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内境界膜下出血に対してNd:YAG レーザーを用いた 内境界膜穿破後のOCT 所見

2021年9月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科38(9):1118.1122,2021c内境界膜下出血に対してNd:YAGレーザーを用いた内境界膜穿破後のOCT所見加納俊祐*1木許賢一*2八塚洋之*2久保田敏昭*2*1加納医院*2大分大学医学部眼科学講座OCTFindingsafterNd:YAGLaserPhotoDisruptionforSub-InternalLimitingMembraneHemorrhageShunsukeKano1),KenichiKimoto2),HiroyukiYatsuka2)andToshiakiKubota2)1)KanoClinics,2)DepartmentofOpthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicineC目的:外傷性内境界膜下出血に対して,Nd:YAGレーザー(以下,YAG)にて内境界膜を穿破したあとの内境界膜の変化を光干渉断層計(OCT)で観察したC1例を報告する.症例:36歳の男性.雑木の牽引作業中に断裂したロープによって両眼の眼球打撲を生じた.両眼の前房出血のため大分大学眼科を紹介受診した.右眼には内境界膜下出血があり,YAGで内境界膜を穿破した.内境界膜下出血は速やかに硝子体腔に拡散し,穿破してC3時間後には穿破部をCOCTで同定することができたが,穿破部はC2日後には同定できなくなった.穿破当初は内境界膜と神経線維層との間に空洞があったが,内境界膜下出血の消退に伴い消失した.その後も,黄斑部には膜様反射があり,OCTでも膜が描出されるが,網膜外層には変化はなく,視力低下や歪視の訴えはない.結論:内境界膜下出血に対して内境界膜をCYAGで穿破したあとの変化をCOCTで観察できた.穿破孔は数日で閉鎖し,平坦化した内境界膜は網膜前膜による皺を呈した.CPurpose:Toreportopticalcoherencetomography(OCT).ndingspostNd:YAGlaser(YAG)membranotomyforatraumaticsub-internallimitingmembrane(ILM)hemorrhage.Case:A36-year-oldmaleexperiencedbilat-eralocularbruisingduetoaropebreakingwhilehaulingsmallfallentrees,andwasreferredtotheOitaUniversi-tyHospitalduetobilateraltraumatichyphema.Fundusexaminationrevealedasub-ILMhemorrhageinhisrighteye,andhewasadmittedtothehospital.WethenperformedYAGmembranotomyoftheILM.Thesub-ILMhem-orrhageCrapidlyCdi.usedCintoCtheCvitreousCcavity,CandCalthoughCtheCmembranotomyCsiteCwasCidenti.edCbyCOCTC3Choursaftertheperforation,itcouldnotbedetected2dayslater.Soonaftertheperforation,acavitywasobservedbetweentheILMandtheCnerveC.berlayer,CyetCitdisappearedwithCtheCdisappearanceCofthesub-ILMChemorrhage.Posttreatment,fundusexaminationrevealedamembranousre.exonthemacula,andthemembranewasvisual-izedbyOCT,buttherewasnoabnormalchangeintheouterlayeroftheretinaandnocomplaintofvisualdistur-bancefromthepatient.Conclusion:OCT.ndingsrevealedtime-dependentchangesoftheILMpostYAGmem-branotomyCforCaCsub-ILMChemorrhage,Chowever,CtheCperforationCwasCclosedCwithinCaCfewCdaysCandCtheC.attenedCILMshowedawrinkleandresultedinepiretinalmembrane.