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非小細胞肺癌に対する化学免疫療法中に生じた Vogt-小柳-原田病様汎ぶどう膜炎の1 例

2024年6月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科41(6):728.732,2024c非小細胞肺癌に対する化学免疫療法中に生じたVogt-小柳-原田病様汎ぶどう膜炎の1例黒木洋平山本聡一郎江内田寛佐賀大学医学部眼科学講座CACaseofVogt-Koyanagi-Harada-LikePanuveitisDuringChemoimmunotherapyforPrimaryLungCancerYoheiKuroki,SoichiroYamamotoandHiroshiEnaidaCDepartmentofOphthalmology,SagaUniversityFacultyofMedicineC目的:肺癌に対して免疫チェックポイント阻害薬(ICI)加療中に両眼に生じたCVogt-小柳-原田病(VKH)様ぶどう膜炎のC1例の経過を報告する.症例:75歳,男性.非小細胞肺癌(stageIVA)に対して,ICI加療開始C4カ月後に眼痛が出現し,佐賀大学附属病院眼科に紹介となった.両眼漿液性網膜.離(SRD),脈絡膜肥厚を認め,フルオレセイン蛍光造影検査でCSRDと一致する多発点状蛍光漏出,視神経乳頭の過蛍光,インドシアニングリーン蛍光造影検査で中期から後期にCdarkspotを認めた.ICI使用に伴うCVKH様ぶどう膜炎と診断し,呼吸器内科と協議してCICIの休薬を行い,トリアムシノロン後部CTenon.下注射(STTA)のみでCSRDは消失した.経過中生じた薬剤性肺障害に対してプレドニゾロン内服をC6.5カ月行い,現在まで再発は認めていない.結論:本症例では一般的なCVKHと異なり,単回CSTTAとCICIの中止のみで眼炎症は軽快した.しかし,ICI中止の判断はむずかしく,対応には他科との連携した介入が重要である.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofVogt-Koyanagi-Harada(VKH)-likeCuveitisCthatCappearedCduringCimmuneCcheckpointinhibitor(ICI)therapyforlungcancer.CaseReport:A75-year-oldmalewasreferredtotheDepart-mentofOphthalmology,SagaUniversity,duetoocularpain4monthsafterthestartofICItherapyforlungcan-cer.CSerousCretinaldetachment(SRD)andCchoroidalCthickeningCwereCobserved.CFluoresceinCangiographyCshowedC.uorescenceCleakageCconsistentCwithCSRD.CIndocyanineCgreenCangiographyCshowedCmidCtoClateCdarkCspots.CTheCpatientCwasCdiagnosedCasCVKH-likeCuveitisCrelatedCtoCICI,CandCICICwasCdiscontinuedCafterCconsultationCwithCtheCdepartmentCofCpulmonology.CMoreover,CsubtenonCtriamcinoloneacetonide(STTA)injectionCwasCperformedCandCSRDresolved.Prednisolonewasadministeredfor6.5monthstoaddressdrug-inducedlungdisease,withnouveitisrecurrenceCobserved.CConclusion:InCthisCcase,CocularCin.ammationCwasCrelievedCviaCdiscontinuationCofCICICandCSTTAinjection.SincedecidingtodiscontinueICIiscomplex,cooperationwithotherdepartmentsisimportant.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(6):728.732,C2024〕Keywords:Vogt-小柳-原田病,ぶどう膜炎,免疫チェックポイント阻害薬,免疫関連有害事象.Vogt-Koyanagi-Haradadisease,uveitis,immunecheckpointinhibitor,immune-relatedadverseevents.Cはじめに免疫チェックポイント阻害薬(immuneCcheckpointCinhibi-tor:ICI)はCcytotoxicCTClymphocyte-associatedCantigenC4(CTLA-4),programmedCcelldeath-1(PD-1),pro-grammedCcellCdeath-ligand1(PD-L1)といった免疫チェックポイント分子を阻害し,T細胞媒介免疫プロセスを増強することで癌細胞に対する免疫応答を強化し,抗腫瘍効果を発揮する薬剤である1).ICIを用いた癌免疫治療法は,日本ではC2014年に悪性黒色腫で保険適用されて以降,さまざまな癌種の治療に使用され,高い奏効率と全生存期間延長を示している2).しかし,この新しい治療法は,全身の正常な臓器で自己免疫反応を引き起こすため,さまざまな全身性の免疫〔別刷請求先〕黒木洋平:〒849-8501佐賀市鍋島C5-1-1佐賀大学医学部眼科学講座Reprintrequests:YoheiKuroki,DepartmentofOphthalmology,SagaUniversityFacultyofMedicine,5-1-1Nabeshima,Saga849-8501,JAPANC728(124)図1初診時画像所見a:右眼広角眼底写真.Cb:左眼広角眼底写真.両眼ともに脈絡膜皺襞を伴う漿液性網膜.離(SRD),視神経乳頭発赤・浮腫を認めた.Cc:右眼広角CSS-OCT.Cd:左眼広角CSS-OCT.脈絡膜厚は右眼C943Cμm,左眼C964Cμmと肥厚を認めた.関連有害事象(immune-relatedCadverseevents:irAE)が40.60%で発生すると報告されている.眼科関連のCirAEは1.3%で発生し,そのなかにはドライアイ,重症筋無力症,視神経障害,ぶどう膜炎が含まれ,使用開始後数週間.数カ月以内に発生する可能性がある.既報ではもっとも一般的な副作用はドライアイ(57%)で,続いてぶどう膜炎(14%)であると報告されているが,Vogt-小柳-原田病(Vogt-Koy-anagi-Haradadisease:VKH)様汎ぶどう膜炎の報告例はごく少数である3,4).今回,非小細胞肺癌に対してCICI加療中に,VKH様ぶどう膜炎を生じたC1例を経験したので経過を報告する.CI症例患者:75歳,男性.主訴:右眼結膜充血,右眼痛.既往歴:身体疾患の既往なし.現病歴:20XX年C1月C28日,非小細胞肺癌(stageIVA)に対して,佐賀大学附属病院(以下,当院)呼吸器内科にてカルボプラチン+ペメトレキセドに加えて,ICIであるイピリムマブ(抗CCTLA-4抗体)+ニボルマブ(抗CPD-1抗体)での加療を開始された.その後,3月C12日にイピリムマブ+ニボルマブC2クール目,4月C23日にイピリムマブ+ニボルマブC3クール目を施行された.5月C27日に右眼結膜充血,右眼眼痛が出現し,5月C29日に近医眼科を受診した.頭痛,感冒症状,めまいや耳鳴りなどの症状は認めなかった.右眼の前房炎症所見,両眼眼底周辺部の脈絡膜皺襞を伴う漿液性網膜.離(serousretinaldetachment:SRD)を認めたため,当院眼科へ紹介となった.初診時所見:初診時視力は右眼C0.08(0.5C×sph+2.50D),左眼C0.3(0.7C×sph+3.00D(cyl.1.75DAx90°),眼圧は右眼C8CmmHg,左眼C15CmmHgであった.前眼部所見は両眼に全周の結膜充血,浅前房化,毛様体.離を認め,右眼前房細胞2+,左眼前房細胞+であった.両眼ともに有水晶体眼であった.眼底検査では両眼に脈絡膜皺襞を伴うCSRD,視神経乳頭発赤・浮腫を認めた(図1).また,脈絡膜厚は右眼943μm,左眼C964μmであり著明な脈絡膜肥厚を認めた.フルオレセイン蛍光造影検査では両眼に顆粒状の過蛍光,SRDに一致した蛍光貯留,視神経乳頭過蛍光を認め,インドシアニングリーン蛍光造影検査では中期から後期にCdarkspotが散見された(図2).血液検査ではぶどう膜炎の原因となるような,ウイルス感染や膠原病などの所見は認めず,ヒト白血球抗原(humanleukocyteantigen:HLA)はCDR4,DR9が陽性であった.腰椎穿刺は施行しなかった.臨床経過:ICIを用いた免疫療法開始C4カ月後から眼症状が出現しており,irAEの可能性が考えられ,呼吸器内科と協議し精査もかねてCICIは初診日より休薬とした.また,ICI休薬に加えて,初診日に両眼のトリアムシノロンアセトニドC20Cmg後部CTenon.下注射(sub-TenonCtriamcinoloneCacetonideinjection:STTA)を施行した.ステロイドパルス療法,ステロイド点眼は施行しなかった.ICI休薬C2週後の矯正視力は右眼C0.4,左眼C0.6であったが,両眼の前眼部炎症所見は消失し,SRDは減少していた.ICI休薬C6週後の図2初診時蛍光眼底検査a:右眼フルオレセイン蛍光検査(FA).b:左眼CFA.顆粒状の過蛍光,SRDに一致した蛍光貯留,視神経乳頭過蛍光を認めた.c:右眼インドシアニングリーン蛍光検査(IA).d:左眼IA.中期から後期にCdarkspotが散見された.図3治療開始後のOCT経過a:右眼初診日(免疫療法開始C16週後).b:左眼初診日.Cc:右眼休薬C2週後.Cd:左眼休薬C2週後.Ce:右眼休薬C6週後.Cf:左眼休薬C6週後.初診日より免疫チェックポイント阻害薬は休薬とし,両眼にトリアムシノロンアセトニド後部CTenon.下注射を施行.経時的にCSRDは減少し,休薬C6週後にはCSRDは消失した.矯正視力は右眼C0.6,左眼C0.6で両眼ともにCSRDの消失を認めた(図3).ICI休薬C14週後にCICIに起因すると考えられる薬剤性肺障害を認め,呼吸器内科でプレドニゾロン(PSL)25Cmg/日内服が開始となった.その後,肺障害の改善に伴いCPSLは漸減され,ICI休薬C41週後にCPSL内服は終了となった.ICI休薬C1年後には夕焼け状眼底,Dalen-Fuchs斑を認めたが,矯正視力は右眼C1.0,左眼C0.7まで改善した(図4).その後もステロイド点眼やCSTTAの追加は行わず,眼炎症の再燃はなく現在まで経過している.経過中に脱色素斑や毛髪の白毛化は認めなかった.肺癌については,休薬C10カ月後から原発巣の増大を認めたが,irAEとしてのCVKH様ぶどう膜炎,薬剤性肺障害が出現しており,ICIは再開しなかった.休薬C12カ月後よりアルブミン懸濁型パクリタキセル療法を開始したが,肺内転移巣の増大を認めた.その後,全身状態が増悪したが,患者がCbestCsupportivecareを希望したため,休薬C20カ月後より在宅療法となった.図4休薬1年後の眼底写真a:右眼パノラマ眼底写真.Cb:左眼パノラマ眼底写真.Cc:右眼COCT.Cd:左眼COCT.休薬C1年後に夕焼け状眼底,Dalen-Fuchs斑を認めた.CII考按本報告では,非小細胞肺癌に対するCICIを用いた免疫療法中にCVKH様汎ぶどう膜炎を発症した症例を提示し,ICI中止とCSTTAのみで眼炎症が軽快したことと,その管理における複数診療科の連携の重要性について報告した.VKH様ぶどう膜炎の発症メカニズムは,いまだ不明なことが多い.ICIは,免疫反応の制御に関与する特定の分子を標的とする.CTLA-4はCT細胞の活性化を抑制する.PD-1は活性化CT細胞に発現し,そのリガンドCPD-L1は抗原提示細胞や癌細胞に発現してCPD-1と結合することで,PD-1を発現するCT細胞を抑制している.ICIはこれらの免疫抑制分子をブロックすることにより,T細胞媒介免疫プロセスを増強することで癌細胞に対する免疫応答を強化する1).抗CTLA-4抗体にはCTh1様CCD4+T細胞増加作用があり4),抗CPD-1/PD-L1抗体と比較してぶどう膜炎を引き起こすリスクが高く,抗CPD-1抗体単剤療法と比較すると抗CTLA-4抗体併用療法では,ぶどう膜炎発症のオッズ比が4.77からC17.1に増加することが報告されている5).一般的にCVKHの発症機構は,自己抗原であるメラノサイト関連抗原のCtyrosinaseに感作され,活性化したCCD4+Tリンパ球が中心的な働きをしている6).ICI使用に伴うCVKH様ぶどう膜炎の発症は,明確な機序は不明であるが,本症例ではICIの抗CPD-1抗体,抗CCTLA-4抗体の併用により,T細胞媒介免疫プロセスが増強されたことで,炎症惹起につながったと考えられる.また発症要因として,VKH様ぶどう膜炎でもCHLA-DR4(127)が発症に関与している可能性が示唆されている7.12).HLAは,白血球の相互作用を媒介する細胞表面分子のセットである主要組織適合性複合体をコードする遺伝子座である.HLAは免疫機能だけでなく,VKHを含む複数の自己免疫疾患の病因においても重要な役割を果たし,VKHではCHLA-DR4,とくにCHLA-DRB1と密接に関連していると報告されている6,13).本症例ではCHLA-DR4,DR9が陽性であった.また,既報でもCHLA検査を施行されたC8症例のうちC6症例でCHLA-DR4陽性の報告を認めた7.12).しかし,ICI使用に伴うCVKH様ぶどう膜炎の報告は少なく,HLAとの関連は現時点では不明である.VKH様汎ぶどう膜炎の定型化された治療指針は確立されていない.一般的にCVKHではステロイドパルス療法が治療の第一選択となるが,本症例ではステロイドの免疫抑制作用によってCICIの悪性腫瘍に対する免疫応答の増強効果低下が懸念されたため,ICIの中止とともにCSTTAでの眼局所ステロイド治療を選択した.irAEとしてのぶどう膜炎に対する治療方針は米国臨床腫瘍学会(ASCO)ガイドラインで,炎症所見の重症度ごとにCGrade分類されており,Gradeに応じて治療方針が異なる3).本症例は汎ぶどう膜炎を認め,CGrade3に当てはまり,ICIの休薬および眼内または眼窩内ステロイド局所投与またはCPSL内服が推奨された.経過中に薬剤性肺障害に対してCPSL内服を要したが,眼炎症の再燃は認めなかった.既報ではCVKH様汎ぶどう膜炎に対して,本症例と同様にCICIの中止およびCSTTA単独で初期治療を行ったものがC2例報告されているが,SRDの再燃またはSRD改善不良のため,ステロイドパルス療法を施行されあたらしい眼科Vol.41,No.6,2024C731た7,8).しかし,VKH様汎ぶどう膜炎に対してCICIの中止およびステロイド内服での治療を行ったC3例の報告ではすべてで内服開始後速やかに炎症鎮静化を認め,炎症の再燃はなく,ステロイドパルス療法施行例との治療経過,視力予後に差は認めなかった9,10,14).VKH様汎ぶどう膜炎に対してCICIを中止しなかった症例報告では,ステロイド全身投与を行い,一時炎症軽快を認めたが,ステロイド中止後に炎症が再燃した15).本症例の経過および既報から,ICIに伴うCVKH様汎ぶどう膜炎は,ICI中止に加えて適切なステロイド治療を行うことで炎症鎮静化,再発抑制が可能となる可能性が示唆された.また,ICI継続により炎症再燃を認めた症例があるため,ICIの中止はとくに重要である.ICIに伴うCVKH様汎ぶどう膜炎は報告例が少なく,定型化された治療指針はないが,一般的なCVKHと比較してCICIを中止することで軽度のステロイド治療で炎症の鎮静化が得られる可能性が考えられる.しかし,irAEとしてのCVKH様ぶどう膜炎と一般的なCVKHの臨床所見に明確な差異が認められなかったとの報告があるため7.12,14,15),irAEと関連がなく一般的なCVKHを偶発的に発症している可能性も考慮しておく必要がある.そのためCICI中止後も眼炎症の改善が得られない場合は,一般的なCVKHと同様にステロイドパルス療法の検討も必要と考えられる.さらに,ASCOガイドラインではCGrade3以上のぶどう膜炎でステロイド全身投与に反応が乏しい場合はメトトレキサート(MTX)の使用を推奨されているが3),VKH様ぶどう膜炎に対してCMTXでの加療を行われた報告は認めておらず,その有効性は明らかではない.CIII結論ICI使用に伴うCVKH様ぶどう膜炎の治療では,ICIの中止が重要である.しかし,眼科医のみでCICIの中止の判断を行うことはむずかしく,対応には他科との連携した介入が重要である.また,通常のCVKHと比較して軽度のステロイド治療で炎症が沈静化する可能性があり,今後の症例の蓄積および治療法の定型化が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)HeCX,CXuC:ImmuneCcheckpointCsignalingCandCcancerCimmunotherapy.CellResC30:660-669,C20202)各務博:免疫チェックポイント阻害薬の現状と展望.肺癌C59:217-223,C20193)SchneiderCBJ,CNaidooCJ,CSantomassoCBDCetal:Manage-mentofimmune-relatedadverseeventsinpatientstreat-edCwithCimmuneCcheckpointCinhibitortherapy:ASCOCGuidelineUpdate.JClinOncolC39:4073-4126,C20214)WeiCSC,CLevineCJH,CCogdillCAPCetal:DistinctCcellularCmechanismsunderlieanti-CTLA-4andanti-PD-1check-pointblockade.CellC170:1120-1133,C20175)BomzeCD,CMeirsonCT,CHasanCAliCOCetal:OcularCadverseCeventsCinducedCbyCimmuneCcheckpointinhibitors:aCcom-prehensiveCpharmacovigilanceCanalysis.COculCImmunolCIn.ammC30:191-197,C20226)望月學:眼内炎症と恒常性維持.日眼会誌C113:344-378,C20097)KikuchiCR,CKawagoeCT,CHottaK:Vogt-Koyanagi-HaradaCdisease-likeCuveitisCfollowingCnivolumabCadministrationCtreatedCwithCsteroidCpulsetherapy:aCcaseCreport.CBMCCOphthalmolC20:252,C20208)MinamiK,EgawaM,KajitaKetal:AcaseofVogt-Koy-anagi-HaradaCdisease-likeCuveitisCinducedCbyCnivolumabCandCipilimumabCcombinationCtherapy.CCaseCRepCOphthal-molC12:952-960,C20219)EnomotoCH,CKatoCK,CSugawaraCACetal:CaseCwithCmeta-staticCcutaneousCmalignantCmelanomaCthatCdevelopedCVogt-Koyanagi-Harada-likeCuveitisCfollowingCpembroli-zumabtreatment.DocOphthalmolC142:353-360,C202110)YoshidaCS,CShiraishiCK,CMitoCTCetal:Vogt-Koyanagi-Harada-likeCsyndromeCinducedCbyCimmuneCcheckpointCinhibitorsinapatientwithmelanoma.ClinExpDermatolC45:908-911,C202011)UshioCR,CYamamotoCM,CMiyasakaCACetal:Nivolumab-inducedCVogt-Koyanagi-Harada-likeCsyndromeCandCadre-nocorticalCinsu.ciencyCwithClong-termCsurvivalCinCaCpatientCwithCnon-small-cellClungCcancer.CInternCMedC60:C3593-3598,C202112)BricoutCM,CPetreCA,CAmini-AdleCMCetal:Vogt-Koy-anagi-Harada-likesyndromecomplicatingpembrolizumabtreatmentCforCmetastaticCmelanoma.CJCImmunotherC40:C77-82,C201713)ShiinaCT,CInokoCH,CKulskiJK:AnCupdateCofCtheCHLACgenomicCregion,ClocusCinformationCandCdiseaseCassocia-tions:2004.TissueAntigensC64:631-649,C200414)GodseCR,CMcgettiganCS,CSchuchterCLMCetal:Vogt-Koy-anagi-Harada-likeCsyndromeCinCtheCsettingCofCcombinedCanti-PD1/anti-CTLA4Ctherapy.CClinCExpCDermatolC46:C1111-1112,C202115)MatsuoCT,CYamasakiO:Vogt-Koyanagi-HaradaCdisease-likeCposteriorCuveitisCinCtheCcourseCofnivolumab(anti-PD-1antibody)C,interposedbyvemurafenib(BRAFinhibi-tor)C,CforCmetastaticCcutaneousCmalignantCmelanoma.CClinCCaseRepC5:694-700,C2017***

