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携帯電話・スマートフォン使用時および書籍読書時における視距離の比較検討

2015年1月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科32(1):163.166,2015c携帯電話・スマートフォン使用時および書籍読書時における視距離の比較検討野原尚美*1松井康樹*2説田雅典*3野原貴裕*3原直人*4*1平成医療短期大学視機能療法専攻*2平成医療専門学院*3大垣市民病院眼科*4国際医療福祉大学保健医療学部視機能療法学科ComparativeStudyofVisualDistanceswhileUsingMobilePhones/SmartphonesandReadingBooksNaomiNohara1),KoukiMatui2),MasanoriSetta3),TakahiroNohara3)andNaotoHara4)1)DivisionOrthptics,HeiseiCollegeofHealthSciences,2)HeiseiCollegeofMedicalTechnology,3)4)DepartmentofOrthopticsandVisualSciences,InternationalUniversityofHealthandWelfareOgakiMunicipalHospital,携帯電話ならびにスマートフォン使用時と,書籍読書時の視距離を比較した.学生67名を対象として,常用している眼鏡やコンタクトレンズ装用下で,1)携帯電話とスマートフォンによるメール作成時と書籍読書時の視距離,2)スマートフォンでゲーム操作時,ウェブサイトを見ているとき,歩行しながらのメール作成中の視距離を測定した.視距離は,角膜頂点から画面までとし実際にメジャーで測定した.読書時の平均視距離は33.7±5.7cm,スマートフォンによるメール作成時は27.7±4.8cm,携帯電話でのメール作成時は27.8±5.0cmであり,書籍を読む場合に比べ有意に近かった(p<0.001).歩行でのメール作成時は26.5±5.0cm,文字が小さいウェブサイトを見ているときは19.3±5.0cmであった.Informationandcommunicationtechnology(ICT)環境下では,日常的に30cm以下で画像を長時間見続けることから,近見反応への負荷がかかる.Wecomparedvisualdistancesinusingmobilephonesorsmartphonesandreadingbooks.Subjectswere67students,whosevisualdistancesweremeasuredwhile1)composinganemailonamobilephoneandsmartphone,andwhilereadingabook,and2)playingagameonasmartphone,lookingatawebsite,andcomposinganemailwhilewalking,wearingtheiraccustomedcorrectivelenses.Visualdistancesweremeasuredfromthecornealapextothescreenorpage.Meandistanceswere33.7±5.7cmwhenreadingabook,27.7±4.8cmwhencomposinganemailonasmartphone,and27.8±5.0cmwhencomposinganemailonamobilephone,significantlyshorterthanwhenreadingabook(p<0.001).Meandistanceswere26.5±5.0cmwhencomposinganemailwhilewalking,and19.3±5.0cmwhenlookingatawebsitewithsmallfontsize.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(1):163.166,2015〕Keywords:ICT,デジタルディバイス,近視,近見反応,調節.ICT,digitaldevices,myopia,nearresponse,accommodation.はじめに近年,携帯電話やスマートフォンなど小型デジタル機器による,メールやゲーム,ウェブサイトを見るなど画面を見ている時間が延びていることが報告されている1).デジタル映像の場合,米国では,新聞や本・雑誌の印字を読む場合の平均視距離は約40.6cm,スマートフォンでメールを送受信した場合の平均視距離は35.6cmで,ウェブページを見るときの平均視距離は32cmであった2).このように,デジタルディバイスを使用した場合,視距離が近くなることで,近視進行のメカニズムの一つである調節負荷となることが考えられる.また,近見視力は30cmで検査をしているが,それよりもっと近づくとなると,多焦点眼鏡,コンタクトレンズ,眼内レンズの設計や処方法などにおいても影響を与えると考えられる.