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Soemmering 輪による続発閉塞隅角緑内障の1 例

2010年11月30日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(121)1603《原著》あたらしい眼科27(11):1603.1606,2010cはじめに後発白内障は白内障術後の視力低下,グレア,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の偏位などを起こす原因となり,白内障手術に残された課題である.後発白内障は形態的に線維性混濁,Elschnig’spearl,Soemmering輪,lentoidofThielの4つに分類される1).Soemmering輪は水晶体.の赤道部に残存した水晶体上皮細胞が形成するリング状の白色組織であり2~6),近年では超音波水晶体乳化吸引術の普及に伴い発生頻度は少なくなっている.水晶体.外摘出術後にはより高頻度にみられていたが,Soemmering輪が単体で閉塞隅角緑内障を誘発したという報告はない.筆者らは毛様体ブロック発生の主因となりうる小眼球7)や緑内障手術の既往8,9)がなく,治療経過から高度なSoemmering輪が毛様体ブロック発生の主因となったと考えられる続発閉塞隅角緑内障の1例を経験したので報告する.I症例患者:88歳,女性.〔別刷請求先〕松山加耶子:〒570-8507守口市文園町10-15関西医科大学附属滝井病院眼科Reprintrequests:KayakoMatsuyama,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,TakiiHospital,10-15Fumizono-cho,Moriguchi,Osaka570-8507,JAPANSoemmering輪による続発閉塞隅角緑内障の1例松山加耶子*1南野桂三*1安藤彰*1竹内正光*1和田光正*1嶋千絵子*1松岡雅人*1福井智恵子*1桑原敦子*1松山英子*2西村哲哉*1*1関西医科大学附属滝井病院眼科*2荒川眼科Angle-ClosureGlaucomaInducedbySoemmering’sRings─CaseReportKayakoMatsuyama1),KeizoMinamino1),AkiraAndo1),MasamitsuTakeuchi1),MitsumasaWada1),ChiekoShima1),MasatoMatsuoka1),ChiekoFukui1),AtsukoKuwahara1),EikoMatsuyama2)andTetsuyaNishimura1)1)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,TakiiHospital,2)ArakawaEyeClinic白内障術後10年以上経過してから発症した高度なSoemmering輪を伴う続発閉塞隅角緑内障の1例を経験した.隅角癒着解離術と硝子体切除術では改善せずSoemmering輪を摘出した.本症例は小眼球や緑内障の既往はないが浅前房を呈し,治療経過と術前後の超音波生体顕微鏡所見からSoemmering輪が主因である毛様体ブロック緑内障と診断した.Soemmering輪のみで毛様体ブロックが起こった可能性は低く,本症例ではSoemmering輪に毛様体の前方移動が重なって毛様体ブロックが発生したと考えられた.Soemmering輪に閉塞隅角緑内障を合併する症例では毛様体ブロックを疑いレーザー虹彩切開術とYAGレーザーによるSoemmering輪の破砕術を考慮し,不可能であればSoemmering輪の摘出を行う必要がある.Wereportacaseofangle-closureglaucomawithanextensiveSoemmering’sring,observedmorethan10yearsaftercataractsurgery.Soemmering’sringwasremovedbecausecombinedsurgeryofanteriorvitrectomyandgoniosynechialysiswasnoteffective.Thepatienthadneithernanophthalmosnorahistoryofglaucomasurgery.Onthebasisofthemedicalcourseandresultsofultrasoundbiomicroscopicexaminationbeforeandaftersurgery,wediagnosedthiscaseasciliaryblockglaucomainducedbySoemmering’sring.However,sinceciliaryblockisrarelyinducedbySoemmering’sringalone,weassumethatthecombinationofSoemmering’sringandanteriorrotationoftheciliaryprocesspromotedtheciliaryblock.Whenangle-closureglaucomaisaccompaniedbySoemmering’sring,andcombinedtreatmentoflaseriridotomyandYAGlaserphotodisruptionisimpossible,theringshouldberemoved.