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長期経過観察を行った抗リン脂質抗体陽性SLE網膜症の2例

2024年10月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科41(10):1256.1265,2024c長期経過観察を行った抗リン脂質抗体陽性SLE網膜症の2例福永直子*1林孝彰*1,2溝渕圭*2伊藤晴康*3野田健太郎*3中野匡*2*1東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科*2東京慈恵会医科大学眼科学講座*3東京慈恵会医科大学内科学講座リウマチ・膠原病内科CLong-TermFollow-UpinTwoCasesofSystemicLupusErythematosusRetinopathyNaokoFukunaga1),TakaakiHayashi1,2),KeiMizobuchi2),HaruyasuIto3),KentaroNoda3)andTadashiNakano2)1)DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversityKatsushikaMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversitySchoolofMedicine,3)DivisionofRheumatology,DepartmentofInternalMedicine,TheJikeiUniversitySchoolofMedicineC目的:全身性エリテマトーデス(SLE)網膜症の視機能予後において,対照的な転帰をたどったC2症例の長期経過を報告する.症例:症例C1はC42歳,女性.左眼霧視を自覚し受診した.34歳時に抗リン脂質抗体(aPL)陽性と特発性血小板減少性紫斑病(ITP)を指摘され,ITPに対してプレドニゾロン内服加療中であった.矯正視力は右眼C1.2,左眼C0.07で,両眼底に多数の綿花様白斑を認め,左眼は網膜出血を伴う虚血性変化を認めた.SLEと診断されていたことからCSLE網膜症と診断した.内科的治療の強化に加え抗凝固薬が投与されたが,両眼ともに網膜血管閉塞による広範囲な虚血性変化を呈し,汎網膜光凝固術が施行された.その後,網膜菲薄化による重度視力障害を残し鎮静化した.約C13年後の矯正視力は右眼C0.02,左眼手動弁で,両眼視神経は蒼白化していた.症例C2はC21歳,女性.左眼視力低下を自覚し受診した.aPL陽性のCSLEと診断されていた.矯正視力は右眼C1.0,左眼C0.7で,両眼ともに多数の綿花様白斑を認め,SLE網膜症と診断した.網膜血管閉塞所見ははっきりしなかったが,抗凝固薬投与に加え内科的治療が強化された.その後,血管閉塞による無灌流領域が出現し,両眼に汎網膜光凝固術が施行され,SLE網膜症は鎮静化した.約C5年経過し,矯正視力は両眼とも(1.2)を維持していた.結論:活動性のあるCaPL陽性のCSLE網膜症に対しては,内科医と連携してCSLEに対する治療を強化するとともに,早期に抗凝固療法を検討することが視力予後に重要と考えられた.CPurpose:Toreportthelong-termoutcomesintwocasesofsystemiclupuserythematosus(SLE)retinopathywithcontrastingprognosesofvisualfunction.Casereports:Case1involveda42-year-oldfemalewhopresentedwithblurredvisioninherlefteye.Attheageof34,shewasdiagnosedwithidiopathicthrombocytopenicpurpura(ITP)andpositiveforantiphospholipidantibodies(aPL),andwasundergoingtreatmentwithoralprednisoloneforITP.CUponCexamination,CherCbest-correctedCvisualacuity(BCVA)wasC1.2CO.D.CandC0.07CO.S.,CandCmultipleCcotton-woolCspotsCwereCobservedCinCtheCfundusCbilaterally.CMoreover,CischemicCchangesCwithCretinalChemorrhageCwereCobservedCinCherCleftCeye,CandCsheCwasCdiagnosedCwithCSLECretinopathy.CInCadditionCtoCintensi.edCsystemicCtreat-ment,CanticoagulantCtherapyCwasCadministered.CHowever,CextensiveCischemicCchangesCdevelopedCinCbothCeyesCdueCtoCretinalCvascularCocclusion,CandCpanretinalCphotocoagulationCwasCperformed.CSubsequently,CsevereCvisualCimpair-mentCdueCtoCretinalCthinningCwasCnoted,CandCapproximatelyC13CyearsClater,CherCBCVACwasC0.02CO.D.CandChandCmotionO.S.,withpallorofbothopticdiscs.Case2involveda21-year-oldfemalewhopresentedwithvisionlossinherlefteye.ShehadadiagnosisofaPL-positiveSLE,andherBCVAwas1.0CO.D.and0.7CO.S.,withmultiplecot-ton-woolspotsobservedinbotheyes.SLEretinopathywasdiagnosed,althoughretinalvascularocclusionwasnotevident.CAlongCwithCanticoagulantCtherapy,CsystemicCtreatmentCwasCintensi.ed.CSubsequently,Cnon-perfusionCareasCduetovascularocclusionappeared,leadingtobilateralpanretinalphotocoagulation.SLEretinopathystabilized,andafterCapproximatelyC5Cyears,CBCVACinCbothCeyesChasCremainedCatC1.2.CConclusion:ForCgoodCprognosisCofCvisionCfunctioninactiveandaPL-positiveSLEretinopathycases,itisvitaltocollaboratewithinterniststointensifytreat-mentforSLEandtoconsiderearlyanticoagulationtherapy.C〔別刷請求先〕林孝彰:〒125-8506東京都葛飾区青戸C6-41-2東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科Reprintrequests:TakaakiHayashi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversityKatsushikaMedicalCenter,6-41-2Aoto,Katsushika-ku,Tokyo125-8506,JAPANC1256(108)〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(10):1256.1265,C2024〕Keywords:全身性エリテマトーデス,抗リン脂質抗体,SLE網膜症,網膜虚血,抗凝固療法.systemicClupusCer-ythematosus,antiphospholipidantibodies,SLE/lupusretinopathy,retinalischemia,anticoagulationtherapy.Cはじめに全身性エリテマトーデス(systemicClupusCerythemato-sus:SLE)は,自己抗体の産生,免疫複合体の沈着により,皮膚,腎臓,網膜,脳などに臓器傷害を引き起こす自己免疫疾患で,指定難病(告示番号C49)に認定されている(難病情報センター:https://www.nanbyou.or.jp/entry/53).2019年における難病認定届け出人数はC61,835人で,申請していないケースなどを含めるとこの約C2倍の人がCSLEに罹患していると推定され(難病情報センター),有病率は人口C10万人あたりC50.100人ほどである.発症年齢は,20.40代の女性に多く,男女比はC1:9と圧倒的に女性に多い疾患である.もっとも重篤な眼合併症はCSLE網膜症であり,SLE全体のC10%前後に発症する1.3).SLE網膜症は,閉塞性網膜血管炎・網膜虚血によって視力障害を引き起こす病態である.日本リウマチ学会からCSLEの診療ガイドライン(2019)4)が発表されているが,SLE網膜症に関して,急性活動性病変として重要であるとの記載はあるものの,分類基準や治療に関する記載はない.抗リン脂質抗体(antiphospholipidantibodies:aPL)は,細胞膜のリン脂質もしくはリン脂質と蛋白質との複合体に対する自己抗体をさす.aPLには,ループスアンチコアグラント,抗カルジオリピン抗体,抗カルジオリピンCb2グリコプロテインCI複合体抗体(抗CCL・Cb2GPI抗体)などが含まれる.aPLが原因となって動静脈血栓症や習慣性流産などを発症する疾患を抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipidsyn-drome:APS)という.SLEのC30.40%でCaPLが陽性となる5).これまでにCSLE網膜症の長期経過に関する報告は少ない.今回,対照的な転帰をたどったCaPL陽性CSLE網膜症C2症例の長期経過について報告する.CI症例[症例1]42歳,女性.主訴:左眼霧視.現病歴:2009年某月,顔面紅斑を認めた.2カ月後に手関節および手指関節の関節痛が出現し,そのC2週後,東京慈恵会医科大学附属病院(以下,当院)救急外来を受診した.顔面紅潮,関節痛,血小板減少がみられ,SLEが強く疑われリウマチ・膠原病内科に緊急入院となった.34歳時にaPL陽性と特発性血小板減少性紫斑病(idiopathicCthrombo-cytopenicpurpura:ITP)と診断され,当院腫瘍・血液内科に通院中であった.aPL陽性であったものの血管血栓症や妊娠合併症はみられず,抗血小板薬や抗凝固薬の導入には至らなかった.入院前より,ITPに対してプレドニゾロン(pred-nisolone:PSL)20mg/日内服加療中であった.身長C156cm,体重C57Ckg,BMIC23.42Ckg/m2.また,左眼霧視(第C1病日)を自覚していたため,眼科受診となった.既往歴:34歳時にCaPL陽性とCITPの診断,36歳時に腹腔鏡下脾臓全摘手術,2妊C2産.初診時眼科所見:前眼部に異常所見なく,眼底検査で右眼に数個の綿花様白斑が,左眼上方血管アーケードに融合した綿花様白斑を認めたため,眼底疾患の精査予定となった.経過:血液検査が施行され,血小板数C5万/μl,蛍光抗体法による抗核抗体C640倍(基準値:40倍未満)で染色パターンは斑紋型(speckledpattern),抗CdsDNAIgG抗体はC10未満,抗CSS-A抗体C57.7CU/ml(基準値C10CU/ml未満),抗SS-B抗体C7CU/ml,抗CSm抗体C42.6CU/ml(基準値C10CU/ml未満)であった.一方,APSに関連するCaPLで,ループスアンチコアグラントC1.11(基準値C1.29以下),抗カルジオリピンCIgG抗体C8U/ml(9U/ml未満),抗CCL・Cb2GPI抗体1.2CU/ml(3.5CU/ml未満)は陰性であった.肝機能および腎機能に異常はなかった..部紅斑,関節炎,血液学的異常,免疫学的異常,抗核抗体陽性所見から,ACR(AmericanCCollegeCofRheumatology)分類改訂基準(1997)6)の4項目以上の基準を満たしCSLEと診断された.第C6病日に眼科的検査を行った.矯正視力は右眼(1.2),左眼(0.07),眼圧は右眼C9CmmHg,左眼C9CmmHgであった.眼底所見として,右眼は綿花様白斑の増加,左眼も綿花様白斑増加に加え血管アーケード内に網膜出血を伴う網膜白濁所見を認めた(図1a).同日,フルオレセイン蛍光造影検査(.uoresceinangi-ography:FA)を施行し,右眼は網膜血管炎に加え点状の蛍光漏出,左眼は血管アーケード内の網膜血管閉塞の所見を認め,SLE網膜症と診断した.