漿液性網膜剝離を初発症状とした急性リンパ性白血病の1 例

2021年3月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科38(3):346.351,2021c漿液性網膜.離を初発症状とした急性リンパ性白血病の1例平島昂太石川桂二郎中尾新太郎園田康平九州大学大学院医学研究院眼科学分野CACaseofAcuteLymphoblasticLeukemiawithSerousRetinalDetachmentasaPrimarySymptomKotaHirashima,KeijiroIshikawa,ShintaroNakaoandKoheiSonodaCDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalScience,KyushuUniversityC背景:漿液性網膜.離を初発症状とした急性リンパ性白血病のC1例を報告する.症例:59歳,女性.右眼視力低下,発熱,頭痛が出現し,近医眼科を受診した.初診時,右眼矯正視力C0.3,左眼矯正視力C1.0で,両漿液性網膜.離,脈絡膜肥厚(右眼C662Cμm,左眼C562Cμm),フルオレセイン蛍光眼底造影検査で黄斑部の蛍光漏出・蛍光貯留,インドシアニン蛍光眼底造影で同部位に一致したCdarkspotと点状の過蛍光を認め,Vogt-小柳-原田病が疑われた.血液検査で白血球異常高値,血小板減少を認め,血液疾患が疑われ,九州大学病院血液腫瘍内科へ紹介となった.精査の結果,急性リンパ性白血病と診断され,血液アフェレーシス,メトトレキサートとステロイドの髄液腔内注射,全身化学療法を施行された.治療開始後,白血球数は正常化した.それに伴い両眼の漿液性網膜.離は消退し,脈絡膜厚は右眼285Cμm,左眼C328Cμmまで改善し,両眼矯正視力はC1.2まで改善した.結論:白血病の眼合併症としてはCRoth斑,綿花状白斑,網膜出血などが知られているが,漿液性網膜.離による視力障害を初発症状とする白血病の報告は少ない.両眼性の脈絡膜肥厚を伴う漿液性網膜.離を認めた際は,白血病に伴う眼合併症の可能性がある.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCacuteClymphoblasticleukemia(ALL)withCbilateralCserousCretinalCdetachment(SRD)astheinitialsign.Casereport:A59-year-oldfemalepresentedwithdecreasedvisualacuity(VA)inherrighteye.Uponexamination,thebest-correctedVA(BCVA)inherrighteyeandlefteyewas0.3and1.0,respec-tively,CandCfundusCexaminationCrevealedCbilateralCSRD.CBasedConC.uoresceinCangiography,CindocyanineCgreenC.uoresceinangiography,andopticalcoherencetomography.ndings,Vogt-Koyanagi-Haradadiseasewassuspected.CBloodexaminationshowedelevatedwhitebloodcellsandthrombocytopenia.Basedonthehematology.ndings,shewasdiagnosedwithPhiladelphiachromosome-positiveALLandunderwenthaemapheresis,intraspinalinjectionofmethotrexateCandCsteroid,CandCsystemicCchemotherapy.CPostCtreatment,CherCwhiteCbloodCcellCcountCnormalized,CBCVACimprovedCtoC1.2CinCbothCeyes,CandCthereCwasCcompleteCresolutionCofCtheCbilateralCSRD.CConclusions:TheappearanceofSRDshouldraisesuspicionforleukemia.Promptrecognitionofthisdiseaseisimportantforinduc-tionofsystemictreatmentandvisualfunctionrestoration.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(3):346.351,C2021〕Keywords:急性リンパ性白血病,漿液性網膜.離,Vogt-小柳-原田病.acutelymphoblasticleukemia,serousretinaldetachment,Vogt-Koyanagi-Haradadisease.Cはじめに液性網膜.離を眼部の初発症状とした急性リンパ性白血病白血病の代表的な眼所見にはCRoth斑,綿花状白斑,網膜(acuteClymphoblasticleukemia:ALL)のC1例を経験したの出血などが知られている1).視力障害が白血病の眼部の初発で報告する.症状であったわが国での報告は少なく,筆者らが探す限り吉CI症例田らと井上らによる報告のC2例のみであった2,3).また,白血病に漿液性網膜.離を合併した報告も少ない3).今回,漿患者:59歳,女性.〔別刷請求先〕平島昂太:〒812-8582福岡市東区馬出C3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野Reprintrequests:KotaHirashima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalScience,KyushuUniversity,3-1-1Maidashi,Higashi-ku,Fukuoka812-8582,JAPANC346(108)主訴:右眼視力低下.既往歴:特記事項なし.現病歴:2018年C7月に右眼視力低下,発熱,頭痛を自覚し,近医眼科を受診した.視力は右眼C0.3(矯正不能),左眼1.0(矯正不能),眼圧は右眼C15CmmHg,左眼C11CmmHg,右漿液性網膜.離,脈絡膜肥厚,フルオレセイン蛍光造影検査(.uoresceinangiography:FA)で蛍光漏出を認め,Vogt-小柳-原田病(Vogt-Koyanagi-Haradadisease:VKH)が疑われた.血液検査で白血球異常高値,血小板減少を認め,近医初診後C4日目に精査加療目的に九州大学病院血液腫瘍内科へ紹介となった.精査の結果,ALLと診断された.6日目に眼科的精査目的に九州大学病院眼科へ紹介受診となった.初診時眼所見と経過:視力は右眼C0.2(矯正不能),左眼0.8(矯正不能),眼圧は右眼C13CmmHg,左眼C12CmmHg,平均中心フリッカー値は右眼C19CHz,左眼C19CHzであった.両眼球結膜,角膜,前房,虹彩,水晶体,前部硝子体に明らかな異常を認めなかった.右眼は視神経乳頭の辺縁不整,黄斑部の漿液性網膜.離,黄斑外上方の脱色素斑を認めた(図1a).左眼は視神経乳頭の辺縁不整,黄斑部の漿液性網膜.離,網膜出血を認めた(図1b).波長掃引光源光干渉断層計(swept-sourceCopticalCcoher-encetomography:SS-OCT)では両眼の漿液性網膜.離,網膜色素上皮の不整,脈絡膜の肥厚を認め,また,脈絡膜に点状の高輝度領域が多発していた(図1c,1d).右眼の脱色素斑はCOCTにおいて,網膜色素上皮の軽度隆起を伴った(図1e).眼底自発蛍光では右眼の脱色素斑と同部位に高輝度領域,黄斑周囲に点状に散在する高輝度領域を認めた(図2).FAでは造影初期より右眼に脱色素斑に一致した過蛍光,後期では両眼に黄斑部の蛍光貯留を認めた(図3).インドシアニングリーン蛍光造影検査(indocyanineCgreenCangiogra-phy:IA)では,造影初期より両眼後極内にCdarkspotが散在し,後期では同部位に点状の過蛍光を認めた(図4).血液検査では,白血球C222,600/μl,芽球C96.4%,赤血球C331万/μl,ヘモグロビンC10.1Cg/dl,血小板C6.2万/μlと,白血球異常高値,貧血,血小板減少を認めた.血中クレアチニンC0.68mg/dlと,腎機能異常は認めなかった.髄液検査では髄液の細胞数上昇はなく,蛋白質も正常範囲内であった.骨髄フローサイトメトリーでは,CD10(+),CD19(+),CD20(+),HLADR(+),MPO(C.),TdT(+),CD79a(+)と,リンパ性白血病のマーカーが陽性であった.染色体はCt(9;22)(q34;q11.2)で,フィラデルフィア染色体陽性であった.頸部.骨盤部CCTでは明らかな異常を認めなかった.以上からCALLと診断した.血液腫瘍内科で血液アフェレーシス,メトトレキサートC15CmgとデキサメタゾンC3.3Cmgの髄注をC14日間,プレドニンC100Cmgの点滴静注をC14日間行った.分子標的薬としてチロシンキナーゼ阻害薬のダサチニブの内服を開始したが,ダサチニブが原因と疑われる慢性硬膜下血腫を発症し,脳血管外科で手術を施行したため,ダサチニブの内服は中止し,BCR-ABL転座を標的としてチロシンキナーゼ阻害薬としてイマチニブの内服を開始した.治療開始後,漿液性網膜.離は徐々に改善し,両視力は矯正視力C1.2まで改善した.脈絡膜肥厚に関しては右眼の中心窩下脈絡膜厚がC662Cμmから治療後C14日目でC285Cμmまで改善し,左眼の中心窩下脈絡膜厚がC562Cμmから治療後C14日目C328Cμmまで改善した(図5).その後,初発からC2年後の受診時には,漿液性網膜.離や脈絡膜肥厚の再発を認めずに経過している(最終受診時の右眼矯正視力C1.2,左眼矯正視力C1.2,右眼中心窩下脈絡膜肥厚C306Cμm,左眼中心窩下脈絡膜肥厚C340Cμm).CII考按本症例では,視力低下を初発症状として漿液性網膜.離,脈絡膜肥厚を認め,VKHを疑われたが,各種検査でCALLと診断された.化学療法後,速やかに眼症状は改善した.ALLに関連する漿液性網膜.離の病態として,白血病剖検眼のC29.65%に白血病細胞の脈絡膜浸潤を認め,網膜色素上皮細胞は萎縮,肥厚,過形成を呈し,続発性に.胞状黄斑浮腫や漿液性網膜.離をきたすとされている4,5).したがって,本症例の漿液性網膜.離は白血病細胞の脈絡膜浸潤に伴うものであることが考えられた.また,白血病患者ではレーザースペックルフローグラフィーによる解析で脈絡膜血流速度の低下と脈絡膜肥厚を認めるという報告がある6).本症例は,脈絡膜血管内壁への白血病細胞の接着や血管外への白血病細胞浸潤に伴う脈絡膜血管の圧迫により,脈絡膜血流が障害されたことによる網膜色素上皮障害と,血流うっ滞による脈絡膜間質組織への滲出液の増加が,漿液性網膜.離と脈絡膜肥厚の病態として考えられた.さらに,白血病細胞の脈絡膜浸潤も脈絡膜肥厚の一因と推察された7).右眼黄斑外上方の脱色素班部位に一致したことは,OCTでの網膜色素上皮の軽度隆起とCFAでの過蛍光を認めたことから,網膜色素上皮の障害を反映しているものと考えられた.これらのことを踏まえると,脈絡膜肥厚は白血病の脈絡膜浸潤や脈絡膜循環障害を反映しており,IAで同部位に一致してCdarkspotの所見を呈していると考えられた.また,OCTでの網膜色素上皮の不整は網膜色素上皮の障害を反映していると推察され,血液網膜バリアの破綻も漿液性網膜.離発症のさらなる病態として考えられた.本症例は初診時にCVKHを疑われた.VKHの病態はメラノサイトに対する自己抗体の脈絡膜浸潤と脈絡膜循環障害であり,漿液性網膜.離,脈絡膜肥厚,IAでの早期のCdarkspotと後期の過蛍光所見を認める点において本症例と類似図1初診時の眼底写真(a,b)および波長掃引光源OCT(SS.OCT)像(c,d,e)a:右眼眼底.視神経乳頭の辺縁はやや不整で,黄斑部漿液性網膜.離,黄斑外上方に脱色素班(C.)を認める.Cb:左眼眼底.視神経乳頭の辺縁はやや不整で,黄斑部漿液性網膜.離,視神経乳頭耳下側に網膜出血を認める.Cc,d:漿液性網膜.離,網膜色素上皮の不整,脈絡膜の肥厚,脈絡膜に多発する点状の高輝度領域を認める.Ce:右眼底.黄斑外上方の脱色素班部位は網膜色素上皮の軽度隆起を伴う.図2初診時の眼底自発蛍光写真右眼(Ca)の脱色素斑と同部位に高輝度領域(C.),両眼(Ca,b)の黄斑周囲に点状に散在する高輝度領域を認める.図3初診時のフルオレセイン蛍光眼底造影検査a:初期(右眼,30秒).脱色素斑に一致した過蛍光(C.)を認める.Cb:後期(右眼,18分C54秒).黄斑部の蛍光貯留(C→)を認める.している.しかし,VKHでは,眼内炎症や,フィブリンと考えられる隔壁を伴う漿液性網膜.離を認める点で臨床像が異なる.また,VKHでは皮膚,神経,感冒様症状を認めることが多く,髄液検査では単球優位の細胞増多を認め,血液検査で特異的な所見がないことが本症例と異なる.また,本症例は眼底所見,FA所見,OCT所見より中心性紫液性脈絡網膜症(centralCsereouschorioretinopathy:CSC)との鑑別も重要である.本症例とCCSCでは,OCTでの漿液性網膜.離,脈絡膜肥厚,FAでの点状過蛍光と後期の蛍光貯留の所見が一致する.一方,本症例はCIA早期から徐々に明瞭化する後極内のCdarkspotを認めるが,CSCではCIA中期に拡張した脈絡膜血管,後期に異常組織染を認める点が鑑別に重要である.また,白血球増多に伴う過粘稠症候群も鑑別に考慮すべきであるが,過粘稠症候群はマクログロブリン血症と多発性骨髄腫に代表されるCM蛋白増多が病因のことが多く,過粘稠症候群でみられる静脈ソーセージ様怒張,乳頭浮腫,網膜多発出血などの典型的な所見を本症例では伴わず,過粘稠症候群による循環障害としては非典型的図4初診時のインドシアニングリーン蛍光眼底造影検査a:初期(右眼,30秒).後極内にCdarkspotが散在している.Cb:後期(右眼,18分C54秒).後極内に点状の過蛍光(C.)を認める.治療前治療後6日目治療後14日目右眼視力(0.2)(1.2)中心窩下脈絡膜厚662μm480μm285μm左眼視力図5治療開始後の経過治療後,両眼の漿液性網膜.離と中心窩下脈絡膜(C.)肥厚は改善を認めた.であると考えられた.後に大きく影響するため,早期診断が重要であると考えられ漿液性網膜.離を初発症状としたCALLの本症例は,白血る.病細胞の脈絡膜浸潤と脈絡膜循環障害が病因として考えら利益相反:利益相反公表基準に該当なしれ,視力低下の原因となる.また,脈絡膜悪性リンパ腫でも同様に漿液性網膜.離をまれにきたすことが報告されている7).以上より,血液疾患では漿液性.離を初発症状とすることがあり2,3,7),全身化学療法が患者の視機能維持や生命予(0.8)(1.2)562μm475μm328μm文献1)毛塚剛司:白血病眼浸潤.あたらしい眼科29:19-24,C20122)YoshidaA,KawanoY,EtoTetal:Serousretinaldetach-mentCinCanCelderlyCpatientCwithCPhiladelphia-chromo-some-positiveCacuteClymphoblasticCleukemia.CAmCJCOph-thalmolC139:348-349,C20053)井上順治,設楽幸治,平塚義宗ほか:漿液性網膜.離を呈した急性リンパ性白血病のC1例.臨眼医報C98:141,C20044)KincaidCMC,CGreenCWR,CKelleyJS:OcularCandCorbitalCinvolvementCinCleukemia.CSurvCOphthalmolC27:211-232,C1983C5)LeonardyCNJ,CRupaniCM,CDentCGCetal:AnalysisCofC135CautopsyCeyesCforCocularCinvolvementCinCleukemia.CAmJOphthalmolC109:436-444,C19906)TakitaCA,CHashimotoCY,CSaitoCWCetal:ChangesCinCbloodC.owCvelocityCandCthicknessCofCtheCchoroidCinCaCpatientCwithCTCleukemicCretinopathy.CAmCJCOphthalmologyCCaseCReportsC12:68-72,C20187)FukutsuK,NambaK,IwataDetal:Pseudo-in.ammato-rymanifestationsofchoroidallymphomaresemblingVogt-Koyanagi-Haradadisease:caseCreportCbasedConCmulti-modalimaging.BMCOphthalmolC20:94,C2020***

