《原著》あたらしい眼科42(1):107.110,2025cLandolt環型角膜上皮症の4例片岡大智*1小林顕*1横川英明*1森奈津子*1宮内修*2前田有*3川口一朗*4正木利憲*5杉山和久*1*1金沢大学附属病院眼科*2みやうち眼科*3前田眼科クリニック*4川口眼科医院*5正木アイクリニックCFourCasesofLandolt-RingShapedEpithelialKeratopathyDaichiKataoka1),AkiraKobayashi1),HideakiYokogawa1),NatsukoMori1),OsamuMiyauchi2),AriMaeda3),IchiroKawaguchi4),ToshinoriMasaki5)andKazuhisaSugiyama1)1)DepartmentofOphthalmology,KanazawaUniversity,2)MiyauchiEyeClinic,3)MaedaEyeClinic,4)KawaguchiEyeClinic,5)MasakiEyeClinicCLandolt環型角膜上皮症は角膜上皮に限局する非対称性のCLandolt環様病変をきたすきわめてまれな疾患である.異物感を主訴とする場合が多く,通常視力低下はきたさないが,原因は未だ不明である.今回,Landolt環型角膜症の4例を経験したため報告する.病変は点眼治療によりいずれも消失したが,4例中C2例が再発したため,本症例に遭遇した場合,再発も念頭に長期間のフォローアップが必要であると思われた.CPurpose:ToCreportC4CcasesCofLandolt-ringCshapedCepithelialCkeratopathy(LRSEK)C.CCaseReports:Case1involveda69-year-oldfemalewhowasreferredtoourdepartmentafterbeingseenatanoutsideclinicwiththeprimarycomplaintofdryeye-likesymptoms.FluoresceinstainingrevealedLRSEKinbotheyes.ShewastreatedwithCrebamipide2%CophthalmicCsuspensionCandChyaluronicCacidCophthalmicCdrops.CInCbothCeyes,CLRSEKCresolvedCwithtime,yetrecurredduringthewinterseason.Case2involveda40-year-oldfemalewhopresentedwithafor-eignCbodyCsensationCinCherCrightCeye.CUponCexamination,CLRSEKCwasCobservedCinCherCrightCeye,CandC2CdaysClaterCwasalsoobservedinherlefteye,sotreatmentwithantibioticeyedrops,low-dosesteroideyedrops,andantibioticointmentCwasCinitiated.CTheClesionsCresolvedCwithinC30Cdays,CyetCrecurrenceCoccurredCinCbothCeyesC3CyearsClater.CCase3involveda57-year-oldfemalewhowasbeingtreatedwithbrinzolamideandcarteololeyedropsforglauco-ma.COnCaCfollow-upCvisit,C.uoresceinCstainingCrevealedCLRSEKCinCherCrightCeye.CHyaluronicCacidCeyeCdropsCwereCstartedandthelesionworsenedoverthefollowing7days,yetimproved5dayslater.Case4involveda53-year-oldCfemaleCwhoCpresentedCtoCtheCclinicCwithCtheCprimaryCcomplaintCofCdecreasedCvisualCacuity.CLRSEKCwasCobservedinherlefteye.Hyaluronicacideyedropswerestarted,and2weekslaterthelesionhadresolved.Con-clusions:AlthoughtheLRSEKlesionsinthese4casesresolvedwithorwithouteyedroptreatment,strictlong-termfollow-upinsuchcasesisnecessary,asrecurrencecanoccur.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(1):107.110,C2025〕Keywords:Landolt環型角膜上皮症,Landolt-ringshapedepithelialkeratopathy.