そこで今回筆者らは,日本人若年者の携帯電〔別刷請求先〕野原尚美:〒501-1131岐阜市黒野180平成医療短期大学Reprintrequests:NaomiNohara,HeiseiCollegeofHealthSciences,180Kurono,Gifu501-1131,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(163)163 話ならびにスマートフォン使用時の視距離を測定し,紙書籍を読んでいるときの視距離と比較したので報告する.I対象および方法平成医療専門学院視能訓練学科に在籍している67名(男性14名,女性53名)の学生で,年齢は19.31歳(平均年齢20.2歳)であった.屈折異常は,等価球面値にて+5.00Dから.2.50D,矯正視力は遠見・近見ともに1.0以上で,両眼視機能は,Titmusstereotestにてすべて60sec以上を認めている屈折異常以外の器質的眼疾患を認めない者であった.視距離は常用の眼鏡やコンタクトレンズを装用し自然な状態で角膜頂点から画面までをメジャーで測定した.今回は測定眼を決めるような精度を高めての距離測定ではなく,あくまで自然体のなかでの距離測定である.視距離測定の条件は以下のごとくとした.1.紙書籍と携帯電話ならびにスマートフォンでメール作成時の視距離条件①:通常の紙書籍(B5サイズの教科書)を読む(以下,書籍)条件②:携帯電話(画角1.7.2.1インチ)でメール作成条件③:スマートフォン(画角3.2.4.5インチ)でメールを作成2.スマートフォンでウェブサイト・ゲーム・歩行しながら操作時の視距離条件④:ウェブサイトを通常の文字サイズで読む(以下,スマートフォン通常文字)条件⑤:ウェブサイトを好みの文字サイズに拡大して読む(以下,スマートフォン拡大文字)条件⑥:好みのゲームを行う(以下,スマートフォンゲーム)条件⑦:歩きながらメール作成(以下,スマートフォン・歩き・メール)すべての条件における視距離は,日にちを変えて2回測定し,2回の平均値をもって視距離とした.統計学的検討は,対応のあるt検定・Spearman順位相関係数を用いた.さらに,瞳孔間距離をメジャーで測定し,条件①から条件⑦の視距離の輻湊角を求めた.輻湊角の求め方3)は,まず両眼の回旋点を結んだ直線から固視点までの距離を①式によって求めた.両眼の回旋点を結んだ直線から固視点までの距離をbcm,角膜頂点から画面までの視距離をLcm,瞳孔間距離をacm,角膜頂点と回旋点との距離を一般的な1.3cmとする.①式b=(L+1.3)2.a42両眼の回旋点を結んだ直線から固視点までの距離を求めた後,②式より輻湊角を求めた.②式輻湊角.(prismdiopter,以下Δ)=ba×100II結果表1に条件①.⑦における67名の視距離の平均値と標準偏差(cm),文字サイズ(mm・相当するポイント数),視距離での視角(分),輻湊角(Δ)を表す.1.携帯電話ならびにスマートフォン使用時と書籍の比較図1に条件①.⑦における67名の視距離の平均値と標準偏差を示す.左の縦軸は視距離(cm)を,右の縦軸にはその視距離での調節負荷量(D)を示す.携帯電話(条件②)ならびにスマートフォン使用時(条件③.⑦)の視距離は,書籍(条件①)を読んでいるときの視距離に比べ有意に近かった(p<0.001).特にスマートフォン通常文字(条件④)の視距離は19.3±5.0cmで,スマートフォンのウェブサイトを小さい文字のまま読んでいるときが最も近かった.2.スマートフォン通常文字・拡大文字および書籍との比較スマートフォン通常文字(条件④)の視距離が,書籍よりも10cm以上近かった者は71%であった.スマートフォン拡大文字(条件⑤)にしても37%の者は,書籍よりも10cm以上近いままであった(図2).III考按1)今回の結果は,米国に比べ書籍もスマートフォンもすべて7cmほど視距離が近くなった2).この米国との視距離表1作業別における視距離・文字サイズ・視角・輻湊角①書籍②携帯電話メール③スマホメール④スマホ通常文字⑤スマホ拡大文字⑥スマホゲーム⑦スマホ歩き・メール視距離±SD(cm)33.7±5.727.8±5.027.7±4.819.3±5.025.2±5.426.2±5.726.5±5.0文字サイズ(mm)(相当するポイント数)3(8)2.3(5.67.8)2.3(5.67.8)1.2(2.83.5.67)3.5(8.14)─2.3(5.67.8)視距離での視角(分)(文字サイズ/視距離)3025.3725.3718.3641.68─26.39輻湊角(Δ)18.0±3.021.0±4.022.0±4.031.0±7.023.0±5.023.0±5.022.0±4.0スマホ:スマートフォン.164あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(164) 3%4240-2.5383634-3.03230-3.52826-4.02422-5.02018-6.0161412-8.010*******調節(D)16%55%29%34%63%スマートフォン通常文字スマートフォン拡大文字視距離(cm)Vs.書籍Vs.書籍①②③④⑤⑥⑦図1書籍と携帯電話・スマートフォン使用時の作業別視距離①:書籍,②:携帯電話メール,③:スマートフォンメール④:スマートフォン通常文字,⑤:スマートフォン拡大文字⑥:スマートフォンゲーム,⑦:スマートフォン歩き・メール(*p<0.01).