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(11):1603.1606,2010〕Keywords:Soemmering輪,毛様体ブロック緑内障,超音波生体顕微鏡(UBM),毛様体の前方移動,硝子体手術.Soemmering’sring,ciliaryblockglaucoma,ultrasoundbiomicroscopy(UBM),anteriorrotationoftheciliaryprocess,parsplanavitrectomy.1604あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(122)主訴:右眼痛.現病歴:平成20年末頃から右眼痛を自覚して近医を受診.右眼眼圧が50mmHgと高く眼圧降下剤の点眼および内服を使用するも眼圧コントロールが不良なため,平成21年1月29日当科を紹介された.既往歴:10年以上前に両眼白内障手術施行(術式不明).家族歴:特記すべきことなし.初診時所見:視力は右眼0.5(1.0×sph.2.75D(cyl.0.5DAx145°),左眼0.4(0.9×sph+1.0D(cyl.0.5DAx180°)で,眼圧は近医からのアセタゾラミドの内服および右眼にラタノプロストとチモロールの点眼を使用して右眼32mmHg,左眼16mmHgであった.両眼ともIOL挿入眼で,炎症所見や後.破損はなくIOLは.内固定であったが,光学部のエッジは散瞳が不良なため観察できなかった.右眼の中央前房深度がやや浅くIOLが前方に押し出され虹彩裏面に接していた(図1).虹彩のforwardbowingはなく前房深度はvanHerick法で1/3から1/4であった.右眼の隅角は約270°閉塞しており(図2),中央前房深度は超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)で2.3mmとIOL挿入眼としては浅かった.毛様体の前方移動と毛様溝の閉塞が全周でみられたが,毛様体の扁平化はみられなかった.毛様体突起部が前方に強く牽引,あるいは後方から圧排されて図1右眼前眼部IOLは.内固定であるが虹彩の直後に光学部がみられ,前房深度はやや浅い.………………..図3術前の右眼UBM像中央前房深度は2.3mm.白矢印:前方移動している毛様体.緑矢印:虹彩下の高反射領域(Soemmering輪).図2右眼隅角緑矢印の部位のみ開放している.………………..図4初回手術後の右眼UBM像中央前房深度は2.37mm.図3と比較して隅角の形態に変化はない.(123)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101605いるために毛様溝が閉塞しているようであった.IOL光学部と毛様体の間で虹彩のすぐ後方に虹彩根部を前房側へ圧迫するように存在する,虹彩および毛様体とほぼ同輝度のmasslesionが全周にみられ,白内障手術後であることや存在部位よりSoemmering輪と考えられた(図3).左眼の毛様体は位置や形態の異常はなかった.眼軸長は右眼21.82mm,左眼21.74mmであり,眼底は両眼とも異常なかった.経過:毛様体ブロック緑内障(悪性緑内障)に対しては硝子体切除術が有効であるため10,11),硝子体の完全切除とSoemmering輪の摘出ならびにIOL縫着術の併用を予定した.しかし3月9日の術中に硝子体を後部まで完全に切除したところ前房が深くなり,房水のmisdirectionが改善したと判断してSoemmering輪を摘出しなかった.硝子体切除と同時に周辺虹彩前癒着に対して隅角癒着解離術ならびに25ゲージ硝子体カッターを用いた周辺部虹彩切除術を併用した.しかし浅前房が持続して眼圧も25~30mmHgと高く,隅角は下方以外閉塞していたためレーザー隅角形成術を行うも無効であった.虹彩切除部から観察できたSoemmering輪は高度に肥厚しておりYAGレーザーは不可能と判断した.術後のUBM検査では中央前房深度が2.37mmで隅角の形態にも変化はなかった(図4)ため,単なる毛様体ブロック緑内障ではなくSoemmering輪が隅角の閉塞に関与していると判断し,3月16日にSoemmering輪ならびに水晶体.