《原著》あたらしい眼科38(9):1118.1122,2021c内境界膜下出血に対してNd:YAGレーザーを用いた内境界膜穿破後のOCT所見加納俊祐*1木許賢一*2八塚洋之*2久保田敏昭*2*1加納医院*2大分大学医学部眼科学講座OCTFindingsafterNd:YAGLaserPhotoDisruptionforSub-InternalLimitingMembraneHemorrhageShunsukeKano1),KenichiKimoto2),HiroyukiYatsuka2)andToshiakiKubota2)1)KanoClinics,2)DepartmentofOpthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicineC目的:外傷性内境界膜下出血に対して,Nd:YAGレーザー(以下,YAG)にて内境界膜を穿破したあとの内境界膜の変化を光干渉断層計(OCT)で観察したC1例を報告する.症例:36歳の男性.雑木の牽引作業中に断裂したロープによって両眼の眼球打撲を生じた.両眼の前房出血のため大分大学眼科を紹介受診した.右眼には内境界膜下出血があり,YAGで内境界膜を穿破した.内境界膜下出血は速やかに硝子体腔に拡散し,穿破してC3時間後には穿破部をCOCTで同定することができたが,穿破部はC2日後には同定できなくなった.穿破当初は内境界膜と神経線維層との間に空洞があったが,内境界膜下出血の消退に伴い消失した.その後も,黄斑部には膜様反射があり,OCTでも膜が描出されるが,網膜外層には変化はなく,視力低下や歪視の訴えはない.結論:内境界膜下出血に対して内境界膜をCYAGで穿破したあとの変化をCOCTで観察できた.穿破孔は数日で閉鎖し,平坦化した内境界膜は網膜前膜による皺を呈した.CPurpose:Toreportopticalcoherencetomography(OCT).ndingspostNd:YAGlaser(YAG)membranotomyforatraumaticsub-internallimitingmembrane(ILM)hemorrhage.Case:A36-year-oldmaleexperiencedbilat-eralocularbruisingduetoaropebreakingwhilehaulingsmallfallentrees,andwasreferredtotheOitaUniversi-tyHospitalduetobilateraltraumatichyphema.Fundusexaminationrevealedasub-ILMhemorrhageinhisrighteye,andhewasadmittedtothehospital.WethenperformedYAGmembranotomyoftheILM.Thesub-ILMhem-orrhageCrapidlyCdi.usedCintoCtheCvitreousCcavity,CandCalthoughCtheCmembranotomyCsiteCwasCidenti.edCbyCOCTC3Choursaftertheperforation,itcouldnotbedetected2dayslater.Soonaftertheperforation,acavitywasobservedbetweentheILMandtheCnerveC.berlayer,CyetCitdisappearedwithCtheCdisappearanceCofthesub-ILMChemorrhage.Posttreatment,fundusexaminationrevealedamembranousre.exonthemacula,andthemembranewasvisual-izedbyOCT,buttherewasnoabnormalchangeintheouterlayeroftheretinaandnocomplaintofvisualdistur-bancefromthepatient.Conclusion:OCT.ndingsrevealedtime-dependentchangesoftheILMpostYAGmem-branotomyCforCaCsub-ILMChemorrhage,Chowever,CtheCperforationCwasCclosedCwithinCaCfewCdaysCandCtheC.attenedCILMshowedawrinkleandresultedinepiretinalmembrane.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(9):1118.1122,C2021〕Keywords:内境界膜下出血,Nd:YAGレーザー,光干渉断層計.sub-internallimitingmembranehemorrhage,Nd:YAGlaser,opticalcoherencetomography.はじめに界膜を穿破した後に光干渉断層計(OCT)で評価した報告は網膜前出血や内境界膜下出血に対して,Nd:YAGレーザ多くない.筆者らは眼球打撲傷によって生じた内境界膜下出ー(以下,YAG)で内境界膜を穿破して硝子体腔に出血をド血に対して内境界膜を穿破して治療を行った後の内境界膜のレナージする治療法が行われることがある1).