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(9):1118.1122,C2021〕Keywords:内境界膜下出血,Nd:YAGレーザー,光干渉断層計.sub-internallimitingmembranehemorrhage,Nd:YAGlaser,opticalcoherencetomography.はじめに界膜を穿破した後に光干渉断層計(OCT)で評価した報告は網膜前出血や内境界膜下出血に対して,Nd:YAGレーザ多くない.筆者らは眼球打撲傷によって生じた内境界膜下出ー(以下,YAG)で内境界膜を穿破して硝子体腔に出血をド血に対して内境界膜を穿破して治療を行った後の内境界膜のレナージする治療法が行われることがある1).しかし,内境変化をCOCTで追うことができたので報告する.〔別刷請求先〕加納俊祐:〒879-2441大分県津久見市中央町C3-14加納医院Reprintrequests:ShunsukeKano,KanoClinics,3-14Chuomachi,Tsukumi-shi,Oita879-2441,JAPANC1118(136)I症例36歳,男性.家族歴,既往歴に特記すべき事項なし.2018年C9月C17日,雑木の牽引作業中に断裂した直径C10.12Cmmほどのロープで両眼を打撲した.視力低下を自覚して近医眼科を受診し,両眼の前房出血のため当科を紹介受診した.初診時所見:VD=30cm手動弁(矯正不能),VS=0.02(0.3C×sph.6.50D),RT=21mmHg,LT=22mmHg.前眼部は右眼に外傷性散瞳があり,両眼に前房出血があった.右眼眼底に硝子体出血および黄斑部に境界明瞭な血腫があった.血腫の辺縁は神経線維層が出血で染色され,刷毛状に毛羽立っていた.OCTでは胞状に膜が突出していた.内部は出血による高輝度反射があり,ニボーを形成していた.右眼の内境界膜下出血と診断した(図1,2).左眼眼底には網膜振盪および網膜出血があり外傷性黄斑円孔を生じていた.安静目的に入院して経過をみたが,内境界膜下出血の移動や消退はなく,前房出血も消退したため,2018年C9月C22日にCYAGで内境界膜を穿破し,出血を硝子体腔にドレナージすることとした.機器はセレクタオフサルミックレーザーシステム(日本ルミナス社)で,レンズはトランスエークエー図1初診時の右眼広角眼底写真後極にはニボーを形成する大きな内境界膜下出血を生じていた.前房出血のため不鮮明な画像となっている.(AmJOphthalmolC136:763-766,C2003)図2内境界膜穿破後の眼底写真・OCT上:内境界膜穿破C1分後の眼底写真.内境界膜下出血は速やかに穿破部(C.)から後部硝子体皮質ポケット,そして硝子体腔へと拡散した.下:Nd:YAGレーザー穿破3時間後の右眼OCT.内境界膜穿破部()が同定できた.図3右眼OCT(黄斑部・垂直断)と視力の経時的変化内境界膜下出血の吸収に伴い,内境界膜と神経線維層との間の空洞は消失し,視力も改善した.ター(VOLK社)を使用した.条件はC3.0CmJで黄斑外下方に1発照射し,内境界膜を穿破した.出血は速やかに穿破部から後部硝子体皮質ポケット,そして硝子体腔に拡散していった(図2a).3時間後にはCOCTで穿破部を同定することができ,穿破部は出血が排出されるのに伴って硝子体腔に向けて突出するような形状をとっていた.穿破部の裂隙の幅は67Cμmで,突出の幅はC258Cμmであった(図2b).穿破部は1日後には同定できたが,2日後には同定できなくなった.術後,内境界膜と神経線維層との間に空洞が生じていたが,内境界膜下出血がしだいに吸収されていくに伴い,6カ月後には消失した.また,視力は内境界膜下出血の吸収に伴い,しだいに改善した(図3).硝子体腔に排出された出血は器質化し,硝子体腔の下方に少量残存している.黄斑部には黄斑前膜様の反射があり,OCTでも高輝度の膜様物が描出され,軽度の網膜皺襞があるが,網膜外層には変化はなく,視力低下や歪視の訴えはない(図4).一方,左眼は受傷当日から外傷性黄斑円孔を生じていたが,1週間後には全層円孔となり,徐々に円孔径が拡大し,円孔縁の外網状層に.胞形成が生じてきた.自然閉鎖は期待できないと考えたため,受傷C1カ月後に手術を行った.水晶体を温存して硝子体を円錐切除したあとに後部硝子体.