切除とIOL縫着術を施行した.術後に隅角は全周開放されており(図5),眼圧も10mmHg前後に低下した.UBM検査では中央前房深度は3.73mmと深くなり,隅角は全周開大していたが毛様体の前方移動は残存していた(図6).II考按本症例は浅前房,閉塞隅角,高眼圧がみられるが虹彩後癒着や瞳孔ブロックがなく,UBM検査にて高度なSoemmering輪がみられたため,白内障術後10年以上経過しているがSoemmering輪による虹彩根部の圧迫や毛様体ブロックが原因であると考えた.毛様体ブロック緑内障(悪性緑内障)はaqueousmisdirectionglaucomaともよばれ,原発閉塞隅角緑内障の手術後に生じた前房消失と高眼圧を伴う,治療に抵抗する重篤な合併症としてvonGraefeが最初に報告した12).おもに狭隅角眼の内眼手術後に起こる合併症と考えられていた13)が,白内障術後14)やレーザー虹彩切開術後15)などの症例も報告されている.毛様体ブロックの解除には硝子体切除が有効であるが,前部硝子体切除のみでは解除できないという報告10,11)もあるため,硝子体全切除とSoemmering輪の摘出,IOL縫着術の併用を予定した.しかし術中に硝子体を後部まで完全に切除したところ前房が深くなり,房水のmisdirectionが改善したと判断してSoemmering輪を摘出しなかった.その結果術後に病態が改善せず,再手術でSoemmering輪を摘出したところ改善した.このことからもSoemmering輪が本症例における毛様体ブロックの主因であることが示唆される.毛様体ブロックでは毛様体突起部と水晶体赤道部が接して房水の流れが阻止されると説明されているが,毛様体の前方移動が起これば毛様体突起部と水晶体赤道部の間隙は狭くなり硝子体から後房への房水の流れが阻害される16).現在までにSoemmering輪だけで毛様体ブロックが発生したという報告はないため,本症例ではSoemmering輪が高度に発達してきたことで水晶体.と毛様体の間隙が狭小化しているところに毛様体の前方移動が合併して毛様体ブロックを生じた可能性が考えられる.IOL挿入眼でSoemmering輪により図5再手術後の右眼隅角隅角は全周広く開放している.………………..図6再手術後の右眼UBM像中央前房深度は3.73mm.隅角は全周広く開大しているが毛様体の前方移動は残存している(矢印).1606あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(124)瞳孔ブロックと毛様体-水晶体.(Soemmering輪)ブロックを合併し,レーザー虹彩切開術とYAGレーザーによるSoemmering輪の破砕術の併用にて治癒した症例の報告がある17)が,この症例では房水は硝子体内にmisdirectionせず前部硝子体膜が硝子体側に押し下げられ完全な毛様体ブロック緑内障にはなっていなかったことが考えられる.本症例の毛様体の前方移動の原因には4つの可能性が考えられる.1つはもともと毛様体の前方回転を伴うプラトー虹彩形状で,白内障手術後にプラトー虹彩形状は改善したが毛様体の前方回転は残存しているところにSoemmering輪の発生が重なって毛様体ブロックを発生したことがあげられる.しかし,左眼の毛様体に位置や形態の異常がなかったことから,この可能性は低い.2つめは原発閉塞隅角緑内障のUBM検査所見で微小な毛様体,脈絡膜.離が観察されたとの報告があり18,19),毛様体の前方移動の原因になりうる.初診時のUBM検査(図3)ではそれらの所見はみられず,本症例ではこのことが毛様体の前方移動の原因である可能性は低い.3つめはSoemmering輪が高度に増大してきたことでZinn小帯を介して,二次的に毛様体が前方移動したことである.つまりSoemmering輪が眼の前後軸方向にIOLを挟むように増大し,水晶体.が前方に移動したという病態である.上記2つの可能性が低いことから,本症例はSoemmering輪の高度な増大による毛様体の前方移動したことが最も考えられる.以上の3つの病態は毛様体ブロック発症前に生じるもので,毛様体ブロックの発症を助長する可能性がある.4つめはSoemmering輪が発達してきたことで後房が狭くなり毛様体ブロックが発生した後,二次的に毛様体の前方移動が生じたことが考えられる.この病態は毛様体ブロックの発症には関与しないが毛様体ブロックをさらに悪化させる原因となりうる.毛様体ブロック緑内障の報告では毛様体の前方移動が高度になり毛様体が扁平化していることが多いが,本症例は毛様体が前方回転している程度の異常であり,さらに前房が消失するほどの浅前房でないことからも硝子体腔と前後房の圧較差は高度ではないと考えられた.