の差については,英文と日本語文の違いであると考えられた.英文は26文字のアルファベットのみで,その小文字の高さは大文字の高さの45.50%しかない文字もあり,行間が確保され読みやすい.一方,日本語はひらがな,カタカナ,漢字の3種類が混ざり,それぞれの文字の高さが揃っているために行間が詰まって読みづらくなり,視距離が近づいたと考えられた.2)携帯電話やスマートフォンを使用しているときの視距離が,従来の書籍を読んでいるときの視距離より有意に近かったことについては,山田4)はvisualdisplayterminals(VDT)作業において視距離に影響を与える因子としてcathode-ray-tube(CRT)サイズによりほぼ決められる文字の大きさと照明環境,作業者の視力を挙げている.小さな文字は,視距離を近くすることによる拡大効果から,携帯デジタル機器の小画面を近づけるのではないかと考えた.ただ今回は書籍の文字の視角が30′でスマートフォンの拡大文字の視角が41.68′と大きいにもかかわらず,スマートフォン使用時の視距離のほうが書籍よりも近かったことから,文字サイズだけでなく携帯デジタル機器と書籍の“画面の大きさ”の違いも関与していることが考えられた.今回用いた書籍はサイズが大きいため,大きな物は近方にあると感じる近接感により書籍は遠ざけ,小さな物は遠方にあると感じて保持している携帯を近づけるといった心理的な奥行き手がかりの作用5,6)も加わっているものと考える.また,大きい書籍は近づけると網膜の広範囲に投影されるため周辺視野まで眼球を大きく動かして読まなければならない.書籍とケータイ小説の眼球運動の違いは,書籍を読んでいる間はサッケードで行うのに対し,ケータイ小説では改行時にサッケードとスクロールを併用しており,文字サイズが小さくなるほどサッケー(165)差が10cm未満差が10cm以上20cm未満差が20cm以上図2スマートフォン通常文字・拡大文字と書籍の視距離の差の度数割合ド頻度が増えると報告している7).3)携帯デジタル機器を使用しているときの視距離が近いうえに,画面を見ている時間が延びていることから,現在はより近見反応を酷使しているといえる.近見反応は,1)調節-輻湊にクロスリンクがあり,お互いに影響されること,2)順応が強いシステムであるので,斜視特に内斜視などが将来的に多くなる可能性がある8.10).また,輻湊角を測定した結果,書籍を読んでいるときの輻湊角の平均は18Δで,ウェブサイトを通常文字で読んでいるときの輻湊角の平均は31Δであった.この平均値に一番近かった被検者を例に取り上げると,この被検者は瞳孔間距離が58mmである.書籍の視距離は30.6cmであり,方法で挙げた①式より両眼の回旋点を結んだ直線距離は31.7cmで,②式より輻湊角は18Δである.今回は測定していないが,この被検者のAC/A比(調節性輻湊対調節比)を下限2Δ/D(正常値4±2Δ/D)と仮定すると書籍を読む場合は6Δを調節性輻湊で補い,さらに近接性輻湊が下限1.5Δ/D(正常値ほぼ1.5.2.0Δ/D)3)と仮定すると約4Δが近接性輻湊で補われ,残り8Δを融像性輻湊で補えば良い.しかし,ウェブサイトを通常文字で読む場合,この被検者の視距離は16.2cmであった.同様に①式より両眼の回旋点を結んだ直線距離は17cmで,②式より輻湊角は34Δであった.この場合AC/A比を下限2Δ/Dと仮定すると12Δを調節性輻湊で補い,さらに近接性輻湊が下限1.5Δ/Dと仮定すると約9Δが近接性輻湊で補われ,残り13Δを融像性輻湊で補わねばならない.もし,低AC/A比であったり,基礎眼位ずれに外斜位が存在すればさらに輻湊が必要となり,その状態でウェブサイトを長時間至近距離で読めば疲労により近見外斜視になるといったことも起こるのではないかと考えられた.今後はスマートフォンの普及に伴い,携帯電話からスマートフォンに切り替える人が多くなると予想されている11).通常の使用方法としては,携帯デジタル機器は書籍に比べ視距あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015165 離が非常に近くなるため,文字を拡大して,視距離を保つことを啓発することが必要である.特に20歳代を中心に若者の使用が多く,また今後は教育現場へのデジタルIT化など,長時間見続けていることもあわせれば,今まで以上に若年者の近視化,眼精疲労を訴えるIT眼症などの眼科的問題も多くなり,今後は眼科での近見反応検査も念頭に置きながら,場合によっては30cmより近い近距離検査も行っていく必要があると思われた.文献1)総務省情報通信政策研究所:高校生のスマートフォン・アプリ利用とネット依存傾向に関する調査.報告書:7-15,平成26年7月2)BababekovaY,RosenfieldM,HueJEetal:Fontsizeandviewingdistanceofhandheldsmartphones.OptomVisSci88:795-797,20113)内海隆:輻湊・開散と調節,AC/A比.視能矯正学(丸尾敏夫ほか編),改訂第2版,p177-189,金原出版,19984)山田覚,師岡孝次:VDT作業における視距離の評価.