《第31回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科38(8):959.962,2021cMicrohooktrabeculotomyの術後6カ月成績の検討青木良太*1野口明日香*1田淵仁志*1中倉俊祐*1木内良明*2*1三栄会ツカザキ病院眼科*2広島大学大学院医系科学研究科視覚病態学CExaminationoftheSurgicalOutcomesofMicrohookTrabeculotomyat6-MonthsPostoperativeRyotaAoki1),AsukaNoguchi1),HitoshiTabuchi1),ShunsukeNakakura1)andYoshiakiKiuchi2)1)DepartmentofOphthalmology,SaneikaiTsukazakiHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,HiroshimaUniversityC目的:Microhooktrabeculotomy(以下,μLOT)の術後成績について報告する.対象および方法:ツカザキ病院眼科でCμLOTを施行した緑内障手術既往のないC62眼(単独手術C17眼,白内障同時手術C45眼)を対象とした.術前および術後C1,C3,6カ月の眼圧と点眼スコア,緑内障手術追加の有無,合併症を後ろ向きに検討した.結果:単独群の平均年齢はC57.4C±19.1歳,術前および術後C6カ月の眼圧はそれぞれC23.2C±5.1,15.2C±4.0CmmHgであり,白内障同時群の平均年齢はC72.5C±9.7歳,眼圧はそれぞれC18.5C±3.4,13.1C±2.6CmmHgであった.術後C6カ月で両群とも有意に眼圧は下降していた(p<0.01).単独群の術前および術後C6カ月の点眼スコアはそれぞれC3.1C±1.2,2.0C±1.3であり,白内障同時群ではそれぞれC2.3C±1.3,1.0C±0.9であった.術後C6カ月で単独群では有意な減少を認めなかったが(p>0.05),白内障同時群では有意に減少した(p<0.01).結論:術後C6カ月ではあるが,μLOTで良好な眼圧を得られた.CPurpose:ToCreportCtheCsurgicalCoutcomesCofCmicrohooktrabeculotomy(μLOT)C.Methods:InC62CeyesCthatCunderwentμLOT(17CμLOTCsingle-surgeryCeyes,CandC45CμLOT-Phacoeyes)C,Cpre-andCpostoperativeCintraocularpressure(IOP)andmedicationscoreswereretrospectivelyreviewed.Results:ThemeanpatientageintheμLOTandCμLOT-PhacoCgroupsCwasC57.4±19.1CyearsCandC72.5±9.7Cyears,Crespectively.CAtC6-monthsCpostoperative,CtheCmeanCIOPCdecreaseCinCtheCμLOTCgroupCandCμLOT-PhacoCgroupCeyesCwasCfromC23.2±5.1CmmHgCtoC15.2±4.0mmHg(p<0.01)C,CandCfromC18.5±3.4CmmHgCtoC13.1±2.6CmmHg(p<0.01)C,Crespectively.CTheCpreoperativeCandC6-monthsCpostoperativeCmedicationCscoresCwereC3.1±1.2CandC2.0±1.3(p>0.05)intheμLOTCgroupCandC2.3±1.3CandC1.0±0.9(p<0.01)intheμLOT-PhacoCgroup,Crespectively.CConclusion:AtC6-monthsCpostCsurgery,CourC.ndingsrevealedgoodIOPinbothμLOTandμLOT-Phacogroupeyes.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(8):959.962,C2021〕Keywords:谷戸式microhook,線維柱帯切開術,MIGS.Tanitomicrohookabinterno,trabeculotomy,minimallyinvasiveglaucomasurgery.Cはじめにトラベクレクトミーやプローブトラベクロトミーなどの眼外からの緑内障手術は古くから行われてきたが,近年,前房内から隅角にアプローチする術式が広まってきている.