《第26回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科33(7):1044〜1048,2016©OCTOPUS600視野計10-2とHumphrey視野計10-2の比較高橋夏実*1佐藤司*1松村一弘*1笠原正行*1平澤一法*2庄司信行*2清水公也*1*1北里大学病院眼科*2北里大学医療衛生学部ComparisonofOCTOPUS600andHumphreyPerimeterwith10-2ProgramNatsumiTakahashi1),TsukasaSato1),KazuhiroMatsumura1),MasayukiKasahara1),KazunoriHirasawa2),NobuyukiShoji2)andKimiyaShimizu1)1)DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,KitasatoUniversity,2)OrthopticsandVisualScience,DepartmentofRehabilitation,SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversity目的:測定中に輝度に応じて視標サイズが変わるOCTOPUS600視野計(OCTOPUS600)と従来のHumphrey視野計(HFA)の10-2測定点プログラムの結果を比較する.対象および方法:対象はOCUTOPUS600とHFAを同日に施行した87名87眼である.測定アルゴリズムは,OCTOPUS600はDynamic,HFAはSITA-Standardとした.検討項目は,中心窩閾値,meandefectとmeandeviation,squarelossvariance(sLV)とpatternstandarddeviation(PSD),中心から2°間隔に5つの領域に分けて比較した.結果:HFAと比べOCTOPUS600の中心窩閾値は約7.4dB低く,MeanDefectは2.1dB高く,sLVは1.6dB高かった(それぞれp<0.05).中心窩閾値の相関はr=0.628,MeanDefectとMeanDeviationはr=0.981,PSDとsLVはr=0.949であった(それぞれp<0.01).中心から1°,3°,5°,7°,9°領域における網膜感度の相関係数はそれぞれr=0.680,0.830,0.870,0.868,0.869であり(p<0.01),中心1°,3°領域は他の領域に比べ低かった(p<0.01).結論:10-2測定点プログラムにおいて,中心窩閾値,固視点近傍の測定感度の一致性はやや低かったが,全体的な結果を評価すると従来のHFAと同等であった.TheaimofthisstudywastocomparethetestresultsofsizemodulationOctopus600andconventionalHumphreyfieldanalyzer(HFA)with10-2testprograminglaucomapatients.Inthestudy,87eyesof87glaucomapatientsunderwentbothOctopus600andHFAmeasurement.GlobalindicesofOctopus600werecomparedwithcorrespondingindicesofHFA.Point-wiseandarea(1°,3°,5°,7°and9°)thresholdvalueswerealsocompared.Foveathreshold,meandefectandsquarelossvariance(sLV)oftheOctopus600weresignificantly7.4dBlower,2.1dBhigherand1.6dBhigherthancorrespondingindicesofHFA(allp<0.05).Foveathreshold(r=0.628),meandefect(r=−0.981)andsquarelossvariance(r=0.881)oftheOctopus600significantlycorrelatedwiththecorrespondingindicesofHFA(allp<0.01).Correlationcoefficientsforthecentral1°,3°,5°,7°and9°areaswere0.680,0.830,0.870,0.868and0.869,respectively(allp<0.01).Thecorrelationcoefficientsforthe1°and3°areasweresignificantlylowerthanthoseforotherperipheralareas(p<0.01).Althoughsmalldifferenceswereobservedinthecentralarea,globalindicesofthetwotestingmodalitieswerewell-correlated.