妊娠37週妊婦にステロイドパルス療法を行い良好な経過をたどったVogt-小柳-原田病の1例

2020年8月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科37(8):1022.1026,2020c妊娠37週妊婦にステロイドパルス療法を行い良好な経過をたどったVogt-小柳-原田病の1例岡本直記瀬戸口義尚桐生純一川崎医科大学眼科学1教室CACaseofVogt-Koyanagi-HaradaDiseaseinaPregnantWomanat37WeeksofGestationTreatedwithSteroidPulseTherapywithaGoodCourseNaokiOkamoto,YoshinaoSetoguchiandJunichiKiryuCDepartmentofOphthalmology1,KawasakiMedicalSchoolC目的:妊娠C37週でCVogt-小柳-原田病(以下,原田病)を発症した患者にステロイドパルス療法を施行したC1例を報告する.症例:27歳.女性.両眼の視力低下を自覚し受診.初診時矯正視力は右眼C0.4,左眼C0.4,頭痛や耳鳴りを伴う両眼性の漿液性網膜.離を認めた.患者は妊娠中であったため,産科医と十分に協議したのちに,患者にインフォームド・コンセントを行ったうえで,ステロイドパルス療法を施行した.治療後,頭痛や耳鳴りは改善し,両眼の漿液性網膜.離も消失した.矯正視力は両眼ともC1.2に回復した.ステロイド投与による合併症は眼,全身ともに認めなかった.治療開始C19日目で,無事に児娩出となった.結論:妊娠後期に発症した原田病の患者に対してステロイドパルス療法を行い,ステロイドの合併症もなく,母子ともに良好な経過をたどった.妊娠中に発症した原田病に対して治療する際には,産科医との密接な連携と患者への十分な説明が必要であると考えられた.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofVogt-Koyanagi-Harada(VKH)diseaseCinCaCpregnantCwomanCatC37CweeksCofCgestationwhowastreatedwithsteroidpulsetherapy.Case:A27-year-oldwomanpresentedtoourhospitalwithbilateralCvisualCimpairment.CHerCcorrectedCvisualCacuityCatC.rstCconsultationCwasC0.4CinCbothCeyes,CwithCbilateralCserousretinaldetachmentaccompaniedbyheadacheandtinnitus.InaccordancewithasuggestionobtainedfromanCobstetrician-gynecologist,CsteroidCpulseCtherapyCwasCinitiatedCafterCinformedCconsentCwasCobtainedCfromCtheCpatient.CPostCtreatment,CtheCheadacheCandCtinnitusCimproved,CandCtheCserousCretinalCdetachmentCresolvedCinCbothCeyes.CNoCsystemicCcomplicationsCdueCtoCsteroidCadministrationCwereCobserved.CConclusion:SteroidCpulseCtherapyCwasCsuccessfullyCperformedCinCaCpatientCwithCVKHCdiseaseCthatCdevelopedCduringClateCpregnancy,CwithCaCgoodCcoursenocomplicationsduetosteroidadministration.Consultationwithanobstetricianandexplanationtopatientsisnecessarywhenadministeringsystemicsteroidstopregnantwomen.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(8):1022.1026,C2020〕Keywords:Vogt-小柳-原田病,ステロイドパルス療法,妊娠.Vogt-Koyanagi-Haradadisease,steroidpulsetherapy,pregnancy.CはじめにVogt-小柳-原田病(以下,原田病)は,ぶどう膜炎の代表疾患で,メラノサイトを標的とした全身性の自己免疫性疾患である1).原田病に対する治療は,副腎皮質ステロイド(以下,ステロイド)の全身投与が一般的に行われる2).妊娠中は免疫寛容状態であるため原田病を罹患しにくいとされており,わが国においても報告例の数は限られている3.6).妊娠中に原田病を罹患した場合,ステロイドの全身投与は催奇形性や胎児毒性などの副作用のリスクを考慮する必要があり,治療の選択に難渋する.今回,原田病を発症した妊娠C37週の妊婦に対し,ステロイドパルス療法を施行したC1例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕岡本直記:〒701-0192倉敷市松島C577川崎医科大学眼科学C1教室Reprintrequests:NaokiOkamoto,DepartmentofOphthalmology1,KawasakiMedicalSchool,577Matsushima,Kurashiki701-0192,JAPANC1022(122)I症例患者:27歳,女性.現病歴:2018年C7月中旬から頭痛や耳鳴りと両眼に霧視を自覚し,近医眼科を受診したが,結膜炎と診断を受けて経過観察となった.その後,視機能の増悪を認めたため,別の近医眼科を受診したところ,両眼に漿液性網膜.離(serousretinaldetachment:SRD)を指摘されて,7月下旬に川崎医科大学附属病院眼科(以下,当科)を紹介受診した.既往歴,家族歴:特記すべき事項なし.妊娠歴:1回(25歳時に自然分娩,妊娠中の経過に異常なし),流産歴なし.出産予定日:2018年C8月中旬.全身所見:頭痛や耳鳴りを認めた.産科受診にて妊娠経過図1初診時眼底写真両眼とも後極を中心に多発性漿液性網膜.離を認める.右眼左眼図2初診時OCT所見両眼にフィブリンによる隔壁が形成された漿液性網膜.離を認めた.中心窩脈絡膜厚(CCT)は,右眼C1,150Cμm,左眼1,126Cμmと著明な肥厚を認めた.図3治療開始から14日目のOCT所見両眼の網膜下液は消失しており,CCTは右眼C351Cμm,左眼C335Cμmに改善した.矯正視力は両眼ともC1.2となった.図4治療開始から22日目の眼底写真両眼の多発性漿液性網膜.離は消失している.に異常は認めなかった.C1,400初診時の血液検査と尿検査:赤血球数C4.04C×106/μl,血色8001.01,200素量C12.1Cg/dl,ヘマトクリット値C36.2%,血小板数C228C×1,000103/μl,血糖値C94Cmg/dl,血清クレアチニンC0.31Cmg/dl,尿酸C3.6Cmg/dl,推算糸球体濾過量C200.5Cml/min,尿糖(C.),小数視力CCT(μm)600400尿蛋白(C.).200当科初診時所見:視力は右眼C0.2(0.4×+0.50D),左眼0.04C00(0.4×+2.75D(cyl.0.50DAx180°),眼圧は右眼8mmHg,C08治療(日)141924左眼C9CmmHgであった.前房内炎症は認めず,また中間透光体にも異常所見は認めなかった.眼底検査では,両眼の後PSL投与量極部に多発するCSRDを認めた(図1).また,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で両眼にフィブリンによる隔壁が形成されたCSRDが観察され,中心窩脈絡膜厚(centralCchoroidalthickness:CCT)は右眼C1,150Cμm,左眼C1,126Cμmと著明な肥厚を認めた(図2).経過:妊娠中のため,蛍光眼底造影や髄液検査などの侵襲的な検査は施行しなかったが,眼底所見にあわせて頭痛といった神経学的所見を認めること,耳鳴りを伴っていることから,Readらの診断基準1)をもとに,不全型原田病と診断し図5入院中におけるプレドニゾロン(PSL)の投与量と治療経過た.産科医と十分に協議したのちに,患者と家族にインフォームド・コンセントを行い,同意を得たうえで,受診当日(妊娠C37週C6日)からステロイドパルス療法を行った.メチルプレドニゾロンC1,000Cmgの点滴をC3日間施行後,検眼鏡的に網膜下液は吸収傾向にあったが,OCTではフィブリン析出を伴ったCSRDの残存を認め,CCTも右眼C627Cμm,左眼C748Cμmとまだ著明に肥厚していたため,治療開始C6日目(妊娠C38週C4日)からステロイドパルス療法C2クール目として,メチルプレドニゾロンC1,000Cmgの点滴をさらにC3日間施行した.治療開始C8日目には,矯正視力が右眼C0.9,左眼0.8に改善し,網膜下液は十分に吸収されており,CCTも右眼C449Cμm,左眼C444Cμmと改善傾向を認めた.治療開始C9日目に,プレドニゾロンC40Cmg/日の内服に切り替えて漸減投与を行った.治療開始C14日目には,両眼とも矯正視力が1.2,両眼の網膜下液は完全に消失し,CCTも右眼C351Cμm,左眼C335Cμmに改善した(図3).治療開始C19日目(妊娠C40週C3日)に陣痛が発来し,同日に経腟分娩にて児娩出となった.児は体重C2,785Cg,ApgarCscore8/8点で,明らかな異常は認めなかった.その後も,ステロイドの副作用などはなく,母子ともに経過良好のため,治療開始C24日目に退院となった.その後,プレドニゾロンの内服量を漸減したが,原田病の再発は認められず,治療開始後C7カ月目でプレドニゾロンの内服は中止とした.治療終了からC12カ月後も原田病の再燃はなく,矯正視力は両眼ともC1.2となっている.また,夕焼け状眼底などの慢性期病変は認めていない.児の発育にも明らかな異常は認められていない.CII考察原田病に対する治療のゴールドスタンダードは,ステロイドの全身投与である2).妊娠時のステロイドの全身投与については,疫学研究によると奇形全体の発生率増加はないと考えられている7).しかし,動物においては口唇口蓋裂を上昇させるといわれており,ヒトにおいても催奇形性との関連があるという報告もある8,9).そのため,口蓋の閉鎖が完了する妊娠C12週頃までの全身投与では口唇口蓋裂の発生が危惧される.また,妊娠中期以降にステロイドを全身投与した場合,経胎盤移行したステロイドによる胎児毒性を考慮する必要がある.妊娠初期に発症した原田病は軽症であることが多く,自然軽快例10)やステロイドの局所投与のみで軽快した例が報告されている3).しかし,妊娠中期以降になると炎症が重症化しやすく,ほとんどの報告例でステロイドの全身投与が行われている4,6,11).本症例は,妊娠C37週と正期産にあたる時期の発症で,出産予定日を間近に控えていたため,分娩を先行して,出産後にステロイドの全身投与を行うことも考慮した.しかし,両眼の眼底に強い炎症所見が認められていることや視機能低下を自覚してから当科受診までにC7日も経過していること,また次第に進行する視機能低下に対して患者が強い不安を感じて,早期の治療開始を強く希望されていたことから,産科医と十分に協議したのちに,患者と家族にインフォームド・コンセントを行って,受診当日(妊娠37週C6日)からステロイドの全身投与を開始した.大河原ら6)は,本症例と同じ妊娠C37週に発症した原田病で,分娩を先行して出産後にステロイドの全身投与を行った例を報告している.その症例では,視力低下を自覚してからC2日目で受診したが,漿液性網膜.離の鑑別疾患として原田病とは別に,正常妊娠後期に生じた漿液性網膜.離である可能性も考慮されており,分娩後の自然軽快を期待し経過観察としている.しかしその後,頭痛および視力障害が増悪し,子癇に伴う可逆性白質脳症による病態が疑われたため,初診日からC5日目に緊急帝王切開を施行された.そして分娩からC5日後にステロイドの全身投与が行われている.視力回復には至ったが,晩期続発症として夕焼け状眼底を呈したと述べられており,網脈絡膜に強い炎症が持続していたことが示唆される.原田病では発症早期に十分量のステロイド投与がされない場合は,炎症の再発を繰り返し,予後不良な遷延型へと移行することで,網脈絡膜変性や続発緑内障を合併し,不可逆的な視機能障害が生じる2.12).Kitaichiらは,遷延型に移行するリスクを抑えるためには,発症からC14日以内にステロイドの全身投与を開始する必要があると報告している13).本症例のように正期産にあたる時期において,分娩とステロイドの全身投与のどちらを先行すべきかについては,発症してからの期間,症状や所見の重症度,妊娠週数,母体と胎児の全身状態などを総合的に考慮したうえで,判断すべきであると考えられる.原田病に対するステロイドの全身投与方法として,ステロイド大量療法とステロイドパルス療法の二つがある.ステロイド大量療法は,ベタメタゾンなどの長時間作用型のステロイドを点滴投与したのちに,内服に切り替える.一方で,ステロイドパルス療法は中間作用型のメチルプレドニゾロン1,000Cmgを点滴でC3日間投与し,その後はプレドニゾロンの内服に切り替えて漸減していく2).原田病に対するステロイド大量療法とステロイドパルス療法の有効性についての比較検討では,双方ともに視力予後や炎症所見の改善は良好な結果を示し,両群間に差は認められていない14).一方で,プレドニゾロンは胎盤に存在するC11b-hydroxysteroidCdehydrogenaseによって不活化されるため,胎盤移行性の高いデキサメタゾンやベタメタゾンと比較して胎児への影響は少ないとされている.したがって,妊娠中に発症した原田病に対してステロイドの全身投与を行う場合は,ステロイドパルス療法を選択するほうが望ましいと考えられ,既報でも多くがプレドニゾロンを使用されていた4.6).一方で,妊婦に対するステロイドの全身投与は,早産率の上昇,妊娠高血圧腎症,妊娠糖尿病,胎児発育制限のリスクが上昇することが知られており15),太田ら4)は妊娠C30週で発症した原田病に対してプレドニゾロンの全身投与を行い,治療C18日目に胎児が死亡した症例を報告している.胎児死亡とステロイド投与との関連について判断はできないと述べられているが,妊婦に対するプレドニゾロンの全身投与が必ずしも安全ではないことが示唆される.妊婦の治療を目的としたステロイドの全身投与における問題点は,胎児へ薬物が移行することにある.しかし,胎児のリスクを懸念するあまり,母体への投薬が躊躇されることで,治療の時機を逸してはならない.母体疾患のコントロールを胎児のリスクよりも優先することは治療の原則である.本症例では分娩よりステロイドの全身投与を先に行い,母子ともに良好な経過をたどった.しかし,今回の治療における妥当性についてはまだ議論の余地が残されている.妊娠中に発症した原田病の報告は限られており,どのように治療を行うべきかという明確な指針はない.したがって,今後も同様の症例を蓄積していくことで,治療選択についてさらに検討を行っていく必要がある.そして現在,治療の選択に一定の見解が得られていないからこそ,治療方針の決定には産科医との密接な連携と患者に対する十分な説明が必要であると考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ReadCRW,CHollandCGNCRaoCNACetal:RevisedCdiagnosticCcriteriaCforCVogt-Koyanagi-Haradadisease:reportCofCanCinternationalCcommitteeConCnomenclature.CAmCJCOphthal-molC131:647-652,C20012)長谷川英一,園田康平:副腎皮質ステロイド薬の全身投与.あたらしい眼科34:483-488,C20173)松本美保,中西秀雄,喜多美穂里:トリアムシノロンアセトニドのテノン.下注射で治癒した妊婦の原田病のC1例.眼紀57:614-617,C20064)太田浩一,後藤謙元,米澤博文ほか:Vogt-小柳-原田病を発症した妊婦に対する副腎皮質ステロイド薬治療中の胎児死亡例.日眼会誌111:959-964,C20075)小林崇俊,丸山耕一,庄田裕美ほか:妊娠初期のCVogt-小柳-原田病にステロイドパルス療法を施行したC1例.あたらしい眼科32:1618-1621,C20156)大河原百合子,牧野伸二:妊娠C37週に発症し,分娩遂行後にステロイド全身投与を行ったCVogt-小柳-原田病のC1例.眼紀2:616-619,C20097)GurC,Diav-CitrinO,ShechtmanSetal:Pregnancyout-comeCafterC.rstCtrimesterCexposureCtocorticosteroids:aCprospectiveCcontrolledCstudy.CReprodCToxicolC18:93-101,C20048)Park-WyllieL,MazzottaP,PastuszakAetal:BirthdefectsafterCmaternalCexposureCtocorticosteroids:ProspectiveCcohortstudyandmeta-analysisofepidemiologicalstudies.TeratologyC62:385-392,C20009)BriggsGG,FreemanRK,Ya.eSJ:AReferenceguidetofetalCandCneonatalCriskCdrugsCinCpregnancyCandClactation.C4thed,WilliamsandWillins,Maryland,p713-715,199410)NoharaCM,CNoroseCK,CSegawaK:Vogt-Koyanagi-HaradaCdiseaseCduringCpregnancy.CBrCJCOphthalmolC79:94-95,C199511)MiyataCN,CSugitaCM,CNakamuraCSCetal:TreatmentCofCVogt-Koyanagi-Harada’sCdiseaseCduringCpregnancy.CJpnJOphthalmolC45:177-180,C200112)ReadCRW,CRechodouriCA,CButaniCNCetal:ComplicationsCandCprognosticCfactorsCinCVogt-Koyanagi-HaradaCdisease.CAmJOphthalmolC131:599-606,C200113)KitaichiN,HorieY,OhnoS:PrompttherapyreducesthedurationCofCsystemicCcorticosteroidsCinCVogt-Koyanagi-Haradadisease.GraefesArchClinExpOphthalmolC246:C1641-1642,C200814)北明大州:Vogt-小柳-原田病新鮮例に対するステロイド大量療法とパルス療法の比較.臨眼58:369-372,C200415)生水真紀夫:妊娠中のステロイドの使い方.臨牀と研究C94:71-77,C2017***

悪性黒色腫治療中に生じたぶどう膜炎の1例

2020年2月29日 土曜日

《原著》あたらしい眼科37(2):235?238,2020c悪性黒色腫治療中に生じたぶどう膜炎の1例望月結希乃渡部大介静岡県立総合病院眼科ACaseofUveitisDuringMelanomaTreatmentYukinoMochizukiandDaisukeWatanabeDepartmentofOphthalmology,ShizuokaGeneralHospitalはじめにわが国における皮膚悪性黒色腫の罹患率は10万人あたり1?2人程度であり,比較的まれな悪性腫瘍である1).早期には単純切除が行われるが,切除不能な場合は,近年,免疫チェックポイント阻害薬や,分子標的薬を用いた新しい薬物療法が行われるようになった.そのなかの一つであるダブラフェニブ/トラメチニブ併用療法は,2種類の分子標的薬を組み合わせた,BRAF遺伝子変異陽性の切除不能な悪性黒色腫に対する治療法である.従来の抗癌剤治療と比較し生存期間は大幅に改善されたが,その一方で副作用として心障害や肝障害,深部静脈血栓症などが知られている.眼科領域の副作用としては,ぶどう膜炎や網膜静脈閉塞症が報告されている2).今回,ダブラフェニブ/トラメチニブ併用療法によるVogt-小柳-原田病(原田病)様のぶどう膜炎を認め,併用療法中止とステロイド療法により改善したが,その後併用療法再開に伴いぶどう膜炎が再燃した1例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕望月結希乃:〒420-8527静岡市葵区北安東4-27-1静岡県立総合病院眼科Reprintrequests:YukinoMochizuki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,ShizuokaGeneralHospital,4-27-1Kita-ando,Aoi-ku,Shizuoka-City420-8527,JAPANI症例患者:64歳,女性.主訴:両眼飛蚊症,霧視.既往歴:皮膚悪性黒色腫.現病歴:平成26年7月に右大腿内側の腫瘤で近医皮膚科を受診した.市内の総合病院皮膚科へ紹介され,11月に切除術を施行,悪性黒色腫と診断された.平成28年1月に再発および多発転移を指摘され化学療法目的で当院皮膚科へ紹介された.BRAF遺伝子変異の有無について検査した結果,陽性であることが判明した.当院皮膚科では同年3月からベムラフェニブを投与したものの,皮膚障害が出現し,治療意欲の減退により中止した.8月からはニボルマブを投与したが,原発巣の増大を認めたため,11月からダブラフェニブ300mg/日とトラメチニブ2mg/日の併用療法を開始した.平成29年1月から両眼の飛蚊症,および2月から霧視を自覚し近医眼科を受診した.両ぶどう膜炎を指摘され,同年3月6日当科に紹介された.初診時所見:視力は右眼0.03(0.2×sph+4.75D(cyl?0.5DAx40°),左眼0.04(0.4×sph+4.75D)であった.両眼に豚脂様角膜後面沈着物,前房細胞,浅前房など前部ぶどう膜炎の所見を認めた.両眼の眼底には視神経乳頭の発赤および多胞性漿液性網膜?離を認めた(図1).光干渉断層計検査では両眼の黄斑部に隔壁を伴う漿液性網膜?離と脈絡膜肥厚,脈絡膜の波打ち所見を認めた(図2).同日施行したフルオレセイン蛍光眼底造影検査では,視神経乳頭からの色素漏出や網膜下の多胞性の蛍光色素の貯留が認められた(図3).経過:所見から原田病を疑い,採血や髄液検査を施行したものの,異常所見は認められなかった.しかし,臨床的には原田病の可能性が高いと考え,同日プレドニゾロン200mg/日から点滴投与を開始した.翌日,皮膚科ではダブラフェニブ/トラメチニブ併用療法によるぶどう膜炎と判断され,併用療法を中止した.当科ではプレドニゾロン点滴を200mg/日を2日間,150mg/日を2日間,100mg/日を2日間施行し,その後はプレドニン内服60mg/日より内服漸減療法を開始した.治療経過は順調であり,漿液性網膜?離や脈絡膜肥厚などの所見は消失,視力は右眼0.2(0.9×sph+2.0D),左眼0.2(1.0×sph+3.0D)まで改善した.経過改善のため,皮膚科ではダブラフェニブ/トラメチニブ併用療法を再開する方針となり,ダブラフェニブ150mg/日,トラメチニブ1mg/日に減量し再開となった.しかし,5月31日には視力は右眼0.15(1.2×sph+3.0D),左眼0.3(1.0×sph+3.5D)と良好で,自覚症状はないものの,両眼に角膜後面沈着物,前房細胞が出現し,脈絡膜の肥厚・波打ち所見(図4),左眼に漿液性網膜?離が出現した.当科では,自覚症状がないもののぶどう膜炎の再燃と考え,プレドニゾロン20mg/日を継続し,経過をみる方針としたが,皮膚科の判断でダブラフェニブ/トラメチニブ併用療法は中止となった.6月14日,脈絡膜の肥厚,波打ち所見と漿液性網膜?離は消失した.その後,腫瘍の肝転移を認め病勢が進行したた右眼左眼図1初診時の眼底写真両眼に漿液性網膜?離と視神経乳頭の発赤,腫脹を認める.右眼左眼図2初診時の光干渉断層像(黄斑部)両眼の脈絡膜の肥厚と波打ち所見を認める.また,隔壁を伴う漿液性網膜?離を認める.右眼左眼図3初診時のフルオレセイン蛍光眼底造影の後期両眼とも神経乳頭からの蛍光漏出を認め,網膜には多房性に蛍光色素が貯留している.右眼左眼図4ダブラフェニブ/トラメチニブ再開後の光干渉断層像(黄斑部)両眼に脈絡膜の肥厚,波打ち所見を認める.め,皮膚科ではダブラフェニブ/トラメチニブ併用療法の再開を検討した.7月12日,腫瘍の小腸転移と急速な肝転移の増大を認めたため,皮膚科へ緊急入院しダブラフェニブ200mg/日,トラメチニブ1.5mg/日として併用療法を再開し,プレドニゾロン60mg/日の点滴投与が開始された.7月13日,小腸穿孔が指摘されたため併用療法を中止し,外科で小腸切除術を施行した.その後ぶどう膜炎の再発は認めなかったが,全身状態が悪化し,8月3日に死亡した.II考按ダブラフェニブ/トラメチニブ併用療法は,腫瘍増殖にかかわるRAS-RAF-MEK-ERKシグナル伝達経路のセリン・トレオニンキナーゼファミリーのBRAFおよびMEKをそれぞれ阻害する働きをもつ分子標的薬を組み合わせた治療法である.副作用としてぶどう膜炎があるが,その形態は前眼部ぶどう膜炎,後眼部ぶどう膜炎,あるいは汎ぶどう膜炎というように,さまざまである.また既報では,BRAF阻害薬単独,あるいはMEK阻害薬単独でぶどう膜炎が起きた症例もある3?5).以上から,実際のメカニズムは不明であるが,眼内でこのシグナル伝達経路が阻害されると,ぶどう膜炎を発症する可能性がある.治療方法も報告によりさまざまである.併用療法は多くの症例で中止されており,ステロイド療法に関しては点眼のみ,内服のみ,ステロイドTenon?下注射と点眼を組み合わせた例,また本症例のように点滴および内服漸減療法を行った例のほか,ステロイドを使用せずに改善した例もある3,4,6?9).また,併用療法の再開に関しては,本症例のように再開すると,ぶどう膜炎再燃をみた例10)もあれば,再燃せずに併用療法を継続できた例5,7,8)もある.ダブラフェニブ/トラメチニブ併用療法は,もともとは切除不能な悪性黒色腫が適応疾患であったが,平成30年3月に切除不能な非小細胞肺癌に対する化学療法,8月にBRAF遺伝子変異陽性の悪性黒色腫の外科的手術後の補助化学療法として適応が拡大された.今後も適応疾患が拡大していく可能性があり,眼科医が診察する機会が増えると考えられる.併用療法によるぶどう膜炎に対しては,主科と連携を取り,併用療法の中止やステロイド療法を検討する必要がある.以上,ダブラフェニブ/トラメチニブ併用療法を行っている患者では,ぶどう膜炎を起こす可能性があり,ぶどう膜炎を発症し併用療法を中止した場合の併用療法再開にあたっては,症状再燃の可能性があり定期診察が必要である.文献1)宇原久:メラノーマの新しい治療とがん免疫療法の新展開.信州医誌64:63-73,20162)WelshSJ,CorriePG:ManagementofBRAFandMEKinhibitortoxicitiesinpatientswithmetastaticmelanoma.TherAdvMedOncol7:122-136,20153)DraganovaD,KergerJ,CaspersLetal:Severebilateralpanuveitisduringmelanomatreatmentbydabrafenibandtrametinib.JOphthalmicIn?ammInfect5:17,20154)McCannelTA,ChmielowskiB,FinnRSetal:BilateralsubfovealneurosensoryretinaldetachmentassociatedwithMEKinhibitoruseformetastaticcancer.JAMAOph-thalmol132:1005-1009,20145)GuedjM,QueantA,Funck-BrentanoEetal:Uveitisinpatientswithlate-stagecutaneousmelanomatreatedwithvemurafenib.JAMAOphthalmol132:1421-1425,20146)JoshiL,KarydisA,GemenetziMetal:UveitisasaresultofMAPkinasepathwayinhibition.CaseRepOphthalmol4:279-282,20137)LimJ,LomaxAJ,McNeilCetal:Uveitisandpapillitisinthesettingofdabrafenibandtrametinibtherapyformeta-staticmelanoma:Acasereport.OculImmunolIn?amm26:628-631,20188)SarnyS,NeumayerM,Ko?erJetal:Oculartoxicityduetotrametinibanddabrafenib.BMCOphthalmol17:146,20179)Rueda-RuedaT,Sanchez-VicenteJL,Moruno-RodriguezAetal:Uveitisandserousretinaldetachmentsecondarytosystemicdabrafenibandtrametinib.ArchSocEspOftal-mol93:458-462,201810)NiroA,StrippoliS,AlessioGetal:Oculartoxicityinmetastaticmelanomapatientstreatedwithmitogen-acti-vatedproteinkinasekinaseinhibitors:Acaseseries.AmJOphthalmol160:959-967,2015◆**

