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糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固術前後での網膜血管酸素飽和度の変化

2019年2月28日 木曜日

《原著》あたらしい眼科36(2):295.297,2019c糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固術前後での網膜血管酸素飽和度の変化小山雄太*1中野裕貴*2田中茂登*1廣岡一行*2*1香川県立中央病院眼科*2香川大学医学部眼科学講座CChangesinRetinalVascularOxygenSaturationbeforeandafterPanretinalPhotocoagulationforDiabeticRetinopathyYutaKoyama1),YukiNakano2),ShigetoTanaka1)andKazuyukiHirooka2)1)DepartmentofOphthalmology,KagawaPrefecturalCentralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KagawaUniversityFacultyofMedecineC目的:糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固術(PRP)前後での網膜血管酸素飽和度(SaOC2)変化を比較検討すること.対象および方法:糖尿病網膜症に対してCPRPを施行したC8例C14眼を対象とした.PRPはC2回に分けて施行し,PRP施行前,PRP1回目施行後,PRP完成C1カ月後にCOxymapT1を用いて眼底写真を撮影した.画像を解析し,網膜動静脈のCSaOC2を計測した.結果:PRP施行前の動静脈CSaOC2は,それぞれC101.9C±10.6%,59.9C±12.0%,動静脈CSaO2の差はC42.0C±9.9%.PRP1回目施行後の動静脈CSaOC2は,それぞれC104.8C±9.3%,65.5C±4.6%,動静脈CSaOC2の差はC39.3C±10.1%.PRP完成C1カ月後の動静脈CSaOC2は,それぞれC106.1C±8.7%,64.2C±6.2%,動静脈CSaOC2の差はC41.9±8.9%.結論:PRP前後で動脈CSaOC2は上昇し,静脈CSaOC2と動静脈CSaOC2の差は不変であった.CPurpose:Tocomparechangesinretinalvascularoxygensaturation(SaOC2)beforeandafterpanretinalphoto-coagulation(PRP)forCdiabeticCretinopathy.CSubjectsandMethods:PRPCwasCtreatedCinCtwoparts;fundusCphoto-graphsweretakenusingOxymapT1beforePRP,afterC.rstPRPandaftercompletionofPRP.SaO2Coftheretinalarteriesandveinsweremeasured.Results:SaO2CofarteriesandveinsbeforePRPwere101.9±10.6%CandC59.9±12.0%,respectively;theCdi.erenceCinCarteriovenousCSaO2CwasC42.0±9.9%.SaO2CofCarteriesCandCveinsCatC.rstCmonthCafterCcompletionCofCPRPCwereC106.1±8.7%CandC64.2±6.2%,respectively;theCdi.erenceCinCarteriovenousCSaO2Cwas41.9±8.9%.Conclusions:SaO2ofarteriesincreased;SaOC2Cofveinsanddi.erenceinarteriovenousSaO2CwereunchangedafterPRP,incomparisontopre-PRPvalues.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(2):295.297,C2019〕Keywords:糖尿病網膜症,汎網膜光凝固術,OxymapT1,酸素飽和度.diabeticretinopathy,panretinalphoto-coagulation,OxymapT1,oxygensaturation.Cはじめに糖尿病網膜症は,高血糖に伴うポリオール代謝異常による内皮障害から網膜血管障害を発症する疾患である.毛細血管が閉塞して虚血となり,さらに進行すると新生血管を形成して増殖糖尿病網膜症となる.