有意な変化はなかった(図1~3).C4.他.覚.所.見表4に示したとおり,各CHFC値の投与C2週後およびC4週後と投与開始前の変化量に両群間で有意差はなかった.一方,イブジラスト点眼液群のCHFC1m値は投与開始前と比較して投与C2週後およびC4週後に有意に減少した(ITT:p=0.046,0.044,PPS:p=0.044,0.010).また,HFC67cm値では,投与開始前と比較して,イブジラスト点眼液群では投与C2週後(ITT:p=0.035)に,シアノコバラミン点眼液群では投与C4週後(ITT:p=0.020,PPS:p=0.015)に有意に減少したが,HFC1値は,投与開始前と比較して投与C2週後およびC4週後に被験薬内に有意な変化を認めなかった.C5.自覚症状のスコア値推移表5に示したとおり,自覚症状のすべての項目において,投与C4週後と投与開始前の変化量に両群間で有意差を認めなかったが,「眼が疲れる」と「眼が乾く」において,両薬剤とも投与C4週後に有意にスコア値が減少した(「眼が疲れる」イブジラスト点眼液群CITT:p=0.018,シアノコバラミン点眼液群CITT:p=0.022,PPS:p=0.018,「眼が乾く」イブジラスト点眼液群CITT:p=0.048,シアノコバラミン点眼液群CITT:p=0.027).また,「物がぼやける」において,シアノコバラミン点眼液群は投与C4週後にスコア値が有意に減少した(PPS:p=0.049).C6.他覚所見と自覚症状の相関各CHFC値と自覚症状の変化量の関係性については,全症例を対象として検討した.その結果,HFC1m値と「眼が重い」(ITT:r=0.549,p=0.022)および「眼が乾く」(PPS:Cr=0.580,p=0.038)との間に相関関係が認められた(表6).C7.有.害.事.象イブジラスト点眼液群のC1例で「霧視」を認めたため投与を中止したが,投与中止後に症状は消失した.同じく,イブジラスト点眼液群のC1例で投与C4週後にCADスコア上昇を表4HFC値の推移と変化量投与開始前投与C2週後投与C4週後投与C2週後-投与開始前投与C4週後-投与開始前変化量CPaired-tCtestCWelcht-test変化量CPaired-tCtestCWelcht-testCITTHFC1m値イブジラスト点眼液群C64.27±4.21C58.86±6.08C57.11±7.69C.5.42±6.34Cp=0.046*p=0.206C.7.17±8.25Cp=0.044*Cp=0.230シアノコバラミン点眼液群C62.84±5.52C62.40±6.85C60.22±6.31C.0.44±9.03Cp=0.881C.2.62±7.20Cp=0.279HFC67cm値イブジラスト点眼液群C67.14±5.64C60.02±7.46C61.55±7.75C.7.12±7.70Cp=0.035*Cp=0.209C.5.59±7.29Cp=0.067Cp=0.816シアノコバラミン点眼液群C67.46±5.39C65.12±8.58C62.58±7.01C.2.34±7.69Cp=0.360C.4.88±5.49Cp=0.020*HFC1値イブジラスト点眼液群C53.67±6.39C51.00±4.66C52.17±3.29C.2.67±8.20Cp=0.388Cp=0.501C.1.50±7.68Cp=0.599Cp=0.976シアノコバラミン点眼液群C51.96±6.09C51.49±4.40C50.37±6.73C.0.47±5.27Cp=0.784C.1.59±5.87Cp=0.412CPPSHFC1m値イブジラスト点眼液群C65.47±2.60C60.81±4.47C58.43±4.32C.4.66±3.59Cp=0.044*Cp=0.416C.7.04±3.38Cp=0.010**Cp=0.394シアノコバラミン点眼液群C62.29±5.03C61.70±6.90C58.48±3.64C.0.59±10.23Cp=0.875C.3.81±7.58Cp=0.198HFC67cm値イブジラスト点眼液群C66.39±5.53C61.97±5.19C61.65±4.42C.4.43±7.39Cp=0.251Cp=0.646C.4.75±7.54Cp=0.232Cp=0.703シアノコバラミン点眼液群C66.69±5.05C64.49±9.06C60.55±5.90C.2.21±8.70Cp=0.497C.6.14±5.39Cp=0.015*HFC1値イブジラスト点眼液群C54.42±5.24C51.92±4.91C52.81±2.91C.2.50±4.62Cp=0.293Cp=0.802C.1.61±3.58Cp=0.370Cp=0.534シアノコバラミン点眼液群C52.84±6.02C51.02±4.84C49.59±5.73C.1.83±4.55Cp=0.293C.3.26±4.93Cp=0.104HFC1m値:1Dの視標距離における調節微動をC12秒間測定した平均値,HFC67cm値:1.5Dの視標距離における調節微動を12秒間測定した平均値,HFC1値:調節度C±0D.C.0.75DにおけるHFC値の平均.