0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(121)1133《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(8):1133.1136,2010cはじめに狭隅角眼は,急性原発閉塞隅角症をひき起こす可能性があることから従来は予防的に,隅角開大のためにレーザー周辺虹彩切除術(laseriridotomy:LI)が行われてきた.近年,LIに代わって隅角開大を目的とした白内障手術が行われるようになり,隅角開大効果や眼圧下降効果を得られたとの報告が見受けられる1.5).隅角開大効果の評価は,古くは検眼鏡所見に始まり,近年では超音波生体顕微鏡検査(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)の登場により客観的に,かつ定量的に隅角の開大度を評価できるようになった.ただし,UBMの測定は多くの場合アイカップを溶液で満たし,眼表面に接触して測定する必要があり,白内障手術直後では感染を考慮すると測定しにくい面があった.近年,非接触で測定可能な前眼部光干渉断層計(前眼部OCT)が登場し,従来のUBMと比較し解像度も向上し,外来で多数の症例を非侵襲,短時間で測定できるようになった.前眼部OCTで狭隅角や隅角〔別刷請求先〕橋本尚子:〒320-0861宇都宮市西1-1-11原眼科病院Reprintrequests:TakakoHashimoto,M.D.,HaraEyeHospital,1-1-11Nishi,Utsunomiya-shi,Tochigi-ken320-0861,JAPAN狭隅角眼に対する白内障手術の隅角開大効果橋本尚子原岳成田正弥本山祐大立石衣津子原たか子原孜原眼科病院Angle-wideningEffectofCataractSurgeryinPrimaryAngle-ClosureTakakoHashimoto,TakeshiHara,MasayaNarita,YutaMotoyama,ItsukoTateishi,TakakoHaraandTsutomuHaraHaraEyeHospital目的:狭隅角眼に対する白内障手術の隅角開大効果を評価する.研究デザイン:前向き研究,対照群はなし.対象および方法:対象は,原眼科病院で白内障手術を行った狭隅角眼,男性4例7眼,女性16例29眼.平均年齢は69.9±11.1(52.89)歳であった.術前と術後1,3カ月で前眼部OCT(光干渉断層計)を用いて耳側のAOD(angleofdistance)500,AOD750,TISA(trabecularirisspacearea)500,TISA750,SS(scleralspur)angleの定量を行った.合わせて,術前,術後1,3カ月での眼圧,角膜内皮細胞密度を測定した.結果:耳側のAOD500は術前,術後1,3カ月の順で,0.11,0.39,0.38mmに,AOD750は0.19,0.60,0.61mmに,TISA500は0.05,0.13,0.13mm2に,TISA750は,0.09,0.25,0.25mm2に,となった.同様にSSangleは12.2,37.5,36.7°となった.いずれのデータも術前と比べ術後1,3カ月でともに有意差(p<0.01)を認めた.眼圧は18.6±5.0,14.4±2.9,13.3±2.6mmHgとなった.角膜内皮細胞密度は,2,539±441,2,434±496,2,348±441/mm2であった.結論:狭隅角眼に対する白内障手術は,隅角を開大する効果があると思われた.Purpose:Toevaluatetheangle-wideningeffectofcataractsurgeryinprimaryangle-closurepatients.PatientsandMethods:EnrolledinthisprospectivestudyatHaraEyeHospitalwere36eyes,allofwhichunderwentcataractsurgery.TemporalAOD(angleofdistance)500,AOD750,TISA(trabecularirisspacearea)500,TISA750andSS(scleralspur)angleweremeasuredbeforeandaftersurgerybyanteriorOCT(opticalcoherencetomograph).Result:AOD500was0.11mmbeforesurgery,0.39mmat1monthaftersurgeryand0.38mmat3monthsaftersurgery.Atthesamerespectivetimepoints,AOD750was0.19,0.60and0.61mm;TISA500was0.05,0.13and0.13mm2;TISA750was0.09,0.25and0.25mm2,andSSanglewas12.2,37.5and36.7°.Conclusion:Cataractsurgeryhastheeffectofwideningtheangleinprimaryangle-closurepatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(8):1133.1136,2010〕Keywords:狭隅角眼,超音波水晶体乳化吸引術,前眼部光干渉断層計,AOD(angleofdistance),TISA(trabecularirisspacearea),SS(scleralspur)angle.narrowangle,phacoemulsificationandaspiration,anteriorOCT,AOD,TISA,SSangle.1134あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(122)閉塞の認められる白内障手術症例の,手術前後の隅角角度の変化を前眼部OCTで定量した報告は調べられた範囲ではまだ少ない1).