網膜虚血により誘導される血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)などの増殖因子が病的血管新生に関与しており,それらの増殖因子産生を抑制する治療の一つとして汎網膜光凝固術(panretinalphotocoagulation:PRP)がある.PRPは網膜色素上皮を中心とする網膜外層を選択的に破壊することで網膜の酸素需要を減らし,網膜虚血を予防することを目的としている.この根拠を説明しうる報告として,健常人と糖尿病網膜症でCPRP施行済みの患者の網膜動静脈酸素飽和度(SaOC2)を比較すると,網膜静脈のCSaOC2が後者で有意に高いと報告されている1).今回筆者らは,眼底カメラ型の酸素飽和度計(OxymapT1,Oxymap社,アイスランド)を用いて,同一眼のCPRP前からCPRP終了後C1カ月までの網膜動静脈CSaOC2の変化を計測し,比較検討したので報告する.〔別刷請求先〕小山雄太:〒761-0793香川県木田郡三木町池戸C1750-1香川大学医学部眼科学講座Reprintrequests:YutaKoyama,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KagawaUniversityFacultyofMedicine,1750-1Ikenobe,Miki-cho,Kita-gun,Kagawa761-0793,JAPANC0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(165)C295図1OxymapT1TRC-50DX(トプコン社製)に装着する(赤矢印).I対象および方法2015年C1月.2016年C1月に香川大学医学部附属病院で前増殖糖尿病網膜症および増殖糖尿病網膜症に対してCPRPを施行した8例14眼(男性5例7眼,女性4例7眼,平均年齢C63.0C±5.6歳)を対象とした.PRPをC1回目に下方半周,2回目に上方半周とC2回に分けて施行し,PRP施行前,PRP1回目終了後,PRP完成後C1カ月の合計C3回の時期にCOxymapT1を用いて眼底写真を撮影し網膜主幹動静脈のCSaO2を測定した.COxymapT1は眼底カメラ型の網膜酸素飽和度計である(図1).眼底カメラのカメラを装着する位置に装着して眼底写真を撮影し,その写真を専用の解析ソフト(OxymapAnalyzer)を用いて解析することにより,視神経乳頭周囲での網膜主幹動静脈のCSaOC2を計測することができる.SaOC2は酸素に結合可能なヘモグロビンのうち,酸化型ヘモグロビンの割合を百分率で示したものであり,その測定原理は酸化型ヘモグロビンと還元型ヘモグロビンとの吸光度の差を利用している.OxymapT1はC570CnmとC600CnmのC2種類の単色光からなるモノクロ写真を用いてCSaOC2を測定している2).なお,同じ測定原理を用いる経皮パルスオキシメータは赤外光と赤色光を用いている.解析中の写真を図2に示す.自動で計測可能な血管に色がついて表示され,SaOC2が高い血管ほど暖色系で表示され,低い血管ほど寒色系で表示される.視神経乳頭径のC1.5倍と3倍のサークルを描き,そのC2つのサークルの間の任意の血図2OxymapAnalyzerでの解析画像管を選択すると該当部分の平均CSaOC2と平均血管径を得ることができる.複数の血管を同時に選択するとCSaOC2の平均値を得ることもできる.今回は同一症例同一眼のCPRP前後の3枚の写真すべてに共通して計測できた血管のうち,動静脈それぞれからできるだけ多くの血管を選択し,同じ血管の平均CSaOC2を比較した.動静脈の交差部は,値が不正確になるため測定範囲から除外した.硝子体出血がある症例やトリアムシノロンCTenon.下注射,抗CVEGF阻害薬硝子体注射,硝子体手術,緑内障手術の既往がある症例,眼底写真のCImagequalityの数値がC5.0以下の症例は測定値に影響を及ぼす可能性があるので除外した.統計学的検討は対応のあるCt検定を用いて,p<0.05を有意差ありとした.CII結果合計でC8例C14眼,動脈C58カ所,静脈C69カ所のCSaOC2を測定した.PRP施行前の動脈および静脈の平均CSaOC2はC101.9±10.6%とC59.9C±12.0%であり,動静脈CSaOC2の差はC42.0±9.9%であった.PRP1回目終了後の動脈および静脈の平均CSaOC2はC104.8C±9.3%とC65.5C±4.6%であり,動静脈CSaO2の差はC39.3C±10.1%であった.PRP終了後C1カ月の動脈および静脈の平均CSaOC2はC106.1C±8.7%,64.2C±6.2%であり,動静脈CSaOC2の差はC41.9C±8.9%であった.