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(7):1044〜1048,2016〕Keywords:視野,サイズ変調視野,OCTOPUS600,10-2測定点.visualfield,sizemodulationperimetry,OCTOPUS600,10-2testprogram.はじめに現在の緑内障診療に使用される通常の静的視野計は,視標輝度のダイナミックレンジを維持するため検査面と光源が別になっており,Goldmann視標サイズIIIを維持したまま低輝度から高輝度までの視標呈示が可能である.近年,機器内に搭載されている液晶モニター上で視野検査を行うOCTOPUS600視野計(OCTOPUS600)が開発された1,2).OCTOPUS600は,おもにPulsar視標を使った早期緑内障の検出を目的とした視野計であるが,通常の静的視野検査も行うことが可能である.しかし,液晶モニターで通常の静的視野検査を行う場合,呈示できる視標輝度に限界があり,通常の静的視野のような幅広いダイナミックレンジを維持することはむずかしい.そこで,OCTOPUS600ではヒトの空間和を応用し,低輝度では視標サイズを大きくし,高輝度では視標サイズを小さくさせることで通常の静的視野同様のダイナミックレンジを維持する新しい手法を用いている(図1)1,2).このような視標サイズを変化させる手法は,測定点間隔が6°間隔で配置している測定点プログラムにおいては刺激部位の重複などは考えられない.しかし,測定点が2°間隔で配置している測定点プログラムの場合,高輝度の視標が呈示される感度低下部位においては刺激部位が重複することが考えられる.そこで本研究では,測定点が2°間隔で配置している10-2プログラムにおいて視標サイズが変わるOCTOPUS600と従来の視標サイズが変わらないHumphreyFieldAnalyzer(HFA)の結果を比較した.I対象および方法対象は当院緑内障外来通院中の年齢20歳以上かつ矯正視力0.5以上であり,診療目的でHFA10-2SITA-Standardを施行し,信頼性のある結果(固視不良20%未満・偽陽性15%未満)が得られた緑内障患者90例90眼(男性52名,女性38名)である.これらの患者に対し同意取得後,同日にOCTOPUS60010-2Dynamicを施行した.両機器の測定条件はほとんど同じであるが,最大視標輝度はOCTOPUS600の418asbに対しHFAは10,000asbである.通常のOCTOPUS視野計は最大視標輝度が4,000asbであるが,OCTOPUS600ではサイズ変調方式によって4,000asbに相当する視標を呈示している1,2).また,視標呈示時間はOCTOPUS600の0.1秒に対し,HFAでは0.2秒の違いがある.検討項目は,グローバルインデックスであるOCTOPUS600の中心窩閾値,meandefect,squarelossvariance(sLV)とそれらに相当するHFAの中心窩閾値,meandeviation,patternstandarddeviation(PSD)の平均値の比較と相関,各測定点の感度の差の平均値の比較と相関,および固視点から1°,3°,5°,7°,9°の5つの領域の相関である.OCTOPUS600のMeanDefectは符号を反転してHFAに合わせて解析した.各測定点の感度の比較は,HFAのtotaldeviationからOCTOPUS600のcomparisonの値を引いて算出し,comparisonの値も同様にHFAに合わせて反転した.2群の平均値の比較にはt検定を用い,相関検定にはPearsonの積率相関係数の検定を用い,相関係数はz値に変換しc2検定を行うことで相関係数の比較も行った.解析の除外基準として,OCTOPUS600の偽陽性が15%以上,またモニター上で明らかな固視不良を認めた場合とした.なお,本研究は北里大学病院倫理委員会の承認を得たうえで行った(承認番号B14-129)II結果対象の90例90眼のうち,3例3眼は除外基準に該当したため87例87眼を解析の対象とした.患者背景は表1に示す.OCTOPUS600とHFAの中心窩閾値は26.7±6.0dBと34.1±4.6であり,OCTOPUS600のほうが約7.4dB低く(p<0.01),相関係数は0.628(p<0.01)であった.meandefectとmeandeviationはそれぞれ−13.2±7.0dBと−15.3±8.7dBであり,OCTOPUS600のほうが2.1dB高く(p<0.05),相関係数は0.981(p<0.01)であった.sLVとPSDはそれぞれ10.7±3.9dBと9.1±2.9dBであり,OCTOPUS600のほうが1.6dB高く(p<0.01),相関係数は0.949(p<0.01)であった.各測定点の感度の相関係数は,おおよそ0.7以上であり,感度の差の平均もOCTOPUS600のほうが全体的に高かった(図2).