黄斑部の光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT,StratusCOCTCIII3000,CCarlZeissMeditec社)検査で,右眼に明らかな異常所見はなかったが,左眼に黄斑浮腫を認めた.SLE網膜症が悪化したこともあり,第C7病日からメチルプレドニゾロンC1,000mg/日によるステロイドパルス療法(intravenousCmethyl-predonisolone:IVMP)がC1クール(3日間)施行され,後療法としてCPSL40Cmg/日が投与された.第C12病日よりプロトロンビン時間国際標準比(prothrombintime-internationalnormalizedratio:PT-INR)がC1.5.2.0になるように抗凝固図1症例1の眼底写真とフルオレセイン蛍光造影写真a:第C6病日のカラー眼底写真を示す.右眼は多数の綿花様白斑,左眼も多数の綿花様白斑に加え血管アーケード内に網膜出血を伴う網膜白濁所見を認める.Cb:第C15病日のカラー眼底写真を示す.両眼ともに,眼底所見は悪化しており,血管アーケード内に網膜出血を伴う網膜白濁所見を認め,左眼はさらに悪化している.Cc:第C15病日のフルオレセイン蛍光造影写真(後期相).右眼(7分C41秒)は後極の網膜血管閉塞による虚血,左眼(8分C3秒)も広範囲な網膜虚血を認める.図2症例1の眼底写真とOCT画像(第203病日)a:眼底所見として,両眼ともに汎網膜光凝固術が施行されCSLE網膜症の活動性は低下している.Cb:OCTでは,両眼ともに黄斑部網膜は菲薄化している.薬ワルファリンカリウム(1.2Cmg/日)内服が開始された..部紅斑ならびに関節炎症状は改善した.その後,左眼の閉塞性血管炎に起因する著しい視力低下に加え,右眼の視力低下も認め,第C15病日の視力は右眼(0.02),左眼C20Ccm/指数弁とさらに悪化した.眼底所見は,両眼ともに血管アーケード内の網膜出血を伴う網膜白濁所見を認め,左眼はさらに悪化していた(図1b).同日施行したCFAで,右眼は後極の網膜血管閉塞による虚血,左眼も広範囲な網膜虚血を認めた(図1c).第C16病日より左眼から汎網膜光凝固術(panretinalphotocoagulation:PRP)を開始し,並行して右眼のCPRPも行った.第C14病日から開始されたシクロスポリン(cyclo-sporineA:CyA)200Cmg投与後に全身症状がやや悪化したため,第C15病日で終了し,第C16病日よりシクロホスファミド(500Cmg)間欠静注療法(intravenousCcyclophospha-mide:IVCY,1日C1回の点滴治療をC2週間以上開けて複数回施行する治療)が計C3回施行された.その後,血小板数減少を認め,第C30病日からワルファリンカリウムを約C1カ月間休薬となった.IVCY後,寛解維持を目的に,第C82病日よりアザチオプリン(azathioprine:AZP)50Cmg/日投与が開始された.第C132病日の視力は右眼(0.1),左眼(0.04)であった.経過観察を継続し,第C203病日の視力は右眼(0.08),左眼(0.04)と維持していた.眼底所見として,両眼ともにPRPによりCSLE網膜症の活動性は低下していたが(図2a),OCT(CirrusCHD-OCT5000,CarlCZeissMeditec社)検査で,両眼ともに黄斑部網膜は菲薄化していた(図2b).その後,第C438病日,後部硝子体.離に伴う左眼硝子体出血に対して,23CGシステムを用いた硝子体手術,眼底周辺部に網膜光凝固術(photocoagulation:PC)を追加施行した.経過(病日)第1病日第1病日経過(病日)図3治療経過ならびに視力の経時変化a:症例C1.横軸に第C1病日からの経過(日数)を示す.ステロイドパルス療法(IVMP),プレドニゾロン(PSL)内服投与量,ワルファリンカリウム内服,シクロスポリン(CyA)内服,シクロホスファミド(IVCY)間欠静注療法,アザチオプリン(AZP)内服の投与量と投与期間を示す.視力は,小数視力からClogMARに換算している.Cb:症例C2.横軸に第C1病日からの経過(日数)を示す.IVMP,PSL内服,トリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射(STTA),ヘパリンナトリウム持続点滴,ワルファリンカリウム内服,AZP内服の投与量と投与時期を示す.視力は,小数視力からClogMARに換算している.徐々にCSLE網膜症の活動性は低下し,第C637病日が最終受8Cmg/日とCAZP100Cmg/日の内服加療で,SLEの臨床症状診となり,近医へ逆紹介となった.最終受診時の視力は,右は落ち着いていた.初診からの臨床経過を図3aに示す.眼(0.09),左眼C10Ccm/指数弁であった.内科的には,PSL2022年某日(初診からC13年後)に眼科受診され,視力は,右眼(0.02),左眼手動弁であった.眼底は両眼CPRP後で鎮静化しており,両眼視神経は蒼白化していた.[症例2]21歳,女性.主訴:羞明,左眼視力低下.現病歴:2018年某月,発熱,発疹,手首の痛みを自覚し(発症日),東京慈恵会医科大学葛飾医療センター総合診療部を受診,顔面紅斑および汎血球減少を認め,7日後に精査加療目的で入院となった.身長C160Ccm,体重C50.8Ckg,BMIC19.84Ckg/m2.胸腹部CCTで全身リンパ節腫脹および肝脾腫がみられたものの,骨髄検査で芽球はC5%未満であった.顔面部から採取した皮膚病理の結果,皮膚エリテマトーデス(cutaneouslupusCerythematosus:CLE)に矛盾ない組織像であった.血液検査で,白血球数C2,500/μl,血小板数C14万/μl,蛍光抗体法による抗核抗体はC640倍(基準値:40倍未満)で染色パターンは斑紋型(speckledpattern),補体蛋白CC322Cmg/dl(基準値:73.138Cmg/dl),C42.0Cmg/dl(11.31Cmg/dl),CH5010CU/ml(基準値:31.6.57.6CU/ml)は低値,抗CSm抗体C8CU/ml,抗CdsDNAIgG抗体C74CIU/ml(基準値C12CIU/ml以下)と陽性であった.腎機能に異常はなかった.aPL関連の抗カルジオリピンCIgG抗体C20CU/ml(基準値:12.3U/ml以下),抗CCL・Cb2GPI抗体C3.5U/ml(基準値:3.5CU/ml未満)の陽性も確認された.ACR分類改訂基準(1997)6)のC4項目以上の基準を満たしCSLEと診断された.