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ANCA 関連血管炎が原因と考えられる外転神経麻痺の1 例

2022年9月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科39(9):1261.1265,2022cANCA関連血管炎が原因と考えられる外転神経麻痺の1例上杉義雄*1大西純司*1立石守*1小島一樹*1渡邉佳子*1竹内正樹*2水木信久*2*1国際親善総合病院眼科*2横浜市立大学大学院医学研究科眼科学CCaseofAbducensNervePalsyThoughtCausedbyANCA-AssociatedVasculitisYoshioUesugi1),JunjiOnishi1),MamoruTateishi1),KazukiKojima1),YoshikoWatanabe1),MasakiTakeuchi2)andNobuhisaMizuki2)1)DepartmentofOphthalmology,InternationalGoodwillHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,YokohamaCityUniversityGraduateSchoolofMedicineC目的:ANCA関連血管炎が原因と考えられる両側外転神経麻痺の症例を経験したので報告する.症例:74歳,男性,ANCA関連肺疾患の維持療法中に右外転神経麻痺による複視が出現した.シクロホスファミドによる寛解導入療法とアザチオプリン,プレドニゾロンによる維持療法を施行し,右眼外転障害は改善傾向であったが,プレドニゾロン漸減後に増悪傾向に転じた.リツキシマブで再度寛解導入療法施行したが増悪傾向が続き,さらに左外転神経麻痺が出現し両側の外転神経麻痺となった.その後プレドニゾロンのみ継続したが両側外転神経麻痺の改善は得られなかった.結論:本症例はミエロペルオキシダーゼ(MPO)陽性の分類不能例と考えられた.ANCA関連血管炎には外転神経麻痺が合併する可能性があり,治療では内科医と薬剤投与量,疾患活動性,症状改善の有無などの情報を共有し,連携して治療にあたることが必要である.CPurpose:Toreportacaseofbilateralabducensnervepalsy(ANP)thoughtcausedbyanti-neutrophilcyto-plasmicantibody(ANCA)C-associatedvasculitis(AAV)C.CCaseReport:ThisCstudyCinvolvedCaC74-year-oldCmaleCwithCdiplopiaCdueCtoCrightCANPCthatCappearedCduringCtherapyCforCANCA-associatedClungCdisease.CForCtreatment,Ccyclophosphamide,CasCwellCasCmaintenanceCtherapyCwithCazathioprineCandCprednisolone,CwasCperformed,CandCtheCpatient’srightANPimproved.However,itworsenedafterthetaperingofprednisolone.Remissioninductionthera-pywasonce-againtriedwithrituximab,yetexacerbationtendedtocontinueandleftANPappeared,thusresult-inginbilateralANP.Subsequently,onlytreatmentwithprednisolonewascontinued.However,noimprovementinbilateralCANPCwasCobtained.CConclusion:ThisCcaseCwasCconsideredCtoCbeCanCmyeloperoxidase-positiveCunclassi.ablecase.AAVmaybeassociatedwithANP,andtreatmentshouldbecarriedoutviasharinginformationsuchasdrugdose,diseaseactivity,andthepresenceorabsenceofsymptomimprovementwiththeattendingphy-sician.