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病巣の切除およびポビドンヨードによる洗浄が奏効した緑膿菌による壊死性強膜炎の2例

2019年10月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科36(10):1312.1316,2019c病巣の切除およびポビドンヨードによる洗浄が奏効した緑膿菌による壊死性強膜炎の2例厚見知甫明石梓下山剛徳永敬司原ルミ子加古川中央市民病院眼科CTwoCasesofNecrotizingScleritisDuetoPseudomonasAeruginosaCChihoAtsumi,AzusaAkashi,TsuyoshiShimoyama,TakashiTokunagaandRumikoHaraCDepartmentofOphthalmology,KakogawaCentralCityHospitalC症例1:78歳,男性.2013年C4月に左眼の翼状片手術を受け,6月より左眼痛と充血が出現しステロイドおよび抗菌薬点眼にて治療が開始されたが改善せず,当科を紹介受診となった.抗菌薬全身投与後も改善がなく,結膜・強膜融解部分を切開し培養提出を行ったところ,融解した鼻側強膜よりCPseudomonasaeruginosaが検出された.まずC0.02%クロルヘキシジングルコン酸塩で連日洗浄を開始したが,経過中,他部位に結膜下膿瘍を認めたため,洗浄液をポビドンヨードに変更し,病巣の切除,洗浄を繰り返したところ病巣部は徐々に縮小し,瘢痕治癒した.症例2:69歳,男性.2011年に硝子体出血に対して左眼の水晶体再建術および硝子体切除術が施行された.2016年C10月に左眼痛と充血が出現しステロイドおよび抗菌薬点眼にて治療後も改善せず,当科紹介となった.融解した鼻側強膜からCPseudo-monasaeruginosaが検出され,症例C1と同様に病巣の切除およびポビドンヨードによる洗浄を行い,最終的に瘢痕治癒した.CPurpose:ToCreportC2CcasesCofCnecrotizingCscleritisCdueCtoCPseudomonasCaeruginosa.CaseReports:Case1involvedCaC78-year-oldCmaleCwhoCwasCreferredCafterCsteroidCandCantibioticCdropsCwereCfoundCine.ectiveCforCtheCtreatmentofpainandhyperemiainhislefteyethatoccurred2monthsafterpterygiumsurgery.Anasalconjunc-tival/scleralCtissueCsamplesCwereCobtainedCforCculture,CandCtreatmentCwithCsystemicCantibioticsCwasCinitiated.CTheCculturesCwereCfoundCpositiveCforCP.Caeruginosa.CTreatmentCwithCsystemicCantibioticsCwasCdiscontinued,CandCdailyCwashingCwithCpovidoneCiodineCwasCinitiated.CHowever,CaCsubconjunctivalCabscessCdevelopedCinCaCdi.erentCarea.CAfterCresection,CtheCdailyCwashingCwithCpovidoneCiodineCwasCresumedCandCtheCsymptomsCwereCresolved.CCaseC2Cinvolveda69year-oldmalewhobecameawareofpaininhislefteye5yearsafterundergoingvitreousandcata-ractCsurgeryCforCaCvitreousChemorrhage.CScleritisCwasCdiagnosed,CandCsteroidCandCantibioticCeyeCdropsCwereCpre-scribed.However,hewasreferredtoourinstitutionafterhissymptomsdidnotimprove.P.aeruginosawasisolatedfromnasalnecrotizingsclera.AsinCase1,dailywashingwithpovidoneiodinewasinitiated,whichresultedintheresolutionofsymptoms.Conclusion:Dailywashingwithpovidoneiodinewasfounde.ectiveforthetreatmentofnecrotizingscleritisduetoP.aeruginosa.