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悪性リンパ腫治療経過中の播種性血管内凝固症候群に合併した両眼Acute Macular Neuroretinopathyの1例

2018年10月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科35(10):1427.1431,2018c悪性リンパ腫治療経過中の播種性血管内凝固症候群に合併した両眼AcuteMacularNeuroretinopathyの1例志水智香*1,2石田友香*1相馬亮子*1,3大野京子*1*1東京医科歯科大学眼科学教室*2柏市立柏病院眼科*3玉川病院眼科CACaseofAcuteMacularNeuroretinopathyinBothEyesAssociatedwithDisseminatedIntravascularCoagulationduringMalignantLymphomaTreatmentTomokaShimizu1,2)C,TomokaIshida1),RyokoSoma1,3)CandKyokoOhno-Matsui1)1)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,TokyoMedicalandDentalUniversity,2)CKashiwaMunicipalHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TamagawaHospitalCDepartmentofOphthalmology,緒言:Acutemacularneuroretinopathy(AMN)は血流障害が原因と考えられる網膜外層の異常により黄斑部に赤茶色・白色病変を呈するまれな疾患である.今回,両眼に出血を伴う多発性CAMNの症例を経験した.症例:56歳,男性.播種性血管内凝固症候群を併発したCT細胞リンパ腫の化学療法中に両眼の中心暗点を生じた.両眼に水滴状・楔状の白色病変と,Roth斑を含む網膜浅層出血の多発を認めた.OCTで外網状層からCellipsoidzoneに高反射領域がありCAMNと診断した.発症C3週間後に消化管出血,多臓器不全にて死亡した.考察:本症例はさまざまな大きさと形状のCAMN病変が網膜出血やCRoth斑を伴って多発し,多層性多発性の血流障害が示唆された.発症C3週間後に死亡しており,これらの所見は,全身の重篤な血栓傾向や易出血性を示唆していた可能性がある.CIntroduction:Acutemacularneuroretinopathy(AMN)israrediseasearisingfromdisorderintheouterreti-na,CpresentingCreddish-brownCorCwhiteClesionsCinCtheCmacula.CItCisCsuggestedCthatCtheCcauseCisCinterruptionCinCmicrovasculation.CWeCexperiencedCaCcaseCofCmultipleCAMNCwithCretinalChemorrhagesCinCbothCeyes.CCase:A56-year-oldmalewithdisseminatedintravascularcoagulationpresentedcentralscotomainbotheyesduringTcelllymphomaCchemotherapy.COphthalmoscopyCrevealedCmultipleCteardropCandCwedge-shapedCareasCwithCsuper.cialCretinalChemorrhages,CincludingCaCRothCspot.COCTCrevealedChyper-re.ectiveCbandsCfromCouterCretinaCtoCellipsoidCzone.Threeweeksafteronset,thepatientdiedduetogastrointestinalhemorrhageandmultipleorganfailure.Con-clusion:ThiscaseshowedvarioussizesandshapesofAMNwithretinalhemorrhagesandaRothspot,suggest-ingmultipleblood.owocclusionsinmultiplelayers.Theseaspectsmayimplyseriousthrombogenesisandhemor-rhagictendencythroughoutanentirebody.