前房内からのアプローチで線維柱帯の抵抗を軽減させるための術式としてトラベクトーム,KahookDualBlade,microhook,5-0ナイロン糸を使う方法がある1).Microhookを用いた術式は,強膜フラップを作製せずに眼内から施行できる新しい術式であり,TanitoらによってCmicrohookCtrabeculotomy(μLOT)として報告された2).μLOTのメリットとしては2/3周という広範囲の切開が可能であること,手術手技が複雑でないこと,眼表面への侵襲が少ないこと,手術時間が短いことがあげられる3).μLOTの術後成績は報告されはじめている4.7)が,その数はまだ多くはない.そこで今回,μLOTの術後成績について検討したので報告する.〔別刷請求先〕青木良太:〒671-1227兵庫県姫路市網干区和久C68-1三栄会ツカザキ病院眼科Reprintrequests:RyotaAoki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SaneikaiTsukazakiHospital,68-1AboshikuWaku,Himeji-shi,Hyogo671-1227,JAPANCI対象および方法2019年C2月.2020年C5月にツカザキ病院眼科でCμLOTを施行した緑内障手術既往のないC62眼を対象とした.対象のうちC17眼が単独手術(以下,単独群),45眼が白内障同時手術(以下,白内障同時群)であり,各群の患者背景は表1に示すとおりであった.両群の術前および術後C1,3,6カ月の眼圧と点眼スコア,緑内障手術追加の有無,術後合併症の有無を後ろ向きに検討した.合併症の前房出血はニボーを伴うもの,一過性眼圧上昇はC30CmmHgを超えるものと定義した.点眼スコアは緑内障点眼薬C1種類につきC1点(配合剤は2点),アセタゾラミド内服をC1点とした.眼圧および点眼スコアはCDunnett法を用いて検定した.手術はC2名の術者(SNおよびCRA)によって施行した.単独群,白内障同時群ともに線維柱帯切開部位は,180°切開例では鼻側および下方,240°切開例では上方,鼻側,下方であった.白内障同時群では水晶体再建術を先行して行い,眼内レンズ挿入後に線維柱帯切開を施行した症例がC28眼,先に線維柱帯切開を行った症例がC17眼であった.白内障同時群における手術手順と合併症の関連についてはCFisherの直接確率計算法を用いて検定した.術後点眼はC2名の術者それぞれの判断で管理された.両名とも術直後は緑内障点眼をすべて中止し,術後C1カ月頃から目標眼圧に応じて緑内障点眼を再開した.ただし術後に眼圧上昇を認めた症例は,必要であればその時点から緑内障点眼を再開,もしくはアセタゾラミド内服薬を投与した.また,術直後から術後C1.3カ月までピロカルピン点眼を行った.表1両群の患者背景単独群白内障同時群症例数15例17眼29例45眼年齢(平均C±標準偏差)C57.4±19.1歳C72.5±9.7歳性別男性女性9例9眼6例8眼8例11眼21例34眼緑内障病型原発開放隅角緑内障原発閉塞隅角緑内障落屑緑内障混合型緑内障正常眼圧緑内障ステロイド緑内障若年性緑内障8眼(4C7.1%)0眼5眼(2C9.4%)0眼0眼3眼(1C7.6%)1眼(5C.9%)32眼(C71.1%)5眼(1C1.1%)3眼(6C.7%)3眼(6C.7%)2眼(4C.4%)0眼0眼Humphrey視野計C24-2のMD値(平均C±標準偏差)C.6.4±5.2CdBC.10.5±5.5CdB切開範囲(平均C±標準偏差)C189±31°C175±22°MD:meandeviation本研究はヘルシンキ宣言に則って行い,対象患者からは事前にインフォームド・コンセントを得た.また,ツカザキ病院の倫理委員会で承認を得たうえで行った.CII結果単独群の術前および術後C1,3,6カ月の眼圧はそれぞれC23.2C±5.1,17.2C±4.3,15.3C±1.9,15.2C±4.0mmHgであり,白内障同時群ではそれぞれC18.5C±3.4,13.7C±3.4,12.9C±3.0,C13.1±2.6CmmHgであった.両群とも術後すべての時点で術前と比較して有意に眼圧は下降していた(p<0.01,Dunnett法)(表2).単独群の術前および術後C1,C3,6カ月の点眼スコアはそれぞれC3.1C±1.2,0.5C±1.1,1.4C±1.2,2.0C±1.3であり,白内障同時群ではそれぞれC2.3C±1.3,0.3C±0.7,0.9C±1.0,1.0C±0.9であった.