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心房細動に対するカテーテルアブレーション後に発症した MLF 症候群の1 例

2021年8月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科38(8):972.976,2021c心房細動に対するカテーテルアブレーション後に発症したMLF症候群の1例三善重徳小笠原聡鳴海新平大高幸二黒坂大次郎岩手医科大学医学部眼科学講座CACaseofMLFSyndromeAfterRadiofrequencyCatheterAblationforAtrialFibrillationShigenoriMiyoshi,SatoshiOgasawara,ShinpeiNarumi,KojiOhtakaandDaijiroKurosakaCDepartmentofOphthalmology,IwateMedicalUniversitySchoolofMedicineC緒言:内側縦束(mediallongitudinalfasciculus:MLF)症候群は,一側の外転神経核から対側の動眼神経核をつなぐCMLFの障害で生じ,MLF障害側と同側の眼の内転制限を認める.カテーテルアブレーション(radiofrequencyCcatheterablation:RFCA)後の症候性脳梗塞の発症率は低く,RFCA直後に発症したCMLF症候群についての報告は過去にはない.今回,心房細動(atrial.brillation:AF)に対するCRFCA後に発症したCMLF症候群のC1例を報告する.症例:75歳,女性.AFに対してCRFCAを施行され,治療翌日から両眼性複視を自覚,輻湊可能であったが,右眼内転制限を認めた.頭部CMRI拡散強調画像で右中脳から橋背側にかけて高信号域を認め,急性期脳梗塞に起因したCMLF症候群と診断した.結論:RFCA後のCMLF症候群では急性期脳梗塞を疑う必要があると考えられた.CPurpose:Mediallongitudinalfasciculus(MLF)syndromeisadisorderoftheMLF,thenervebundleconnect-ingCtheCabducensCnucleusConConeCsideCtoCtheCoculomotorCnucleusConCtheCcontralateralCside.COneCrareCbutCpossibleCcauseCofCthisCsyndromeCisCcerebralCinfarction.CSymptomaticCcerebralCinfarctionCafterCradiofrequencyCcatheterCabla-tion(RFCA)israre,andtherehavebeennopreviousreportsofMLFsyndromedevelopingafterRFCA.Herewereport,CtoCtheCbestCofCourCknowledge,CtheC.rstCcaseCofCMLFCsyndromeCafterCRFCACforCatrial.brillation(AF).CCase:StartingCat1-dayCafterCRFCA,CaC75-year-oldCwomanCexperiencedCnewCbinocularCdiplopia,CinabilityCtoCcon-verge,CandCrestrictedCcapacityCforCrightCadduction.CMagneticCresonanceimaging(MRI).ndingsCcon.rmedCacuteCcerebralCinfarctionCfromCtheCrightCmidbrainCtoCtheCbackCofCtheCbridge,CandCtheCpatientCwasCdiagnosedCwithCMLFCsyndromeCcausedCbyCcerebralCinfarction.CConclusion:AcuteCcerebralCinfarctionCshouldCbeCsuspectedCwhenCMLFCsyndromedevelopsafterRFCA.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(8):972.976,C2021〕Keywords:MLF症候群,心房細動,RFCA,脳梗塞.MLFsyndrome,atrial.brillation,radiofrequencycatheterablation,cerebralinfarction.Cはじめに内側縦束(medialClongitudinalfasciculus:MLF)症候群は,患側眼の内転障害,反対側眼の外転時に発生する単眼性水平眼振,良好な輻湊を三徴候とする1).若年者では多発性硬化症によるものが多いが,血管系の危険因子をもった高齢者では脳血管病変が原因として最多である2).今回筆者らは,心房細動(atrial.brillation:AF)に対するカテーテルアブレーション(radiofrequencyCcatheterablation:RFCA)後に発症したCMLF症候群のC1例を経験した.AFに対するCRFCA後の症候性脳梗塞の発症率はC0.5%程度と報告され3,4),頻度の少ない合併症である.