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短波長視標を用いた新しいフリッカー視野測定

2009年4月30日 木曜日

———————————————————————-Page1(137)5690910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(4):569572,2009cはじめにStandardautomatedperimetry(SAP)によって510dBの網膜感度の低下が検出される頃にはその部位に対応する網膜神経節細胞はおよそ2040%失われている1).しかし,余剰性の少ない神経経路を測定することで,より早期の網膜感度の低下を検出できるようになってきた.これらの測定方法は大きく分けて2つあげられる.1つは短波長視標を用いた視野測定で余剰性の少ないkoniocellular系(K-cell系)を測定するshort-wavelengthautomatedperimetry(SWAP).もう1つは視標に点滅や錯視などの動きを用いた視野測定で余剰性の少ないmagnocellular系(M-cell系)を測定するickerperimetry(FP),frequencydoublingtechnology(FDT)である.FPは視標と背景のコントラストを固定し各網膜部位のフリッカー融合頻度を測定する.FDTは視標の〔別刷請求先〕平澤一法:〒228-8555相模原市北里1丁目15番地1号北里大学大学院医療系研究科視覚情報科学Reprintrequests:KazunoriHirasawa,C.O.,DepartmentofVisualScience,KitasatoUniversityGraduateSchool,MastersProgramofMedicalScience,1-15-1Kitasato,Sagamihara,Kanagawa228-8555,JAPAN短波長視標を用いた新しいフリッカー視野測定平澤一法*1鈴木武敏*2浅川賢*3望月浩志*3柳澤美衣子*3庄司信行*1,3,4*1北里大学大学院医療系研究科視覚情報科学*2鈴木眼科吉小路*3北里大学大学院医療系研究科眼科学*4北里大学医療衛生学部視覚機能療法学NewShort-WavelengthAutomatedPerimetrywithFlickerTargetKazunoriHirasawa1),TaketoshiSuzuki2),KenAsakawa3),HiroshiMochizuki3),MiekoYanagisawa3)andNobuyukiShoji1,3,4)1)DepartmentofVisualScience,KitasatoUniversityGraduateSchool,2)SuzukiEyeClinicKichikoji,3)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityGraduateSchool,4)DepartmentofOrthopticsandVisualScience,KitasatoUniversity,SchoolofAlliedHealthScience目的:Short-wavelengthautomatedperimetry(SWAP)とickerperimetry(FP)の手法を組み合わせたSWAP-FPとSWAP,FPの正常者における網膜感度を比較すること.対象および方法:対象者は正常有志者30名30眼である.視野測定には興和社製の網膜機能検査装置を用い,中心から3°,9°,15°,21°の同心円状に配置された計58点における網膜感度を測定した.SWAP,FP,SWAP-FPの各領域から得られる網膜感度を平均し3群間で比較した.結果:SWAPとSWAP-FPの15°と21°領域においてSWAP-FPの有意な網膜感度低下がみられた(p<0.05,p<0.01).SWAPとFP,FPとSWAP-FPの網膜感度には有意な差はみられなかった.結論:SWAP-FPは9°以内の視野検査法としてはSWAPやFPと同等であり,Bjerrum領域においては,網膜感度の低下をより早期に検出できる可能性が示唆された.Wecomparedretinalsensitivityin30eyesof30normalvolunteers,using3programs:short-wavelengthauto-matedperimetry(SWAP),ickerperimetry(FP)andSWAPwithFP(SWAP-FP).Weevaluatedtheaveragereti-nalsensitivityineacharea(3°,9°,15°and21°)usinganewperimeterforretinalfunction(KOWACo.),andcom-paredtheresultsamong3programs.RetinalsensitivityasmeasuredwithSWAP-FPwassignicantlylowerthanthatwithSWAPinzones15°and21°(p<0.05,p<0.01),whereastherewasnosignicantdierenceinretinalsen-sitivitymeasurementbetweenSWAPandFP,orbetweenFPandSWAP-FP,ineachzone.RetinalsensitivityasmeasuredwithSWAP-FPwasequaltoSWAPandFPwithinthe9°area.ItissuggestedthatdecreasedretinalsensitivitymaybedetectableintheBjerrumareaatanearlystage.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(4):569572,2009〕Keywords:視野,SWAP,Flicker視野,FDT,S-錐体.visualeld,shortwavelengthautomatedperimetry(SWAP),ickerperimetry,frequencydoublingtechnology(FDT),shortwavelengthsensitivecone(S-cone).