非感染性ぶどう膜炎に対するアダリムマブの治療効果と安全性

2019年9月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科36(9):1198.1203,2019c非感染性ぶどう膜炎に対するアダリムマブの治療効果と安全性青木崇倫*1,2永田健児*1関山有紀*1中野由起子*1中井浩子*1,3外園千恵*1*1京都府立医科大学眼科学教室*2京都府立医科大学附属北部医療センター病院*3京都市立病院CE.cacyandSafetyofAdalimumabfortheTreatmentofRefractoryNoninfectiousUveitisTakanoriAoki1,2),KenjiNagata1),YukiSekiyama1),YukikoNakano1),HirokoNakai1,3)andChieSotozono1)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,NorthMedicalCenter,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,3)KyotoCityHospitalC目的:アダリムマブ(ADA)を導入した非感染性ぶどう膜炎の有効性と安全性の検討.対象および方法:京都府立医科大学附属病院でC2018年C6月までにCADAを導入したぶどう膜炎患者(男性C7例,女性C3例)を対象に,臨床像,ADA導入前後の治療内容,治療効果,副作用を検討した.結果:症例の平均年齢C48.2歳(10.75歳),平均観察期間19.4カ月,臨床診断はCBehcet病(BD)7例,Vogt-小柳-原田病(VKH)3例であった.導入理由はインフリキシマブ(IFX)から変更がC6例,免疫抑制薬の副作用がC1例,ステロイド・免疫抑制薬で難治がC3例であった.BDの眼炎症の発作頻度はCADA導入前の平均発作回数C4.8回/年で,導入後はC1.4回/年に減少した.VKHでは,ADA導入前の平均ステロイド量C9.8Cmgから,最終時C7.2Cmgに漸減できた.ADA導入後にCVKH再燃を認め,ステロイドを増量した例がC1例あった.また,BDのうち,1例が注射時反応,1例が効果不十分でCADA中断となった.結論:BDではCADAはCIFXと同等以上の効果が期待でき,VKHの再燃例では,ADA追加のみでは効果不十分でステロイドの増量が必要な場合があった.CPurpose:Toevaluatethee.cacyandsafetyofadalimumab(ADA)ineyeswithrefractorynoninfectiousuve-itis.PatientsandMethods:Thisretrospectivecaseseriesstudyinvolved10refractoryuveitispatients(7males,3females;meanage:48.2years)treatedCwithCADACatCKyotoCPrefecturalCUniversityCofCMedicineCuntilCJuneC2018,Cwithameanfollow-upperiodof19.4months.Results:DiagnosesincludedBehcet’sdisease(BD:7patients)andVogt-Koyanagi-Haradadisease(VKH:3patients);reasonsCforCadministrationCwereCswitchingCfromCin.iximab(IFX)toADA(n=6),Cimmunosuppressantside-e.ects(n=1),CandCinsu.cientCe.ectCofCbothCsteroidCandCimmuno-suppressant(n=3).ADAreducedthefrequencyofocularattacksinBDfrom4.8/yearto1.4/year,andoral-ste-roidCamountCinCVHKCfromC9.8CmgCtoC7.2Cmg.CTwoCBDCpatientsCdiscontinuedCADACdueCtoCallergyCandCinsu.cientCe.ect.Conclusions:InBD,ADAwasprobablyofequivalentorgreatere.ectthanIFX.InVKH,ADAalonewasofinsu.ciente.ect.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(9):1198.1203,C2019〕Keywords:アダリムマブ,ベーチェット病,Vogt-小柳-原田病,インフリキシマブ,ぶどう膜炎.adalimumab,CBehcet’sdisease,Vogt-Koyanagi-Haradadisease,in.iximab,uveitis.Cはじめに非感染性ぶどう膜炎に対する治療は,局所・全身ステロイドが中心であり,難治例には免疫抑制薬のシクロスポリン(cyclosporine:CsA)が使用可能である.2007年C1月よりベーチェット病(Behcet’sdisease:BD)に対して,生物学的製剤である腫瘍壊死因子(tumorCnecrosisCfactorCa:CTNFa)阻害薬のインフリキシマブ(in.iximab:IFX)が保険適用となり,既存治療に抵抗を示す難治性CBDの有効性が示された1).さらにC2016年C9月には非感染性ぶどう膜炎に対して,完全ヒト型CTNFa阻害薬であるアダリムマブ(adali-〔別刷請求先〕青木崇倫:〒629-2261京都府与謝郡与謝野町男山C481京都府立医科大学附属北部医療センター病院Reprintrequests:TakanoriAoki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NorthMedicalCenter,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,YosagunYosanochoOtokoyama481,Kyoto629-2261,JAPANC1198(96)mumab:ADA)が保険適用となった.ステロイドや免疫抑制薬で抵抗を示す症例,さまざまな副作用で継続できない症例などの難治性非感染性ぶどう膜炎に対して,ADAの使用が可能になった.また,BDでもCIFXの使用できない症例やIFXの効果が減弱(二次無効)する症例などに対してCADAへの変更が可能となり,治療の選択肢が増えた.ADAは皮下注射のため,自宅での自己注射により病院拘束時間が短いことも有用な点である.これらのCIFXやCADAの眼科分野での生物学的製剤の認可により,難治性ぶどう膜炎に対して治療の選択肢が広がったが,新たな治療薬として実臨床での適応症例や,使用方法,効果,安全性の検討が必要である.そこで,京都府立医科大学附属病院(以下,当院)で経験したCADAの使用症例とその効果や安全性について検討した.CI対象および方法当院で,ADA導入した難治性ぶどう膜炎患者C10例(男性7例,女性C3例,導入時平均年C48.2C±19.6歳)を対象とし,ADAの有効性,安全性について,京都府立医科大学医学倫理審査委員会の承認を得てレトロスペクティブに検討した.ADA導入後の平均観察期間はC19.4C±18.5カ月(4.53カ月)であった.原疾患の診断はCBDがC7例C14眼,Vogt-小柳-原田病(Vogt-Koyanagi-Haradadisease:VKH)がC3例C6眼であった.BDは厚生労働省CBD診断基準2)に基づき,完全型,不全型および特殊型CBDの確定診断を行った.VKHでは国際CVKH病診断基準3)に基づき,確定診断を行った.ADAは添付文書の記載に従って(腸管CBD:初回C160Cmg投与,初回投与からC2週間後C80Cmg,その後はC2週間隔C40mg投与,難治性ぶどう膜炎:初回C80Cmg投与,初回投与からC1週間後C40Cmg,その後はC2週間隔C40Cmg投与,小児:初回C40Cmg投与,初回投与よりC2間間隔C40Cmg投与)投与した.また,ADAの導入にあたり当院膠原病・リウマチアPSL)投与量(ADA導入前の最小CPSL量,最終観察時CPSL量)を調べた.治療の効果判定は有効,無効・中断,経過観察中にC3分類し,有効は眼所見の改善や薬剤の減量ができた症例で,無効・中断は眼所見の改善が認められなかった症例や治療継続困難となった症例,経過観察中はCADA導入開始後C6カ月以内の症例とした.また,統計方法はすべてCStu-dentのCt検定を用い,p<0.05を有意差ありとして比較を行った.CII結果全症例の年齢,性別,ADA導入理由,観察期間を表1に示した.ADA導入理由はCBDではCIFXからの変更がC6例(2例:IFXの投与時反応で中断例,2例:IFXの二次無効例,1例:IFXでコントロール困難例,1例:IFXの中断後再燃例),免疫抑制薬の副作用で継続困難な症例がC1例であった.BDは完全型BDが2例,不全型BDが3例,特殊型BDが2例(腸管CBD併発C2例)であった.小児の不全型CBD1例は,脊椎関節炎を併発しており,両疾患に対してCADAを導入した.特殊型CBD2例のうちC1例は腸管CBDの治療目的にCADA導入し,1例はぶどう膜炎の治療目的にCADAを導入した.VKHのCADA導入理由はすべて,ステロイドおよび免疫抑制薬でコントロール困難な症例であった.最良矯正視力は,ADA導入前平均視力はClogMARC0.27±0.46であったが,ADA導入後の最終平均視力ClogMAR0.26C±0.47となり,導入前後で有意差を認めなかった(p=0.93)(図1).疾患別の効果について,BDの症例は表2に,VKHの症例は表3にそれぞれまとめた.中断・無効を除いた症例でのCBDの発作頻度は,ADA導レルギー科,小児科または消化器内科(腸管CBD症例)との連携の下で行った.全症例において,ADA導入理由と,ADA導入前後の最良矯正視力,併用薬剤,効果判定,全身副作用の有無に関して調査した.また,BDではCADA導入前後の眼炎症発作回数,眼炎症発作の重症度について調べた.重症度に関しては,ADA導入前後の眼炎症発作のなかでもっとも重症であった眼炎症発作について,発作部位を前眼部炎症,硝子体混ADA導入後の最良矯正視力濁,網膜病変に分けて評価し,網膜病変は血管炎,.胞様黄斑浮腫(cystoidmacularedema:CME),硝子体出血(vitre-oushemorrhage:VH)を調べた.また,蕪城らによって報告されたスコア法(Behcet’sdiseaseocularattackscore24:BOS24)4)でCADA導入前C6カ月から導入まで,ADA導入から導入後C6カ月まで,ADA導入C7.12カ月までの積算スコアで評価した.VKHではプレドニゾロン(prednisolone:0.010.11ADA導入前の最良矯正視力:Behcet病:Vogt-小柳-原田病図1アダリムマブ(ADA)導入前後の視力変化縦軸にCADA導入後の最良矯正視力,横軸にCADA導入後の最良矯正視力を示す.ADA導入前後では有意差を認めなかった(p=0.93).表1全症例ADA導入時観察期間症例年齢(歳)性別疾患名ADA導入理由(月)1C65男特殊型CBD(腸管CBD併発)IFX二次無効(腸管BD)C53C2C51女特殊型CBD(腸管CBD併発)IFX投与時反応C52C3C10男不全型CBD(脊椎関節炎併発)IFXコントロール困難C3C4C31男完全型CBDIFX二次無効C30C5C46女不全型CBDIFX中断後再燃C0.5C6C32男不全型CBDIFX投与時反応C11C7C39男完全型CBD免疫抑制剤の副作用C8C8C61女CVKHステロイド・免疫抑制薬でコントロール困難C19C9C72男CVKHステロイド・免疫抑制薬でコントロール困難C13C10C75男CVKHステロイド・免疫抑制薬でコントロール困難C4BD:BehcetC’sdisease(ベーチェット病),VKH:Vogt-Koyanagi-Haradadisease(フォークト-小柳-原田病),IFX:in.iximab(インフリキシマブ).表2Behcet病の症例ADA導入前ADA導入後症例発作頻度前眼部炎症硝子体混濁網膜病変発作頻度前眼部炎症硝子体混濁網膜病変C併用薬剤効果11回/年+..0回/年C…なし有効C24回/年++CME2.6回/年++.コルヒチン,MTX有効C32回/年++CME,VH中止++CME,VHCMTX,PSL無効・中断C410回/年++.2.5回/年++.MTX,PSL有効C51回/年++CME中止++CMECMTX無効・中断C65回/年++網膜血管炎1.8回/年++.CsA有効C74回/年++.0回/年C…なし有効CME:.胞様黄斑浮腫,VH:硝子体出血,MTX:メトトレキサート,PSL:プレドニゾロン,CsA:シクロスポリン.表3Vogt.小柳.原田病の症例症例ADA導入前PSL投与量(mg)CsA投与量(mg)ADA導入後最終CPSL投与量(mg)C効果判定8C7.5C150C4有効C9C7C150C0有効C10C15C100C17.5経過観察中PSL:プレドニゾロン,CsA:シクロスポリン.入前の平均発作回数がC4.8C±2.9回/年から,ADA導入後の平均発作回数はC1.4C±1.2回/年に減少した(p=0.06).眼炎症の重症度では,BOS24でCADA導入前C6カ月から導入までの積算スコアは平均C8.0C±4.7,ADA導入から導入後C6カ月までの積算スコアは平均C2.4C±3.2,ADA導入後7.12カ月までの積算スコアは平均C2.2C±2.4であり,導入前に比べて,導入後の積算スコアは優位に低値を示した(p=0.02,0.03)(図2).効果判定は,有効C5例,中断・無効C2例であり,中断・無効のうち,症例C3はCIFXとメトトレキサート(methotrexate:MTX)治療に加えて,眼炎症発作時にCPSL頓用を行っていたが,CMEとCVHを伴うような眼炎症の発作を認めたためにCADA導入となった.ADA導入後もCCMEの改善がなく,VHの悪化を認め,関節症状も考慮してインターロイキンC6受容体阻害薬であるトシリズマブ(tocilizum-ab:TCZ)に変更となった.症例C5はCADAの投与時反応にて中断となり,IFXに変更になった.以下にCBDの代表症例を示す.〔BDの代表症例:症例4〕31歳,男性.2010年にCBDを発症しコルヒチンを投与したが,強い硝子体混濁を伴うような眼炎症発作を起こしたためにC2011年よりCIFXを導入した.IFXの導入後も発作回数が頻回なために,IFXの投与量や投与間隔を変更し,併用薬剤にCCsAとCMTXを追加するなどを試みた.薬剤変更により最初は発作回数の軽減はあったが,徐々に効果がなくなり,IFXのC6週間隔投与とコルヒチン,MTXを併用したが,眼炎症発作回数がC10回/年であったためにCADAの導入となった(図3).ADAの導入後は眼炎症発作回数がC1.8回/年に減少した.VKHではCADA導入前にもっとも少なかったときのCPSLの平均投与量がC9.8C±3.7Cmgであり,最終受診時のCPSLの平均投与量C7.2C±7.5Cmgであった(p=0.67).2例でPSL量の減量を認め,1例はCADA導入後にCPSL漸減中に再燃を認めたために現在CPSLを増量している.また,当院ではCADA導入後は全例でCCsA内服を中止している.以下にCVKHの代表症例を示す.〔VKHの代表症例:症例8〕61歳,女性.2016年にCVKHを発症(図4a)し,ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロンC1,000Cmg点滴静注,3日間)をC2クール行った.炎症の残存を認めたためにトリアムシノロンTenon.下注射(sub-Tenon’striamcinoloneacetonideinjec-tion:STTA)を併用しながら,初期投与量のCPSL60CmgからCPSL15Cmgまで漸減したが,再燃を認めた.PSLを増量し,CsAとCSTTAを併用しながら,PSL10Cmgまで漸減したが,再燃を認めた.そこでCPSL量は維持のまま,ADAを導入したが,光干渉断層計(OCT)で網膜色素上皮ラインの波打ち像を認めたためにCPSL30Cmgまでいったん増量し改善を得た.その後,ステロイドを漸減し,現在CPSL4Cmgまで減量できており,再燃は認めていない(図4b).ADA投与に伴う副作用はC10例中C5例に認めた.2例で注射部位反応,2例で咽頭炎,2例で肝酵素上昇,1例でCCRP・赤沈上昇,1例で乾癬様皮疹,1例で好酸球高値を認めた(重複あり).症例C5では,IFX投与が挙児希望のため中断となったが,中断後にCCMEを認め,通院の関係からCADAでのTNF阻害薬の再開となった.初回・2回目のCADA投与で注射部位反応を認め,2回目の注射後に注射部位の発赤がC7cm程度まで拡大し,注射部位以外の発疹や口唇浮腫も認めたために中止となった.CIII考按今回,既存治療でコントロール困難な難治性非感染性ぶどう膜炎に対し,当院でCADAを導入した各疾患における効果判定と安全性の結果を検討した.海外の報告においては,さまざまな難治性ぶどう膜炎に対するCADA導入の有用性が示されている5,6).また,国内でもCADAの認可に伴い,小野らC18*16*1412BOS241086420ADA導入ADA導入後ADA導入後6カ月前~導入0~6カ月7~12カ月図2BS24(Behcet'sdiseaseocularattackscore244))の経過BOS24でCADA導入前C6カ月から導入までの積算スコアは平均C8.0C±4.7,ADA導入から導入後C6カ月までの積算スコアは平均C2.4C±3.2,ADA導入C7.12カ月までの積算スコアは平均C2.2C±2.4であった(*p<0.05).図3症例4(31歳,男性,Behcet病)アダリムマブ(ADA)導入前には発作を繰り返しており,前眼部に前房蓄膿と虹彩後癒着を伴う強い炎症を認め(a),びまん性の硝子体混濁,網膜血管炎,滲出斑を認めた(Cb).ADA導入後は新規病変を認めず,硝子体混濁は改善した.図4症例8(61歳,女性,Vogt.小柳.原田病)Ca:初診時COCT.両眼眼底に隔壁を伴う漿液性網膜.離と脈絡膜の肥厚,網膜色素上皮ラインの不整を認めた.Cb:ADA導入後のCOCT.ADA導入後,脈絡膜の肥厚は認めるが,漿液性網膜.離や網膜色素上皮不整の改善を認めた.が難治性ぶどう膜炎に対する短期の使用経験と有用性を示している7).疾患別にみると,難治性CBDに対しては,国内では先に認可されたCIFXが主流であるが,海外では生物学的製剤(IFX,ADA)の報告が多数なされている8).ValletらはCBDに対して,IFXまたはCADA投与によりC91%で完全寛解/部分寛解を認め,IFXとCADAで同様の有効性であったと報告している9).また,IFXの継続困難や二次無効の症例のCADAへの変更は有用性を示されている10,11).当院の症例では,IFXからCADAへの変更がC6例あり,1例が新規導入であった.既報と同様にCIFXでの継続困難の症例や二次無効の症例においてもCADA変更後は改善を示していた.また,ADA新規導入例もCADA導入後は眼炎症発作を認めておらず,IFXと同様の効果を期待ができると考えられた.BDに対して生物学的製剤導入の際にCADAは選択肢の一つとして非常に有用であり,また,IFXによる眼炎症コントロール不良例ではCADAへの変更も考慮に入れるべきである.ADAは自己注射で行えるために,病院拘束時間が短くなることも注目すべき点であり,若年男性に重症例の多いCBDにおいては治療選択における根拠の一つとなると考えられる.Deitchらは免疫抑制療法でコントロールできない小児の難治性非感染性ぶどう膜炎におけるCIFXとCADAの有効性を報告している12).当院では症例C3が小児ぶどう膜炎(BD)のCADA導入例であったが,IFX,ADAで効果がなく,TCZに変更になった.今回のようにCIFXやCADAで効果がない場合にCTNFではなくCIL-6をターゲットとする生物学的製剤が有効な症例もある13).VKHに関して,Coutoらはステロイド,免疫抑制薬でコントロール困難なCVKHにCADA追加によりステロイドの減量または離脱が可能であったと報告している14).当院でのVKHの治療方針として,ステロイドパルス療法後にCPSL内服(1Cmg/kg/日,またはC60Cmg/日の低い用量から開始)を漸減し,再燃を認める場合にはCPSLの増量とCCsA併用を行い,症例によっては年齢や全身状態などを考慮してCSTTAの併用を行っている.さらにCPSLとCCsA併用で再燃を認めたCVKHに対してCADAの導入を検討し,ADA導入後はCsAを終了している.今回CADA導入したC3例はすべて,症例C8のようにCCsA併用でCPSL投与量漸減中に再燃を認めた症例である.症例C8はCPSL投与量を維持したままCADAを追加したが,再燃を認めたため,PSLを増量した経緯から,症例C9と症例C10ではCADA導入前にCPSLの増量も行った.この結果から,VKHではCADA投与だけでは炎症のコントロールができない可能性があり,ADA導入とともにPSLの増量を考慮する必要があると考えられた.添付文書より,ADAの副作用は国内臨床試験で全体の82.9%に認められ,当院ではC5例(50%)に注射時反応を認めた.当院では症例C5は,ADAのみに強い投与時反応を認め,IFXに変更になった.一般的にCIFXがマウス蛋白とのキメラ型であるに対して,ADAは完全ヒト型のために,IFXのほうがアレルギー反応多いとされているが,ADAでも強いアレルギー反応を認める症例があり,注意が必要である.ADAの登場により難治性ぶどう膜炎に生物学的製剤を使用することが可能になった.当院でも既存治療で難治例に対して使用し,BDでは中断例以外は非常に有効であり,VKHに関しても有効であると考えられた.ADAは国内で認可されてから日が浅いために,疾患別の有効性,導入時期,併用PSLの漸減方法などが不明確である.また,今後導入した症例に対しては,中止するタイミングの検討も必要となる.当院でのCADAは症例数もまだ少なく,今後症例を増やしてADAの適切な治療の検討が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)TakeuchiM,KezukaT,SugitaSetal:Evaluationofthelong-termCe.cacyCandCsafetyCofCin.iximabCtreatmentCforCuveitisCinCBehcet’sdisease:aCmulticenterCstudy.COphthal-mologyC121:1877-1884,C20142)厚生労働省べ一チェット病診断基準:http://www.nanbyou.Cor.jp/upload_.les/Bechet2014_1,20143)ReadCRW,CHollandCGN,CRaoCNACetal:RevisedCdiagnosticCcriteriaCforCVogt-Koyanagi-Haradadisease:reportCofCanCinternationalCcommitteeConCnomenclatu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Vogt-小柳-原田病の再発と治療内容に関する検討