また,本症例のようにCRFCA直後に発症したCMLF症候群の報告は筆者らが文献を渉猟した限り今までに報告がなく,まれな症例であると考えられたので,若干の知見と合わせて報告す〔別刷請求先〕三善重徳:〒028-3695岩手県紫波郡矢巾町医大通C2-1-1岩手医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:ShigenoriMiyoshi,DepartmentofOphthalmology,IwateMedicalUniversitySchoolofMedicine,1-1CIdaidori2-chome,Yahaba-cho,Shiwa-gun,Iwate028-3695,JAPANC972(124)る.CI症例患者:75歳,女性.主訴:両眼性複視.既往歴:非弁膜症性心房細動,高血圧,骨粗鬆症,脂質異常症.現病歴:X年,AFに対するCRFCA目的で,当院循環器内科に入院した.術前から抗凝固療法はなされ,術前の経食道心臓超音波検査で心臓内血栓は確認されなかった.RFCAを施行し洞調律に復帰し,神経学的異常は認めなかった.治療翌日,起床時から複視を自覚するようになり,症状が持続するため,RFCA後C2日目に当科紹介となった.初診時眼所見:矯正視力は両眼ともに(1.0)であった.瞳孔正円同大で,対光反射両側迅速,眼瞼下垂も認めなかった.右眼内転制限と左方視時の左眼水平性眼振がみられたが,輻湊は可能であった.また,全方向で両眼性複視を自覚し,左方視で増悪した(図1,2).前眼部,中間透光体,眼底に異常は認めなかった.神経学的所見(当院神経内科の所見):意識清明.失行なし.失認なし.失語なし.顔面感覚異常なし.顔面神経麻痺なし.構音障害なし.カーテン徴候なし.協調運動障害なし.表在覚異常なし.位置覚異常なし.振動覚異常なし.四肢の運動障害なし.腱反射亢進なし.病的反射なし.その他の所見(術前血液検査):WBC7,580/μl,RBC335万/μl,Hb10.5Cg/dl,Ht30.9%,PLT14.7万/μl,APTT31.4sec,PT-INR1.28sec,Dダイマー<0.5Cμg/ml.経過および治療:右眼CMLF症候群と診断し,頭部核磁気図1初診時のHessチャート右眼内転制限を認めた.図29方向眼位写真第C1眼位では正位.右眼内転制限があったが,輻湊可能であった.図3頭部単純MRI画像(DWI)右中脳から橋背側にかけて,高信号域を認めた.共鳴画像(magneticresonanceimaging:MRI)を施行した.拡散強調画像(di.usionweightedimage:DWI)で右中脳から橋にかけて背側正中寄りに高信号域を認めたため,急性期脳梗塞と診断した(図3).同日,加療目的に当院神経内科転科となった.点滴静注による脳保護療法を開始し,術前から行われていた抗血小板薬の内服療法を継続した.第C6病日に再度施行された頭部CMRIでは,DWIで右中脳に亜急性脳梗塞性変化を認めたが,新規脳梗塞の発症は認めなかった.第20病日,複視は残存していたが,右眼内転制限は改善傾向にあり,自宅退院となった.退院時は,複視も軽減していた.その後も当院外来で経過観察を継続し,発症C6カ月の再来時,右眼内転制限はさらに改善し,複視の自覚も消失した(図4,5).図4発症から6カ月後のHessチャート右眼内転制限は,初診時より改善した.図5発症から6カ月後の9方向眼位写真右眼の眼球運動障害は改善傾向にあった.II考按MLF症候群の原因は,若年者では多発性硬化症がもっとも疑われ,そのほかに感染症などによって生じる可能性もある2).しかし,血管系の危険因子をもった高齢患者では,脳血管病変によって生じるものが最多である2).Bolanosらの報告では核間性眼球麻痺の最大の原因は脳血管病変(脳梗塞)であり,追跡研究でもC37%を占めていた5).本症例でもRFCAの術翌日に複視や内転障害が出現し,中脳から橋にかけての脳梗塞を発症していたことから,MLF症候群の原因は急性期脳梗塞と考えられた.Nakamuraらの報告によると,RFCA翌日に施行された頭部CMRI検査では,160人中C43人(26.3%)で急性期脳梗塞が確認された6).そして,病巣は中脳がもっとも多かった(46.9%)が,そのC43人はすべて無症候性脳梗塞であった6).一方で,病巣や神経学的異常所見についての詳細は不明であるが,InoueらはCRFCA後に症候性脳梗塞がC1,049人中C2人(0.5%)で発症したと報告している4).したがって,RFCA後に症候性脳梗塞が発症する確率は低く,過去にCMLF症候群を呈した報告も筆者らが文献を渉猟した限りないため,本症例は希少な症例であったと考えられる.本症例のように運動失調や上斜視などの随伴症状のないMLF症候群は,過去にCKobayashiら7)や,Puneetら8)が報告している.彼らの報告したC3例はすべて中脳の微小梗塞により発症したと報告されていた7,8).RFCA後の脳梗塞は洞調律に復帰した際に左心房内血栓が脳血管に飛んで発症する場合が一般的である.しかし,本症例では術前に左心房内血栓が確認されなかった.