今回,筆者らは白内障手術の対象症例のなかの狭隅角眼に対して,術前後の隅角の変化を前眼部OCT(VisanteR,カールツァイス社製)で評価したので報告する.I対象および方法対象は,2008年11月から2009年6月までに原眼科病院で白内障のために手術をし,かつ前眼部OCTで耳側の強膜岬での隅角角度(scleralspurangle:SSangle)が25°以下であった20例36眼で,内訳は男性4例7眼,女性16例29眼であった.年齢は69.9±11.1(平均値±標準偏差,以下同様)(52.89)歳,無散瞳下での眼圧は18.6±5.0(12.34)mmHgであった.全例,検眼鏡的に緑内障性視神経乳頭変化を有さなかった.白内障手術方法は,ベノキシール点眼麻酔にて施行した.角膜切開3.2mmを行い,粘弾性物質はヒーロンR+ヒーロンVRを使用したハードシェル法6)で角膜内皮保護を行い,hydrodissection,hydrodelineation後,核分割法で超音波水晶体乳化吸引術(PEA)を施行,IA(灌流吸引術)を行った.その後ヒーロンRで前房形成後アクリル製折り畳み式眼内レンズを.内固定し,IAにて前房を洗浄して創口閉鎖を確認,無縫合で手術を終了した.手術は全症例,同一術者により施行された.なお,LI後,角膜疾患,ぶどう膜炎の既往のある症例は対象から除外した.対象患者には今回の手術治療に関する十分な説明を行い,文書による同意を得た.白内障手術術前と術後1,3カ月で前眼部OCTを用いて隅角の評価を行った.測定部位は耳側と鼻側とし,それぞれのAOD(angleofdistance)5007),AOD750,TISA(trabecularirisspacearea)5008),TISA750,SSangleの定量を行った(図1).SSangleは,水平方向(0°,180°)で評価した値を用いた.同時に視力,眼圧,角膜内皮細胞密度を測定した.術前と術後1,3カ月後のデータでBonferroniの多重比較検定を行い,p<0.01を有意水準とした.II結果術前の平均核硬度はEmery-Little分類で2.1±0.8(1.3),手術時間は6.8±2.5(5.17)分であり,対象症例のなかで白内障手術中,術後,経過観察中に特記すべき合併症が認められた症例はなかった.隅角の評価を前眼部OCT(VisanteR)を用いて行った.耳側に関して,耳側のAOD500は術前,術後1,3カ月の順で,0.11,0.39,0.38mmに,AOD750は0.19,0.60,0.61mmに,TISA500は0.05,0.13,0.13mm2に,TISA750は0.09,0.25,0.25mm2に,となった.同様にSSangleは12.2,37.5,36.7°となった(表1).鼻側のAOD500は術前,術後1,3カ月の順で,0.13,0.38,0.39mmに,AOD750は0.22,0.59,0.60mmに,TISA500は0.05,0.13,0.13mm2に,TISA750は0.09,0.25,0.25mm2に,となった.同様にSSangleは13.9,36.2,36.9°となった(表2).AOD500,750,TISA500,750ともに術前と比較して,術後1,3カ月ともにp<0.01と有意差が認められた.視力は,術前と術後1,3カ月の順で,(0.9),(1.0),(1.0)となり,眼圧表1耳側前眼部OCT術前術後1カ月術後3カ月AOD500(mm)0.11±0.060.39±0.13*0.38±0.12*AOD750(mm)0.19±0.100.60±0.21*0.61±0.17*TISA500(mm2)0.05±0.020.13±0.04*0.13±0.04*TISA750(mm2)0.09±0.040.25±0.08*0.25±0.07*SSangle(°)12.2±6.837.5±9.6*36.7±9.2*平均値±標準偏差.*p<0.01.表2鼻側前眼部OCT術前術後1カ月術後3カ月AOD500(mm)0.13±0.060.38±0.14*0.39±0.11*AOD750(mm)0.22±0.110.59±0.20*0.60±0.16*TISA500(mm2)0.05±0.020.13±0.05*0.13±0.05*TISA750(mm2)0.09±0.040.25±0.09*0.25±0.07*SSangle(°)13.9±6.536.2±10.4*36.9±7.7*平均値±標準偏差.*p<0.01.図1OCTによる隅角の測定部位①が強膜岬.強膜岬から虹彩に下ろした垂線の交差部②.①から500μm離れた角膜後面の点③から虹彩に下ろした垂線の交差部④.①から750μm離れた角膜後面の点⑤から虹彩に下ろした垂線の交差部⑥.③④の線の長さがAOD500,⑤⑥の長さがAOD750.①②③④の線で囲まれた面積がTISA500,①②⑤⑥の線で囲まれた面積がTISA750.①③④で囲まれた直角三角形の頂点の角度がSSangle.ICAngle-180°AOD600:0.378mmAOD750:0.533mmTISA500:0.127mm2TISA750:0.239mm2ScleralSpurAngle:36.7°(123)あたらしい眼科Vol.27,No.8,20101135は同様に18.6±5.0,14.4±2.9,13.3±2.6mmHgとなった.角膜内皮細胞密度は同様に,2,539±441,2,434±496,2,348±441/mm2であった.角膜内皮細胞減少率は,術前と比較した1カ月,3カ月後の減少率が,3.8±9.4,7.6±8.9%となった.視力,眼圧において術前に比較して,術後1,3カ月ではp<0.01と有意差が認められた.角膜内皮細胞密度に関しては有意差が認められなかった.III考按今回筆者らは,白内障が認められ白内障手術適応となった症例のうち,前眼部OCTで耳側のSSangleが25°以下であった狭隅角眼に対する隅角の開大効果を,前眼部OCTを用いて検討した(図2).症例選択に関しては本来1例1眼が理想的だが,今回は20例36眼と症例数が少ないため合計36眼を対象とした.隅角の評価は上方,下方,耳側,鼻側で隅角の開大度が異なるが,当院では非接触で,さらに眼瞼の挙上なども行わずに撮影できる水平断を撮影して評価している.