2018年5月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科35(5):698.702,2018cVogt-小柳-原田病の再発と治療内容に関する検討白鳥宙国重智之由井智子堀純子日本医科大学眼科学教室CClinicalRecurrenceandTreatmentsinPatientswithVogt-Koyanagi-HaradaDiseaseNakaShiratori,TomoyukiKunishige,SatokoYuiandJunkoHoriCDepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchoolVogt-小柳-原田病(VKH)の再発率,再発部位,再発時の治療内容について観察した.2008年C1月.2016年C8月に日本医科大学付属病院眼科を受診したCVKH患者(n=33)を対象に,診療録より後ろ向きに検討した.初診時の状態は,初発例がC24例,再発例がC1例,遷延例がC4例,他院で加療後の経過観察がC4例であった.治療経過中の再発は初発例のC24例中C6例(25.0%),再発・遷延例のC5例中C4例(80%)に認め,再発・遷延例では再発を繰り返す症例が高頻度であった.再発部位は前眼部型C6例,後眼部型C4例であった.前眼部型に対してはC2例を除いてステロイドの眼局所療法が有効であった.後眼部型に対してはステロイドとシクロシポリンの併用や,アダリムマブが有効であった.CThisretrospectivestudyinvolved33patientswithVogt-Koyanagi-HaradadiseasewhovisitedNipponMedicalSchoolHospitalfromJanuary2008toAugust2016.Subjectsincluded24freshcases,1recurrentcase,4prolongedcasesCandC4Cfollow-upCcasesCafterCtreatmentCatCotherChospitalsCatCtheCtimeCofCinitialCvisit.COfCtheC24CfreshCcases,C6experiencedrecurrentocularin.ammationduringfollow-up;theirrecurrenceratewas25.0%.Ofthe5recurrentorCprolongedCcases,C4CrecurredCagain;theirCrecurrenceCrateCwasC80%.CTheCsiteCofCrecurrenceCwasCclassi.edCintotwogroups:anteriorchambertype(6cases)andfundustype(4cases).Mostoftheanteriorchambertyperecur-rences,excepting2cases,werecuredbytopicalocularcorticosteroidtherapy;thefundustyperecurrenceswerecuredbyacombinationofsystemiccorticosteroidandcyclosporinetherapyoradalimumabtherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(5):698.702,C2018〕Keywords:Vogt-小柳-原田病,再発率,治療,シクロスポリン,アダリムマブ.Vogt-Koyanagi-Haradadisease,recurrencerate,treatments,cyclosporine,adalimumab.CはじめにVogt-小柳-原田病(Vogt-Koyanagi-HaradaCdisease:VKH)は,メラノサイトを標的とした自己免疫疾患と考えられており1),従来より,初期段階にステロイドパルス療法あるいはステロイド大量漸減療法による治療が行われている.VKHは,前駆期を経て眼病期(急性期)となり,治療を開始すると回復基調となることが一般的である1).しかしながら,治療に抵抗して再発を繰り返し,遷延型に移行するような難治症例では,網脈絡膜変性や続発緑内障などを合併し,視力予後は悪くなると報告されている2).そのため,再発率,遷延率,晩期続発症の合併頻度などを知っておくことが,臨床において患者の視力予後を予測するうえで有用である.今回筆者らは,日本医科大学付属病院眼科(以下,当施設)におけるCVKH患者の治療後の再発率,ならびに遷延率,再発部位,再発前後の治療方法,晩期続発症の発生率に関して検討を行ったので報告する.CI方法1.対象2008年C1月.2016年C8月までに当施設の眼炎症外来を受診し,6カ月以上の経過観察ができたCVKH患者C33例を対象とした.VKHの診断は,2001年の改定国際診断基準1)に準じて,完全型もしくは不完全型を満たすものとした.性別は,男性C16例,女性C17例であった.初診時平均年齢は,〔別刷請求先〕白鳥宙:〒113-8603東京都文京区千駄木C1-1-5日本医科大学眼科学教室Reprintrequests:NakaShiratori,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchool,1-1-5Sendagi,Bunkyo-ku,Tokyo113-8603,JAPAN698(134)男性C46.9C±18.1歳,女性C47.1C±13.4歳(平均値C±標準偏差)であった.平均観察期間は,44.0C±28.8カ月で,最短C6カ月,最長C109カ月であった.対象は,初診時の状態により,初発例C24例,初診時再発例C1例,初診時遷延例C4例,経過観察例C4例を含んだ.初診時再発例とは,他施設で加療後炎症が再燃したため,当施設初診となった症例とした.初診時遷延例とは,他院でC6カ月以上炎症が持続し,当施設初診となった症例とした.経過観察例とは,他施設で加療後炎症の再燃がなく,当施設初診となった症例とした.本研究は,ヘルシンキ宣言に準じており,日本医科大学付属病院倫理委員会の承認を得た.C2.検.討.事.項再発・遷延例の頻度,再発部位,再発時の治療内容,再発後の治療方法,晩期続発症の種類と頻度についてレトロスペクティブに診療録の解析を行った.なお,再発例とは経過中に一度消炎が得られたにもかかわらず,再度炎症が出現した症例とし,遷延例とはステロイド投与後もC6カ月を超えて内眼炎症が持続した症例とした.寛解とは,検眼鏡的に前房内細胞,硝子体内細胞,漿液性網膜.離が消失した時点とした.再発部位については,前房内細胞などの前眼部炎症のみのものを前眼部型とし,漿液性網膜.離を伴うものを眼底型表1初診時初発例(24例)における治療後の再発・遷延率症例数(%)再発あり遷延なし2例(8C.3%)再発かつ遷延4例(1C6.7%)再発なし18例(C75.0%)とした.続発緑内障については,経過中に複数回にわたり眼圧がC21CmmHgを超えたものと定義した.CII結果初発例については,全例にステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロンC1CgをC3日間連続投与)を施行したのち,翌日よりプレドニゾロンC1Cmg/kg/日程度から内服し,炎症の程度を見きわめながらC2.4週ごとにC5.10Cmg/日を減量する漸減療法が施行されていた.初発例(全C24例)のうち,治療後の再発例はC6例(25.0%)で,再発した結果C6カ月以上消炎できなかった再発かつ遷延例がC4例(16.7%)であった.非再発・非遷延例はC18例(75.0%)であった(表1).一方で,初診時再発・遷延例における再発は,全C5例中C4例(80%)で,初発例と比べて,その後も再発を繰り返す確率が高かった(表2).全再発症例の再発時について,ステロイドパルス療法後の経過週数,ステロイド投与量(体重換算),再発部位,当施設初診時の状態を表3に示した.再発時期は,プレドニゾロン内服漸減中の再発がC7例で,プレドニゾロン内服終了後の再発がC3例であった.再発時のステロイドパルス療法後の経過週数はC3.128週まで幅広かった.再発時のプレドニゾロ表2初診時の状態による再発率再発率初診時初発例25.0%(C6/24例)初診時再発・遷延例80.0%(C4/5例)初発例と比べて,再発・遷延例ではその後も再発を繰り返す確率が高かった.表3全対象33例中の再発症例のまとめ症例CNo.初診時再発部位再発時のパルス後週数(週)再発時のPSL内服量(mg/日)再発時のPSL内服量体重換算(mg/kg/日)C1初発例眼底型C3C40C0.59C2初発例前眼部型C8C25C0.45C3初発例眼底型C13C10C0.13C4初発例眼底型C17C5C0.082C5初発例眼底型C17PSL終了後C1週C6初発例前眼部型C36C5C0.065C7遷延例前眼部型C50C8C0.059C8再発例前眼部型C128PSL終了後C96週C9遷延例前眼部型不詳PSL終了後C10遷延例前眼部型パルスなしC5C0.086PSL:prednisolone(プレドニゾロン).表4前眼部型の再発時の治療症例CNo.(表C3と対応)初診時再発時のPSL投与量(mg/日)再発後の治療効果C2初発例C25+BSP点眼寛解C6初発例C5+DEX結膜下注射+PSL10mg/日へ増量寛解C7遷延例C8+BSP点眼寛解C8再発例PSL終了後+BSP点眼寛解C9遷延例C5+BSP点眼寛解C10遷延例PSL終了後PSL30mg/日+CyA150mg/日寛解PSL:prednisolone(プレドニゾロン),BSP:betamethasoneCphosphate(リン酸ベタメタゾン),DEX:dexamethasone(デキサメタゾン),CyA:cyclosporine(シクロスポリン).表5眼底型の再発時の治療症例CNo.(表C3と対応)初診時再発時のPSL投与量(mg/日)再発後の治療効果C1初発例C40ステロイドハーフパルス療法+後療法CPSL40Cmg(CyA100mg/日併用)寛解C3初発例C10PSL20mg/日+CyA150mg/日C↓CyA25mg/日+ADA40mg/週再発寛解C4初発例C5ステロイドパルス療法+後療法CPSL40Cmg(CyA100mg/日併用)寛解C5初発例PSL終了後PSL30mg/日再開+CyA100mg/日寛解PSL:prednisolone(プレドニゾロン),CyA:cyclosporine(シクロスポリン),ADA:adalimumab(アダリムマブ).ン投与量の平均は,14.0mg/日(0.21mg/kg/日)であったが,その内服量は5.40mg/日と症例によりばらつきがあった.再発例における再発部位は,前眼部型がC6例で,眼底型が4例であった.眼底型の再発は,ステロイドパルス療法後の経過週数が比較的短い時点での再発症例に多く,前眼部型の再発はステロイドパルス療法後の経過週数が比較的長い時点での再発症例に多かった.前眼部型の再発をした症例での再発後の治療を表4に示した.前眼部型の再発に対する治療は,デキサメタゾン結膜下注射やベタメタゾン点眼の追加などの眼局所療法が中心であった.眼局所療法の追加がされたC5例のうち,1例では消炎せずプレドニゾロン内服の増量を必要としたが,その他のC4例では眼局所療法の追加のみで炎症は寛解していた.また,プレドニゾロン全身投与とシクロスポリン全身投与の併用療法がされたC1例では,治療が有効であった.眼底型の再発をした症例について再発後の治療を表5に示した.眼底型の再発に対する治療は,ステロイド全身投与に加えて,シクロスポリン全身投与の併用を行い,全例で炎症は寛解していた.シクロスポリン開始時の投与量はC100.150Cmg/日(約C2Cmg/kg/日)で,血中シクロスポリン濃度(トラフ値:最低血中薬物濃度)がC50.100Cng/mlとなるように維持されていた.一方で,眼底型の再発に対してシクロスポリンを導入した症例のうち,1例でシクロスポリンの副作用と考えられる肝機能障害を認めた.このC1例では,シクロスポリン投与量を6カ月かけてC2Cmg/kg/日からC1Cmg/kg/日に漸減したところで再度の眼底型の再燃があった.この再燃に対しては,生物学的製剤であるアダリムマブの投与を行い,炎症は寛解し,シクロスポリンはC0.5Cmg/kg/日まで減量することができていた(表5,症例CNo.3).晩期続発症についての検討では,夕焼け状眼底がC15例(45.5%)に,網脈絡膜萎縮病巣がC6例(18.2%)に,続発緑内障がC6例(18.2%)に,脈絡膜新生血管がC2例(6.1%)にみられた.このうち,11カ月で夕焼け状眼底を呈した症例表6晩期続発症の発生率夕焼け状眼底網脈絡膜萎縮病巣続発緑内障脈絡膜新生血管最終視力低下(1C.0未満)全症例15例6例6例2例4例(3C3例)(4C5.5%)(1C8.2%)(1C8.2%)(6C.1%)(1C2.1%)再発・遷延例9例4例4例1例2例(1C0例)(9C0.0%)(4C0.0%)(4C0.0%)(1C0.0%)(2C0.0%)再発なし症例6例2例2例1例2例(2C3例)(2C6.1%)(8C.7%)(8C.7%)(4C.3%)(8C.7%)がC1例あったが,他の晩期続発症はC1年以上の経過症例にみられた.視力C1.0未満への最終視力低下がC4例(12.1%)にみられ,視力低下の原因は,2例が脈絡膜新生血管,2例が白内障の進行であった.再発・遷延例では,夕焼け状眼底,続発緑内障,脈絡膜新生血管などの晩期続発症が多い傾向があり,視力低下をきたす症例も多かった(表6).CIII考按VKHの再発率に関する過去の報告には,島ら3)のステロイドパルス療法後の再発率(遷延率)がC23.8%(19.0%)であったとの報告や,井上ら4)のステロイドパルス療法またはステロイド大量漸減療法後の再発率(遷延率)がC28.2%(18.8%)であったなどの報告がある.筆者らの研究では,初発例に対してはステロイドパルス療法にて初期治療を行い,再発率(遷延率)がC25.0%(16.7%)であり,既報とほぼ同様であった.漿液性網膜.離がメインのタイプより視神経乳頭腫脹型のほうが遷延型に移行しやすいという報告5)があるが,本研究の対象C33例では,視神経乳頭腫脹型はC1例のみで,そのC1例は再発も遷延もなかった.晩期続発症についての過去報告には,島ら3)の夕焼け状眼底がC42.9%,続発緑内障がC20.7%,脈絡膜新生血管がC0%との報告や,海外ではCAbuCEl-Asrarら6)の夕焼け状眼底が48.3%,続発緑内障がC20.5%,脈絡膜新生血管がC6.9%との報告や,Readら2)の続発緑内障がC27%,脈絡膜新生血管が11%などの報告がある.本研究では,夕焼け状眼底がC45.5%,続発緑内障がC18.2%に,脈絡膜新生血管がC6.1%にみられ,既報とほぼ同様であった.VKHは,メラノサイトを標的とした自己免疫疾患であり,細胞障害性CT細胞が病態の中心に関与している7)と考えられている.シクロスポリンはCTリンパ球の活動性を抑制する薬剤であり,2013年より非感染性の難治性ぶどう膜炎に対して保険適用となったこともあり,VKH治療に対する有効性が期待されている.実際にステロイド治療にて再発性・遷延性のCVKHに対して,シクロスポリンが有効であった報告が過去になされている8,9).ぶどう膜炎に対するシクロスポリンの投与量については,初期投与量C3Cmg/kg/日が適切とされており(ノバルティスファーマ:非感染性ぶどう膜炎におけるネオーラルRの安全使用マニュアル,2013年度版),福富ら8)は,眼底型の再発を繰り返すCVKHのC2症例で,初期投与量C3Cmg/kg/日でのシクロスポリン投与が有効であったと報告している.本研究でのシクロスポリン導入は,ステロイド内服と併用投与であり,全例でC2Cmg/kg/日で開始してトラフ値C50.100Cng/mlとなるように維持していたが,眼底型の再発症例における炎症の寛解に有用であった.本研究と同様に,遷延性CVKHに対して低用量シクロスポリン(100Cmg・1日C1回)投与を行った春田らの報告9)では,前眼部型・眼底型炎症ともに効果を認めるものの,眼底型炎症のほうがやや効果が弱い印象であったと報告しているが,筆者らの研究ではシクロスポリン導入時に再度のステロイドパルス療法または全身性ステロイド投与量の増量を併用していたことで有効性が増した可能性が考えられた.このように,難治性のCVKHの治療において,シクロスポリン併用療法は治療の有効な選択肢となるが,シクロスポリン導入時の適切な投与量については,今後さらなる検討が必要と考える.また,それ以外にも,シクロスポリン治療の導入時期,ステロイド併用時の投与量,シクロスポリン導入後の減量方法など,多くの面でいまだ一定のプロトコールがなく,今後多くの症例を積み重ねていくことで,シクロスポリン投与法が確立されることが期待される.アダリムマブは,2016年C10月に難治性ぶどう膜炎に対して保険適用となった生物学的製剤で,TNF-a阻害作用により抗炎症に働く.VKHに対するアダリムマブ使用の報告は少ないが,Coutoら10)はアダリムマブの導入により他の免疫抑制薬を減量できたと報告している.本研究でも,肝機能障害のためにシクロスポリンを減量せざるをえず,その結果,再度の眼底型の再燃をしてしまったC1例において,アダリムマブの投与が,炎症の寛解とシクロスポリンの減量に有効であった.VKHに対するアダリムマブの有効性や副作用についてはさらなる検討が必要であるが,有効な治療の選択肢の一つであると考えられた.文献1)ReadCRW,CHollandCGN,CRaoCNACetCal:RevisedCdiagnosticcriteriaCforCVogt-Koyanagi-HaradaCdisease:reportCofCanCinternationalCcommitteeConCnomenclature.CAmCJCOphthal-molC131:647-652,C20012)ReadCRW,CRechodouniCA,CButaniCNCetCal:ComplicationsCandCprognosticCfactorsCinCVogt-Koyanagi-HaradaCdisease.CAmJOphthalmolC131:599-606,C20013)島千春,春田亘史,西信良嗣ほか:ステロイドパルス療法を行った原田病患者の治療成績の検討.あたらしい眼科C25:851-854,C20084)井上留美子,田口千香子,河原澄枝ほか:15年間のCVogt-小柳-原田病の検討.臨眼65:1431-1434,C20115)OkunukiCY,CTsubotaCK,CKezukaCTCetCal:Di.erencesCinCtheclinicalfeaturesoftwotypesofVogt-Koyanagi-Hara-daCdisease:serousCretinalCdetachmentCandCopticCdiscCswelling.JpnJOphthalmolC59:103-108,C20156)AbuEl-AsrarAM,TamimiMA,HemachandranSetal:CPrognosticCfactorsCforCclinicalCoutcomeCinCpatientsCwithCVogt-Koyanagi-HaradaCdiseaseCtreatedCwithChigh-doseCcorticosteroids.ActaOphthalmolC91:e486-e493,C20137)SugitaCS,CTakaseCH,CTaguchiCCCetCal:OcularCin.ltratingCCD4+CTCcellsCfromCpatientsCwithCVogt-Koyanagi-HaradaCdiseaserecognizehumanmelanocyteantigens.InvestOph-thalmolVisSciC47:2547-2554,C20068)福富啓,眞下永,吉岡茉衣子ほか:シクロスポリン併用が有効であった副腎皮質ステロイド抵抗性のCVogt-小柳-原田病のC2症例.日眼会誌121:480-486,C20179)春田真実,吉岡茉衣子,福富啓ほか:遷延性CVogt-小柳-原田病に対する低用量シクロスポリン(100Cmg・1日C1回)投与の効果.日眼会誌121:474-479,C201710)CoutoCCA,CFrickCM,CJallazaCECetCal:AdalimumabCtreat-mentCinCpatientsCwithCVogt-Koyanagi-HaradaCSyndrome.CInvestOphthalmolVisSciC55:5798,C2014***

