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眼所見から診断されたStevens-Johnson症候群の1例

2016年3月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科33(3):451.454,2016c眼所見から診断されたStevens-Johnson症候群の1例鈴木智浩*1大口剛司*1北尾仁奈*1木嶋理紀*1岩田大樹*1水内一臣*1野村友希子*2田川義継*3石田晋*1*1北海道大学大学院医学研究科眼科学分野*2北海道大学大学院医学研究科皮膚科学分野*3北1条田川眼科ACaseofStevens-JohnsonSyndromeDiagnosedbyOcularFindingsTomohiroSuzuki1),TakeshiOhguchi1),NinaKitao1),RikiKijima1),DaijuIwata1),KazuomiMizuuchi1),YukikoNomura2),YoshitsuguTagawa3)andSusumuIshida1)1)DepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)UniversityGraduateSchoolofMedicine,3)TagawaEyeClinicDepartmentofDermatology,Hokkaido目的:皮膚病変を伴わず眼所見を中心に粘膜病変のみを呈したStevens-Johnson症候群(SJS)の1例について報告する.症例:20歳,女性.当院初診の10日前,発熱と両眼の充血,眼脂を自覚し総合感冒薬を内服.3日後内科を受診し,咽頭結膜熱の診断でアセトアミノフェン内服処方された.同日眼科を受診し,アデノウイルス結膜炎の診断で点眼処方されるも炎症所見が徐々に増悪したため当院紹介となった.両眼瞼結膜に偽膜形成,瞼球癒着,角膜びらんがみられ,SJSが疑われた.皮膚科を受診し,口腔内に粘膜疹を認めたが皮膚病変はみられなかった.しかし,発熱・粘膜病変および眼所見よりSJSと診断し,即日ステロイドパルス療法が開始された.その後徐々に充血,偽膜,瞼球癒着,角膜びらんは改善した.結論:SJSは皮膚病変を伴わず,眼症状を含めた粘膜病変のみを呈することがあり,十分な注意が必要である.Purpose:WereportacaseofStevens-Johnsonsyndrome(SJS)thatmainlydevelopedocularfindingswithoutskinlesions.Case:A20-year-oldfemalehada3-dayhistoryoffever,eyerednessanddischarge.Althoughshetookacetaminophen,thesymptomswerenotresolved.Inaneyeclinic,adenovirusconjunctivitiswassuspectedandshewastreatedwithtopicaltreatments,buthersymptomswereexacerbated.Onherfirstvisittoourhospital,shehadbilateralpseudomembranousconjunctivitis,symblepharonandcornealerosion.Oralmucousmembranedisorderwasalsodetected,butnoteruptionofskin.AdiagnosisofSJSwasestablishedbasedontheseobservations.Methylprednisolonepulsetherapywasinitiatedandhersymptomsgraduallyimproved.Conclusion:MostSJSpatientshaveocularfindingsandmucousmembranedisorder;somelackskineruption.Thediagnosisshouldbecarefullyestablishedforapatientwithoutskinlesions.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(3):451.454,2016〕Keywords:Stevens-Jonson症候群,ステロイドパルス療法,瞼球癒着,角膜びらん,アセトアミノフェン.Stevens-Jonsonsyndrome,steroidpulsetherapy,symblepharon,cornealerosion,acetaminophen.