はじめにLandolt環型角膜上皮症は,大橋らがC1992年に報告した異物感,羞明を主訴とする視力検査に用いるCLandolt環に似た形の角膜上皮隆起が生じる病変で1),わが国ではC10数例程度の報告がある.Inoueらの報告では,病変は冬季に好発し,片側,両側,非対称にランダムに発生すること,小さな病変が互いに連結してフラクタルパターンを形成すること,炎症所見や細胞浸潤を認めず,40代後半前後の女性に生じやすいことなどが判明しているが,原因は不明とされている2).小さなCC形状の病変が連なって大きなCC形状の病変を形成することをフラクタルパターンとよんでいる.今回,Landolt環型角膜上皮症をC4例経験したので報告する.CI症例症例1患者:69歳,女性.〔別刷請求先〕片岡大智:〒920-8641金沢市宝町C13-1金沢大学附属病院眼科Reprintrequests:DaichiKataoka,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KanazawaUniversityHospital,13-1Takara-machi,Kanazawacity,Ishikawa920-8641,JAPANC図1症例1の前眼部所見a:初診時の右眼.角膜中央付近にCLandolt環型角膜上皮症を認めた.Cb:初診時の左眼.角膜中央付近にCLandolt環型角膜上皮症を認めた.c:2年後の再診時の右眼(6月).Landolt環型角膜上皮症が角膜中央部に再発しており,Landolt環のギャップの向きは初診時とは異なっていた.図2症例2の前眼部所見a:初診時の右眼.角膜周辺部にCLandolt環型角膜上皮症を認めた.Cb:1カ月後の再診時(1月)の右眼.病変の数は減少していた.c:3年後の再診時の右眼(3月).Landolt環型角膜上皮症は再発し,Landolt環のギャップの向きは初診時とは異なっていた.図3症例3の前眼部所見a:初診時の右眼.角膜中央部にCLandolt環型角膜上皮症を認めた.Cb:1週間後の再診時の右眼.病変は増悪し,フラクタルパターンを示した.Cc:初診時からC12日後の右眼.病変は減少していた.Cd:初診時からC12日後の右眼の共焦点顕微鏡画像.角膜上皮の基底細胞層での高反射析出物を認めた.炎症細胞は認めなかった.主訴:目の渇き.15mmHg,左眼C14CmmHgであった.現病歴:X年C12月にドライアイ症状があるとのことでフ治療および経過:レバミピド点眼C2%,ヒアルロン酸点眼ルオレセイン染色したところ,両眼にCLandolt環型角膜上皮で治療を開始した.両眼とも時間経過とともに病変の数は減症を認めた(図1).少し,X+1年C6月には消失したが,X+2年C2月に右眼に再既往歴:高血圧症,高脂血症.度出現し,病変の位置やCLandolt環のギャップの向きは初診家族歴:特記事項なし.時とは異なっていた(図1c).初診時所見:視力は右眼C0.80(1.00C×sph+1.0D(cyl症例2.0.5DAx31°),左眼C1.0(矯正不能)であった.眼圧は右眼患者:40歳,女性.図4症例4の前眼部所見a:初診時の左眼.角膜部にCLandolt環型角膜上皮症を認めた.Cb:2週間後の再診時の右眼.初診時には認めなかった病変が出現していた.主訴:異物感.現病歴:Y年C12月に異物感を主訴に受診.フルオレセイン染色で右眼にCLandolt環型角膜上皮症を認めた(図2a).左眼の角膜には異常所見を認めなかった.既往歴:流行性角結膜炎(Y-1年).家族歴:特記事項なし.初診時所見:視力は右眼0.03(1.2C×sph.5.0D(cyl.0.5DAx180°),左眼C0.03(1.2C×sph.4.5D(cyl.1.0DAx180°)であった.眼圧は右眼C15mmHg,左眼C14CmmHgであった.治療および経過:抗生物質点眼とステロイド点眼にて治療開始した.Y+1年C1月時点で病変の数は減少し(図2b),症状は消失した.Y+3年C3月に処方希望で再診時にスリットで観察すると両眼に病変が再出現しており,再発時の病変の位置やCLandolt環のギャップの向きは初診時とは異なっていた(図2c).症例3患者:57歳,女性.主訴:なし.現病歴:両緑内障に対しブリンゾラミド点眼液を両眼C2回,カルテオロール塩酸塩点眼液を両眼C1回で治療中であり,1Cdayソフトコンタクトレンズ装用中.Z年C1月の再診時にフルオレセイン染色したところ,右眼にCLandolt環型角膜上皮症を認めた(図3a).左眼の角膜に異常所見を認めなかった.既往歴:高血圧症,高脂血症,子宮筋腫.家族歴:特記事項なし.初診時所見:視力は右眼C0.03(1.0C×sph.9.50D(cylC.1.25DAx15°),左眼C0.05(1.2C×sph.6.00D(cyl.2.00DAx170°)であった.眼圧は右眼C20mmHg,左眼C20mmHgであった.治療および経過:ソフトコンタクトレンズの装用を中止し,ヒアルロン酸点眼で治療開始した.1週間後の再診時には病変は増悪しており,フラクタルパターンを示した(図3b).そのC5日後,病変は改善傾向となった(図3c).