非典型的な経過をたどった原田病と考えられた1例

2017年11月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科34(11):1622.1624,2017c非典型的な経過をたどった原田病と考えられた1例多田篤史西村智治町田繁樹獨協医科大学越谷病院眼科CAtypicalCaseofVogt-Koyanagi-HaradaSyndromewithSpontaneousResolutionAtsushiTada,TomoharuNishimuraandShigekiMachidaCDepartmentofOphthalmology,DokkyoMedicalUniversityKoshigayaHospital目的:漿液性網膜.離(SRD)と脈絡膜の肥厚が認められたが,Vogt-小柳-原田病(原田病)の診断に至らず,経過観察した症例を報告する.症例:症例はC29歳女性で出産後C8カ月の授乳婦である.1カ月前からの視力低下を主訴に紹介受診した.眼外症状なし.初診時の矯正視力は両眼C1.0で,光干渉断層計(OCT)では,両黄斑部のCSRDおよび脈絡膜肥厚が認められた.蛍光眼底造影では本症の典型的所見はみられなかった.原田病を疑ったが,授乳婦であったため,ステロイド全身投与は行わず厳重に経過観察した.SRDおよび脈絡膜肥厚は,それぞれ初診からC1およびC2カ月で消失した.自覚症状は改善したが,夕焼け状眼底を呈した.初診からC17カ月まで炎症の再燃はなく経過した.結論:本症例は,経過観察中に脈絡膜肥厚の改善および夕焼け状眼底が観察されたことから,軽症で非典型的な原田病と考えられ,ステロイド治療なしでも寛解が得られた.CPurpose:WeobservedacaseinwhichVogt-Koyanagi-HaradaSyndrome(Harada’sdisease)washighlysus-pectedCbecauseCofCtheCpresenceCofCbilateralCmacularCdetachmentCandCchoroidalCthickening.CCasereport:A29-year-oldfemalevisiteduscomplainingofblurredvisioninbotheyes.Shehadserousretinaldetachmentsandchoroidalthickeningthatdidnotshowtypicalangiographic.ndings.AlthoughHarada’sdiseasewassuspected,shewasCobservedCwithoutCsystemicCadministrationCofCcorticosteroidsCbecauseCsheCwasClactating.CTheCserousCretinalCdetachmentsandchoroidalthickeningdisappeared1and2monthsaftertheinitialvisit,respectively.Sunsetfundidevelopedwithoutleavingintraocularin.ammatorychangesonthefollowingvisits,until17months.Conclusions:CSinceimprovementofchoroidalthickeninganddevelopmentofsunsetfundiwereseenduringobservation,shewasdiagnosedashavingHarada’sdisease.TherecanbecasesofHarada’sdiseasewithmildin.ammationinwhichsys-temicadministrationofhigh-dosecorticosteroidsmaynotbenecessary.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(11):1622.1624,C2017〕Keywords:Vogt-小柳-原田病,漿液性網膜.離,脈絡膜肥厚,夕焼け状眼底,授乳婦.Vogt-Koyanagi-Haradadisease,serousretinaldetachment,choroidalthickening,sunsetfundus,lactating.CはじめにVogt-小柳-原田病(以下,原田病)は,全身のメラノサイトに対する自己免疫反応による汎ぶどう膜炎である.症状は,前駆期に感冒様症状が多く,眼外症状では,耳鳴り,難聴,頭皮違和感などが認められる.急性期所見では,肉芽腫性の前眼部炎症,毛様体の浮腫と脈絡膜.離による浅前房,両眼性の胞状・多房性の漿液性網膜.離および視神経乳頭の浮腫がみられ,回復期の所見として,夕焼け状眼底および眼底周辺部の斑状網脈絡膜萎縮病巣などがあげられる1).治療としてはステロイド大量投与あるいはステロイドパルス療法が行われ,治療後の視機能は良好である.今回筆者らは,両側の漿液性網膜.離と脈絡膜の肥厚が認められたが,典型的な造影所見を呈さず,軽症の原田病と考えられた一例を経験した.授乳婦であったため,ステロイド全身投与を行わず経過観察したところ,夕焼け状眼底を呈して治癒した.眼所見,経過および原田病の国際診断基準2)から,probableCVogt-Koyanagi-HaradaCsyndromeと思われた原田病と考えられた.〔別刷請求先〕町田繁樹:〒343-8555埼玉県越谷市南越谷C2-1-50獨協医科大学越谷病院眼科Reprintrequests:ShigekiMachida,M.D.,DepartmentofOphthalmology,DokkyoMedicalUniversityKoshigayaHospital,2-1-50Minamikoshigaya,Koshigaya,Saitama343-8555,JAPAN1622(138)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(138)C16220910-1810/17/\100/頁/JCOPYI症例患者:29歳,女性.主訴:1カ月前から両眼の霧視感.既往歴:橋本病(経過観察),授乳婦,アレルギー歴や常用の内服薬なし,妊娠高血圧症などの既往はない.現病歴:数日前から両眼の霧視感で近医を受診した.両眼底の視神経乳頭から黄斑にかけて漿液性網膜.離が認められ,ピット黄斑症候群の疑いで当院へ紹介受診となった.頭痛,難聴,感冒様症状などの全身症状はなかった.初診時所見:視力は,右眼C1.0(1.0C×.0.75D),左眼C1.0(1.0C×.1.00D),眼圧は両眼11mmHgであった.細隙灯顕微鏡検査では前房および硝子体内に炎症所見はなく,眼底所見として,両眼の黄斑部に漿液性網膜.離が認められたが,視神経乳頭に乳頭小窩は観察されなかった(図1a,b).また,図1初診時の眼底所見とフルオレセイン蛍光眼底造影の後期像右眼左眼初診時初診から1週間後初診から2カ月後図3初診時,初診から1週および2カ月の光干渉断層像矢印は脈絡膜と強膜との境界を示している.眼底の色調は正常であった.前房隅角所見では,周辺虹彩前癒着はなく,軽度の色素沈着が観察された.フルオロセイン蛍光眼底造影(fluoresceinCangiography:FAG)(図1c,d),およびインドシアニングリーン蛍光眼底造影検査(indocya-ninCgreenCangiography:ICGA)でも,後期の低蛍光斑を含めた特徴的な所見は認められなかった(図2).光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomography:OCT)検査では,両眼の黄斑部の網膜.離が認められ,脈絡膜の肥厚が疑われた(図3).全身検査所見:採血結果はASTC17U/l,ALT11U/l,ALPC165CU/l,LDH367CU/l,gGTPC17CU/l,CNaC140Cmmol/l,KC4.1Cmmol/l,CUNC9Cmg/dl,CrC0.7Cmg/dl,WBCC7300/ul,RBCC464万/ul,PLT33.5万/ul,CRPC0.06Cmg/dl.HLA検査ならびに髄液検査は患者から同意が得られず,施行しなかった.経過:難聴,頭痛,皮膚症状などの身体症状に乏しかったが,漿液性網膜.離および脈絡膜肥厚疑いの眼底所見およびOCT所見から原田病を疑った.鑑別診断として,中心性漿液性網脈絡膜症,後部強膜炎,uvealCe.usionCsyndromeおよび妊娠中毒症があげられたが,FAGおよびCICGAでこれ図2初診時のインドシアニングリーン赤外蛍光眼底造影上段:初期像,下段:後期像.C図4初診から3カ月後の眼底所見(139)Cあたらしい眼科Vol.34,No.11,2017C1623らの疾患を示唆する所見は認められなかった.原田病の確定診断に至らず授乳婦であり,ステロイドの全身投与が授乳に与える影響を考慮し,患者と相談のうえ,無治療で厳重に経過観察とした.また,前眼部の炎症も認められなかったため,ステロイド点眼も行わなかった.初診からC1週間後,視力は両眼C1.2(n.c.)となり,霧視感は改善した.OCTでは両眼とも漿液性網膜.離は減少していた(図3).漿液性網膜.離は初診からC1カ月後で消失した.初診からC2カ月後,漿液性網膜.離の再発はなく,脈絡膜と強膜の境界線が明瞭となり(図3,矢印),脈絡膜の肥厚が改善していた.初診からC3カ月後には眼底の色素は脱失し,いわゆる夕焼け状眼底を呈した(図4).初診からC17カ月まで漿液性網膜.離の再発ならびに炎症所見はみられずに経過している.経過中に皮膚白斑や白髪などの全身所見はみられなかった.CII考按本症例は,経過観察のみで治癒した軽症型の原田病と考えられる.原田病は診断後早期にステロイド全身投与することが多い3).ステロイドにより経過が修飾され,本来の重症度の評価が困難である3).また,軽症例の明確な基準はなく,報告も少ない3).筆者が調べた限り,無治療で緩解した報告は非常に少なく3,4),本症例は貴重なC1症例と考えられる.本症例は授乳婦であり,ステロイド全身投与を回避した.ステロイドの母乳への移行は,母体血中濃度のC5.25%程度と報告され5),ステロイドが乳児に移行する場合,乳児の成長障害が問題となる5,6).したがって,授乳婦に対して大量ステロイド療法を行う場合は,ステロイド投与と授乳の間隔を設けることや,母乳からミルクに切り替えることを考慮する必要がある.本症例の初診時では,漿液性網膜.離および脈絡膜肥厚疑いの所見が原田病に合致したが,炎症所見がなく,造影所見は典型的所見を呈さなかった.初診時に原田病の診断に至らなかったが,経過中に夕焼け状眼底を呈したことで原田病と確定診断できた.本症例のように,夕焼け状眼底により原田病と確定診断した症例は報告されている7).一方で,速やかに消炎した場合,回復期に夕焼け状眼底を呈さないことがある3).夕焼け状眼底は必ずしも無症状ではなく,コントラスト感度の低下あるいは後天性色覚異常が報告されている7).ステロイドパルス療法を行った場合,夕焼け状眼底の頻度が少なく視力予後が良好であったとの報告があり6),速やかな消炎により夕焼け状眼底を回避できると考えられ,本症例のように経過観察のみの軽症例が夕焼け状眼底を呈しやすいのかもしれない3).本症例が軽症型として発症した原因として,妊娠もしくは授乳が要因の可能性がある.免疫寛容状態にある妊婦は原田病に罹患しにくいとういう報告もある6).過去の報告では,妊娠中に発症した原田病に対し,ステロイドパルス療法もしくはステロイドCTenon.下注射など局所治療により,いずれも緩解し,比較的良好な経過をたどっている8.11).原田病が妊娠を契機に自然軽快あるいは妊娠中に自然治癒したとの報告がある12).授乳期における原田病の発症は,筆者が調べた限りその報告はなく,授乳と原田病の経過との関係は不明である.しかし,ぶどう膜炎と月経との関連を指摘する報告では,エストロゲンやプロゲステロンなどの性ホルモンとぶどう膜炎の消長との間の関連を推察しており12),月経直前から月経中に症状が悪化する症例が報告されている.授乳期では月経が休止するため,原田病の自然経過に好影響を与えた可能性がある.文献1)丸尾敏夫,本田孔子,薄井正彦ほか:ぶどう膜,眼科学第2版(大鹿哲郎編),p307-310,文光堂,20112)RussellCWR,CCaryCNH,CNarsingCARCetCal:RevisedCdiag-nosticCcriteriaCforCVogt-Koyanagi-HaradaCdisease:reportCofCanCinternationalCcommitteeConCnomenclature.CAmCJOphthalmolC131:647-652,C20013)早川むつ子,穂積沙紀,小沢佳良子ほか:原田病軽症例の臨床所見.眼臨C87:637-644,C19934)NoharaCM,CNoroseCK,CSegawaCK:Vogt-Koyanagi-HaradaCdiseaseCduringCpregnancy.CBrCJCOphthalmolC79:94-95,C19955)蕪城俊克:眼科におけるステロイド大量全身投与目的,薬剤選択と投与量,投与前検査,注意すべき症例.眼科C58:285-291,C20166)小林崇俊,丸山耕一,庄田裕美ほか:妊娠初期のCVogt-小柳-原田病にステロイドパル療法を施行したC1例.あたらしい眼科C32:1618-1621,C20157)安積淳:Vogt-小柳-原田病(症候群)の診断と治療1.病態:定型例と非定型例.眼科47:929-936,C20058)奥貫陽子,後藤浩:【眼科薬物療法】ぶどう膜Vogt-小柳-原田病.眼科54:1345-1352,C20129)MiyataCN,CSugitaCM,CNakamuraCSCetCal:TreatmentCofCVogt-Koyanagi-Harada’sCdiseaseCduringCpregnancy.CJpnJOphthalmolC45:177-180,C200110)松本美保,中西秀雄,喜多美穂里:トリアムシノロンアセトニドのテノン.下注射で治癒した妊婦の原田病のC1例.眼紀C57:614-617,C200611)正木究岳,林良達,劉百良ほか:トリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射が奏効した妊婦の原田病のC1例.あたらしい眼科C28:711-714,C201112)高橋任美,杉田直,山田由季子ほか:ぶどう膜炎と月経との関係に関する調査.臨眼C63:1281-1283,C2009***(140)