東海大学紀要工学部26:209-216,19865)稲葉小由紀:感覚・知覚のしくみ.自分でできる心理学(宮沢秀次ほか編),p9-18,ナカニシヤ出版,20116)林部敬吉:奥行き知覚研究の動向.静岡大学教養部研究報告第III部16(1-2):57-76,19777)山田和平,萩原秀樹,恵良悠一ほか:ケータイ小説黙読時の眼球運動特性の解析.東海大学紀要情報通信学部3:19-24,20108)MilesFA:Adaptiveregulationinthevergenceandaccommodationcontrolsystems.In:AdaptiveMechanismsinGazeControl,BerthozAandMelvillJonesG(eds),Elsevier,Amsterdam,19859)高木峰男,戸田春男:眼位.視覚と眼球運動のすべて(若倉雅登ほか編),p121-155,メジカルビュー,2007年改変10)筑田昌一,村井保一:立体映画を見て顕性になった内斜視の一症例.日本視能訓練士協会誌16:69-72,198811)総務省:「スマートフォン・エコノミー」.スマートフォン等の普及がもたらすITC産業構造・利用者行動の変化..情報通信白書:116-221,平成24年版***166あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(166)

近視矯正によって内斜視が改善した一卵性双生児の1組

2015年1月30日 金曜日

154あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(154)154(154)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科32(1):154.158,2015cはじめに近視を伴う内斜視に関する報告は少ないものの1.5),過去に乳児内斜視の10.2%6),非調節性内斜視の3.5%は近視である7)との報告がある.近視矯正を行うことで調節性輻湊を誘発し,さらに小児の内斜視は調節要素を伴っていることが多く,結果として眼位がより内斜すると考えられている.しかし,治療に関しては,近視の内斜視であっても屈折矯正を行うことで内斜視角が減少したとの報告3)や手術による予後が良好であるとの報告4),適切な屈折矯正とFresnel膜プリズム処方で良好な経過をたどった報告5)があり,近視の内斜視であっても屈折矯正を試みることが重要であるとしている3,5).また,一卵性双生児の斜視型の一致率は高く,73.88%8.10)と報告がある.今回,筆者らは,近視矯正によって内斜視が改善した一卵性双生児の1組を経験したので報告する.I症例〔症例1〕9歳,女児(一卵性双生児の妹).6歳10カ月頃に撮った写真で左眼が内に寄っているのに母親が気づき当院受診.出生週数32週2日,出生体重1,718g,正常分娩の低出生体重児.未熟児網膜症の発症はなし.発達異常なし.初診時(7歳)所見:右眼0.1(1.2×.1.75D(cyl.0.75DAx110°),左眼0.2(1.2×.1.75D).眼位はHirschberg法で正位.眼球運動は正常で両眼に下斜筋過動を認めた.輻湊〔別刷請求先〕橋本篤文:〒252-0375神奈川県相模原市南区北里1-15-1北里大学病院眼科Reprintrequests:AtsufumiHashimoto,CO.,DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityHospital,1-15-1KitasatoMinamikuSagamihara252-0375,JAPAN近視矯正によって内斜視が改善した一卵性双生児の1組橋本篤文*1石川均*2清水公也*1*1北里大学病院眼科*2北里大学医療衛生学部ACaseofMonozygoticTwinswithEsotropiathatImprovedwithFullMyopicCorrectionAtsufumiHashimoto1),HitoshiIshikawa2)andKimiyaShimizu1)1)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityHospital,2)SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversity一卵性双生児の斜視型の一致率は高い.また,近視矯正により内斜視が改善した報告は過去に少ない.今回,筆者らは,ほぼ同時期に内斜視を発症し,かつ近視矯正で内斜視が改善した9歳の一卵性双生児の女児1組を経験した.2症例とも初診時より内斜視を認め,眼位変動が大きかった.斜視角は裸眼と完全屈折矯正眼鏡で同程度であった.調節麻痺下(アトロピン点眼)屈折検査を行い,完全屈折矯正眼鏡を処方した.処方後,2症例とも斜視角の改善を認めた.近視を伴う内斜視でも屈折矯正を試みることが重要であると考えられた.