単独群の術後C1,3カ月,白内障同時群の術後すべての時点で術前と比較して有意に点眼スコアは減少しており(p<0.01,Dunnett法),単独群の術後C6カ月では有意差を認めなかった(p>0.05)(表2).単独群ではニボーを伴う前房出血がC4眼(23.5%),30CmmHgを超える一過性眼圧上昇がC3眼(17.6%)あり,白内障同時群では前房出血を3眼(6.7%),一過性眼圧上昇をC6眼(13.3%)に認めた(表3).白内障同時群で術後前房出血をきたしたC3眼のうち,2眼は眼内レンズ挿入後に線維柱帯を切開した症例であり,1眼は先に線維柱帯切開を行った症例であった.また,一過性眼圧上昇をきたしたC6眼は全例眼内レンズ挿入後に線維柱帯を切開した症例であった.手術手順と前房出血には関連はなく(p=0.68,Fisherの直接確率計算法),一過性眼圧上昇は先に水晶体再建術を行い眼内レンズ挿入後に線維柱帯を切開した症例で有意に多かった(p=0.046)(表3).両群とも術後前房出血をきたした症例は,全例経過観察のみで軽快した.単独群では緑内障手術の追加例はなく,白内障同時群では術後C4カ月目にC1眼に線維柱帯切除術を追加施行した.CIII考按本検討では単独群,白内障同時群ともに術後C6カ月で有意に眼圧は下降しており,点眼スコアは白内障同時群のみで有意な減少を認めた.過去の報告ではCμLOT単独手術では術前眼圧C25.9C±14.3mmHgから術後C6カ月でC14.5C±2.9CmmHgまで下降し,点眼スコアもC3.3C±1.0からC2.6C±0.5に減少した4)との報告や,術前眼圧C28.4C±7.8CmmHgから術後C12カ月にC17.8C±6.3CmmHgまで下降し,点眼スコアはC4.9C±1.1からC3.1C±1.6になった5)との報告がある.目標眼圧の違いによる術後点眼スコアの差が術後眼圧の差に影響している可能性はあるが,本検討の単独群は既報と同程度の術後眼圧が得られたと考える.本検討単独群の術後C6カ月の点眼スコアは術前と比較して有意差は認められなかったが,既報4.7)からは術前眼圧が高いほど術表2術前および術後1,3,6カ月の眼圧,点眼スコア単独群白内障同時群眼圧点眼スコア眼圧点眼スコア平均±標準偏差p値*平均±標準偏差p値*平均±標準偏差p値*平均±標準偏差p値*術前C23.2±5.1C3.1±1.2C18.5±3.4C2.3±1.3術後C1カ月C17.2±4.3<C0.01C0.5±1.1<C0.01C13.7±3.4<C0.01C0.3±0.7<C0.01術後C3カ月C15.3±1.9<C0.01C1.4±1.2<C0.01C12.9±3.0<C0.01C0.9±1.0<C0.01術後C6カ月C15.2±4.0<C0.01C2.0±1.3>C0.05C13.1±2.6<C0.01C1.0±0.9<C0.01*Dunnett法.術後各時点の値を術前と比較した.表3合併症単独群白内障同時群p値*前房出血4眼(2C3.5%)水晶体再建術から施行2眼C3眼(6C.7%)線維柱帯切開から施行1眼0.68一過性眼圧上昇3眼(1C7.6%)水晶体再建術から施行6眼C6眼(1C3.3%)線維柱帯切開から施行0眼0.046*Fisherの直接確率計算法.白内障同時群の手術手順と合併症の関連性を検定した.後眼圧も高く,術後点眼スコアも大きくなる可能性が考えられる.単独群の術前眼圧がC23.2CmmHgであったことを考えると,術後点眼スコアは減少しにくいと考えられる.また,独群は症例数が多くないことも有意差が出なかった一因になっている可能性がある.白内障同時手術では術前眼圧C16.4C±2.9CmmHgから術後C1年でC11.2C±2.2mmHgに下降し,点眼スコアC2.4C±1.2からC2.0±0.9になった6)との報告や,術前眼圧C19.0C±5.72CmmHgから術後C6カ月でC13.5C±1.72CmmHgまで下降し,点眼スコアもC3.67C±1.24からC2.00C±1.39に減少した7)との報告がある.本検討の白内障同時群は,Tanitoらの報告6)と比較すると術後眼圧がやや高くなっているが,既報の術後点眼スコア2.0に対し本検討ではC1.0と少なくなっており,単独群と同様に術後眼圧コントロールの方針の差が結果に影響している可能性があると考える.合併症については単独手術ではニボーを伴う前房出血が16.38%4,5),30CmmHgを超える一過性眼圧上昇がC4%4),術後C2週間以内に術前眼圧を超える一過性眼圧上昇がC36%5),白内障同時手術では前房出血がC3.41%6,7),30CmmHgを超える一過性眼圧上昇がC9.13%6,7)と報告されている.報告により差があるが,本検討の単独群,白内障同時群のいずれも過去に報告されている頻度の範囲内であった.白内障同時群を手術方法別にみると,後から線維柱帯を切開した症例で一過性眼圧上昇が多かった.