つまりSoemmering輪の増大に伴って慢性的な経過で徐々に毛様体ブロックが生じたものと推察される.したがって本症例における閉塞隅角緑内障の発症機序として毛様体ブロックから房水のmisdirectionが生じることにより水晶体.(Soemmering輪)が前方移動し,増大したSoemmering輪が直接虹彩裏面から虹彩根部を圧迫することで隅角閉塞機序が生じたこと,全周にわたりSoemmering輪が高度に発達していたため二次的に虹彩-Soemmering輪ブロックを生じて房水のmisdirectionが増悪したこと,この2点が考えられた.これらの病態から最終的に,IOLとSoemmering輪,毛様体が一体となって,前方に押され隅角閉塞の病態を呈したと推察した.Soemmering輪に毛様体ブロック緑内障(悪性緑内障)を合併した症例にはレーザー虹彩切開術とSoemmering輪肥厚の程度によってはYAGレーザーによるSoemmering輪の破砕を試みて,不可能であればSoemmering輪の摘出を考慮する必要があると思われた.文献1)永本敏之:後発白内障.眼の細胞生物学,p160-167,中山書店,20002)KappenlhofJP,VrensenGFJM,DeJongPTVMetal:TheringofSoemmeringinman.GraefesArchClinExpOphthalmol225:77-83,19873)GuhaGS:Soemmeringringanditsdislocations.BrJOphthalmol35:226-231,19514)林研:後発白内障の成因と対策.臨眼55:129-133,20015)綾木雅彦,邸信雄,鈴木純:超音波乳化吸引術後の水晶体上皮細胞の動態.あたらしい眼科5:1651-1653,19886)渡名喜勝,平岡利彦,小暮文雄:白色野兎水晶体における超音波乳化吸引術後の上皮細胞の変化─眼内レンズ挿入眼と非挿入眼の比較.日眼会誌97:1027-1033,19937)森實祐基,永山幹夫,高須逸平ほか:悪性緑内障を生じた小眼球症の1例.臨眼54:1230-1234,20008)上田潤,沢口昭一,金澤朗子ほか:悪性緑内障とplateauirisconfiguration.日眼会誌101:723-729,19979)谷原秀信,永田誠,奥平晃久:後.切開により治癒した悪性緑内障の2例.日眼会誌92:285-290,198810)奈良部典子,飯島建之,朝蔭博司ほか:後.切開・前部硝子体切除後に発症した両眼悪性緑内障.あたらしい眼科16:720-722,199911)宮代美樹,尾辻剛,畑埜浩子:肥厚した前部硝子体膜を切除することにより毛様体ブロックが解除された悪性緑内障の1例.眼科手術19:101-104,200612)vonGraefeA:BeitragezurPathologieundTherapiedesGlaucoms.GraefesArchClinExpOphthalmol15:108-252,186913)SimmonsRJ:Malignantglaucoma.BrJOphthalmol56:263-272,197214)ReedJE,ThomasJV,LytleRAetal:Malignantglaucomainducedbyanintraocularlens.OphthalmicSurg21:177-180,199015)CashwellLF,MartinTJ:Malignantglaucomaafterlaseriridotomy.Ophthalmology99:651-659,199216)EpsteinDL,HashimotoJM,AndersonPJetal:Experimentalperfusionsthroughtheanteriorandvitreouschamberswithpossiblerelationshipstomalignantglaucoma.AmJOphthalmol88:1078-1086,197917)KobayashiH,HiroseM,KobayashiK:UltrasoundbiomicroscopicanalysisofpseudophakicpupillaryblockglaucomainducedbySoemmering’sring.BrJOphthalmol84:1142-1146,200018)LiebmannJM,WeinrebRN,RitchR:Angle-closureglaucomaassociatedwithoccultannularciliarybodydetachment.ArchOphthalmol116:731-735,199819)SakaiH,Morine-ShinjyoS,ShinzatoMetal:Uvealeffusioninprimaryangle-closureglaucoma.Ophthalmology112:413-419,2005