*:p<0.05,**:p<0.01.表5自覚症状スコア値の推移と変化量投与開始前投与C4週後投与C4週後-投与開始前変化量CPairedtCtestCWelcht-testCITT眼が疲れるイブジラスト点眼液群C5-75±1.67C3.63±1.60C.2.13±1.96Cp=0.018*Cp=0.652シアノコバラミン点眼液群C4.60±2.63C2.90±2.38C.1.70±1.95Cp=0.022*眼が重いイブジラスト点眼液群C3.63±2.07C2.88±1.55C.0.75±1.28Cp=0.142Cp=0.704シアノコバラミン点眼液群C2.90±2.81C1.80±2.62C.1.10±2.28Cp=0.162物がぼやけるイブジラスト点眼液群C2.75±2.92C2.63±2.39C.0.13±2.23Cp=0.879Cp=0.325シアノコバラミン点眼液群C2.70±2.87C1.70±2.75C.1.00±1.41Cp=0.052眼が乾くイブジラスト点眼液群C3.75±2.87C3.00±2.56C.0.75±0.89Cp=0.048*Cp=0.199シアノコバラミン点眼液群C4.90±2.85C3.00±2.26C.1.90±2.28Cp=0.02*CPPS眼が疲れるイブジラスト点眼液群C5.80±2.17C3.40±1.67C.2.40±2.30Cp=0.080Cp=0.822シアノコバラミン点眼液群C4.50±2.51C2.38±1.77C.2.13±1.96Cp=0.018*眼が重いイブジラスト点眼液群C3.60±2.51C3.00±2.00C.0.60±1.14Cp=0.305Cp=0.533シアノコバラミン点眼液群C2.63±2.26C1.25±1.58C.1.38±2.50Cp=0.164物がぼやけるイブジラスト点眼液群C3.20±2.86C2.40±2.88C.0.80±1.64Cp=0.338Cp=0.620シアノコバラミン点眼液群C2.38±2.33C1.13±1.81C.1.25±1.49Cp=0.049*眼が乾くイブジラスト点眼液群C3.40±2.61C2.60±2.19C.0.80±0.84Cp=0.099Cp=0.394シアノコバラミン点眼液群C4.75±2.92C2.88±2.17C.1.88±2.59Cp=0.080*:p<0.05.スコア値:被検者自身が過去に経験した一番強い症状をC10とする数値評価スケール(numericalratingscale:NRS)を用い,0からC10のC11段階で評価した.*:p<0.05.表6自覚症状と他覚所見の相関ITTCPPSCHFC1mCHFC67cmCHFC1CHFC1mCHFC67cmCHFC1眼が疲れるCrC0.466C0.143C0.247C0.421C.0.007C0.122p値C0.059C0.584C0.339C0.152C0.983C0.691眼が重いCrC0.549C0.304C0.426C0.503C0.201C0.450p値C0.022*C0.236C0.088C0.080C0.510C0.123物がぼやけるCrC.0.323C.0.361C.0.380C0.110C.0.212C.0.266p値C0.206C0.155C0.133C0.722C0.487C0.381眼が乾くCrC0.317C.0.072C0.181C0.580C0.018C0.524p値C0.216C0.783C0.488C0.038*C0.952C0.066r:相関係数.*:p<0.05.自覚症状:投与開始前と投与C4週後の各スコア値の変化量.他覚所見:投与開始前と投与C4週後の各CHFC値の変化量.認めたが,A0D0がCA1D1へと変化したものであり軽微で1m値(ITTおよびCPPS),および投与C2週後のCHFC67cmあった.値(ITT)が,投与開始前に比べ有意に減少した.一方,シアノコバラミン点眼液群では,投与C4週後のCHFC67cm値CIV考按が投与開始前に比べ,ITTではC67.46からC62.58,PPSでは各CHFC値の変化量は,ITTおよびCPPSのいずれにおい66.69からC60.55へ,それぞれ有意に減少したものの,HFCても両群間に有意な差を認めなかった.しかしながら,イブ1m値では,投与開始以降有意な変化はなかった.このことジラスト点眼液群では,投与C2週後およびC4週後のCHFCから,イブジラスト点眼液およびシアノコバラミン点眼液は,眼精疲労を自覚する患者における調節微動を抑制する可能性が示唆されたが,正常眼におけるCHFC1Cm値やCHFC67cm値が,それぞれC47.64C±4.22,50.96C±4.91であること10)に鑑みれば,本研究における臨床的な効果は,疲労度の軽減にとどまるものと考えられた.眼精疲労に関する自覚症状としては「眼が疲れる」「眼が乾く」などの眼症状にとどまらず,「頭痛がする」などの全身的な症状を訴えるケースが増加している12).本研究では,自覚症状のうち「眼が疲れる」および「眼が乾く」のスコア値が両群とも有意に低下した(ITT)ことから,イブジラスト点眼液およびシアノコバラミン点眼液は,いずれも眼精疲労に伴う自覚症状の改善に有効であることが示された.