しかし,内境変化をCOCTで追うことができたので報告する.〔別刷請求先〕加納俊祐:〒879-2441大分県津久見市中央町C3-14加納医院Reprintrequests:ShunsukeKano,KanoClinics,3-14Chuomachi,Tsukumi-shi,Oita879-2441,JAPANC1118(136)I症例36歳,男性.家族歴,既往歴に特記すべき事項なし.2018年C9月C17日,雑木の牽引作業中に断裂した直径C10.12Cmmほどのロープで両眼を打撲した.視力低下を自覚して近医眼科を受診し,両眼の前房出血のため当科を紹介受診した.初診時所見:VD=30cm手動弁(矯正不能),VS=0.02(0.3C×sph.6.50D),RT=21mmHg,LT=22mmHg.前眼部は右眼に外傷性散瞳があり,両眼に前房出血があった.右眼眼底に硝子体出血および黄斑部に境界明瞭な血腫があった.血腫の辺縁は神経線維層が出血で染色され,刷毛状に毛羽立っていた.OCTでは胞状に膜が突出していた.内部は出血による高輝度反射があり,ニボーを形成していた.右眼の内境界膜下出血と診断した(図1,2).左眼眼底には網膜振盪および網膜出血があり外傷性黄斑円孔を生じていた.安静目的に入院して経過をみたが,内境界膜下出血の移動や消退はなく,前房出血も消退したため,2018年C9月C22日にCYAGで内境界膜を穿破し,出血を硝子体腔にドレナージすることとした.機器はセレクタオフサルミックレーザーシステム(日本ルミナス社)で,レンズはトランスエークエー図1初診時の右眼広角眼底写真後極にはニボーを形成する大きな内境界膜下出血を生じていた.前房出血のため不鮮明な画像となっている.(AmJOphthalmolC136:763-766,C2003)図2内境界膜穿破後の眼底写真・OCT上:内境界膜穿破C1分後の眼底写真.内境界膜下出血は速やかに穿破部(C.)から後部硝子体皮質ポケット,そして硝子体腔へと拡散した.下:Nd:YAGレーザー穿破3時間後の右眼OCT.内境界膜穿破部()が同定できた.図3右眼OCT(黄斑部・垂直断)と視力の経時的変化内境界膜下出血の吸収に伴い,内境界膜と神経線維層との間の空洞は消失し,視力も改善した.ター(VOLK社)を使用した.条件はC3.0CmJで黄斑外下方に1発照射し,内境界膜を穿破した.出血は速やかに穿破部から後部硝子体皮質ポケット,そして硝子体腔に拡散していった(図2a).3時間後にはCOCTで穿破部を同定することができ,穿破部は出血が排出されるのに伴って硝子体腔に向けて突出するような形状をとっていた.穿破部の裂隙の幅は67Cμmで,突出の幅はC258Cμmであった(図2b).穿破部は1日後には同定できたが,2日後には同定できなくなった.術後,内境界膜と神経線維層との間に空洞が生じていたが,内境界膜下出血がしだいに吸収されていくに伴い,6カ月後には消失した.また,視力は内境界膜下出血の吸収に伴い,しだいに改善した(図3).硝子体腔に排出された出血は器質化し,硝子体腔の下方に少量残存している.黄斑部には黄斑前膜様の反射があり,OCTでも高輝度の膜様物が描出され,軽度の網膜皺襞があるが,網膜外層には変化はなく,視力低下や歪視の訴えはない(図4).一方,左眼は受傷当日から外傷性黄斑円孔を生じていたが,1週間後には全層円孔となり,徐々に円孔径が拡大し,円孔縁の外網状層に.胞形成が生じてきた.自然閉鎖は期待できないと考えたため,受傷C1カ月後に手術を行った.水晶体を温存して硝子体を円錐切除したあとに後部硝子体.離を作製し,アーケード血管内の内境界膜をC3乳頭径ほど.離した.眼内を空気で置換して術後は腹臥位とした.術後C5日で黄斑円孔は閉鎖したことが確認できた.以後,黄斑円孔の再発はない.1年C9カ月後の最終受診時にはCVD=(1.2),VS=(1.2),CRT=15CmmHg,LT=19CmmHgであった.歪視の自覚はない.CII考按Valsalva網膜症やCTerson症候群,白血病などの血液疾患,網膜細動脈瘤,加齢黄斑変性,糖尿病網膜症などによって内境界膜下出血を生じることがあり,出血が遷延して視力障害をきたす場合には治療が必要となる1.3).内境界膜下出血に対してCYAGで内境界膜を穿破し,出血を硝子体腔に拡散させる治療法はC1989年にCGabelらにより報告された1).わが国での報告もあり,後部硝子体.離の生じている高齢者は硝子体が液化しているため,出血が速やかに硝子体腔へ拡散し吸収されることが期待できる.そのため,よい適応とされる3).合併症としては,黄斑円孔,裂孔原性網膜.離,網膜前膜,一過性の網膜前の空洞などがあると報告されている2,4).本症例で,内境界膜を穿破した直後は,出血の流出のために検眼鏡やCOCTで穿破部を同定することはできなかった.図4最終受診時の右眼眼底写真とOCT黄斑部には膜様反射がある.OCTでも膜が高輝度として描出され,軽度の網膜牽引も伴っている.しかし,流出が止まるにつれて,OCTで内境界膜穿破部の同定,直径の計測が可能となった.孔の縁は硝子体側に突出しており,裂隙部の幅はC67μmであり,突出部の幅は258Cμmであった.穿破部の同定が不可能だったため,内境界膜穿破直後の裂隙の幅は不明だが,内境界膜下出血の流出に伴って裂隙や突出部の幅は広がった可能性がある.翌日には突出はなくなり孔の縁は平坦化していた(図5).