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(10):1427.1431,C2018〕Keywords:acutemacularneuroretinopathy(AMN),播種性血管内凝固症候群,Roth斑,T細胞リンパ腫.acutemacularneuroretinopathy(AMN)C,disseminatedintravascularcoagulation(DIC)C,Rothspot,Tcelllymphoma.CはじめにAcuteCmacularneuroretinopathy(AMN)はC1975年CBosとCDeutmanによって初めて報告された,黄斑部の網膜外層の異常により視力低下,中心暗点,傍中心暗点をきたす比較的まれな網膜疾患である1).典型的には黄斑部に赤茶色または白色の楔状または花弁状や涙滴状病変がみられ,その先端は中心窩に向いていることが特徴である.網膜表層出血を伴う症例の報告もあるが,少数である2).光干渉断層計(opticCcoherencetomography:OCT)所見では網膜内の高反射病変,網膜の菲薄化,ellipsoidzoneの途絶や消失などを示すと報告されている2).フルオレセイン蛍光造影検査(.uores-ceinangiography:FA)では,多くが正常所見であるが,少数の例で低蛍光領域を認め2,3),インドシアニングリーン蛍光造影検査(indocyanineCgreenangiography:ICGA)で〔別刷請求先〕石田友香:〒113-8519東京都文京区湯島C1-5-45東京医科歯科大学眼科学教室Reprintrequests:TomokaIshida,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,TokyoMedicalandDentalUniversity,1-5-45Yushima,Bunkyo-ku,Tokyo113-8519,JAPANCも同様に少数の例で低蛍光であったという報告がある2,4).発生機序として微小毛細血管叢の血流障害が考えられているが,梗塞部位については不明な点が多い2,5.8).今回,播種性血管内凝固症候群(disseminatedintravascu-larcoagulation:DIC)を併発したCT細胞リンパ腫の化学療法中に,両眼に出血を伴う多発性CAMNを発症し,そのC3週間後に消化管出血,多臓器不全にて死亡したまれな症例を経験した.このような眼底所見は全身状態悪化の徴候である可能性があり,重要な所見と考えられるため,ここに報告する.CI症例患者:56歳,男性.現病歴:末梢性CT細胞リンパ腫化学療法中に,DICを併発し東京医科歯科大学附属病院(以下,当院)内科入院中であった.突然の両眼の中心部の見えにくさを訴え,発症C5日後に当院眼科を紹介受診した.既往歴:難治性末梢性CT細胞リンパ腫,汎血球減少,重症筋無力症,ステロイド糖尿病初診時所見:視力は右眼C0.02(0.9C×sph.9.00D(cyl.0.75CDAx80°),左眼C0.03(0.4C×sph.9.00D(cyl.1.00DCAx170°).眼圧は右眼C20mmHg,左眼C20mmHg.前眼部所見は,両眼の軽度白内障のみであった.右眼の眼底所見は,中心窩から鼻下方向に放射状に広がる水滴状の白色病変が一つと,視神経乳頭上方に網膜浅層の出血が観察された(図1a,b).黄斑付近の網膜外層のCenfaceOCTでは,水滴状病変は,内部がほぼ均一な高輝度な病変として,カラー眼底写真よりも明瞭に観察された(図1e).また,その鼻側に同様な高輝度の小さい円形病変を認めたが,この病変は,検鏡的にも,カラー眼底写真でも観察されなかった病変であった(図1e).これらの病変はCOCTのCBスキャンではCellipsoidzoneから外網状層にかけて広がる高輝度病変としてみられた(図1d).とくに水滴状病変は,ellipsoidzoneよりも外網状層よりのほうが幅の広い台形を示した.OCTangiography(初診からC7日目に撮影)のCenface所見では網図1右眼眼底所見a:カラー眼底写真(50°).黄斑部鼻下側に水滴状の白色病変を認めた.また,視神経乳頭の上方に網膜浅層の出血(.)を認めた.Cb:カラー写真拡大図.黄斑鼻下側に水滴状の白色病変(.)を認めた.d:黄斑部水滴状病変のCsweptCsourceOCT(Ccのカラー眼底写真の点線部位のCBスキャン).CEllipsoidzoneから外網状層にかけて大小の高輝度病変がC2箇所(2個の.の間と.の病変)みられた.Ce:黄斑部水滴状病変のCsweptsource-OCT(網膜外層レベルのCenface画像).カラー眼底写真と同形状の水滴状病変がカラー眼底写真より明瞭に観察された.また,カラー眼底写真で判別できない小さな病変(.)が描出された.Cf~i:黄斑部のカラー写真(Cf)と同部位のCOCTangiography像(Cg:網膜表層,Ch:網膜深層,Ci:脈絡膜毛細血管板層).どの層においても病変部位の血流障害は認めなかった.gh図2左眼眼底所見a:カラー眼底写真(50°).黄斑部に双葉状の白色病変と出血を認めた.Cb:黄斑部拡大図.水滴状が中心でつながったような双葉状の白色病変(.)がみられた.二股の中心に小さい斑状出血(.)とその鼻側に大きいRoth斑(.)