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(9):1261.1265,C2022〕Keywords:ANCA関連血管炎,MPO,外転神経麻痺.ANCA-associatedvasculitis,MPO,abducensnervepalsy.CはじめにANCA関連血管炎(ANCA-associatedvasculitis:AAV)が原因として疑われる外転神経麻痺の報告は非常に少ない.AAVに合併する眼病変としては結膜炎,強膜炎,周辺部角膜潰瘍,虹彩炎,網膜血管炎,網膜出血,眼窩の腫瘤性病変などがある1).AAVで脳神経が障害される頻度はC2.10%であり,影響を受ける脳神経はCII.VIIIの脳神経であるという報告がある2.4).今回,AAVが原因と考えられる右外転神経麻痺の診断で寛解導入療法,維持療法を施行するも両側の外転神経麻痺をきたした症例を経験したので報告する.CI症例患者:74歳,男性.主訴:複視.〔別刷請求先〕上杉義雄:〒252-0157神奈川県相模原市緑区中野C256相模原赤十字病院眼科Reprintrequests:YoshioUesugi,DepartmentofOphthalmology,SagamiharaRedCrossHospital,256Nakano,Midori-ku,Sagamihara,Kanagawa252-0157,JAPANCMPO定量(IU/ml)400350300250200150100500年月日図1MPO陽性を認めてからのMPO定量の推移寛解導入療法と維持療法により陰性化しているが,2017年C7月.2018年C2月にかけて軽度上昇を認める.既往歴:特記事項なし.アレルギー:花粉症(スギ)嗜好歴:喫煙20本/日(20.70歳),飲酒歴日本酒C1合/日.現病歴:2015年C1月に発熱・咳嗽が出現し,近医で抗菌薬を処方されるも改善せず,3月に国際親善総合病院(以下,当院)内科を受診した.血液検査でCRP18.98mg/dl,CWBC14,010/μlと炎症反応上昇があり,胸部CCTではすりガラス陰影や結節陰影が散在していた.クラリスロマイシン,セフトリアキソンを投与するも発熱,咳嗽は改善せず,胸部陰影は増悪し,全身関節痛も出現した.各種自己抗体を測定したところミエロペルオキシダーゼ(myelo-peroxidase:MPO)定量C219.0CIU/mlと高値であったことからCAAVの関与が疑われた.気管支鏡検査を施行したところ,軽度の間質性病変を伴うびまん性肺胞出血および血管炎がみられ,顕微鏡的多発血管炎(microscopicCpolyangiitis:MPA)として典型的ではないが,臨床的にCANCA関連肺疾患として矛盾しない所見であり,MPO-ANCA関連肺疾患の診断となった.静注シクロホスファミド(cyclophospha-mide:CY)1,000Cmgによる寛解導入療法施行後,プレドニゾロン(prednisolone:PSL)とシクロスポリンCA(ciclospo-rinA:CsA)内服で維持療法が開始された.発熱,咳嗽は改善し,胸部陰影も改善し内服終了となった.2016年C1月に滲出性中耳炎を発症し,MPO定量C15.2CIU/mlと上昇を認めたため(図1),CsA150Cmg/日より再開された.2018年1月CCsA150Cmg/日,PSL10Cmg/日で維持療法中であったところ複視を自覚し,眼科を受診した.眼科初診時所見:・身体所見:意識清明,言語正常,運動障害なし,感覚障害なし,協調運動障害なし.・眼所見:前眼部異常なし,中等度白内障あり,眼底異常なし,乳頭浮腫なし.眼球運動:右眼外転障害(+).対光反射正常,瞳孔不同(.),眼振(C.),眼球突出(C.),眼瞼下垂(C.).・視力:右眼0.5(1.0×+2.00D(cyl.0.50DAx45°),左眼C0.4(0.6×+2.00D(cyl.0.50DAx100°).・眼圧:右眼C14mmHg,左眼C14mmHg.・HESS赤緑試験(図2):右眼外転障害(+).・血液検査所見(表1)CCRP0.06Cmg/dl,WBC5,580/μl,血沈(1時間値)24mm,MPO判定(+),MPO定量C11.7CIU/ml(基準値C3.5未満).・頭部CMRI(図3):右外直筋萎縮あり,左乳頭蜂巣に乳様突起炎あり,硬膜肥厚なし,内頸動脈海綿静脈洞瘻なし,副鼻腔の肉芽種なし,その他粗大病変なし.・頭部MRA異常所見なし.経過:AAVによる右外転神経麻痺の診断で,2018年C2月に静注CCY800Cmgで寛解導入療法を施行したのちに,ア図2Hessチャート上から2018年C1月:眼科初診時,右眼に軽度外転障害を認める.2018年C2月:寛解導入療法後,初診時よりも右外転障害は増悪した.2018年C7月:発症からC6カ月後,もっとも外転障害が改善したとき.2018年C11月:発症からC10カ月後,リツキシマブで寛解導入療法後,右外転障害に加えて左外転障害が出現した.