内境界膜下出血の流出に伴って縁が突出していたものが,流出の停止によって平坦化したものと考えられた.内境界膜下出血が硝子体腔に排出されるに伴い,内境界膜と網膜神経線維層との間には空洞が生じた.術翌日にも穿破部を同定できたが,2日目にはCOCTで穿破部を同定することは不可能となった.内境界膜と神経線維層との空洞は一過性のもので,内境界膜下血腫の消失に伴いしだいに縮小していき,2カ月後には消失した.また,6カ月後には内境界膜下出血も吸収された.既報でも内境界膜下血腫にCYAGで内境界膜穿破を行った症例で,OCTで経過を追った報告はいくつかある5.7).本症例でもみられたように,一過性に網膜前の空洞が生じたことも報告されている.この空洞の発生原因としては,既報では,網膜下血腫が排出された後に増殖細胞が内境界膜上を覆って穿破部を被覆し,網膜前の凸型の空洞を形成したという仮説が立てられている5).本症例で穿破部の同定ができなくなったのも,穿破部を細胞が被覆して閉鎖されたことが原因と考えられる.また,その後は内境界膜下出血の排出は止まり,僚眼の手術時に数日間腹臥位となったが,その間に内境界膜下出血が硝子体腔に排出されて減少することはなかった.残存した出血はおそらく網膜側に吸収されたと思われる.空洞消失後,OCTでは網膜前に高輝度の膜が描出されるようになり,中心窩の網膜内層は牽引されて平坦化している.現状では視力低下や歪視はないため経過観察をしており,高輝度反射の膜は表面に細胞増殖を伴った内境界膜と考えられるが,画像上の判別は困難である.もし,今後手術で膜を.離するようなことになれば,病理検査を行う予定である.既報では,内境界膜下血腫に対する内境界膜穿破後に生図5右眼OCT(内境界膜穿破部)穿破当日は穿破孔の縁は硝子体側に突出していたが,翌日には突出はなくなり,孔の縁は平坦化していた.じた網膜前膜に対して硝子体手術を施行した際,インドシアニングリーンで染色されない網膜前膜があり,.離した内境界膜の病理学的検査では内境界膜の網膜側にはマクロファージ内にヘモジデリンが付着していたと報告されている8).前述の仮説に従うと,内境界膜上にグリア細胞などによる細胞増殖が生じて穿破部を被覆した後も細胞増殖が遷延し,二次性に内境界膜と一体となった網膜前膜を発症した可能性が考えられた.CIII結論内境界膜下血腫に対して内境界膜をCYAGで穿破した後の変化をCOCTで観察できた.穿破孔は数日で閉鎖し,穿破C6カ月後には内境界膜と神経線維層との間の空洞は消失した.空洞の消失により平坦化した内境界膜はちりめん状の皺を呈した.文献1)GabelCV,CBirngruberCR,CGunter-KoszukaCHCetal:Nd-YAGlaserphotodisruptionofhemorrhagicdetachmentoftheCinternalClimitingCmembrane.CAmCJCOphthalmolC107:C33-37,C19892)MaeyerCKD,CGinderdeurenCRV,CPostelmansCLCetal:Sub-innerClimittingCmembranehemorrhage:causesCandCtreat-mentCwithCvitrectomy.CBrCJCOphthalmolC91:869-872,C20073)森秀夫,太田眞理子,鈴木浩之:黄斑部内境界膜下血腫に対するCNd:YAGレーザー治療.眼科手術C22:113-181,C20094)UlbigCMW,CNabgouristasCG,CRothbacherCHHCetal:Long-termCresultsCafterCdrainageCofCpremacularCsubhyaloidChemorrhageCintoCtheCvitreousCwithCaCpulsedNd:YAGClaser.ArchOphththalmolC116:1465-1469,C19985)MayerCCH,CMennelCS,CRodriguesCEBCetal:PersistentCpremacularCcavityCafterCmembranotomyCinCValsalvaCreti-nopathyevidentbyopticalcoherencetomography.RetinaC26:116-118,C20066)HeichelCJ,CKuehnCE,CEichhorstCACetal:Nd:YAGClaserChyaloidotomyCforCtheCtreatmentCofCacuteCsubhyaloidChem-orrhage:acomparisonoftwocases.OphthalmolTherC5:C111-120,C20167)Vaz-PereiraS,BaratAD:Multimodalimagingofsubhya-loidhemorrhageinValsalvaretinopathytreatedwithNd:CYAGlaser.OphthalmolRetinaC2:73,C20188)KwokCAK,CLaiCTY,CChanNR:EpiretinalCmembraneCfor-mationCwithCinternalClimitingCmembraneCwrinklingCafterNd:YAGClaserCmembranotomyCinCValsalvaCretinopathy.CAmJOphthalmolC136:763-766,C2003(140)