を含む網膜浅層出血を認めた.Cd:SweptsourceOCT(Ccのカラー眼底写真の点線部位でのCBスキャン).中心窩付近の小出血は浅い高輝度病変としてみられた(.).水滴状白色病変は,ellipsoidzoneから外網状層にかけて広がる高反射病変として認めた(.).f:SweptsourceOCT(Ceのカラー眼底写真の点線部位でのCBスキャン).水滴状病変はCdと同様に網膜外層に高輝度病変として認めたが,網膜浅層出血下の外層部位まで病変が連続していた(.).g~j:黄斑部付近のカラー写真(Cg)とそれに対応するCOCTCangiogra-phy.網膜表層(Ch)の血流は保たれていたが,網膜深層(Ci)で病変よりやや広範囲(.)に低信号領域あり,灌流の欠如はなかったが灌流低下を認めた.脈絡膜毛細血管板層(Cj)は出血によるブロックにて評価不能であった.図3Goldmann視野検査左眼に傍中心暗点を認めた.膜表層と深層の毛細血管網にも脈絡膜毛細血管板にも病変部の中心窩の癒合部分の根本に小さい網膜出血がみられた.黄位の血流障害は認めなかった(図1g~i).斑部の鼻側には,Roth斑を含む大きい網膜浅層出血を認め左眼の眼底所見は黄斑部に中心窩から広がる水滴状病変がた(図2a,b).二葉状病変のCOCTのCBスキャンでは中心窩中心窩で癒合した二葉状の白色病変を認めた.その白色病変に網膜の浅層出血がみられ,白色病変自体はCellipsoidCzoneCから外網状層にかけて外網状層側が扇状にやや広がるような形状の高輝度病変として観察された(図2d).二葉状病変の二葉部分のうちの上側の病変は,Roth斑を伴う網膜浅層出血下の網膜外層部位まで広がっていることがCOCTで確認された(図2f).また,OCTangiography(初診からC7日後に撮影)のCenface所見では網膜表層の血流は保たれていたが,深層毛細血管網では病変より少し広い範囲で低信号の領域あり,灌流の欠如はなかったが低下を認めた.脈絡膜毛細血管板層は,出血によるブロックにて評価不能だった(図2h~j).Goldmann視野検査では左眼の傍中心暗点を認めた(図3).本症例は,全身状態が不良であるために,蛍光眼底造影検査は施行できなかったが,検鏡的眼底所見とCOCT所見より両眼に発症した出血を伴ったCAMNと診断した.経過:OCTangiography撮影C2週間後にCDICに伴う消化管出血を起こし,多臓器不全にて死亡した.CII考察本症例は,両眼に大小のCAMNと網膜浅層出血(Roth斑含む)が多発し,網膜浅層と深層または脈絡膜内で多層性多発性の梗塞が起きた可能性が示唆されるまれな症例である.T細胞性悪性リンパ腫にCDICを併発し,AMN発症からC3週間後に多臓器不全で死亡したが,眼病変が全身の微小な血流障害を反映し,厳しい生命予後を表していた可能性がある.AMNは狭義CAMN(OCTで外網状層より網膜外層にかけて病変を認める),paracentralCacuteCmiddleCmaculopathy(PAMM)(OCTで外網状層より内顆粒層にかけて病変を認める),type3AMN(外網状層から外顆粒層にかけての病変で網膜色素上皮とCBruch膜,ellipsoidzoneとCinterdigita-tionzoneに病変を伴う)のC3パターンが報告されている8,9).本症例は,外網状層より外層にCOCT変化を認め,狭義AMNの診断であった.発症の契機として感染や発熱性疾患,経口避妊薬の服用,エピネフリン・エフェドリンの使用などが考えられ,全身状態に大きな問題がない症例に発症することが多いが,一方で重篤な全身外傷,全身性ショック,芽球性B細胞リンパ腫2,10)など全身状態が悪い疾患でも併発の報告がある.出血を伴う例は,外傷,中毒,潰瘍性大腸炎,芽球性CB細胞リンパ腫に報告があり,また,AMNの多発している症例では風邪症状,経口避妊薬の服用,エピネフリン使用,子癇前症などでの報告がある2,10).しかし,筆者らの調べた限りでは,Roth斑を伴ったCAMN症例の報告は今までなく,本症例はまれな眼底所見を呈したといえる.本症例は中心窩から放射状に広がる水滴状病変と二葉状病変を示し,Henle線維層の走行と一致して病変が放射状に広がっているようにみられた.それらの病変はCOCTでも中心窩付近のCellipsoidzoneから始まり,外網状層に向かうにつれて広がりを見せ,Henle線維層の細胞体である視細胞の障害を示唆した.視細胞の酸素供給はC85.90%は脈絡膜から,残りが深層毛細血管網から栄養されていることが知られており11),狭義のCAMNの原因として,それらの虚血が考えられる.狭義CAMNで詳細な血流変化を網脈絡膜の層別にとらえることのできるOCTangiographyの報告は,今までThanosらの報告5)のみであるが,彼らは狭義CAMNの原因を脈絡膜毛細血管網レベルの血流低下と考察している.