発症C11日後からCPSL40Cmg/日内服治療が開始された.血液検査所見の改善がみられ退院した.発症C23日後(第C1病日),左眼視力低下を認め,第C10病日,再入院するとともに眼科に紹介受診となった.既往歴・家族歴:特記すべき事項なし.初診時眼所見:視力は右眼C0.05(1.0C×sph.3.25D(cylC.0.75DAx55°),左眼C0.04(0.7C×sph.4.75D(cyl.0.25DAx90°),眼圧は右眼C13mmHg,左眼C14mmHgであった.前眼部に異常所見なく,眼底所見として,両眼ともに後極部を中心として多数の綿花様白斑を認めた(図4a).黄斑部OCT(CirrusCHD-OCT5000)検査において,両眼ともに.胞様黄斑浮腫を認めた(図4b,c).SLE網膜症と診断し,FAを施行し,両眼に網膜血管炎の所見はみられたが,明らかな網膜血管閉塞所見ならびに無灌流領域(nonCperfusionarea:NPA)は検出されなかった.経過:再入院後,IVMPのC1クール(2日間)に加え抗凝固療法(ヘパリンナトリウムC10,000.15,000単位/日持続点滴)が開始された.その後,サイトメガロウイルス感染症を発症し,ガンシクロビル(デノシン250CmgをC1日C2回,4日間)点滴治療,PSL50Cmg/日内服,抗凝固薬はワルファリンカリウム2.4Cmg/日(PT-INR1.5.2.0を目標)に変更となった..胞様黄斑浮腫に対してトリアムシノロンアセトニドCTanon.下注射(sub-tenonCinjectionCofCtriamcinoloneCacetonide:STTA)を計画していたが,治療強化の目的で,第C15病日に東京慈恵会医科大学附属病院リウマチ・膠原病内科および眼科に転院となった.同日CFA施行,両眼に網膜血管炎,一部CNPAがみられたが,経過観察となった.第C17病日に左眼にCSTTA施行,第C22病日にCFA施行したところ,右眼は上方から耳側にかけて,左眼は上方と下方の広範囲にCNPAが検出され(図5),右眼CNPAにCPC,左眼にPRPを施行した.第C32病日の視力は右眼(1.2),左眼(0.6)であった.第43病日よりPSL45mg/日に加え,AZPC25mg/日投与が開始となり,2週後からC50Cmg/日へ増量された.以降,内科的にはCPSL内服を漸減し,眼科的には適宜FA施行し,両眼のCNPAに対してCPCの追加治療を行った.第C161病日の視力は右眼(1.5),左眼(1.2)まで改善した.その後,右眼に網膜血管.離に伴う硝子体出血を認め,第400病日にC27CGシステムを用いた硝子体手術を施行,網膜.離や増殖膜はみられず,眼底周辺部にCPCを追加した.その後,追加治療はせず経過観察となった.初診からの臨床経過を図3bに示す.第C500病日の眼底は,両眼CPRP後に鎮静化し(図6a),OCT検査で網膜外層構造は保たれている(図6b).第C654病日,白血球減少がみられたためCAZP中止となった.初診からC4年以上経過した某日より,顔面と右上腕皮膚のCCLEが悪化し,可溶型CBリンパ球刺激因子(BLyS)阻害薬であるベリムマブ(ベンリスタC200Cmg)皮下注製剤が開始され,そのC2カ月後にヒドロキシクロロキン硫酸塩(hydroxychloroquinesulfate:HCQ,プラケニル200Cmg/日とC400Cmg/日をC1日おきに経口投与)が追加投与された.最終受診時,内科初診からC5年経過し,PSL4Cmg/日に加えCHCQとベリムマブを継続している.視力は両眼それぞれ(1.2)を維持し,SLEとCSLE網膜症の悪化はみられていない.また,初診時にCaPL陽性であったが,そのC12週以降から最終受診までCaPLは陰性であった.CII考按今回,SLE網膜症の視機能予後において,対照的な転帰を辿ったC2症例の長期経過について報告した.症例C1の特徴として,SLE活動期にCSLE網膜症が急速に進行し,血管アーケード内の網膜血管閉塞により,重篤な黄斑部網膜虚血(図1b,c)が起こり,網膜菲薄化(図2b)による重度視力障害を残し鎮静化した.一方,症例C2では,SLE網膜症診断後,網膜血管閉塞による重篤な網膜虚血が回避され,良好な視力が維持され,網膜症が鎮静化した(図5).SLEの診断に関して,ACR分類改訂基準(1997)6)に準じた難病情報センターの診断基準に照らし合わせると,症例C1(顔面紅斑,関節炎,血小板減少,抗核抗体陽性,抗CSm抗体陽性)と症例C2(顔面紅斑,関節炎,白血球減少,抗核抗体陽性,抗CdsDNAIgG抗体陽性,aPL陽性)ともに,診断図4症例2の眼底写真とOCT画像(初診時)a:眼底所見として,両眼ともに後極部を中心として多数の綿花様白斑を認める.Cb:OCTでは,両眼ともに.胞様黄斑浮腫を認める.カテゴリーのC4項目以上を満たし,SLEの診断に合致している.2024年現在,SLE分類基準はCACR分類改訂基準(1997)6)とともに,EuropeanLeagueAgainstRheumatism(EULAR)/ACR2019が採用され,少なくともC1回は抗核抗体C80倍以上の陽性が必須(エントリー基準)とされ,7つの臨床項目(発熱,血液学的所見,神経精神症状,皮膚粘膜所見,漿膜炎,関節炎,腎病変)と三つの免疫学的項目(aPL,補体蛋白,特異的自己抗体)に分け,一つ以上の臨床項目を含み,臨床項目と免疫学的項目を合わせて,合計が10点以上でCSLEに分類される7.9).症例C1の初診時,すでにCITPに対するCPSL加療中であったが,今回のC2症例を現在のCEULAR/ACR2019分類基準に照らし合わせても,合計点数がC10点を超えており,SLEに分類される結果であった.SLEの治療について考察する.2015年C7月C3日にCSLEとCLEの治療薬として,HCQが承認され,同年C9月に販売さ図5症例2の超広角フルオレセイン蛍光造影写真(第17病日)右眼(1分C52秒)は上方から耳側にかけて,左眼(2分C28秒)は上方と下方の広範囲に無灌流領域が検出されている.図6症例2の眼底擬似カラー画像とOCT画像(第500病日)a:超広角眼底写真で,両眼汎網膜光凝固術が施行され,SLE網膜症は鎮静化している.Cb:OCTで黄斑浮腫はなく,網膜外層構造は保たれている.れた.HCQは,抗炎症作用,免疫調節作用,抗マラリア作られている4,10).SLEの診療ガイドライン(2019)4)において,用など多岐にわたる薬理作用を有する薬剤である.その分子HCQは病態や臓器病変にかかわらず,禁忌事項に注意しなメカニズムについては十分に明らかになっているとはいえながら全例で投与を考慮すると記載されている.