表1眼科初診時(2018年2月)の血液検査結果結果単位基準値血糖C111Cmg/dl70.110CBUNC25Cmg/dl8.20クレアチニンC1.69Cmg/dl0.6.1.1CeGFRC31.890以上CRP定量C0.0.6Cmg/dl0.3以下白血球数C5580C/μl4,000.8,000血沈(1時間値)C24Cmm0.10CKL-6C314CU/ml500未満MPO判定(+)MPO定量C11.7CIU/ml3.5未満血沈,MPO定量の上昇を認める.図3眼科初診時の頭部MRI右外直筋萎縮を認める.ザチオプリン(azathioprine:AZA)100mg/日とPSLC50mg/日の内服を開始した.治療開始からC1カ月後,右眼外転障害はさらに増悪したが,2カ月後には改善傾向を示した.また,3カ月後のCMPO定量はC2.8CIU/mlと陰性化していた.CAZA100Cmg/日は継続し,PSLを漸減した.右眼外転障害は改善傾向であり,5カ月後にCPSL5Cmg/日とした.7カ月後に右眼外転障害が増悪したため,PSL10Cmg/日に増量したが右眼外転障害はさらに増悪した.このときCMPO定量は1.6CIU/mlと上昇はみられなかった.PSLをさらに増量すると,再度漸減後に右眼外転障害が再燃することが予測されたことからCPSL増量はせずに,リツキシマブ(rituximab:RTX)600CmgをC1週間ごとにC4回投与し,PSL10Cmg/日も継続した.右眼外転障害は増悪し続け,10カ月後には左眼外転障害も出現し両側の外転神経麻痺となった.このときMPO定量はC2.0IU/mlと上昇はみられなかった.その後PSLをC40Cmg/日に増量し半年間経過をみたが両側外転障害に改善はみられなかった.MPO定量は毎月測定していたが,複視出現後に陰性化してからはC1度も陽性化はみられなかった.CII考按外転神経麻痺の原因として糖尿病,虚血,高血圧,頭蓋内圧亢進,頭部外傷,髄膜炎,脳動脈瘤,血管炎,多発性硬化症,脳梗塞,頭蓋内出血や腫瘍による神経圧迫,甲状腺眼症,Fisher症候群,外眼筋炎,Tolosa-Hunt症候群などが鑑別にあげられる.本症例では上記疾患のなかで虚血と血管炎以外を疑う所見を認めず,虚血または血管炎が原因として考えられた.眼科初診時にCANCA関連肺疾患の維持療法中であったこと,AAVが原因として疑われる中耳炎の既往があったこと,MPO定量がC11.2CIU/mlと陽性となっていたことから,AAVに合併した外転神経麻痺がもっとも疑われた.寛解導入療法後に一時的ではあったものの右眼外転障害が改善したことから,AAVに合併した外転神経麻痺として矛盾しないと考えられた.また,最終的に両側の外転神経麻痺となったことから,全身性疾患であるCAAVが原因であった可能性が高いと考えられた.AAVは抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophilCcytoplasmicantibody:ANCA)が病態に関与しており,ANCAにはMPO-ANCAとCPR3-ANCAの二つのサブタイプがある.また,AAVはCMPA,多発血管炎性肉芽腫症(granulomato-siswithpolyangiitis:GPA),好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(eosinophilicCgranulomatosisCwithpolyangiitis:EGPA)のC3疾患に分類され,いずれも特徴的な肺病変を認める.MPAでは肺胞出血や間質性肺炎,GPAでは上・下気道に肉芽腫性血管炎,EGPAでは喘息および好酸球浸潤を認める肉芽腫性血管炎を生じる.3疾患の日本での頻度はCMPAC50%,GPA21%,EGPA9%であり,また分類不能例をC20%に認め,このうちのC94%がCMPO-ANCA陽性である5).また,AAV患者の遺伝因子は疾患分類よりもCANCAサブタイプへの関連が強いと報告されている5).ANCAサブタイプと疾患分類の組み合わせは患者ごとに異なることから,AAVをCMPO-ANCA陽性CAAVとCPR3-ANCA陽性CAAVに分け,そこに疾患分類を組み合わせて,たとえばCMPO-MPAやCMPO-GPAなどのようにCANCAと疾患分類を同時に記載するという考え方が提案されている5).本症例ではEGPAの特徴である好酸球増多はみられておらず,MPAまたはCGPAであったと考えられるが,MPA,GPAのどちらの診断基準も満たしており,病理所見からもMPA,GPAのどちらかを確定することは困難であった.MPAで多くみられる間質性肺炎や外転神経麻痺の原因として考えられる血管炎による神経炎と,GPAで多くみられる中耳炎を合併していた本症例はCMPO-ANCA陽性の分類不能例であった可能性が高い.本症例ではCAAVの再燃として中耳炎と外転神経麻痺をきたしたと考えられるが,どちらも陰性化していたCMPO定量が軽度ではあるが上昇し陽性となっている期間に発症していた.このことからCMPO定量が基準値のC3.5CIU/mlを超えていることは再燃の一つの予測因子になると考えられる.しかし,MPO定量が陰性化してからは一度も陽性化はみられなかったにもかかわらず,外転神経麻痺は改善傾向から増悪傾向に転じた.AAVではCMPO-ANCA再陽性化は再燃の予知因子として有用とされているが6),ANCA値のみで疾患活動性を判断せずに臨床所見と合わせて治療方針を検討することが重要と考えられる.AAV再燃時の治療として明確な基準はない7)が,再燃した場合,PSL,CY,AZAなどの投与量を寛解導入期の投与量(PSL:1mg/kg/日,静注CCY:15Cmg/kgをC2.3週ごと,AZA:2Cmg/kg/日)に戻すことが推奨されている7).本症例では外転神経麻痺が出現してからC1回目の寛解導入療法で静注CCYをC1回しか施行しなかった点が推奨される治療方法と異なっており,右眼外転障害が軽快するまでC2.3週ごとに施行することでよりよい治療結果を得られた可能性がある.また,静注CCYで外転神経麻痺の改善傾向を得られていたことから,2回目の寛解導入療法もCRTXではなくCCYを選択したほうが改善を得られた可能性がある.また,PSL減量方法は維持療法を検討したCCYCAZAREMでCPSLをC1Cmg/kg/日から開始し,1週間ごとにC0.75,0.5,0.4Cmg/kgと減量し,以後漸減するプロトコールが推奨されている7).また,2009年CEULARrecommendationではC3カ月以内にCPSL15mg/日未満に減量すべきではないとされている7).本症例ではCPSL減量は推奨方法に従ったものであった.AAVに合併した外転神経麻痺の報告は,国内でC2009年にCMPO-ANCA関連肺疾患に合併した外転神経麻痺の報告が1例あり8),維持療法でCCsA200Cmg/日とCPSLC12.5Cmg/日を併用していたところ外転神経麻痺が出現し,CsAC200mg/日を継続したままメチルプレドニゾロンC1CgをC3日間投与後,PSL40Cmg/日投与にてC1週間で外転神経麻痺は軽快し,麻痺の改善後にCPSL15Cmg/日へ漸減し外転神経麻痺の再燃はみられていない.今回,筆者らは両側外転神経麻痺を合併したCAAVのC1例を経験した.AAVに外転神経麻痺を合併した患者では,臨床所見の改善・増悪の程度,疾患活動性,薬剤投与量などの情報を内科と共有し,連携して治療を行うべきと考えられる.文献1)宮永将,高瀬博:ANCA関連血管炎;専門領域の視点からANCA関連血管炎の眼病変.日本臨牀C76:355-359,C20182)ZhengY,ZhangY,CaiMetal:CentralnervoussysteminvolvementinANCA-associatedvasculitis:whatneurol-ogistsneedtoknow.FrontNeurolC9:1166,C20183)RothschildPR,PagnouxC,SerorRetal:OphthalmologicmanifestationsCofCsystemicCnecrotizingCvasculitidesCatdiagnosis:aCretrospectiveCstudyCofC1286CpatientsCandCreviewoftheliterature.SeminArthritisRheumC42:507-514,C2013C4)伊野田悟,吉田淳,川島秀俊:視神経障害を発症したと思われるCANCA関連血管炎のC1例.臨眼C69:869-873,C20155)有村義宏:ANCA関連血管炎診療の進歩.日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会雑誌39:19-24,C20196)白井剛志,石井智徳:全身疾患におけるCANCA測定の意義.MBENTONI:17-22,C20187)尾崎承一,槇野博史,松尾清一:ANCA関連血管炎の診療ガイドライン.厚生労働省難治性疾患克服研究事業:C53-72,C20118)岡田秀明,望月吉郎,中原保治ほか:外転神経麻痺を併発した間質性肺炎合併顕微鏡的多発血管炎のC1例.日本呼吸器学会雑誌C47:1015-1019,C2009***