はじめにStevens-Johnson症候群(SJS)は発熱を伴って全身の皮膚および粘膜にびらんと水疱を生じる,急性の全身性皮膚粘膜疾患である.SJSの発症頻度は人口100万人当たり1.6人である1).その原因のほとんどは薬剤によるものであるが,ウイルス感染などで発症することもある.今回筆者らは皮膚病変を伴わず,眼所見および他の粘膜病変のみを呈したSJSの1例を経験したので報告する.I症例患者:20歳,女性.主訴:両眼痛,開瞼困難.現病歴:当院初診の10日前,38℃の発熱があり市販の総合感冒薬を内服.その後両眼の充血,眼脂を自覚した.3日後内科を受診したところ咽頭結膜熱の診断でアセトアミノフェン内服処方された.同日眼科を受診し,アデノウイルス〔別刷請求先〕鈴木智浩:〒060-8638札幌市北区北15条7丁目北海道大学大学院医学研究科眼科学分野Reprintrequests:TomohiroSuzuki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine,Kita15,Nishi7,Kita-ku,Sapporo,Hokkaido060-8638,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(121)451 結膜炎の診断で0.1%フルオロメトロン,1.5%レボフロキサシン点眼処方されるも眼症状改善なく0.01%リン酸ベタメタゾン点眼に変更された.しかし,前眼部の炎症所見が徐々に増悪したため当院紹介となった.既往歴:特記すべき事項なし.家族歴:特記すべき事項なし.初診時所見:両眼とも結膜充血著明で濾胞形成なく,瞼結膜に偽膜形成,瞼球癒着,広範な角膜びらんを認めた(図1).開瞼不可のため視力は測定できなかった.全身検査所見:WBC6,300/μl,CRP2.75mg/dlでCRPが軽度上昇していた.肝機能,腎機能,電解質,血糖に異常は認めなかった.HSV,VZVのIgM,IgGは上昇なし,マイコプラズマ抗体価は初診日80倍,3週間後80倍でペア血清の上昇はなし,寒冷凝集素検査は8倍で基準範囲内であった.HLA遺伝子型はHLA-A*24:02,A*33:01,B*44:03,B*46:01であった.リンパ球刺激試験ではアセトアミノフェンの陽性率が415%と陽性を示した(表1).経過(図2):現病歴,眼所見よりSJSを疑い,皮膚科にて診察したところ,口腔内と肛門周囲にわずかに粘膜疹がみられた(図3).全身に皮疹はなかったが,発熱,重篤な眼所見,口腔内と肛門周囲に粘膜疹を認めたことからSJSと診断した.ただちにステロイドパルス療法〔メチルプレドニゾロン(mPSL)1日1g3日間〕を開始した.点眼は0.1%リ表1リンパ球刺激試験薬剤名成分名陽性率(%)ペアコール錠R無水カフェイン122カンゾウエキス104キキョウエキス95アセトアミノフェン415地竜乾燥エキス散109d-クロルフェニラミンマレイン散141図1初診時前眼部写真両眼とも結膜充血が著明で,瞼球癒着,角膜に広範なびらんをmPSL1g/日PSL60mg/日頻回点眼6×4×3×頻回点眼6×4×2×1×6×陽性:陽性率200%以上,疑陽性:180.199%,陰性点眼治療認めた.179%以下PSL50mg/日PSL40mg/日PSL30mg/日PSL25mg/日PSL20mg/日偽膜除去ベタメタゾンレボフロキサシンヒアルロン酸角膜びらん結膜充血瞼球癒着上眼瞼偽膜角膜上皮下混濁初診日1週間後1カ月後図2臨床経過452あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(122) 図3口腔内写真口腔内にびらんを認めた.ン酸ベタメタゾン,抗菌薬を1時間ごと,ステロイド眼軟膏を就寝前に点入し,偽膜除去,瞼球癒着.離を連日施行した.初診3日後の視力は右眼0.2(矯正不能),左眼0.07(0.1),眼圧は右眼9mmHg,左眼9mmHgであった.ステロイドパルス療法が奏効し,角膜びらん,上眼瞼の偽膜,他の粘膜病変は速やかに消失し,PSL60mgから漸減した.結膜充血は徐々に改善し,角膜上皮下混濁と瞼球癒着は軽度残存あるも改善を認めた(図4).その後視力も徐々に改善し,初診2週間後の視力は右眼0.7(1.0),左眼0.1(0.5)となった.