離を作製し,アーケード血管内の内境界膜をC3乳頭径ほど.離した.眼内を空気で置換して術後は腹臥位とした.術後C5日で黄斑円孔は閉鎖したことが確認できた.以後,黄斑円孔の再発はない.1年C9カ月後の最終受診時にはCVD=(1.2),VS=(1.2),CRT=15CmmHg,LT=19CmmHgであった.歪視の自覚はない.CII考按Valsalva網膜症やCTerson症候群,白血病などの血液疾患,網膜細動脈瘤,加齢黄斑変性,糖尿病網膜症などによって内境界膜下出血を生じることがあり,出血が遷延して視力障害をきたす場合には治療が必要となる1.3).内境界膜下出血に対してCYAGで内境界膜を穿破し,出血を硝子体腔に拡散させる治療法はC1989年にCGabelらにより報告された1).わが国での報告もあり,後部硝子体.離の生じている高齢者は硝子体が液化しているため,出血が速やかに硝子体腔へ拡散し吸収されることが期待できる.そのため,よい適応とされる3).合併症としては,黄斑円孔,裂孔原性網膜.離,網膜前膜,一過性の網膜前の空洞などがあると報告されている2,4).本症例で,内境界膜を穿破した直後は,出血の流出のために検眼鏡やCOCTで穿破部を同定することはできなかった.図4最終受診時の右眼眼底写真とOCT黄斑部には膜様反射がある.OCTでも膜が高輝度として描出され,軽度の網膜牽引も伴っている.しかし,流出が止まるにつれて,OCTで内境界膜穿破部の同定,直径の計測が可能となった.孔の縁は硝子体側に突出しており,裂隙部の幅はC67μmであり,突出部の幅は258Cμmであった.穿破部の同定が不可能だったため,内境界膜穿破直後の裂隙の幅は不明だが,内境界膜下出血の流出に伴って裂隙や突出部の幅は広がった可能性がある.翌日には突出はなくなり孔の縁は平坦化していた(図5).内境界膜下出血の流出に伴って縁が突出していたものが,流出の停止によって平坦化したものと考えられた.内境界膜下出血が硝子体腔に排出されるに伴い,内境界膜と網膜神経線維層との間には空洞が生じた.術翌日にも穿破部を同定できたが,2日目にはCOCTで穿破部を同定することは不可能となった.内境界膜と神経線維層との空洞は一過性のもので,内境界膜下血腫の消失に伴いしだいに縮小していき,2カ月後には消失した.また,6カ月後には内境界膜下出血も吸収された.既報でも内境界膜下血腫にCYAGで内境界膜穿破を行った症例で,OCTで経過を追った報告はいくつかある5.7).本症例でもみられたように,一過性に網膜前の空洞が生じたことも報告されている.この空洞の発生原因としては,既報では,網膜下血腫が排出された後に増殖細胞が内境界膜上を覆って穿破部を被覆し,網膜前の凸型の空洞を形成したという仮説が立てられている5).本症例で穿破部の同定ができなくなったのも,穿破部を細胞が被覆して閉鎖されたことが原因と考えられる.また,その後は内境界膜下出血の排出は止まり,僚眼の手術時に数日間腹臥位となったが,その間に内境界膜下出血が硝子体腔に排出されて減少することはなかった.残存した出血はおそらく網膜側に吸収されたと思われる.空洞消失後,OCTでは網膜前に高輝度の膜が描出されるようになり,中心窩の網膜内層は牽引されて平坦化している.現状では視力低下や歪視はないため経過観察をしており,高輝度反射の膜は表面に細胞増殖を伴った内境界膜と考えられるが,画像上の判別は困難である.もし,今後手術で膜を.離するようなことになれば,病理検査を行う予定である.既報では,内境界膜下血腫に対する内境界膜穿破後に生図5右眼OCT(内境界膜穿破部)穿破当日は穿破孔の縁は硝子体側に突出していたが,翌日には突出はなくなり,孔の縁は平坦化していた.じた網膜前膜に対して硝子体手術を施行した際,インドシアニングリーンで染色されない網膜前膜があり,.離した内境界膜の病理学的検査では内境界膜の網膜側にはマクロファージ内にヘモジデリンが付着していたと報告されている8).前述の仮説に従うと,内境界膜上にグリア細胞などによる細胞増殖が生じて穿破部を被覆した後も細胞増殖が遷延し,二次性に内境界膜と一体となった網膜前膜を発症した可能性が考えられた.CIII結論内境界膜下血腫に対して内境界膜をCYAGで穿破した後の変化をCOCTで観察できた.穿破孔は数日で閉鎖し,穿破C6カ月後には内境界膜と神経線維層との間の空洞は消失した.空洞の消失により平坦化した内境界膜はちりめん状の皺を呈した.