そのため,心エコーで検出できないほどの微小血栓や,焼灼部位やシースなどの人工器具内部で術中に形成された微小血栓に起因して,微小梗塞がCMLFに限局したために随伴症状を認めなかった可能性が考えられた.微小梗塞が原因の場合,頭部CMRIで診断するのは困難な場合が多いとされている9).本症例ではスライス厚がC3Cmmの頭部CMRIで病変を確認できた.柴山らは脳血管障害による一側性核間性眼筋麻痺症例C10例中,MLFに一致して異常所見を検出できた症例はC5例だったと報告している10).柴山らの責任病巣を同定できたC5例は,頭部CMRI画像のスライス厚がC4.4CmmからC7.8Cmmの範囲で撮影されていたが,責任病巣が不明であったC5例はC7.8CmmからC9.9Cmmのより厚いスライス厚で撮影されていた10).また,中嶋らの報告ではスライス厚がC5Cmmの頭部CMRIで病変を確認できなかったが,3Cmm厚のスライスで撮影した頭部CMRIでは検出することができたとしている9).以上のことから,MLF症候群の原因精査で脳梗塞を疑った場合には,スライス厚を薄くした条件でCMRIを施行するべきだと考える.本症例では発症からC6カ月経過し,眼球運動障害はほぼ改善していた.脳梗塞に起因したCMLF症候群の眼球運動障害の予後について,大淵らは観察したC4例すべてで治癒し,眼球運動障害の持続期間はC1日からC22日(平均C9.3日)であったと報告している11).また,柴山らも眼球運動障害の持続期間は平均C25.4日と報告している10).これらのことから,MLF症候群の眼球運動障害の予後は,障害の持続期間に差はあるものの比較的良好と考えられた.予後良好な理由としては,病変が微少であることに加えて,MLFが存在する部位の支配血管の吻合が豊富であることが考えられる11).CIII結論RFCA後の症候性脳梗塞に起因して発症したCMLF症候群のまれなC1例を経験した.RFCA後に認めたCMLF症候群では,急性期脳梗塞の発症を考慮する必要があると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)梅野祐芳,野田哲哉,中島成人:MRIで確認し得た脳梗塞によるCMLF症候群の一例回旋性振,輻輳障害および患側眼の滑車,外転神経麻痺の合併.EquilibriumCResearchC52:165-168,C19932)PlummerCNR,CThorpCT,CSultanS:SuddenConsetCdoubleCvision.BMJ348:1-3,C20143)渡辺則和:カテーテルアブレーション術前,術中,術後の服薬管理と合併症対策.ProgressCinCMedicineC37:1293-1299,C20174)InoueK,MurakawaY,NogamiAetal:CurrentstatusofcatheterCablationCofCatrialC.brillationCinJapan:SummaryCofCthe4CthCsurveyCofCtheCJapaneseCCatheterCAblationCReg-istryCofCAtrialFibrillation(J-CARAF).JCCardiolC68:C83-88,C20165)BolanosI,LozanoD,CantuC:Internuclearophthalmople-gia:causesCandClong-termCfollow-upCinC65Cpatients.CActaCNeurolScandC110:161-165,C20046)NakamuraT,OkishigeK,KanazawaTetal:IncidenceofsilentCcerebralCinfarctionsCafterCcatheterCablationCofCatrialC.brillationCutilizingCtheCsecond-generationCcryoballoon.CEuropace19:1681-1688,C20177)KobayashiZ,IizukaM,TomimitsuHetal:IsolatedmediC-allongitudinalfasciculussyndromeduetosmallmidbraininfarction.NeurolClinNeurosci2:112-113,C20148)PuneetK,YogeshK,PranavSetal:Isolatedmediallon-gitudinalCfasciculussyndrome:ReviewCofCimaging,Canato-my,pathophysiologyanddi.erentialdiagnosis.Neuroradi-olJC31:95-99,C20189)中嶋匡,西村裕之,西原賢太郎ほか:MLF症候群と運動失調にて発症した中脳梗塞のC1例.脳卒中C29:479-482,200711)大淵豊明,宇高毅,楽居直明ほか:核間性眼筋麻痺症例10)柴山秀博,佐藤進,長谷川政二ほか:MLF症候群─血管における症状とCMRI所見.日本耳鼻咽喉科学会会報C109:障害を中心としたその臨床とCMRI所見の検討─.神経内科C96-102,C2006C46:359-365,C1997***