また,この内斜視発症,良好な治療効果が一卵性双生児の姉妹に同時に生じていることは,眼科的諸因子や環境的因子のみならず遺伝的因子の関与が示唆された.Manycasesofmonozygotictwinsareknownshowtheconcordanceofstrabismicphenotypes.Inrarecases,esotropiamaybeimprovedbywearingeyeglasseswithfullmyopiccorrection.Herewereportacaseofmonozy-gotictwinswithmyopicesotropia.Uponexamination,the9-year-oldtwingirlswerefoundtohavedevelopedeso-tropiaatthesametime.Attheinitialpresentationtoourclinic,themeasurementsareunstable.However,theangleofdeviationwasrelativelystablewithfullmyopiccorrection.Foreachpatient,weprescribedmyopiceye-glasseswiththefullatropinizedcorrection,andtheesotropiasubsequentlyimproved.Thefindingsinthiscaseshowthatnotonlyocularandenvironmentalfactors,butalsogeneticfactorscancauseasimultaneousonsetofesotropiainmonozygotictwins,andthatcorrectionviatheuseofmyopiceyeglassesmightbeaneffectivetreat-mentforthemyopicesotropiainsuchcases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(1):154.158,2015〕Keywords:内斜視,近視,一卵性双生児,完全屈折矯正.esotropia,myopia,monozygotictwins,fullcorrection.32,No.1,2015(154)154(154)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科32(1):154.158,2015cはじめに近視を伴う内斜視に関する報告は少ないものの1.5),過去に乳児内斜視の10.2%6),非調節性内斜視の3.5%は近視である7)との報告がある.近視矯正を行うことで調節性輻湊を誘発し,さらに小児の内斜視は調節要素を伴っていることが多く,結果として眼位がより内斜すると考えられている.しかし,治療に関しては,近視の内斜視であっても屈折矯正を行うことで内斜視角が減少したとの報告3)や手術による予後が良好であるとの報告4),適切な屈折矯正とFresnel膜プリズム処方で良好な経過をたどった報告5)があり,近視の内斜視であっても屈折矯正を試みることが重要であるとしている3,5).また,一卵性双生児の斜視型の一致率は高く,73.88%8.10)と報告がある.今回,筆者らは,近視矯正によって内斜視が改善した一卵性双生児の1組を経験したので報告する.I症例〔症例1〕9歳,女児(一卵性双生児の妹).6歳10カ月頃に撮った写真で左眼が内に寄っているのに母親が気づき当院受診.出生週数32週2日,出生体重1,718g,正常分娩の低出生体重児.未熟児網膜症の発症はなし.発達異常なし.初診時(7歳)所見:右眼0.1(1.2×.1.75D(cyl.0.75DAx110°),左眼0.2(1.2×.1.75D).眼位はHirschberg法で正位.眼球運動は正常で両眼に下斜筋過動を認めた.輻湊〔別刷請求先〕橋本篤文:〒252-0375神奈川県相模原市南区北里1-15-1北里大学病院眼科Reprintrequests:AtsufumiHashimoto,CO.,DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityHospital,1-15-1KitasatoMinamikuSagamihara252-0375,JAPAN近視矯正によって内斜視が改善した一卵性双生児の1組橋本篤文*1石川均*2清水公也*1*1北里大学病院眼科*2北里大学医療衛生学部ACaseofMonozygoticTwinswithEsotropiathatImprovedwithFullMyopicCorrectionAtsufumiHashimoto1),HitoshiIshikawa2)andKimiyaShimizu1)1)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityHospital,2)SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversity一卵性双生児の斜視型の一致率は高い.また,近視矯正により内斜視が改善した報告は過去に少ない.今回,筆者らは,ほぼ同時期に内斜視を発症し,かつ近視矯正で内斜視が改善した9歳の一卵性双生児の女児1組を経験した.2症例とも初診時より内斜視を認め,眼位変動が大きかった.斜視角は裸眼と完全屈折矯正眼鏡で同程度であった.