過去にCTanitoら8)は,術後前房出血の存在や,血餅が線維柱帯切開部位を一時的に閉塞することが,一過性眼圧上昇の原因になっていると考察している.本研究の白内障同時群で術後一過性眼圧上昇をきたした症例は,全例,後から線維柱帯切開を行っていた.先に線維柱帯を切開すると,その後に続く水晶体再建術の時間が止血時間として働いていることが考えられる.また,先に水晶体再建術を施行した場合,皮質吸引時に眼内圧が低下してSchlemm管が充血することにより,線維柱帯切開時に出血しやすくなっている可能性がある.後から線維柱帯切開を行うと,niveauを作らない程度ではあっても,前房内の出血量が多くなり術後一過性眼圧上昇の原因になっている可能性がある.本研究は後ろ向き研究であり,とくに単独群の対象症例数が多いとはいえず,また術後C6カ月までの調査であった.さらに術後の抗炎症点眼薬や緑内障点眼薬の使用については各主治医の方針によって決定されているため,術後眼圧コントロールの方針が統一されていないことも本研究の限界としてあげられる.多数例で長期間の術後成績を検討することで,さらに有用な報告とすることを今後の課題と考える.術後C6カ月であるが,μLOT単独手術では術後緑内障点眼を継続することにより良好な眼圧を達成でき,白内障同時手術では少ない点眼で有意な眼圧下降を得られた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)TanitoCM,CMatsuoM:Ab-internoCtrabeculotomy-relatedCglaucomasurgeries.TaiwanJOphthalmolC9:67-71,C20192)TanitoCM,CSanoCI,CIkedaCYCetal:MicrohookCabCinternoCtrabeculotomy,CaCnovelCminimallyCinvasiveCglaucomaCsur-gery,ineyeswithopen-angleglaucomawithscleralthin-ning.ActaOphthalmolC94:e371-e372,C20163)TanitoM:MicrohookCabCinternoCtrabeculotomy,CaCnovelCminimallyCinvasiveCglaucomaCsurgery.CClinCOphthalmolC12:43-48,C20184)TanitoCM,CSanoCI,CIkedaCYCetal:Short-termCresultsCofCmicrohookCabCinternoCtrabeculotomy,CnovelCminimallyCinvasiveCglaucomaCsurgeryCinCJapaneseeyes:initialCcaseCseries.ActaOphthalmolC95:e354-e360,C20175)MoriCS,CMuraiCY,CUedaCKCetal:ACcomparisonCofCtheC1-yearCsurgicalCoutcomesCofCabCexternoCtrabeculotomyCandCmicrohookCabCinternoCtrabeculotomyCusingCpropensityCscoreanalysis.BMJOpenOphthalmolC5:e000446,C20206)TanitoCM,CIkedaCY,CFujiharaE:E.ectivenessCandCsafetyCofCcombinedCcataractCsurgeryCandCmicrohookCabCinternotrabeculotomyinJapaneseeyeswithglaucoma:reportofaninitialcaseseries.JpnJOphthalmolC61:457-464,C20177)OmotoCT,CFujishiroCT,CAsano-ShimizuCKCetal:Compari-sonCofCtheCshort-termCe.ectivenessCandCsafetyCpro.leCofCabCinternoCcombinedCtrabeculotomyCusingC2CtypesCofCtra-becularhooks.JpnJOphthalmolC64:407-413,C20208)TanitoM,OhiraA,ChiharaE:FactorsleadingtoreducedintraocularCpressureCafterCcombinedCtrabeculotomyCandCcataractsurgery.JGlaucomaC11:3-9,C2002***