各領域の実測値の相関係数は1°,3°,5°,7°,9°でそれぞれ0.680,0.830,0.870,0.868,0.869であり,1°領域は他のすべての領域に比べ相関係数が低く(c2>28.7,p<0.01),3°領域の実測値の相関係数は5°(c2=11.8,p<0.01),7°(c2=12.4,p<0.01)と比較して低かった.本検討における代表症例の結果を図3に示す.III考按本検討において,中心窩閾値はOCTOPUS600のほうが7.4dB低かった.OCTOPUS600とHFAの最大視標輝度の差の約4dBを考慮しても3dBほど低いことになる.その理由は測定方法の違いが影響していると考えられる.HFAは中心窩閾値だけを計測するセッションがあるのに対して,OCTOPUS600は視野測定中ランダムに中心窩に視標が呈示される.過去の報告によると,30-2と10-2の重複する測定点の感度を比較すると10-2の測定点のほうが高くなると報告しており3〜7),検査中の注意力が関係していると考えられている.さらにOCTOPUS600では,視標輝度が24dB以上で視標サイズが小さくなるため,感度の良い中心窩には小さな視標が検査中ランダムに呈示されることになる.Meandefectとmeandeviation,およびsLVとPSDにおいて,OCTOPUS600のほうが全体的に感度は過小評価され視野異常の深さは過大評価されていた.OCTOPUS600では,高輝度視標において隣り合う測定点の刺激部位が重複し,感度が過大評価された可能性も推測できるが,両機種の測定アルゴリズムや各パラメータの計算方法の違い8)が影響した可能性が高い.計算方法の違いであれば,強度の相関を示したことも妥当であり,OCTOPUS600のmeandefectとsLVは,HFAのmeandeviationとPSDと同様の評価ができていると考えられる.各領域の感度の相関と差の平均値を比べると,1°領域の相関係数が低く,全体的にOCTOPUS600の感度のほうが高かった.過去の報告によると,視野検査中に1〜2°のわずかな固視の動揺が全体の60%生じていることや9),10-2の測定において平均2.9°の固視の動揺が生じているとも報告されている10).また,OCTOPUS600で使用されているようなクロスマークの固視目標は,HFAで用いているポイントの固視目標よりも固視の動揺が大きくなると報告されている11).黄斑部の網膜神経節細胞の分布が中心ほど密であることを考えれば12),中心の測定になるほど固視の動揺の影響を受けて感度のばらつきが大きくなったと考えられる.各測定点の感度がOCTOPUS600にて全体的に高かった理由として,上述のとおり両機種の測定アルゴリズムの違いが考えられる.筆者らは第119回日本眼科学会総会でOCTOPUS600とHFAにおける24-2の比較を発表した.3°,9°領域の相関係数はそれぞれ0.772,0.833であったが,本検討における重複する同領域の相関係数はそれぞれ0.814,0.868であった.視標輝度によって刺激部位が重なる可能性が考えられる本検討の10-2では,3°および9°領域における相関係数は同等以上であったため,視標サイズの変化に伴う影響は10-2においても少ないと考えられる.今回の検討から,視野全体を評価するパラメータの一致性は高く,10-2のモニターベースのサイズ変調視野は従来の静的視野と同等で有用であると思われる.しかし,OCTOPUS600とHFAの10-2の結果において中心領域の感度の相関は周辺部位に比較して低かった.この相関の低さが視標サイズによるものなのか,それとも視標サイズとは関係なく視野検査における結果のばらつきなのかは今回の検討結果だけでは証明できないため,今後さらなる検討が必要である.謝辞:本研究はJSPS科研費15K20281の助成を受けたものです.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)GonzalezdelaRosaM,Gonzalez-HernandezM,LozanoLopezVetal:Topographicalspatialsummationinglaucoma.EurJOphthalmol17:538-544,20072)Haag-StreitAG:EyeSuiteTMinstractionforuse.EyeSuiteversioni8,Koeniz,Switzerland,20143)FujimotoN:Comparisonofafive-degreevisualfieldbetweentwoprogramsofdifferenttestingfieldrange.AmJOphthalmol143:866-867,20074)FujimotoN,Adachi-UsamiE:Effectoftestfieldsizeontheresultsofautomatedperimetryinnormalsubjectsandpatientswithopticneuritis.ActaOphthalmo(lCopenh)69:367-370,19915)FujimotoN,Adachi-UsamiE:Effectofnumberoftestpointsandsizeoftestfieldinautomatedperimetry.ActaOphthalmol(Copenh)70:323-326,19926)FujimotoN,Adachi-UsamiE:Effectofnumberoftestpointsinautomatedperimetry.AmJOphthalmol113:317-320,19927)FujimotoN,Adachi-UsamiE:Increasedsensitivitywithdecreasednumbersoftestpointsanddecreasedtestfieldsizeinautomatedperimetryofnormalsubjects.Ophthalmologica204:88-92,19928)平澤一法:視野の基礎入門②視野検査の結果を解読する.神経眼科30(第4号別冊):406-409,20139)IshiyamaY,MurataH,MayamaCetal:AnobjectiveevaluationofgazetrackinginHumphreyperimetryandtherelationwiththereproducibilityofvisualfields:apilotstudyinglaucoma.InvestOphthalmolVisSci55:8149-8152,201410)LinSR,LaiIN,DuttaSetal:QuantitativemeasurementoffixationstabilityduringRareBitperimetryandHumphreyvisualfieldtesting.JGlaucoma24:100-104,201511)BellmannC,FeelyM,CrosslandMDetal:Fixationstabilityusingcentralandpericentralfixationtargetsinpatientswithage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology111:2265-2270,200412)CurcioCA,AllenKA:Topographyofganglioncellsinhumanretina.JCompNeurol300:5-25,1990図1OCTOPUS600の視標輝度に伴う視標サイズの変化10dBより高輝度の視標は10dBの輝度を維持して視標サイズが大きくなり,24dBより低輝度の視標は24dBの輝度を維持して視標サイズが小さくなる1,2).表1患者背景平均±標準偏差最小〜最大病型POAG44眼NTG33眼SG8眼PACG2眼年齢(歳)65.0±14.020〜90視力(LogMAR)0.01±0.14−0.30〜0.30等価球面値(D)−2.37±3.63−17.75〜3.00眼圧(mmHg)14.7±3.87〜26POAG:primaryopen-angleglaucoma,NTG:normal-tensionglaucoma,SG:secondaryglaucoma,PACG:primaryanglecloseglaucoma.図2OCTOPUS600とHFAの各測定点の感度の相関係数および差の平均各測定点における感度の相関係数(A)と差の平均(B)を示す.右眼の結果は左眼の測定点の配置に変換して表示してある.各測定点の感度の差はtotaldeviationからcomparisonを引いて算出してある.なお,comparisonの値は符号を反転して計算している.図3代表症例上から順番に中心視野異常が軽度(症例1),中等度(症例2),重度(症例3)の左眼の代表結果を示す.上段にOCTOPUS600の結果,下段にHFAの結果を示す.〔別刷請求先〕平澤一法:〒252-0373神奈川県相模原市南区北里1-15-1北里大学医療衛生学部Reprintrequests:KazunoriHirasawa,Ph.D.,OrthopticsandVisualScience,DepartmentofRehabilitation,SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversity,1-15-1,Kitasato,Minami-ku,Sagamihara,Kanagawa252-0375,JAPAN0190140-41810/あ16た/0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(119)あたらしい眼科Vol.33,No.7,201610451046あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(120)(121)あたらしい眼科Vol.33,No.7,201610471048あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(122)