調節麻痺下(アトロピン点眼)屈折検査を行い,完全屈折矯正眼鏡を処方した.処方後,2症例とも斜視角の改善を認めた.近視を伴う内斜視でも屈折矯正を試みることが重要であると考えられた.また,この内斜視発症,良好な治療効果が一卵性双生児の姉妹に同時に生じていることは,眼科的諸因子や環境的因子のみならず遺伝的因子の関与が示唆された.Manycasesofmonozygotictwinsareknownshowtheconcordanceofstrabismicphenotypes.Inrarecases,esotropiamaybeimprovedbywearingeyeglasseswithfullmyopiccorrection.Herewereportacaseofmonozy-gotictwinswithmyopicesotropia.Uponexamination,the9-year-oldtwingirlswerefoundtohavedevelopedeso-tropiaatthesametime.Attheinitialpresentationtoourclinic,themeasurementsareunstable.However,theangleofdeviationwasrelativelystablewithfullmyopiccorrection.Foreachpatient,weprescribedmyopiceye-glasseswiththefullatropinizedcorrection,andtheesotropiasubsequentlyimproved.Thefindingsinthiscaseshowthatnotonlyocularandenvironmentalfactors,butalsogeneticfactorscancauseasimultaneousonsetofesotropiainmonozygotictwins,andthatcorrectionviatheuseofmyopiceyeglassesmightbeaneffectivetreat-mentforthemyopicesotropiainsuchcases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(1):154.158,2015〕Keywords:内斜視,近視,一卵性双生児,完全屈折矯正.esotropia,myopia,monozygotictwins,fullcorrection. :右眼瞳孔径:右眼屈折値:左眼瞳孔径:左眼屈折値Diopter(mm)86420-2-4-6半暗室光視標調節視標眼位内斜視内斜視正位図1PlusoptiXS04R半暗室での調節視標,光視標の他覚的屈折値と瞳孔径と眼位PlusoptiXS04Rにて,半暗室での調節視標,光視標の他覚的屈折値と瞳孔径を測定した.光視標で調節視標よりも近視の増大を認めた.近点は鼻根部まで可能.Titmusstereotests(TST)は裸眼にてfly(+),animal(3/3),circle(6/9).Alternateprismcovertest(APCT)は完全屈折矯正下にて遠見14prismdiopter(以下Δ),近見18Δの間欠性内斜視であり,融像除去により次第に斜視角が増大した.サイプレジン点眼下の自覚的屈折値は,右眼(1.2×.1.25D(cyl.0.75DAx150°),左眼(1.2×.1.25D(cyl.0.75DAx40°)であった.眼軸長は,右眼24.27mm,左眼24.24mm(IOLMasterTM,Zeiss社製)であった.初診から5カ月後,斜視角はAPCTにて裸眼,完全屈折矯正ともに遠見25.30Δ,近見35Δとやや増大したが,間欠性内斜視を保っていた.大型弱視鏡(ClementClark社製)では眼位変動が大きかったものの同時視は自覚的斜視角が+16Δ(スライド;ライオンとオリ),融像が.16Δ.+36Δ(base+16Δ)(スライド;うさぎ)で,立体視(スライド;バケツ,宇宙,パラシュート)も得られた.他覚的斜視角は+20Δであった.6カ月後,APCTにて裸眼で遠見40Δ,近見45.50Δの間欠性内斜視であり,近視矯正を行った完全屈折矯正下でも遠見40Δ,近見45.50Δの間欠性内斜視で,近見は近視矯正による調節量の増加によっても斜視角は増加しなかった.両眼視時の眼位,屈折値,瞳孔径を,PlusoptiXS04R(Plusoptix社製)を用い測定した.本装置は,両眼同時かつ連続で屈折値〔等価球面度数(D)〕,瞳孔径〔縦・横(mm)〕,眼位〔偏位角(°)〕が測定可能である.測定条件は完全屈折矯正下で半暗室下にて,視標は眼前1mで光視標,調節視標裸眼時内斜視眼鏡装用時正位図2症例1をそれぞれ呈示した.瞳孔径は縦径とした.結果は,半暗室,光視標で眼位は内斜視となり近視化し,調節視標で眼位は正位化し近視化はみられなかった(図1).瞳孔径は各視標とも6mm前後であった.10カ月後,裸眼での内斜視が恒常化したため,右眼(1.2×.2.50D(cyl.0.50DAx140°),左眼(1.2×.2.50D(cyl.1.00DAx10°)で完全屈折矯正眼鏡(アトロピン点眼下)を処方した.4カ月後,両眼ともに〔1.2×JetzigBrille(以下,JB)〕と良好な視力を得ており,TSTはJBにてfly(+),animal(3/3),circle(7/9)であった.