動脈,静脈,動静脈CSaOC2の差の変化を図3に示す.PRP施行前の動脈CSaO2に比べCPRP終了後C1カ月の動脈CSaOC2は有意に増加を認めた(p=0.005,対応のあるCt検定).CIII考按今回の結果よりCPRP前後で動脈CSaOC2は上昇したが,静脈CSaOC2と動静脈CSaOC2の差は不変であった.光凝固によって網膜色素上皮が破壊され,それに隣接している視細胞が障害されれば網膜の酸素消費量が減って網膜静脈CSaOC2が上昇296あたらしい眼科Vol.36,No.2,2019(166)すると考えたが,異なる結果となった.今回の筆者らの結果からもわかるようにCOxymapT1で測定された動脈CSaOC2の測定値がC100%を超えることがあるが,この理由は測定値が網膜血管径や網膜色素の量に影響を受けるからであり,そのため計測値は相対的なものとして評価する必要がある3).既報では,白人の健常人の平均動脈CSaO2がC93.1C±2.3%4)やC92.2C±3.7%5)と報告されているのに対して,日本人ではC97.1C±6.9%3)と報告されている.これは人種による網膜色素量の違いが測定結果に影響を及ぼしているものと考えられる.また,光凝固後に動脈CSaOC2が上昇した原因として,今回CSaOC2を計測したサークル内に光凝固斑が含まれている場合,その部分の網膜色素上皮は障害されているため背景の網膜色素量がCPRP施行前と変化しており,そのことが測定結果に影響した可能性がある.今回はCPRP後C1カ月までしか追跡できていないため凝固斑がまだ完全に変性していない症例も含まれている可能性がある.炎症の活動性があれば酸素消費はむしろ亢進していると推測され,網膜静脈CSaOC2は低下する可能性もある.そのため,光凝固が及ぼす網膜CSaOC2への影響を明らかにするには,3カ月後やC6カ月後まで期間を延長してさらなる検討が必要であると考えられるが,今回の症例では追跡できていない.今回CPRPを施行した患者は前増殖期以降の糖尿病網膜症であり,網膜には出血や白斑が散在している.網膜出血や白斑が血管に及んでいるとその部分は計測できない症例もあるため,計測結果に影響している可能性がある.今回の光凝固にはパターンスキャンレーザーのCPASCAL(TOPCON社製)を使用している.従来のマルチカラーレーザーでの光凝固に比べて高出力短時間照射で低侵襲なため,CSaO2への影響も少ない可能性が高い.本研究の問題点として,症例数がC8例C14眼と少ないことがあげられる.今後は症例数を増やしてさらなる検討が必要であると考える.COxymapT1の計測値は個体差が大きく,異なる個体間での比較には不向きだが同一個体では高い再現性を示す3).PRP前後の網膜動静脈CSaOC2の変化を正確に評価する手法として,今回のように同一個体の治療前後を比較することに問題はないと思われる.今後COxymapT1を用いて計測を継続していくことにより網膜光凝固のCSaOC2への影響を明らかにできる可能性がある.文献1)HardarsonSH,KarlssonRA,EysteinssonTetal:Retinal酸素飽和度の動静脈差(%)静脈酸素飽和度(%)動脈酸素飽和度(%)130*12512011511010595*:p<0.059085PRP前PRPPRP1/2終了後完成後1カ月75706560555045PRP前PRPPRP1/2終了後完成後1カ月55504540353025PRP前PRPPRP1/2終了後完成後1カ月図3汎網膜光凝固術前後の動静脈の酸素飽和度と,酸素飽和度動静脈差の変化oxygenationCafterClaserCphotocoagulationCinCpationtsCwithCproliferativeCdiabeticCretinopathy.CInvestCOphthalmolCVisCSci49:5366,C20082)HardarsonSH:RetinalCoximetry.CActaCOphthalmolC91:C489-490,C20133)NakanoY,ShimazakiT,KobayashiNetal:Retinaloxim-etryCinCaChealthyCJapaneseCpopulation.CPLoSCOneC11:Ce0159650,C20164)PalssonCO,CGeirsdottirCA,CHardarsonCSHCetal:RetinalCoximetryimagesmustbestandardized:amethodologicalanalysis.InvestOphthalmilVisSci53:1729-1733,C20125)GeirsdottirA,PalssonO,HardarsonSHetal:Retinalves-selCoxygenCsaturationCinChealthyCindividuals.CInvestCOph-thalmolVisSci53:5433-5442,C2012***(167)あたらしい眼科Vol.36,No.2,2019C297