文献1)GabelCV,CBirngruberCR,CGunter-KoszukaCHCetal:Nd-YAGlaserphotodisruptionofhemorrhagicdetachmentoftheCinternalClimitingCmembrane.CAmCJCOphthalmolC107:C33-37,C19892)MaeyerCKD,CGinderdeurenCRV,CPostelmansCLCetal:Sub-innerClimittingCmembranehemorrhage:causesCandCtreat-mentCwithCvitrectomy.CBrCJCOphthalmolC91:869-872,C20073)森秀夫,太田眞理子,鈴木浩之:黄斑部内境界膜下血腫に対するCNd:YAGレーザー治療.眼科手術C22:113-181,C20094)UlbigCMW,CNabgouristasCG,CRothbacherCHHCetal:Long-termCresultsCafterCdrainageCofCpremacularCsubhyaloidChemorrhageCintoCtheCvitreousCwithCaCpulsedNd:YAGClaser.ArchOphththalmolC116:1465-1469,C19985)MayerCCH,CMennelCS,CRodriguesCEBCetal:PersistentCpremacularCcavityCafterCmembranotomyCinCValsalvaCreti-nopathyevidentbyopticalcoherencetomography.RetinaC26:116-118,C20066)HeichelCJ,CKuehnCE,CEichhorstCACetal:Nd:YAGClaserChyaloidotomyCforCtheCtreatmentCofCacuteCsubhyaloidChem-orrhage:acomparisonoftwocases.OphthalmolTherC5:C111-120,C20167)Vaz-PereiraS,BaratAD:Multimodalimagingofsubhya-loidhemorrhageinValsalvaretinopathytreatedwithNd:CYAGlaser.OphthalmolRetinaC2:73,C20188)KwokCAK,CLaiCTY,CChanNR:EpiretinalCmembraneCfor-mationCwithCinternalClimitingCmembraneCwrinklingCafterNd:YAGClaserCmembranotomyCinCValsalvaCretinopathy.CAmJOphthalmolC136:763-766,C2003(140)

Nd:YAG レーザーを用いた前部眼内レンズ表面沈着物の除去

2012年1月31日 火曜日

126(12あ6)たらしい眼科Vol.29,No.1,20120910-1810/12/\100/頁/JC(O0P0Y)《原著》あたらしい眼科29(1):126?130,2012cはじめに種々の手術後,特に長時間を要する侵襲の大きい複雑な硝子体手術の後,しばしば虹彩後癒着や眼内レンズ表面に沈着物1?5)や色素塊が付着する6).眼内レンズ前面の増殖物は,直接視力に影響することは少ないとされている7)が,コントラスト感度の低下を招いたり7),術後の検査に支障となることがある.そこで,今回の研究では,眼内レンズ表面に付着した沈着物の除去を目的としてNd:YAGレーザーを用い,その有用性と安全性について検討した.I対象および方法対象は,10例10眼(54.3±10.2歳)で,その内訳を表1に示す.全症例とも硝子体手術および水晶体再建術(眼内レンズ挿入)の同時手術を施行してから3?14カ月間のステロ〔別刷請求先〕五十嵐弘昌:〒085-8512釧路市新栄町21-14釧路赤十字病院眼科Reprintrequests:HiromasaIgarashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KushiroRed-CrossHospital,21-14Shinei-cho,Kushiro085-8512,JAPANNd:YAGレーザーを用いた前部眼内レンズ表面沈着物の除去五十嵐弘昌*1五十嵐幸子*2鈴木裕嗣*1鈴木詠子*2*1釧路赤十字病院眼科*2さくら眼科RemovalofAnteriorIntraocularLensSurfaceDepositsusingNeodymium-Doped,YttriumAluminumGarnetLaser(Nd:YAGLaser)HiromasaIgarashi1),SachikoIgarashi2),YujiSuzuki1)andEikoSuzuki2)1)DepartmentofOphthalmology,KushiroRed-CrossHospital,2)SakuraEyeClinic目的:術後に発生する眼内レンズ(IOL)表面への付着物をNd:YAGレーザーにて除去する.