光干渉断層計を用いて網膜神経節細胞複合体厚の経時的変化を観察できたVogt-小柳-原田病の3例

2016年11月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科33(11):1666?1672,2016c光干渉断層計を用いて網膜神経節細胞複合体厚の経時的変化を観察できたVogt-小柳-原田病の3例荒木俊介*1,2後藤克聡*1,2三木淳司*1,2,3水川憲一*4山下力*1,3桐生純一*1*1川崎医科大学眼科学1教室*2川崎医療福祉大学大学院医療技術学研究科*3川崎医療福祉大学医療技術学部感覚矯正学科*4医療法人明世社白井病院ThreeCasesofVogt-Koyanagi-HaradaDiseaseinwhichRetinalGanglionCellComplexThicknessWasObservedUsingOpticalCoherenceTomographySyunsukeAraki1,2),KatsutoshiGoto1,2),AtsushiMiki1,2,3),KenichiMizukawa4),TsutomuYamashita1,3)andJunichiKiryu1)1)DepartmentofOphthalmology1,KawasakiMedicalSchool,2)GraduateSchoolofHealthScienceandTechnology,KawasakiUniversityofMedicalWelfare,3)DepartmentofSensoryScience,FacultyofHealthScienceandTechnology,KawasakiUniversityofMedicalWelfare,4)ShiraiEyeHospital目的:Vogt-小柳-原田病(VKH)において,スペクトラルドメイン光干渉断層計(RTVue-100R,OptovueInc.)を用いて神経節細胞複合体(GCC)厚および乳頭周囲網膜神経線維層(cpRNFL)厚の経時的変化を観察できた3症例を報告する.症例:症例1は42歳,女性で後極部の病変を認めない乳頭浮腫型VKH,症例2は65歳,男性で乳頭の炎症所見を伴わない後極型VKH,症例3は61歳,男性で乳頭の炎症所見を伴った後極型VKHであった.症例1および症例2は,経過を通じてGCCおよびcpRNFLの菲薄化を認めなかった.一方で,症例3は網膜外層の萎縮部位に対応した領域でGCCの菲薄化を認めた.結論:乳頭炎症所見が顕著であった乳頭浮腫型VKHは,乳頭の炎症を認めないVKHと同様にGCCおよびcpRNFLの菲薄化がみられなかった.VHKにおける乳頭浮腫は続発性の視神経障害をきたさないことが示唆された.Purpose:Wereport3casesofVogt-Koyanagi-Haradadisease(VKH)inwhichthetimecoursesofganglioncellcomplex(GCC)andcircumpapillaryretinalnervefiberlayer(cpRNFL)thicknesswereobservedusingspectral-domainopticalcoherencetomography(SD-OCT).Cases:Patient1,a42-year-oldfemale,wasdiagnosedwithperipapillaryedematypeVKH.Patient2,a65-year-oldmale,wasdiagnosedwithposteriortypeVKHwithoutopticdiscedema.Patient3,a61-year-oldmale,wasdiagnosedwithposteriortypeVKHwithopticdiscedema.Patients1and2didnotshowthinningoftheGCCorcpRNFLthroughoutthecourse.Patient3,however,showedthinningoftheGCCintheareacorrespondingtoatrophyoftheretinalouterlayer.Conclusion:VKHwithopticdiscedemadidnotexhibitthinningoftheGCCandcpRNFLsimilarlytoVKHwithoutopticdiscedema.ItissuggestedthattheopticdiscswellinginVHKdoesnotcauseopticnervedysfunction.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(11):1666?1672,2016〕Keywords:Vogt-小柳-原田病,乳頭浮腫,光干渉断層計,網膜神経節細胞複合体,乳頭周囲網膜神経線維層.Vogt-Koyanagi-Haradadisease,opticdiscedema,opticalcoherencetomography,ganglioncellcomplex,circumpapillaryretinalnervefiberlayer.はじめにVogt-小柳-原田病(Vogt-Koyanagi-Haradadisease:VKH)は,ぶどう膜炎を主とする眼症状および白髪,難聴,髄膜炎などの眼外症状を呈する全身性疾患で,メラノサイト特異的自己免疫疾患が本態と考えられている1).VKHの急性期では,眼底所見としてぶどう膜炎に伴う漿液性網膜?離や視神経乳頭浮腫を呈するが,まれに前眼部炎症を伴わず,乳頭浮腫以外の眼底病変が欠落するもの(乳頭浮腫型VKH)がある2).そのような場合,視神経炎などの乳頭の炎症所見を伴う疾患との鑑別が困難となる.近年,スペクトラルドメイン光干渉断層計(spectral-domainopticalcoherencetomography:SD-OCT)の登場で,網膜厚の精細な定量的評価が可能となった.緑内障では視神経の障害を神経節細胞複合体(ganglioncellcomplex:GCC)厚や乳頭周囲網膜神経線維層(circumpapillaryretinalnervefiberlayer:cpRNFL)厚の減少としてとらえることができる3).また,特発性視神経炎4)や虚血性視神経症5),外傷性視神経症6)などの視神経疾患においても視神経障害に伴うGCCやcpRNFLの菲薄化が報告されている.以前,筆者らは視神経乳頭炎において,治療によって乳頭浮腫および視機能が改善した後もGCCおよびcpRNFLの菲薄化が進行したことを報告した4).VKHの急性期においてもしばしば視神経乳頭炎に類似した乳頭の発赤や浮腫を伴うが,これまでVKHにおいてGCC厚およびcpRNFL厚の測定により網膜神経節細胞の障害を検討した報告は筆者らの知る限りない.今回,GCC厚およびcpRNFL厚の経時的変化を観察することができた乳頭浮腫型VKH,乳頭の炎症所見を認めなかった後極型VKH,および乳頭の炎症所見を伴った後極型VKHの3症例を報告する.なお,本研究は本学倫理委員会の承認を得ており,また,患者の同意を得て実施した.I症例〔症例1〕42歳,女性.主訴:両眼の充血と霧視.既往歴,家族歴:特記事項なし.現病歴:2011年1月中旬,両眼の充血と霧視を自覚し,近医を受診した.その3日後,VKH疑いで,川崎医科大学附属病院眼科(以下,当科)を紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼1.2(1.5×cyl?0.50DAx100°),左眼1.5(矯正不能),眼圧は右眼18mmHg,左眼19mmHgであった.ハンディフリッカHFR(NEITZ)による中心フリッカー(criticalflickerfrequency:CFF)値は右眼36Hz,左眼37Hzで,相対的瞳孔求心路障害(relativeafferentpupillarydefect:RAPD)は陰性であった.前眼部は両眼の豚脂様角膜後面沈着物および前房内細胞遊出を認めた.眼底は両眼の視神経乳頭の発赤と浮腫がみられ,フルオレセイン蛍光眼底造影検査(fluoresceinangiography:FA)では両眼の視神経乳頭からの蛍光漏出を認めた(図1).髄液検査では,髄液細胞数が113.7/3mm3と増多していた.以上の結果から乳頭浮腫型VKHと診断された.経過:即日入院とし,ソルメドロール1,000mgによるステロイドパルス療法を1クール施行後,プレドニゾロン内服50mg/dayから漸減療法を行った.前眼部の炎症所見および乳頭浮腫は軽快傾向にあったが,治療開始後2.5カ月で視神経乳頭の浮腫が再燃したため,再度ステロイドパルス療法を1クール施行し,プレドニゾロン内服40mg/dayから漸減療法を行った.その後,前眼部の炎症所見および乳頭浮腫は軽快し,治療開始から約2年間の経過観察を行ったが再発はなく,視力は経過を通じて良好であった.SD-OCT(RTVue-100R,softwareversion4.0;OptovueInc.)による平均GCC厚(右眼/左眼)は治療開始後2.5カ月で96.17/92.63μm,6カ月で89.82/95.60μm,12カ月で93.99/96.31μmであった(図4).また,平均cpRNFL厚(右眼/左眼)は治療開始後2.5カ月で194.64/145.70μm,6カ月で106.72/100.31μm,12カ月で112.38/106.23μmであった(図5).両眼の平均GCC厚は経過を通じて明らかな変化を認めず,平均cpRNFL厚は治療開始6カ月後で減少し,6カ月後と12カ月後では明らかな変化はなかった.また,平均GCC厚および平均cpRNFL厚の確率的評価では,両眼ともに経過を通じて,正常データベースと比較して有意な減少はみられなかった(p>0.05).なお,GCC厚は内蔵のGCCスキャンプログラム用い,中心窩から耳側1mmの部位を中心とした直径6mmの範囲を解析した.cpRNFL厚はONHスキャンプログラムを用い,乳頭中央を中心とした直径3.45mmの円周上の厚みを解析した.また,それぞれの解析に用いたデータは,SignalStrengthIndexが50以上得られ,セグメンテーションエラーのないものを採用した.〔症例2〕65歳,男性.主訴:両眼の視力低下.既往歴:40年前,右耳に溶接の火花が入り,難聴あり.現病歴:2013年3月初旬,両眼の視力低下を自覚し,近医を受診した.VKHを疑われ,翌日に当科を紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼0.7(0.8×?0.50D),左眼0.1(0.9×+1.50D),眼圧は右眼15mmHg,左眼12mmHgであった.前眼部の炎症所見は明らかでなかった.眼底は両眼性の漿液性網膜?離が散在していたが,視神経乳頭の発赤および浮腫はなかった.FAでは,両眼の漿液性網膜?離に一致した網膜下への蛍光貯留を認めたが,視神経乳頭からの蛍光漏出はなかった(図2).髄液検査では,髄液細胞数の増多は認めなかったが,典型的な眼底所見からVKHと診断された.経過:即日入院とし,ソルメドロール1,000mgによるステロイドパルス療法を3クール施行後,プレドニゾロン内服50mg/dayから漸減療法を行った.視力は治療後2.5カ月で右眼(1.2),左眼(1.2)と改善がみられた.両眼の漿液性網膜?離は治療開始後1カ月の時点で消失し,12カ月後では両眼ともに夕焼け状眼底を呈していた.平均GCC厚(右眼/左眼)は治療開始後2.5カ月で94.59/95.14μm,6カ月で93.86/93.24μm,12カ月で93.01/94.37μmであった(図4).また,平均cpRNFL厚(右眼/左眼)は治療開始後2.5カ月で106.21/97.81μm,6カ月で108.23/102.31μm,12カ月で104.86/100.10μmであった(図5).両眼の平均GCC厚および平均cpRNFL厚は,経過を通じて明らかな変化がなかった.また,平均GCC厚および平均cpRNFL厚の確率的評価では,両眼ともに経過を通じて,正常データベースと比較して有意な減少はみられなかった(p>0.05).〔症例3〕61歳,男性.主訴:両眼の変視症.既往歴:2013年11月中旬に抜歯.現病歴:2013年11月下旬,約1カ月前からの変視症を自覚し,近医を受診した.両眼後極部の網膜下液と右眼の乳頭黄斑間の網膜膨化を認め経過観察を行っていたが,増悪したため12月初旬に当科を紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼0.4(1.2×-1.00D(cyl?1.00DAx100°),左眼0.3(1.0×+1.25D(cyl?0.50DAx90°),眼圧は右眼15mmHg,左眼19mmHgであった.CFF値は右眼33Hz,左眼21Hzで,RAPDは陰性であった.前眼部の炎症所見は明らかでなかった.眼底は両眼性の漿液性網膜?離および視神経乳頭の発赤と浮腫がみられた.さらに,右眼黄斑部下方および左眼黄斑部耳側に網膜色素上皮の変性を認めたが,夕焼け状眼底や明らかな網脈絡膜萎縮病巣は認めなかった.FAでは,両眼の漿液性網膜?離に一致した網膜下への蛍光貯留,視神経乳頭からの蛍光漏出,網膜色素上皮の変性部位に一致したwindowdefectを認めた(図3).髄液検査では,髄液細胞数が54.0/3mm3と増多していた.以上の結果からVKHと診断された.経過:3日後に当科入院し,翌日からソルメドロール1,000mgによるステロイドパルス療法を1クール施行した.1クール終了後の視力は右眼(1.5),左眼(0.7)で左眼の漿液性網膜?離は残存していた(図6a).患者の都合により長期間の入院が困難であったため,ステロイドパルス療法2クール目を施行後に退院し,その1週間後から3クール目を施行した.その後,プレドニゾロン内服40mg/dayから漸減療法を行った.治療開始から約1カ月後には,左眼の漿液性網膜?離は軽快傾向にあり,乳頭の発赤と浮腫は両眼ともに改善していた.治療開始後約3カ月には,視力は右眼(1.5),左眼(1.5)と改善し,両眼の漿液性網膜?離は消失したが,左眼の耳側領域で網膜外層の菲薄化を認めた(図6b).平均GCC厚(右眼/左眼)は治療開始後1カ月で100.04/85.22μm,2カ月で98.02/84.67μm,3カ月で99.83/86.10μmであった(図7a).また,平均cpRNFL厚(右眼/左眼)は治療開始後1カ月で126.25/118.22μm,2カ月で119.54/111.88μm,3カ月で117.04/111.16μmであった(図7b).平均GCC厚および平均cpRNFL厚は,両眼ともに経過を通じて明らかな変化がなかったが,治療開始後1カ月で左眼の平均GCC厚は右眼に比して減少していた.しかし,平均cpRNFL厚は右眼と左眼で明らかな差がみられなかった.平均GCC厚および平均cpRNFL厚の確率的評価は,治療後3カ月で両眼ともに正常範囲内(p>0.05)であった.しかし,左眼のGCCsignificancemapでは,網膜外層の菲薄化部位に一致した耳側領域に菲薄化(p<0.01)を認め,局所的なGCC厚の減少を示すfocallossvolume(FLV)は11.50%と異常値(p<0.01)を示した(図6c).II考按乳頭浮腫型VKHの症例1,および乳頭の炎症所見を伴わない後極型VKHの症例2は,ともに経過を通じてGCCおよびcpRNFLの菲薄化を認めなかった.一方で,経過観察中に網膜外層の萎縮を呈した症例3では,網膜外層の萎縮部位に応じた領域でGCCの菲薄化がみられた.今回の3症例は,いずれも眼外傷や内眼手術の既往はなく,症例1および症例3はVKHの国際診断基準7)を満たしていた.症例2は診断基準に必要な眼外所見がなかったが,病後期に夕焼け状眼底となり,典型的な眼底所見からVKHと診断された.症例1の乳頭浮腫型VKHにおいて,cpRNFL厚は治療開始6カ月後に減少したが,乳頭浮腫改善後のcpRNFL厚は経過を通じて正常範囲内であった.乳頭浮腫を有する眼ではcpRNFL厚が正常眼に比べ肥厚するとされている8).したがって,症例1でみられたcpRNFL厚の減少は,炎症による軸索輸送障害によって誘発されたcpRNFLの肥厚が,治療による消炎に伴い改善したものであり,炎症による神経線維障害の進行を反映したものではなかったと考えられる.症例1と症例2において,GCCおよびcpRNFLは経過を通じて明らかな菲薄化を認めなかった.VKHはメラノサイトに対する自己免疫疾患であり,メラノサイトはくも膜にも存在するため,VKHでは髄膜炎が生じる.そのためVKHでは髄鞘内に炎症が留まっている状態であり,視神経の直接障害はない2)とされている.また,VKHでは0.1未満に視力が低下していても,CFF値は軽度低下に留まる9)ことが知られており,ぶどう膜炎の視神経の障害は特発性視神経炎などと比較して軽微であるとされている10).しかし,筆者らの知る限りVKHにおけるGCC厚およびcpRNFL厚の経時的変化を検討した報告はない.今回,乳頭浮腫を伴うVKHでは治療後,明らかな神経節細胞の障害はきたさないことが他覚的に評価できたと考えられる.治療により視機能が改善した後にも神経節細胞や神経線維の障害が進行する視神経疾患4?6)とは異なる病態を示した.症例3では,治療開始後早期から右眼に比して左眼のGCC厚が減少していた.しかし,網膜神経節細胞の軸索を評価しているcpRNFL厚は右眼と左眼で明らかな差を認めなかった.cpRNFLに菲薄化がみられなかった理由としては,GCCの障害部位が限局していたためcpRNFL厚の減少として反映されなかったと考えられる.左眼GCC厚の減少については,GCCが菲薄化した部位に一致して網膜外層が萎縮を呈したことより,網膜下液の遷延もしくは炎症性変化に伴った視細胞のアポトーシスが生じ,順行性に網膜神経節細胞萎縮を生じた可能性がある.また,初診時のFAで左眼黄斑部耳側にwindowdefectがみられており,過去に何らかの疾患による滲出性変化が生じたことで網膜外層の菲薄化や網膜色素上皮障害がすでに存在していた可能性も否定できない.そのため,左眼GCCの菲薄化は,過去の網膜外層や網膜色素上皮の障害を反映した結果かもしれない.VKHによる漿液性網膜?離とGCC菲薄化の関連性について,今後症例数を増やしての検討が必要である.一方で,これまで乳頭浮腫を伴うVKHで虚血性視神経症を合併した症例がいくつか報告されている11,12).虚血性視神経症では,GCCおよびcpRNFLが経時的に菲薄化する5)ため,網膜外層の萎縮に関連した網膜神経節細胞萎縮との鑑別に注意が必要であると思われる.今回,急性期に乳頭の炎症所見を呈する乳頭浮腫型VKHと乳頭の炎症所見を伴わない後極型VKHにおいて,GCC厚およびcpRNFL厚の経時的変化を観察した.VKHにおける乳頭浮腫は,続発性の視神経障害をきたさないことが示唆されたが,一方で網膜外層の萎縮に関連した網膜神経節細胞萎縮を認めた症例も経験した.乳頭浮腫を伴ったVKHにおいてGCC厚やcpRNFL厚を評価することは,病態の把握に有用であると考えられる.文献1)杉浦清治:Vogt-小柳-原田病.臨眼33:411-424,19792)中村誠:乳頭が腫れていたら.あたらしい眼科24:1553-1560,20073)KimNR,LeeES,SeongGJetal:Structure-functionrela-tionshipanddiagnosticvalueofmacularganglioncellcomplexmeasurementusingFourier-domainOCTinglaucoma.InvestOphthalmolVisSci51:4646-4651,20104)後藤克聡,水川憲一,三木淳司ほか:神経節細胞複合体の急激な菲薄化を認めた小児視神経炎の2例.日眼会誌117:1004-1011,20135)GotoK,MikiA,ArakiSetal:Timecourseofmacularandperipapillaryinnerretinalthicknessinnon-arteriticanteriorischemicopticneuropathyusingspectral-domainopticalcoherencetomography.NeuroOphthalmology40:74-85,20166)荒木俊介,後藤克聡,水川憲一ほか:光干渉断層計を用いて神経節細胞複合体厚および乳頭周囲網膜神経線維層厚の経時的変化を観察できた小児外傷性視神経症の1例.あたらしい眼科31:763-768,20147)ReadRW,HollandGN,RaoNAetal:ReviseddiagnosticcriteriaforVogt-Koyanagi-Haradadisease:reportofaninternationalcommitteeonnomenclature.AmJOphthalmol131:647-652,20018)MenkeMN,FekeGT,TrempeCL:OCTmeasurementsinpatientswithopticdiscedema.InvestOphthalmolVisSci46:3807-3811,20059)三村康男:ブドウ膜炎の診断,治療と医原性の問題について,第4章各疾病の診断と治療,IIVogt-小柳-原田病.日本の眼科48:190-194,197610)毛塚剛司:視神経炎をみたら.あたらしい眼科30:731-737,201311)YokoyamaA,OhtaK,KojimaHetal:Vogt-Koyanagi-Haradadiseasemasqueradinganteriorischemicopticneuropathy.BrJOphthalmol83:123,199912)NakaoK,MizushimaY,AbematsuNetal:AnteriorischemicopticneuropathyassociatedwithVogt-Koyanagi-Haradadisease.GraefesArchClinExpOphthalmol247:1417-1425,2009〔別刷請求先〕荒木俊介:〒701-0192倉敷市松島577川崎医科大学眼科学1教室Reprintrequests:SyunsukeAraki,DepartmentofOphthalmology1,KawasakiMedicalSchool,577Matsushima,Kurashiki701-0192,JAPAN図1症例1の初診時眼底所見a:蛍光眼底造影所見.両眼に視神経乳頭からの蛍光漏出を認めた.b:黄斑部OCT所見(水平断).両眼ともに黄斑部の滲出性変化は認めなかった.c:乳頭部OCT所見(水平断).両眼ともに乳頭浮腫を認めた.OCT:opticalcoherencetomography.図2症例2の初診時眼底所見a:蛍光眼底造影所見.両眼の漿液性網膜?離に一致した網膜下への蛍光貯留を認めたが,視神経乳頭からの蛍光漏出は認めなかった.b:黄斑部OCT所見(水平断).両眼ともに黄斑部の漿液性網膜?離を認めた.c:乳頭部OCT所見(水平断).両眼ともに乳頭浮腫は認めなかった.OCT:opticalcoherencetomography.図3症例3の初診時眼底所見a:蛍光眼底造影所見.両眼の漿液性網膜?離に一致した網膜下への蛍光貯留と視神経乳頭からの蛍光漏出を認めた.また,右眼黄斑部下方および左眼黄斑部耳側にwindowdefectを認めた.b:OCT所見(水平断).両眼ともに黄斑部の漿液性網膜?離および乳頭浮腫を認めた.OCT:opticalcoherencetomography.あたらしい眼科Vol.33,No.11,201616671668あたらしい眼科Vol.33,No.11,2016(130)図4症例1および症例2の平均GCC厚の経時的変化症例1,症例2の平均GCC厚は両眼ともに経過を通じて明らかな変化がなかった.また,乳頭の炎症所見の有無にかかわらず両症例の最終的な平均GCC厚に明らかな差はなかった.GCC:ganglioncellcomplex.図5症例1および症例2の平均cpRNFL厚の経時的変化平均症例1の平均cpRNFL厚は治療開始6カ月後で減少し,その後は一定であった.症例2の平均cpRNFL厚は両眼ともに経過を通じて明らかな変化がなかった.また,乳頭の炎症所見の有無にかかわらず両症例の最終的な平均cpRNFL厚に明らかな差はなかった.cpRNFL:circumpapillaryretinalnervefiberlayer.(131)あたらしい眼科Vol.33,No.11,20161669図6症例3のOCT所見a:治療後3日のOCT所見.右眼の乳頭黄斑間の網膜膨化および左眼黄斑部の漿液性網膜?離の残存を認めた.b:治療後3カ月のOCT所見.右眼の網膜膨化が改善した.左眼の漿液性網膜?離は改善したが,耳側領域(矢頭で示した部位)で網膜外層の萎縮が認められた.c:治療後3カ月のGCCmap.左眼のGCCsignificancemapにおいて,耳側に異常領域が認められ,FLVは11.50%と異常値を示した.右眼のFLVは1.45%で正常範囲内であった.FLV:focallossvolume,GCC:ganglioncellcomplex,OCT:opticalcoherencetomograph1670あたらしい眼科Vol.33,No.11,2016(132)図7症例3の平均GCC厚および平均cpRNFL厚の経時的変化a:症例3の平均GCC厚の経時的変化.左眼の平均GCC厚は経過を通じて右眼に比して減少していた.b:症例3の平均cpRNFL厚の経時的変化.平均cpRNFL厚は両眼ともに経過を通じて明らかな変化がなかった.cpRNFL:circumpapillaryretinalnervefiberlayer,GCC:ganglioncellcomplex.(133)あたらしい眼科Vol.33,No.11,201616711672あたらしい眼科Vol.33,No.11,2016(134)

妊娠初期のVogt-小柳-原田病にステロイドパルス療法を施行した1例

2015年11月30日 月曜日

1.28001.060矯正視力40200b図3初診から11カ月後の眼底写真a:右眼,b:左眼.両眼とも滲出性網膜.離は軽快した.病内科を受診し,インスリン治療を並行して行うこととなった.経過良好のため12月上旬に退院した後,外来通院にて眼科の定期検査を行った.経過中,原田病の再燃はなく,また胎児の発育に問題はなく,インスリン治療も続けたが,HbA1Cは5%前後で推移していた.ステロイドの内服は翌年5月上旬まで続いた.平成26年5月中旬,妊娠38週において2,850gの女児を無事に出産した.その後も原田病の再燃はなく(図3),同年12月現在,矯正視力は両眼とも(1.2)となっている(図4).II考按妊娠中に原田病に罹患した症例の過去の報告によれば,妊娠前期においてはステロイド点眼や結膜下注射,また後部Tenon.下注射などの局所療法を行い,炎症が鎮静化したという報告が多い3).しかし,妊娠中期や後期になると,局所療法の場合もあるが,プレドニゾロン200mg程度からの大量漸減療法を行うことが多く4,5),出産後にパルス療法を行った,という症例も報告されている6).また,無事に出産11月12月1月2月3月4月中旬中旬中旬中旬中旬中旬5月中旬出産図4治療経過したという報告がほとんどであるが,子宮内胎児発育不良の報告や7),胎児が死亡した報告も存在する8).前者については原田病そのものが胎盤の発育不全に関与していた可能性がある,と述べられており,後者についても原田病そのものが妊娠に影響を及ぼす可能性も否定できず,胎児死亡とステロイドとの関連については判断できない,と述べられている.一方,妊婦とステロイド投与についてみると,プレドニゾロンは,胎盤に存在する11bhydroxysteroiddehydroge-naseにより不活性型に変化されやすく,デキサメタゾン,ベタメタゾンなどの胎盤移行性が高いステロイドに比べると胎児に対する影響が少ないとされている10).また,プレドニゾロンは,妊娠と医薬品の安全性に関する米国のFDA分類ではカテゴリーC,同様のオーストラリア基準ではカテゴリーAに分類され,比較的安全と考えられているが,ステロイドを大量投与した場合に胎児に口蓋裂のリスクが増える可能性が示唆されていたり,下垂体.副腎系の機能が抑制される可能性が指摘されているものの,胎盤透過性の観点からはプレドニゾロンが比較的安全であり,プレドニゾロンで20mg/日の投与であれば,ほぼ安全であろうというのが一般的見解である,と述べられている9,11).本症例について考えてみると,原田病に罹患したのが妊娠初期であったが,視力低下に対する不安や,頭痛の訴えが非常に強かったため,局所療法では治療が困難と考え,ステロイドの全身投与を選択した.ところが,妊娠中に罹患した原田病に対して全身投与を行う場合,大量漸減療法を行うべきであるのか,パルス療法を行うべきであるのかについての明確な指針は存在せず,過去の報告では大量漸減療法を行っている場合が多いため,当科でステロイドの投与方法について議論を行った.そのなかで,通常の原田病の場合は,パルス療法と大量漸減療法を比較すると,北明らのようにパルス療法のほうが夕焼け状眼底になる頻度は少ないものの,再発率や遷延率には差がなかったという報告もある一方で,パルス療法のほうが夕焼け状眼底になる割合や複数回の再発,再燃を生じる割合が少ないという報告や13),パルス療法では再発1620あたらしい眼科Vol.32,No.11,2015(108)率や夕焼け状眼底になる割合が少なく,視力予後が良好であるとする報告があること14),また,夕焼け状眼底となった群では,ならなかった群と比較して有意に髄液中の細胞数が多いとの報告や15),本症例とほぼ同じ妊娠時期に原田病を発症し,パルス療法を行った結果,無事に出産した症例が最近報告されていること2),などを参考に,患者本人と家族,産婦人科の医師と相談した結果,今回はパルス療法を選択することになった.さらに,本症例では既往歴に妊娠高血圧症候群があったが,妊娠高血圧症候群に漿液性網膜.離を合併した報告も散見されることから16),より診断を確実なものにするために患者の同意の下に髄液検査を施行し,髄液中のリンパ球優位の細胞増多を確認したうえで原田病と最終的に診断し,治療を開始した.ステロイドの投与期間については,パルス療法後は,前述のように安全域とされているプレドニゾロン20mg/日以内に比較的早期に減量するように配慮した.しかし,10.15mg/日以下に減量する頃に再燃することが多いことから1),20mg/日以下の期間を十分に取るように考慮し,また,投薬期間が6カ月未満でも炎症の再発率が高いことから17),全体で6カ月程度になるように投薬期間を計画し,治療を行った.最後に,妊娠中に罹患した原田病に対してパルス療法を行った報告はいまだにわずかしかなく,今回の治療が妥当なものであったかどうかについては,議論の余地がある.今後は,同様の報告が増加し,結果が蓄積されてくるものと予想されるので,パルス療法の安全性や有効性について,さらなる検討が必要であると思われる.また,今回幸いにも経過中に原田病の再燃はなかったが,ステロイドの漸減途中に炎症が再燃した場合にステロイドの投与量を再度増加するべきなのかどうか,トリアムシノロンの後部Tenon.下注射を併用するべきかどうか,などについての報告や検討は,筆者らが調べた限りではなく,今後の課題であると考える.本論文の要旨については,第48回日本眼炎症学会にて発表した.文献1)奥貫陽子,後藤浩:Vogt-小柳-原田病.眼科54:1345-1352,20122)富永明子,越智亮介,張野正誉ほか:妊娠14週でステロイドパルス療法を施行した原田病の1例.臨眼66:1229-1234,20123)松本美保,中西秀雄,喜多美穂里:トリアムシノロンアセトニドのテノン.下注射で治癒した妊婦の原田病の1例.眼紀57:614-617,20064)山上聡,望月学,安藤一彦:妊娠中に発症したVogt-小柳-原田病─ステロイド投与法を中心として─.眼臨医85:52-55,19915)MiyataN,SugitaM,NakamuraSetal:TeratmentofVogt-Koyanagi-Harada’sdiseaseduringpregnancy.JpnJOphthalmol45:177-180,20016)大河原百合子,牧野伸二:妊娠37週に発症し,分娩遂行後にステロイド全身投与を行ったVogt-小柳-原田病の1例.眼臨紀2:616-619,20097)河野照子,深田幸仁,伊東敬之ほか:妊娠11週に原田病を発症し子宮内胎児発育遅延を伴った一症例.日産婦関東連会報42:421-425,20058)太田浩一,後藤謙元,米澤博文ほか:Vogt-小柳-原田病を発症した妊婦に対する副腎皮質ステロイド薬治療中の胎児死亡例.日眼会誌111:959-964,20079)宇佐俊郎,江口勝美:妊婦に対するステロイド使用の注意点.ModernPhysician29:664-666,200910)福嶋恒太郎,加藤聖子:妊娠・授乳婦におけるステロイド療法.臨牀と研究91:531-534,201411)濱田洋実:医薬品添付文書とFDA分類,オーストラリア分類との比較.産科と婦人科74:293-300,200712)北明大洲,寺山亜希子,南場研一ほか:Vogt-小柳-原田病新鮮例に対するステロイド大量療法とパルス療法の比較.臨眼58:369-372,200413)井上留美子,田口千香子,河原澄枝ほか:15年間のVogt-小柳-原田病の検討.臨眼65:1431-1434,201114)MiyanagaM,KawaguchiT,ShimizuKetal:In.uenceofearlycerebrospinal.uid-guideddiagnosisandearlyhigh-dosecorticosteroidtherapyonocularoutcomesofVogt-Koyanagi-Haradadisease.IntOphthalmol27:183-188,200715)KeinoH,GotoH,MoriHetal:Associationbetweenseverityofin.ammationinCNSanddevelopmentofsun-setglowfundusinVogt-Koyanagi-Haradadisease.AmJOphthalmol141:1140-1142,200616)中山靖夫,高見雅司,深井博ほか:妊娠高血圧症候群に合併した漿液性網膜.離の1例.産科と婦人科75:1825-1829,200817)LaiTY,ChanRP,ChanCKetal:E.ectsofthedurationofinitialoralcorticosteroidtreatmentontherecurrenceofin.ammationinVogt-Koyanagi-Haradadisease.Eye(Lond)23:543-548,2009***(109)あたらしい眼科Vol.32,No.11,20151621