その時点で生体共焦点顕微鏡CHeidelbergCRetinaCTomographCIICRostockCCorneaModule(HeidelbergCEngineering)を撮像すると,角膜上皮の高輝度病変を認めた(図3d).症例4患者:53歳,女性.主訴:視力低下.現病歴:W年C1月に視力低下を主訴に受診.両眼にフルオレセイン染色したところ,左眼にCLandolt環型角膜上皮症を認めた(図4a).右眼の角膜には異常所見を認めなかった.既往歴:両眼レーシック.家族歴:特記事項なし.初診時所見:視力は右眼C0.5(1.2C×sph.1.25D(cylC.0.75DAx40°),左眼C0.9(1.2C×sph.0.50D)で,眼圧は右眼C10mmHg,左眼C11CmmHgであった.治療および経過:ヒアルロン酸点眼で治療開始した.2週間後の再診察時に左眼の病変は改善していたが,右眼の角膜中央に小さなCLandolt環型角膜上皮症が出現した(図4b).そのC15日後に病変は消失していた.CII考按Landolt環型角膜上皮症は,異物感,羞明を主訴とする角膜上皮病変で,大橋らがC1992年に報告して以降,わが国で現在のところC10数例程報告されている.Landolt環型角膜上皮症の臨床的特徴として,InoueらはC11例を評価検討した.報告によると発症平均年齢はC45.9歳(年齢範囲:17.73歳)で,視力低下はほとんど認めず,他の眼疾患や全身疾患の既往との関連はないとされている.また,病変は両眼性,片眼性,非対称にランダムに出現し,数・大きさ・Landolt環のギャップの向きもランダムで,冬季に再発傾向がある2).筆者らの症例の平均年齢はC54.8歳(40.69歳)で,矯正視力の低下はいずれも認めず,病変の形状はランダムであった.4例中C2例で再発を認めたが,2例とも冬季での再発であった.Landolt環型角膜上皮症の病因として大橋らはヘルペスウイルス群やサイトメガロウイルスによる感染を疑っており,涙液からポリメラーゼ連鎖反応(polymeraseCchainCreac-tion:PCR)法によりウイルスを同定しようとするもヒトヘルペスウイルスC1.8型すべてが陰性であった1,2).TS-1内服患者に発症した症例3)や脳神経外科手術による視床下部障害のための低体温との関連性が考えられた症例4)もあり,筆者らの症例でも流行性角結膜炎の既往のある患者,緑内障点眼とソフトコンタクトレンズ装用を継続している患者,またレーシック術後の患者がいたが,はっきりとした原因は不明である.しかし,どの報告でも冬季に発症することは一致しており,寒冷環境下で発生する病変と考えられる.InoueらはCLandolt環型角膜上皮症の細胞レベルの病変の特徴を得るためにC11例中のC1例に対し,共焦点顕微鏡検査であるCHeidelbergCRetinCTomographCIICRostockCCorneaModuleを用いた.共焦点顕微鏡では角膜の最表層である角膜上皮表層細胞層から順に角膜上皮翼状細胞層,角膜上皮基底細胞層,Bowman層,角膜実質細胞層,角膜内皮細胞層が観察される.正常所見として,角膜上皮表層細胞層に存在する表層細胞は直径C50Cμm程度の高輝度の細胞質をもつ多角形細胞として観察され,翼状細胞層では低輝度の細胞質,高輝度の細胞境界が観察される5).Inoueらの報告では,病変における表層細胞の肥大化と細胞質の低輝度性変化,翼状細胞層での核と細胞膜の高輝度性変化,基底細胞層での異常な高反射析出物がみられたが,Bowman層以下では正常な形態的特徴を有していた2).筆者らのC3症例目でも共焦点顕微鏡を用いて病変の観察を行い,既報と同様に基底細胞層での高反射析出物を認めた.病変に対する治療として,筆者らはヒアルロン酸点眼,抗生物質点眼,ステロイド点眼を使用したが,著効したものはなく,Inoueらの報告でも発症してから数週.数カ月,治療の有無にかかわらず,散発性の悪化と自然寛解を呈するとされている2).予後についても上皮病変は瘢痕などを残さずに完全に消失していた.本疾患は視力低下を生じず,角膜上皮に不可逆的な瘢痕を残さない良性な疾患ではあるが,日常診療において本症例に遭遇した場合,冬季での再発も念頭に長期間のフォローアップが必要であると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)大橋裕一,前田直之,山本修士ほか:ランドルト環型角膜上皮炎のC1例.臨眼46:594-595,C19922)InoueT,MaedaN,XZhengXetal:Landoltring-shapedepithelialkeratopathy.anovelclinicalentityofthecornea.JAMAOphthalmolC133:89-92,C20153)細谷比左志:写真セミナー366.ランドルト環型角膜上皮炎.あたらしい眼科31:1631-1632,C20144)西田功一,岡本紀夫,高田園子ほか:ランドルト環型角膜上皮症のC1例.眼臨紀10:172,C20175)近間泰一郎:生体共焦点顕微鏡検査.日本の眼科C82:908-914,C2011C***