対象および方法:対象は,10例10眼(54.3±10.2歳)で,ぶどう膜炎の術後3眼,増殖硝子体網膜症術後4眼,糖尿病網膜症術後が3眼であった.ELLEX社のULTRA-QOphthalmicLaserを用い,術前および術後1時間および24時間後に眼圧を測定し,さらに,術前および術後24時間後に視力測定と眼底写真撮影を行った.結果:全症例ともIOLに亀裂を生じることなく,付着物をほぼ完全に除去可能で,術直後に一過性に眼圧が1?2mmHgの上昇を認めたが,24時間後には全例術前値に回復した.視力は,logMAR(logarithmicminimumangleofresolution)0.2の視力改善は1例,0.1の改善が4例で,5例に変化を認めなかったが,悪化例はなかった.結論:本法は,特別な合併症を併発することなく,IOL表面の付着物を完全に除去可能である.Purpose:Toremoveaccumulatedsurfacedepositsfromanteriorintraocularlenses(IOL)aftervarioussurgeries.Methods:Subjectsofthisstudycomprised10eyesof10patients(54.3±10.2yearsofage);3eyeshadundergonesurgeryforcomplicatedcataractassociatedwithuveitis,4forproliferativevitreoretinopathyand3fordiabeticretinopathy.UltraQOphthalmicLaser(Ellex)wasused.Intraocularpressure(IOP)wasmeasuredjustbeforesurgeryandat1and24hourspostoperatively.Visualacuity(VA)wasmeasuredandfundusphotographywascarriedoutpreoperativelyandat24hourspostoperatively.Results:Inallpatients,mostdepositswereremovedcompletely.IOPincreasedtransientlyby1to2mmHgimmediatelypostsurgery,butreturnedtobaselinewithin24hours.In1patientanimprovedlogMAR(logarithmicminimumangleofresolution)VAof0.2wasnoted,4hadimprovementsof0.1andin5theVAremainedunchanged.Conclusion:TheNd:YAGlaserenablescompleteremovalofsurfacedeposits,withoutsubstantialcomplications.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(1):126?130,2012〕Keywords:沈着物,色素塊,眼内レンズ,Nd:YAGレーザー,高眼圧.deposit,pigmentclumps,intraocularlens,Nd:YAGlaser,intraocularhypertension.(127)あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012127イド薬および抗生物質点眼の使用を経て,細隙灯顕微鏡所見および眼底所見で活動性の炎症所見がないにもかかわらず,術後に発生した眼内レンズ表面の沈着物や色素塊が術後2年以上残存し,これらが詳細な眼底検査(眼底写真撮影を含む)を困難としていると考えられた症例である.なお,全症例とも眼内レンズには,AMO社製アクリル眼内レンズ(AR40e)を使用していた.使用したNd:YAGレーザー装置(以下,YAGレーザー)は,ELLEX社製のULTRA-QOphthalmicLaserで,条件としては,wavelength:1,064nm,energy:0.6?0.8mJ,pulseduration:4ns,burstmodepulsesetting:1pulsepershot,treatmentbeamspotsize:11μm(fullwidthhalfmaximum,半値全幅:8μm),posterioroffset:150μmで行った.