初診2カ月後の視力は右眼(1.2),左眼(1.5)で炎症所見は鎮静化しており(図5),ステロイド内服は中止となり,その後再燃もなく経過している.II考按皮膚病変を伴わず眼所見を中心に粘膜病変のみを呈したSJSの症例を経験した.SJSは突然の高熱,紅斑,水疱などの皮膚症状と,口腔,眼球結膜などの粘膜疹やびらん所見が特徴である.しかし,まれではあるが皮膚病変を伴わず,粘膜病変のみを呈したSJSの報告がおもに小児科領域から散見される2.4).これらの報告では小児のマイコプラズマ感染に起因するSJSに多いが,本症例では検査結果よりマイコプラズマ既感染で急性期ではないと考えられ,リンパ球刺激試験でアセトアミノフェンが陽性を示したことから,アセトアミノフェンが原因と考えられた.また,近年HLA解析でHLA-A*02:06とHLA-B*44:03は感冒薬(アセトアミノフェンも含む)に関連して発症した重篤な眼合併症を伴うSJSに特異的な遺伝子素因であることが示唆されており5),本症例でもHLA-B*44:03を認めた.このことから,何らかの遺伝的背景の関与も示唆された.SJSの治療はステロイド治療と点眼での局所治療が有用とされている.本症例では当院初診日よりステロイドパルス療法と局所治療を行い,所見の改善が得られた.SJSで急性期(123)図4初診1週間後の前眼部写真結膜充血,角膜びらんの改善を認めた.図5初診2カ月後の前眼部写真結膜充血は消失している.角膜混濁は軽度残存している.視力右眼(1.2),左眼(1.0).あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016453 に角膜上皮幹細胞が消失すると遷延性上皮欠損に陥り,慢性期には上皮欠損部は周囲から伸展する結膜組織に覆われ視力障害をきたす.過去に発症から4日以内にステロイドパルス療法およびステロイド点眼治療を行った10眼の検討で,全症例で6週以内に偽膜は消失し角膜上皮は修復され発症から1年後視力(1.0)以上だった報告があり6),早期の治療が視力予後に影響すると考えられる.またSJSの死亡率は3%,重症型である中毒性表皮壊死症に進展すると19%,死亡原因は敗血症などの感染症,多臓器不全であり7),このことからもいかに早期に治療開始するかが重要となる.本症例は皮膚病変を伴わず眼所見を中心に粘膜病変のみ呈した非典型的なSJSであったが,早期に治療を行うことにより良好な経過が得られた.発熱に続く充血,角膜障害をみた場合,アデノウイルス結膜炎と診断されることが多いが,SJSである可能性を考慮する必要がある.粘膜病変のみを呈するSJSは稀だが,眼所見より診断される例があり,眼科医の役割は重要である.文献1)RoujeauJ,KellyJ,NaldiL:MedicationuseandtheriskofStevens-Johnsonsyndromeortoxicepidermalnecrolysis.NEnglJMed333:1600-1607,19952)LatschK,GirschickH,Abele-HornM:Stevens-Johnsonsyndromewithoutskinlesions.JMedMicrobiol56:16961699,20073)高峰文江,立元千帆,渡辺雅子:マイコプラズマ感染により発症し,粘膜症状のみを呈した非典型的なStevens-Johnson症候群の1例.小児科診療76:1157-1161,20134)牧田英士,黒田早恵,羽鳥誉之:重篤な眼病変を認めた皮疹のないStevens-Johnson症候群の1例.小児科臨床67:1511-1515,20145)UetaM,KaniwaN,SotozonoC:IndependentstrongassociationofHLA-A*02:06andHLA-B*44:03withcoldmedicine-relatedStevens-Johnsonsyndromewithseveremucosalinvolvement.SciRep4:4862,20146)ArakiY,SotozonoC,InatomiT:SuccessfultreatmentofStevens-Johnsonsyndromewithsteroidpulsetherapyatdiseaseonset.AmJOphthalmol147:1004-1011,20097)末木博彦:Stevens-JohnsonSyndrome/ToxicEpidermalNecrolysis─What’sNew?JEnvironDermatolCutanAllergol7:6-13,2013***454あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(124)