閉塞隅角緑内障眼に対する白内障手術での隅角開大効果について,Nonakaらの報告5)では,UBMで評価した閉塞隅角眼の症例に対して白内障手術を行った術前後のAOD500の値は,術前0.09±0.07mm,術後3カ月で0.25±0.09mmと有意な増加が認められた.筆者らの前眼部OCT(VisanteR)での値も水平方向でのAOD500で術前0.1.0.13mmから術後0.38.0.39mmと増加している.Pereiraらの報告9)では通常の白内障症例での術前後の隅角角度を定量した評価で,AODは上方,下方,耳側,鼻側で比較すると術前後ともに水平方向が上下方向よりも隅角が開大している結果となっていた.筆者らの数値は耳側と鼻側の水平方向で評価しているため,上下方向の値よりは数値的に少し大きく出ている可能性もある.今回は測定部位も測定機器も異なるために単純比較はできないが,有意な増大が認められた.VisanteRで閉塞隅角緑内障のある白内障症例の術前後の隅角角度を定量したDawczynskiらの報告1)では,閉塞隅角緑内障症例の術前隅角の水平断での平均値は16.0±4.7°で術後は32.3±7.7°となっており,術後は有意な隅角の開大が認められた.Dawczynskiらの隅角評価は,VisanteRの隅角パラメータであるanteriorchamberangle(ACA)を用いて測定しており,虹彩と角膜の角度を測定したものである.今回の筆者らの隅角評価は同じVisanteRではあるが,強膜岬から隅角角度を測定したSSangleである.強膜岬より500μm離れた角膜後面から虹彩に下ろした垂直線で囲まれた,直角三角形の頂点の角度を測定しているため測定方法がまったく同じではない.結果はほぼ同様の数値となっていたが,これは大きな測定部位の相違がないことと,筆者らと同様の水平断での測定値であるためと思われた.前眼部OCTでの隅角評価は,非接触型であるため,アイカップを用いた方法と比較すると手術直後でも感染の心配がなく検査ができ,短時間での検査が可能であり,しかも解像度が高いため,隅角の詳細な評価をするうえでは有用であると思われた.角膜内皮細胞については,術後1カ月,3カ月の減少率が,3.8±9.4,7.6±8.9%となり,以前当院でヒーロンVRを併用した白内障手術の角膜内皮細胞密度の減少率,2.4%(術後1カ月),1.7%(術後3カ月)6)と比較して高い数値を示した.角膜内皮細胞密度に関しては今後も長期的,経時的な観察が必要と思われた.本研究に際し,術後検査にご協力いただきました猪木多永子先生,金子禮子先生,清水由花先生,原正先生,原裕先生に感謝いたします.文献1)DawczynskiJ,KoenigsdoerfferE,AugstenRetal:Anteriorsegmentopticalcoherencetomographyforevaluationofchangesinanteriorchamberangleanddepthafterintraocularlensimplantationineyeswithglaucoma.EurJOphthalmol17:363-367,20072)LamDSC,LeungDYL,ThamCCYetal:Randomizedtrialofearlyphacoemulsi.cationversusperipheraliridotomytopreventintraocularpressureriseafteracuteprimaryangleclosure.Ophthalmology115:1134-1140,20083)HataH,YamaneS,HataSetal:Preliminaryoutcomesofprimaryphacoemulsi.cationplusintraocularlensimplantationforprimaryangle-closureglaucoma.JMedInvest55:287-291,2008術前術後図2白内障術前,術後の前眼部OCT術前と比較して術後は明らかな隅角の開大が認められる.1136あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(124)4)NonakaA,KondoT,KikuchiMetal:Cataractsurgeryforresidualangleclosureafterperipherallaseriridotomy.Ophthalmology112:974-979,20055)NonakaA,KondoT,KikuchiMetal:Anglewideningandalterationofciliaryprocesscon.gurationaftercataractsurgeryforprimaryangleclosure.Ophthalmology113:437-441,20066)橋本尚子,原岳,原孜ほか:ヒーロンVRの角膜内皮細胞保護作用─術後1年の観察.臨眼63:285-288,20097)PavlinCJ,HarasiewiczK,EngPetal:Ultrasoundbiomicroscopyofanteriorsegmentstructuresinnormalandglaucomatouseyes.AmJOphthalmol113:381-389,19928)RadhakrishnanS,GoldsmithJ,HuangDetal:Comparisonofopticalcoherencetomographyandultrasoundbiomicroscopyfordetectionofnarrowanteriorchamberangles.ArchOphthalmol123:1053-1059,20059)PereiraFAS,CronembergerS:Ultrasoundbiomicroscopicstudyofanteriorsegmentchangesafterphacoemulsi.cationandfoldableintraocularlensimplantation.Ophthalmology110:1799-1806,2003***