また,コンタクトレンズとしては,ionVISion社製の後発切開用コンタクトレンズDirectViewCapsulotomy(P-IOV-030)を使用した.操作方法としては,特別な技法を駆使することなく,上記の単一条件で通常の後発切開と同様の操作で施行した8)が,これまでの報告で,眼内レンズ表面のフィブリンなどの沈着物を除去するためのYAGレーザーの操作方法として,ターゲットに直接フォーカシングする方法9,10)と,ターゲットより意図的に焦点を前方にずらし,レーザーの衝撃波で間接的に除去する方法11,12)が報告されている.今回の筆者らの方法は,ターゲット(沈着物)の表面に焦点を置いているので,操作そのものは前者と同様であるが,150μmのposterioroffsetを設定していることより,実際の焦点は術者が合わせた焦点より後方にあり,厳密な意味では今回の手法はどちらの報告とも異なると考えている.ショット数は,各症例の眼内レンズ表面沈着物の大きさと数により異なるが,原則として,1つの沈着物に対し1ショットとし,最高で計55ショット,平均47ショット±4.5であった.また,術直前および術後1および24時間後に眼圧を測定し,さらに術前および術後24時間後に視力測定と眼底写真撮影を施行した.なお,術前1時間前および術直後に,1%アプラクロニジンを点眼した.また,研究に先立ち,患者へ本研究の目的と方法を十分説明したうえで,本人の自由意志による同意のもと本研究を施行した.II結果全症例ともに,眼内レンズに亀裂を作ることなく,沈着物はほぼ完全に除去可能であり,それに伴い良好な眼底検査(眼底写真撮影)も可能となった.その代表例の術前(図1a,2a,3a)および術後(図1b,2b,3b)の前眼部写真と,眼底写真を図4a,bに示す(術中の動画は配信可).また,眼圧は,術後1時間後に一過性に1?2mmHgの上昇(平均1.25±0.30)を認めたが,24時間後には術前値まで低下していた(表1).視力については,logMAR(logarithmicminimumangleofresolution)0.2以上の視力改善は1例,0.1以上の改善が4例と,それほど顕著な上昇を認めなかったが,悪化例は認めなかった(表1).なお,今回の検討ではコントラスト感度の測定は行っていないため,その客観的な評価は行っていない.III考按現在の硝子体手術は,同時に眼内レンズ挿入術を併施することが一般的に承認されているため,術中操作および術後の眼底検査が,水晶体の混濁により困難となることはない.し表1対象症例の内訳症例年齢(歳)ショット数眼圧(mmHg)視力(logMAR)原疾患術前術後1時間術前術後1664710120.30.3増殖糖尿病網膜症(BIII)2504418190.40.3サルコイドーシス3555017190.20.1PVR(硝子体手術後)4485214150.50.4PVR(強膜バックリング術後)5465515161.01.0増殖糖尿病網膜症(BIV)6463914150.40.3サルコイドーシス7674417180.70.7鉄片眼内異物による眼内炎8554817190.30.1増殖糖尿病網膜症(BII)970459100.50.5PVR(硝子体手術後)10404616170.40.4PVR(強膜バックリング術後)①PVR(増殖硝子体網膜症)の括弧内は,網膜?離の復位を目的とした初回術式を示す.②PVRを除きすべて初回手術.③増殖糖尿病網膜症の括弧内は,新福田分類を示す.128あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(128)ab図1代表例のYAGレーザー施行前・後の前眼部写真(その1)a:施行前,眼内レンズ表面に多数の沈着物を認める.b:施行後,眼内レンズ表面の沈着物はほぼ除去されている.ab図3代表例のYAGレーザー施行前・後の前眼部写真(その3)a:施行前,眼内レンズ表面に多数の沈着物を認める.b:施行後,眼内レンズ表面の沈着物はほぼ除去されている.ab図2代表例のYAGレーザー施行前・後の前眼部写真(その2)a:施行前,眼内レンズ表面に多数の沈着物を認める.b:施行後,眼内レンズ表面の沈着物はほぼ除去されている.(129)あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012129かし,術後に発生する前部眼内レンズ表面への沈着物や色素塊6)は,今回の術前・術後の視力の比較からも明らかなように,沈着物自体による視力への影響は幸いさほどないようだ(表1)が,眼底検査については,それが詳細な検査になればなるほどそれらが障害となり,鮮明な眼底写真の撮影も困難となる(図4a,b).