斜視角はAPCTにてJBで遠見,近見ともに16Δの間欠性内斜視となり改善を認めた(図2).また,眼位変動は大きかったが,光視標でも正位を保つことがあり,調節視標にてさらに正位の頻度が増えた.AC/A比(調節性輻湊対調節比)は斜視角測定時,遠見での眼位が安定しなかったため,NearGradient法で測定したところ5.6Δ/Dであった.さらに,頭蓋内疾患の鑑別のため頭部CT(コンピュータ断層撮影)を施行したが異常はなかった.〔症例2〕9歳,女児(一卵性双生児の姉).主訴:学校検診で視力低下を指摘され当院受診.出生体重1,504g.未熟児網膜症の発症はなし.発達異常はなし.初診時(7歳5カ月)所見:右眼0.2(1.2×.2.50D),左眼0.15(1.2×.3.25D).眼位はHirschberg法で正位.内斜視.Krimsky法で16.18Δbaseout.眼球運動は正常で両眼に下斜筋過動を認めた.輻湊近点は鼻根部まで可能.あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015155 TSTは裸眼にて内斜視のため立体視不可であった.症例1と同様に同日サイプレジン点眼下にて自覚的屈折値を確認した.右眼(1.2×.1.00D(cyl.1.00DAx170°),左眼(1.2×.1.75D)で,近視を認めた.眼軸長は右眼23.83mm,左眼23.78mm(IOLMasterTM)であった.1カ月後,TSTは裸眼,完全屈折矯正ともにfly(+),animal(3/3),circle(4/9)であった.斜視角はAPCTにて裸眼で遠見12Δ,近見25Δの間欠性内斜視であり,近視矯正を行った完全屈折矯正下でも,症例1と同様に斜視角に増大はなかった.大型弱視鏡にて,同時視は,自覚的斜視角が+6Δ(スライド;ライオンとオリ),融像が.14Δ.+22Δ(base+6Δ)(スライド;うさぎ)で,立体視(スライド;バケツ,宇宙,パラシュート)も得られたが,症例1同様,測定中の眼位変動が大きかった.他覚的斜視角は+8Δであった.患児が見えづらさを訴えたため,症例1と同時期にアトロピン点眼にて屈折検査を行った.右眼(1.2×.2.25D),左眼(1.2×.1.50D)で完全屈折矯正眼鏡を処方した.14カ月後,右眼,左眼ともに視力良好で,Hirschberg法で正位.TSTはJBにてfly(+),animal(3/3),circle(9/9)と改善し,斜視角はAPCTにてJB装用下で遠見,近見ともに8Δの内斜位と改善を認めた(図3).また,症例1同様AC/A比を測定したところ,NearGradient法にて3.4Δ/Dであった.頭部CTも施行したが,異常はなかった.双生児の卵性の鑑別に関しては,遺伝子DNAを用いて診断する方法が最も精度が高いとされている11).家族に十分な説明を行い,同意を得たうえで,DNA検査を依頼した.患児それぞれの口腔内粘膜を減菌された綿棒にて採取し,検体を送付した.STR(shorttandemrepeat)型検査12)にて,16locus(遺伝子情報)を比較し,それぞれの遺伝子型が完全に一致し,一卵性と判定した.II考按今回,筆者らは,同時期に同程度の屈折値,斜視角で内斜視を発症し,同じ治療法で症状が改善した一卵性双生児の女児1組を経験した.さらに,内斜視に近視矯正すると眼位が裸眼時内斜視眼鏡装用時正位図3症例2表19歳,女児症例1(妹)症例2(姉)出生週数32週2日出生体重1,718g1,504g発症時期7歳頃7歳5カ月頃主訴内斜視視力低下調節麻痺下屈折値(アトロピン点眼,等価球面値)R:.2.75DL:.3.00DR:.2.25DL:.1.50D斜視角(最大時)遠見:40ΔE(T)近見:45.50ΔE(T)´遠見:12ΔE(T)近見:25ΔE(T)´変動大きい(SC=farbest)斜視角(眼鏡装用後)遠見:16ΔE(T)近見:16ΔE(T)´遠見:8ΔE(T)近見:8ΔE(T)´視標と眼位非調節視標より調節視標で良好融像幅(大型弱視鏡).16Δ.+36Δ(base+16Δ).14Δ.+22Δ(base+6Δ)AC/A比5.4Δ/D3.6Δ/D頭部CT異常なし(156) 悪化すると考えられている13)が,今回の症例では改善を認めた.近視矯正で内斜視の眼位が改善するような症例は過去に報告が少なく3.5),明確な考察はされていない.本症例は,器質的疾患による内斜視は否定的で,内斜視時に調節の増加は認めたものの,瞳孔は半暗室下ではあるが,縮瞳傾向ではなかったため調節痙攣は考えにくい.また,過去には状況依存性内斜視の報告14)がある.10歳頃の前思春期の女子に多く,部分調節性内斜視に続発し,日常眼位は比較的良好であるが,検査時に内斜視角が急激に増大するような特徴をもつ.本症例がもともと部分調節性内斜視であったかは不明であるが,症例2の主訴が内斜視ではなく視力低下であったことから,少なくとも症例2については日常眼位が良好であった可能性がある.両親への問診では,日常と検査時の内斜視の頻度や角度にあまり違いはないとのことで,状況依存性内斜視は否定的と考えた.