ただし,皮膚いが,Toll様受容体の機能阻害ならびにエンドソームCpH上に限局するCCLEの場合,まず外用治療を行い,それに抵抗昇作用による抗原提示を阻害することに関連していると考え性の場合に投与を検討すると記載されている.2023改訂SLE患者の管理・治療に関するCEULAR推奨においても,目標量C5Cmg/kg/日で基本的にすべてのCSLE症例に対してHCQを推奨している11).現状,SLEと診断されれば,最初にCHCQ投与が行われる.HCQ投与後の治療指針として,SLE診療アルゴリズムが提唱されている4).その後はCPSL内服治療と並行して,ループス腎炎の有無・Class分類,神経精神ループスの有無,血液検査所見,全身状態を評価し,寛解導入に向けてCIVMP,IVCY,免疫抑制薬,モノクローナル抗体製剤を追加投与する治療アルゴリズムとなっている4).症例C1では,活動性CSLEの発症時期が,HCQ保険収載以前であったことから,経過中にCHCQの使用歴はない.一方,症例C2では,診療ガイドライン(2019)発表以前に発症し,活動期にCSLE網膜症を発症していたことからCHCQ投与が見送られた可能性がある.発症からC4年後にCHCQが開始されているが,最終受診までC1年は経過していない.現在,HCQの保険適用からC8年以上が経過し,本剤の副作用としてもっとも留意すべきものとして網膜障害(ヒドロキシクロロキン網膜症)がある12,13).とくに累積投与量がC200Cgを超えたら注意する必要がある12,13).HCQ投与後は,通常の眼科的検査に加え,OCT検査,色覚検査,視野検査をC6カ月からC1年ごとに行うことが必須となっている.しかし,症例C1のように網膜血管閉塞後の黄斑部網膜菲薄化による不可逆的変化(図2)が生じた場合,たとえCHCQを投与していたとしてもヒドロキシクロロキン網膜症の発症を評価することは不可能である.SLEと診断され,HCQ投与検討時期に,SLE網膜症を発症している場合,HCQ投与後にヒドロキシクロロキン網膜症発症の評価が困難となるため,投与に関しては,慎重にならざるをえない.現在,SLEの病態に保険収載されているモノクローナル抗体製剤は,ベリムマブ,アニフロルマブ,リツキシマブの3剤である(表1).ベリムマブはCB細胞活性化を制御する薬剤で,標準的治療に対して効果不十分な症例に適応がある.また,SLEに合併するCCLEに対する有効性も報告されている14).症例C2では,CLE悪化時にベリムマブが導入された.ステロイドとCHCQ治療にベリムマブが追加投与され,SLE網膜症による視力低下の改善を認めた報告例がある15).アニフロルマブは,I型インターフェロンCa受容体のサブユニットC1(IFNAR1)の阻害薬で,IFNAR1を介したインターフェロンシグナル伝達を阻害し,IFNAR1応答性の遺伝子発現を抑制する薬剤で,既存の治療を行っても疾患活動性を有する場合に追加投与を検討する.CD20陽性のCB細胞を枯渇化させるリツキシマブは,ループス腎炎に対して適応が拡大された.APSの診断に関して,難病情報センターの診断基準では,臨床基準C1項目以上が存在し,かつ検査項目(ループスアンチコアグラント,抗カルジオリピン抗体,抗CCL・Cb2GPI抗体)のうちC1項目以上が陽性で,12週間以上の間隔をおいてC2回以上検出されることとなっている.今回のC2症例とも,1回のCaPL陽性を認めているが,診断基準は満たしていない.SLEに対する治療が行われていたことと関係している可能性は否定できない.しかし,両症例ともCaPL陽性が確認されていることから,APSでみられる血管血栓症に留意する必要があったと考えられる.SLEにCAPSを合併する症例では,網膜血管閉塞性疾患を発症するリスクが高いことが指摘されている16).SLE網膜症に対する治療アルゴリズムは存在しないが,.胞様黄斑浮腫に対してはCSTTAを行い17),適宜CFAを施行し網膜血管閉塞やCNPAが検出されればCPCやCPRPを検討する必要がある17,18).しかし,いずれも対症療法で,重篤な閉塞性網膜血管炎に対する治療を強化しなければ根本治療とはいえない.APSを合併している場合,血管血栓症や視力予後の悪化を防ぐために,抗凝固薬による迅速な治療が重要であると指摘する報告もある19).大島らは20),網膜血管閉塞を発症したCSLE網膜症のC2例を報告し,1例はCAPS合併例で,もうC1例はCAPS非合併例であったが,血管閉塞が進行する活動性の高いCSLE網膜症において,既存の治療に加えて抗凝固療法が進行抑制に有効であったと考察している.抗凝固薬の開始時期について,症例C1では,第12病日からワルファリンカリウム内服を開始している.しかし,発症時(第C1病日),すでに左眼霧視を訴えていたこと,ITPに対してCPSL20Cmg/日内服加療中であったことか表1全身性エリテマトーデスに対するモノクローナル抗体製剤ベリムマブ(ベンリスタ)アニフロルマブ(サフネロー)リツキシマブ(リツキサン)標的抗原可溶型CBリンパ球刺激因子(BLyS)I型インターフェロンCa受容体のサブユニットC1(IFNAR1)CCD20作用機序BLyS阻害I型CIFN受容体阻害CD20発現細胞除去効能・効果既存治療を行っても疾患活動性がある場合既存治療を行っても疾患活動性がある場合既存治療で効果不十分なループス腎炎投与方法点滴静注/皮下注点滴静注点滴静注投与量10Cmg/kgを初回,2週後,4週後/C200CmgC300CmgC375Cmg/m2(体表面積)投与間隔静注C4週ごと/皮下注C1週ごと4週ごと1週間間隔でC4回注意点アナフィラキシー,重症感染症,間質性肺炎などアナフィラキシー,重症感染症投与時反応,感染症承認時期2017年C9月2021年C9月2023年C8月ら,正確なCSLEならびにCSLE網膜症の発症日は不明であったと考えられた.また,SLEではしばしば血小板減少症を合併することから,SLEと確定診断された以前より,潜在的なCSLEが存在していた可能性は考えられる.仮にCSLEの診断時期が早ければ,SLE網膜症をより早期に診断できた可能性があり,左眼の重度視力障害をきたす前に,抗凝固療法を含めたCSLEの治療強化行えた可能性がある.一方,症例C2では,SLE網膜症の診断日(視力低下自覚のC9日目・第10病日)からCIVMPならびにヘパリンナトリウムによる抗凝固療法が開始された.SLEに対する治療は,2015年以降,HCQの保険適用やモノクローナル抗体製剤の開発など,めざましい進歩を遂げている.一方,閉塞性網膜血管炎を主体とするCSLE網膜症は不可逆的かつ重篤な視機能障害を引き起こす病態であるにもかかわらず,治療アルゴリズムは存在しない.