そこで,今回の研究目的は,それらをより安全にかつ確実に除去する方法の検討である.KwasniewskaとFrankhauserら13)は,眼内レンズ挿入術後の眼内レンズ表面に付着した沈着物の除去にYAGレーザーを使用している.しかし,彼らの症例は,眼内レンズ全面をカーペット状に被い顕著な視力低下をきたすような沈着物で,筆者らの症例(図1a,2a,3a)のように小さな島状・点状の散在する沈着物とは異なり,膜状物の切開に近い症例であり,今回の報告とは,その手技や効果などを単純に比較できないものと推測される.術後の眼内レンズ表面への沈着物は,術後炎症が長期にわたった場合,術中操作や血液房水柵の崩壊により放たれた赤血球・炎症細胞・フィブリン・色素・蛋白性物質などが線維増殖を伴って膜を形成するために起こる1?5).したがって,その予防や治療として,ステロイド薬の点眼が最も有効な手段と考えられる9,10).しかし,今回の症例のように,術直後より比較的長期間にわたりステロイド薬を含む点眼により加療されたにもかかわらず,眼内レンズ表面に沈着物が付着し,最終的に2年以上が経過しても消退しない場合,さらにいかなる薬物治療を追加しても,一般的にほとんど効果は期待できないものと推測される.このようなとき,外科的な対応,すなわち眼内レンズ表面の直接的研磨も可能かもしれないが,先にも述べたように,眼内レンズ表面の沈着物による視力障害がそれほど顕著ではないにもかかわらず(表1),観血的な手術の選択は躊躇される.そこで,筆者らは,今回,非観血的な手法としてYAGレーザーを選択した8).しかし,本法にもいくつかの懸念される問題がある14?20).なかでも,合併症のなかで最も頻度が高いとされる眼圧の上昇16)と,不可逆性の損傷となる眼内レンズへのダメージ(亀裂)である.しかし,今回の結論からも明らかなように,本法は,眼内レンズにスリットランプで確認できるような亀裂を生ずることなく,ほぼ完全に沈着物の除去が可能であり,さらには,1%アプラクロニジンは使用したものの,憂慮されるような顕著な眼圧の上昇も認めることはなかった.眼内レンズ表面に亀裂が生じなかった理由については,今回の研究だけでは推測の域を出ないが,今回,筆者らの使用した条件が,通常ある程度の厚さをもって眼内レンズ表面に付着する沈着物に対して,適当なoffsetとパワーであったのではないかと推測している.本法は,特別な合併症を併発することなく術後の眼内レンズ表面に付着する沈着物を完全に除去可能であった.本研究は,1種類の眼内レンズ,1種類の照射条件での検討であるので,今後,他の眼内レンズでの検討,種々のレーザー条件の検討,長期的な術後の経過観察などのいくつかの課題は残すが,有用な手段であることは明らかであり,今後,臨床の場で広く普及することが期待された.本論文の要旨の一部は,ARVO2011(2011年,フォートラーダーデール)にて発表した.文献1)EifzigDE:Depositsonthesurfaceoftheintraocularlens:apathologicstudy.SouthMedJ73:6-8,19862)AppleDJ,MamalisN,LoftfieldKetal:Complicationsofintraocularlenses─ahistoricalandhistopathologicalab図4YAGレーザー施行前・後の眼底写真a:施行前.b:施行後,aと比較し明らかに眼底が明るく撮影されている.130あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(130)review.SurvOphthalmol29:1-53,19843)UenoyamaK,KanagawaR,TamuraMetal:Experimentalintraocularlensimplantationintherabbiteyeandinthemouseperitonealspace─partI:cellularcomponentsobservedontheimplantedlenssurface.JCataractRefractSurg14:187-191,19884)WolterJR:Foreignbodygiantcellsonintraocularlensimplants.GraefesArchClinExpOphthalmol219:103-111,19885)WolterJR:Cytopathologyofintraocularlensimplantation.Ophthalmology92:135-142,19856)WolterJR:Pigmentincellularmembranesonintraocularlensimplant.OphthalmicSurg13:726-732,19827)林研:前?