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(10):1312.1316,C2019〕Keywords:緑膿菌,壊死性強膜炎,ポビドンヨード,結膜下膿瘍,結膜切開,排膿.Pseudomonasaeruginosa,necrotizingscleritis,povidone-iodine,subconjunctivalabscess,conjunctivalincision,abscessdrainage.Cはじめに類されている1).今回,筆者らはまれな緑膿菌による壊死性壊死性強膜炎はしばしば強膜穿孔をきたす難治性疾患であ強膜炎のC2例を経験し,繰り返し病巣の切開,排膿,16倍る.病因として,自己免疫性疾患に合併するもの,ウイルス希釈ポビドンヨードによる洗浄を施行し,病勢を終息させるや細菌などによる感染によるもの,および特発性のC3群に分ことができたので報告する.〔別刷請求先〕厚見知甫:〒675-8611兵庫県加古川市加古川町本町C439加古川中央市民病院眼科Reprintrequests:ChihoAtsumi,DepartmentofOphthalmology,KakogawaCentralCityHospital,439Kakogawacho,Honmachi,Kakogawa-city,Hyogo675-8611,JAPANC1312(90)〔症例1〕78歳,男性.主訴:左眼痛と充血.現病歴:2013年C6月より左眼痛,充血が出現し近医を受診した.モキシフロキサシン,ベタメタゾン点眼が開始されたが改善せず,精査加療目的に同年C7月某日加古川中央市民病院(以下,当院)紹介となった.既往歴:糖尿病,膵臓癌(手術後).眼科手術歴:2013年C3月左眼白内障手術,2013年C4月左眼翼状片手術(マイトマイシン使用については不詳).初診時所見:視力は右眼(1.0C×sph+1.0D(cyl.1.5DCAx80°),左眼(0.4C×sph.0.5D(cyl.1.5DAx90°),眼圧は右眼C10CmmHg,左眼C18CmmHgであった.左眼に膿性白色の眼脂と毛様充血および前房蓄膿を認め(図1),眼底には上方と耳側に脈絡膜.離を認めた.血液検査ではCRPは2.01Cmg/dlと軽度上昇,白血球数はC6,040/μlと正常値であった.血沈はC1時間値C59mmと亢進していたが,リウマチ因子は9CIU/ml,抗核抗体はC40倍未満と陰性で,自己免疫性疾患を疑わせる所見は認めなかった.経過:臨床所見から細菌感染によるものを疑い,同日より入院のうえ,モキシフロキサシン,セフタジジム,バンコマイシンの点眼,チエペネムC0.5CgC×2/日の点滴治療を開始した.また,白内障術後C3カ月であったため術後眼内炎の可能性も考え前房洗浄を施行し,前房水を提出したが培養検査の結果は陰性であった.治療開始後も病状に改善傾向がなく,また,鼻側結膜下に白色の膿瘍病巣を認めたため排膿目的に同部位の切開を行ったところ,病巣の底部には硬い板状Ccalci.cationplaque(図2)を認め,周囲の強膜は壊死性変化を伴い菲薄化していた.16倍希釈ポビドンヨードで病巣を洗浄後,切開部は強膜を露出したままとし翌日から連日C0.02%クロルヘキシジングルコン酸塩を用いてC1日C1回洗浄を行った.入院C1週目に眼脂および切除したCcalci.cationplaqueの培養からCPseudomonasaeruginosaが検出され,薬剤感受性を参考に,点眼液をバンコマイシンからトブラマイシンに変更した.いったんは改善傾向にあったが,入院C3週目に他部位にも同様の結膜下膿瘍(図3)が出現したため,病巣部結膜を切開し排膿を行ったうえで,今回はC16倍希釈ポビドンヨードを用いてC1日C1回の創部洗浄を連日行ったところ,徐々に病巣は縮小した.入院約C6週目で洗眼を中止し,点眼治療のみ継続したところ瘢痕化が得られたため,治療開始からC9週目に退院となった(図4).その後点眼を漸減し中止したが,強膜の強い菲薄化は残存するものの再発は認めていない(図5).〔症例2〕69歳,男性.主訴:左眼痛と充血.現病歴:2016年C10月初旬に左眼痛が出現し近医を受診し図1症例1:初診時前眼部写真結膜毛様充血,前房蓄膿を認める.図2症例1:左眼鼻側融解した結膜下にCcalci.cationplaqueを認める.図3症例1:新たに出現した上方の結膜下膿瘍点眼点滴モキシフロキサシンセフタジジムバンコマイシントブラマイシンチエペネムセフタジジム入院1W3W4W6W9W退院クロルヘキシジン(洗眼)ポビドンヨード(洗眼)切開排膿★★★★図4症例1:治療経過モキシフロキサシン,セフタジジム,バンコマイシンの点眼,チエペネムの点滴治療を開始した.病状に改善傾向がなく,鼻側結膜下に認めたCcalci.cationplaqueを切除し,0.02%クロルヘキシジングルコン酸塩で病巣を連日洗浄した.