ただし,各CHFC値の変化量との相関については,HFC1Cm値と「眼が重い」(ITT),「眼が乾く」(PPS)との間に相関関係が認められたものの,さらなる検討を要するものと考えられた.梶田の報告10)では,調節安静位付近のCHFC値が極小値とならない場合は調節異常や調節疲労の可能性が高く,また,IT眼症では視標距離C1Cmより遠方では正常眼と同等のCHFC値をとるが,視標距離がC1Cmより近方では高いCHFC値を示すとしている.本研究において,投与開始前のCHFC1値はHFC1Cm値およびC67Ccm値よりも低かったことから,極小値は視標距離C1Cmより遠方に存在すると同時に視標距離C1Cmより遠方のCHFC値は正常眼と同等である可能性が高い.以上のことから,本研究の対象例の多くは調節性眼精疲労のうちCIT眼症を罹患していると考えられた.イブジラスト点眼液群は,投与C2週後およびC4週後のCHFC1Cm値,投与C2週後のCHFC67Ccm値,シアノコバラミン点眼液群は,投与C4週後のCHFC67Ccm値で投与開始前より有意に減少したことから,両薬剤ともCIT眼症の症状の軽減に有効な薬剤であることが示唆されたが,イブジラスト点眼液はシアノコバラミン点眼液に比べて効果発現時期が早いと考えられた.イブジラスト点眼液は,ホスホジエステラーゼを阻害しcAMPの活性を維持することで毛様体筋を弛緩させる11)と考えられている.また,ウサギへのイブジラスト点眼液反復投与C10分後の虹彩・毛様体の組織内濃度はC204Cngeq./gであり,ホスホジエステラーゼに対するCICC50(110Cng/ml)を上回る濃度が移行する14,15).このことから,イブジラスト点眼液の毛様体筋弛緩作用は,虹彩・毛様体に直接作用することによって発現するものと考えられる.一方,シアノコバラミン点眼液は,投与により毛様体筋内の酸素消費量が増し,その結果CATP産生が増大し,毛様体筋を弛緩させるものと考えられている16).しかしながら,ウサギへの頻回点眼(総点眼量C0.3Cml)直後の毛様体への移行率はC0.045%(移行量としてC27Cng)であり,概して低い.これは,シアノコバラミンの分子量がC1355.37であり比較的大きい(イブジラスト分子量はC230.3117))ことに起因するものと推察され,その結果,イブジラスト点眼液に比して効果発現に時間を要したものと思われた.この他,両薬剤ともに視機能への影響は認められなかった.なお,Schirmer試験において,シアノコバラミン点眼液群で投与C4週後に有意な涙液分泌量の減少を認めた(ITT)が,平均値がC10Cmmを超えており,臨床上の問題はないと考えられた.また,有害事象として,イブジラスト点眼液により「霧視」および「ADスコア上昇」各C1例が認められたが,重篤なものでなかったことから,調節性眼精疲労(IT眼症)に対するイブジラスト点眼液のC4週間投与において安全性に関する重大な問題はないものと考えられた.なお,イブジラスト点眼液は,アレルギー性結膜炎を対象とした使用成績調査が実施されており,3,207例における副作用発現は53例(副作用発現率:1.7%)で,主たる事象は「しみる」をはじめとする眼局所の事象であり,重篤な副作用は認められていない18).以上のように,イブジラスト点眼液の調節性眼精疲労(IT眼症)に対する有用性が示唆されたが,本研究での症例数は限定的であること,眼精疲労はさまざまな環境因子の影響を受けること,自覚症状の表現には個体差が存在し,正確に定量化することがきわめて困難であること,自覚症状とCHFC値との間に明確な相関が認められなかったことから,眼精疲労の自覚の程度がどのようにCHFC値に反映されているのかを明らかにできなかったことなど,多くの限界が認められることから,さらなる検討が必要である.文献1)鈴村昭弘:主訴からする眼精疲労の診断.眼科CMOOK,No.23,眼精疲労(三島済一編),p1-9,金原出版,19852)平岡満里:IT眼症.眼科47:63-70,C20053)内野美樹,内野裕一:疫学から知り得たドライアイの本質:ドライアイってどれくらいいるの.あたらしい眼科C29:C205-308,C20124)五十嵐勉,大塚千明,矢口智恵美ほか:シアノコバラミンの処方例におけるドライアイ頻度.眼紀C50:601-603,C19995)戸田郁子,坪田一男:ドライアイと不定愁訴.あたらしい眼科9:1115-1120,C19926)横井紀彦:蒸発亢進型ドライアイの原因と疾患.日本の眼科74:867-870,C20037)木下茂:IT眼症の捉え方.日本の眼科C74:859-861,C20038)CampbellCFW,CWestheimerCG,CRobsonJG:Signi.canceCofC.uctuationsCofCaccommodation.CJCOptCSocCAmC48:669,C19589)梶田雅義,伊藤由美子,佐藤浩之ほか:調節微動による調節安静位の検出.日眼会誌101:413-416,C199710)梶田雅義:調節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