今回,筆者らも,初診からC7日目にCOCTangiographyの撮影を行い,右眼は網膜深層の血流障害はみられず,脈絡膜毛細血管板は病変のブロックのため評価不能であった.AMN発症C3日後に梗塞していた血管がCFA,ICGAで再灌流したのを確認した報告3)もあり,AMNは一過性の血流障害の場合もある可能性も指摘されているため,今回右眼の病変のCOCTangiography所見の解釈として,①発症時には網膜血管障害があったが,一過性の血流障害が解消された後の撮影のため所見が得られなかった,または,②脈絡膜毛細血管板の血流障害であったが,病変ブロックで見えなかったという二つの可能性が考えられた.一方,左眼は明らかとはいえないが,網膜深層の毛細血管血流にわずかな低下を示し,網膜深層の血流障害の可能性も示唆された.これらの,障害部位については,今後多数例における詳細な検討が必要である.本症例はCOCT所見から狭義のCAMNであったが,さまざまな大きさと形状の病変が,浅層の出血やCRoth斑を伴って多発し,多層性多発性の血流障害が示唆された.本症例はAMN発症C3週間後に死亡しており,これらの所見は,全身の重篤な血栓傾向や易出血性を示唆していた可能性があり,注意が必要である.文献1)BosCPJ,CDeutmanAF:AcuteCmacularCneuroretinopathy.CAmJOphthalmolC80:573-584,C19752)BhavsarCKV,CLinCS,CRahimyCECetal:AcuteCmacularCneu-roretinopathy:aCcomprehensiveCreviewCofCtheCliterature.CSurvOphthalmolC61:538-565,C20163)QuerquesG,LaSpinaC,MiserocchiEetal:Angiograph-icCevidenceCofCretinalCarteryCtransientCocclusionCinCpara-centralacutemiddlemaculopathy.RetinaC34:2158-2160,C20144)HashimotoCY,CSaitoCW,CMoriCSCetal:IncreasedCmacularCchoroidalCbloodC.owCvelocityCduringCsystemicCcorticoste-roidCtherapyCinCaCpatientCwithCacuteCmacularCneuroreti-nopathy.ClinOphthalmolC6:1645-1649,C20125)ThanosA,FalaLJ,YonekawaYetal:Opticalcoherencetomographicangiographyinacutemacularneuroretinopa-thy.JAMAOphthalmolC134:1310-1314,C20166)DelCPortoCL,CPetzoldA:OpticalCcoherenceCtomographyCangiographyCandCretinalCmicrovascularCrami.cationCinCacuteCmacularCneuroretinopathyCandCparacentralCacuteCmiddlemaculopathy.SurvOphthalmolC62:387-389,C20177)PacenPE,SmithAG,EhlersJP:Opticalcoherencetomog-raphyCangiographyofacutemacularneuroretinopahyandparacentralacutemiddlemaculopathy.JAMAOphthalmolC133:1478-1480,C20158)SarrafCD,CRahimyCE,CFawziCAACetal:ParacentralCacuteCmiddlemaculopathy:anewvariantofacutemacularneu-roretinopathyCassociatedCwithCretinalCcapillaryCischemia.CJAMAOphthalmolC131:1275-1287,C20139)HufendiekK,GamulescuMA,HufendiekKetal:Classi.-cationCandCcharacterizationCofCacuteCmacularCneuroreti-nopathyCwithCspectralCdomainCopticalCcoherenceCtomogra-phy.IntOphthalmol,C201710)MunkMR,JampolLM,CunhaSouzaEetal:Newassoci-ationsCofCclassicCacuteCmacularCneuroretinopathy.CBrJOphthalmolC100:389-394,C201611)BirolG,WangS,BudzynskiEetal:OxygendistributionandCconsumptionCinCtheCmacaqueCretina.CAmCJCPhysiolCHeartCircPhysiolC293:H1696-1704,C2007***