今回経験した2症例の治療経過と過去の報告と併せて考えると,急速に進行するCSLE網膜症がみられた場合,aPL陽性やCAPS合併の有無にかかわらず,内科医と連携して,SLEに対する治療を強化するとともに,早期に抗凝固療法を検討することが重要であると考えられた.本論文の内容は,第C36回日本眼循環学会(札幌,2019),第C56回日本眼炎症学会(大阪,2023)にて発表しました.利益相反:林孝彰FクラスCIII(ジョンソン・エンド・ジョンソン/AMO株式会社,株式会社リィツメディカル,株式会社ユニハイト,バイエル薬品株式会社,日本アルコン株式会社,田辺三菱製薬株式会社,参天製薬株式会社),FクラスCII(千寿製薬株式会社,第一三共株式会社,株式会社オグラ,株式会社栗原医療器械店,中外製薬株式会社,わかもと製薬株式会社,大塚製薬株式会社,興和株式会社,協和キリン株式会社)文献1)Sta.ord-BradyCFJ,CUrowitzCMB,CGladmanCDDCetal:CLupusCretinopathy.CPatterns,Cassociations,CandCprognosis.CArthritisRheumC31:1105-1110,C19882)KharelCSitaulaCR,CShahCDN,CSinghD:RoleCofClupusCreti-nopathyCinCsystemicClupusCerythematosus.CJCOphthalmicCIn.ammInfectC6:15,C20163)SethCG,CChengappaCKG,CMisraCDPCetal:LupusCretinopa-thy:aCmarkerCofCactiveCsystemicClupusCerythematosus.CRheumatolIntC38:1495-1501,C20184)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業自己免疫疾患に関する調査研究(自己免疫班):全身性エリテマトーデス診療ガイドラインC2019.南山堂,20195)DurcanCL,CPetriM:ClinicalCaspect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網膜動静脈閉塞症に対してステロイドパルス療法が奏効したSLE網膜症の1例

2015年6月29日 月曜日

《原著》あたらしい眼科32(6):904.908,2015c《原著》あたらしい眼科32(6):904.908,2015cはじめに全身性エリテマトーデス(systemiclupuserythemato-sus:SLE)は,さまざまな眼合併症を伴うことが知られている.木村らはSLEに伴う眼合併症として涙液分泌・角結膜障害(56.5%),網膜病変(10.3%),強膜・ぶどう膜炎(4.3%),視神経障害(1.5%)に加えて,網膜動脈閉塞症や網膜静脈閉塞症などの重篤な網膜血管閉塞病変が3.6%で生じていたと報告している1).治療法として副腎皮質ステロイド(以下,ステロイド)パルス療法,抗凝固療法,血管拡張剤の投与,汎網膜光凝固術などが報告されているが,視力予後の不良な症例も少なくない.今回,内科的な全身管理は良好にもかかわらず網膜動静脈閉塞症をきたし,ステロイドパルス療法にて視力の改善を得た1例を経験したので報告する.904(140)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY〔別刷請求先〕肥留川京子:〒181-8611東京都三鷹市新川6-20-2杏林大学眼科学教室Reprintrequests:KyokoHirukawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyorinUniversitySchoolofMedicine,6-20-2Shinkawa,Mitaka,Tokyo181-8611,JAPAN網膜動静脈閉塞症に対してステロイドパルス療法が奏効したSLE網膜症の1例肥留川京子慶野博渡辺交世瀧和歌子平形明人岡田アナベルあやめ杏林大学眼科学教室ACaseofVaso-OcclusiveSystemicLupusErythematosusRetinopathyTreatedwithCorticosteroidPulseTherapyKyokoHirukawa,HiroshiKeino,TakayoWatanabe,WakakoTaki,AkitoHirakataandAnnabelleAOkadaDepartmentofOphthalmology,KyorinUniversitySchoolofMedicine41歳,女性.平成20年8月に全身性エリテマトーデス(SLE)と診断,低用量副腎皮質ステロイド薬の内服にて全身状態は安定していた.平成23年9月10日,右眼の急激な視力低下を自覚し,9月12日受診.初診時右眼(0.02),左眼(1.2).右眼底上方に網膜の白色混濁,視神経乳頭の発赤・腫脹,黄斑浮腫,網膜出血を認めた.左眼眼底は異常なし.蛍光眼底造影検査で右眼の網膜混濁部位に一致して網膜動静脈の循環遅延を認め網膜動静脈閉塞症と診断.血液検査にて抗カルジオリピン抗体,抗b2-GPI抗体は陰性であった.同日,トリアムシノロンTenon.下注射を施行,9月14日からステロイドパルス療法を3日間施行,その後プレドニゾロン内服漸減療法を開始した.視力は発症12日目で(0.4),2カ月後に(0.9)まで回復,右眼網膜動静脈閉塞も改善した.SLEの全身活動性が低い状態でも重篤な眼合併症を引き起こす可能性があり注意を要する.A41-year-oldfemalepresentedwithblurredvisioninherrighteye.Shehadbeendiagnosedassystemiclupuserythematosus(SLE)3yearsbefore.Atpresentation,hersystemicdiseaseactivitywasquiescent.Hercor-rectedvisualacuity(VA)was0.02(OD)and1.2(OS).Fluoresceinangiographyrevealedbranchretinalarterialandvenousnon-perfusionandretinalvasculitisinherrighteye.Opticalcoherencetomographyshowedseveremacularedemainherrighteye.Thepatientwastreatedwithtrans-Tenon’sretrobulbartriamcinoloneinfusionandcorticosteroidpulsetherapyfollowedbytaperingoralcorticosteroidadministration.Twomonthslater,theVAimprovedto0.9withcompleteresolutionofretinalarterialandvenousocclusionandmacularedema.Althoughitiswellrecognizedthatsevereretinalvaso-occulsivediseaseisassociatedwiththehighdiseaseactivityofSLE,itshouldbeconsideredthatSLEpatientsmaydevelopretinalvaso-occulsivedisease,evenwhenthepatienthaswell-controlledsystemicdisease.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(6):904.908,2015〕Keywords:SLE網膜症,網膜動静脈閉塞症,SLE活動性.SLEretinopathy,retinalvaso-occulsivedisease,SLEdiseaseactivity. I症例患者:41歳,女性.主訴:右眼視力低下.既往歴:17歳時,甲状腺機能亢進症に対して甲状腺一部摘出術.平成20年よりSLEに対してプレドニゾロン(プレドニンR)30mgより内服を開始し,当院受診時はプレドニン4mg内服加療中であった.現病歴:平成23年9月10日より右眼視力低下を自覚し,9月12日近医受診.右網膜動脈閉塞症の疑いにて同日当院紹介受診となった.初診時所見:右眼視力0.02(矯正不能),左眼矯正1.2,眼圧は右眼14mmHg,左眼15mmHg.右眼相対的瞳孔求心路障害(relativeafferentpupillarydefect:RAPD)陽性.図1初診時の右眼底写真網膜静脈の拡張と蛇行,視神経乳頭の発赤・浮腫,綿花様白斑の散在と上耳側の白色混濁病変および黄斑部浮腫を認める.初期前眼部・中間透光体に異常所見はなかった.右眼眼底は後極,周辺部ともに静脈の拡張と蛇行,視神経乳頭は境界不鮮明で発赤・浮腫を示し,綿花様白斑の散在と,上耳側の白色混濁病変および黄斑部浮腫を認めた(図1).左眼眼底は異常所見はなし.光干渉断層画像(opticalcoherencetomography:OCT)検査にて,右眼黄斑部に著明な浮腫を認めた(図2).初診時の蛍光眼底造影検査では,初期像にて右眼網膜上耳側の網膜動静脈血管および下耳側の網膜静脈血管の充盈遅延を認め,後期像では網膜耳側へ造影剤の流入を認めるものの,上耳側網膜動脈の著明な狭小化,視神経乳頭からの蛍光漏出がみられた(図3).また,周辺部の網膜毛細血管からの軽度の蛍光漏出を認めた.全身検査所見:貧血と白血球数低下,APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)の延長を認め,抗核抗体320倍,抗SS-A抗体陽性.抗カルジオリピン抗体・ループスアンチコアグラント・抗CL・b2GPI抗体ともに正常範囲内,心電図・胸部X線は異常なし.頭部MRI,MRAでは動脈硬化性変化はあるものの,限局的な狭窄や瘤状拡張はみられなか図2初診時のOCT画像黄斑部に著明な浮腫を認める.後期図3初診時の蛍光眼底造影写真初期像では網膜上耳側の網膜動静脈血管への充盈遅延を認め,後期像では網膜上耳側へ造影剤の流入を認めるものの,上耳側網膜動脈の著明な狭小化,および視神経乳頭からの蛍光漏出を認める.(141)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015905 った.眼底検査所見,蛍光眼底検査所見から,SLEに合併した網膜動静脈閉塞症と診断し,右眼後極部の網膜血管炎に対して治療を開始した.初診日は全身精査中であったため,右眼網膜病変に対してトリアムシノロン(20mg)Tenon.下注射を施行,2日後よりステロイドパルス療法としてソルメドロール点滴(500mg/日)3日間.その後プレドニゾロン内服(40mg/日)を開始した.治療経過を図4に示す.治療開始後1週間で右眼矯正視力(0.4p),2週間で(0.6)まで改善した.眼底所見は乳頭の発赤・腫脹,綿花様白斑は残存するも,静脈の拡張・蛇行は軽快し,黄斑浮腫も改善した(図5).治療開始2週間後の蛍光眼底造影検査では,上耳側の網膜動脈の充盈遅延はみられず,網膜静脈の拡張・蛇行も改善し,視神経乳頭からの蛍光漏出も消失した(図6).治療開始後1カ月では右眼矯正視力(0.9)まで改善,綿花様白斑や視神経乳頭の発赤・腫脹は消失し,黄斑浮腫も改善した(図7).治療開始10カ月後の時点で,プレドニンR内服継続中(7mg/日)であるが視力1.0を保っており,網膜病変の再発は認めていない.II考按SLE網膜症は両眼性に眼底出血,白斑,漿液性網膜.離,網膜血管閉塞などを呈する1.6).SLEの眼合併症についてVineらはSLE網膜症を1)綿花様白斑,網膜出血,視神経乳治療後1週間(VD=0.4p)頭浮腫など比較的軽度の病変を呈する局所性の網膜虚血型,2)網膜動静脈の急速かつ重篤な閉塞をきたす血管閉塞型,3)新生血管の発生がみられる増殖型の3つに分類している7).本症例は眼底検査,蛍光眼底造影検査より右眼の網膜動静脈閉塞症を認め,網膜新生血管がみられなかったことからVine分類の2)と考えられた.森田らはステロイド内服下でも進行するSLEの網膜血管炎に対してステロイドパルス療法を行い,著明な視力の改善,血管炎が改善され,重症血管閉塞型SLE網膜症に対する早期からのステロイドパルス療法の有効性を報告している5).一方で吉田ら,中尾らが報告ステロイド50403020101.00.10.01PSL(mg/day)視力パルス5004030201715121097Tenon.下注射週間後週間後カ月後2カ月後3カ月後4カ月後カ月後3日後図4治療経過PSL:プレドニゾロン.治療後2週間(VD=0.6)図5治療開始後の眼底写真とOCT画像視神経乳頭の発赤・腫脹,綿花様白斑は残存するも,静脈の拡張・蛇行は軽快し,黄斑部浮腫も改善している.906あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(142) 初期後期図6治療開始2週間後の蛍光眼底造影写真上耳側の網膜動脈の充盈遅延はみられず,網膜静脈の拡張・蛇行も改善し,視神経乳頭からの蛍光漏出も消失している.