入院C1週目に眼脂および切除したCcalci.cationplaqueの培養からCPseudomonasaeru-ginosaが検出され,感受性を参考に抗菌薬の点眼,点滴を変更した.入院C3週目に他部位に結膜下膿瘍が出現したため,そのつど病巣を切除しC16倍希釈ポビドンヨードによる洗浄を入院C4週目からC6週目まで繰り返し行った.図5症例1:治療1年後の前眼部写真図7症例2:結膜切開後結膜下にCcalci.cationplaqueを認める.図6症例2:初診時前眼部写真結膜毛様充血,鼻側結膜に白色病巣を認める.た.左眼結膜充血と前房内炎症を認め,モキシフロキサシン,ベタメタゾンの点眼加療が開始されたが,眼痛の増悪と所見の悪化があり,精査加療目的にC10月某日当院紹介となった.既往歴:糖尿病,慢性腎不全(透析中),狭心症.眼科手術歴:2011年左眼硝子体出血に対し白内障手術および硝子体手術.初診時所見:視力は右眼(1.0C×sph.2.0D(cyl.1.5DCAx90°),左眼C0.03(矯正不能),眼圧は右眼C10mmHg,左眼12CmmHgであった.左眼は全周性に球結膜充血と毛様充血があり,鼻側結膜に一部膿状の黄白色病巣(図6)を認めた.角膜には既往の腎不全に伴うと推測される帯状角膜変性部位があり,前房内に軽度の炎症細胞を認めた.眼底には既存のトブラマイシンセフタジジムシプロフロキサシン点眼点滴内服入院1W2W3W4W5W6W7W8W9W10W再入院退院退院ポビドンヨード(洗眼)切開排膿★★★★図8症例2:治療経過モキシフロキサシン,セフメノキシム塩酸塩,トブラマイシンの点眼,セフタジジムの点滴治療を開始した.入院C6日目,結膜下に認めたCcalci.cationplaqueを切除し,16倍希釈ポビドンヨードで洗浄した.眼脂およびCcalci.cationplaqueの培養からCPseudomonasaeruginosaが検出された.いったんは改善がみられ退院となったが,退院後再度疼痛と下方の結膜充血の悪化をきたしたため,再入院のうえ同様の処置を行った.その際に採取した強膜の膿瘍病変からもCPseudomonasaeruginosaが検出された.その後,多発する結膜下膿瘍に対し切開・洗浄を繰り返し行った.図9症例2帯状角膜変性部に角膜障害を認める.図10症例2:治療開始1年半後の前眼部写真糖尿病網膜症を認めるのみであった.血液検査ではCCRPは0.86Cmg/dlと軽度上昇,白血球数はC6,690/μlであった.リウマチ因子はC9CIU/ml,抗核抗体はC40倍未満と陰性で自己免疫性疾患を疑わせる所見は認めなかった.経過:感染性強膜炎を疑い,同日より入院のうえ,モキシフロキサシン,セフメノキシム塩酸塩,トブラマイシンの点眼,セフタジジムC0.5Cg48時間毎(透析中のため)の点滴治療を開始した.治療開始後も自他覚所見の改善が得られなかったため,入院C6日目に病巣の切開排膿およびC16倍希釈ポビドンヨードによる洗浄を行ったが,その際症例C1と同様に強膜に癒着したCcalci.cationplaqueを認めた.また,周囲の強膜は軟化し,強い壊死性変化も伴っていた(図7).後日,眼脂およびCcalci.cationplaqueの培養からCPseudomo-nasaeruginosaが検出され,薬剤感受性を参考にシプロフロキサシンの内服を追加した.症例C1の経験からC16倍希釈ポビドンヨードで病巣の洗浄を続け,いったんは改善がみられ治療開始C4週目に退院となったが,退院後再度疼痛と下方の結膜充血の悪化をきたしたため,退院後C1週目に再入院のうえ,同部位に対しても再度同様の処置を行った.同部位の強膜は融解し膿瘍を形成しており,その際に採取した,壊死した強膜片からもCPseudomonasaeruginosaが検出されたが,Ccalci.cationplaqueの形成はなかった.その後,切開・洗浄を繰り返したところ,徐々に病巣部が縮小し,瘢痕化が得られたため,発症C10週間で退院となった.当院での治療経過を図に示す(図8).複数回に及ぶ希釈ポビドンヨード洗浄により,帯状角膜変性部に角膜障害が遷延したが血清点眼などで治療を行い,徐々に改善した(図9).治療開始後C1年半が経過し,強膜の菲薄化は残存し,ぶどう膜が透見されているII考按一般的に壊死性強膜炎の病因は感染性自己免疫性,特発性の三つに大別できる1)が,自己免疫性疾患に伴うものが圧倒的に多い.感染性そのものは強膜炎のC5.10%を占める2)と報告されており,とくに緑膿菌による壊死性強膜炎は翼状片切除後の報告が多く,Huangら3)は翼状片切除後の壊死性強膜炎C16例中C13例で培養により緑膿菌が検出されたと報告している.硝子体手術や斜視手術後でも報告はあるが,眼科手術歴と発症までの時期は一定でない4,5).今回のC2症例でも,症例C1は白内障手術後C3カ月,翼状片手術後C2カ月で発症しているが,症例C2では眼手術後C5年が経過してからの発症であった.緑膿菌による壊死性強膜炎の発症機序については明らかではないが,2症例とも既往の手術創と病巣が一致しており,手術後に局所的な強膜の軟化が起こり易感染性の状態が継続していた可能性が高い.