———————————————————————-Page2570あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(138)時間周波数を固定し各網膜部位のコントラスト閾値を測定する.症例によってはK-cell系が先に異常を示す場合や,またはM-cell系のほうが先に異常を示すこともあり,必ずどちらか一経路が先に選択的に障害されるわけではない2).そのため,SWAPの結果とFDTの測定結果を統合し統計学的に解析することで,より早期の異常を検出する報告もある3).そこで筆者らは興和社製の網膜機能検査装置を用いてSWAPとFPの手法を組み合わせたSWAP-FPを作成し,実際に正常者の網膜感度の測定を試みた.そして同装置を用いてSWAP,FPも作成し,3群間の網膜感度を比較した.I対象および方法対象者は眼圧,眼底に異常がなく,30cm近見視力1.0以上,本研究の趣旨を理解し同意を得た正常有志者30名30眼(男性5名,女性25名)である.対象者の詳細は,平均屈折値1.93±2.17D(+1.506.50D),平均眼軸長24.45±1.11mm(21.0025.93mm),平均年齢22.7±3.0歳(2030歳)である.眼底に豹紋状の変化が顕著である者,眼軸長が26mm以上の者,色覚異常者は除外した.視野測定には,鈴木らによって開発された興和社製の網膜機能検査装置を使用した(図1).本装置は視標が呈示されるディスプレイ(LA-17SO1-1M,MITSUBISHI社製)とそれを制御するノートパソコンからなる単純な構造であるが,背景色や視標色,視標の形や大きさ,測定範囲や測定点などが自由に設定できる.それらのなかから黄色背景に青色視標を呈示するSWAP,白色背景に黒色点滅視標を呈示するFP,黄色背景に青色点滅視標を呈示するSWAP-FPを作成し,以下の条件で測定を行った.今回作成したFP,SWAP-FPはフリッカー融合頻度を測定するのではなくコントラスト閾値を測定する手法である.1.測定環境検査は遮光カーテンで仕切られた暗室で行った.視標が呈示されるモニターと被験者の距離は40cm,必要に応じて近方40cmの屈折矯正を行った.測定点は中心の固視部より3°,9°,15°,21°の同心円状に配列された計58点,視標の形は『#』模様を採用した(図2).その理由はモニターの性能の関係上,通常視野検査に使用される円形視標を10Hzで点滅させると視標を等しい時間で反転することができないが,面積を減らした線形視標を点滅させると反転時間が等しくなるためである.視標サイズは直径9.02mm(GoldmannV相当)を使用し,フリッカー視標は10Hzで測定した.フリッカー視標の呈示条件は,背景輝度と視標輝度の間を点滅させ最高視標輝度のみを変化させる方法を用いた.2.網膜感度・測定プログラム網膜感度はパソコン画面の色を256段階で調節するRGB(red-green-blue)基盤の比率を約25ずつ変化させ010の11段階で表した(図3).図3に示す網膜感度はRGB基盤の比率を変えて表現したもので,通常の視野検査のように輝度を均等に変化させたものとは異なるため単位はないが,各段階における視標輝度をRGB基盤の数値の横に供覧する.固視監視カメラ制御PC視標提示モニター図1網膜機能検査装置()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()視標度()網膜感度視標度()図3網膜感度の表現方法(左は黒視標,右は青視標)RGB表記の横に視標輝度(cd/m2)を供覧した.10°10°10°10°10°10°20°20°20°20°20°20°9.02mm9.02mm図2測定点(左)と視標(右)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009571(139)測定プログラムは2段階の上下法を用いた.たとえば,はじめに網膜感度5を呈示し,反応があれば7,反応がなければ3を呈示し,反応の有無で折り返し網膜感度を決定した.上記をまとめた測定条件は表1に示す.SWAP,FP,SWAP-FPの測定順序はランダムに選択し,測定前に練習を行い,各測定の間の休憩は5分以上とった.Mariotte盲点を挟む上下2点を除外した各領域の網膜感度を平均し,SWAP,FP,SWAP-FPの3群間で比較した(Schee法).SWAP-FPの再現性を検討するために,30名中5名の協力を得て3回測定を行い,再現性(変動係数=標準偏差/平均網膜感度×100)とそれぞれの方法における検査時間も検討した.II結果はじめにSWAP-FPの再現性は,各測定点10%未満と安定していた.SWAP,FP,SWAP-FPの検査時間はそれぞれ5:08±0:19,5:30±0:29,5:22±0:27であり統計学的な有意差はなかった.つぎに,それぞれの測定領域における3つの検査方法で得られた網膜感度を比較すると,3°と9°の領域では3群間に有意差はなかったが,SWAPとSWAP-FPの網膜感度は15°と21°領域でSWAP-FPの網膜感度が有意に低下していた(p<0.05,p<0.01).しかし,SWAPとFP,FPとSWAP-FPの網膜感度に有意差はなかった(図4).III考按今回筆者らは早期緑内障性視野異常の検出を目的としたSWAP-FPの手法を作成し,正常者においては再現性のある安定した結果を得た.視野検査は心理物理学的検査であり,自覚的要素と他覚的要素が複雑にかかわってくる.過去の報告をまとめると,コントラスト閾値を測定するSAP,SWAP,FDTの各測定点における正常者の短期変動は約12dBであるのに対し4,5),フリッカー融合頻度を測定するFPは約5Hzである6).同じM-cell系を測定しているFDTとFPを比べてもFDTのほうが変動は小さく,フリッカー融合頻度を測る方法とコントラスト閾値を測る方法では変動幅が異なる.SWAP-FPはコントラスト閾値を測る手法を用いているため再現性のある安定した結果を導いたと考えられる.また,網膜電図を用いた短波長感受性錐体(S-錐体)機能の他覚的測定では,S-錐体はフリッカー刺激に弱く20Hzを超える高時間周波数の刺激ではS-錐体系は波形が乱れ正しく追従できなくなるという報告がある7).