収縮.眼科プラクティス18巻(大鹿哲郎編),p413-414,文光堂,20078)GandhamSB,BrownRH,KatzLJetal:Neodymium:YAGmembranectomyforpapillarymembranesonposteriorchamberintraocularlenses.Ophthalmology102:1846-1852,19959)NorisWJ,ChizlsIA,SantryGJetal:Severefibrinousreactionaftercataractandintraocularlensimplantationsurgeryrequiringneodymium:YAGlasertherapy.JCataractRefractSurg16:637-639,199010)MiyakeK,MaekuboK,MiyakeYetal:Pupillaryfibrinmembrane:afrequentearlycomplicationafterposteriorchamberlensimplantationinJapan.Ophthalmology96:1228-1233,198911)VajpayeeRB,AngraSK,HonavarSGetal:Nd:YAG“sweeping”─anindirecttechniqueforclearingintraocularlensdeposits.OphthalmicSurg24:489-491,199312)KumarH,HonavarSG,VajpayeeRB:Nd:YAGlasersweepingoftheanteriorsurfaceofanintraocularlenses:anewobservation.OphthalmicSurg25:409-410,199413)FrankhauserF,KwasniewskaS:Neodymium:yttriumaluminumgarnetlaser.OphthalmicLasers(L’EsperanceFAJred),volII,p839-846,Mo:CVMosby,StLouis,199314)SteinertRF,PuliafitoCA,KumarSRetal:Cystoidmacularedema,retinaldetachment,andglaucomaafterNd:YAGlaserposteriorcapsulotomy.AmJOphthalmol112:373-380,199115)HolwegerRR,MarefatB:Intraocularpressurechangeafterneodymium:YAGcapsulotomy.JCataractRefractSurg23:115-121,199716)AltamiranoD,Guex-CrosierY,BoveyE:ComplicationsofposteriorcapsulotomywithNd:YAGlaser.KlinMonatsblAugenheilkd204:286-287,199417)ChannelMM,BeckmanH:IntraocularpressurechangesafterNd:YAGlaserposteriorcapsulotomy.ArchOphthalomol102:1024-1026,198418)FourmanS,ApissonJ:Late-onsetelevationinintraocularpressureafterNd-YAGlaserposteriorcapsulotomy.ArchOphthalmol109:511-513,199119)Richman-BargerL,CraigWF,LarsonRSetal:RetinaldetachmentafterNd:YAGlaserposteriorcapsulotomy.AmJOphthalmol107:531-536,198920)SteinertRF,PuliafitoCA,KumarSRetal:Cystoidmacularedema,retinaldetachment,andglaucomaafterNd:YAGlaserposteriorcapsulotomy.AmJOphthalmol112:373-380,1991***