また,両者とも既往に糖尿病があり,全身的に免疫機能の低下があったことも影響したと推測される.緑膿菌感染では特徴的なCcalci.cationplaqueを強膜に認めることがあるとされ6),今回のC2症例ともに病変部に同所見が確認され,後日培養で緑膿菌が検出された.緑膿菌感染による壊死性強膜炎は薬物治療のみでは治療に難渋することが多いが,これは菌が産生するプロテアーゼが組織を破壊しバイオフィルムを形成することで,薬剤が病巣部に到達しにくい環境となり,感染の遷延化,難治化に関与している7,8)と考えられている.Calci.cationplaqueはバイオフィルムの結果生じる所見であり,緑膿菌感染を疑う有力な所見となりうる.いったんバイオフィルムが形成されると薬剤は到達しにくくなるため,緑膿菌による強膜炎では外科的治療が有効とされ,その一つに病巣部の膿瘍切除,殺菌作用のあるポビドンヨード液・生食による洗眼9)がある.今回のC2症例でも結膜を切開,排膿し,calci.cationplaqueを切除したうえで洗浄することにより,薬剤の浸透性が増し,殺菌作用が向上したことが病勢の鎮静につながったと考えられた.また,2症例とも初発の病巣と隣接した部位に新たな病巣が出現し,結果的に複数回の外科的治療を要した.これは初回治療の時点で切開部隣接の結膜下に緑膿菌が残存し,感染を再燃させた可能性が高く,初回の切開排膿や病巣切除をできるだけ広く行うことが重要と考えられた.ポビドンヨード液には細菌,ウイルスに幅広く有効で,耐性ができにくいという利点があるが,一方で粘膜障害,角膜障害が生じるリスクもある9)ため,ポビドンヨードによる治療中は角膜障害に注意が必要であると考えられた.他の外科的治療方法として病巣部への保存強膜移植や大腿筋膜移植などの報告があり良好な成績を納めているが10,11),手技の簡便さや薬剤入手の容易さを考慮すると,長期治療期間を要するもののポビドンヨードによる洗浄はどの施設でも施行でき,有効な治療方法と思われる.薬物治療に抵抗し,融解した強膜にCcalci.cationCplaqueを伴う場合は緑膿菌感染の可能性を念頭におき,早期に広範囲の切開・排膿,病巣切除ならびにポビドンヨード液を用いた洗眼などの外科的治療を検討すべきである.文献1)RaoCNA,CMarakCGE,CHidayatAA:Necrotizingscleritis:CAclinic-pathologicstudyof41cases.Ophthalmology92:C1542-1549,C19882)RamenadenCER,CRaijiVR:ClinicalCcharacteristicsCandCvisualCoutcomesCinCinfectioussclerosis:aCreview.CClinCOphthalmolC7:2113-2122,C20133)HuangCFC,CHuangCSP,CTsengSH:ManagementCofCinfec-tiousscleritisafterpterygiumexcision.Cornea19:34-39,C20004)RichRM,SmiddyWE,DavisJL:Infectiousscleritisafterretinalsurgery.AmJOphthalmolC145:695-699,C20035)ChalDL,AlbiniTA,McKeownCAetal:InfectiousPseu-domonasCscleritisCafterCstrabismusCsurgery.CJCAAPOSC17:423-425,C20136)DunnCJP,CSeamoneCCD,COstlerCHBCetal:DevelopmentCofCscleralCulcerationCandCcalci.cationCafterCpterygiumCexci-sionandmitomycintherapy.AmJOphthalmol112:343-344,C19917)亀井裕子:細菌バイオフィルムとスライム産生.あたらしい眼科17:175-180,C20008)戸粟一郎,久保田敏昭,松浦敏恵ほか:緑膿菌による壊死性強膜炎の一例.臨眼57:25-28,C20039)松本泰明,三間由美子,河原澄枝ほか:緑膿菌性壊死性強膜炎のC1例.あたらしい眼科22:1253-1258,C200510)SiatiriCH,CMirzaee-RadCN,CAggarwalCSCetal:CombinedCtenonplastyCandCscleralCgraftCforCrefractoryCPseudomonasCscleritisCfollowingCpterygiumCremovalCwithCmitomycinCCCapplication.JOphthalmicVisRes132:200-202,C201811)児玉俊夫,鄭暁東,大城由美:壊死性強膜炎に対して大腿筋膜移植が奏効したC3例.臨眼65:647-653,C2011***