妊娠後期に発症し無治療で改善したVogt-小柳-原田病の1例

2014年9月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科31(9):1407.1412,2014c妊娠後期に発症し無治療で改善したVogt-小柳-原田病の1例笠原純恵*1,2市邉義章*2清水公也*2*1独立行政法人地域医療機能推進機構相模野病院眼科*2北里大学医学部眼科学教室ACaseofVogt-Koyanagi-HaradaDiseasethatDevelopedLaterinPregnancyandImprovedwithoutTreatmentSumieKasahara1,2),YoshiakiIchibe2)andKimiyaShimizu2)1)DepartmentofOphthalmology,SagaminoHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine目的:妊娠29週でVogt-小柳-原田病(原田病)を発症し無治療で改善した1例を報告する.症例:36歳,女性.妊娠29週に右眼の視力低下を自覚し受診.矯正視力は右眼0.7,左眼1.2,両眼の虹彩炎,漿液性網膜.離を認め,発症前に感冒様症状,頭痛を認めた.妊婦のため蛍光造影検査や髄液検査などの侵襲的な検査は施行せず,Readらの診断基準をもとに不全型原田病と診断し経過観察を開始.発症2日目,両眼ともに網膜.離は増悪し,矯正視力は右眼0.4,左眼0.5まで低下.しかし,発症7日目より無治療で網膜.離は改善傾向となり,矯正視力も上昇した.発症57日目,妊娠37週目に正常児を出産.発症65日目,矯正視力は両眼ともに1.2,網膜.離は消失したままで,眼底は夕焼け状を呈していた.発症から5年現在再発はない.結論:妊娠後期に発症し,無治療で改善した原田病の1例を経験した.妊娠が漿液性網膜.離の早期改善に好影響を及ぼした可能性がある.Purpose:ToreportacaseofVogt-Koyanagi-Haradadisease(VKH)thatdevelopedat29weeksofgestationandimprovedwithouttreatment.Case:A36-yearoldfemalenoticedlossofvisioninherrighteyeat29weeksofgestationandconsultedourclinic.Bestcorrectedvisualacuities(BCVA)ofrightandlefteyeswere0.7and1.2,respectively.Shehadthebinoculariritisandserousretinaldetachmentandhadhadcommoncoldsymptomsandheadachebeforeonsetoftheaboveocularsymptoms.Inviewofthesesymptoms,wediagnosedincompleteVKHbasedonthereviseddiagnosticcriteriawithoutfluoresceinangiographyorcerebrospinalfluidexamination,duetohergravidstatus,andmonitoredherdiseaseconditionwithnomedicaltreatment.AlthoughthebinocularserousretinaldetachmentsprogressivelydeterioratedandtheBCVAoftherightandlefteyesdecreasedto0.4and0.5,respectivelyattheseconddayafteronset,thesesymptomsshowedimprovingtendencyattheseventhdayafteronset.Atthe57thdayafteronset,shesuccessfullygavebirthafter37weeksofpregnancy.AlthoughBCVAofbotheyesimprovedto1.2andtheserousretinaldetachmentsdisappeared,sunsetglowfunduspresentedatthe65thdayafteronset.Therehasbeennorecurrence,asof5yearsthusfar.Conclusions:WeexperiencedapatientwithVKHthatdevelopedlaterinpregnancy,inwhichthediseasesymptomsimprovedwithoutmedicaltreatment.Thereisapossibilitythatthegravidconditioninfluencedtheearlyimprovementofretinaldetachment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(9):1407.1412,2014〕Keywords:Vogt-小柳-原田病,妊娠,ステロイド,光干渉断層計,漿液性網膜.離.Vogt-Koyanagi-Haradadisease,pregnancy,steroid,OCT(opticalcoherencetomography),serousretinaldetachment.はじめにされており,投与の要,不要は最終結論が出ていない.まVogt-小柳-原田病(原田病)はメラノサイトに対する自己た,原田病に対するステロイド全身投与中は,その副作用に免疫性疾患と考えられており,ステロイド治療によく反応すは十分な配慮,対策が必要である.妊娠中に発症した原田病る.一方,ステロイドの全身投与なしでの視力回復例も報告の報告はいくつかあるが,ステロイドの使用の有無,投与〔別刷請求先〕笠原純恵:〒252-0375神奈川県相模原市南区北里1-15-1北里大学医学部眼科学教室Reprintrequests:MasayukiKasahara,C.O.,DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine,1-15-1Kitasato,Minamiku,Sagamihara,Kanagawa252-0375,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(159)1407 法,使用量などはさまざまである.今回,筆者らは点眼薬も含め無治療で視力の回復を認めた妊娠後期である妊娠29週目で発症した原田病の1例を経験したので報告する.I症例症例は36歳,女性.既往歴は特記すべきことはない.右眼2002年8月に女児出産歴がある.2008年11月12日,妊娠29週3日目(発症0日),右眼の視力低下を自覚し近医を受診.両眼の網膜浮腫を指摘され,同日に北里大学病院眼科を紹介受診した.視力は右眼0.4(0.7×+0.75D),左眼0.15(1.2×.2.25D).眼圧は右眼18mmHg,左眼16mmHg.眼位,眼球運動,対光反応は異常なし.両眼の前房は深く,左眼発症0日目発症2日目acd発症65日目egf発症282日目図1眼底写真発症0日目(a,b).両眼性の漿液性網膜.離を認める.発症2日目(c,d).両眼ともに漿液性網膜.離発症の増悪を認める.発症65日目(e,f).漿液性網膜.離の消失と軽度夕焼け状眼底の所見を認める.発症282日目(g,h).眼底は夕焼け状を呈し,写真には写っていないが,眼底周辺には網膜色素上皮の消失による局所的な網脈絡膜萎縮が認められた.bh1408あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(160) 28270635649423528211470軽度の炎症細胞と,少量の豚脂状角膜後面沈着物を認めたが,Koeppe結節は認めなかった.中間透光体に異常はなく,眼底には両眼に軽度乳頭発赤と,両眼の上側アーケード近傍に限局性の漿液性網膜.離を認め,右眼は黄斑にも網膜.離が及んでいた(図1).受診時,妊娠29週3日目であり,妊娠中の合併症もなく妊娠経過は良好であった.妊娠中のためフルオレセイン蛍光眼底造影検査や髄液検査などの侵襲的な検査は施行しなかったが,発症2週間前に感冒様症状と2日前に頭痛,耳鳴りの既往があり,眼底所見とあわせ,Readらの診断基準1)をもとに不完全原田病と診断し経過観察を始めた.視力検査のほかに侵襲の少ない前房深度(anteriorchamberdepth:ACD),眼軸長(ocularaxiallength:OAL),前房内フレア(flareintheanteriorchamber:FIAC)(図2),光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)(図3)検査を行いながら臨床経過を観察した.ACD,OALはIOLMasterTM(CarlZeiss)を,FIACはLaserFlareMeter(KowaFM-500Ver1.4)を,OCTはOCT3000(CarlZeiss)を用いて測定した.発症2日目,漿液性網膜.離は両眼ともに悪化し,矯正視力も右眼(0.4×+1.50D),左眼(0.5×+1.00D(cyl.1.00DAx90°)と低下した.この時期に頭痛の症状も悪化したため,ステロイドの全身投与も念頭に入れ産科にステロイドの使用の可否,また使用した場合の母体,胎児の管理につき相談をした.しかし,発症7日目,前房内フレア,細胞数は増加したものの,網膜.離は明らかに改善したため,そのまま無治療で経過観察を続ける方針となった.その後,漿液性網膜.離は徐々に改善し,発症42日後には黄斑部の漿液性網膜.離は消失した.矯正視力も右眼(0.7×.2.00D),左眼(0.8×.2.25)と改善した.発症57日目,妊娠37週と4日で通常の経腟分娩で2,516gの女児を出産した.出生後の検査で女児に心室中隔欠損がみつかったが,程度は軽度であり小児科で経過観察を行っている.発症65日目,矯正視力は右眼(1.2×.2.25D),左眼(1.2×.2.25D)まで改善した.両眼ともに前房内に軽度炎症細胞は残存したものの,OCT上,黄斑部の漿液性網膜.離は消失したままであった.発症155日目,両眼の前房内の炎症細胞,豚脂状角膜後面沈着物は消失した.発症282日目,眼底は夕焼け状を呈し(図1),周辺には網膜色素上皮の消失による局所的な網脈絡膜萎縮がみられた.経過観察中の血圧に問題はなかった.採血検査は血算,生化学に異常所見はなく,血清梅毒反応陰性,ウイルス検査ではアデノウイルス,インフルエンザB,サイトメガロウイルス,帯状疱疹ウイルス,麻疹,風疹のCF抗体価は<4×,インフルエンザAは8×,単純ヘルペスウイルス16×,HLA検査ではDR4が陽性であった.出産後5年が経過した現在,再発はない.(161):右眼:左眼FIAC(photoncounts/msec)OAL(mm)ACD(mm)対数視力282706356494235282114702827063564942352821147010.13.653.63.553.53.453.43.353.33.253.2262827063564942352821147025.52524.52423.52322.52221.5302520151050経過日数(日)図2経過観察上から対数視力,前房深度(anteriorchamberdepth:ACD),眼軸長(ocularaxiallength:OAL),前房内フレア(flareintheanteriorchamber:FIAC).横軸は発症からの経過日数.ACDは最も視力が低下した発症2日目で最も浅くなり,OALは最も短くなった.その後,正常化へ向かった.それに対しFIACは発症初期には軽度であり,次第に増強し,発症30日でピークとなり,その後は急速に減少し,ACD,OALの変化とは異なる変化を示した.II考按原田病は全身のメラノサイトに対する自己免疫疾患といわれている.病初期には髄膜のメラノサイトの障害で頭痛や感冒様症状を引き起こし,内耳では耳鳴り,難聴を生じ,その後に眼球のメラノサイトの傷害でぶどう膜炎が生じる症例が多い.本症例は感冒様症状から始まり,頭痛や耳鳴りを伴った両眼性のぶどう膜炎,胞状の漿液性網膜.離が認められた.妊娠中であることから,侵襲性のある蛍光眼底造影検査や髄液検査は行っていないが,臨床所見,経過,採血上のHLA-DR4陽性,後期の夕焼け状眼底所見から最終的に不完全型原田病と診断した.原田病に対してはステロイドの大量投与療法2)やパルス療法3)が行われており,一般的にステロあたらしい眼科Vol.31,No.9,20141409 右眼左眼発症0日目発症2日目発症7日目発症14日目発症30日目発症42日目発症57日目分娩発症65日目図3OCT所見経時的に漿液性網膜.離の改善がみられる.出産8日目(発症65日目)以降,漿液性網膜.離の再発は認めていない.イドは奏効する.その一方,ステロイドの全身投与を行わずに改善した報告4,5)や,ステロイド全身大量投与中の死亡事例6)も報告されており,ステロイドの要否は最終的な結論は出ていない.過去に本例のように妊娠中に発症した原田病の報告も散見されるが,その多くがステロイドの全身投与が行われている7.12).ステロイドを使用しても出生児には問題がなかったという報告が多いが,低体重,小奇形の報告13)もある.さ1410あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014らに,本症とほぼ同時期に発症した妊婦に対しプレドニゾロン200mg/日からの大量療法を行い,18日後に胎児が死亡した症例が1例報告されている14).一方,全身投与を行わずに,局所療法(点眼,結膜下,Tenon.下注射)で改善したという報告もある.佐藤らは妊娠10週で発症した26歳の症例に対し,アトロピンの点眼とコルチコステロイドの点眼と結膜下注射を行い,原田病が治癒し正常児を出産した1例を報告している15).田口らは「妊娠がぶどう膜炎に好影響を(162) 与えたと考えられた2例」として原田病とBehcetdisease妊婦2例を報告している.原田病の症例は妊娠10週0日の30歳であり,コルチコステロイドの点眼加療のみで漿液性網膜.離は消失し,夕焼け状眼底を呈したものの視力は回復し,正常児出産に至っている16).松本らは妊娠12週で発症した31歳の症例に対し,トリアムシノロンのTenon.下注射のみの治療で治癒した1例を報告している17).SnyderやLanceも同じように妊娠が原田病の経過によい影響を与えた例を報告している18,19).さらに,妊娠12週で発症した原田病に対し,ステロイドの局所も全身投与も行わずに視力が回復した24歳の日本人の1例も報告されている20).しかし,本症のように妊娠29週という妊娠後期に発症し,無治療で改善した報告は筆者の知るところではない.本症例の改善の基準としては,①視力改善,②前房内炎症の消失,③漿液性網膜.離の消失,④前房深度の回復の4項目のすべてを満たすものとしている.また,無治療にもかかわらず比較的早期に漿液性網膜.離の改善が認められた.その要因は明らかではないが,妊娠により増加した内因性ステロイド16)や血液中免疫担細胞が好影響15,21,22)を及ぼした可能性が示唆される.妊娠中の内因性ステロイドは妊娠末期まで増加していき,分娩とともに急速に減少するとされている.本症例の発症は妊娠により内因性ステロイドが増加している時期であり,比較的早期に無治療で漿液性網膜.離が改善し,視力も回復したものと考えられる.しかし,分娩後の再発には十分注意する必要があり,本症例も分娩後に入念に経過観察を行ったが,発症から5年が経過した現在再発はない.本症例の再発の基準としては,①視力低下,②前房内炎症の再出現,③漿液性網膜.離の再出現,④前房深度の浅前房化の4項目のうち1つでも認めるものとしている.本症例は経過中に改善が認められなかった場合,ステロイドの局所投与(トリアムシノロンのTenon.下注)を選択肢として考えていた.産科医からはステロイドの全身投与の許可は得ていたが,妊娠後期のステロイド投与は胎盤を通過し胎児の下垂体に作用し,副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の分泌低下による副腎萎縮をきたす可能性も指摘されており,妊娠後期のステロイドの全身投与は慎重であるべきであると考える.さらに,妊娠中は侵襲的な検査による妊婦,胎児への影響も考慮しなくてはならない.本症例ではフルオレセイン蛍光眼底造影検査や髄液検査は行わず,経過中は視力,眼底検査(写真)の他に,侵襲性の少ないACD,OAL,FIAC,OCTを用いて観察を行った.大槻らはIOLMasterTMを用いてACD,OALを測定し,原田病の病状評価に対する有用性を報告している23).本症例ではACDは最も症状が悪化した発症2日目で最も浅くなり,OALは最も短くなったが経過とともに正常化していった.それに対しFIACは発症初期は軽度であり,次第に増強し,発症30日でピークとなりその(163)後に急速に減少し,ACD,OALとは異なる変化をした.Blood-aqueousbarrierが破壊されてから前房中に蛋白が出現するまでのタイムラグが生じた可能性が考えられた.OCTが今回の経過観察に最も役立ったことはいうまでもないが,薬剤を使用せず,ACD,OALなどの侵襲性の少ない検査での病状の評価は,妊婦には有用だと考える.文献1)ReadRW,HollandGN,RaoNAetal:ReviseddiagnosticcriteriaforVogt-Koyanagi-Haradadisease:Reportofaninternationalcommitteeonnomenclature.AmJOphthalmol131:647-652,20012)増田寛次郎,谷島輝雄:原田氏病初期の治療.臨眼23:553-555,19693)小竹聡,大野重昭:原田病におけるステロイド剤のパルス療法.臨眼38:1053-1058,19844)山本倬司,佐々木隆敏,斉藤春和ほか:原田病の経過と予後.副腎皮質ホルモン剤の全身投与を行わなかった症例について.臨眼39:139-144,19855)吉川浩二,大野重昭,小竹聡ほか:ステロイド剤の局所治療を行った原田病の2症例.臨眼83:2493-2496,19866)岩瀬光:原田病ステロイド治療中の成人水痘による死亡事例.臨眼55:1323-1325,20017)瀬尾晶子,岡島修,平戸孝明ほか:良好な経過をたどった原田病患者の視機能の検討.臨眼41:933-937,19878)FriedmanZ,GranatM,NeumannE:ThesyndromeofVogt-Koyanagi-Haradaandpregnancy.MetabPediatrSystOphthalmol4:147-149,19809)山上聡,望月学,安藤一彦:妊娠中に発症したVogt小柳-原田病─ステロイド投与法を中心として─.臨眼85:52-55,199110)渡瀬誠一,河村佳世子,長野斗志克ほか:妊娠に発症しステロイド剤の全身投与を行った原田病の1例.眼紀46:1192-1195,199411)MiyataN,SugitaM,NakamuraSetal:TreatmentofVogt-Koyanagi-Harada’sdiseaseduringpregnancy.JpnJOphthalmol45:177-180,200112)富永明子,越智亮介,張野正誉ほか:妊娠14週でステロイドパルス療法を施行した原田病の1例.臨眼66:12291234,201213)DoiM,MatsubaraH,UjiY:Vogt-Koyanagi-Haradasyndromeinapregnantpatienttreatedwithhigh-dosesystemiccorticosteroids.ActaOphthalmolScand78:93-96,200014)太田浩一,後藤謙元,米澤博文ほか:Vogt-小柳-原田病を発症した妊婦に対する副腎皮質ステロイド薬治療中の胎児死亡例.日眼会誌111:959-964,200715)佐藤章子,江武瑛,田村博子:妊娠早期に発症し,ステロイド局所療法で軽快した原田病不全型の1例.眼紀37:46-50,198616)田口千香子,池田英子,疋田直文ほか:妊娠がぶどう膜炎に好影響を与えたと考えられた2症例.日眼会誌103:66-71,199917)松本美保,中西秀雄,喜多美穂里:トリアムシノロンアセあたらしい眼科Vol.31,No.9,20141411 トニドのテノン.下注射で治癒した妊婦の原田病の1例.眼紀57:614-617,200618)LancePS:Vogt-Koyanagi-Haradasyndromeandpregnancy.AnnOphthalmol22:59-62,199019)SnyderDA,TesslerHH:Vogt-Koyanagi-Haradasyndrome.AmJOphthalmol90:69-75,198020)NoharaM,NoroseK,SegawaK:Vogt-Koyanagi-Haradadiseaseduringpregnancy.BrJOphthalmol79:94-95,199521)PascaAS,PejtskiB:Impairmentofimmunityduringpregnancyandantiviraleffectofamnioticfluid.Lancet1:330-331,197722)TomodaY,FumaM,MiwaTetal:Cell-mediatedimmunityinpregnantwomen.GynecolInvest7:280-292,197623)OtsukiT,ShimizuK,IgarashiAetal:UsefulnessofanteriorchamberdepthmeasurementforefficacyassessmentofsteroidpulsetherapyinpatientswithVogt-Koyanagi-Haradadisease.JpnJOphthalmol54:396-400,2010***1412あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(164)