治療後1カ月(VD=0.9)治療後3カ月(VD=1.0)図7治療開始後の眼底写真とOCT画像綿花様白斑,視神経乳頭の発赤・腫脹は認めず,黄斑部浮腫も消失している.しているように初診時にすでに広範囲にわたって網膜血管の化が血管内腔の器質的塞栓状態まで進行していると血管の再高度な閉塞が生じているような場合では,ステロイドパルス疎通は困難になると考えられる5).本症例は発症後比較的早治療を行ってもすでに不可逆的な網膜血管障害をきたしてい期に来院されたため,網膜血管炎に対して速やかにステロイることが多く8,9),森田らも指摘しているとおり,閉塞性変ドパルス療法を施行できたことが眼底所見の早期改善,視力(143)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015907 の早期回復につながったと推測される.野間らはSLEに合併した非虚血型CRVOに伴う.胞様黄斑浮腫(cystoidmaculaedema:CME)の患者の前房水にて血管内皮細胞増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が検出され,抗VEGF薬ベバシズマムの硝子体内投与を施行したところ,視力およびCMEの改善を得たと報告している10).本症例においても抗VEGF局所治療が黄斑浮腫に対して有効であった可能性が考えられるが,本症例では前房水中のVEGF値を測定していなかったこと,また初診時に網膜動静脈閉塞をきたす著明な閉塞性網膜血管炎を認めており,著明な視力低下をきたしていたことから血管炎の早急な消炎を目的にステロイドパルス治療を選択した.SLE網膜症の頻度について過去の報告をみると,木村らは324例中34例(10.3%),Stafford-Bradyらは550例中41例(7.5%)と報告しているが,さらに網膜血管閉塞の頻度をみると,木村らは12例(3.6%),Stafford-Bradyらは2例(0.4%)に観察されたと報告している1,11).これまでの報告ではSLE網膜症の重症度とSLEの病状活動性は相関があり,ループス腎炎や中枢神経ループスを合併した症例ではSLE網膜症が進行しやすいといわれている6,12).また,SLE患者において抗リン脂質抗体陽性SLE患者のほうが陰性例よりも網膜血管病変の合併頻度が高いことが報告されている(77%vs29%)13).一方で内科的な全身管理は良好であったにもかかわらず,重篤な網膜血管閉塞を生じた症例も存在することは以前から報告されており7,14),本症例も抗カルジオリピン抗体・ループスアンチコアグラント・抗CL・b2GPI抗体ともに陰性,かつSLEの内科的管理は良好であったにもかかわらず,重篤なSLE網膜症を発症したことから,全身状態が安定していても重篤な眼合併症が生じうることを眼科医,膠原病内科医ともに十分認識しておく必要がある.SLE経過観察中のステロイド投与量について,広兼らはステロイドの内科的維持量で全身の活動性がコントロールされていても,眼底病変の進行を抑制できない症例が存在することを報告している14).今回の症例でもプレドニゾロン4mgの内服下で網膜血管閉塞が生じたことから,内科的な維持量では不十分であったといえる.重篤な眼合併症が生じた場合は,再発抑制のためのステロイド維持量,漸減速度について膠原病内科医と積極的に連携をとっていくことが重要である.今回,SLEに合併した網膜血管閉塞発症後,早期にステロイドパルス療法を施行することで網動静脈循環の改善を認め,視力予後良好な症例を経験した.内科的な全身管理が良好に保たれていても,血管閉塞を伴う重篤な網膜病変が合併する可能性があり,注意を要する.文献1)木村至,鈴木参郎助,大曽根康夫ほか:全身性エリテマトーデス患者における眼合併症とその頻度.眼紀50:293297,19992)大島由莉,蕪城俊克,藤村茂人ほか:ステロイド大量療法とワーファリンRによる厳密な抗凝固療法を行った網膜血管閉塞を伴う全身性エリテマトーデス網膜症の2例.臨眼62:399-405,20083)西野耕司,福島敦樹:全身性エリテマトーデス,抗リン脂質抗体症候群,強皮症.臨眼61:172-175,20074)沢美喜,斉藤喜博,亀田知加子ほか:全身性エリテマトーデスの眼合併症─脈絡膜・網膜色素上皮障害.日眼会誌106:474-480,20025)森田啓文,伊比健児,秋谷忍ほか:ステロイドパルス療法が奏功した血管閉塞型SLE網膜症の1例.臨眼52:497-501,19986)田宮宗久,田村喜代,竹田宗泰ほか:全身性エリテマトーデスの眼合併症.臨眼47:1533-1536,19937)VineAK,BarrCC:Proliferativelupusretinopathy.ArchOphthalmol102:852-854,19848)吉田浩一,本多貴一,石橋達朗ほか:全身性紅斑性狼瘡で重篤な網膜血管閉塞性病変を呈した3例.眼臨87:19221926,19939)中尾功,松井淑江,馬渡祐記ほか:副腎皮質ステロイド薬抵抗性の片眼網膜動脈分枝閉塞を来したSLEの1例.眼紀51:419-422,200010)NomaH,ShimizuH,MimuraT:Unilateralmacularedemawithcentralretinalveinocclusioninsystemiclupuserythematosus:acasereport.ClinOphthalmol7:865-867,201311)Stafford-BradyFJ,UrowitzMB,GladmanDDetal:Lupusretinopathy.Patterns,associations,andprognosis.ArthritisRheum31:1105-1110,198812)UshiyamaO,UshiyamaK,KoaradaSetal:Retinaldiseaseinpatientswithsystemiclupuserythematosus.AnnRheumDis59:705-708,200013)MontehermosoA,CerveraR,FontJetal:Associationofantiphospholipidantibodieswithretinalvasculardiseaseinsystemiclupuserythematosus.SeminArthritisRheum28:326-332,199914)広兼顕治,木村亘,木村徹ほか:網膜動脈閉塞を繰り返した全身性エリテマトーデス網膜症の1例.眼臨89:1681-1685,1995***(144)