今回筆者らが使用した10HzはS-錐体系の検査に適しており安定した結果を導いたのではないかと考えられる.SWAPとSWAP-FPの比較では15°と21°の2つの領域でSWAP-FPの有意な網膜感度の低下が検出された.解剖学的にも視細胞8)や網膜神経節細胞9)は網膜の中心部位に多く分布しており,特にS-錐体はほとんどが10°以内に分布し全視細胞のなかでも出現頻度は少なく,網膜周辺部分ではさらに少なくなる10).そのためSWAP-FPは9°以内の視野測定では従来の視野計と同等の結果が予想されるが,Bjer-rum領域に網膜感度の低下を生じやすい緑内障患者ではSWAP-FPはSWAPより早期に検出できるかもしれない.また,FPとSWAP-FPを比較するとSWAP-FPの有意な網膜感度の低下は認められなかったが,15°,21°の周辺領域では網膜感度は低くなる傾向であった.今回の黄色背景の輝度は100cd/m2に達していないため正しくS-錐体系を測定できていない可能性があるが,背景輝度が100cd/m2であるSWAP-FPを用いることで9°以内中心視野や15°より外側の周辺視野の網膜感度は変わってくるかもしれない.他に,フリッカー融合頻度とコントラスト閾値を測定するフリッカー視野測定では同じM-cell系を測定していても緑内障の検出力はコントラスト閾値を測定するほうが優れているといった報告もあり11),コントラスト閾値を測定しているSWAP-FPはより鋭敏な検出力を有する可能性もあり,さらなる検討が期待される.しかし,SWAP-FPは短波長視標を用いてコントラスト閾値を測定するため,加齢による中間透光体混濁の影響12)を受けやすい欠点が予想される.モニターの性能の関係で背景輝度が100cd/m2に達しなかったため,正しくS-錐体を分離できていない可能性や,視標呈示時間が0.3secであり1.0secの刺激でなかったこと,液晶モニターを使用して色を表現しているため,肉眼では認表1測定条件の詳細SWAPFPSWAP-FP背景輝度77.3cd/m280.6cd/m277.3cd/m2視標色/背景色青/黄黒/白青/黄周波数0Hz10Hz10Hz視標提示時間0.3sec0.3sec0.3sec視標提示時間1.2sec1.2sec1.2sec視標サイズ直径=9.02mm(GoldmannV相当):SWAP***:FP:SWAP-FP網膜感度測定部位789100n=30Mean±SDSche??test*p<0.05**p<0.013?9?15?21?~~図4各測定方法の網膜感度の結果———————————————————————-Page4572あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(140)識できないが厳密には他の波長成分が混入しているなど,さまざま問題点があげられ,それらは今後の検討課題である.文献1)QuigleyHA,DunkelbergerGR,GreenWR:Retinalgan-glioncellatrophycorrelatedwithautomatedperimetryinhumaneyeswithglaucoma.AmJOphthalmol107:453-464,19892)SamplePA,BosworthCF,WeinrebRN:Short-wave-lengthautomatedperimetryandmotionautomatedperim-etryinpatientswithglaucoma.ArchOphthalmol115:1129-1133,19973)HornFK,BrenningA,JunemannAGetal:Glaucomadetectionwithfrequencydoublingperimetryandshort-wavelengthperimetry.JGlaucoma16:363-371,20074)BlumenthalEZ,SamplePA,BerryCCetal:EvaluatingseveralsourcesofvariabilityforstandardandSWAPvisualeldsinglaucomapatients,suspects,andnormal.Ophthalmology110:1895-1902,20035)HoraniA,FrenkelS,BlumenthalEZ:Test-retestvari-abilityinvisualeldtestingusingfrequencydoublingtechnology.EurJOphthalmol17:203-207,20076)BernardiL,CostaVP,ShirotaOLetal:Flickerperimetryinhealthysubjects:inuenceofageandgender,learningeectshort-termuctuation.ArqBrasOftalmol70:91-99,20077)横山実:眼病と青の感覚.臨眼33:111-125,19798)CurcioCA,SloanKR,KalinaREetal:Humanphotore-ceptortopography.JCompNeurol292:497-523,19909)CurcioCA,AllenKA:Topographyofganglioncellinhumanretina.JCompNeurol300:5-25,199010)CurcioCA,AllenKA,SloanKRetal:Distributionandmorphologyofhumanconephotoreceptorsstainedwithanti-blueopsin.JCompNeurol312:610-624,199111)YoshiyamaKK,JohnsonCA:Whichmethodofickerperimetryismosteectivefordetectionofglaucomatousvisualeldloss.InvestOphthalmolVisSci38:2270-2277,199712)JohnsonCA,AdamsAJ,TwelkerJDetal:Age-relatedchangesinthecentralvisualeldforshort-wavelength-sensitivepathways.JOptSocAm5:2131-2139,1988***