内斜視の型に関しては,高AC/A比ではなく,発症時期が7歳頃ということから考えて後天基礎型内斜視が考えられたが,考察の域を超えない.本症例の特徴として近視の未矯正斜視角(裸眼)と完全屈折矯正斜視角にほぼ差がなく,調節視標で斜位を保つ頻度が多く,さらに融像幅が開散方向に大きいことや眼位変動が大きいことが挙げられる.これらのことから,しっかりとした明視を得ること,また患児の見づらさの訴えの改善も目的に,調節麻痺下での屈折検査を施行後,完全屈折矯正眼鏡処方を行った.結果として,像のボケがなくなり適切な調節を行うことができ,過度に輻湊していた眼位が改善し,両眼視が安定したと考えた.過去には,未矯正の近視の人が,ごく近距離を見続けることで内直筋のトーヌスが上昇し,機能的に優位な状態となったために輻湊を緩めることが少なくなって内斜視になる1)とするものや,低矯正または未矯正の近視の人が,明瞭な視覚をもつ近見を多く行い,不明瞭である遠見を行うことが稀であると,近見での輻湊が刺激,強化されて,しだいに開散の機能不全が起こる.さらに,筋は器質的に変化して固定化し開散不全型の内斜視になる2)とするものなどがある.これに対し,近視矯正で内斜視角の減少が認められた3)との報告や,適切な屈折矯正によって明瞭な遠方視が可能になり本来の開散力を使って眼位を安定させようとする力が働いたとする説もある5).つまり,近視を伴う内斜視でも適切な屈折矯正を試みることが重要である.さらに,本症例では,非調節視標(光視標)において眼位が内斜し,調節視標で改善した.調節視標は,見ようとするものに対しての適切な調節状態をつくり,調節を保たせる,調節をコントロールする視標15)といわれており,調節が安定したと考えられる.また,開散方向に融像幅が広いことから,調節目標の明視が開散方向の融像を可能にし,眼位の安定につながったと考えられた.双生児の斜視の一致率は一卵性双生児が73.88%8.10),二卵性双生児が35.40%8,9)と一卵性双生児で高いとされており,一卵性双生児で一致した斜視の種類は内斜視,調節性内斜視,乳児内斜視,恒常性外斜視,間欠性外斜視が挙げられる9,10).なかでも,内斜視では調節性内斜視,外斜視では間欠性外斜視が多いとしている10).屈折に関しても,一卵性双生児のほうが二卵性双生児よりも一致しやすい傾向16,17)がある.本症例も同様に斜視の型,屈折値がほぼ同じ傾向を認め,発症時期や同治療による予後も同じ傾向であった.斜視や屈折異常のはっきりとした遺伝形式はいまだ明らかにされていないが,一卵性双生児では遺伝的構成は同一とされ,斜視に関しても同じ型の斜視の発症や経過をとることが多いとされている18).さらに一卵性双生児の斜視の発症時期にずれのある症例では,その背景に近業が誘因になったり,言葉などに対する理解度の違いといった環境的要因も関係していると考えられ9),遺伝的要因や環境的要因の相互作用9,18,19)の関与が示唆されている.最後に,今後,本症例に関しては,定期的に屈折検査を行い,適切な眼鏡をかけていくことが眼位の維持には重要と考えた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)BielschowskyA:DasEinwartsschielenderMyopen.BerDtschOphthalmolGes.43:245-248,19222)Duke-ElderS,WybarK:Ocularmotilityandstrabismus.InSystemofOphthalmology,p605-609,HenryKimpton,London,19733)松井孝子,安田節子,阿部早苗ほか:近視矯正により内斜視角の減少がみられた1例.眼臨紀6:241,20134)村上環,曹美枝子,富田香ほか:近視を伴う後天内斜視の検討.日視会誌21:61-64,19935)宮部友紀,竹田千鶴子,菅野早恵子ほか:眼鏡とフレネル膜プリズム装用が有効であった近視を伴う後天性内斜視の2例.日視会誌28:193-197,20006)ShaulyY,MillerB,MeyerE:Clinicalcharacteristicsandlong-termpostoperativeresultofinfantileesotropiaandmyopia.JPediatrOphthalmolStrabismus34:357-364,19977)VonNoordenGK:BinocularVisionandOcularMotility.fourthed,p307,CVMosby,StLouis,19908)PaulTO,HardageLK:Theheritabilityofstrabismus.OphthalmicGenetics15:1-18,19949)花岡玲子,牧野伸二,酒井理恵子ほか:自治医科大学弱視斜視外来を受診した双生児症例の検討.眼臨95:415-417,200110)MatsuoT,HayashiM,FujiwaraHetal:Concordanceofstrabismicphenotypesinmonozygoticversusmultizygoticあたらしい眼科Vol.32,No.1,2015157 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